可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
こちらは本編で行われるデュエルのルールを詳しく解説したルールブック的な番外編になります。
本編のストーリーとストーリー間の関連性は一切なく、あくまでより深くルールを理解したい方向けのルール解説です。
それでは本編を、どうぞ。
はろーはろー! 私だぞ! ホロエルです!
いやぁ、先日のホムラとのデュエルは激闘でしたね……。
さすがプロを目指す子というか……今までマスターが戦ってきたようなチンピラや、社会からドロップアウトした犯罪者、教団からの追手なんかとは格が違った。
というか、なんか思ってたよりも普通にホムラが強くて私もびっくりしてしまった。
……え? マスターと張り合えるくらいの実力がホムラにあると見抜いていたから、ホムラを選んだんじゃなかったのかって?
またまたご冗談を。私、ホムラのデュエルなんて見たことないから、これっぽっちもホムラの実力なんて知らなかったぞ!
そもそもこれまではホムラがデュエルを始めると、いつも絡んでくる彼女から離れるチャンスとばかりにマスターがそそくさとその場を離れてたからね。
私は本体であるカードのそばを離れられないから、私がホムラのデュエルをこの目で見れるチャンスなんか一度もなかった。
マスターが知らないなら私も知らない。これは自明の理です。
マスターの強さをクラスの皆に見せつけて後方腕組み天使面でドヤ顔しようと思ってたのに、まさかあそこまでホムラが強いとは、このホロエル、つゆにも思わず……。
ただまあ、ホムラが元ジュニアハイチャンピオンと呼ばれていることくらいは小耳に挟んで知っていた。
だから少しくらいはマスターに食らいついてくれるかなと、そのくらいには期待してたけどね。
私がホムラを選んだのは、彼女がクラスの誰よりもデュエルのことが好きだったからだ。
一度デュエルした今はだいぶ落ちついたが、当初は毎日のようにマスターに付き纏っていたから、ホムラの趣味嗜好や生活スタイルはだいぶ把握できている。
その中でわかったことは、彼女は普段からデュエルのことばかり考えているということだ。
センカとデュエルして、マスターにしつこいくらいデュエルをせがんで、寮の部屋ではテレビでプロデュエリストたちがしのぎを削り合う姿を観戦して……デュエルのない生活なんて彼女には想像もできないのだろうなと、そう感じるほどののめり込み具合だ。
一方、マスターは別にデュエルが好きじゃない。
いやまあ、嫌いでもないだろうけど……ただの生き残るための手段だと、そんな風にしか思っていない。
でも、それはしかたのないことだ。今までマスターが戦ってきた相手は皆、チンピラや犯罪者、教団の追手と言った、悪意を向けてくる正真正銘の敵だった。
一度でも負ければ終わりな状況で、マスターはそんな相手とのデュエルを幼少期から延々と繰り返してきた。
デュエルが好きなホムラは、対等な相手とのデュエルを楽しいと感じるのだろう。
勝ちたい、負けたくない。そんな高揚を胸にデュエルをする。
でもマスターはそういった実力が拮抗した相手とのデュエルに、重くのしかかるような負担を覚える。
勝たなければならない、負けたら全部が台無しになる。そうやって自分を追い込みながらデュエルをする。
私はマスターに、楽しいデュエルの存在を知ってほしかった。
このTCG販促アニメ的世界で行われるデュエルは、私がホロエルとして転生する前の世界でDCGとして存在していた『CROSS WORLD -SUNBREAK-』と同じものだ。
DCGとはすなわち、デジタルカードゲーム……そう、ゲームだ。
ゲームとは、人を楽しませるために生まれた一種の娯楽だ。
もちろん、それはあくまで私が元いた世界の話であって、デュエルで多くの物事が決まるこの世界においては、安易にただの娯楽の一言で片づけることはできない。
この世界において、デュエルは絶対的な力であり、生きるための寄る辺であり、スポーツの一種であり、仕事であり――時に、正義や悪事をなすための道具にもなる。
それでも私にとって、カードゲームが楽しいものだという認識は変わらない。
生きるためにデュエルを手段として行使せざるを得なかったマスターに……デュエルを楽しめるようになるきっかけを与えたかったというのが、マスターとホムラをデュエルさせた私の意図の一つだ。
今すぐには無理だろうけど、楽しんでもいいんだよと道を示してあげることは大事だ。
あとはまあ、これだけデュエルが好きなホムラなら、マスターに容赦なくボコボコにされても平気そうだな! って思ったのが一つ。
それから最後の一つは、マスターがクラスに馴染めるようにするためかな。
ここはデュエリスト養成校だ。そして真のデュエリストは、より強いデュエリストに惹かれるもの。
……で、合ってるよね? ホムラを見てたらそんな気がした!
