可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
「クラス代表対抗戦というのはですね~。一年生全員が観戦する中で各クラスの代表者たちが戦う、学年規模のイベントのことですよ~」
マスターのもとをエミリアが訪ねてきた後日。
ホームルームにてクラス代表対抗戦なるものの存在を聞かされたマスターは、その後の空き時間で先生を追いかけて引き留め、それがどういったものかを問いかけていた。
冒頭のセリフが、質問に対して返ってきた答えである。
そのまま廊下の端で向かい合い、マスターは先生からクラス代表対抗戦についての説明を受ける。
「学園の闘技場を貸し切って、それぞれのクラスから選ばれた代表者一人ずつがトーナメント形式でデュエルするんです~。言い換えるなら、学年最強決定戦と言った感じですね~」
「学年最強決定戦……」
「
「5月……今月ね」
「ですね~。うーん……ごめんなさいね~、メイさん。メイさんが転入生で、まだ学校に慣れていないことを忘れちゃってました~。事前にしっかりと通達しておくべきでしたね~……」
ゆったりとした口調は変わらないが、普段浮かべている温和な笑顔は眉尻が下がっており、ひどく申しわけなさそうにしている。
そんな先生にマスターはふるふると首を横に振って「気にしてない」と仕草で示すと、続けて口を開いて質問した。
「そのクラスの代表者は、どうやって決めるの?」
「うちのクラスは投票ですよ~。明日のホームルームの時間に、クラスの全員から投票箱に投票してもらうつもりです~。あ、先に言っておきますが~、自分には投票しちゃダメですよ~? それから誰が誰に投票したかも秘密にしますから、安心して投票してくださいね~」
「投票……立候補じゃないんだ」
「立候補だと皆、自分が自分がって言って終わらないので~。まあ、別に立候補にしてもいいのですが~……そうするとたぶん最終的には、クラスメイト全員で勝ち抜きバトルロイヤルをすることになると思いますよ~?」
「それは嫌ね……」
「ふふふ、先生は楽しそうなのでいいと思いますけどね~。メイさんみたいな方もいらっしゃるので、うちのクラスは投票で代表を決めることにしてるんです~」
この学校、国立クロワッサン学園はプロデュエリスト養成校だ。入学した生徒のほぼ全員がプロを目指していると言っても過言ではない。
そしてクラス代表対抗戦は、年に三回しかないクラスの代表として出場できる機会……それも勝ち上がることさえできれば、学年最強なんていう輝かしい称号まで手に入ると来た。
できることなら自分が出たいと思う者が多いのは、自明の理ということなのかもしれない。
「そうですね〜……まだ未確定なので参考程度に受け取ってもらいたいのですが~……先生の見解で言わせていただくと、おそらく代表はメイさんになると思います~。ここ最近、メイさんはクラスの内外問わず、とても人気者ですからね~。話題性も実力もじゅうぶんで、もっとメイさんのデュエルを見たいという人も多いと思いますから~」
自分が担当している生徒に注目が集まっている状況が嬉しいのだろうか。先生の声は心なしか上機嫌に弾んでいる。
ふむ……なるほど。先生は後方腕組み先生面が好きな民か。
なんだか親近感を覚える。後方腕組み天使面が好きな私とは気が合いそうだな!
