乱世の外史 董卓伝   作:ウォーリー

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2ヵ月以上も経ってしまい、申し訳ないです。
気付けば年も越してしまって、何とか投稿ペースは戻していきます。
遅くはなりましたが今年も宜しくお願いします。



第10話 想いと束の間の平穏

 

 

 

 

 

 ──電子音。

 目覚まし時計がけたたましく鳴り響いている。

 すぐに音の鳴る先に手を当て時計を止める。

 上体を起こす。

 そこは少年にとって見慣れた光景だった。

 漫画や小説、参考書などが入り混じった本棚。

 掛けてある服や置物。

 机とその上にあるPC。

 少年の部屋であった。

 ─ああ、これは夢だよね。

 ベッドの上で少年─悠はそう思った。

 ベッドから出て寝巻から着替え部屋を出る。

 ─それにしても随分とリアルだなぁ。

 身支度しながらもそう考える悠。

 リビングに向かうと朝食が置かれていた。

 パンやサラダ。スープやお茶からは湯気が立っていた。

 父と母、妹、そして悠の4人分の朝食。

 いつもならすでに父が朝食を先にすましている中で、妹が騒がしくしている風景が日常だった。

 だがその場には悠以外の人の気配はない。

 いつもの風景でないことに寂しく感じる。

 朝食をとった後、外へ出た。

 そこは小さい頃から見慣れたはずの住宅街。

 一軒家が並び、アパートやマンションもある比較的に大きな住宅街。

 今、その住宅街は全く人の気配が感じられなかった。

 ただ目的もなく悠は歩くことにした。

 道中、公園や学校を通り過ぎる。

 友人と遊んだ。喧嘩をした。怪我もした。そんな思い出がふと脳裏に過ぎる。

 ─どうして、こんなに思い出すのだろう?

 感傷に浸りながらも最寄りの駅まで行ってみたが無人であった。

 しかし、無人でありながらも電車が止まっていた。

 悠は特に考えもなく乗車する。

 すると電車のドアが閉まり走行し始める。

 車内を見渡したが人はいない。

 運転席にすら無人であった。

 暫くの間、電車の揺れに身を任せながらドアからの風景を見ていた。

 見えるのは無人の街。

 その見慣れた風景を悠は懐かしく思った。

 同時に遠くに行ってしまったものに思えてしまう。

 帰りたいとは不思議と思わなかった。

 自分の家も育った町も懐かしい感傷には浸れる。

 ─今の僕が帰ったとしてもそれは後悔する。

 脳裏に過ぎるのは最初に香風と訪れた村での出来事。

 そして月さんとの約束。

 守りたい約束。

 果たすべき約束。

 ─その為に僕は剣を握ろう。たとえ人を守るために人を殺そうとも。

 殺すことに躊躇いを持たなって、自分が過去の自分とは変わっていく。

 今の自分は異常者かもしれない。

 いつかは殺人鬼になってしまうかもしれない。

 それを自覚した時に僕は正気でいられるのか。

 どうなるかはわからないけど…それでも、歩み続けよう。

 中途半端に終えられない。

 闘うことを選んでしまったのだから。

 

 

 

 気づいたら電車の中ではなく、自分の家の玄関先であった。

 ─もう、大丈夫かな。

 このドアを出ればきっと夢から目覚める。

 そんな確信があった。

 ─まぁ、未練がないわけじゃないけど。

 たまには思い出に浸るのもいいだろう。

 でも、それは記憶の奥底にしまっておこう。

 きっと辛くなってしまうから。

 後悔もするから。

 壊れてしまうと思うから。

 だから、一旦、お別れをしよう。

 自分に言い聞かせる。

 ─行ってきます。

 

 

 

 ─いってらっしゃい。

 

 

 聞き慣れた家族の声がした。

 

 

 

 

 

 悠は目を覚ました。

「うん、不思議な夢だったな」

 はっきりと夢の内容を覚えていた。

 それに不思議と気分はいい。

「…さてと」

悠は自分の寝床を見る。

膨らみが一つ。

香風である。

 小さな寝息を立てて寝ている。

 起こしたマズイと思い、気を遣いつつ寝床から出る。

 ふと窓を見るとうっすらと日が出始めている。

 もう少しで泉花が来るだろう。

「僕は大丈夫だから」

 自分に言い聞かせる。

 一人ではないから、きっと大丈夫。 

 

 

 

 

 

「お菓子を作ろう」

 ある日の雑務を始めたとき。

 僕は雑務を共に行っていた元直さんにそう言った。

「どうしたんだい?いきなり」

 突然のことに元直さんは直ぐに聞き返した。

「香風と星に2人の戦いで10回勝ったら褒美をあげるって言ってから二人の張り切りようがすごくてね。最近は引き分けが多かったけど香風が先に10回勝って褒美を上げることになったんだけど、それも兼ねてお菓子を作ろうと思ったんだ」

「それでお菓子を、僕に話したということは」

「うん。一緒に作って貰っていいかなあと思ってね。ほら前にお菓子作りすること言ってたし」

「そういえば、話してたね。ふむ、偶には作るのもいいか」

 了承は取れそうだった。

「ただし、今日終わらせなければならない案件を片付けないと」

「うっ、まだ結構あるよね」

 目の前に積まれた書簡の山。

 何とか…するしかないか。

 

 

 

