私用が重なってしまったので。
次回から黄巾の乱編になる予定です。
無事に賊の砦から抜け出した僕たちは陽動部隊に誘われた賊が戻ってくることを想定し、周囲を警戒しつつも、香風たちの本体と合流した。
「えっ、賊討伐したの?」
「うん、元直と一緒に挟み撃ちで」
「思った以上に賊が引っかかってくれたからね。それに僕たちの部隊と同数規模であっても烏合の衆じゃあ相手にならなかったよ」
そう自信満々に話す元直さん。
助け出した村人たちをこのまま安全に村まで送り届けることを考えると賊を討伐できたのは僥倖とみるべきか。
見たところ部隊の損害も軽微のようだし。
「いや~、よかったじゃないですかー。村人も助けて、賊も討伐できたことだし」
泉花がそう話してきた。
そんな彼女に僕は近づき、ガツン。
彼女の頭に拳を落とす。
「いったぁー。なにするんですか先輩」
「はぁ、自分の胸に訊いてみなよ」
「えぇっと…」
考え込む泉花。
少しの間の後、思い当たる節が見つかったのか恐る恐る口を開く。
「ぞ、賊に浸入ばれたことですよね」
「一緒に行動していた兵に聞いたぞ。賊に見つかった時にすぐに対処したのはいいけど、そこで大きな音たてて他の賊にばれるなんて。少しは反省する姿勢を見せなさい」
「は、はい。すいませんでした」
彼女はシュンと身を縮ませ頭を下げる。
「悠、お母さんみたい」
そんな光景を見た香風が口にした。
…母親って。
そんなやり取りの中で
「そういえば、そちらの御仁は?」
元直さんが聞いてくる。
「えっと、こちらは襲われていた村を助けていただいた方で…」
「うむ、趙雲、字は子龍という。しかしながら、先ほどまで賊に囚われていてな。月守殿に助けていただいたのだ」
趙雲さんは元直さんたちに話す。
「そうか、村での活躍から優れた武をお持ちとお見受けするが」
「いや、私は弱い。賊に捕まってしまい、その際に助け出そうとした村の者を殺されてしまった。そんな私が武を誇ることはできんよ」
手にしている槍を強くに握りしめながら、趙雲さんは悔しそうに呟く。
確かに助けられなかったことは事実であり、下手な慰めの言葉は逆に彼女を傷つけてしまうだろう。だが彼女の活躍もあって村が助かったのも事実。
「確かに趙雲さんが言っていることはわかります。でもあなたの助けがあったから村が助かったのです。そこは誇れることです。それでも、どんな武があろうとも一人では限界があります。だからこそ、僕たちの所に来ませんか、趙雲さん」
そんな僕の言葉に彼女は少し面を喰らった顔しながらも答える。
「ふっ、個人の限界か。月守殿は痛いところを突いて、勧誘してきますな」
「もちろん、助け出した村人たちを村まで送り届けてから少しの間はその村に駐留するので、その間に考えてもらえればいいです」
その後、村に帰還し村人を送り届け、復興の支援をするまで順調に進んだ。
助け出された村人は家族との再会に喜び、感謝の声も絶えなかった。
しかし、失われた命もある。
僕たちが助けられなかった人たち。
ただ、悔しかった。
その後僕たちは死者を弔い、戦場となった場所を立て直したりと部隊総出で取り組みにあたった。
趙雲さんは助けられなかった村人の家族の元へ赴き、謝罪をしていた。
その家族の心境はつらいものだろう。
村を助け、多くの命を救ったが、自分たちの家族の命を奪う原因を作ってしまったのだから。
趙雲さんはひたすら謝り続けていた。
念のために呼んだ援軍が村にたどり着いたのは僕たちが村に駐留して3日目の朝であった。
それでも、強行軍でこちらに向かってきたので、申し訳なかった。
村もある程度復興してきたので、僕たちは村を後にすることとなった。
援軍としてきた部隊は一部が賊の砦に向かい、周辺の調査や警戒などを行わせるように残しておいた。
「趙雲さんは、どうする」
帰還する準備を終え、出発する前に僕は尋ねる。