だから今まで一度もデュエルをしたことがないマスターが、皆の前でその強さを見せつければクラスにも馴染めるんじゃないかなー? と、そう思った次第です。
そしてその結果はというと……。
「無空さん。少しご相談に乗ってほしいのですが……このようなデッキを組むのでしたら、無空さんなら余った枠にどのようなカードを採用いたしますか?」
「……私は無属性のカードしか使ったことがないから、それ以外のデッキの組み方は素人。ただ、この手のデッキとは何度か戦ったことがある。その中で私が特に厄介だと感じたカードは『旋回する翼』。あなたのデッキにも合ってると思う」
「『旋回する翼』……盲点でしたわ。確かにそのカードがあれば、メインプランが潰れたとしてもスムーズにサブプランに移行できますわね。ありがとうございます無空さん。助かりましたわ」
クラスメイトからデッキ構築の相談を受け、今までのデュエルの経験から有用なカードの助言を授けるマスター。
「あのね、無空ちゃん。この前のデュエルでこういう場面があってね。私どうしたらいいか全然わからなくて、いっぱいいっぱいになって負けちゃったんだけど……こういう時ってどう動くのが正解だったのかなぁ」
「……確かにこの時点での敵の盤面は強力。でも焦らなくていい。相手の手札を見て。もう0枚でしょ? ここは無理に除去を優先しなくても大丈夫。まずはこのカードで防御を固めて、そこからターンをかけて少しずつボードアドバンテージを取り返していけば、あなたにもまだ勝機はある」
「おおー、なるほど! 自分のことだけ考えちゃってたけど……あっちもあっちで後がなかったんだね! ありがとう無空ちゃん。私も無空ちゃんみたいに視野を広く持って戦えるように頑張らないとなー」
同じくクラスメイトからデュエルの反省点について相談を受け、戦術的なアドバイスをするマスター。
「今一年生の間で話題沸騰の通称白い死神、無空メイさんに突撃インタビュー! ずばり……メイさんの好きな異性のタイプはどのような方なのでしょうっ!?」
「好きなタイプ……? 知らない。他の人なんて気にしたことない。でも……今も昔も、ずっと変わらず好きな人はいる」
「こ、こここ、これは大スクープっ、大スクープですっ!」
同級生の新聞部の生徒から突撃インタビューを受け、私を見つめながら誤解を招くような適当な返しをするマスター。
転入当初は一匹狼のようなクールな雰囲気からか、ホムラとセンカ以外にはどこか遠巻きに見られていたマスターだったが、ホムラとのデュエル以来一転し、今ではすっかり人気者だった。
急な変化に最初はマスターも大いに戸惑い、対応もぎこちなかったものだが、最近は慣れてきたようでスムーズに受け答えできている。
学校に通う以前に敵対者から向けられていた悪意とは違う。好意的な感情が多分に含まれるクラスメイトたちとの交流が、他人を拒絶するマスターの頑なな心を少しずつ解していったのだろう。
これまで私以外の人に自分からは関わろうとしなかったマスターが、初めてクラスメイトに「……おはよう」と勇気を出して挨拶を返した時は、つい涙腺が緩んでしまったものだ。
少し前まで「普通の女の子にはなれない」と悩んでいたマスターが、今じゃもうこんなに馴染んで……うぅ。
もう感動物ですよ、これは!
あれ以来少し心境の変化があったのか、今やマスターも学校に通うことに割と意欲的だし。
くじ引きでデュエルの対戦相手を決めると聞いた際、ハッと天啓のごとくくじを操作することを思いつき、マスターとホムラをデュエルさせた私の判断は紛うことなき正解だった。
まさかここまで事がすべてうまく運ぶとは……。
うーん……私って実は天才なのでは?
しかもデッキの軸になるくらいの有能で、見た目も超絶可愛らしい美少女と来た!
完全無欠! 最強無敵の完璧で究極の天使! その名はホロエル! ふはははは!
なんだろう。今ならなんだってできる気がする。
実体化も15秒……30秒……いや、もしかしたら1分くらいいけるかもしれない……!
うへへ。
それでもしできたら、その時間を目一杯使ってマスターをたくさん甘やかしてあげるんだ~。
だってマスターいっぱい頑張ったからね! 頭くらいは撫でられて然るべき!
