可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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13.ホロエルが私にくれた感覚を、ホロエルとも共有したいの

≪――竜の心臓持つ機構よ。文明と自然の狭間を飛び立ち、新時代の幕開けを体現せよ。私はエナジーを7消費し、『機械竜ルーク・セブン』を召喚する≫

 

 私――無空メイは、クラス代表対抗戦の代表に選ばれた日の晩、寮部屋で他の代表者のデュエルの記録を確認していた。

 右隣には同室のホムラが座っていて、現在見ている動画記録も、机の上に置いた彼女のデュエルガントレットによる投影機能で壁に映し出されたものだった。

 

 私もホムラも高等部の1年生だ。そして1年生は、AからHまでの8つのクラスがある。

 つまり、クラス代表は私を含めて8人いるということ。

 すでにクラスの代表者は全員が決まって出揃っているようで、記録を集めること自体はそう難しくなかったとはホムラの談だ。

 

「んー。メイちゃんを除くと、やっぱりエミリアは代表の中でも別格だね。元々強いのは知ってたけど、私が知ってた頃より相当腕を上げてきてる」

「そうね……この強さなら、ホムラより強いっていうのもあながち嘘じゃなさそう」

「む……」

 

 冷静に分析した感想を漏らすと、ホムラがプクーッと頬を膨らませる。

 

「もー! そこは『ホムラの方が強い』でしょ!」

「残念。私は友達だからって実力を贔屓目で見たりしない。攻めへの意識や、強引に勝ち筋をこじ開ける戦術の適性ならあなたに分があるかもしれないけど……記録を見る限り、それ以外の能力で言えば間違いなく彼女が上よ」

 

 エミリア――二日前、突如として私にデュエルを申し込んできた水色の髪の少女。

 ホムラとは旧知の仲のようで、ずいぶんと親しげに言い争っていたのを覚えている。

 

 ホムラは中学二年生と三年生の時、全国中学生大会にて優勝したジュニアハイチャンピオンだった。

 つまり単純に考えればホムラが同年代以下で一番強いはずなのだけど……いわくエミリアは、中学三年生の一年間を海外留学に当てていたそうだ。

 つまり、中学三年生の時の全中大会には出場していない。

 中学二年生の大会ではホムラに負けているようだが……その後の海外留学の一年間で、ずいぶんと実力をつけてきたのだろう。

 記録に映る彼女が纏う雰囲気は、まさしく強者のそれだった。

 

 ホムラも勘は鈍い方じゃない。私と同様、本音ではエミリアの強さに気がついているはずだ。

 だから不満そうに口を尖らせることはしても、エミリアの強さを否定することはしていない。

 

≪機械竜ルーク・セブンは召喚時、手札から種別がメカのカードを任意の枚数捨てることで同じ数だけドローできるわ。私は6枚捨てて6枚のカードをドローする。さらにこの効果で捨てた枚数に応じて、ルーク・セブンは追加効果を獲得する≫

 

 ホムラは映像の中のエミリアをジッと見つめ、はぁー、と長い息を吐いた。

 

「……そうだね。悔しいけど……メイちゃんの言う通り、今の私とエミリアが戦ったら、エミリアが勝つ確率の方が高いと思う」

「意外ね。もっと意地を張ると思ってた」

「むぅ。私だって私が絶対勝つんだって言い切りたいけど……メイちゃんはさ、エミリアが言ってたこと覚えてる?」

「それだと多すぎてなにを指してるかわからない。どれのこと?」

「エミリアが一年間海外で修行してる間、私が同じ一年で錆びついてたって話」

「そういえばそんなことも言ってた」

 

 映像では、エミリアがエース級サーヴァントであるルーク・セブンで攻撃を仕掛けていた。

 そんな彼女をぼんやりと眺めながら、ホムラは吐露するように続ける。

 

「実は、前にエミリアが海外から帰ってきた時も同じようなこと言われたんだけど……その一年間だって、私は自分ではちゃんと頑張ってるつもりだったんだ。だから、エミリアはなに言ってるんだろうって。なんでこんなに怒ってるんだろう、って。ずっと不思議に思ってた」

「……」

「だけどさ、少し前にメイちゃんとデュエルした時にやっと気づいたんだ。私は自分の強さに自惚れて、気づかないうちに下ばっかり見るようになってた。チャンピオンになる前みたいな、貪欲に上を目指す気持ちを……今の自分より高みにのぼろうとする気持ちを忘れちゃってた」

 

 なんとなく視線を向ければ、ホムラは心の底から悔やむように拳を固く握りしめていた。

 私は少し悩んでから、慰めが必要なほど弱いデュエリストでもないだろうと、素直な気持ちをぶつけることにした。

 

