乱世の外史 董卓伝   作:ウォーリー

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第4話 新たな出会い

「なぁ、アンタら、賊と戦って活躍したちびっ子たちと少年やろ?

 もし、よかったらやけど、うちらの軍に来てみんか?」

 

 女性─張遼がそう僕らに話す。

 一瞬、その言葉に茫然としていたが、すぐ意識を戻す。

 

「えっと、それって勧誘でいいのかな?」

「せや、うちらの軍は人不足で、ええ人材がいれば連れてこいって軍師がうるさくてぇな。そこでや3人ともうちらの所に来てほしいんや」

 

 う~ん、董卓っていうと暴君や悪人のイメージが強いけど。

 

「…えーと。董卓さんって評判はどうかな」

 

 こっそりと単福に聞いてみる。

 

「風の噂だけど、良い治世を敷いているらしい。まぁ実際見てみないとわからないけどね」

 

 人物像は判断できないか。

 

「香風はどうする?」

「う~んと、悠に任せる」

「僕も君についていくからね。任せるよ」

 

 二人とも僕に任せるか。

 向かうのもいいかもしれない。

 村にいることもできるが、あまり村の皆さんに負担を掛けさせたくない。

 元々、この世界で頼る身寄りはない。

 なら都市部にいって職に就くということもいいのかもしれない。

 

「張遼さん、連れて行ってもらってもいいですか」

「ほんまか、ならすぐとは言わん、明日の朝にここを発ってもええか」

「はい、お願いします」

 

 こうして董卓さんの元に行くことが決定した。

 

 

 

 

 

 その夜、村の皆さんに別れを伝えるために村のあちこちを訪ねていた。

 そんな中、

 

「君に単福が偽名って話したよね」

 

 単福が話しかける。

 

「うん、どうしたの急に」

「君に興味が湧いてね。これから一緒についていく身だ。だから名乗ろうと思うんだ。僕の姓は徐、名は庶、字は元直だ」

 

 単福─いや徐庶が手を差し伸べる。

 

「えーと、改めてよろしく」

 

 僕も手を差し伸べ握手する。

 徐庶─この名は知っている。

 たしか、劉備の軍師だったはず。

 う~ん、香風や徐庶、張遼さんも女ってことは有名な三国志の人物が女の子になってるのかな。

 つい考えてしまって。

 

「君、何時まで手を握ってるつもりだい」

「えっ。あ、っとごめん」

 

 徐庶の手を握りっぱなしにしていたようだ。

 

 

 

 

 

 次の朝、村の皆さんと最後の別れをして僕らは董卓さんのいる太原へと向かったのだった。

 村長がわずかであるがと路銀を僕に渡してくれた。

 本当に感謝しっぱなしだな。

 その後、到着した僕が太原の街を見た最初の印象は活気の絶えない、その一言に尽きる光景だった。

 行く道には人が絶えず混雑し、露店や行商がひしめき合う。

 その光景は僕がいた時代の繁華街を思わせた。

 

「すごい」

 

 僕が呟く。

 

「確かに。幷州は異民族の進行も多いみたいだけど、それを感じさせずにこれほど人々が活気づいている都市はそうはないね。董卓殿は良い治政をしているみたいだね」

 

 単福も感心している。

 

「そやろ、うちらの君主や軍師たち一丸となって頑張った成果や」

 

 張遼さんも誇らしく話す。

 そんな中、香風は

 

「悠、お腹すいた」

 

 僕の服の裾を引っ張り、ねだってくる。

 彼女の視線の先には肉まんを売っている露店。

 しょうがないなぁ。

 

 「じゃあ、買ってくるからまってて」

 

 村でもらったわずかな路銀を使い肉まんを買おうとする。

 ぐぅぅ~。

 背後からすごい腹の音が聞こえてきた。

 音の方向に向くと紅い髪に2本の癖毛、日に焼けた浅黒い肌の女の子がいた。

 

「えっと、もしかして肉まん食べたいの?」

 

 コクリと首を頷ける彼女。

 う~ん、どうする。

 彼女を見る。

 すごく肉まんを食べたいと訴えかけるように彼女の瞳が僕を見ている。

 隠す気も、遠慮する気もないただ、肉まんが食べたいとひしひしと伝わってくる。

 うっ、そんな目で見るとなぁ。

 彼女の視線に耐えかねて僕は香風と彼女の肉まんを買うことにした。

 

「はい、どうぞ」

 

 彼女に肉まんを渡す。

 

「…ありがと」

 

 彼女は幸せそうな顔をして肉まんを食べ始めた。

 香風にも肉まんを渡す。

 すると張遼さんが先ほどの赤毛の少女に話しかける。

 

「おおっ、恋やんけ。」

「あっ…霞。」

 

 どうやら、張遼さんの知り合いらしい。

 

「ほな紹介するわ。呂布奉先。ウチと一緒に軍で将をやっとる。

 めっちゃ強いで~」

 

 へっ!?

