可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
〈――国立クロワッサン学園高等部一年、第一
闘技場に足を踏み入れると同時に、観客たちの大歓声が私――無空メイを出迎えた。
その盛り上がりは凄まじく、今日行われた数々の試合の中でも、特にこの一戦が注目されていることを実感させられる。
学年最強という称号は、やはり彼らにとってそれだけ特別なものなのだろう。
そういった名声にあまり興味がない私としては、この場に立つことに少々場違いな感覚を覚えてしまうが……興味があろうとなかろうと、戦う以上は誰が相手だろうと負けるつもりは毛頭ない。
〈ここまで試合をご覧いただいた皆様であれば当然ご存じでしょうが、今一度ご紹介いたしましょう! まずはこちら! Aクラス代表、無空メイ選手!〉
司会者が私の名を読み上げるとともに、私はフィールドに上がる。
「メイちゃーん! 頑張ってねー!」
「応援してるぞ!」
「負けないでくださいまし、無空さん!」
歓声の中に声援が混じっているのが聞こえて、チラリと視線を向けると、そこにはAクラスの面々の姿があった。
観客席の先頭で身を乗り出すようにして声を上げていたホムラと目が合うと、彼女はニッと笑って手を振ってくる。
どう対応するか迷ったが、今は私にしか姿が見えない状態のはずのホロエルが元気いっぱいに手を振り返しているのを見て、控えめながら私も同じように手を振ってみた。
すると一気に歓声が大きくなり、一部の生徒が「キャー!」と叫びながら嬉しそうに飛び跳ねる。
……ホムラに手を振り返しただけで、別に観客の声援に応えたつもりじゃなかったんだけど……まあいいか。
〈今年度が始まった4月の当初は、Aクラスの代表は元ジュニアハイチャンピオンである燃照ホムラだと目されていました。しかしそこへ突如として現れたのが彼女、無空メイ選手! 彼女は転入間もなくして行われた燃照ホムラとの模擬戦において、二年間続いていた彼女のその無敗記録を打ち破り、類稀なる実力を学年中に知らしめたのです!〉
私の紹介に合わせて、会場のボルテージは一気に跳ね上がる。
授業の中で、たったの一回勝ってみせただけなのに。
同世代の彼ら彼女たちにとって、不動の頂点だったはずのホムラの敗北という事実はそれだけ震撼すべき出来事だったのだろう。
〈中にはそんな勝利を時の運、偶然だと称する者もおりましたが、ここまで勝ち進んできた彼女の実力を疑う者はもはや誰一人いないでしょう! 白い死神の異名が頂点の象徴となるかどうか、この一戦ですべてが決まります!〉
そうして私の紹介から、次に呼ばれるのはもう一人の代表者。
〈そして対するは――Bクラス代表、水星エミリア選手!〉
腰まで届く長い水色の髪を靡かせながら、凛とした立ち振る舞いでエミリアがフィールドに上がってくる。
〈二年前、全国中学校デュエルトーナメントの決勝という大舞台で燃照ホムラと激闘を繰り広げたエミリア選手ですが、惜しくも優勝を逃し準優勝という成績に終わってしまいました。しかしその後、一年の海外留学を経て帰国し、当時を遥かに上回る実力を身につけたエミリア選手の存在はまさに天に煌めく青き水星!〉
立ち止まった彼女が、私を見て薄く微笑む。
〈見るも鮮やか。計算されつくした戦略で並み居る代表者を蹴散らし、彼女は今ここに立っています! あの日届かなかった頂きをその手に掴むことができるのか、期待が高まります!〉
歓声の中、私たちは向かい合う。
ここまで来たら、もう他の人の声なんて気にならなくなる。
ここは戦場。そしてその戦場に立っているのは、私とエミリアの二人だけだ。
「約束通り、勝ち上がってきてくれて嬉しいわ。無空さん」
薄く微笑みながらエミリアが声をかけてくる。
しかしそこに柔和な雰囲気は一切なく、ここまでに戦ってきたクラスの代表者たちと同様、闘志に満ちた目をしている。
「嬉しい、ね。本当に嬉しい? 今日この日、あなたはまた頂点の座とやらを逃すことになるのに」
開会式でエミリアと言葉を交わした時のことを思い出す。
あの時も同じようにエミリアの方から話しかけてきて、私がそれに答えたんだったか。
だからこそ私も同じように、私は再びエミリアにその言葉が本音かどうかを問いかける。
「私とホロエルの前では、すべてのデュエリストは等しく死を迎える。あなたの努力も渇望も決して報われることはなく、私の手で虚無へと帰る。この二年、あなたがホムラに勝つためにやってきたであろう努力が無意味になるの。それなのに嬉しいだなんて、本当に心の底から言える?」
開会式の時はまだエミリアと戦うことになるのは先の話だったから、どう対応すればいいかわからず、中途半端な距離感と態度になってしまった。
