森の中に、膨大な二つの呪力が現れ、衝突した。
青白い稲妻が、木々の間を縫うように閃く。
黄色い爆裂が、木々を吹き飛ばしながら稲妻に迫っていく。
繊細に木々の間を縫っていく稲妻に、まっすぐ黄色い爆裂が迫って行った。
そしてそこから離れた場所を、だれも気付かれることのないよう呪力をひそめた黒いウマ娘が、それらと同等の速度で追尾するように移動していた。
その黒いウマ娘は、シンボリクリスエス。
(膨大な呪力……。情報通りの、爆ぜる特殊な性質の呪力だ。電気の性質を持つルドルフの呪力と似ている。そしてその量は、対するルドルフと同じくらいか……)
風を切って走りながら、クリスエスは冷静に思考した。
時たま飛んでくる木々の残骸や呪力の余波を正確に防御しながら、追跡し続ける。
(名前も残っていないほどの昔の、日本の呪術師の指……その一本。そのたった一本だけで、ルドルフと同じ呪力量を持っているのか)
クリスエスの目の中で、二つの呪力が高速でまじりあっては、そしてはじけていた。
そして、その目をさらに集中させる。
(ジャングルポケット……)
その目は、さらに深いところまでもぐりこんでいった。
(情報では、二つの術式を使っていた。爆ぜる声の術式と、斬撃の術式。確かに、二つの異なる呪力が、それぞれ混ざり合っている。ジャングルポケットの魂と、それより少しサイズの大きい、おそらくは特級呪物の魂……。互いにくっつくように、干渉しあっている)
クリスエスは、自らの術式を発動した。
それを今戦っている者に悟られないよう、その目を使いながら、精密に、慎重に、呪力を操作していく。
その手には一丁の、スコープの付いたライフルがかまえられていた。
もう片手に、今度はさらに多くの時間と呪力をかけて、一握りの弾丸を制作する。
ライフルに装填し、スコープをのぞき込み、トリガーに手をかけた。
(この弾丸で、切り離す)
ルドルフが作ってくれるであろう隙を、虎視眈々と待つ。
ふたつの膨大な呪力は、今やほとんど位置を変えずに、互いに交わりあっていた。
はじける雷の音と、轟く爆裂の音。
爆ぜる爆弾の呪力の間を縫うように、はじける呪力は舞っていた。
でたらめに繰り出される爆裂の間を縫って、ついに雷は爆裂の本体に着弾した。
雷の呪力と防ごうとする爆裂呪力が過干渉を起こし、ひときわ大きな爆発が巻き起こる。
暴風が起き、巨大な爆発が周囲の木々を薙ぎ払った。
樹齢何千年という木々が薙ぎ倒され、さらにそこに爆発した呪力が火をつけ、彼女らの周囲を燃え上がる炎が包んだ。
その炎の中心に、その犯人である二人は、相対するように立っていた。
(すさまじい呪力、そして実力、そして術式。気を抜いたら、本当に死ぬな)
そのうちのひとり、シンボリルドルフは、思考を巡らせた。
それに向かう、ジャングルポケットの姿形をした何か――――それは、理性のこもっていない目を、ルドルフに向けていた。
(全力で首に一撃を叩き込んだはずなんだが……)
その首はしっかりと立って、ルドルフのほうを向いている。
代わりにその一撃を受けたジャングルポケットの両腕の肘から先が吹き飛んでいた。
黒く焼け焦げ、血すら出ていない。
それが、ボコボコ、と音を立てて、たちどころに再生していった。
(反転術式、か)
シンボリルドルフは、自身の手を、ちらと見た。
血が流れていた。
そのうちの一筋が、ポタタッ、と地面に落ちていく。
そこにぐっ、と呪力を込め、傷口を止める。
(攻撃したのはこちら側なのに、これほどとは……)
爆ぜる呪力による防御。
それは予想以上に厄介だった。
落花の情…………。襲い来る攻撃を自動で呪力で弾くようにプログラムし、攻撃を
それに似たことを、呪力が自動で、プログラムするまでもなく行っていた。
電気と同質のルドルフの呪力。
それに激しく反応し、激しく爆ぜるポッケの呪力。
本来呪力で防御しにくいはずのルドルフの呪力攻撃を、逆手に取って利用し、小さいながらも着実にダメージを与えてくる。
(防ぎようのない、
――――長期戦では、こちらが保たない。
シンボリルドルフは、そう判断した。
(可能な限り最速で、全力で、わたしの術式で、大きな隙を作る。そして、クリスエスにとどめを刺してもらう)
ルドルフは、再び全身に呪力をみなぎらせた。
そして大きく、息を吸う。
「はぁぁぁあああああああああああああ――――!!!」
全身を、激しい電気の火花が駆け巡った。
それを、遠くで潜伏していたクリスエスは感じ取る。
(――――ルドルフ、まさか――――)
――――シンボリルドルフ
術式、『神威』
電気と同質の呪力を持ち、それを以て呪霊を祓う。
(まだ、ジャングルポケットの術式はわかっていない。わたしと同じく、
彼女は――――現代学園において唯一、二つの領域を持つ術師――――――
その手に結ぶは、触地印――――
「領域展開!」
本来、呪力そのものに領域のプログラムは備わっていない。
なぜならば術式は魂に刻みつけられたものであり、領域を展開するということは、魂の心象を展開するということだからである。
展開すべき心象風景がなければ、領域を展開することは不可能――のはずだった。
しかし鬼才シンボリルドルフは、自らが全力で呪力を開放した際に生じる半径数十メートルの電磁場を外殻とし、そこから結界を構築――――本来は心象風景ごと術式を投影することで展開される領域のすべてを、ゼロから自らの呪力で
――『
「ガッ――――」
ジャングルポケットの全身が硬直し、体を反らせる。
その体内には激しい電流が、絶え間なく浴びせられていた。
領域『天駆雷音閙』。
電圧一千万ボルト 電流一千アンペアの電流を、絶え間なく浴びせる。
それは最強の自然の電気現象のひとつ、落雷の直撃を絶え間なく浴びせられている状態に等しい。
ジャングルポケットの口から破壊された組織の血が溢れ出、目や耳から、あらゆる場所から溶解した細胞の血漿が吹き出す。
動物はその電気信号で体を動かしている。
その領域に巻き込まれれば、指1本すら動かすこともかなわないまま無限に続く雷に焼かれ溶けていくことしかできない。
打撃と違い、うちから襲い来る極小の電子の流れという現象を防ぐ術は存在しない。
「クリスエス!!」
ルドルフはその名を呼んだ。
結界の内部にいるシンボリクリスエスの声は外部まで届かない。
だが呪力のこもったその声を、クリスエスの目は捉えていた。
「――了解した」
領域の内に、クリスエスは侵入した。
その手に握られているのは黒く鈍いツヤを放つスナイパーライフル。
「まだ反転術式で体を再生しようとしている! 早く魂を切り離すんだ!」
「――――任務を、遂行する」
その銃の内に、鈍く紫に輝く弾丸を装填する。
その銃口を、ジャングルポケットへと向けた。
「――Target inside」
紫の弾丸が放たれた。