「っはぁ……はぁ……いったい、何だってんだよ……」
木々に手をつきながら、彼女は歩いていた。
いや、なんとか、歩いていた。
喉は乾き、体中が軋み、頭は激しく痛んでいた。
「くそ……水……」
ここがどこかはわからない。
しかし、これだけ木がある場所ならば、どこかに川か、湧き水かがあるかもしれない……。
「てか……俺……なんでこんなとこに……」
木。木。木。
見渡す限りの、木々だった。
そして緩やかな勾配の地形。整地されていない歩きにくい地面。
ということは、山の中……。
(俺、学校にいたはずだよな……)
どこかの学校で……同期のアグネスタキオンと、マンハッタンカフェとで、任務をこなしていたはずだ。
そう、確か……。
「そうだ、呪霊に襲われて、瓦礫に……」
直前に、マンハッタンカフェと一緒に、学校の中を探索していた最中。
急にあふれるようにその場に出現した呪霊に飲まれて、建物が壊れて、それに巻き込まれて……。
「そっから……なんだ……?」
気が付いたら、こんな森の中にいた。
近くには、呪力で感じられる範囲には、どれもいない。
一緒にいたはずのマンハッタンカフェの気配は、かけらもない。
(呪霊の術式で飛ばされた……?)
それか、今、自分は何かの呪霊の領域の中に、巻き込まれたか?
それなら、何かしらの呪力を感じるはずだが――――――
ふと、どこかから水の流れる音がする。ウマ娘の敏感な耳が、その方向を教えてくれる。
「み、みず……」
喉が、乾いて乾いてしょうがなかった。唾液を飲み込むと、喉が痛いくらいに。
軋む体に鞭を打って、森の中を小走りで駆けていく。
(川だ……)
水が流れる川が、そこにある。
気が付けばそこにしゃがみ込み、手に水をすくっていた。
「んっ……ぐっ……うっ……ふっ……はぁっ」
一度ではたりず、再びすくって、喉に流し込む
「ふっ……! んっ……!」
「はぁっ……! はぁっ……! ああっ……!」
ようやくして、顔を上げて、息を整えた。
「はぁ……はぁ……」
さきほどまで疲れ切っていた体が、水を飲んだだけで、まるで回復したように感じる。
「はぁ……」
息をついて、四肢をほうり出し、川の側に大の字になった。
視界には、夜の星々が、いっぱいに広がっていた。
つまりここは、街から離れた、本当にどこかの山奥という事になる。
(……? あれ、この景色……)
見覚えがあるような……。
この、星空……。
「ッ!?」
ズキッ、と頭を指すような痛みが襲う。
「クソ……何だってんだ……」
頭に響く痛みをこらえながら、目を閉じた。
しばらくすると、頭を襲っていた痛みがすこしずつ治まってくる。
「はぁ……てか……ねむ……」
息をついたおかげか、途端に、どっと眠気が襲ってくる。
外でしかもこんなところで寝るのはどうなんだ、という考えも頭をよぎったが、それよりも睡魔の方が強かった。
そのままいざなわれるように、ジャングルポケットは、意識を失った。
「――――クリスエス、見つかったか?」
「ああ……三〇〇meter……山の中腹の……川の側に……いる」
山の森、そのある高い木の上で、二人のウマ娘呪術師が会話をしていた。
「ラモーヌの報告通りだね。なぜか山の近くで反応が途切れたみたいだけど……」
「……」
何か思い詰めるように、クリスエスは黙り込んだ。
「どうしたんだい、クリスエス。何か気になることがあったら、何でも言ってくれ」
「……感じない」
「? 感じない? どういうことだい?」
「特級呪物……その気配を、感じない。……報告では、強大な呪力を持っている、と言っていたが……」
しばらく黙り込んで、再び口を開く。
「今は……あの、individual……個体からは、ジャングルポケット、その気配しか、感じない」