しかしそうして先生や私が内心盛り上がる一方で、マスターは嫌そうに顔をしかめる。
「その代表って、辞退はできないの?」
「できますけど~……辞退した人は見たことがありませんね~。さきほど立候補にすると、自分が自分がと皆が主張して決まらないって話をしましたよね~? 本音では、ほとんどの人が自分が出たいと思っているものなんです~」
「……」
「だけど投票では皆さんそんな気持ちを押し殺して、他の人に投票してくれますからね~。そんな中で代表に選ばれるということは、クラスの大多数から自分の代わりとして出場することを認められたことと同じですから~」
「……代表を辞退することは、皆の期待を裏切るのと同じってこと?」
「そこまでは言いませんが~……メイさんのデュエルを見たくて投票した皆さんは、残念がるでしょうね~」
先生がそう答えると、マスターはすっかり押し黙ってしまった。
それから小さく息を吐いて、天井を仰ぐようにして目を瞑る。
……おそらくマスターは、ここしばらくで変化した自分の生活を思い返しているのだろう。
挨拶を交わしたり、デッキ構築や戦術の相談を受けたり……クラスメイトたちがマスターへと向ける感情はひどく純粋で、好意的で、今まで向けられてきた悪意に満ちたそれとはまるで異なる。
確かに慣れない毎日ではあったが、居心地が悪いものではなかったはずだ。
それに、マスターはきっとクラスメイトたちにわずかながら感謝の気持ちを抱いている。
マスターは、今までずっと私と二人だけで生きてきたから。それ以外の他人を拒絶し続けてきたせいで、自分から他人と関わる方法を知らなかった。
だけどクラスメイトたちはそんな孤立しかけていた自分に、進んで近づいてきてくれた。拒絶せず受け入れてくれた。
その経験はマスターにとって初めてのことで、同時に、無碍にしたいと思うようなものではなかったはずだ。
マスターはデュエルがそこまで好きじゃない。だけど、特別嫌いというわけでもない。
ただ皆の前でデュエルするだけで、その恩を返せるというのなら……。
「……わかった。もしも代表に選ばれたら、私もそのクラス代表対抗戦とやらに出場する」
マスターは、諦めたように肩をすくめると了承の意を示す。
マスターが答えを出すまで緊張した様子で待っていた先生も、マスターの快い返答を聞くと途端に顔を綻ばせ、両の手のひらを合わせた。
「わぁ~、本当ですか~っ? ありがとうございます~! 実は先生も、メイさんのデュエルをまた見てみたかったんですよね~!」
「私のデュエルは、そんな期待するほど面白いものじゃないと思うけど……」
「うふふ、知らぬは本人ばかりですね~。あの本当の戦場にいるような緊迫感がたまらないって、メイさんのデュエルは今一年生の間でとても評判なんですよ~! もちろん先生も~!」
「……そう」
デュエルを楽しむ感覚がイマイチまだ理解できていないマスターの返事は、完全に生返事のそれだった。
スキップでもしそうなルンルン具合で立ち去る先生を見送って、マスターは廊下の隅で一人立ち尽くす。
「……私はホムラに投票しよう」
ワンチャン代表はホムラが選ばれないかな、とか思ってそうな遠い目で窓の外を眺めるマスターの横で、私は思案に耽る。
――クラス代表対抗戦。
これは少し前にホムラとデュエルした時と違って、授業じゃない。辞退ができる。
つまり、絶対にしなければいけないデュエルというわけじゃない。
そして私とマスター、どちらかが望んだデュエルでもない。
私とマスターの二人だけの頃だったなら、こんな条件が揃ったデュエルをマスターは引き受けようともしなかっただろう。
だけど今回、マスターはそれらの条件が揃ってなくともデュエルを了承した。
それはマスター自身のためでも、私のためでもない。それ以外の他の誰かを思ったからこその決断だ。
それはつまり……この学園生活を通して、マスターの心の中に、マスターと私以外の他人の存在が刻まれ始めたということ。
それは紛れもないマスターの心の成長と呼べるもので、私にとって、なによりも歓迎すべき喜ばしい事実だった。
「ホロエル? ……あ……」
なんだか嬉しくなって「よしよし、偉いぞ!」とマスターの頭を撫でてあげると、マスターは一瞬目を丸くした後、その口元をかすかに緩ませる。
もっとも、今の私はいつものマスターにだけ姿が見える半透明状態だから、手もすり抜けちゃって感触なんかは別に伝わっていない。
