可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
誰が広めたのか、現在、ホムラとマスターのデュエルの記録は高等部の一年生の間で拡散され、非常に話題になっている。
元ジュニアハイチャンピオンの燃照ホムラと、それに拮抗するどころか上回り、勝利を収めた謎の転入生無空メイ。
2人の肩書きを考えれば話題性はじゅうぶんであり、さらにはデュエルのレベルも高いとなれば、人気を博すのも当然と言えた。
そのおかげでマスターも同級生と関わる機会が増えて、マスターの強さが知れ渡ることで後方腕組み天使面もできて、私としては願ったり叶ったりだったのだが……一方で、ある面倒事も引き寄せてしまうようになった。
それすなわち、腕試し――デュエルの申し込みである。
ホムラが中学時代、全国中学校デュエル大会を制したジュニアハイチャンピオンだったというなら、同年代以下においてホムラに敵うものは誰一人としていなかったということにほかならない。
そしてそんな高等部一年生の間で最強であろうホムラを下したということは、現在はマスターこそが一年生最強と呼ばれるにふさわしい称号を手にしたということ。
そのマスターを――無空メイを倒しさえすれば、自分が一年生で最強になれる。
そういった野心を抱いた挑戦者が数多くマスターに挑みに来るようになったのも、ここしばらくの間で起きたマスターの生活の変化だった。
ホムラが強いことは同年代のデュエリストならば誰もが知っていたようだが、マスターの強さは今回初めて知れ渡った。
マスターは確かにホムラに勝ったが……マスターがホムラより強いのだとしても、デッキタイプが違うならば、その弱点も違ってくる。
燃照ホムラに勝てなかった自分でも、無空メイにならもしかしたら……。
そんな浅はかな考えを抱く輩も多くいたようで、ホムラに勝ってからしばらくの間、やってくる挑戦者は後を絶たなかった。
ホムラは自分が頂点の時は、誰かが挑戦してきた際には快く引き受け、毎回返り討ちにしていたという。そしてそのうち誰もが勝てないと諦め、挑みに来る者がいなくなったと。
マスターもそうして返り討ちにした方が早いと言えば早いのかもしれない。
だけどそもそもの話、マスターはデュエル自体が別にそこまで好きじゃない。
だからこそ、こうしてデュエルを挑まれた時のマスターの返しはいつだって一つと決まっていた。
「嫌」
「は、はあっ!?」
エミリアという少女からのデュエルの申し込みをマスターが断ると、当の彼女が素っ頓狂な声を上げる。
デュエリストなら、他のデュエリストからの挑戦は受けて当然と言う認識があったのかもしれない。
しかし残念ながら、自分の時間を必要でもないデュエルに割くのは嫌だと言うのが、嘘偽りのないマスターの本音だった。
時にはそんなマスターを、臆病者だとか、戦うのが怖いんだろうとか好き勝手に言ってくる失礼な連中もいたけれど……。
そういった手合いには、マスターよりもホムラの方が怒って「臆病者じゃないなら逃げないでしょ?」とデュエルを挑んでボコボコにしていた。
ホムラいわく、友達をバカにされるのは自分がバカにされるよりも許せないそうだ。
そんな日々が続くうちに、無空メイに挑みたいならば燃照ホムラに勝たなければいけないという噂が広まり、マスターへの挑戦者は大きく数を減らした。
ホムラのおかげで無理にデュエルせず平穏に日々を過ごせるようになったので、マスターもその点はホムラに感謝していることだろう。
ただまあ、数を減らしたと言っても、まだいるにはいるもので……。
デュエルを挑まれた時にマスターがため息をついたのも、「また来た……」と言ったうんざりした気持ちからだったのだろう。
「あー……ごめんねエミリア。メイちゃんはあんまりデュエルが好きじゃないんだ。基本的に挑戦は受けない主義なんだよ」
エミリアがマスターに挑んだ当初は「良いデュエルが見れるかも!」と言った感じに目を輝かせていたホムラだったが、マスターの返答を聞いて冷静に戻ったのか、少し申しわけなさそうに頬をかきながらマスターに代わってそう教える。
さらにそこへ、追い打ちをかけるようにマスターが重ねて続ける。