「今の自分に満足してしまえば、デュエリストの成長はそこで止まる。たかが二年勝ち続けた程度で、自分が世界で一番強いだなんて思い上がったの? だとしたら傲慢と言うほかないわね」

「あはは、やっぱりメイちゃんデュエルに関しては友達でも容赦ないね……でも、うん。メイちゃんの言う通りだったよ。中学三年生になって、アンコもエミリアもそばからいなくなっちゃって目標を見失った私は、そこで停滞した。だけどそんなもの言い訳だ。あの一年間を通して、私はそんな傲慢な自分自身をこそ越えなきゃいけなかった。それができなかった今の私は……二年前私に負けてから、私に勝つためにずっと努力し続けてたエミリアより弱いんだと思う」

 

 アンコ、というのが誰を指しているのかわからない。

 ただ、エミリアと同様、ホムラと張り合えるだけの強さを持ったデュエリストがあと一人、彼女のそばにいたのだろう。

 私にはホロエル以外親しい人なんていなかったから、対等だと感じていただろう二人と離れなければいけなくなったホムラの気持ちはわからない。

 ただそれでも、ホムラの友達として一つだけわかることもある。

 

「でも、だからって負けてあげるつもりはないんでしょ?」

 

 エミリアの方が勝つ確率が高い。エミリアの方が今の自分よりも強い。

 それらは確かに事実なのだろう。だけどそれでもホムラは自分がエミリアに勝てないだなんて一言も口にしていない。

 たとえどんなに相手が強かろうと、勝利の可能性が低かろうと、負けるつもりで戦うことなど絶対にない。それが私の知る燃照ホムラという少女だ。

 

 私の確認に、ホムラは嬉しそうに笑いながら大きく頷いた。

 

「そんなの当たり前じゃん! いつかメイちゃんに勝つその日まで、私はもうメイちゃん以外の誰にも負けないって決めたから」

「その理屈だと、この先あなたは私以外の人に永遠に勝ち続けなきゃいけないわね。私が負けることはありえないから」

「あははっ、言うねぇメイちゃん。だったら今回もちゃんとエミリアに勝ってよね? とっくに察してるとは思うけど、私が今日の代表投票で票を入れたのはメイちゃんだもん。私の代わりに誰かが出るなら、メイちゃん以外ありえない。メイちゃんには勝ってくれなきゃ困るよ」

「それこそ言われるまでもない。言ったでしょ? ホロエルがいてくれる限り、私の勝利は必然だって」

 

 ホムラと話している間にデュエルの記録映像はすでに終盤に差し掛かっており、エミリアがルーク・セブンで相手にダイレクトストライクを仕掛けるところだった。

 デュエルの結果は、エミリアの勝利だ。

 これで私以外の代表者7人の記録をすべて見終わったが、私を除けばやはりエミリアが頭一つ以上抜けている。この分だと十中八九、エミリアが勝ち進んでくるだろう。

 

 ……記録映像を通して、エミリアが使うカードや戦術はある程度は把握できた。

 あくまで記録を見ただけで実際に相対したわけではないから完全ではないものの、相手の一切を知らないまま突然デュエルすることになったホムラの時と比べれば、かなり戦い方に余裕を持ったデュエルができるはずだ。

 とは言え、それは相手も条件は同じ。

 私とホムラとのデュエルの映像はとっくに一年生の間で広まってしまっているから、私が使うカードや基本戦術もすでに割れていると見て間違いない。

 互いに互いのデッキコンセプトが割れた状況……地力が試されるデュエルになる。

 

「頼もしいなぁ、ほんと。あ、ホロエルと言えば……今日のホームルームで言ったこと、もうホロエルちゃんに確認してくれた?」

「ううん、まだ……」

 

 私は、右隣のホムラとは逆側の隣に座って映像を眺めていた可愛らしい銀髪の天使を見やる。

 半透明に透けた姿は私以外の誰にも見えておらず、デュエル以外で他の誰かに見せたこともない。

 

 そんな私だけの天使、ホロエルは私とホムラのやり取りを聞いて、不思議そうに小首を傾げている。

 私は意を決して、ホロエルに向き直った。

 

「ホロエル……私ね。ホロエルの姿、ホムラにも見せてあげたいの」

 

 ホロエルが驚いたようにパチパチと目を瞬かせる。

 

「ホロエルがソウルハート・サーヴァントだって知れ渡ると騒ぎになっちゃうから、今みたいな他に人がいない状況に限るけど……私はホロエルにも、私と同じ日常を過ごしてほしい。ホロエルが私にくれた感覚を、ホロエルとも共有したいの。ダメ……かな」

