可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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9.私と友達に、なる……?

「嘘だろ……元ジュニアハイチャンピオンのホムラが敗れた……?」

「あの状況から勝てるの……? あんな窮地から一気に勝利まで持っていくなんて、いったいどんな経験を積めば、あんな腕が……」

「あの子、ライフが0になってからの手に一切迷いがなかった……あの状況下で、自分に勝機があるって確信してたの? いったいどこまで先を見てデュエルを……」

「白い、死神……」

「――勝者、無空メイさん~!」

 

 壮絶なデュエルの結末に、誰もが言葉を失っていた。

 そんな静けさとざわめきが支配するデュエルスペースに、デュエルを監督していた先生の普段と変わらないおっとりとした声が響き渡る。

 デュエルに勝利したメイちゃんは、なんの感動もなさそうにいつも通りの無表情で佇んでいる。

 一方、デュエルに敗北した私こと燃照ホムラは、項垂れるようにしてその場に蹲っていた。

 

 ……どうすれば、私はメイちゃんに勝つことができたんだろう。

 たらればに意味はない。わかってはいるけれど、どうしても考えてしまう。

 

 やはり中盤の初め……グレイブに『フルアクセル』を付与した時に、自分から罠を踏みに行ってしまったのが良くなかったのだろうか。

 無属性のカードなんて1枚も見たことがなかった私には、メイちゃんが使うカードのすべてが初見だった。

 石橋を叩くように慎重に攻め入った方が良かった可能性は捨て切れない。

 

 でも……そんなのはしょせん可能性だ。あそこで突っ込んだ結果負けてしまったからこその結果論に過ぎない。

 第一、今の私のデッキは中速(ミッドレンジ)戦術を中心に構築している。あまり持久戦が得意なデッキじゃない。それにあの時のメイちゃんは、私のデッキの速度になんとかして追いつこうと明らかに後手に回っていた。

 あの時の私の立場でなら、積極的に攻め入る戦略も決して悪くないはずだった。

 『虚の妖精ホルルン』を出されてしまったせいで相当早い段階で『虚構定理』の数を5まで稼がれることになってしまったが……あの場面で強引にでもライフカウンターを削っておいたからこそ、私はその後の連続ストライクでメイちゃんのライフを0にし、彼女を崖っぷちまで追い込むことができた。

 

 なら……『消えぬ残り火』をリバイヴ・Hに使ってしまったのが悪かったのだろうか。

 あの場面。デュエルの後半になるにつれてステータスを増していくホロエルの効果を加味すれば、消滅ではなく戦闘で対応される可能性はじゅうぶんに高かった。

 わざわざ『消えぬ残り火』で耐性を付与せずとも戦闘で破壊してくれるなら、私が『消えぬ残り火』を使う意義は薄い。

 さらには手札を2枚まで取っておくことで見えない圧をかけ、メイちゃんが必殺の形を作りに行く動きを抑制できたかもしれない。

 そしてあのターン、私は『竜の巫女アクアエ』をエナジーにチャージしたけれど……あそこで『消えぬ残り火』をチャージするカードに選んでいたなら、私はその後もアクアエからドラゴンを持ってきて戦うことができただろう。

 

 ……だけど、結局はこれも結果論だ。

 たとえ『消えぬ残り火』を使わなかったとしても、そうして引き延ばした先にあるのは結局のところメイちゃんの土俵である後半戦だ。果たしてその選択が正しいと、私は自信を持って言えるだろうか?

 展開が変われば使うカードだって変わる。たとえ私がグレイブでライフカウンターを攻撃していなかったとしても、メイちゃんが「この場面では必要ない」と判断してエナジーにチャージしたカードの中に、私の盤面をどうにかできるカードがあったとしたら?

