エデン条約編第EX章【第二回エデン条約調印式】 作:かのさん
「さっちゃーん?起きてー」
またか。また生き返ったのか。私はうんざりしながら目を開けた。どうやらアツコの膝の上で寝ていたらしい。
「ここまでさっちゃんがぐっすり寝るとはね。」
「私もそれくらい寝たいのですが....えへへ。」
「だめに決まってる。リーダーは私等より疲れているから仕方ないところはある。けどヒヨリは例外。」
「うわーん!ぐっすり寝て過ごしたいですぅ!」
これもまただ。はぁ。なんて無意味なんだ。いつまで経ってもワカモを倒せない。やつを倒さないと私達が殺されてまたここに戻る。
━━あぁ、そうか。やつを殺してしまえばいいのか
そうなれば話は早い。早速行こう。私は思いつくとすぐに立ち上がり走りはじめた。
「さっちゃん待って!」
アツコの声には聞こえないふりをした。説明なら後でしてしまえばいい。私にとってはワカモを殺すことのほうが重要度が高い。どうせ負けたらここからやり直しなのだから。私は行くことを検討する間もなくただひたすらにビルの隙間を走り続けた。どこかで待ち伏せしているかと思い、あえて罠にかかるような行動もした。しかしワカモは見つからなかった。こうなったら最終手段だ。
「狐坂ワカモはどこにいる!?錠前サオリはここにいるぞ!出てこい!」
私は思いっきり叫びワカモを呼び出そうと思った。するとすぐに自分の背中側から物音がした。振り向くとワカモがすぐそこまできていた。私は驚きつつも咄嗟に海老反りをした。ワカモの刀をすんでのところで避けた。それは私の胴体のわずか上の虚空を斬った。危なかった。
「私を相手するのには少々武器が少なすぎませんか?私も舐められたものですわ。」
「お前の相手の持っているものと戦う時は素手のほうがいいからな。」
「ほう。こちらを知っていて?」
「勿論だよ。なんでも神秘を斬れるとか。」
ワカモが目を丸くして聞いている。それもそのはずだ。その情報は本来内部機密であるはずだからな。ライフルは結局斬られるので、拳銃などで前に詰めて前回と同じように刀を奪い、それで戦うしか無いか。
「やあっ!」
早速ワカモが仕掛けてきた。これは.....
「胴体ががら空きだ。」
私はそう言ってワカモの鳩尾を殴り、ワカモの右腕を掴む。それと同時に左腕で拳銃を撃ちまくる。相手は常人ではない。撃ちすぎることはないはずだ。やつは左手首に小刀を隠している。私はそれを知っていたので左の手のひらにも撃っておいた。
「うぐっ......かなり痛いですわね.....。」
「お前の刀少し借りるぞ。」
一通り撃ち切りワカモが怯んだので右手首を折って、刀を強奪する。このまま振るのではなく、突きを選択。刀の刃を立て、ワカモの胸めがけて思い切り突き上げた。
「うがっ....ぐぅ.....これは.....予想外....。」
刀はワカモの体を突き抜け、その先から血液が滴り落ちている。私は銀に輝くその武器を更に奥へ押し込んだ。これまでの憎しみを晴らすように。
「うぅ......ぐはっ....。」
ワカモは血を吐き、段々と力が弱まっていく。腕はだらりと落ち、顔も俯いてしまった。私が刀を引き抜くと、刺された箇所から血が溢れ出し、体は膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。流れ出る血が広がり真っ赤な池を作る。私はその様子をみてある種の達成感のようなものを感じた。ちょうどその頃に空は晴れてきて、アツコたちも合流した。
「さっちゃん!これは何!?」
驚きを隠せないようだ。それはそうだ。友人を見つけたかと思えばその友人の足元に死体が転がっているのだから。
「あぁ、こいつか。こいつは私等を狙っていた刺客だよ。」
「そんな証拠どこにある?リーダー、気でも狂ったか?」
ミサキも心配そうに声をかけてくる。たしかにそうだ。今のアツコたちはワカモに襲われるという事実は脳内にない。どう説明すべきか.......。私が悩んでいると。
「い....いつも襲われているので、死体が一つ増えたぐらいどうってことないですよ。そんなことよりご飯を食べたいのですが......。」
「ヒヨリの言うことも一理あるな。わかった。ここは深く考えずリーダーの言う事を信じよう。」
良かった。これで面倒な説明の手間が省けた。私は胸をなでおろした。しかしそれもつかの間。上の方から強い熱気を感じすぐさまその場を離れた。
「エネルギー弾?」
攻撃してきたところへ目を向けるとそこには長い黒髪の少女が空に浮かんでいた。赤色の目をした彼女はその体には不釣り合いなくらい巨大な武器を携えていた。
「今すぐその場を離れて”月英斬”をこちらに明け渡しなさい。さもなくば撃ち殺します。」
その少女はかなり機械的な声で私達に要求をしてきた。
「月英斬というのはこいつのことか?」
私はコンクリートに突き刺さった刀を持ち上げ聞く。
「左様。それは貴様らの待つべきものではない。さぁ早くこちらに寄越したまえ。」
かなり高圧的な態度で迫られている。このまま言いなりになるわけにもいかない。しかも見ず知らずの少女に頭を下げるなどゴメンだ.....