 驚愕。

 あの子が呂布。あの天下無双の!?

 思わず言葉を失う。

 呂布と呼ばれた彼女に視線を向ける。

 もきゅもきゅと肉まんを頬張る姿からはとても想像できない。

 ただ香風と食べている姿はとても微笑ましくなる。

 とてもそんな風には見えないんだけどなぁ。

 そんなことを考えていると

 

「悠、もっと食べたい」

「…恋も」

 

 香風と奉先さんが強請る。

 4つの瞳を向けられ僕は押し負けてしまう。

 二人の胃袋に僕が村で貰った路銀は消えてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 呂布さんとも合流し、いよいよ董卓さんとのご対面となった。

 

「将の何人かは野暮用とかでおらんけど、今いるやつは集まっとるからな」

 

 そういわれて城の大広間に入る。

 大広間には幾人かの人たちが集まっていた。

 真ん中にいる女の子がもしかして…

 

「お待ちしておりました。このたびは我が領地の村を賊から守っていただきありがとうございます。

 私がこの幷州を納める、性は董、名は卓、字は仲穎といいます」

 

 呂布に続く衝撃。

 あの暴虐非道で三国志一の悪役が

 自分の知る武将─香風や文遠さんやあの呂布奉先すら女の子なのだ。

 うすうす感づいてはいたが、それでもだ。

 どう考えても目の前にいる女の子が董卓とは信じられなかった。

 儚い、優しそうな雰囲気の彼女が。

 あまりの衝撃で混乱していた僕に

 

「あのー大丈夫ですか?」

 

 少女─董卓の心配そうな声。

 思わず我に返る。

 

「えっと、だ、大丈夫です。僕の名前は月守悠といいます。異国の生まれなので皆様のように字や真名はないです」

「性は徐、名は晃、字は公明。…よろしく」

「ふむ、僕は単福と名乗っているが、この際だ、性は徐、名は庶、元直だ。今は各地を回って仕える主を探し中の身かな」

 

 僕たち3人も名乗る。

 

「へぅ、詠ちゃん、もうこれぐらいで堅い挨拶はいいよね」

「ちょっと、月、気を抜きすぎよ」

「でも、詠ちゃんあまり固すぎると皆さん緊張しすぎちゃうよ」

「まぁ、それもそうね。目上の者が来てるわけでもないからそんなにかしこまらなくてもいいわね」

 

 董卓と呼ばれた少女の隣にいたメガネの少女が

 

「ここにいるやつの自己紹介をしておくわ。ボクは姓は賈、名は詡、字は文和。ここで軍師をしているわ。で隣にいるやつが」

 

 賈詡とよばれた少女は隣の青年に視線を向ける。

 背は高く、彼女が隣に立つことにより一層高く感じる。

 

「自分は姓は李、名は需、字は文優と申します。ここでは軍師の役職を同じく受け持っています。以後よろしく」

 

 見た目は少し暗いイメージの青年。

 年は僕と変わらないぐらいだと思う。

 次にこの中では比較的年齢が高い男性が僕の前に出る。

「では次は私から。どうも、私は姓は徐、名は栄、字は荘玄と申します。ここでは将の役職に就いています。この度の件は私どもとしてもありがとうございます」

 

 手を差し伸べる。

 見た目は中年の人当りの良いおじさんといえる。

 しかし、握手して気づいた。

 握った手は傷だらけの荒れた手。

 近くに見て気づく静かな威圧感。

 長い間、戦い続けていたことを思わせる。

 

「…恋は、呂布、奉先。よろしく」

 

 淡々とした紹介するのは先ほど会ったばかりの女の子。

 天下無双。

 三国志の中でも最も有名な人物の一人。

 ただその見た目はどう見てもおとなしそうな女の子だけど。

 

「ねねは陳宮、字は公台ですぞ。恋殿の軍師なのです。」

 