 

 たらればに意味はない。

 私は負けた。結局のところ、それがすべてだ。

 そんなことはわかってる。頭ではわかってるけど……。

 

「――ああぁっ! 悔しいぃっ!」

 

 天を仰ぎ、大声で叫ぶ。メイちゃんが少し目を丸くしていた。

 先生にも、観客であるクラスメイトの皆にも見られてしまっている。

 子どもが癇癪を起こしているみたいで、みっともないとはわかってたけど……湧き上がる気持ちを抑えることはできなかった。

 

 全力を出して負けることがどうしようもなく悔しいことを、今やっと思い出したんだ。

 センカからメイちゃんの話を聞いてから、ずっと待ち望んでいたこのデュエルを、私は……やっぱり勝ちたかった!

 センカが私より強いと評したメイちゃんを、私の全力で越えたかったっ!!

 

 そうだ。そうだよ。

 負けたいだなんて嘘だ。自分が負けるだなんて、本当は死んでも嫌だ!

 本気で手を伸ばして届かなかった悔しさの実感を忘れて……なにが完膚なきまでの敗北を求めていた、だ。退屈な自分を殺してほしかっただ! 自惚れるなよ、私!

 退屈してる暇があったら、自惚れている暇があったなら、今日のような自分よりも強いデュエリストとの邂逅に備え、もっと熱心にデュエルを学んで、ほんのわずかにでも今より腕を磨いておくべきだった。

 そうすればこのデュエルでも、私はもっとメイちゃんに食らいつけたはずなのに!

 勝てたかも、しれないのに……!

 

「……はぁー……」

 

 大きく息を吸って、吐き出し、自分の気持ちに整理をつける。

 

 ……メイちゃんとのデュエルを通じて、やっと理解できた。

 私が退屈だった原因は、対戦相手なんかじゃない。

 退屈なのは……対峙すべきだったのは、退屈だと感じた私自身の心の方だった。

 デュエルのことを好きだと言いながら、負けたいだなんて思い上がった。

 勝ち続けて、自分が他の人よりも強いのだと驕った。

 そのくだらない自尊心こそが、私が本当に戦わなきゃいけない相手だったんだ。

 

 こんなんじゃ敗北して当然だ。

 だって、デュエルが心と心のぶつかり合いだと知っていながら、私は自分の心を磨き続けることを怠ったんだから。

 こんな傲慢と怠惰に満ちた心で、どんな相手とのデュエルでも命懸けの本気で戦ってきただろうメイちゃんに、敵うはずがなかった……。

 

 弱くて未熟。惰弱な自分を、受け入れる。

 どんなに情けなくても受け入れて……私は生まれ変わらなきゃいけない。

 今までの自分の全部を壊して、もう一度、1からやり直すんだ。

 もう負けないために。次こそは勝つために。

 再燃するんだ――あの日のように。

 いつの日か、メイちゃんにリベンジして勝つその時まで……私はもう、他の誰にも……自分にだって負けたくない!

 

「……よし!」

 

 反省終了! うじうじするのは、もうやめだ。

 デュエルの反省なら後からでもできる。

 今夜にでもこのデュエルの記録を見返して、自分になにが足りなかったのかを考えよう。

 

 でも、今は……。

 私は立ち上がると、デュエルスペースの対面にいるメイちゃんに向き直った。

 そうしてジッと私を見つめている彼女に向けて、足を一歩踏み出すのだった。

 

 

 


 

 

 

「勝者、無空メイさん~!」

 

 

 どよめきの中、デュエルを監督していた担任の先生のおっとりとした声がデュエルスペースに響き渡る。

 

 ……ホムラに勝った。いつも通り、私とホロエルの勝利だ。

 だけど正直、今回のデュエルは結構ギリギリだった。

 ホムラのデュエルのレベルや使うカードの傾向はもうわかったから、再戦したところでそうそう負けることはないだろうけど……。

 もしも彼女レベルのデュエリストがあらかじめ私が使うカード群を把握し、その上で、私のデッキの弱点となるカードを多くデッキに入れて対策を練ってきていたら……どうなっていたかわからない。

 

