乱世の外史 董卓伝   作:ウォーリー

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久々の投稿です。



第12話 井陘での戦い

 

 

  冀州─常山郡、井陘。

  響き渡る怒号。

  街の城壁を囲んで攻め入る者たちがいた。

  彼等は皆一様に黄色い布を頭に巻いていた。

  それは彼らが黄巾党や黄巾賊である証であった。

 

 

 

  ──蒼天已に死す、黄夫まさに立つべし。歳は甲子に在りて、天下大吉

  このスローガンを掲げた彼らは漢全土で反乱を起こした。

  儒教国家であり、赤を象徴とした火徳の国家である後漢。

  それを打倒し、代わりに黄色を象徴とした黄老思想に基づいた中黄太乙に従う太平道の天下を目指したのだ。

  苦しい生活から抜け出すために。

  平和な世のために。

  救いを求めた者たちは戦うことを決意したのである。

  元凶である国を正しくさせるために。

 

 

 

  そんな黄巾党だが、その組織構成は二つに分かれていた。

  苦しい生活、腐敗した後漢を討つために立ち上がった者たちの一派。

  後から反乱に参加した賊の一派である。

  賊の一派は暴虐の限りを尽くす獣であった。

  黄巾党全てがこれに属さなかったが、彼らの行動は黄巾党を従来の賊同様に貶めるものだった。

  そんな賊一派を野放しにできないと考え、黄巾党内部でも賊一派を取締り、放逐していった。

  しかし、完全に取り除くことは難しく、各地で黄巾党の名のもとで悪事を働く者たちが後を絶たなかったのである。

  そして、今街に攻め入ろうとしている者たちは賊の一派に属する者たちであった。

 

 

 

 

 

 

 

  幷州と接している冀州、常山郡の井陘からの救援を求める使者が来たのは黄巾党への方針を決め、各々が行動していた時のことであった。

  これに対して国境近くまで進軍していた董卓軍第三師団が即座に対応を開始したのであった。

  もし、井陘が黄巾党に落とされれば隣接している幷州に浸入する可能性があった。

  更にそれに乗じて他勢力も介入する恐れもある。

  特に国境に接している幷州は異民族の侵攻が考えられる。

  黄巾党に異民族、その他の勢力が動けば、幷州は瞬く間に四面楚歌に陥り、それらを抑えるのはほぼ不可能なことである。

  ならば先手を打って、黄巾党を討つしかない。

「敵の総数は一万以上か」

  第三師団の長である華雄が確認する。

「はい。これに対し井陘に駐留する兵の数は二千人ほど、籠城で何とか持ちこたえるしかない状況です」

「冀州各地で黄巾党の勢力が進行しつつある中で援軍はわが第三師団だけと考えるべきでしょう」

  第三師団の武将や軍師を集め、状況を確認していく。

  その中で一万規模の敵兵を相手にしなければならない。

  董卓軍第三師団の規模は六千人、井陘の兵を合わせてもまだ黄巾党に兵に分がある。

「だが、所詮は寄せ集めの兵だ。数だけ多かろうと蹴散らしてやるまでだ」

  華雄は自信に満ちた顔で言う。

「ですが、念には念を。敵は東西南北城壁を囲んで兵を分散させています。それは私たちが各個撃破しやすくなっているということです」

  意見するのは徐元直。

「まずは華雄殿の本隊と別に二つ部隊を遊撃として分けましょう。そこで戦力が集中している北の城壁に展開している敵を三方向で挟み撃ち、さらに井陘の兵との合流を行い、一気に攻勢に畳み掛けましょう」