 

 ソウルハート・サーヴァントが本来、従者(サーヴァント)の名が示す通り主を守護するための存在であることは知っている。

 いざという時のために普段は姿を消して力を温存し、必要な時にだけ実体化して力を行使する。それこそがソウルハート・サーヴァントにあるべき本来の姿だ。

 ホロエルが常日頃から私だけに姿が見えるようにしてくれているのは、言葉にしない私のワガママを聞き入れてくれた結果に過ぎない。

 

 それを承知の上で、私はさらなるワガママをホロエルにお願いする。

 ただでさえ普段から余分な力を使っているホロエルには、ますます負担をかけることになっちゃうけど……。

 私が持つ本体であるカードから離れられないホロエルに友達を作る機会を設けることが、ホロエルのために私がしてあげられることの一つだと思うから。

 

 ホロエルは私のお願いにしかたがなさそうに、それでいて愛おしそうに微笑むと、自身の胸の前に手を当てた。

 半透明だった彼女の体が、その濃さを増す。実体化とまではいかないが、その存在の強度が私以外にも見える程度にまで引き上げられる。

 

「おおー! ほんとに近くにいたんだ!」

 

 私よりも一回り小さな体格。鮮やかに光を反射する美しい銀髪と、透き通った水面のように綺麗な碧眼。端正な顔は、精巧に造られた人形のように可憐で、どこか浮世離れした印象を受けた。

 ホムラは目を丸くすると同時に輝かせながら、座ったままホロエルの正面に移動する。

 

「こんばんは! 私はホムラ! 初めまして……ではないよね? ホロエルちゃんは毎日私のこと見てるだろうし、私も前にデュエルでホロエルちゃんの姿は見たし……えへへ。なんだかちょっと変な感覚だね」

 

 ホムラの言葉にホロエルはこくこくと頷いてから、いそいそと正座をして、(うやうや)しくホムラに頭を下げた。

 

「ホロエル……」

「え? え? なんで急に頭を下げたの?」

「……『マスターと友達になってくれてありがとう。これからも末永くマスターをよろしくお願いします』って言ってる」

「そうなの? あはは、ホロエルちゃんってば本当にメイちゃんのことが大好きなんだね! でも、そんなのお礼を言われるようなことじゃないよ。それにね、私はホロエルちゃんとも友達になりたいって思ってるんだよ」

 

 私と? と、ホロエルが意表を突かれたように顔を上げる。

 

「高校に入って初めてできた新しい友達が、一番大事にしてる人だもん。会ってみたい、話してみたい、仲良くなってみたいって思うのは当然でしょ? どうかな。ホロエルちゃんは、私と友達になってくれる?」

 

 ホロエルはホムラをしばらく見つめ返した後、くすりと口元を緩ませる。

 それから、いつか私がホムラと友達になった時のように、スッとその手をホムラに差し出した。

 

 私がわざわざ言葉にせずとも、その意思はホムラに伝わったようだ。

 ホムラは嬉しそうにホロエルの手を取り返した。

 実体化していないホロエルにこちらの手は透けてしまうけれど、敢えてそうならないように、互いの手を握り合う形になるようにホムラは力を調節していた。

 

「よーし! これで高等部に上がってからの友達二人目だ! あはは、なんだかメイちゃんが来てくれてから良いことばっかりだなぁ。巷じゃ白い死神だなんて呼ばれたりしてるけど、メイちゃんって実は幸運の女神様だったりする?」

「ホムラ……機嫌がいいのはわかるけど、変なこと言わないで。ホロエルも『ホムラはわかってる』って自慢げに頷いたりしないで」

 

 ホムラが言っていたように、ホムラとホロエルは初対面のようでいて初対面ではない。

 二人ともお互いの気が合うだろうことはなんとなく察していたのか、すでに意気投合と言った様子で親しげにしていた。

 

 私はそんな二人を見て……なんだか悪くないな、なんて思ってしまう。

 本音では、もっと嫉妬するんじゃないかって思ってた。ホロエルを私以外の人に取られたような感覚になるんじゃないかって。

 ……や、うん。もちろん、そういう気持ちがまったくないってわけじゃないんだけど……。

 でも、なんというか……私は、私とホロエルが一緒にいる事実が当たり前のように受け入れられている今の時間を、ずいぶん心地良く感じていた。

 

「そうだ! ホロエルちゃんってデュエルできたりする? 余ってるカード貸してあげるから、それでデッキ組んで私とデュエルしようよ! 公平になるように私も同じ条件でデッキ組むからさ!」