「共に行きますぞ、月守殿。ただし私は貴方についていくのですからな。他の者の所には勘弁いただきたい」
彼女ははっきりとした物言いで話す。
「わかったよ。じゃあ行こうか」
「その前に改めて、性は趙、名は雲、字は子龍、真名は星と申します。宜しくお願いしますぞ」
こうして、趙雲─星が僕らの元に加わった。
一旦、太原の城に戻った僕たち。
報告のために詠さんの元に訪れていた。
「出て行って早々に賊討伐ご苦労様。こちらとしても助かったわ」
そう話す詠さん。
ここには僕と香風、元直さんに星さんがいる。
「で、そっちが…」
「趙子龍と申します。そちらの月守殿に勧誘されまして」
「実力はどうなの、月守」
「申し分ないではないかと」
「なんでしたら月守殿と一戦交えましょうか」
そんなことを言ってくる星さん。
またこのパターンか。
戦闘好きが多いな。まったく。
「確認しておきたいけど、こっちも案件が溜まってて」
「詠、ならば私が見ておこう」
李需─景明さんがそう話す。
って、どこにいたのこの人。
気配感じなかったけど。
「最初からこの部屋にいましたよ、月守殿。ちなみに気配が薄いのは生まれつきでして」
なんか考えてたの読まれてるよ。
「そうね、任せたわ景明」
そう言って、詠さんは部屋を後にした。
「うむ、今日も詠のメガネ姿はよく似合っている」
景明さんが唐突に話す。
この人、詠さんや特定の人の前以外だと変態的な発言をする。
紹介されてから数日は真面目な人だと思っていたけど、突如、変な言葉を口に出した時は驚いたものだ。
特にメガネに対しては凄まじく、幼なじみであるらしい詠さんには並々ならぬ思いがあるらしく、その時の彼のテンションは凄まじく引いてしまうほどだった。
そんな話は置いておくとして、僕たちは中庭で一戦を行うことになった。
「では、両者準備はいいか」
「大丈夫です」
「こちらもだ」
お互いの準備はできた。
星さんの実力は救出した時にも見たように無駄のない動作で的確に相手を撃つ槍捌きだ。
あの時が本気とは考えられない。
ましてや僕の知る趙雲は三国志の中でもトップクラスの武を持つ一人。
油断はもちろんできない。
自然と剣を持つ手に力が籠る。
星さんも槍を向け臨戦態勢に入っている。
「それでは、始め」
景明さんの合図とともに僕たちはお互い間合いを詰める。
武器のリーチを考えると星さんの方が有利に思える。
確かに初手は槍による突きから始まった。
目の前まで出された槍を剣で弾く。
重い。
それでいて突き出された槍は鋭くこちらを突こうとしていた。
初手は剣で弾いたものの、そのまま彼女は回転し、遠心力をつけ槍を横に払ってくる。
すかさず、剣で受け止めるが、少し体制を崩す。
そこを狙ったように槍の矛先はこちらに迫る。
体を捻り回避する。
しかし、彼女の猛攻は止まらない。
槍の軌道は縦横無尽にこちらを標的にしたまま離れない。
突く。薙ぐ。切り上げる。
やはり彼女の槍捌きには無駄ない。
以前戦った泉花の槍捌きの上を行く、完成された槍捌き。
だがそう考えている間にも彼女の槍は僕を狙い続ける。
剣で、手甲で彼女の槍を弾く。
だけどこちらもやられっぱなしじゃいけないな。
如何にかして彼女の懐まで近づきたい。
そして彼女の薙ぎの一撃。
これを剣で上へ弾く。
若干ではあるが彼女の体勢がよろける。
今だ。
僕は瞬時に跳躍。
彼女の懐へと飛び込み、剣を叩きつける。
「ふっ!」
彼女は体を後ろにずらし、避ける。
まだまだ。
そこから剣による突き。
槍の柄の部分で弾かれる。
彼女はそのまま柄を短く持ち、こちらを切り裂こうとする。
横に跳躍。
逃れたかに思えたが柄の持ち手を変えて、石突きの部分に回転させて下から突き上げてきた。
「──痛っ」
脇腹に衝撃。
まともに入ったかな。
でも、まだだ。
一瞬であった。
腕と脇で槍を押さえつける。
「なっ!」
これにはさすがに星さんも驚く。