  こうして、井陘での黄巾党との戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

  董卓軍第三師団は部隊を三つに分け、北側に集中している黄巾党の陣へと突き進んでいた。

「さて、そろそろ始めようかな」

  そう呟いた悠の視線の先には城壁を囲む黄巾党の兵。

  その様子を見るに恐怖や不安は感じていなかった。

  むしろ落ち着いているといってもいいだろう。

「随分と落ち着いているね」

  元直がそんな悠の様子を見て尋ねた。

「まぁね、不思議と負ける気はしないんだよね」

  悠の下にいる部隊は千五百人程度。

  華雄は部隊を分けるにあたって兵を本隊三千、二つの部隊を千五とした。

  悠は千五百の兵を預かる将となっている。

  それでも目前の敵兵の数はこちらと同等規模展開している。

  しかし、悠は確信していた。

  この戦いは勝てると。

  ならば悠が行うべきことは味方を生き残らせること。

  その思いを兵に告げた。

「一番は死なないことだ。自分を守り、仲間を守れ。そして勝つよ、この戦い」

  ──応!

「──突撃ぃぃぃぃぃ」

  ──ォォォォォォォ!!!!

  獣のごとき咆哮が大地に鳴り響いた。

 

 

 

  大斧を構える少女─香風はこちらの進軍に気づいた敵陣の第一陣と相対していた。

「…いくよ」

「邪魔だ、この餓鬼がぁ」

  一騎の騎馬兵が香風に槍を向けて突撃する。

  本来ならば騎馬相手に吹き飛ばされているだろう。

  しかし、吹き飛ばされたのは馬上の兵だった。

  接敵した瞬間に相手よりも素早く動き、槍ごと振り払ったのである。

  香風はそれを皮切りに視界に入る兵たちに縦横無尽に近づき、大斧を振るう。

  見るからに重いはずの大斧を自由自在に振り回す。

  どこにそんな力が目の前の華奢な少女にあるのか。

  相対する黄巾党の兵はそんな疑問を持つ余裕はなかった。

  大斧の一撃は兵を物言わぬ屍へと変えていく。

  時に武器ごと叩き潰し、

  複数の兵を一振りで切り裂き、辺りには臓物が飛び散る。

  中には衝撃で吹き飛ばされる者もいた。

  周囲の地面は敵兵の鮮血で染まり、戦場を地獄へと変える。

「逃げたいなら逃げてもいいよ。向かってくるなら…容赦しない」

  相手の数など関係なく、蹂躙は続く。

 

 

 

  また少し離れたところでは星も交戦を始めていた。

「我が名は趙子龍!賊どもよ、我が槍の錆になるがいい!」

  その声と共に放たれた鋭い槍の一撃で兵を葬る。

  彼女も相手の数の利など気にもせず戦場を駆け抜ける。

  向かってくる敵兵の剣や槍を舞いのようにいなし、相対する者を屍へと変えていく。

  槍を振るうその姿は、戦場にいることを忘れてしまうほどに美しかった。

  味方はその姿を見て奮起し、敵は身を竦ませた。

「恐れぬものは受けて立つぞ、さあ我が武を目に焼き付けるがいい!!」

  美しき死の蝶は戦場を踊り続ける。

 

 

 

 

「いやーすごい数ですね。武器もボロボロになりそうです」

  泉花は軽い口調で呟きつつも敵兵を槍で捌き、近づけさせない。

  視線の先に騎兵が見えると、手にした槍を投げ放つ。

「おりゃ」

  槍は見事に馬上の敵兵に当てた。

  武器を失った泉花へと敵兵はたちまち攻めてくる。

「でも武器は其処ら中にあるから困りませんね」

  向かってきた槍の一つを奪い、敵を屠る。

  敵の武器を利用してはひたすらに敵を倒していく。

  香風や星の様な武とは違う、堅実な武を彼女は体現していた。

  しかし、二人と変わらぬことは彼女の歩んだ後にも敵兵の屍の山が築かれていることだ。

「さてさて、死にたくない人は逃げてくださいねー」

  陽気な鬼は容赦なく突き進む。

 

 

 