 じゅうぶんに強くなったと思っていたけれど、もっと実力をつける必要があるみたいだ。

 まだ足りない。わずかとは言えど、今回のデュエルは敗北する危険があった。

 負けることは死ぬことと同義だ。銃弾が頭に直撃すれば次はないのと同じように、私は勝ち続けなきゃいけない運命にある。

 今回のようなただのお遊びなら、負けてもいい――そんな心持ちでデュエルに臨んでいたら、いつか本当に負けてはいけないデュエルで、後悔してもしきれないほどの致命的なミスを犯すだろう。

 そうしてホロエルを失ってしまったなら……私は死んでも死に切れない。

 

「――ああぁっ! 悔しいぃっ!」

 

 私がそう思考に耽っていると、ホムラが突如として大声を上げた。

 目を丸くしてホムラを見ると、彼女は歯を食いしばりながら天を見上げていた。

 

 ……あの顔には覚えがある。あれは、自分の弱さを痛感している者の目だ。

 私もかつては弱かった。結果的には負けなかったものの、まだ幼かった頃は何度も今日のような窮地に追い込まれ、そのたびにドローしたホロエルに助けてもらった。

 もしも私が一人ぼっちだったなら、どこかでとっくに敗北していただろう。

 私がここまで生き残ってこられたのは、私一人だけの力じゃない。ホロエルがそばにいてくれたからだ。

 

 ……ホロエルは、いつだって私を守ってくれる。愛してくれる。

 両親に裏切られ、心が傷ついていた私のために……ホロエルはソウルハート・サーヴァントとしての役目さえ越えて、私にだけ姿が見える絶妙な状態を維持する練習をしてくれた。

 彼女が本当はいつも相当な無理をして、私に姿を見せ続けてくれていることを私は知っている。

 そんなホロエルを失いたくない。一緒に居たい。

 

 だからこそ、私は勝つんだ。

 誰が相手でも関係ない。なにがあろうと勝ち続ける。全身全霊を賭して。

 息絶える最期の一瞬まで、一秒でも長くホロエルと一緒に居続けるためなら、いくらでも私は強くなってみせる。

 自分以外、立ちはだかる他のあらゆるデュエリストたちを殺戮する死神にだって、なってみせる。

 

「……よし!」

 

 不意にホムラが再び声を張り上げたかと思うと、立ち上がって私に歩み寄ってきた。

 そんな彼女の姿に、私は少し驚く。

 彼女の反応が、これまで私が打ち負かしてきたデュエリストたちとは違う反応だったからだ。

 

「おめでとう、メイちゃん。悔しいけど……うん、ほんっとうに悔しいけど! この勝負は、メイちゃんの勝ち。良いデュエルだったね」

 

 そう言って差し出された手を前に、私は思わず体を硬直させる。

 デュエルをした相手と、こんな風に真正面から向かい合って言葉を交わすことなんて初めての経験だったから……どう反応すればいいか、よくわからなかったのだ。

 

 社会からドロップアウトした人たちを相手に、敢えて自身にとって不利な賭けデュエルを提案し、お金を巻き上げたことはあった。

 賞金を得るため、裏社会で名を馳せる懸賞金付きの犯罪者を容赦なく捕らえてやったこともあった。

 私の噂を聞きつけ、私が持つ無属性のカードを手に入れようと挑んできた相手を打ち負かして、二度と関わってくるなと拒絶の言葉を言い放ったこともあった。

 教団の追手を返り討ちにし、少しでも強くなるために追手が持っていた無属性のカードを回収したこともあった。

 

 今まで私がデュエルをしてきた相手は全員が全員、私にとって本当の意味での敵だった。

 勝者が敗者の行く末を決める。生きるか死ぬか。ただそれだけがある戦場。

 それこそが私にとってのデュエルであり、この国立クロワッサン学園に来るまでの私の日常だった。

 だからこそ、こんな風に握手を求められることもなければ、私自身が握手を求めたことだって一度もなくて……私はつい、戸惑ってしまった。

 