 

 あいかわらずのデュエル狂い。まさかカードであるはずのソウルハート・サーヴァントとデュエルしようとするとは……。

 しかしそうして私が呆れた顔をする一方で、意外にもホロエルは乗り気らしく、「おおー!」と身を乗り出していた。

 

「設定は室内用ホログラムモードの小型版にして……あとホロエルちゃんはカードには触れないだろうし、そこはメイちゃんに手伝ってもらう感じで! どう? メイちゃん。手伝ってくれる……?」

 

 ホムラがワクワクを隠し切れない表情で私を見てくる。ホロエルも、その眼差しには珍しく私に懇願するような期待の色が滲んでいた。

 ……はぁ、とため息を吐く。初めての友達と、世界で一番大切な人から同時にそんな目で見つめられて、理由もなく断れるはずもない。

 

「やった! じゃあ早速デッキ組もっか! 確かここの奥に余ったカードを仕舞ってたはずだから……ちょっと待っててね!」

 

 しかたなく私がこくりと首を縦に振ると、ホムラは跳ね上がるように立ち上がって、部屋の棚を開けて上半身を突っ込み、ガサゴソとカードを探し始めた。

 そんな後ろ姿を座ったままボーッと眺めていると、不意にホロエルが私の視界に入ってくる。

 「ありがとう、マスター」と。ホロエルは口の動きだけでそう伝えながら、ふにゃりと頬を緩ませた。

 

「……う、ううん。これくらい、どうってことない」

 

 動揺を押し隠すようにそう答えながら、私はホロエルから視線をそらした。

 ……別にその、ホロエルの花が咲くような微笑みに見惚れてたとか、ホロエルがあまりに可愛すぎて直視しづらかったとか、そういう理由で動揺したんじゃない。

 いやもちろんホロエルの笑顔が反則級に可憐かつ天使級に可愛いのは覆しようのない世界の真理なんだけど。とにかく今はそういうのじゃなくて。

 ……ホロエルにお礼を言ってもらえたことなんて今まで一度でもあったかな、なんて。そんな風に思ってしまっただけで。

 ホロエルのために、初めてなにかをしてあげられた――その事実が、実感が。

 彼女の微笑みを通して伝わってきて、なんだか無性に嬉しくて、気恥ずかしかったんだ。

 

 チラリともう一度、ホロエルの方を見やる。

 ホロエルはカードを探すホムラを、待ち切れないというようなウズウズとした表情で見守っていた。

 小さな体格も相まって、友達と遊ぶのを楽しむ無邪気な子どもみたいに見えて、なんだかちょっと微笑ましい。

 

 ……でも。

 何年もずっと一緒にいたはずなのに、私、ホロエルのこんな顔、初めて見たな……。

 思えばホロエルは今までずっと、私のためだけに自分の時間を使ってくれていた。

 この先も私が生きていけるように。私がひと時も寂しい思いをしないように。私がいつの日か笑える日が来るように。

 ホロエルのその想いと行動の理由を、それがソウルハート・サーヴァントとしての在り方だからだなんて、私はそんな簡単な一言で片づけたくない。

 きっと、ホロエルがホロエルだから。私のことを妹みたいに大切に思ってくれているから。

 私のことを、心から愛してくれているから。

 だから彼女は、メイ(マスター)の幸せが私の幸せなんだって、いつだって私に笑いかけてくれるんだ。

 

 ホロエルのことを一つ、また一つと理解するたびに、愛おしい気持ちが増していく。ホロエルのことがもっと好きになる。

 知りたい。もっと。

 ホロエルの心を。彼女の好きを。その目に映る景色を。夢見る世界を。

 私が知らないホロエルを、もっと、もっと――。

 

「あったあった! えへへ、一からデッキ組むのなんて久しぶりだなぁ。ホロエルちゃんは初めてなんじゃない? メイちゃんもホロエルちゃんのデッキ組むの手伝ってあげてね!」

「言われるまでもない。ホロエルと一緒にホムラをボコボコにするデッキを作る」

「ボコボコ!? ……あはは、さっきまでしかたなくって感じだったのに、メイちゃん急にやる気だね! でもいいよ、そうこなくっちゃ! メイちゃんにもホロエルちゃんにも、私、負けないからね!」

 

 無属性以外のカードでデッキを組むのも、誰かと相談しながらカードの組み合わせを考えるのも、初めての経験だった。

 ホムラと違って、私はデュエルがそこまで好きじゃなかったはずなのに……どうしてだろう。

 私とホロエルとホムラ。デュエルを通して三人で過ごすこの時間を、私は確かに楽しいと感じていた。

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