エデン条約編第EX章【第二回エデン条約調印式】 作:かのさん
「いたた....。結構派手にやられたね。」
ミカは起き上がると周りを見渡した。ティーパーティーがいたテラスは崩れ落ち、自身の周りに大量の大理石の破片が散らばっていた。柱の一部だったであろうものから装飾の一部まで。それら全てがたった一つのミサイルで破壊された。
「なぎちゃーん。セイアちゃーん大丈夫ー?」
ミカが大きい声で瓦礫の山に向かって二人の名を呼ぶ。しかしいくら呼んでも返事がない。おかしいと思ったミカは自身の近くにある瓦礫を拾い始めた。
「こいつらどかしたら見つかるかな?」
相変わらずの怪力で瓦礫を投げ捨てていく。すると一匹の鳥を見つけた。よく見るといつもセイアの傍にいたシマエナガだと分かる。
「あれ?シマエナガちゃん?どうしたの?」
ミカが首を傾げているとシマエナガはひとりでに歩き出した。一瞬の迷いもなく進んでいく。ミカはなにかがあると思いその鳥の後をつけていくことにした。その先にセイアかナギサがいるのは確実。ミカは直感的にそれを理解したようだ。しかしミカの足取りは重く、俯きながら歩いていた。もしそこに自分の望む世界が無かったら?もしセイアを助けられなかったら?考えたくもない”万が一”がミカの脳を支配していく。
「ここ?」
シマエナガが一つの瓦礫の下で歩みを止める。ミカはそこがどんな場所かすぐに分かった。分かるとすぐに
「セイアちゃーん!そこにいるのー?いるなら返事してー」
と瓦礫の先に向かって話しかけてみる。
「あ....あぁ....ミカか。君の声はやはりよく通るな?」
ミカにとって聞き馴染みのある声が聞こえる。それを聞きミカは安心したのかその場にへたりと座ってしまった。
「ミカ.....悪いがこの瓦礫をどかしてくれないか?ナギサの位置がわかったんだ。すぐに探しに行かなければ。」
「ほんと!?すぐに助けるよ!!」
ミカはセイアの言葉を聞くとハイテンションで瓦礫をどかし始めた。ウキウキのミカは先程の3倍の速度で瓦礫をどかしてった。最後の瓦礫をどかしたときそこにはうつ伏せになっているセイア
「セイアちゃん?....なんで?」
「すまないミカ。私の力不足だ...。」
百合園セイアはたしかにいた。それなのにミカが絶句した原因はその横にいる一人の少女にあった。
「やぁ、聖園ミカ。久しぶりだな。」
「錠前サオリっ...!」
それはミカにとって最も会いたくない人物ランキング堂々の一位の生徒である錠前サオリだった。ミカは舌打ちをし、素早く銃を構える。それを見たサオリは怯えることもなく、平然としていた。
「そう早まるなよ。こっちには人質がいるんだよ?」
そう言うとサオリはしゃがみ込み、セイアの後頭部を鷲掴みにする。セイアが抵抗を試みるもサオリに片手でいなされる。ミカはわざとらしく大きな音を立てながらセーフティを解除し、銃口を更にサオリへと近づける。
「その手、どかさないと撃つよ?」
「気が早いな?話し合いとかしようとは思わないのか?」
「生憎交渉は苦手なの。」
ミカの目から光が失われていく。マジのようだ。それでもサオリは全く焦る様子を見せない。むしろこの状況を想定していたかのようにニヤリと口角を上げている。
「すまないミカ.....銃を下ろしてくれ.....ここは穏便にことを済ましたい。」
セイアが声を絞り出すようにしてミカに訴える。先程の爆発のせいでセイアの体に限界が来ているのだろう。それを直感的に感じたミカは銃を下げる。しかし銃を下げてもサオリを射抜く鋭い目つきは変えない。余計なことをしたらただではおかないと無言の警告を送る。
「これでいいの....?満足?」
「そう....それでいいんだ聖園ミカ。それで....。」
サオリは意味ありげな余韻を残すと手でなにか合図を送る。その瞬間ミカは自身の脚を何か硬いものに貫かれる感覚を覚えた。
「...ッ!?」
痛みを感じた箇所を見ると、そこは自身の血で真っ赤に染まっていた。どくどくと流れる血を見たミカは力が抜けてしまったかのように体ががくりと崩れ、尻餅をついてしまった。
『私の神秘が効かない....?意識外だから?』
様々な可能性に思いを巡らすも結論には至らない。あまりにも予想外の攻撃と自身の神秘が効かなかった事実はミカのプライドをひどく傷つけた。半ば放心状態となったミカは敵が目の前にいるにも関わらず、止血もせずただ俯いていた。
「.....新型弾薬だよ。」
突如サオリの声が聞こえる。その前にも話しかけられていたのかもしれないが全く聞こえなかった。