「そうでなくても、あなたは別に私の友達でもないから。ホムラなら、まあ……どうしてもって言うなら、たまになら引き受けてあげなくもないけど……あなたとデュエルする理由は私にはない」
「えっ、ほんと!? どうしてもって言えばメイちゃん私とデュエルしてくれるのっ!? もー、そうならそうと早く言ってよ~。はい、お礼のお手! わんわんっ、だよ!」
「……ホムラ。プライドって知ってる?」
ノリノリで犬真似をするホムラと、そんな彼女を呆れ切った目で見やるマスター。
自分を置いてけぼりにコントのようなやり取りを見せつけられたエミリアは呆然と立ち尽くし、口惜しむように唇を噛んだ。
しかしそこで感情的にならず、気持ちの整理をつけるように額を揉むと、幾分か落ちつきを取り戻した様子でエミリアは息をつく。
「……はぁ。まぁ、そうね……無理強いは、確かに良くないものね。あなたが嫌だと言うのなら、私もここは大人しく引き下がることにするわ」
「……やけにあっさり諦める」
今日まで数多くの挑戦者がマスターの元を訪れたが、ここまで素直に引き下がる相手は初めてだった。
しかしそんなマスターの訝しむような視線に、エミリアは凛とした態度で応じた。
「心配しないで。おかしなことは企んでないわ。私のデュエリストとしての理想像が、あなたの理想と同じとは限らない。それだけの話でしょう?」
「……」
「あなたが強いことは私も知っている。あなたが私の挑戦を断ったのは、あなたが臆病者だからでも戦うのが怖いからでもない。むしろ、その逆……自分が勝って当然だと思っているから。そしてそれだけの自負を持つに足るだけの実力があなたにはある」
「だとしたら、どうするの?」
まだ疑心が抜け切っていないマスターの問いに、エミリアはふるふると首を横に振った。
「どうもしないわ。今回は……私も気が
「……別に気にしてない」
どうやら本当になにも企んではいないみたいだ。
マスターがやりづらそうに答えると、エミリアは嬉しそうに微笑んで、自身の胸の前に手を置いた。
「ありがとう、優しいのね。改めて……私は
「……無空メイ」
「ええ、よろしくね無空さん。さっきも言ったけど、あなたが嫌だというなら、もう無理にデュエルを申し込むことはしないわ。私個人のエゴを他人に強要するような真似は、私の主義に反するもの。ただ……それでもおそらく近いうちに、あなたは私と戦うことになると思うけどね」
「……? それはどういう……」
「あなたもそう思うでしょう? 燃照ホムラ」
「わざわざフルネームで呼ばなくていいってば……」
マスターと話す時は柔らかな声色なのに、ホムラに話しかける時だけは妙にキツい口調だ。
マスター……と、ついでに私がエミリアの話の意図がわからず首を傾げる一方で、同意を求められたホムラはエミリアの言っていることの意味を理解しているのか、神妙な面持ちで頭をかいた。
「でも……うん、そうだね。メイちゃんが来る前までだったら私だっただろうけど……今ならメイちゃんになると思う。そっちはエミリアなんだよね?」
「そうよ。あなたと雌雄を決するはずだった舞台で、私は無空さんと戦う。そしてあなたを倒した無空さんを倒して、私が一年生の頂点に立つわ」
「へえ? 二年前、全中の決勝で私に負けたエミリアが? メイちゃんは強いよ~? なんたって私に勝ったんだから」
からかうように、それでいて試すようにホムラがエミリアの顔を覗き込む。
しかしエミリアはそんな挑発には一切動じず、冷静な眼でホムラを見下ろす。
「あなたは知らないだろうけど、中学三年生の一年間の留学期間を通して、私は海外でずいぶんと多くのことを学び、力をつけたわ。同じ一年間で錆びつき、燻り、成長の機会をふいにしてきたあなたと違ってね」
「……あはは! 言うじゃんエミリア。前々から自信家だったけど、今は昔以上だね。でもさ、いくら力をつけたところで、エミリアがまだ私に勝ってないって事実は変わらないよ? なんなら今から私とやろっか? 私の炎は、何度消されたって燃え上がるのが売りなんだ。メイちゃんに負けて再燃した今の私の炎は、たかが水をかけられたくらいじゃ簡単には消せないよ」
なんか……いろいろ言い合ってるから仲が悪いのかとも思ったけど、もしかしたら逆なのかな?