「それはどうかな!?」
私は月英斬で思い切り切りかかった。
「そのような攻撃は無意味です。」
少女が持っていたその巨大な武器で受け止められた。私の銃を簡単に切り裂いた刀が受け止められた!?私は驚きが隠せなかった。
「反撃開始。エネルギー充填35%」
(くるっ....!)
私は咄嗟に体をひねって回避する。しかし避けきれなかったのか、肩のあたりが少し熱い。見るとやはり血が出ていた。
「くそっ!」
「さっちゃん!大丈夫!?」
アツコが私のもとに駆け寄ろうとしてきたので、
「今は来てはダメだ!ミサキとヒヨリとともに安全な場所へ避難しろ!」
3人を逃がし少女と対峙する。
「なぜこの刀が必要なんだ?」
「この世界に住む復讐をしなければならない者たちを討つため。それ以外はない。また私はそのために生まれてきた。」
「ならば私もその対象に入っているのか?」
「いいえ、入ってはおりません。ですので私は貴方に降伏を求めているのです。大人しく月英斬を渡してくれれば危害を与えません。」
.......っつ。ダメだ!私には守らねばならない人がいる。その人達を危険にさらす様は行為はしたくない。
「私は貴方の友人を知っている。彼女らにも危害は加えない。約束します。」
「そ....それなら......。」
ちらりとアツコの方を見る。アツコも首を激しく縦に振っている。了承を表しつつ早く危険から逃れたい意志が漏れているのだろう。
「渡すよ....。こいつを。」
私はワカモの近くに落ちていた鞘を拾い。刀身を収め、その少女に丁重に渡した。そのついでに気になったことを聞いてみた。
「お前の名前は何だ?」
「私の名ですか?いいでしょう等価交換というわけで教えて差し上げましょう。これからも出会うでしょうから。」
━━私の名前はAL-2Sです。「名もなき神々の王女の継承者」
「え?」
私にはその言葉の意味がわからなかった。ただ、何かすごいものだということだけ理解した。
「それでは私はこれで。」
少女はそう言うと原理は不明だが空を飛び何処かへ去ってしまった。それを見送るついでに空を眺めるとやはり空は晴れていた。数時間前まではあんなに降っていたのに。嘘みたいだ。
「あの女の子誰だったの?」
アツコが彼女の正体が気になって私に聞いてきたようだ。
「AL-2Sとか言ってたな。名もなき神々の王女とも。」
「なにそれ?」
アツコが首を傾げる。
「私にもさっぱりなんだ。」
「あ!さっちゃん肩怪我してる!ちゃんと手当しないと。」
「あぁ助かる。」
アツコが急いで救急箱を開けて私の傷の手当をしてくれる。消毒液が染みる。
しばらくして包帯を巻いてもらっている時に
「わ.....私聞いたことあります。」
ヒヨリがオドオドしながら話し出した。
「いつかの雑誌に書いてありました。確かミレニアムに天童アリスという生徒がいて、その生徒の裏の顔?というのですかなんというか。名もなき神々の王女とも呼ばれているらしいです。えへへ...間違ってたらゴメンなさい....。」
「いやいい。少し分かっただけでそれでもう十分だろう。一度シャーレに向かおう。先生の協力を仰ぐしかなさそうだ。」
「分かった。リーダー。道中危ないかも知れないから気をつけていこう。特にD.U地区と裏路地街の境目あたりが一番危険。」
ミサキが注意喚起をしてくれる。
「わかった。ではそれに気をつけて進んでいこう。出発だ。」
「「了解」」
そうしてわたしたちの物語は一歩進んだ。
━━━続く