「……どうして?」

「え? なにが?」

「あそこまで無惨に負けたのに。どうしてそんな平然としていられるの?」

「け、結構酷いこと聞くんだね、メイちゃん……」

 

 表の世界に生きる人たちが、私ほどデュエルを過酷なものと捉えていないことくらい、私だって理解している。

 このデュエルだって、しょせんは授業の一環に過ぎないものだ。

 私は別にホムラに恨みなんてないし、本当の意味での敵というわけでもない。それはホムラも同じだろう。

 

 ……だけど私は、いつも通りの戦場の感覚でホムラを打ち負かした。

 彼女の最後の切り札を読み切り、完全に封じ込め。さらには逆転の一手になり得たかもしれないドローを『虚無』にすることで、勝利への可能性を完全に閉じさせた。

 最後に明け渡された空白のターンは、ターンエンドの一言が自ら敗北を宣言するも同然であり、言葉にできない敗北感と虚無感に満ちたものだっただろう。

 一縷の望みさえ完全に絶つような私のデュエルは、無慈悲とも呼べるものだ。

 

 だからこそ私に敗れたデュエリストは皆、恐怖と絶望がない交ぜになった怯えた目で私を見てくる。

 そう。それが日常だったのに……今、私を見つめる彼女の眼の中には、恐怖や絶望なんてものは微塵も見えない。

 さきほど弱さを痛感していたそれとは異なる、強い芯を感じさせる瞳が私の姿を映している。

 

「んー……デュエルに楽しさなんかいらない。デュエルは命の奪い合いだってメイちゃんは言ったよね」

 

 ホムラは差し出していた手を引っ込めると、少し真剣な顔をして答える。

 

「私はメイちゃんじゃないから、どうしてメイちゃんがそんな風に思うようになったかはわからない。けどさ、メイちゃんがカードを信頼してることはわかるんだ」

「カードを信頼?」

「そ。メイちゃんにとってデュエルが戦場なんだとしても……メイちゃんはカードを戦いの道具だなんて思ってない。メイちゃんはカードのことを、一緒に戦ってくれる大切な仲間なんだって思ってる。だからカードもメイちゃんを信頼して、応えてくれてる。それがあのデュエルを通してわかったから。そんな風に本気でデュエルと向き合ってる人を、嫌いになんてなれないよ」

 

 カードを仲間だと思っているから。信頼しているから。デュエルと本気で向き合ってるから。

 それが……あんな負け方をしても平気でいられる理由?

 

 ……私には、ホムラの言う理屈がよくわからなかった。

 

「さっきも言ったけどさ、平然としてみせてるだけで実際は今も悔しい気持ちでいっぱいだよ。でも……このデュエルの前に言ったでしょ? 良いデュエルにしようって」

「……楽しいデュエル、ってやつ?」

「そ! 私さ、メイちゃんとのこのデュエル、すっごく楽しかった! 負けはしちゃったけど……メイちゃんのおかげで自分を見つめ直す機会も得られたし、感謝してるんだよ。メイちゃんは楽しくなかった?」

「私は……デュエルを楽しいなんて思ったことはない」

「え〜? 本当かなぁ。あのホロエルってサーヴァントが場にいる時だけは、すっごく楽しそうに見えたんだけどなー」

 

 ……楽しん、でた? 私が、デュエルを……?

 

「……違う。デュエルじゃない。私はただ……ホロエルが好きなだけ」

「うん。まあ……完全にデュエルそのものが好きってわけじゃないのはなんとなく伝わってきたよ。でもさ、ホロエルをドローした瞬間は? 来てほしいって願って、ドローして……ホロエルが応えてくれた、その一瞬だけは。デュエルが楽しくなかっただなんて、口が裂けても言えないんじゃない?」

「それは……」

「あの子……メイちゃんのソウルハート・サーヴァントだよね?」

 

 核心を突く疑問に、思わず息を呑む。

 誤魔化そうとも思ったが、すでに確信を持っているだろう彼女に下手な嘘は無意味だと理解し、私は小さくため息をついた。

 

