エデン条約編第EX章【第二回エデン条約調印式】 作:かのさん
━━イロハとマコトとのやり取りが行われていたのとほぼ同時間帯━━
「ちょっと?全然着かないじゃない。もーっ。」
「すみません先生!読み込んだ地図が少し古く、道路に一致性がありませんでした。」
こちらもトラブル発生のようだ。どうやらアロナが間違った地図を読み込んだらしい。そのせいで現在では存在しないはずの道路を経路として計算に含んでしまっていたようだ
「このままじゃ遅刻ね...一応ナギサに連絡しておこう。アロナ?」
先生はすっかりしぼんでしまったアロナに声を掛ける。彼女はできるだけ柔らかい声を心がけた
「は...はいっ!?なんでしょう?」
アロナは驚きつつ返事をする。先生の言葉を聞き逃さないよう身構えた。
「ナギサに遅れるって連絡入れといて。」
「わかりました。.....ごめんなさい先生。私のせいで...こんなメール送る羽目になってしまって...」
先生の要望を聞き、即座に実行する。作業をしながら謝罪をするアロナの耳がどんどん朱に染まり目尻には涙が溜まっていく。
「大丈夫だよアロナ。ナビは久しぶりだもんね。事前に道を調べておかなかった私にも非はあるよ。」
先生は諭すようにアロナに話す。まさに教育者の鑑といったところか。
「え...えっと...ありがとうございます?ですか?.....帰りは間違えないよう善処します...。」
アロナはきまりが悪そうにそっぽを向きながら言葉を返す。先生はそれを見て微笑してハンドルを握り直した。
━━━
「私の勘的にはこっちだなー。」
さっきのやり取りの後先生は自身の勘を頼りに古聖道を目指していたようだ。当てずっぽではあるが意外と近づいているらしく、ビルの隙間から古聖堂の門が見えるほど近づいているようだ。
「アロナ〜近づいてきたよ。」
未だにシッテムのはこの中で丸くなって萎えてるアロナに先生は声を掛ける。彼女の声を聞きアロナがゆっくり振り向く。
「良かったです!!地図の誤認識に気づいた時はどうなるかと思いましたが...なんとか無事に着けそうですね!」
アロナが目に見えて元気を取り戻す。先生はアロナの喜びようから安堵を受け取る。
「近くに駐車場があるらしいからそこに止めようかしら。」
丁寧なハンドルさばきで駐車場に車を停める。彼女以外に車で来た者はいないようだ。エンジンを切り、鍵を抜きたとき彼女は一つの違和感に気づいた。
「画面が......?」
シッテムの箱には一切の映像が出力されていなかった。
「ハッキング...?」
刹那、とてつもない爆発音が先生に流れてきた。それと同時に爆風によって生まれた衝撃のよって彼女は車の側面部に勢いよく叩きつけられた。
「ぐっ...何?今の.....?」
体を動かそうにも言うことを聞かず、頭を動かそうにも意識が朦朧としていて役に立たない。打ちどころが少し悪かったようだ。薄れゆく意識の中彼女は一人の生徒の名前が脳裏に浮かんだ。
「錠前 サオリ」
━━━
廊下に響く靴の音の間隔がだんだんと短くなっていく。
「装備は防衛仕様の標準装備b型でいいです。もうすぐでそこにつくのでパラシュートの装備も済ませておいてください。」
イロハは整備士と何度も連絡を取る。会話が一段落ついたのか無線機を内ポケットにしまう。その後ポケットから小さなノートを取り出し、それをイブキに渡す。
「今回の作戦では虎丸Ⅱ号に搭乗します。そのノートに注意事項などを書いておいたので読んでおいてください。」
イブキがノートを開くとそこには文字と図表が所狭しと並んでいた。どれもわかりやすくいつもの怠惰な様子とは全く異なる印象を受ける。
「着きましたよイブキ。そこにある搭乗員用ヘルメットを取って入ってください。」
イロハはそう言うとそそくさと扉の中に入っていった。イブキもそれについていく。中に入ると整備士が数名作業を行っていた。イロハはそのうち比較的暇そうな一人を呼び、何かを話し始めた。
数分してイブキの元に帰るとイロハは虎丸Ⅱ号に乗るよう手で指示した。
「降下は1分後です。」
イロハはコマンダーズキューポラに体を入れながら言った。
「わかりました!昔、雪山に降りたときのようにするんだね!」
イブキが元気よく返事をする。屈託のない笑顔を向けてくる。この後起こるかもしれない出来事に気づいてないのだろうか。イロハはひとりはしゃぐイブキを見て罪悪感が湧き上がってきた。