 背丈よりもやや大きめの服を羽織った少女が声をあげる。

 うーん、あんなに小さい子が軍師なのか。

 なんだか背伸びしているみたいで微笑ましくも思えてしまった。

 

「高順。よろしく」

 

 奉先さんよりもそっけなく答えたのが空色長髪の如何にも静かそうな少女。

 次に黒髪短髪の女性が

 

「張済です。宜しく。こちらが姪の」

 

 と隣にいる彼女を幼くしたような感じの少女に視線を向ける。

 

「張繡です。未熟な身ですが将を勤めさせていただいております。」 

 

 見た感じ如何にも真面目な人のようだ。

 次は見た目本当に軍人の雰囲気を出している赤髪の女性。

 

「樊稠だ。一介の将を務めている。貴様らはなかなかだ。期待しているぞ」

 

 その後ろから男の子か女の子かわからない子が顔を出す。

 

「…ぼくは…牛輔…です。よ、よろしく…おねがいします…です」

 

 そういうと樊稠さんの後ろにすぐ隠れてしまった。

 人見知りなのかな。

 次は動きやすさ重視の軽装な防具を身に着けた銀髪の女性。

 

「華雄だ。董卓軍筆頭の武人だ。」

 

 自信満々に言ったところで樊稠さんが

 

「自称だ」

「何!?」

 

 釘を刺し、二人の間が一触即発の雰囲気になる。

 ひっ!と牛輔が怯える。

 とさらに張遼さんが二人の間に立つ。

 

「まぁ、華雄落ち着かんかい。ほな、改めて名乗るなぁ。性は張、名は遼、字は文遠や。よろしゅうな」

 

 とサラシ姿に袴が特徴の張遼さんが改めて名乗る。

 

「まぁ、ここにはいないけど李傕や郭汜なんかはいないから、またの機会ね。それで霞。彼らは使い物になるの?」

 

 賈詡と呼ばれた少女が張遼さんに尋ねる。

 

「まぁ、論より証拠見せた方が早いやろ」

 

 そんな張遼さんの言葉により模擬戦を行うことになった。

 

 

 

 

 

 僕と張遼さん。

 香風と呂布さん。

 元直さんはというと賈詡さんと面接みたいなことをするみたいだ。

 張遼さんはどうも僕たちと会ってから戦いたくてウズウズしていたみたいだ。

 

「ほな、始めよか」

 

 そう話す張遼さんの武器は薙刀にも見える長柄の戟。

 リーチも言わずもがな。

 もちろん模擬用のものだ。

 こっちは剣。

 下手に近づけない。

 

「来へんのか。ならウチからいくで」

 

 刹那。

 そう感じるほどの速さで僕に近づく。

 横に払われた一撃。

 反射的な行動だろう、剣を両手で持ち構える。

 衝撃。

 

「がぁっ…」

 

 重い一撃に何とか耐える。

 体制は何とか崩れなかったが持ちこたえた両手に痺れるような痛み。

 たった一撃でこれか。

 息を整える。

 

「ほーなかなかやるなぁ。ならこれはどうや」

 

 さらに張遼さんは攻勢を強める。

 迫りくる一撃。

 今度はその刹那の一撃を視認して避ける。

 

「やるなぁ。まだまだいくで」

 

 その戟の方向を変えさらに連撃。

 薙ぐ。 

 突く。

 切り上げる。

 右から。

 左から。

 足。

 腕。

 胴。

 体中のあちこちに繰り出されるそれを、何とか耐え凌ぐ。

 時に後退し、時に跳躍し、時に体を強引に動かし、時に剣で受け止める。

 何度目の攻撃かはもう数えてはいない。

 すでに体中ボロボロである。

 

「ほれほれ、そっちから攻撃してこんかい」

 

 余裕ありげに僕に挑発してくる。

 

「くっ、あぁぁぁ─」

 

 ならぼくも一撃くらいは入れなければ。

 跳躍。

 張遼さんに近づく。

 斬撃。

 だがその一撃は躱される。

 払った斬撃の体制から無理矢理、張遼さんの戟を掴み、剣の矛先を突き上げる。

 

「おおっ。やるやないか」

 

 その一撃も手刀で弾かれる。

 だがまだ終わりじゃない。

 戟から手を放す。

 後退すると見せかけの奇襲、

 突撃。 

 張遼さんも戟の矛先を僕に向ける。

 そして戟の一閃と剣がぶつかり合う。

 体を捻る。

 剣の持ち手を変える

 胴に向け剣を払う。

 これなら。

 