「本体もぶつかって混乱し始めている、もう少しの辛抱かな」

  軍師でありながらも徐庶は剣を振るい、敵を倒していく。

  時に短剣や敵から奪った剣を投げ放ち、敵を葬る姿は並大抵の将以上の活躍をしていた。

「我らが大将は…あそこか。あまり前線に立たないでほしいんだけどね」

  視線の先には自分たちを率いる少年─悠の姿。

  困ったものだと思いつつ、あれも彼の持ち味かなと今は強引に結論付ける。

  自ら先陣を切っていく姿は味方の兵の士気を上げることもできるだろう。

  しかし、討ち取られる危険も孕んでいて、逆に兵の士気を下げかねない。

  もう少しちゃんとした策を講じて、兵を率いてほしいところだが、まだ悠にはそれを実行 できる兵数の部隊を持ち合わせていない。

  彼にはもっと上を目指してくれないとね。

  たぶんこのままいけばそれは実現するだろう。

  でも、その前に彼にはきっちりと将に必要な知識を詰めていかなければ。

  後で反省も兼ねて付き合ってもらおう。

  そう、誓うのであった。

 

 

 

  悠は戦場を駆けていた。

  細かい指揮は徐庶に任せて、前線へと身を投じる。

  元々、悠自身は一軍の将には向いていないと思っている。

  かといって軍師にも向いていないだろう。

  ならば、自身の役割とは何なのか。

  悠は自分ができるのは敵を倒すことだと考えた。

  ただ、それだけを行う。

  押し寄せる兵の津波。

  身に襲い来る槍や剣の群れ。

  悠は臆せず動き続ける。

  足は地を踏み込むために力を籠め、一気に突撃する。

  目の前に刃が来ても最低限の動作で回避する。

  意識は目に映る敵を倒すことに集中する。

  全身の筋肉を絞り上げる。

  躰をひたすらに動かす。

  脳は戦闘のために負荷をかける。

「───ぁぁぁぁぁ」

  餓狼のような咆哮と共に彼は斬撃を続ける。

  だが、悠の戦い方によって浅い切り傷が増えていく。

  致命傷にはないものの、彼の体は自身から出た血と敵の返り血で赤く染まっていた。

  しかし、気にせず悠は進む。

  痛みは遮断されているのか感じられなかった。

  敵対する者たちは血塗れの悠の姿を見て殺されると思った。

  強い、勝てないというわけではなく、死ぬと感じたのだ。

  目の前の少年は同じ人とは思えなかった。

  人の形をした何かであると思った。

  勇気を出し、または恐怖に駆られ彼に立ち向った者たちはすぐに屍へと変わっていった。

  彼の殺戮劇は終わらない。 

 

 

 

  彼らの乱舞を皮切りに部下たちが切り込む。

  敵兵の血に染まりながら、進む彼らは戦鬼であった。

  黄巾党の兵は彼らの姿に恐れをなして徐々に逃げていくものも出始めていた。

 

 

 

 

 

  悠たちが戦う中、華雄率いる本隊が黄巾党の指揮官を討ち取ったことにより、北側の城壁に展開していた黄巾党の部隊は瓦解した。

  戦力の集中していた部隊が壊滅したことにより、残りの黄巾党の兵たちの士気は低下していった。

  さらに井陘の兵との合流した華雄率いる本隊の追撃戦により、戦いは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

  戦いが終わり、井陘の街も一先ず落ち着き始めた頃に軍師として協力していた者たちがいた事を井陘の県令から聞かされ、悠は華雄や他の将と共に会うことになった。

「お前たちが軍師として指揮を執っていた者たちか?」

  華雄に尋ねられ、二人の少女が前に出てくる。

「はい、郭嘉、字は奉孝と申します」

「程立、字は仲徳といいますー」

  郭嘉と名乗った少女は赤みがかった茶髪に眼鏡をかけ、その姿はいかにも真面目な性格に見える。

  もう一人の程立はウェーブのかかった足首にまで伸びた薄い金髪の小柄な少女。間延びした声とそのぽーっとした姿に悠は香風と似た雰囲気を感じた。

「おや、誰かと思えば稟に風ではないか」

  星が口を挟んだ。

  口ぶりから顔見知りであることが伺えた。

  見知った者が現れ、二人は意識を向ける。

「おお、星ちゃん、お久しぶりですね~」

「星、お久しぶりです」

「何だ、知り合いか?」

  星に訊く華雄。

「以前、旅を共にしていまして、彼女たちは信頼できますぞ」

  そこからは戦いの後処理のことといった事務的な話をして井陘の県令や華雄たちは各々の作業に戻っていった。

 