どんな思惑があろうと、結局のところ私がやったことなんてくじを操作しただけに過ぎない。
今のこの結果はすべて、マスターが自分の意思で選び、自分の力で手に入れたものだ。
一番頑張った人が誰にも褒めてもらえないだなんて、虚構だろうとなんだろうと、そんなことは天使である私が認めない。
私がマスターにしてあげられることなんてほんの少ししかないんだから、せめてその少しでできるだけのことはなんだってしてあげたいんだ。えへへ。
「あはは。メイちゃん、なんだかすっかり人気者だね。でも、毎回そんな丁寧に対応しなくてもいいんだよ? メイちゃんってあんまり会話が得意な方じゃないでしょ? 無理しない程度にほどほどにね」
マスターに群がる同級生の波がようやく落ちついたところで、隣の席でマスターと同級生とのやり取りを何気なく眺めていたホムラが労わるようにそんなことを言った。
しかしマスターはそれを聞くと、なんだかジトッとした目でホムラを見やる。
「ほどほどに、ね。一度私とデュエルするまで、あそこまでしつこく私に絡んできた人の言葉とは思えない」
「うぐっ……その〜……その節は大変ご迷惑を……」
「別に怒ってない。あなたは確かにしつこいしうるさいしめんどくさかったけど……私とホロエルを引き裂こうとはしなかったから」
「し、しつこいしうるさいしめんどくさい……あ、あはは……まあ嫌われてないならよかった、のかなぁ?」
一時期は「デュエルデュエルデュエル!!!」って感じにマスターにウザ絡みしまくっていたホムラだったが、お望み通り一度マスターとデュエルすることができたからか、あれ以来だいぶ言動が落ちついた。
あいかわらずデュエルにのめり込んでいるところは変わらないが、マスターにしつこく粘着することがなくなったと言うか……あるいは今の少し落ちついた雰囲気の方が、本来のホムラなのかもしれない。
「ホムラは……デッキをいじってるの?」
「うん。今のままの私じゃ、メイちゃんには勝てない気がするから」
見れば、現在ホムラの机の上には大量のカードが並べられていた。
どうやらマスターの言う通りデッキ構築を見直しているようで、以前戦った時は見なかったカードもいくつか見受けられた。
中には彼女が得意とする火属性以外のカードも混じっており、結構本格的にデッキを改造するつもりであることが窺える。
「……他の人みたいに、私のアドバイスはいる?」
「んー、今は大丈夫!」
断りながらも、ホムラはマスターに気にかけてもらえたことが嬉しいようで、朗らかに笑い返した。
「私ね。今、すっごくデュエルが楽しいんだ。や、いつも楽しいんだけど、いつも以上にさ。どうすればメイちゃんに勝てるんだろうって悩むたびに、こうしたい! ってアイデアがいっぱい湧いてくるの! だからメイちゃんには、新しいデッキが完成したらデュエルの相手をしてもらいたいなー? なんて!」
「……はぁ。正直……あなたは強いし、相手にするのは疲れるから、あまりしたくないのだけど」
「え~? 強い相手とデュエルできた方が楽しいじゃん!」
「強ければ強いほど疲れる。弱い相手の方が楽でいい……どう? 失望した?」
軽口のように問いかけているが、その実、もしも失望したなんて答えられたらマスターは大層落ち込むだろう。
なにせマスターにとって、ホムラは初めての友達だ。
マスターとしてはそこまで大事に思っていないつもりなのだろうけど、深層心理ではきっと、なにかしら特別な繋がりを感じているはずだ。
ホムラがどう返すか若干ハラハラしながら見守っていると、ホムラはどことなく挑戦的な面持ちでメイの顔を覗き込んだ。
「失望なんてしないよー。だってメイちゃん、強い相手ほど疲れるとは言ってるけど……それで自分が負けるだなんて、これっぽっちも思ってないよね?」
「そんなのは当たり前。ホロエルが一緒に居てくれる限り、誰が相手でも私が勝つのは必定」
「あはは! メイちゃんって案外負けず嫌いだよねー。でも、それでこそだよ。いつか私がメイちゃんを負かして、その余裕を崩してあげるから!」
「負け犬がまた吠えてる……そこまで犬になりたいなら、いっそお手でもしてみる? ホムラ」
「お手したらデュエルしてくれるなら喜んでするよ! ほらメイちゃん。手を出して、私に命令して? わんわんっ!」
前足のように両手を掲げて、犬っぽいポーズで催促するホムラ。
マスターはそれを横目で一瞥すると、呆れたように肩をすくめた。
「お座り。待て。これでいい?」
「えぇー……? お手はー?」
「残念ながら、あなたのお手なんて私にとってはなんの価値、も……?」
なんとなく思いつきでホムラの真似をして犬のようなポーズを取った後、お手をするようにマスターの手に私の手を重ねてみる。
あとは……声が出せないから口パクになっちゃうけど「わんわんっ!」って感じに口を動かしてみたり?