互いに互いを認めているからこそ突っかかってしまうというような、そんな関係性に見える。
エミリアは好戦的な笑みを浮かべてデッキを手に取り立ち上がるホムラに、毅然とした立ち姿で向かい合う。
「確かに、以前会った時よりはマシな顔になったわね。けれど、研鑽とは日々の積み重ねのことを言うのよ。一年という期間は、あなたが思っているよりもはるかに長い。今の私は――あなたよりも強いわ」
「だったら、ここで私と――」
「でも、デュエルはしない」
「えぇー……」
肩透かしを食らったように、ホムラがへにゃりと脱力する。
「なんでさー。ここはデュエルする流れでしょー……? デュエリストならいついかなる時も挑戦は受けるものっていうのがエミリアの信条じゃないの?」
「はぁ……あなたねぇ。今あなたが手に持ってるそれ、調整中のデッキでしょう?」
「そうだけど……」
「全力のあなたならまだしも、未完成のデッキのあなたを倒しても意味がないわ。それじゃあ私の二年前の雪辱は果たせない。そのデッキが完成したら相手してあげるから、まずはそれを完成させることを目指しなさい」
「むー……」
不服そうにしながらも、エミリアの言うことはもっともだと思ったのだろう。
ホムラは机の上に広げている調整用のカードの束を見下ろして、心底残念そうに肩を落とした。
「しょうがないなー……まぁ、前に戦った時よりエミリアが強くなってるってことは、なんとなくわかるしね。今のエミリアと戦うなら、私も全力を尽くしたいかな」
「よろしい……まぁ、昔の私なら全力じゃなくてもいいみたいな物言いは癪に障るけど。そんな細かいところまで気にしないわ。昔とは違うもの」
「気にしてないなら言わなくていいのに。本当は気にしてるんじゃないの?」
「……気にしてないわ。それ以上言うとはっ倒すわよ、バカホムラ」
「やっぱり気にしてるんじゃん! って、痛い痛い痛いっ、やーめーてーっ! 暴力反対!」
エミリアがホムラの背後に回り込み、ホムラの頭を両サイドからグリグリと拳で圧迫する。
やっぱり仲良いなこの二人……と思いながら二人を眺めていると、二人の慣れ親しんだ会話にすっかり置いてけぼりにされてしまったマスターが、小さく口を尖らせながら不満そうに呟いた。
「……で、近いうちに戦うことになるって、結局どういう意味?」
ホムラもエミリアもなにやらギャーギャーと言い争っていて、マスターの声が聞こえた様子がない。
マスターはそんな二人をしばし眺めたのち、諦めたようにため息をつくと、席を立った。
「行くよ。ホロエル」
はーい。
ホムラはまた後で寮で! エミリアも、次会った時もマスターと仲良くしてくれると嬉しいぞ!
二人に心の中で別れの挨拶を済ませ、教室を出て行くマスターの後についていく。
結局エミリアが言っていた、そのうち戦うことになるという言葉に込められた意味を知ったのは、その後日――ホームルームの時間にて、担任の先生からクラス代表対抗戦の存在を聞かされた時だった。