乱世の外史 董卓伝   作:ウォーリー

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遅くなりました。
少し詰め込み過ぎたかもしれません。
それではどうぞ。


第7話 救出作戦

 

  僕らは幷州全土とはいかないが太原やその周辺地区の見回り、治安維持を目的とした任に就いた。

  しかも、たった一か月ほどの調練を行って直後にである。

 

 「それにしても、一か月ぐらいでよく部隊が纏ったものになったと思うよ。ほんと」

 「そーですね。香風先輩や元直先輩の訓練の賜物ですよ」

 「うん、頑張った」

 「結構急ごしらえだったけどね」

 

 そんな各々が語る一か月の調練は実際は地獄の特訓ともいえるものだった。

 もちろん、部隊の人全て例外なく行われた。

 通常の兵士の訓練に加え、昼夜通しての実戦を想定した訓練。

 模擬戦ではこちらの少数部隊に対し、相手はその倍以上の兵で行うことが当たり前だった。

 また部隊内でも実戦的な訓練として僕や香風と一対多数の模擬戦も行っていた。

 特に香風との模擬戦は凄まじかった。

 人が飛ばされることが日常茶飯事。

 当初は部隊のほとんどの人が一撃で飛ばされた。

 僕も含め部隊内で香風に飛ばされてない人はいないだろう。

 毎日飛ばされて耐性が付いたのか、2週目には誰もが一撃で飛ばなくなった。

 まぁ、1,2回耐えるのが限界だったが。

 それに加えて僕は元直さんに部隊を纏めるために指揮や戦闘陣形に関してを学んだ。

 これに関しては詠さんや景明さんたちも力を貸してくれた。

 そのおかげで何とか指揮官として体裁は保てるぐらいにはなっただろうか。

 他にもこの一か月の間数々の出来事があったけどその話は後々に。

 

 このひと月を思い出しつつも、僕たちは詠さんからの連絡で僕たちはここ最近、被害を出しているという賊の偵察あるいは討伐を含めた任務で太原から離れて被害が出ているという周辺の村に向かっていたのだった。

 

 

 

 

 

「酷い」

 賊の被害周辺にある村の一つに到着した僕が発した第一声。

 眼前には惨憺たる村の姿。

 すでに賊に襲われた後で、至る所に襲撃の跡が残されている。

 もっとも目につくのは赤く染まる液体。

 道や壁といった場所に飛び散っている。

 未だに乾いていない血液は賊の襲撃からさほど時間が経っていないのだろう。

 鼻につく生臭い鉄のにおいも漂っている。

 また、血だまりの中には戦闘で死んだのだろうか、賊の姿も見える。

 この惨状から賊との凄まじい攻防が見て取れた。

 

 村の中心部に向かうと村人たちが集まっていた。

 五体満足な人を見つけるのが難しいほどの負傷者の人数。

 中には賊の襲撃で命を落とした人の亡骸に縋り付く人もいた。

 僕たちの存在に騒然としていた中、一人の村人が声を上げた。

「官軍が今更何しに来やがった!」

 怒号。

 その言葉に続いてあちこちから僕らへと非難する声。

 敵意の視線も向けられている。

 確かに、村が賊に襲われた後に来たところで意味はない。

 僕が香風と共に訪れていた村は運が良かっただけだ。

 実際に賊に襲われればひとたまりもないのだ。

 そのことに僕はどうしようもなく無力感に苛まれた。

 

 村人たちの非難する勢いは止まる気配はなかったが─

「よさないか。」

 屈強な男性が村人をに対し一喝する。

 村人もその一声でおとなしくなる。

 どうやら村長であるようだ。

 村長を務める男性は僕たちに謝罪をした後、襲撃してきた際のことを話してくれた。

 

 襲撃した賊の人数はゆうに百人は超えて数百人規模とのこと。

 襲撃にすぐさま気づき、村人も応戦しようとしていた。

 しかし、思っていた以上に賊の数が多く、防戦一方だった。

 そんな中で賊と戦っていた旅人の女性がいたらしい。

 彼女がいなければ村が全滅していたところだと言わしめるほどの強さだったという。

「その旅人の女性はどこに?」

「それが、襲撃の際に連れ去られた村の女たちを助けるために一人で賊の根城があるという山中へ行ってしまわれて」

 