「─っく」

 

 張遼さんは剣を押さえつける。

 そのまま手薄になった僕の胴へ石突の一撃。

 呼吸が覚束なくなる。

 そこにさらに今までよりも速い一撃。

 瞬間。

 すさまじい衝撃。

 僕は意識を失った。

 

 

 

 

 

「霞、少しは手加減しなさい。何模擬戦で吹き飛ばしてんのよ」

 

 賈詡と呼ばれた少女が張遼─霞に怒鳴る。

 

「いやぁ~なかなかやるからなぁ、つい本気になってしもうた。はっはっは」

「つい、じゃないでしょうが」

「うっ…あれ。どうしたんだっけ」

 

 少年─悠も目を覚ます。

 ただ、意識は朦朧としている。

 

「すまなかった。そっちもやるもんだから本気ちょっと出してしもうたわ」

 

 張遼が謝罪する。

 

「いえ、大丈夫です。確かに最後のは効きましたけど」

「…悠、大丈夫?」

「うん、大丈夫。少し痛むけどこれぐらいなら」

「まぁ、目を覚ましたことだし、次行きましょう」

 

 賈詡が次の模擬戦へと仕切り始めた。

 

 

 

 

 

「次は恋の番」

 

 恋─呂布と呼ばれた少女の持つ武器は戟。

 

「う~ん、がんばる」

 

 対する香風の持つ武器は身の丈以上はある大斧。

 二人の戦いは香風の一撃から始まった。

 

「んっしょ」

 

 大斧を一振り。

 可愛らしい声とは裏腹に繰り出される一撃は軽々と人を飛ばせるほどの威力をもつ。

 しかし───

 

「……ん」

 

 衝撃。

 ぶつかり合う刃と刃。

 呂布と呼ばれた少女は必殺の一撃を苦も無く受け止める。

 

「…恋も…いく」

 

 すぐに一撃を仕掛ける。

 響きわたる金属音。

 香風も常人にとって強烈な一撃を難なく受け止めていた。

 行き着く暇もなく二人は攻勢の動作を行う。

 鈍い金属音。

 斧と戟がひたすらにぶつかり合う。

 なぎ払い。

 切り上げ。

 突く。

 次々と繰り出される一進一退の攻防。

 お互い最低限の動作で避ける。

 あるいは己がもつ武器を使って受け止める。

 

「むう、強い」

「そっちも…強い」

 

 向かい合う視線。

 今この場は彼女たちによって支配されていた。

 武と武の交差する1つの異界。

 見るものを魅了させるほどの乱舞。

 当の彼女たちはそんな事など考えもせずひたすらに己が持つ技量を出し合っていた。

 

 

 

 ──次元が違いすぎる。

 武を修めていない僕ですらわかる。

 改めて彼女たちが武人だと認識していた。

 観戦していた張遼さんたちも

 

「恋相手にようやるな、あのちびっ子」

「そのようですね。お互い本気は出してはいないが、これはなかなかのものですね」

「ふん、私にだってこれぐらいできるぞ」

「別にため張らなくてもいい、華雄よ」

 

 など各々評価していた。

 ただ二人の演武はこのまま続きそうだったのを見かねて

 

「二人とも、そこまでよ」

 

 賈詡の静止の一言により戦いは打ち切られることとなった。

 

 

 

 

 

「あなたたちの腕はわかったわ。でこれからのことだけど、月」

「うん、詠ちゃん。…みなさんよろしければ私たちにお力添えをいただいてもらえないでしょうか。ここ幷州では多民族の土地と接し交流のある土地です。ひとたび争いが起きては治安が悪くなり今も賊があちこちで出てしまうのが今の現状です。でも私たちも手をこまねいているだけではいかないのです。守るべき民が脅威に晒されるならば私たちが民のために行動することは最も第一とすることなのですから。そのためには今いる私たちだけではまだ力不足で…どうか力を貸してください。」

 

 董卓をはじめこの場にいた者たちが真剣な眼差しで僕らを見る。

 何もせずこの身寄りもない世界で生きていくためにはいい機会だと思う。

 でもそれ以上に董卓さんの思いに、力になれるなら。

 

「どれだけ力になれるかわかりませんが、よろしくお願いします」

「うん、ちからになるよ~」 

 

 香風も。

 

「ここまで来たからね。僕もついていくよ」

 

 元直さんも。

 

 

 こうして、僕らは董卓さんに仕えることになった。

 

 

 

 




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