「……気づいてたんだ」

「あはは、なんとなくね。前にメイちゃんが虚空を見つめてる時は視線に入らないでって言った時、もしかしたらそこに誰かいたのかなーって。で、今日のデュエルでそれを確信した感じ」

「はぁ……思ってたよりも、勘が鋭い」

「私のリバイヴ・Hもソウルハート・サーヴァントだからっていうのもあるかな。馴染みがあれば結構気づきやすいもんだよ」

「あの焼け焦げた竜が? ……私に教えてもよかったの?」

 

 ソウルハート・サーヴァントは貴重な存在だ。

 カードそのものが意思を持ち、しかもそのほとんどは世界に一枚しかないオンリーワンだ。

 持っていると知られれば、欲に目が眩んだ輩に目をつけられ、面倒なトラブルに巻き込まれかねない。

 だからソウルハート・サーヴァントを所持していることを人に教えるのは、あまり褒められた行為ではないのだけど……。

 メリットがない行為を不思議に思う私に、ホムラは親しげに笑いながら答えた。

 

「じゃないと不公平でしょ? それに、メイちゃんと私は友達だもんね! メイちゃんなら変に周りに言いふらしたりしないでしょ? だから平気平気!」

「……友達? 私とあなたは、別に友達じゃないけど……」

「え……?」

「え……?」

 

 なぜかホムラが信じられないものを見るような目で私を見てくる。

 ……どうしてだろう。ホムラがデュエルに負けた時より、ショックを受けた顔をしている気がする……。

 

「え……え? ま、待って……え。わ、私だけ? メイちゃんのこと友達だって思ってたの、私だけだったの……? メイちゃんは私のこと、なんとも思ってなかったの!? 席が隣同士なのに、寮も同じ部屋なのにっ!」

「そんなこと言われても……友達になろうって言われたわけじゃないから」

「友達って友達になりましょうって言ってなるもんじゃないでしょ!? ……いやまあ、そうやって友達になる子もいるかもだけど! 普通は仲良くお話をして、気がついたらとっくになってるものなの!」

「別に仲良く話をした覚えもないけど……」

「そ、そんなぁっ! 毎日あんなに話しかけてるのに、もしかして全然聞いてくれてなかったの!? うぅー、ひどい! ひどすぎる! こんなのってあんまりだよぉ! うわぁーん!」

 

 デュエルに敗北しても気丈に振舞っていたのに、友達じゃないと告げた途端に人目も憚らず泣き出してしまったホムラを前に、私はどうすればいいかわからずオロオロとしてしまう。

 そしてちょうどその時、ホロエルがいつもの私にだけ見える半透明状態で姿を現してくれたので、思わず助けを求めるように彼女を見た。

 しかし私と目が合うと、ホロエルは小さく肩をすくめて、ふるふると首を横に振って拒絶の意を示す。

 その目は「マスターが自分で考えて、どうしたいか自分で決めて」と如実に告げていた。

 

 私が決める……? 私が、どうしたいか……?

 

 ――私メイちゃんのこともっと知りたいな! 仲良くなりたい!

 ――そんな風に本気でデュエルと向き合ってる人を、嫌いになんてなれないよ。

 

「じゃあ、今から……友達に、なる?」

 

 ……気がついたら、そんな言葉が口をついて出ていた。

 ホムラが動きを止めて、少し驚いたように私を見る。

 

「その……たぶん私は、普通の女の子とは違うから……きっと変なこと、いっぱいすると思う。話も、あなたとは合わないかもしれない。一緒にいても、楽しくないかもしれない。でも……もし、それでもいいなら……その……えっと……」

 

 今度は私の方から、おずおずと彼女に手を差し出した。

 

「私と友達に、なる……?」

「――――なるっ!」

 

 彼女は迷わず、満面の笑みを浮かべて私の手を取った。

 そしてその瞬間、観客席から大きな歓声が沸き上がる。

 