伝わっていない……はずなんだけど。マスターはどうしてか、こうするといつもとても喜んでくれるのだ。
なんなら、もっと撫でて! とばかりに頭を差し出してくる時もあるくらいだ。
そう、ちょうど今みたいに。
しょうがないなぁ、と。よしよししてあげると、マスターの顔がどんどん幸せそうに蕩けていく。
「ふふ、ふふふ……」
私の本体はカードだから、昔も今も、見た目や身長に変化はない。
だけどマスターはそんな私よりもずっと背が伸びて、どんどん大人に近づいていく。
一緒に教団を脱走した時は、私よりも小さいくらいだったのに……高校に通えるほどの年齢まで成長した今では、立っている彼女の頭を撫でるために、頑張って腕を上に伸ばさないといけないくらいだ。
昔は私がお姉ちゃんのようだったけれど、今は見た目だけで言えば逆かもしれない。
けれど……大好きな姉に甘えるように可愛らしげな声を漏らしながら頭をすりつけてくる姿を見ていると、こういうところは変わらないなぁと、なんだか微笑ましくなるのだった。
「というわけで~、今期の対抗戦のクラス代表は無空メイさんに決定しました~! ぱちぱち~!」
後日のホームルーム。
ホムラに投票するというマスターの悪あがきもむなしく、先生の見解通り代表に選ばれたマスターはクラスメイトたちの拍手の中で嘆息する。
ちなみに誰に何票入ったかはクラスの生徒たちには非公開だが、私が半透明状態のまま投票箱を覗いてきた結果をありのままにお伝えすると、そこに書かれた名前は六割がマスター、三割がホムラ、残り一割が別の誰かと言った感じだった。
マスターとホムラの票差を鑑みると、マスターがホムラに投票するしないにかかわらず、やはりマスターが選ばれていたことは間違いない。
ただ、やはりホムラもさすがは元ジュニアハイチャンピオンと言うべきか。
聞くところによると、ホムラは中学二年生の時に全中の大会で優勝して以来、マスターとデュエルするまでは負け知らずだったそうだ。
まだ一回しか皆の前でデュエルしていないマスターと違って、ホムラは幾度となくその強さを同世代に知らしめて来た。
根強い支持層が存在して然るべきで、「無空メイのデュエルをもっと見たい!」という昨今の風潮がなければ、もっと票を獲得して接戦になっていただろうことは想像にかたくなかった。
ちなみに最後の一割は、その投票した本人がライバルと思っている相手や親友に投票したと言った感じだ。
一割に投票した人も内心マスターかホムラが選ばれることはわかっていただろうに、それでも自分が思う相手に投票した心意気は評価したい所存である。
ふむ、なるほど……これが後方腕組み先生面の感覚。なかなか悪くないぞ!
やっぱり先生とは気が合いそうだ。
自由に実体化できたら友達にもなれたと思うのになー……そこだけはちょっと残念かもしれない。
「ではメイさん、壇上で代表としての意気込みをお願いします~!」
「え……意気込み? ……急にそんなこと言われても……」
「ほらメイちゃん、とりあえず前出て前出てっ」
ホムラに背中を押されて席を立ち、マスターはしかたがなさそうに教室の前の壇上に立った。
初めは困惑した様子で視線を泳がせていたが、自分にクラス中の視線が集まっていることに気がつくと、一瞬固まってから小さく息を吐く。
それから少し考えるように間を空けて、マスターは顔を上げて口を開いた。
「……私は、学年最強なんて称号に興味はない。だからこの対抗戦に本当は自分が出たいって思ってた皆と、同じ気持ちを共有して対抗戦に臨むことはできない」
だけど、とマスターは続ける。
「出たい気持ちはわからなくても、負けたくない気持ちはわかる。負けることは死ぬことと同義。もしも私が負けることが、皆が賭けた選択の死に繋がるなら……安心してほしい。私は誰にも負けない。今までも、これからも、そして今回も」
そこでチラリと私の方を一瞥して、マスターは力強く言い放つ。
「ホロエルがいてくれる限り、私の勝利が必然だということを証明する……以上」
「はい、とても良い宣誓でしたね~! ありがとうございました、メイさん~!」
パチパチと拍手が鳴りやまぬ中、マスターは変わらぬ足取りで席に戻る。
その涼しげな表情に緊張の類は一切なく、ただ普段通り勝って終わるだけだという自信と自負に溢れている。
こういったクールな雰囲気が昨今のマスター人気の一因でもあるようで、クラスメイトたちの一部は興奮した様子で今の宣誓について語り合っていた。