 

 

  そうして残された者たちは少しの間、暇をもらっていた。

「星は董卓軍に所属しているのですか?」

「まぁそうなるが、私はこの月守殿の元に付き従っているのだ」

  程立と郭嘉が悠を見る。

「えっと、僕は月守悠です、字はなくて変かもしれないけど」

  いきなり、こちらに視線を向けられた悠は若干戸惑いながらも挨拶した。

「先ほども申し上げましたが郭嘉、字は奉孝と申します」

「程立です~、でこっちが…」

「宝譿だ、よろしくなぁ兄ちゃん」

  程立の頭に乗っている人形?から声が発せられていた。

「……うん、よろしく」

  悠は人形から声が出ていたことに疑問をおぼえつつも、流されて挨拶をする。

「おお、宝譿に挨拶してくれましたよ。ところで、字がないとは珍しいですね~。もしかすと、お兄さんは噂の天の御使いですか~?」

「あー、どうなんだろうね」

  実際、悠自身は天の御使いとは思っていないのだが、こことは違う世界から来たことに違いないので言葉を濁した。

  その後はお互いの話を軽く話していた。

  話の最中、程立が提案してきたことがあった。

 

「よろしければ、お兄さんたちと同行してもいいですか~」

「風、何を言っているのですか!?」

  突然の申し出に郭嘉は驚き、理由を問いただす。

「ぐぅ」

「誤魔化さないでください!!」

「おおぅ。稟ちゃんはせっかちですね~」

「何か彼に思うところでも?」

「ん~、強いて言えば、そうですね~」

  はぁと郭嘉は溜息をついてしまう。

  程立と付き合いの長い彼女はこのまま話を続けてもきっと意見を変えないと思っていた。

「…いいでしょう、董卓殿とその軍を見定めるには良い機会です。董卓殿の下には有能な人材も多いと聞きますからね」

  郭嘉は折れるしかなかった

 

 

  悠に掛け合ったところ、すんなりと了承し、彼や郭嘉たちは華雄のもとに伝えに行った。そして、誰もいなくなった場で程立が呟く。

「見たくなったのですよ。あのお兄さんの…進む道がどうなっていくのかを」

  戦場で見た悠の姿。

  単純な強さや技術なら星や香風の方が上に見える。

  だが敵を殺すこと、それだけは誰よりも突出していた。

  本来ならば、挟撃するにしても彼の率いた兵の数でその数倍の敵と当たるのは無謀でしかない。

  それなのに、彼らは臆することなく敵に切り込んだ。

  しかも、見事にねじ伏せてみせた。

  それを可能にしたのが悠の存在だ。

  将自らが切り込んでいく。

  多くの者が戦場で命を顧みない動きをしている愚か者と言うだろう。

  もしくは狂人と言うかもしれない。

  だが彼の狂気に引きずられたように周りの兵たちも敵を鏖殺せんと動いたのだ。

  星たちのような将も例外なくだ。

  これがもっと大規模の部隊だったら?

  想像した程立は身震いした。

  大陸の中でも指折りの部隊になるだろう。

  この黄巾党の戦いが終わったとしても戦乱が続くと程立は考えていた。

  その時、彼は戦乱の渦中に身を投じていくに違いない。

  そんな彼のもとに星以外にも有望な将が集まっているのだ。

  いずれはかなりの規模の部隊を持つことだろう。

  ならば、彼の下にいれば己の手腕が存分に活用できる場があるだろう、何より…

「何より、面白そうですし~」

  もしかしたら、仕えるべき主になるかもしれないのだ。

  彼女は自然に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

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