 そう話す村長の見る方向には山が見える。

 賊は村からも見える山中に砦を築いたという噂があり、この村を含め賊の根城とされる山の周辺の村々では賊の被害があったという。 

 実際に今回の賊の襲撃はその山の方向から来たのだからその噂の信憑性は高い。

 

 まずは一刻も早く賊に捕まった人たちを助けなければいけない。

 村に支援のため何人か残し、僕たちは賊がいるであろう山まで移動を開始した。

 

 

 

 

 

 ──油断した。

「まさか、賊相手に捉えられてしまうとはな」

 賊の根城にしているであろう洞窟。

 薄暗く、カビ臭いにおいが漂っている洞窟内。

 その奥に捕らえた者たちを入れておくであろう牢。

 いくつか存在する牢の一つに女性が囚われていた。

 多くの者からは見れば扇情的な服装を身に纏い、整えられた青髪。

 両手両足には鎖が繋がれていた。

 それは彼女が賊に囚われてしまっていたことを示していた。

 彼女が村を訪れていたのは全くの偶然だった。

 仕えるべき主君を探し日々旅を続いていた彼女はたまたま村に立ち寄った。

 ちょうど村が賊に襲われる前である。

 悪事を働く狼藉は見てはいられなかった女性は、賊と戦った。

 神速の如き槍捌きで賊を屠る。

 だが賊の数が多かったこともあり、彼女が戦っている間に村の女性たちが捕まってしまった。

 賊達が撤退していくと自身は負傷も疲労もないことから村人の静止も聞かずに賊の根城にしているという山へとむかっていった。

 山に到着した彼女はすぐさま辺りを捜索したところ、賊の砦を発見し、交戦することとなった。

 次から次へと賊を屠っていたが、賊は彼女に対し人質を取った。

 村から捕まえてきた女性たちである。

 彼女が動くべきかと考えている内に賊は一人の女性に向けていた剣を突き刺した。

 胸から生える剣は確実に人質の女性の命を奪っていた。

 残された人質たちを救うには降伏するしか手は残されていなかった。

 その際に得物である龍牙は奪われてしまい、今に至る。

「ふっ、我ながら不甲斐無いものだ。人質を助け出そうとして殺されてしまうとは」

 賊と戦い、囚われた村の女性たちを助けようとここまで来れたのは彼女の強い正義感からであった。

 彼女にはそれを成し遂げられると言えるほどの実力と自信があった。

 しかし実際は人質を取られ、如何こうしている内に人質の女性を殺されてしまった。

 助けられなかったことに皮肉そうに振る舞うが内心では後悔が渦巻いていた。

 また、彼女がいる牢以外にも幾人かの女性の姿がある。

 時折、男どもがやってきて牢の中から女を連れていく。

 牢の向こう側では賊たちの笑い声や女性の喘ぎ声が聞こえてくる。

 何をされているのかは想像できる。

 彼女も女だ。

 いつ自分にもその毒牙が向かってくるのかわからない。

「さて、どうしたものやら」

 だが、彼女はそれでも自分の心配よりも囚われている人たちをどう助けるべきか、この状況を打開するかを考えていた。

 

 

 

 

 

「山中に洞窟を囲うように砦ができています。また山のあちこちに見張りと思われるものが複数確認できたことからおそらく賊の根城がここで間違いないかと」

 

 夜になり、山のふもとに到着した僕たちは先に斥候を得意とする十数名を向かわせたところ賊の根城は目の前の山を一つ越えた山中にあることは確かだった。

 ただ賊を追いかけた女性の姿がこの周辺に見られなかったことから賊に囚われた可能性は高い。

 

「さて、どうするか?」

「ここは、援軍を待っておくのが安全策だけど」

 

 元直さんの言う通り援軍を待つことも手かもしれない。

 すでに援軍は要請済みではある。

 賊の人数は数百人規模らしいが僕たちと同数、或は上回る可能性は捨てきれない。

 同数以上で攻めるかもしれないことや地の利が賊にあること等踏まえても危険度は高い。一方でこちらも斥候の情報からある程度の地形や賊の陣地周辺のことは得ている。

 しかし先に捕われた村の女性の安否もあることから一刻も早くの救出が望ましい。

 なら僕が判断することは

 