 元直さんと何とか昼過ぎには仕事を終わらせ、まずは材料調達から始めようと、城下町へと僕と元直さんは向かうことにした。

 活気が絶えないのは最初に見たころと変わらない風景。多くの人が絶え間なく歩く中、僕たちは歩を進める。

 食材を取り扱っているお店を回る。

「うーん、すごい品ぞろえだ」

 豊富な品ぞろえに声を出してしまった。

 肉や野菜はもちろんのこと、果実や香料と…ほんと大型スーパーの規模だと思う。

「おや、あんまり町を散策はしないのかい?」

「ここに来てからは訓練と雑務とかでゆっくりと見たことはなかったからね。来ても町の警邏目的もあったからね」

 元直さんと話しつつも材料となるものを揃えていく。

 小麦粉、香料や果実を買い揃えていく。牛乳はさすがにおいてはいなかった。

 しかし、何店か回って聞いたところ手に入れることができた。

 牛乳みたいな生ものは今の保存技術では出回りにくいものだったが、運が良かった。

 牛乳自体はあまり需要がないようだが、製法を知っている人がわずかながら作っているらしかった。

「随分と買ったね」

 元直さんがそう言うのも無理ないことである。

 二人とも両手が材料でふさがっていたからだ。

「試しに色々作りたいからね。このくらいで十分かな」

 

 

 

 城に戻った僕らは厨房を借りて、準備を進める。

 元直さんも手際よく動く。

「とりあえず、お互いが得意なものを作ろうか」

 元直さんは饅頭を作るみたいだ。

 こっちはどうしようかな?

 作るのはひさしぶりだし。

「まずはクッキーあたりから作ってみるか」

 バターも欲しいところだけど、用意する時間も考えてまたの機会にでもしよう。

 ひとまず、小麦粉や牛乳、砂糖、油、香料と必要な材料を用意して。

 オーブンなんて便利なものは無いからここの調理場の火力で如何にかするしかないか。

 …ひとまず生地づくりから、油や砂糖、牛乳、小麦粉を入れていく。

 何種類か試したいものがあるから生地をいくつか分けてと。

 砂糖の配分や香辛料を使い、生地に混ぜ合わせる。

 さてと、型がないから、今回は切り抜いたもので我慢と。

 火をつけておいた窯の中に入れて、様子は時折見ながら別のものに取り組もう。

 小麦粉や牛乳、砂糖、果実も合わせつつ、簡単なパウンドケーキを作る。

 そういえば…型がない。

 何か代用出るものは?

 うん、陶器を使うか。

 適当な大きさの陶器を選び、それに生地を流す。

 後は窯に入れて、これもまた待つ。

「そっちはどうだい?」

 元直さんも饅頭を蒸して、あらかたは終わったみたいだ。

「あとは焦げないように気を付けるだけかな。久々に作ったから味も心配だけど」

「へぇ、久々にしては随分手際はよかったけどね」

「うーん、前はよく妹と一緒に作っていたから。体が覚えてるんだよね」

 

 

 

 元直さんと話をしつつもお菓子が出来上がった。

「うん、いい焼き具合だ」

 クッキーやケーキもできた。

「こっちも完成だ」

 元直さんもいい仕上がりだったので、みんなを呼ぼうかな。

 

 

 僕がみんなを呼びに行っている間に元直さんが盛り付けをしてくれた。

 机にはクッキーやパウンドケーキ、饅頭の山。

「ふぁ~わ、お菓子がいっぱい」

「はい、香風。ご褒美も兼ねていっぱいお菓子食べていいから」

 といった瞬間には香風はお菓子を食べていた。

「うまうま」

 口に頬張る香風。

 リスみたいだ。

「みなさんも勿論食べていいですよ」

 集まったみんなにも勧める。

「もぐもぐ」

 早速、恋さんも頬張っていた。

「恋殿~。これもどうぞですぞ」

「ん…もぐ」

「悠さんも元直さんのもとてもおいしいです」

「ふ~ん、美味いじゃない」

 月さんや詠さんも喜んでくれた。

「うむ、美味いな」

「先輩、おいしいです」

 うん、やっぱり誰かが食べておいしいと言ってくれるとうれしいな。

「星さんや霞さんたちにはこれをどうぞ」

 渡したのは甘さ控えめや塩見の効いたクッキーを勧める。

「ふむ、これは酒に合いそうだ」

「いや~、酒がいるなぁ」

 うん、よかった評判はいいみたいだ。

 任務に行っている樊稠さん達にはクッキーでも差し入れに持っていくことにしよう。

 ふと、周りを見た。

 みんなお菓子を食べたり、話したり楽しげだ。

 でも、これが三国志の世界ならと考えてしまう。

 こんな風にみんなが楽しく過ごせる時間も無くなってしまうのだろうか。

 もしかしたら、この中の誰かがいなくなってしまうんじゃないか、そんな嫌な考えが浮かんでしまう。

 乱世が始まる。

 そう感じる僕がいて。

 その時、僕らは乱世の中心にいることだろう。

 いつ死ぬかもわからない戦場だ。

 それでも──

「いやだな。僕は」

 小さな声で呟く。

「──ほぇ、悠?なにかいった?」

「ううん、何でもないよ」

 だからこそ、力をつけないと。

 守れるように。後悔しないように。

 だけど願わくば──

 

 

 

 いつまでもこんな日常がつづいてくれればと思った。

 

 

 

 

 

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