肉を斬らせて骨を絶つ。
この機を逃さず、剣による一撃を入れようとする。
「──そこまで!」
ここで景明さんが止めに入った。
剣の切っ先は星さんの胴の寸前で止まっていた。
「ふぅ。星さん、さすがですね」
「月守殿もなかなかのものですな」
「まだまだ、星さんほどではないですよ」
お互いに先ほどの戦いについて語る。
しかし、わかってはいたことだけど彼女は強い。
まだまだ未熟だな。
強くならないと。
そんなことを考えてしまうのはこの世界が三国志の世界であり、三国志で描かれていた乱世が来るのではないかと不安であったからだ。
その不安は的中してしまう。
僕の知らないところで、すでに始まろうとしていた。
──乱世が始まろうとしていた。
その切っ掛けは些細な一言であっても。
「わたしたち、この大陸がほしい~」
「みんなぁ~協力して~」
「ちょと姉さんたちってば」
歯車は動き出した。
止めることは誰にもできない。
些細な一言により多くの者たちが動き出す。
──強者に搾取される者たちが。
「蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。
我らに大義あり。今こそ立ち上がろう、同志たちよ」
「そうだ、国の奴らは俺たちを死ぬまで使いつぶそうとしている」
「今こそ、立ち上がらなければ、自分の、家族のために」
「漢王朝を潰す」
──各地で英傑、猛将が乱世の始まりを感じていた。
──それは江東の虎が住まう地で。
「なーんか、大きな戦が起こりそうな気がするわ」
「また勘か─」
「おー雪蓮、大きな戦があっても私たち3人いれば最強っしょ」
「あー戦か、早く戦いたいねぇ、血がウズウズするってもんだ」
「また炎蓮殿が騒いでおるな。ん、粋怜よこっちの酒がなくなったぞ、代わりをくれ」
「まぁ~いつもの大殿の事よ、祭。あっ。こっちもお酒切れちゃったわ。お変わり持ってこなきゃ」
「はぁ。我が君にも困ったものじゃが、こやつらもこやつらじゃ」
──後の覇王と配下も。
「──あら」
「どうかなさいましたか。華琳様」
「いえ、秋蘭。これから大変になりそうと思ってね」
「ん~嫌な感じがするっす、こんな時は寝るに限るっす」
「あらあら、華侖姉さんったら、あんな高い木の上で寝て…心配だわ…」
「ふーん、始まるね。大きな戦いが…」
「ちょっと、
「はいはい、わかりましたよー。桂花、僕の方が年上なんだから、ちょっと言い方ってものがあるでしょ」
「そんなのあんたには必要ないわよ‼」
──漢の都から離れた土地で。
「いやな風だ。これは戦の風だ。嵐になるよこれは。─翠」
「うわ、母様なんだよ突然に」
──国の魔窟に住まう者たちも暗躍し。
「この国はもう崩壊寸前だ。ならば我々十常侍が動かさねばな」
「幸い、生贄は多くある」
「趙仲はどうする」
「奴はほっておけ、役に立たんだろうて」
「─ん、どこかで私の悪口言われてる。はぁはぁ、ゾクゾクしますね」
「
「白湯は見ちゃだめだよ」
「え~どうして~?」
──自ら戦いを望む者は狂喜した。
「戦争だぁ。この感じはでっけえ戦争だぁ。さぁ俺を楽しませてくれよなぁ」
「戦か、ふむ、楽しみだなぁ。あぁぁ、待ち遠しいな。早く来ないな」
「おもしろい事になりそうねぇ。退屈しのぎにはなるかしら」
──後の英雄となる者は。
「─ん、あれ?」
「どうかしましたか?桃香様」
「ううん。何でもないよ、愛紗ちゃん。気のせいみたい」
「にゃはは、変なお姉ちゃん」
漢という大陸全土が戦火に包まれようとしている。
英雄も権力者も愚者も民も関係なく巻き込まれるだろう。
己が持つ理想。欲望。思惑。
様々な思いが入り乱れ戦火の中で燃え上がるだろう。
その中で多くの者たちが倒れようとも。
悲劇が起きようとも。
力ある者は突き進む。
己が持つ思いを胸に。
その果てに何が待っていようとも。
───乱世が始まる。