「よけてライアン!!」
「ッああっ!」
大砲のような音と共に、メジロライアンの体は木々の中に突っ込んだ。
「ライアンっ!」
「集中してアルダン! よそ見したら死ぬわよ!!」
「ッくっ……!!」
ふっ、とアルダンが息を吹いた。
その息からパキパキと音を立てて、氷の結晶が生み出され、それはみるみるうちに、巨大な氷塊へと化していく。
「ふっ!」
その氷塊へと呪力が込められ、大砲のように射出された。
それが向かう先は――――
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
爆音が発され、氷塊にひびが入る。
その瞬間、氷塊が、内側から爆ぜ、崩壊した。
「ぐっ……!」
轟音は質量を有しているかのように、周りの一切合切を突風のように吹き飛ばす。
木々は揺れ、アルダンとラモーヌは腕と呪力でその突風を避けた。
「アルダン! 耳を呪力で守りなさい!」
「わかりま――――」
目前に、呪力の塊が接近した――ように、アルダンは錯覚した。
「な――――――――」
「アルダ――――――」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
「――――――――!!」
耳、目、鼻、口から――アルダンの顔じゅうから、血が噴き出した。
「アルダン!!」
「ねえ、さまっ……!」
倒れる寸前、アルダンは呪力の塊の首根っこをつかんだ。
手にありったけの呪力を込め、掌に全力で術式を集中して発動する。
その首元が、絶対零度の呪力で満たされ、凍結する。
(これで呪力の声を出すことはできないっ……!)
「アルダンっ!」
(作ってくれた隙を無駄には――――ッ!)
その脚で、ラモーヌは一瞬で懐に飛び込む。
「ふっ――――!!」
全力で、その手にしている斧に呪力を込め、首をめがけて振りぬいた。
ガクン
「――――え?」
斧は、首元をかすめた。すこしだけ、そこから血が噴き出している。
――太刀筋が、ズレた?
いや――――脚が、動かない。
自分の左脚が、地面に膝をつけた。
――やられた。
力が、入らない。
「……一つだけじゃないのね、使える術式……」
目の前の呪力の塊は、自らの首に張り付くアルダンの手をつかみ、張り付いた氷ごと引きはがした。
ブチブチと、首の皮膚や筋肉が一緒にはがれる。
「……反転術式…………」
数秒後、荒れた首は、すべて、まっさらに完治していた。
その目が、ぎろり、とラモーヌに向く。
(回避を……!)
まだ動く右脚に渾身の力を込め、斧を杖にして体を起こそうとする。
しかし、相手の口が開く方が早かった。
(至近距離からの爆ぜる声……耐えられるかしら……)
顔じゅうに、籠められるだけの呪力を籠める。
敵の喉元に、膨大な呪力が集中しているのが感じられた。
「ラモーヌさんっ!」
その声と共に、目の前のバケモノの姿がぶれた。
次の瞬間、その体が向こうへと吹き飛ばされる。
轟音と共に、バケモノは木々の間へと突っ込んで行った。
「ライアン……!」
「ラモーヌさん、大丈夫ですかっ……!」
「意地悪なのね……わたしの口から、それを言わせるつもり?」
「す、すみませんっ!」
(ホントに、丈夫ね、この子は……)
マトモに攻撃を前面から食らい吹き飛ばされたはずのライアンは、そこら中に傷や血が流れていたが、ラモーヌの前に堂々と立っていた。
「た、立てますか、ラモーヌさん?」
何かの術式――おそらく斬撃の術式で、上腿と下腿の間の腱が正確に斬られていた。
(暴走しているように見せかけて、ひどく正確で丁寧な攻撃……タキオンとカフェがやられるわけね)
呪力を切断部に籠め、腱を強引に接着させる。
激しい痛みが左脚を襲うが、それを顔には出さない。体を起こし、斧を構える。
「立てるわ。それより、集中して」
「は、はいっ!」
敵へと注視する。
吹き飛ばされたバケモノは、土煙の中で、何事もなかったかのように立ち上がっていた。
(かなり全力で殴り飛ばしたはずなんだけど……全然効いてないな。いや、反転術式……?)
ライアンは無意識に、体に力を籠める。
(そもそも膨大な呪力なのに、強力な性質の呪力と術式……)
その威力を体全体で体感しただけに、恐ろしさがよくわかる。あんなもの、もう何回も耐えられない。
「来るわよっ!」
「はいっ!」
バケモノの全身に、呪力がみなぎる。そもそも嵐のように吹き荒れていたその呪力が、さらに爆発するように。
これ以上、どんな攻撃がくるのか。今まで以上に、全力で身構える。
「――――領域展開」
「――――え?」
メジロライアンの意識は、そこで途絶えた。