エデン条約編第EX章【第二回エデン条約調印式】   作:かのさん

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錠前サオリの回想録【3】

「......ちゃん!.....さっちゃん!起きて!」

 

どこからか馴染みのある声が聞こえてくる。その声は段々と明瞭になっていき、遂にははっきり聞こえるようになった。その声の主が分かると私は直ぐに目を開いて確認した。

 

「ア.....アツコ....?」

 

「お?さっちゃん起きた。ぐっすり寝てたね。寝たらだめだって言ったのはさっちゃんなのに.......ね?」

 

アツコがニヤニヤしながらこちらを見てくる。今から私に罰ゲームをさせようとしているのか?他の二人も....特にヒヨリは羨ましそうにこちらを見てくる。そんなに寝たいのか。

 

「リ...リーダーが起きたので次は私の番ですよね?そうですよね?」

 

「何馬鹿なこと言ってるの?だめに決まってる。」

 

「じゃ....じゃあなんでリーダーはいいんですか?」

 

「リーダーは私等よりも疲れているんだから仕方ない。」

 

「うわーん!やはり人生は辛いですぅ!」

 

またヒヨリの我儘とミサキの合理主義がぶつかっている。私はそこに入ることもなくぼんやりとした視界で空を覗いてみる。雨が降っている。空から水が溢れんばかりに落ちてくる。それを見て私は思い出した。でもここはその記憶と合致する場所なのか?

 

「ここは....どこだ?」

 

事実確認がしたい。そうださっき私はワカモに強襲されてアツコたち諸共やられた....そのはずだ。だとしたら今の私達はどこにいる?死後の世界?天国なのか。いや、私が天国に行けるわけがない。ならば地獄?その割には世紀末感が無い。ならば.......

 

「さっちゃん何言ってるの?ここはさっきまで私達がいたところだよ。まだ昼前だし、起きたばっかだから寝ぼけているのかな?」

 

アツコが笑いながら答える。さっきの独り言は聞こえていたのか。今のアツコが話したことから推察するに時間的には襲撃が起きる前か。であれば確認すべきは襲撃の事実を知っているかだな。しかしどうやって聞こうか。変に怪しまれると言い訳が面倒だ。ここはあえて言わずにこの後の言動とかからそれを推察するとかあるいは......

 

「さっちゃん大丈夫?思い詰めていそうだけど?」

 

これは不味い。アツコに感づかれたかも知れない。どうにか誤魔化さないと

 

「あっ....あぁ大丈夫だ。雨の日はできる行動が限られていてストレスなんだ。こんなときに襲撃されてしまったらと考えると.....な?」

 

なんとか自分の心の葛藤がアツコに見破られないよう心がけたが、やはりアツコは騙せなさそうだ。私の顔を覗き込み 

 

「さっちゃん嘘ついてる。すぐ分かるよ。どうせまた一人でどうにかしようと思ってたんでしょ?」

 

「図星だよ.....。全く....アツコに隠し事は出来ないな。」

 

「さっちゃんが抱え込んじゃうのは分かるけどさ。リーダーだからね。でもそれ以前に私達って運命共同体なわけでしょ?もう二度と離れ離れになんかならない。なっちゃいけないんだよ?」

 

アツコがまっすぐした目で訴えてくる。わたしたちがバラバラになってしまったあの事件。アレはアツコの心に大きな傷を残したらしい。アレ以来アツコは一時も私の傍から離れようとはしていない。

 

━━ん?

 

私は一つの違和感に気づいた。今アツコと話した内容.....そして私が考えたこと....どこか身に覚えが....もしこれが本当なら.....

 

「アツコ。」

 

「何?さっちゃん?」

 

「建物の中に入ろう。この雨だといつか濡れてしまうだろう。雨に打たれながらの昼食は気が引ける。」

 

私はヒヨリとミサキにも同じように言い、中に入らせた。ミサキははじめ渋ったがヒヨリがミサキの手を引き無理やり建物内に引きずり込んでくれたおかげでどうにかなった。

 

「とりあえず昼食にしよう。」

 

私はカバンの中から袋に入った行動食を取り出し皆に配る。

 

「そういえば結局さっちゃんはなんで悩んでるの?」

 

「あぁ....あのな。」

 

私は言葉に詰まる。確か前の私はアツコに質問攻めをされて怒鳴っていたはず....。ここでもう一度怒鳴るか?いや、現状怒るべきことは一つも無い....。つまり怒鳴る必要もない。じゃあどうすれば!?前と同じ私を演じなければ....!

 

「ねぇ!さっちゃん!答えて!」

 

アツコが一気に近づいてくるアツコの怒りを肌で感じる。

 

━━気づけば私はアツコの首を絞めていた。

 

また.....やってしまった。今回もこの行為に私の意志は入っていない。また私の本能のようなものが勝手に......!