「いいじゃんメイちゃん。私も戦いたくなってきちゃうくらい良い意気込みだったよ」
早速茶化すように絡んできたホムラに、マスターはやれやれと嘆息する。
「それ以前に、あなたはいつもデュエルしたがってるでしょ。ホムラ」
「いつも以上にってこと! あーあ……クラス代表が二人までオッケーだったらなぁ。それか私たちのどっちかが他のクラスだったら、私も対抗戦に出れてメイちゃんとも戦えたのに……そこだけが少し残念」
口惜しそうに肩を落とすホムラを横目で眺めた後、マスターはなんとはなしに顔を背ける。
「もし私とあなたが別のクラスだったら、ね」
「メイちゃん?」
「……それだとあなたとは友達になれてなかったかもしれないから、私はそんな風には思わないけど」
マスターのそんな一言にホムラは「わっ」と一瞬目を丸くし、それからすぐにパアッと嬉しそうに破顔した。
「えへへ……もーっ、不意打ちはダメだよー! ふふっ。メイちゃんって第一印象だとクールで他の人に容赦ない感じだけど……実際関わってみると、ちょっとでも仲良くなった相手にはすっごく愛情深いよね! なんていうか、メイちゃんなりに大切にしてくれてるんだなーって感じる!」
「愛情って……はぁ。そういうのとは違うけど……どうしようもないデュエル狂いでも、一応あなたは私の友達だから。ただそれだけ」
「うんうん、そういうのもメイちゃんなりの照れ隠しなんだよね! わかるわかる! あはは、メイちゃんってば本当しょうがないんだから! 後で一緒に他のクラスの代表者のデュエルの記録を見て対策練ろうねー!」
「……なんかムカつく」
テンション高くマスターにうざ絡みするホムラと、それを鬱陶しそうにあしらうマスター。
二者のやり取りは、はたから見ても仲睦まじい友達のそれそのものだった。
うへ、うへへ……。
なんだろう。すっごく頬が緩んでしまうというか……。
だって、あのマスターが……
私にとってマスターは愛すべき妹のようなものだ。
私はマスターが子どもの頃からそばにいて、ずっとその成長を見守ってきた。でも、その長い時間の中で、こんな年頃の普通の子らしい生き方はさせてあげられなかった。
それが今はどうだ。学校に通い、ホムラと友達になってからは、それまでに失っていた青春を取り戻すように、マスターは賑やかで温かな学生生活を過ごしている。
妹が幸せそうで曇る姉がいるか? いや、いるはずがない!
あぁ~! 心がビョンビョン跳ねるんじゃ~!
「ホロエル……?」
「ん? メイちゃん、どうかしたの?」
「……ホロエルが笑ってる。こっちの声も聞こえてないみたい」
「あはは! きっとメイちゃんが楽しそうで嬉しいんだよ。そうだ! ホロエルちゃん……でいいのかな? 私、ホロエルちゃんとも話してみたかったんだよね!」
「ホロエルと? ……それは……」
「ホロエルちゃんって、いつもメイちゃんのそばにいるんだもんね? 私はまだ見たことないけど、ホロエルちゃんの方は私のことももう知ってるだろうし……私、ホロエルちゃんとも友達になってみたいなって! ダメかな?」
「ホロエルと、友達に……? ……そっか。どうして今まで気づかなかったんだろう……私がホロエルのためにしてあげられることの一つは……」
「メイちゃん?」
「……わかった。後でホロエルにも聞いてみる」
「やった! 約束だよ!」
「うん。それとホムラ……ありがとう」
……はっ!? いかんいかん、幸せすぎて昇天しかけていた……。
マスターがようやく年頃の子らしい日常を送れるようになったと言っても、その青春はまだ始まったばかりだ。
今後もマスターがこの楽しい学生生活を続けていけるように、私も全力でサポートしていかねば。
まずはクラス代表対抗戦。これを勝ち抜いて一年生の頂点に立つことができれば、マスターの人気は今よりずっと根強いものになるだろう。
そうすればそれをきっかけにして、ホムラ以外にもまた新しく友達と呼べる存在ができるかもしれない。
さらにはデュエルを通して人と繋がることで、マスターがデュエルを楽しめるようになるキッカケにもなったりとかも……?
そこまでうまくいくかはわからないけど、期待くらいはしてもいいんじゃないかと思う!
輝かしい未来への期待を胸に、これからもマスターと一緒に頑張るぞ! と拳を握る。
そしてそんな私を、マスターもなにかを決意したような顔で見つめていたのだった。