「なんだ....それは?」
意気消沈しているミカの代わりにセイアが聞く。
「キヴォトスの神秘に守られた者共に天誅を下す力を持つ弾薬。つまり”ヘイローを貫く弾丸”。」
「ミカのヘイローは壊れてないが?」
「あくまで”肉体を貫通”するのみだ。ヘイローを貫くというのは神秘を無効化したうえでの肉体への攻撃を行うことの誇張表現というわけだ。つまりミカ、君がどんなに強力な神秘を持っていようともこの弾丸の前では無力なのだよ。」
「そんなもの誰が作った?」
「クライアントの要望でそれは答えられないな。でもお前たちでも知っている者だ。」
「ゲマトリアってわけ?」
「想像に任せるよ。」
衝撃だった。奴らは爆弾で飽き足らず弾薬でもヘイローを壊そうとするのか。ミカの怒りが最高点に到達する。脚の怪我に見向きもせず立ち上がり、サオリに向けて銃を乱射し始めた。
「あのときあなたの幸せなんて祈るんじゃなかった!あそこで私に殺されておけばよかったのに!!」
渾身の力で撃ち込むもサオリには効果がなかった。ミカが弾丸を撃ち切ったのを確認したサオリは先程までミカの銃撃から体を守っていた透明な板を傍に置き、目にも止まらぬ速さでミカの右腕に手刀をする。
「くっ....!」
ミカの骨が鈍い音を立てて折れる。それと同時に右腕から力が抜け、持っていた銃を落とした。拾おうとするも右腕の痛みが激しく、それどころではないようだ。
「さっきの警告を忘れたのか?こっちには人質がいると伝えたぞ?」
最終確認をするようにミカの方をまっすぐ見て話す。それを聞いたミカはよろめきながらも彼女の試みをなんとか食い止めようとサオリに近づく。サオリはそれを気にもとめず、腰に付けてあるナイフポーチからナイフを取り出す。陽の光を反射しているそれは見た目よりも更に鋭く見える。
「やめてっ....!」
かろうじてサオリが腕を振り下ろすのに間に合った。ミカはサオリの右腕を自身の左腕でしっかりと掴む。掴んだはいいものの右腕が折れているので攻撃に転じようとしても出来ない。さらに明らかに息が乱れており、すぐに次の行動に移れるとは思えない状況だ。対してサオリは一切動揺しておらずまだ余裕の表情をしている。
「接近戦なら足も使えるよねッ!」
突如、ミカは思い切り右足でサオリの顔面めがけて蹴りを入れた。しかしそれはサオリの左腕で難なく受け止められる。
「怒り任せの攻撃には意味がない。さっきの銃撃がいなされたときに気づかなかったのか?相手の弱点をしっかり攻撃しなければ有効打にはなり得ない。」
煽るようにサオリはミカにアドバイスをする。それはミカの逆鱗に触れたようだ。サオリの視界の左端から高速で何かが飛んできた。なんとか左腕でいなすも、あまりの衝撃の強さに腕が痺れる。
「ならもっと攻撃力を上げればカンケーないじゃんね☆」
「右腕は折れたはずでは...?」
「折れても”腕自体”で殴ればいいんでしょ?」
もう一度ミカは腕を振り下ろす。今度はど真ん中に来た。高速で向かってくるその腕をサオリは間一髪で掴んだ。
「なんどいえばいいんだッ!そろそろ負けを認めろ!」
「それはそっちのセリフだよ。」
ミカの足がサオリの鳩尾に見事に入った。
「うぐっ...」
サオリがよろめき、体から力が抜けるその一瞬をミカは見逃さなかった。サオリの右腕を掴んでいた手を離し、もう一発を叩き込もうと握りこぶしを作り渾身の力を込めて殴ろうとした瞬間。一発の銃声が鳴り響いた。
「だから....無意味だと言ったんだ....。」
よく見るとサオリの右手に持つものはナイフから拳銃に変わっていた。その銃口は勿論ミカの方を向いており、足元には薬莢が一つ落ちていた。その拳銃から解き放たれた弾丸は既にミカの胸を貫いていた。
「なっ....がはっ...。」
どうやら致命傷らしい。サオリがミカの右腕から手を離すと彼女は血を吐いて倒れてしまった。傷口からあふれる血がどんどん周りに広がっていく。サオリはそれを見てなんとも言えない優越感と罪悪感を同時に感じ、笑わざるを得なかった。
「ははは....。トリニティ最強の最後がこんなものとは無様だな.....。」
「貴様っ!ミカに....よくも...!」
セイアがよろよろと立ち上がり、拳銃を構える。しかしその手は小刻みに震えており人を撃つ覚悟があるとは到底思えない。
「なんだ?撃つのか?撃つなら早くしろ。お前程度の実力じゃ傷一つ付けられないだろうがな。」
「そうだな。君の言うとおりだ。実際、私は一度も人を撃ったことがない。こうやって構えるのもさえ初めてだよ。」