「出撃準備完了です!いつでも出れます!」
整備士の威勢のいい声が格納庫に響き渡る。
「わかりました。それでは出撃します。降下を開始してください。」
その声を聞いたイロハは即答する。イロハの返事と同時に車体前方にある鉄製の扉が開く。鈍い金属音を鳴らしながら青空があらわになっていく。それと同期するように虎丸の乗っているレールが稼働する。徐々に角度がついていき、レール上の虎丸がスルスルと降りていく。しばらくしてその車体は完全に空へと投げ出された。
「強い衝撃が来ます。気をつけてください。」
イロハはイブキに注意喚起をする。その直後に車体が空に出たことによってがくんと傾きそれに伴って衝撃が二人に走った。
「おお!今回のは強烈だね!」
イブキはアトラクションにでも乗ってるかのようなはしゃぎようだ。その数秒後に後方に装備されていたパラシュートが展開し車体の向きを安定させる。
「ミレニアムの技術力も捨てたものではないですね。」
イロハが感心するのも束の間だった。
━突如頭上から爆発音がした━
「中にはいってください!イブキ!」
イロハが叫ぶのとほぼ同時にイブキは車内に入り、ハッチを勢いよく閉めた。それを確認するとイロハは上を見た。そこには先程まで自分たちが乗っていた飛行船が2つに切り裂かれ、燃えているのが見えた。
「危なかったですね。もう少しで巻き込まれるところでした。マコト先輩は....まぁ大丈夫でしょう。前回のこともありますしね。」
イロハは一瞬不安を感じたがそれは杞憂であると直感した。前回も飛行船が爆発したのにピンピンしていたマコトの姿を思い出したからだ。しかし....
「イロハ......イロハ...聞こえるか?私だ。」
マコトからの無線だ。
「どうかしましたか?また髪がアフロみたいになったんですか?くだらないことはやめてくださいよ。」
いつもの口調でイロハはマコトの発言をあしらおうとした。
「いや....そうではなくてだな...その......。」
マコトが口ごもる。イロハは良からぬことが頭に浮かび無線機を耳に押し付けるように近づける。よく聞くとマコトの声はいつものカリスマ性のあるものではなくなっていた。それに気づいた途端イロハの脳内にはバッドエンドが溢れてきた。
「本当にどうしたんですか!?はっきり言ってください!」
イロハは思わず語気を荒げる。自分の思っていることが本当なのかどうか確かめたい。それは杞憂であるとマコトの口から聞きたいのだ。
「どうやらダメみたいだ....ここまでだな....。」
「そんな.....冗談きついですよ!」
違う。聞きたいのはそんなことじゃない。
「やはりあいつらと手を組むなんてのは到底無理だったんだな。結局のところ私は”ゲヘナバカマコト”でしか無かったんだな。キシシシッ笑えるよ。」
「そのあだ名知ってたんですね。」
イロハはマコトがいるであろう場所を見る。そこには飛行船の見る影もない紅々と燃え盛る火の玉があった。全身から血が引いていくのを感じる。今更そこまで戻ってマコトを救い出せる確率は0に等しい。飲み込みたくないが飲み込まなくてはならない現実がイロハの前に立ちはだかった。しかし今じっくり考える時間はない。覚悟を決めるしかないのだ。
「では先輩、後始末は任せてください。」
イロハは現実を飲みこむことにした。それはこれまでに味わったことがないほどに不味かった。一方的にマコトとの通信を切り、無線機を投げ捨てる。
「最後まで”ゲヘナバカマコト”でしたね。」
独り言をつぶやくイロハの目には涙が溢れていた。それを服でおさえようとしても止まらなかった。とめどなく流れる涙を隠すように拭きながらイブキに指示を出す。
「もうすぐで降下が完了します。完了次第後方のパラシュート装備を外し、そのまま破棄してください。その間に私は車内の損傷が無いかを確認します。」
ハッチから出てきたイブキはなにか言いたげだったが黙って頷き再び車内に入った。それをしっかり確認して
「もし誘爆するなら今頃ですね。」
誰にも聞こえない言葉を発した直後に飛行船は爆発四散した。内部にあった弾薬庫が火災で誘爆したようだ。これほどの爆発であればキヴォトス人といえども流石に耐えることは不可能だ。それを悟ったイロハはただ唇を噛むことしかできなかった。
続く━━━━