エデン条約編第EX章【第二回エデン条約調印式】 作:かのさん
その日も雨が降っていた。黒い雲で覆われた空がこれでもかと水を落としてくる。今日はいつもより雨がひどかったので私達は建物の中に入ることになった。
「よ...良かったです。やっと屋根の下ですね。生きた心地がします!このまま寝てしまいたい.....。」
「やめなよヒヨリ。そんなことしているときに襲われたら、何されるかわからないよ?」
ミサキが脅すというよりは冷やかすように言った。
「ひぃぃ!やっぱり人生は辛いです!!」
ヒヨリが飛び上がりながら言う。そこまで怖がることか?私が不思議がっていると。
「さっちゃん?調子どう?」
アツコが話しかけてくる。アツコの目が私の顔をまじまじと覗き込み、一瞬の表情筋の動きすらも見逃すまいと見てくる。
「大丈夫だよ。でもまぁこんな生活だから寝れていなくてな。見てくれ、クマがすごいだろう?」
「わぁ、ホントだ。すごいクマだね。でもなんか嬉しい。」
アツコが柔らかく笑う。正しいことを言ったようだ。
「なぜだ?」
「だってさ、さっちゃんがちゃんと隠さずに話してくれたからだよ。前だったらもっと素っ気なかったからね。やっとわかってくれたんだね。」
「勿論だ。だからこれからも一緒に居よう。姫。」
「なんか照れるなぁ。もう。」
アツコが抱きついてきて私の胸に顔を埋めてくる。よく見ると耳が朱くなってる。どうしてだ?今は寒いはずなのに。私がわからないでいると
「姫が恥ずかしがってる。珍しい。」
ミサキが教えてくれた。なるほど、恥ずかしさで頬が朱くなるアレと同じような感じか。また一つ知れた。そこで私はアツコをなでてみることにした。
「.....っつ!?」
アツコの耳がより朱みを帯びる。面白くなってきたので私はアツコをもっと撫でた
そんなこんなで私達は久しぶりにゆったりとしたランチタイムを満喫していた。これが一生続いてほしいと思ったその刹那、ドアの方から爆発音がした。音の大きさや高さから推察するに手榴弾がドアの外で炸裂したらしい。ドアが吹き飛び、煙が入ってくる。煙のせいで相手の姿が確認できない。
「誰だっ!?」
私は煙の方へ向かって怒鳴る。が、返事は無かった。代わりに煙の中にあった黒い影がこちらに向かって走ってきた。手持ちの武器をよく見る。
(あれは.....刀!?)
正面から振り下ろされる未知の武器を避けようとしたが時すでに遅し。私は銃身で受けるしか無かった。
(攻撃力が一切わからないものを受けてしまうとは.....)
私の不安は的中してしまった。刀は振り下ろされた勢いをほとんど失うこと無く銃を裂きはじめた。まるで包丁で豆腐を切るようにするすると刃を進めていく。私は咄嗟の判断で手から銃を離し、相手から距離をとった。完全に銃が真っ二つにされ地面に落ち、甲高い金属音を鳴らす。斬った犯人を見る。和服のような制服?に身を包んだケモミミの少女のようだ。どこかで見たことがある。彼女はは確か.....
「貴方が錠前サオリ....ね?」
「....っ!なぜ知っている。」
面識が無いはずなのに名前を知られており、さすがの私も少し怖くなった。ケモミミ少女が刀を鞘に入れ、こちらに数歩近づく。その間にヒヨリたちは体制を整え銃を構える。私も腰に据えてある拳銃を取り出す。アツコは私の直ぐ側に身を隠しいつでも奇襲できるよう準備している。
「その反応....どうやらあたりのようね。」
「何の用だ?...狐坂ワカモといったか?」
私は声が震えそうなのをなんとか隠して言葉を返す。未知の武器を持つ相手に名前が知られているという事実に恐怖し背筋が凍る。これから私の身に何が起こるのかは大体検討はつくが、どうしろというのだ。初めて戦う”アレ”は銃を一刀両断できるほどに鋭いのに......
「御名答。さすがですね。」
「つまらん余興はやめろ。さっさと目的を言え。もし戦うのならば容赦はしないぞ。」
「あら、気が短いのですね。残念です。目的ですか.........簡単ですよ?」
そう言いながらワカモは刀を手に掛け姿勢を低くして、こちらに向かって走ってきた。私はすぐさま拳銃を構え撃とうとしたが、
「遅いですわ!」
抜刀された刀が飛び込んできたので咄嗟にしゃがんで避けた。返しに拳銃を撃とうとしたが
「そうはさせませんっ!」
ワカモの足で蹴飛ばされた。それと同時にヒヨリのスナイパーライフルの銃声が部屋中に鳴り響く。その銃弾はワカモの右肩に命中する。ほぼ至近距離で肩を撃たれたワカモは血はでてはいないものの、そのあまりの衝撃に少しよろめき後ずさりをした。その隙を見逃すまいとアツコが奇襲に出る。ミサキの支援がほしいところだがこんな狭い場所でのスティンガーの使用はあまりにも危険過ぎる。そこで私は先程蹴飛ばされた拳銃を拾ってアツコを支援しようと思い、その場所に向けて走りだした時、肉を切り裂く鈍くて嫌な音を聞いた。
(まさか....!?)