「二人ともすごかったぞー!」

「良いデュエルだったわ!」

「白い死神、爆誕! これはビッグニュースだわ!」

「すげぇ! 今のデュエルもっかい見直してぇ!」

 

 私は目を白黒とさせて、熱狂に満ちた観客席を見上げた。

 クラスメイトが私に向ける感情は、私が今までデュエルの後で見慣れてきた恐怖じゃなかった。

 好奇と興奮。感動と尊敬。私のデュエルをもっと見たい、知りたいと言うような、不可思議な熱。

 

「これは……?」

「あはは! 熱いデュエルを見たら、デュエリストは皆こうなっちゃうもんだよ」

「……よくわからない」

 

 デュエルに楽しさなんて求めたことがないから。

 熱いデュエルとか言われても、それがいったいどういったものを指すのか、私にはイマイチわからない。

 

 だけどそんな私にホムラは首を左右に振ると、好戦的な笑みを浮かべながら告げた。

 

「今はわからなくても大丈夫だよ。今回メイちゃんが楽しめなかったのは、私の実力不足もあると思うし」

「あなたは結構強かったけど」

「あはは! そう言ってもらえると認めてもらえたみたいで嬉しいけど……メイちゃんにとって、負けることは死ぬことと同義なんでしょ? その理屈で言うなら、私は結局のところ戦場で死んだ弱者に過ぎない」

「……」

「いつか……いつか必ず、私はメイちゃんに追いつくから。そうしたら私がデュエルの楽しさと……今度は私がメイちゃんに勝って、負けることの悔しさも一緒にわからせてあげる」

「……そう。粋がるのはいいけど、負けたばかりの今それを言うのは、ただの負け犬の遠吠え」

「あはっ! 友達になっても、そういうとこは容赦ないんだね! でもいいよ、今は負け犬でも! メイちゃんは今日から私のライバルだ! いつの日か、私は勝利の退屈に満ちたあなたを殺してみせるから。首を洗ってその日を待っててね? メイちゃん」

「本当に、よく吠える犬ね」

 

 デュエルをした後でも私を忌避しないホムラと、興奮冷めやらぬ観客席のクラスメイトたち。

 ホロエル以外、誰も味方がいなかった私には……そのどれもが新鮮で。

 クラスで浮いていた私が、いつの間にかその輪の中に入っていたみたいで、少し困惑してしまうところもあったけど……不思議と、居心地が悪いと感じることもなかった。

 そんな自分の気持ちを理解して、ふと、私は思う。

 

 もしかしてホロエルは、こうなることを知っていたんだろうか。

 ホムラなら、私が今日まで続けてきた無慈悲なデュエルも否定せず、ありのままに受け止めてくれると。

 そうしてお互いに全力でデュエルしてみせれば、こんな私でも皆に受け入れてもらえると……そう、考えていたんだろうか?

 

 ホロエルに気づかれない程度に、彼女を横目で見る。

 ホロエルはさきほどの私と同じようにホムラとクラスメイトたちを見て、どこかホッとしたように……それから、心から嬉しそうに微笑んでいた。

 

「……ホロエル」

 

 私が呼ぶと、彼女はこちらを向く。

 私が抱くホロエルへの気持ちは、強すぎて、大きすぎて、とても言葉にできるようなものじゃなかった。

 それでも、敢えて一言だけ告げるとするなら……。

 

「……ありがとう」

 

 彼女の優しさが詰まった視線が、慈しむような微笑みが、私の心を温かく包み込む。

 

 ホロエルは、いつだって私を守ってくれる。愛してくれる。

 ホロエル以外はもういらないと、諦めて捨てたはずの温もりを……もう一度、拾う機会をくれる。

 それが本当に素敵なものなんだって教えてくれる。私が知らない私を教えてくれる。

 

 昔から、ホロエルは変わらない。どんな時も私のことを第一に考えて、そのためにできる全力を尽くしてくれる。

 ……でもだからこそ時折、考えてしまうことがある。

 そんなホロエルのために、私はいったいなにをしてあげられるんだろう、って。

 