「じゃあなぜそうする?さっきのミカのように無駄死にしたいのか?まぁお前も殺害対象だったから結局はあいつと同じ運命をたどるがな。」
「なら私を殺す前に質問に答えて欲しい。大丈夫だよ君にでも答えられる簡単なものだ。」
「いちいち鼻につくな。癪に障る。」
サオリは相当ムカついているのかセイアの脇腹に向けて発砲した。撃たれたセイアは大きくよろめき、持っていた拳銃を落とし、撃たれた箇所を両手で押さえる。
「なかなか....短気だね....。じゃあ早速聞いていこうか。このままだと聞く前に私が倒れそうだよ。でも...そうなったら元も子もないね。」
「わかったからさっさとしろ。」
「では第一問。早速核心を聞こう。これを指示したのは誰だい?ゲマトリア?それともカイザー?私はカイザーだと思うのだが。」
「どうしてそう言える?」
サオリは一切の感情を出してこない。動揺しているのかはたまた呆れているのか。セイアでさえその表情から内側を探ることはできない。
「ゲマトリアは確かに神秘に興味がある。更にそのうちの一人は”ヘイローを破壊する爆弾”なるものを作っていた。しかしそれらの殆どは結局使われることなく、破棄された。そして作った本人はその爆弾への興味関心はなくなった。ここまでは皆が知ってる話だ。しかしその後の爆弾の行方はわかっていない。だがしかしどうだろう。それを何らかの方法でカイザーが回収していたとしたら?奴らの技術力なら完全再現とはいかずとも別のものへの転用という形での再現はできるであろう。その結果完成したのが”ヘイローを貫く”弾丸で、それを用いて私達を殺すよう君たちに指示したというわけだな。君たちの憎しみはまたもや悪い大人たちに利用されてしまったというわけだ。そうだろう?」
「くっ.....黙れッ!」
やはり図星だったようだ。サオリは激昂し、その手に持っている拳銃で何度もセイアを撃った。セイアは3,4発撃たれたところで膝から崩れ落ちてしまった。
「ゲホッ....ゲホッ....はぁ。賢明過ぎるのも問題というわけか......。」
血によって紅く塗り替えられてしまった自身の服を見てセイアは悟ったようにぼやいた。ふと空を見ると晴れていた。雲一つない晴天だった。
「これが君たちの言う虚しさというわけ..........」
セイアの最後の言葉を待たずサオリは彼女の心臓を撃ち抜いた。撃たれたセイアは力なく倒れてしまった。サオリは死亡確認をしようと彼女のもとに近づいた。見ると全身に銃痕がある。その華奢な体には多すぎるほどの銃弾を受けていたらしい。サオリはその光景を見ていられなくなりすぐに目を逸らした。
「これでティーパーティはあらかた片付いたな。後は”桐藤ナギサ”だけか。」
達筆な字が並ぶメモを見ながらサオリがつぶやく。
「全員。一旦集合だ。」
ポケットから無線を取り出し、他メンバーと連絡を取る。数分すると集まってきた。
「これで作戦の第二段階が終わった。次は”桐藤ナギサの殺害とゲヘナ風紀委員の無力化”だ。次もまた手強いのが来る。ヒヨリ後方射撃頼んだぞ。風紀委員長の空崎ヒナを倒せるかはお前にかかっているんだ。」
「ひぃぃぃ。わ..わかりました。お任せください!で....でも外してしまったらヤバいですよね。作戦は失敗して一生矯正局生活ですか?そうですよね?」
「落ち着いてヒヨリ。当てれば問題ないでしょ?」
ミサキになだめられヒヨリは納得した顔をする。単純な女だ。
「それで、さっちゃん?私は何をしたらいい?私今のところ活躍ゼロなんだけど。」
アツコが上目つかいでサオリに訴えてくる。ミサキはミサイルの発射と制御、ヒヨリはミカの狙撃、サオリは百合園セイアの殺害と、3人はちゃんと戦果を上げているのにアツコだけなんの成果も挙げられてなかった。アツコは自身が戦闘向きでは無いことを十分に承知していたのだが、
「私のそばに隠れておいて奇襲を仕掛けてくれ。あと周囲の警戒を頼む。」
「了解。それなら楽勝。ちなみに聞くけど私の拳銃に入っている弾薬も”アレ”だよね?」
アツコがニヤリと笑いながら聞く。答えは言うまでもなくわかっていそうだがサオリは一応答えることにした。
「あぁ。勿論だとも。」
その返しに対してアツコは不敵な笑みを浮かべる。サオリは背中を指でなぞられるような違和感を感じたが無視した。
「さて、再開しようか。全員予定通りの位置につけ。」
「「了解」」
サオリの指示と同時に3人がそれぞれ自身のいるべき場所に散っていく。次の狙いはナギサのようだ。サオリはその獲物に向かって歩き始めた。
「オーバーロード作戦続行だ....。」
続く━━━