「……確かに……。タキオンやカフェ、ラモーヌたちを返り討ちにするような、特級レベルの呪力や気配は、わたしも感じないな」
「……この距離からでは、限界がある。もう少し、近づく必要がある」
「分かった、行こう。ただし、慎重にね。気配をあえて隠しているというだけの可能性もある」
「どうだい、クリスエス」
「ルドルフ……やはり、見えない」
目標から、五〇メートルほどまで近づいた両者は、小さな声で会話を続けていた。
「君の目でもか?」
「ああ……ジャングルポケット……その体が発する気配や呪力からは……あの特級呪物のものは、見えない」
「……そうか。クリスエス、君は以前に、
「Yes」
「でも、感じないんだよね」
「だったら、よほどうまく隠しているか、それとも……」
ルドルフが少しの間、考え込む。
「最後に一つ、答えてくれないか。あのジャングルポケットは、ジャングルポケット本人で、間違いないのか?」
「Yes. あの個体は、ジャングルポケットで、間違いない」
「なるほど……」
納得するように、ルドルフはこくりとうなずいた。
「今、彼女は寝ているようだ。できれば、寝ている間にかたをつけたい」
「わかった」
「ここまで近づいても、起きないみたいだね……」
「ああ」
「拘束をして、このまま彼女を送って行こう。きみは脚のほうを」
ジャングルポケットのすぐそばで、シンボリルドルフとクリスエスはしゃがみ込んだ。
じっ、とルドルフは、ジャングルポケットの顔を見つめる。
穏やかな顔で、穏やかに、寝息を立てていた。
顔のどこにも傷やけがは見られず、ラモーヌやカフェたちと戦っていたようには思えない。
まがまがしい呪力は、この距離まで来てもすこしも感じられず、森に迷い込んで寝てしまった遭難者のようにしか見えない。
ルドルフが懐から呪符の巻き付けられた拘束用の呪具を取り出す。
「ふー……よし」
一呼吸置いた後。
ルドルフとの両手が閃く。
次の瞬間には、ジャングルポケットの両手が、拘束呪具で縛り付けられていた。
同時に脚のほうも、クリスエスによって縛られていた。
「あとは、わたしたちの手で連れて行くだけだ。思ったより、穏便に済ませてよかったな」
立ち上がり、クリスエスに顔を向ける。
「……クリスエス?」
「ルドルフ」
クリスエスは、その
「今、よく見てみて――――」
そこで言葉を止めた。
地面を蹴る。
「ルドルフ!」
「分かってる!」
クリスエスの目には、映っていた。
離れた場所で足を止めて停止したクリスエスは、それを口にした。
「呪力が、みなぎっている……!」
「ルドルフ、これは、
「いや……
「混ざっている……?」
素早く思考を巡らせるルドルフの視線の先には、地面に寝たまま呪力を立ち上らせる、ジャングルポケットの姿があった。
「先ほど、寝ている彼女を直接見てみただが……混ざっていた。ジャングルポケットと、特級呪物の呪力が」
「簡潔に頼む、クリスエス」
むくり、とジャングルポケットは上体を起こす。
「寝ている間は、特級呪物の力が抑えられていた。少なくとも、完全に支配されているという事ではないようだ」
「つまり、望みがないというわけではないみたいだな」
「Yes. その通りだ」
ジャングルポケットからたちのぼる呪力が膨れ上がる。
バキン、と音がした。
続けて、もう一度。
ジャングルポケットの手足を縛っていた呪具が、両方とも外れていた。
(特注の、呪力を封じる呪具のはずなんだけど……)
呪力を封じる呪具を、呪力で破られた。
「さすが、相手は一部とはいえ、『最強』を有す術師だ。全力で行こう」
「off course. 油断は、ない」
二人の一級術師は、その呪力を開放した。
ウマ娘はプレイしていますが、個々のキャラクター像間違ってたらすみません。