 

「あ....あがっ.....さっ....ちゃん...。」

 

アツコが何かを訴えようと必死に言葉を紡ごうとしている。私はそれを聞かなければならない。リーダーとして。ひいては親友として。なのに私の体が、私の手が、私の本能がそれを許してくれない。首を締める力はだんだん強くなっていき、アツコの瞳が閉じそうになったとき。

 

「その手を離せっ!!」

 

私は手を拳銃で撃たれ、その拍子に手がアツコの首から離れた。自身を持ち上げていたものがなくなったアツコは力が抜けたように座り込んでしまった。

 

「リーダー突然どうした?これはどういうつもり?」

 

同じだ.....。何もかも同じ.....。私が動揺しているとミサキが立ち上がり私の胸ぐらを掴み私を立たせた。

 

「リーダー。姫に手を出したってことはどういうことか分かるよね?」

 

刹那、視界の左から襲来した硬い金属で殴られた感触を覚えた。少しふっとばされ、尻餅をつく。殴られた箇所を手で触ると紅い液体がついている。どうやら拳銃のグリップの底で殴られたらしい。

 

「ちゃんと身を持って理解して。ねぇ。」

 

ミサキがコミュニケーションを拒む真っ黒な目をしてこちらに歩いてくる。ここは少し違うな....。私の記憶どおりならミサキはこの後私のことを足で押さえつける。

 

「アツコはリーダーを心配していたんだよ?.....それなのにリーダーは....。」

 

ミサキはブツブツと何かを言いながら足を勢いよく私の首の下あたりを踏みつける。その体制のままミサキは腰から拳銃を私のこめかみに押し当てて

 

「リーダーがその気なら私は今すぐにでもここを抜けるよ?」

 

脅しとも取れる文句だ。

 

「上等だよ。抜けてみろ。だがきっとお前は私等と離れようとしてもお前なら半日もせず帰ってくるだろう。」

 

「ふざけたことを抜かすな。リーダーには失望したよ。今まで世話になった。」

 

視線を横にずらし、足を私から離す。そのまま踵を返してドアの方へ向かおうとした。私はそれを止めようとしたがミサキの拳銃が私の眉間に向けられたままだったので動けなかった。

 

「ミサキさんっ....待ってください....。」

 

「あぁ、ヒヨリ頑張ってね。人生意外と捨てたもんじゃないかもよ.....。」

 

ヒヨリの方を一切見ずにぶっきらぼうに返している。その数秒後にはミサキの姿はドアの奥に隠されてしまった。錆びた金属の音だけが私達を包んでいた。

 

「わ.....私見てきます!ミサキさんと離れたくありません!」

 

そう言うとヒヨリは勢いよくドアを開け外へ出ていった。

 

「さっちゃん。どうしてくれるの?これじゃあまたバラバラになっちゃうよ?」

 

アツコがこちらを睨んでくる。あの記憶のままだったらミサキとはすぐ仲直りできたはずなのに、前回と行動を変えたから?確かに前はこの建物の中には入らなかった。侵入したのは別のところだ。でもその行動が前回のアリウススクワッドの全滅を回避できるようになるものか?いや怪しいな。

 

「わたしたちも行こ?仲直りしないと。このままじゃだめだよ。」

 

アツコが私の手を引いているのに気づいて私の意識は現実世界に引き戻された。

 

「あ、あぁ。」

 

私はパッとしない返事をしてヒヨリ達の後を追って外へ走り出した。外は未だに雨が降っており、冷たい水に叩かれ服を濡らす。

 

「ミサキ!どこにいる!?」

 

どれだけ大きな声で呼んでも雨の音でかき消されて遠くまで響いてくれない。本当に邪魔だ。

 

「....鬱陶しい。」

 

「さっちゃん何て言った?」

 

「雨が鬱陶しいんだ。声も通らないし、ミサキどころかヒヨリすら見つかってないじゃないか。」

 

「それは知ってるけどさ。こうなっちゃったのはどうして?」

 

アツコが俯いたまま尋ねてくる。フードに隠された顔は影が落ちており表情を読み取ることさえさせてくれない。でも明らかに憎悪がこちらを向いていることは分かる。

 

「私の責任だ。何も言い訳しないよ。」

 

「ならそんな事言わないで。」

 

なんだかアツコの声が無機質に聞こえる。私に背を向けてまた歩き出す。怒らせてしまったようだ。このままでは二度目のアリウススクワッド分裂になりかねない。そう思った時だった。

 

「.....爆発音?」

 

確かに爆発音がした。音から推測するに200mほど離れたところで手榴弾が爆発したらしい。もしかしたらミサキもしくはヒヨリがいるかも知れない。私は無意識にその方向に向かって走り出した。アツコも後ろからついてきている。

 

「ミサキ!」

 

音がしたであろう場所のすぐ近くの十字路を曲がるとそこには傷だらけになっているミサキがいた。

 