 今までの生活では、見つけられなかった。

 勝つこと以外なんの取り柄もない私では、ホロエルになにかをしてあげることなんてできなかった。

 

 でももしかしたら、ここでなら……この学園でなら、見つけられるかもしれない。

 もっと新しい自分を。私がホロエルのために、してあげられることを。

 

 ホロエルと一緒にいたい――それ以外の欲望が、私の中に芽生える。

 通う意義を見出せなかった学園で、やりたいと思えることを見つけられたような気がして、私は拳を握り締めた。

 

「じゃ、メイちゃん。次の組のデュエルがあるから、私たちは観客席に行こっか」

「……ん」

 

 新しくできた、初めての友達とやらに促されて、私は足を一歩前へと踏み出す。

 それが新しい私の、本当の意味での学園生活の始まりになるのだった。




次回は掲示板のつもりです!

デッキ紹介
・無単ホロエル軸コントロール(使用者:無空メイ)
ホムラ「メイちゃんが使うデッキだね! 無属性のカードだけで構築された、ホロエルを軸に据えた低速デッキだよ! ホロエルを複製したり蘇生させたり、とにかく毎ターンホロエルを出しながらデュエルの流れをコントロールすることを主戦略にしてるみたい! 相性が良いデッキタイプは…たぶんワンショットキル系統かな? ホロエルで守りを固められながら、余ったエナジーでワンショットキルの準備を邪魔されたら狙いに行くのは相当きついんじゃないかなぁ。メイちゃん洞察力も相当だし、狙いに行く前の隙は絶対逃してくれないと思う。逆に苦手なのは速攻デッキかな。メイちゃんのデッキは序盤の動きが遅いから、序盤から攻め入られたらシンプルにきつそう。とは言っても、今回は私がミッドレンジで1ターン中の圧を強くして攻めたから出番がなかったけど、一応小型サーヴァントを処理するカードやホロエル以外の『ガード』持ちサーヴァントも入ってるみたいだから一方的にやられるってことはないんじゃないかな。あとは守りに偏った同じタイプのコントロールデッキも割ときつそうな気がするけど…メイちゃん、なーんかまだ隠してる気がするんだよねぇ。メイちゃんのデッキじゃ守備を固めたデッキを相手にするには火力が弱い気がするし…私がクリムゾンブレイカーを持っていたように、メイちゃんも相手の防御を打ち破る手段を隠し持ってるのかも? …なんてね! あくまで私の予想だから鵜呑みにしないでね! さて、それじゃあ私はここからどうやってメイちゃんに勝つか考えていかないと…」

・火単グレイブ軸中速ドラゴン(使用者:燃照ホムラ)
メイ「ホムラのデッキ? …中速のドラゴンデッキ。ドラゴンのコストを下げるカードを多く採用して、中盤から高いステータスを持ったドラゴンを連続で並べて、自分の手札が切れる前に攻め切る攻撃的戦術が特徴。普通なら中盤の早い段階から毎ターンそんなことしてたらすぐに手札がなくなるけど、流れ弾直撃や竜の巫女アクアエのような1枚で複数のアドバンテージを稼げるカードを多く採用して弱点をカバーしてるから、思ってるよりは息が長い。デッキの中心は手札のドラゴンカードのコストを幅広く下げられるグレイブ・ドラグニル。ホムラならたぶん3積みしてると思う。グレイブ自体は盤面の処理が苦手だから、一見すると守備に偏ったデッキがきつそうな印象もあるけど、グレイブの真骨頂は他のカードのコストを下げることだから、それくらいは他に採用するカード次第でどうとでも対応できる範囲。採用するカードも種別がドラゴンならなんでもいいからデッキのカスタマイズ性も高い。普通に良いデッキだと思う。…? 私のデッキとホムラのデッキ、どっちが強いか? それは私」
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