「――――とっ、とんでもないほどの呪力ですっ!」
双眼鏡を覗き込む補助監督が、驚愕に声を上げた。
そこに映るのは、巨大な火の球。
急激に何倍もの大きさに膨れ上がったそれは、まばゆい光を発し、炸裂した。
「ば、爆発し――――」
ドオオオオオオォォォォォォォ――――――――
「わぁっ!?」
爆音が一瞬遅れて到達する。
「補助監督さん伏せて!」
「は、はいっ!」
その瞬間、補助監督のすぐ上を、暴風が吹き抜けた。
「う、わあっ!?」
補助監督が喫驚の声を上げる。
「いっ、一体どんな戦いが……!? というか、ルドルフさんは!?」
暴風が過ぎ去った後、補助監督は立ち上がって叫んだ。
再び双眼鏡を覗く補助監督。
「こっ……これはっ…………」
燃えていた木々が、跡形もなく吹き飛ばされていた。
形成されていた、深く地面をえぐるクレーター。
まるで隕石でも落ちてきたかのように、周りの残っていた木はクレーターを中心に放射状になぎ倒されていた。
1キロ以上離れたここまで暴風がやってきたのだから、至近距離ではどれだけの威力となったのか。
「ル、ルドルフさんはどこに……!?」
しかし、その姿を見つけられずに、右往左往する。
その手を、側のウマ娘が掴んだ。
「あっちだよ」
「は、はいっ」
その手が導くところへ双眼鏡を向ける。
「っ……!?」
補助監督は息を呑んだ。
「どうしたの? カイチョー、どうなってた?」
「っ……こっ、これはっ……」
補助監督は口を手で覆った。
×
「っはあっ、はあっ、はあっ!」
意識が飛んでいた。
呼吸までも止まっていたのか、肺が激しく空気を求め、胎動する。
眼の前が赤くなって良く見えない。
そして耳も聞こえない。鼓膜をやられている。
感じるのは、何かにもたれかかっているであろう自らの体と、激しく痛む背。
左腕の感覚がなかった。
呪力で眼の前の血を弾き飛ばし、視界を確保する。
左をみれば、そこに自分の左腕は無かった。
(左腕以外の被害は、ないか……。一応、成功、か)
体を守るための、即席の縛り。
動かなくなった左腕を捨てる代わりとして、他の体全体を呪力で守る即席の縛りを結んだ。
(だが、もう呪力が……)
体を守ることに成功したと言っても、ジャングルポケットと自分の呪力の反応は止めることができなかった。
今の爆発で、体を守っていた大量の呪力の殆どを引っ剥がされてしまった。
「…………化け物め」
らしくない言葉が口をついて出る。
しかし、眼の前のそれは、自分の発した言葉を理解していないはずだった。
大量の呪力を放出しても、今なお変わらぬ威圧感で、自身の前に立っていた。
「いいよ、やろうか」
かつてのジャングルポケットは、自らの呪力の爆発で、自らにもダメージを負っていた。
眼の前の受肉体も同じことだ。呪物の力で制御できるようになっても、多少なりとも自らにもダメージが入っている。
その証拠に……眼の前のジャングルポケットは、体全身に裂傷があった。
身体を覆っていた服の殆どが吹き飛び、体中の傷があらわになっていた。
決して、ダメージを負っていないわけではない。
反転術式の回復を行っていないのが証拠だ。
(彼女ももう限界だ)
ルドルフは、もたれかかっていた木から立ち上がった。
残りの呪力を、体中に巡らせる。
そして、構えた。
「来い」
「オ゙オオオおオオオオオオオオオ!!」
呪力の籠もらない、ただの咆哮。
もうそれすらの呪力すら残っていないのか、それともただ、威嚇してみせただけなのか。
あとどれほど彼女に呪力が残っているのかわからない。
だが、変わらない。
全力で――――――
「!?」
ルドルフは思わずジャングルポケットから目を離した。
その方向に、膨大の呪力の塊を感知する。
それは二人のほうに、高速で接近してきていた。
(これは……!)
バキバキバキ――――ッ
木々をなぎ倒す、呪霊たち。
木々の向こうから、何百何千という呪いの津波が、雪崩のように顔を出した。
(なんだ、これだけの呪霊が、いきなり!?)
その呪霊たちが二股に別れ、ルドルフとジャングルポケット両方へと襲いかかる。
「ふっ!」
ジャングルポケットと比べれば敵にもならない低級呪霊の塊。
呪力をみなぎらせて、その電撃を放つ。
爆発するように、同時に数十の呪霊たちが消失した。
(――――いない!?)
ジャングルポケットの姿が消えていたことに気が付く。
呪霊を祓い消失反応が晴れる一瞬の間で、どこかへ逃げたのか?
(いや、違う)
山のふもとの方へ、拘束で移動する呪力の塊。
襲い掛かって来た呪霊たちが、ジャングルポケットを飲み込み、そのまま山を下っているのだ。
ルドルフはそちらへ体を向けた。
呪力で体を強化し、山を下る呪霊たちの塊を追う。
「!」
ルドルフを遮るように、横の森から呪霊たちの雪崩が出現する。
「どくんだ!」
呪力を放出する。
横からの雷を落とされた呪霊たちは、一瞬にして爆裂する。
その消失反応である煙が、ルドルフに襲い掛かった。
「っ!?」
それは何の意味もない、ただの煙のようなもの。
しかし、しばらくのあいだ、シンボリルドルフの呪力探知を紛らわせるのに十分だった。
呪力の霧から抜け出しジャングルポケットの方へ目を向ける。
しかし、そこにはすでに、彼女を飲み込んだ呪霊の姿は影も形もなかった。