「大丈夫かミサキ!?誰にやられた?」

 

「だ.....大丈夫ではないけど....うっ。」

 

ミサキが怪我をしている腕を押さえながら話す。

 

「あまり無理するな。できる限りでいいからゆっくり話してくれ。」

 

「歩いていたら突然手榴弾を投げられた.....。その後その主に襲われた。一通り私を傷つけた後どこかに去っていったよ。」

 

ミサキが痛みをどうにか我慢して話してくれた。

 

「確かに.....腹部の出血がひどいな....。アツコ頼めるか?」

 

「いや、いい。多分私は手遅れだ。今更しても包帯の無駄だ。」

 

「それは出来ない。こうなったのは私の責任な....。」

 

ミサキが言葉を出しかけている私の口に指を当てる。

 

「大丈夫だよリーダー。あの時は私も冷静じゃなかった。それにいつかはこうなるって思っていたからね。それが今日だったっていうだけ......」

 

ミサキの声がだんだん小さくなっていく。くそ......。また私は間違いを犯したのか。そう思うと怒りがこみ上げてきた。

 

「アツコ.....。ミサキを頼む。私はそいつのもとにいかなければならない。」

 

私はそう言い残して雨の中を駆け出していった。

 

「ヒヨリ.....無事でいてくれ....。」

 

私はビル群の隙間を雨に打たれながら走った。いつでも戦闘に入れるようライフルの最終チェックも済ませておいた。夢中で走っていた途中、とあるビルの横を通った時物音がしたのを私は見逃さなかった。

 

「誰かいるのか!?」

 

私はそのビルのドアを勢いよく開けて怒鳴った。中は薄暗く放置されてからかなりの年数が経っていると分かった。あたりを見回すとその奥には人影が2つあるのが見えた。そのうち一人はシルエットを見るに刀を持っている。あいつはもしや....

 

「狐坂ワカモ!」

 

名前を呼ぶと一人の動きが止まりこちらに向き直る。その隙にもう一人の影が銃を撃つ。音的に撃ったのはヒヨリであろう。その銃弾はワカモに一切効いてないようである。

 

「あら?なにかしたかしら?」

 

「あっ...あぁ.....痛い....。」

 

ワカモの持っていた刀がヒヨリの胸に突き刺さる。やはりあの刀か。そう確信した私は無駄だと分かってはいながらもライフルを撃ちながらワカモに近づいていく。

 

「.....っ。痛いですわ。先程の生ぬるい射撃とは違いますわね。少し楽しめそうですわ。」

 

ワカモはそう言うと刀をヒヨリから引き抜き私のライフルを当然の如く斬った。

 

「そこだっ!」

 

私は刀を振り切ったワカモの腕をしっかりと掴んだ。

 

「ほほう。そこからどうするのですか。」

 

「余裕を言ってられるのも今だけだぞ。」

 

「くっ!?」

 

そのままの勢いで私はワカモの右手首を折り、無理矢理刀を落とさせる。落としたそれを自分の右手でしっかり受け取る。

 

「くらえっ!ミサキの仇!」

 

私は刀を水平に振った。しかし避けられてしまい致命傷には至らなかった。ワカモの服が少し裂け、そこから血が流れてくる。

 

「くっ....ふぅ。初めて戦うにしてはなかなかいい動きをしますわね。さすがアリウスと言ったところですか。」

 

「次で決めてやる。そのうるさい口を二度ときけないようにしてやる。」

 

雨の音が次第に強くなるのを感じながら私はワカモと対峙した。お互いにらみ合う状況が続いた。

 

━━先に仕掛けたのは私だった。

 

しかし突然視界がぐらついた。ミサキに頭を殴られたダメージが来た。今更かと思ったが、雨の中行動していたことやミサキが傷ついていたという事実による精神的ダメージが蓄積していたことを考えるとここで集中力が途切れてしまうのも納得だ。本当は納得したくないが......

 

「あぐっ....ぐっ...。」

 

「あら、斬る直前になって揺らいだのかしら。これは致命傷ね。」

 

「小刀.......」

 

「えぇ。そうですとも。備えあれば憂いなしですからね。持っていて損はないのですよ。」

 

体から力が抜けていくのが分かる。手に持っていた刀も落としてしまった。立つ力も無くなって私は膝から崩れた。鳩尾だ......鳩尾を刺された。そこから人の暖かみを感じる。また死ぬのか。私は。せっかくやり直すチャンスが与えられたというのにそれを無駄にしてしまった。結局誰も救えなかった。自分すら救えなかった。だんだんと暗くなっていく視界。ワカモの気配は無い。きっとあいつはこれからアツコを殺してしまうのだろう。守りたいなのに守れない。すまない.....本当にすまない.......。私はただ後悔と無念だけを残して暗闇の中に意識を放り込んだ。

 

━━━続く。

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