「救出を最優先として賊の砦に襲撃を仕掛ける」

 

 救出作戦の概要は次の3つ。

 

 1. 敵の陽動。

 2. 少数部隊による賊の根城への突入、および囚われた人たちの救出。

 3. 陽動部隊を対処するため動いた賊へ別働部隊からの奇襲攻撃。

 

 あくまでも救出が主な作戦である。

 奇襲部隊は陽動部隊を無事に助け出すためだけの部隊である。

 賊を殲滅できればそれでよし。できないなら救出部隊を悟らせないように場を混乱すればいい。

 僕の指示に異論は出なかった。

 香風や元直さん、泉花と視線を向けるが誰もが闘志に満ちていた。

 

 

 

 

 

 日も出始めた早朝。

 賊の見張り番たちは早朝ということもあって睡魔も感じながらも周囲の見張りを適当に交代して行っていた。

 だが急に見張っていた賊の一人が倒れる。

「おいおい、どうしたんだよ」

 賊の一人が近づくと倒れている男の額には矢が刺さり、絶命していた。

「なっ、お前ら、こっ─」

 他の仲間を呼ぼうとした男の言葉は途中で途切れた。

 なぜならば、その直後に近づいた兵士によって、首を斬られたからだ。

 

 

 

 

 

「徐庶様、ここの見張りの排除は完了しました」

「うん、なら他の見張り番も潰しに掛かろう。これが終われば第二段階だ」

「了解しました」

 

 見張り番をしていた賊たちを排除した後、その場にいるのは徐庶を含めた兵士数名。

 徐庶は複数の兵士に次の命令を下し、自らも賊の見張り番を潰すため移動する。

 賊の見張り番は早朝のわずかの間に潰されたのだった。

 

 

 

 

 

「官軍だぁ。官軍がこちらに向かってくるぞぉ」

 突然の声に砦の中にいた賊たちが飛び上がる。

「おい、何だと。どっから来てる?」

 賊の中でもまとめ役を務める男がやってくる。

「む、向こうからです」

 伝えに来た者は指でさす。

「た、助けてくれ~」

 さらにその方向から怪我を負った者たちが走ってくる。

「や、奴ら数は少ないが見張りについてる奴らだけじゃ数が足りん、あいつらを潰さないとここの居場所がばれてしまうぞ」

「そいつぁはマズイな。早く寝ている奴ら起こしてこい。官軍を潰すぞ」

「幸い、数も少ないようだ」

 応、と賊たちは動きだした。

 

 

 

 

 

「じゃあ、第二段階に入ろうか」

 僕は賊の動きから次の段階に移行するべきだと判断した。

 ちなみに先ほどの報せに来た賊は僕らの部隊の兵士である。

 わざわざ賊に知らせたのは拠点に立て篭もられると救出作戦が成り立たないからだ。

 賊たちが陽動部隊の方へと向かうのを確認すると、僕は賊とは別の方向か泉花を含めた少数の人数で侵入を試みる。

 賊の砦の入り口は先ほどの騒ぎで開いて誰も見張るものはいない。

 思っていた以上に進入は容易だった。

 砦の入り口にはいくつか小屋があった。

 確認すると賊たちの宿舎のようなもので人質はいなかった。

 なら洞窟の中か。

 洞窟に進むと意外にも洞窟内は広かった。

 奥には道がいくつかに分かれていた。

 僕と泉花の二手に別れて行動する。

 明かりとして火が所々にあるだけで薄暗い。

 入り組んだ道は迷路のようだった。

 未だにこの洞窟内には賊がいるらしく、声がしばしば聞こえる。

 鉢合わせしないように細心の注意を払う。

 しかし、奥に進むにつれて賊に遭遇してしまった。

 

「なんだぁ、おめ──」

 

 二人の内の一人が声を上げようとしたときには僕は即座に動いていた。

 懐に入り、一刀のもとに首を断ち切る。

 斬られた男は何が起きたかも理解できずその首は地に落ちる。

「ひぃぃ」

 隣にいた男の首と胴体が離れたことに恐怖しその場に尻込む。

「捕まえた人たちはどこにいる」

 僕は剣を男の首に近づける。

 自分でもわかるくらいドスの利いた声で話した。

「わ、わかった。教えるから、頼む殺さないでくれ」

「早く教えろ」

 男を脅して牢のある部屋に向かう。

 