恐る恐る音源の方を向くと、そこにはワカモの持っていた刀で体を貫かれたアツコがいた。アツコはどうにかワカモに一撃を与えようと右腕に掴んでいる拳銃を撃とうとしたが、それよりも先に刀がアツコの体から引き抜かれ、向きを変えて振り上がりそのままアツコの右腕を切り落としてしまった。
「ぐっ.....あ.....ああっ!」
アツコは切り落とされた右腕の断面を抑えながら痛みで涙を流す。持ち前の精神力でかろうじて立っているが数分も持たないだろう。アツコが助けを乞うように涙であふれる目をこちらに向けてくる。だが私の足は動いてくれない。ただ震えるだけで全く前に進もうとしない。眼の前に助けなければならない人がいるのに。ヒヨリに目を向けてみたが奴も同じなようだ。ただし私と違うのは部屋の隅で縮こまっているということだ。まるで戦闘意欲が見られない。
「あら?アリウス育ちの貴方でもこれは少し刺激が強すぎたのかしら?」
「く...くそ......舐めるなよ....。」
私は先程拾った拳銃をワカモに撃ちはじめた。しかし何発撃っても有効打にならない。拳銃ごときじゃ相手にならないのか。
「期待外れですわ。ここまで弱いとは....。」
「なんだと.....!?この野郎っ!」
私はあからさまな挑発に乗ってしまった。私は無謀にも走り出してしまった。私はワカモの刀の斬撃を華麗に避る。そして刀を振り下ろそうとしている腕をしっかりと掴み、右拳を胴体に一撃を入れ込もうとした。がしかし私はあまりにその一撃に集中しすぎたが故に意識外からの手刀を許してしまった。そしてそれをもろに受けてしまい、眼の前が真っ暗になった。私は薄れゆく意識の中アツコの苦しむ声しか聞こえず、悲しみと無念で胸がいっぱいになった。
━━━
「はっ!!」
気を失ってからどれくらい経ったのだろうかだれかに頭を叩かれた感覚がして目が醒める。うつ伏せの状態から顔だけを上げる。ぼんやりとした視界がだんだんと明瞭になってくる。もしやミサキとヒヨリが奴を仕留めるか追い払ったのかしてくれたと思ったが、眼の前にその”奴”がいたためそんな淡い希望は破られてしまった。
「さすがですね。気を失ってから数分しか経ってないのに頭を少々叩いただけで起きるとは。」
ワカモは私の顔を興味深そうに見てくる。あたりを見渡すと壁には血が飛び散っている。慌ててヒヨリのいたであろう場所に目をやるとヒヨリは胴体をバッサリ切られており、大量の血を流して壁にもたれかかるようにして座り込んでいた。目は虚ろで何も見てなさそうだ。指先すら動かさず、その場で固まっていた。
「ミ....ミサキは.....?」
「勿論、処分しましたわ。あと生きているのは貴方だけですよ?」
「私が気を失っている間に.......すまない......私のせいでこんなことに。」
自分の不甲斐なさに唇を噛むことしか出来ない。だって死んでしまったものは二度と生き返らないのだから。
「いまさら後悔しても遅いですわ。さぁ、最後に言い残すことはあるかしら?」
「無いな。うつ伏せで生を終えるとは...思いもよらなかった。」
「そう......それしか言うことがないの?この世に未練がないようで何よりですわ。こちら側としてもスッキリ殺せますわ。」
「うぐっ.....くっ.....。」
何かが私の心臓あたりを貫いた。先程の刀であろう。しかし何かがおかしい。鋭利な刃物とはいえこんなにもたやすく私の体を突けるものか?私は痛みよりもそちらのほうが気になってしまった。
「そ.....その刀とやらはなぜそこまで.....鋭利なのだ?ただ研ぐだけではそうはならないだろう?」
「特殊な材料を使っているのよ。」
「お....教えろ.......くっ。」
「本来なら教えてはならないのですが...貴方には特別に教えましょう。どうせ死ぬので大丈夫でしょうし。”死人に口なし”ですからね。」
ワカモはいちいち煽ってくる。しかし武器の秘密が聞けるのなら我慢しよう。ワカモは小さいため息をつくと私の体から刀を引き抜く。刺されるときと同様に、いやそれ以上に引き抜かれる時は痛い。
「この刀には”月の石”と呼ばれる神秘を無効化できる素材が使われてるらしいのです。私も詳しくは知りませんがキヴォトスの外から来たものとだけ聞いております。」
「そ....そうか...できれば製造方法をしりたいところ......あぐっ!?」
肺を突かれたらしい。呼吸が全く出来ない。
「そろそろくたばっていただけませんか?」
ワカモの刀が更に体の奥へ入り込んでいく。肋骨が割れる音がした。そんなこと通常の刃物ならまずありえないはずだ。やつの持っている”刀”はなんなんだ?
「ぐはっ.....あぐ.....あぁ...。」
体の内側から血が溢れてくる。段々と意識も遠くなり視界がぼんやりとしてくる。くそ.....ここまでだというのか?ここで私は死ぬのか?自分の願いの一つも叶えられぬまま死ななければならないのか!?私は耐えられなかった。しかし、いつの間にか目の前は完全に暗闇になってしまった。それでも私は叫び続けた。するとどこからか暖かな何かが現れた。それはどこにも見当たらなかったが確かに私の傍にあるのだけは感じ取れる。私は現世の自分をほっぽりだしてこちらに意識を向けた。
「熱.....暖かな光....?」
私は暗闇の中もがいた末についにその何かを掴むことに成功した。掴んでも尚それが何なのかわからない。私が考えていると突如世界がまばゆい白い光に包まれた。私は思わず目を瞑ってしまった。それと同時に私の意識はどこかに投げ出されてしまった。
続く━━━