フジポケ呪術ダービー   作:ケンタ〜

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フジポケ呪術ダービー #5

「簡易領域――――」

 

掌印を結び、ラモーヌは簡易領域を展開した。

 

(まさか、領域を展開してくるなんて……そして……)

 

「これがあなたの、心の中なのね……いや、それとも……」

 

 ひどく黒い、暗い、虚無のような場所だった。

 

 領域においてみられる、心情『風景』というには、何もなさすぎる――――

 

「ライアン……」

 

 そばのライアンは、すでに気を失い、簡易領域の中で目を閉じていた。

 

 その閉じた瞼からは、血が垂れていた。いや、鼻や口、耳からも。

 

(すこしでも簡易領域が遅れていたら、わたしも危なかった――――)

 

 ゴリゴリゴリ、という音がして、簡易領域が削られていく。

 

(このままでは、どうしようもないわね)

 

 簡易領域で、本物の領域と押し合いができるはずもない。

 

 あと数秒もすれば、簡易領域は消滅して、ラモーヌもこの領域に刻まれた術式の餌食となるだろう。

 

 それに、視線の先のこの領域の主は、いつまた動き出すかもわからない――――なぜか今は、何もせず、立っているだけだが――――

 

「でも、わたしも無策と言うわけではないのよ――――」

 

 ラモーヌは、自らの術式を発動した。

 

神風(バードストライク)――――――――」

 

 

 ドオオオオオオオオン!!

 

 

 轟音が響き、領域が揺れた。

 

 領域の一部がガラガラと音を立てて崩れる。

 

 人が入れるだけの穴が、ラモーヌの真後ろに開いていた。

 

「行くわよ、ライアン」

 

 そばで延びているライアンを担ぎ上げ、領域の主へ警戒を向ける。

 

 しかし主は、なぜか追ってくることはなかった。

 

 

「ごきげんよう――――ジャングルポケットさん」

 

 

 簡易領域が崩れる前に、ラモーヌは地を蹴り、領域の穴から飛び出した。

 

 

 

「ラ、ラモーヌさん……!? それに、背負っているのは……ライアンさんと、アルダンさん……」

「不甲斐ないわね。メジロの一級呪術師がこれだけそろって、とことこ敗走だなんて」

「それより、すぐに治療班を……! えっ、ラモーヌさん!?」

 

 どさっ、と、メジロラモーヌは、補助監督の前で片膝をついた。

 

「わたしはいいわ。片足を斬られただけ。それよりも、この子たちの方が重症よ。早めにお願いね」

「ま、まずは背負っているお二人を下ろして……」

「……」

 

 無言で、補助監督の目を見る。

 

「す、すみませんっ、すぐに呼んできます……!」

 

 そそくさと、補助監督は夜の道を駆けて行った。

 

 後姿を見て、ため息をつく。

 

 ここまで、片足の切れた腱を無理やり呪力で接着しながら、二人を背負ってきたとはいえ。

 

(人の前で、膝をついてしまったわね)

 

 そう自嘲する。

 

「ん……」

 

 頭の後ろから声がする。

 

「う……が……」

 

 かすれたような声。

 それがライアンのものだと、ラモーヌは気づいた。

 

「ライアン、起きたのね」

「う!? がっ……ラモ……ぐっ……!」

「無理にしゃべらなくてもいいわ。喉をやられてまともに声も出せないでしょう」

「う゛……ずみば……ぜ……げほっ、げほっ!」

 

 激しくせき込みながらも、ラモーヌの背からライアンは下りた。

 

「体の方は……さすが丈夫ね」

「あり゛がどござまずっ……あ゛れ゛……がっ……ボッゲ……は……」

 

 それを口にしてから、はっ、と気が付いたような顔をする。

 

「ずみまぜ……ぎぜづしで……」

「だれも責めないわ」

 

 丈夫さでは術師の中でも屈指のメジロライアン。

 そんな彼女を、防御力無視で、内側から破壊するような術式。

 領域を展開されたとき、簡易領域に入っていなければ、喉がつぶれるだけでは済まなかっただろう。内臓や神経系がぐちゃぐちゃにされていたに違いない。

 

 強力な術式と膨大な呪力量を誇るアルダンに対しては、フィジカルとスピードでねじ伏せ、ライアンに対しては強力な術式で内側から破壊し――――自分(ラモーヌ)に対しては、的確に武器(あし)をつぶし、そのうえでさらに、領域を使い、短期決戦で確実にねじ伏せようとしてきた。

 

 考えれば考えるほど、実に、センスのある戦い方をしてきていた……。

 

 文句なしの特級だ。呪術的にも術師的にも。

 

 情けないことに、三人の一級呪術師がそろって、ここまで叩きのめされた。

 

 もう上の者たちも、妥協をすることはないだろう。

 

 ジャングルポケットには、術式で操ったカラスを監視用としてつけている。

 

 次、彼女に相対する相手は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という事です。一級術師三名による討伐隊が組まれ、交戦しましたが……返り討ちにされました。それで、今回、あなたに討伐任務が来ています」

「そうですか……わたしに任務が……」

 

 ある一室に、粛々とした声が響いた。

 

「わたしも一級術師であることには変わりないですが、それはわかっていますよね、たづなさん」

「はい。……討伐対象との相性を鑑みても、シンボリルドルフさんが適任かと判断されました。加えて、一級術師の中でも、最高峰の実力を有するルドルフさんに白羽の矢が立った、ということです」

 

 広い西洋風の部屋の中で、シンボリルドルフは胸の下で腕を組んでいた。

 それに対するように、駿川たづなが、報告用の紙を持って立っていた。

 

「それほどまでに、ジャング……討伐対象の実力は、脅威であると……」

「ええ……事実、メジロ家の一級術師が、三人まとめて返り討ちされています」

「それに……対象は、領域を展開できる、と」

「はい。そういう意味でも……です」

「……わかりました。やりましょう。彼女は……わたしが、祓い(たおし)ましょう」

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