「――――!!!」
「わぁっ!? メイちゃん急にどうしたの!?」
マスターはそんな私を見て一瞬固まったかと思うと、ガタンッ!!! と勢いよく椅子を飛ばして席を立った。
そしてその体勢のまま、驚いて犬のポーズで固まってしまった私を食い入るように凝視してくる。
……え、えっと……。
「…………ふぅ」
もしかしてこれが原因か? と私が犬のポーズをやめて少し経つと、マスターはいそいそと席に座り直した。
そんなマスターをホムラが困惑したような目で見ていたが、自分の世界に浸っているらしいマスターはホムラの反応を意に介さない。
席に座ったまま静かに目を閉じて、深く噛みしめるようにぽつりと呟く。
「良かった――」
「えっ、えっ? な、なにが? なにがよかったの? 私、メイちゃんがすごい奇行してたようにしか見えなかったけど……?」
「憐れね。私はあなたのお手なんかより、ずっと尊く価値あるものをこの目で見たわ……」
「えぇ……?」
ひどく満足そうに天井を仰ぐマスター。
いつも無表情気味で感情に乏しい方なのに、今だけはすっごく幸せそうだ……。
なんだろう……確かにちょっとは可愛いと思ってくれるかな? と期待してやったところはあるけど、ここまで過剰に喜ばれるとなんだか逆に引いてしまうというか……。
そ、育て方間違えたかなぁ……?
いやでも、可愛いものを可愛いと思える感性はちゃんと育ってるからいいのか……?
うぅむ。
私のことを思ってくれる自体は嬉しいのだけども……私としては、マスターには私よりももっと自分自身に興味を持ってほしいところなのよね。
可愛い服やアクセサリーに興味を持ったり、おしゃれをして友達と一緒に遊びに出かけたり……そういった自分のために時間を使うマスターをもっと見たいというのが私の本音だったりする。
ただ、私じゃそういうのは教えられないからなー。
マスターの初めての友達であるホムラも、ほとんどデュエルにしか興味がないし。
や、それが悪いわけじゃないんだけどね。
ホムラはマスターの容赦のない死神のようなデュエルを拒絶せず、笑って受け入れてくれた。
そのおかげで今があるんだから、実のところ私はホムラには本当に感謝している。
ただ、私が見たいと願うような普通に女の子の生活をマスターに教える役に、ホムラが致命的に向いていないと言わざるを得ないのもまた事実なのである。
ホムラとは別の、普通の女の子らしい友達ができてくれれば、あるいは……。
「――失礼するわ」
と、私がそんな思索に耽っていると、水のように透き通った綺麗な声が聞こえてきた。
長い水色の髪を靡かせるようにして、一人の少女が颯爽と教室に入ってくる。
見覚えのない女の子だ。クラスメイトの顔は全員覚えているが、その中に彼女はいない。
ただ、制服のリボンの色からして高等部の一年生……マスターの同級生だということはわかる。
そんな綺麗な声をした水色の長髪の女の子は教室を見渡すと、まずはホムラを見つけ、わずかにイラついたようにピクリと眉の端を動かした。
そして次にそのホムラの隣に座るマスターに視線を移すと、見定めるように鋭く目を細めながら、つかつかとこちらに歩いてきた。
「あれ? エミリアじゃん。こんな放課後にどうしたのさ。前に会った時は、次に私と会うのは月末のクラ――」
「黙りなさい、燃照ホムラ。私は今、あなたに用はないの。用があるのは、あなたの横の転入生の方」
「……なに?」
こういったキツい対応をされるのもいつものことなのだろうか。ホムラは「あいかわらずだなぁ」と言った感じに肩をすくめながら、会話を見守る方向にシフトしたようだった。
どこか不機嫌そうに睨むように見据えてくるエミリアという少女を、マスターはいつものような無表情で見返す。
「通称、白い死神……無空メイ。今、一年生の間で出回っているあなたとホムラのデュエルの記録は私も見させてもらったわ」
「それが?」
「単刀直入に言うわ――私とデュエルしなさい、無空メイ。この挑戦、あなたもデュエリストなら受けてくれるわよね?」
その要求に、ホムラはどこかワクワクしたように目を輝かせ……一方でマスターは、めんどくさそうにため息をつくのだった。