 

 

 案内された部屋は確かに牢であった。

 他の部屋よりも少し広いようだ。

 僕の近くには脅して案内させた男とここにいた看守たちが死んでいる。

 僕も随分と無慈悲になってしまった気がする。

 今でも人を殺すとき、嫌悪感が出てしまうが、それでも少しづつその感じが薄れてきており、いつか自分が冷酷な殺人鬼になるのかと考えてしまう。

 ──と、いけないな。こんな時に。

 すぐに思考をこの場に戻す。

 見渡せば牢の中には捕らえられた村の人たちがいた。

 力なく倒れている女性もいる。

 何があったかは容易に想像できた。

「大丈夫ですか、今助けます」

 他の兵たちと共に牢の鍵を開け、囚われていた人たちを救出する。

 助け出された人たちは安堵の表情を浮かべる。

 順に助け出していくと奥の牢に一人だけ閉じ込められているのが見えた。

 他の人と明らかに違うのは手足に鎖が繋がれていることだろう。

 

「待っててください。今、助けます」

 牢の鍵を開け、中へ入り鎖を外す。

 

「すまないな」

 女性は僕に申し訳なく話す。

「いえ、もしかして賊に襲われてた村を助けてくれた方ですか?」

「ああ、そうだが。このざまでな」

 皮肉そうに乾いた笑みを浮かべる。

「そんなことないですよ。少なくともあなたのおかげで村は助かったんですから」

 そう言って彼女を立ち上がらせる。

 近くで見ると整った薄い青髪に扇情的な服装をしていた彼女は思わず見惚れてしまうほどきれいな人だった。

「そうか、それにしても…私に見惚れたか?」

 図星であるが、誤魔化そうか。

「冗談もいえるには元気みたいですね。早くここから出ましょう」

「そうだな。しかし、私の得物が奪われてしまってな」

「もしかして、ここの入り口に置いてある槍ですか」

「む、おお。確かに私の槍だ」

 槍の元へ彼女は向かう。

 槍を手にして若干嬉しそうだ。

「そういえば、名乗ってはいなかったな。私は性を趙、名を雲、字を子龍という」

 彼女が名乗った名はまたしても驚くべき名であった。

 あの趙雲。

 またしても女性ではあったが。

 槍を持つその姿は確かに武人であると感じられる。

 

「僕は董卓軍所属の月守悠です。異国の生まれで字はないです。いまは部隊の長を務めています」

 互いに名乗ると直後に部下の兵がこちらにやってくる。

「月守様こちらに賊が近づいています」

 さすがに砦の中に浸入した僕らに気づいたのか賊も動き出したようだ。

「とりあえず、この場を切り抜けましょうか」

「そのようですな。私も力を貸しましょう」

 お互いにこの場を切り抜けることにして救出された人と共に脱出をする。

 

「捕らえていた奴らが逃げ出したぞ」

「捕らえろ」

「助けた奴は殺せ」

 

 賊もこちらの道を塞ぐように現れてくる。しかし─

 僕の剣による一撃。

 趙雲さんの槍による一撃。

 僕らの進撃に賊は一人、また一人と屠られていく。

 賊は抵抗もする暇がない。

 いや、与えさせないが。

 ふと、趙雲さんの槍捌きを見る。

 思わずきれいだと言えるほどの動作で槍を操る。

 まるで無駄がない。

 洗練された動作。

 

「ふむ、月守殿もやりますな」

「いえ、そちらほどでもありませんよ」

 

 軽く話す余裕を見せるほどには僕らは落ち着いていた。

 出口まであと少しのところで後ろの方からこちらに急いで近づく足音。

 

 追手の賊かと思い、音のする方向へ移動する。

 

「あー先輩。僕です。僕」

 と泉花が現れる。 

「ようやく、追いつきましたよ。いやー賊にも見つかって大変だったですよー」

 軽い口調で話す泉花。

  はぁ、賊にばれてこの態度。

  あとで罰を与えるかと考えつつも、僕たちは無事に賊の砦から脱出できたのだった。

 

 

 

 

 

 

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