「ジャングルポケット元四級呪術師が任務先の高等学校にて呪霊と交戦中、自我を失い暴走。同行していたマンハッタンカフェ二級術師、アグネスタキオン二級術師とその場で交戦するも負傷を負わせ逃走……現在は一級術師による討伐隊が捜索中。任務対象であった特級呪物を取り込み、呪肉体となったと思われる……。
以上のことから、対象を特級呪詛師として認定。可及的速やかな討伐の命を下すものとする」
広い廊下の中で、淡々と読み上げる声が響いた。
「……ポッケ、ちゃんが……?」
か細い声、ダンツフレームの声が、一番最初に静寂を打ち破った。
「嘘、ですよね……?」
駿川たづなは手にしていた紙を折り、懐にしまった。
目を伏せながら、首を横に振る。
「……残念ながら」
「そんな……なんで、ポッケちゃんが……誰かに、呪肉体にされた、ってこと……?」
「……ちがいます、ダンツさん」
マンハッタンカフェの声が、静かに響いた。
「カフェちゃん……」
「残念ながら……わたしの見ていた限り、ポッケさんは、自ら……特級呪物を、取り込んでいました。そしてその直後……わたしに、襲い掛かってきました」
頭に包帯を巻き、片手に松葉杖をついたカフェは、苦虫をかみつぶしたように、眉間に深い皺を寄せた。
間をおいて、再び駿川たづなの淡々とした声が、廊下に響く。
「……現在、ラモーヌさんをはじめとした、一級呪術師の討伐隊が、ポッケさんを追っています。……もし、それが難航するのであれば……みなさんも、任務に駆り出されることがあるかもしれません」
「ま、理由がないとは言わないがねぇ……」
アグネスタキオンは、ギシリと自身のデスクの前で、深く椅子に腰かけた。
「苦悩していただろう、彼女は。一番近くで見ていた君が、一番よくわかっているんじゃないのかい?」
デスク上のモニターに表示されている何かのデータから目を離さずに、アグネスタキオンはコーヒーを口にした。
「でも、ポッケちゃんが……あれだけ真面目に、ひとりで練習してたポッケちゃんが……あんなこと、するなんて……」
深いため息が、部屋に響いた。
「気持ちはわかるけどねぇ……。事態は常に流動的なものさ……。いつ、彼女の心境が変わったのかも知れない。さらに、人の心さ。いつどこで、何に躓くのかわからないものだよ」
キーボードに手を伸ばし、カタカタ、と何かを入力する。
「それに、見ての通り、わたしは現在負傷中だ。わたしに協力を求めるのはやめた方がいいよ」
椅子の上にまげて乗せていたその右脚を、アグネスタキオンは伸ばして、来客のダンツフレームに見せてみせた。
膝から下すべてが、ギプスで巻かれ、固定されている脚だった。
「完治まではもうすこしかかるのでね。頼るなら、もっといい人を頼った方が良いんじゃないかな、ダンツくん」
「っ……」
ダンツフレームは胸の前で、自らの腕を握り締めた。
ぐっ、と唇を端を噛む。
そして、踵を返した。