だけどもう変に気を遣う必要もない。
勝つことは生きること。そして、負けることは死ぬことだ。
私とエミリアはこれからその勝敗を競い合い、互いの生き死にを決めることになる。
ならば遠慮はしない。容赦もしない。
今この瞬間、この戦場において、エミリアは紛れもなく私の敵だ。
――必ず殺す。
その後で友達になれるかどうかなんて関係ない。
私のデュエルに耐え切れないのなら、私とエミリアの間に縁なんてものはなかったということだ。
「っ……」
私の本気の殺意を受けて、エミリアは一瞬怯んだように言葉を詰まらせた。
死神の鎌を首に添えられたような感覚に、震え出す手を見下ろし……しかしそこでエミリアは心を落ちつかせるように、大きく息を吐いて深呼吸をする。
そしてデュエルガントレットに括り付けられた猫のキーホルダーを握り締めると、強い意志を宿した眼で私を見返した。
「嬉しいわよ、本当に。私にとっての勝利の価値は、トロフィーなんかじゃない。誰に勝ったかどうかなの」
「……」
「あなたともホムラとも戦わずになった学年最強なんて、それこそ名ばかりで意味がないわ。私が勝ちたいのは、ホムラ……そして、ホムラを倒したあなたなの」
「あなたは勝てない」
「勝てるかどうかじゃないのよ。大切なのは、困難に立ち向かっていく覚悟。絶対に勝つという意志よ。敗北から……絶望から、恐怖から。自分の弱さから逃げて生きることは簡単だわ。だけど私には理想がある。世界の誰よりも強くて優しい人になることが、私の夢だから」
力強く宣言したエミリアがデュエルガントレットを構える。
その表情は、ホムラとは少し違う。
ホムラは私を焼き尽くさんとする業火だった。私との殺し合いを心から楽しみ、私の殺意を飲み込まんと果てない戦意を滾らせ、獰猛な笑みすら浮かべていた。
一方で、エミリアのそれはどちらかと言えば、私が今まで負かしてきた普通のデュエリストに近いものだった。
怖い。嫌だ。逃げたい。終わりたくない。そんな心の声が聞こえてくるようだ。
だけど一つだけ異なるのは、彼女が逃げようとする素振りを見せないことだった。
足の震えを必死に抑え込み、心を奮起させ、彼女は私の殺意と真っ向から対峙する。
水星とは、太陽にもっとも近い惑星のことだったか。
彼女は逃げない。たとえ太陽の熱にその身が焼かれようと、過酷な理想の道程に身を投じ続ける。
いつか死するその瞬間まで、青き輝きを放ち続ける。
その名が示す水星のように。
であれば、これ以上の語らいは不要だろう。
半透明のホロエルと視線を交わし、頷き合う。そして彼女が姿を消すと同時に、私もエミリアと同じようにデュエルガントレットを構えた。
私とエミリアが放つ戦意が、闘技場の空気を張り詰めたものへと変えていく。観客たちが一斉に静まり返り、誰かがゴクリと唾を呑んだ。
緊迫した空気の中、視線を交錯させた私たちは静かに開始の合図を待つ。
〈両者、準備はよろしい様子! それではクラス代表対抗戦、決勝戦を始めます! デュエルガントレット、スタンバイ! デュエル――〉
「「――スタート!」」
次回からデュエルとなりますが、デュエルの内容を最後まで書き切ってから投稿したいので、平時よりも少し期間をいただくかと思います。ご了承いただけますと幸いです。
また、あとがきのこれより下にDCG運営チーム風に書いたお知らせがありますが、要約しますと「愚者による無益の強要」を弱体化しましたと書いてあります。
だいぶ長いですし本編にも関わらないので読まなくても大丈夫です!
◇「CROSS WORLD -SUNBREAK-」運営です。
カードの能力の下方修正をお知らせいたします。
対象カードは「愚者による無益の強要」。修正される効果は以下の通りです。
修正前
「(制約:無し)」
「①『Qアクション2』=条件:相手がスペルを詠唱した時/相手が発動効果を使った時。」
「②自分と相手が次にカードを引いた時、引いたカードをスペル『虚無』に書き換える。(2枚以上同時に引いたなら、それらをすべて『虚無』に書き換える)」
↓
修正後
「【制約】:[詠唱制限](上限:同名/3ターンに1回。自分と相手のターンをそれぞれ1ターンとして数える)」
「①『Qアクション3』=条件:相手がスペルを詠唱した時/相手が発動効果を使った時。」
「②自分と相手が次にカードを引いた時、引いたカードをスペル『虚無』に書き換える。(2枚以上同時に引いたなら、それらのうちランダムに2枚を書き換える)」
◇変更に至った経緯。
「愚者による無益の強要」は本来、相手の行動を妨害できる代わりに自分自身はアドバンテージを得ることができないカードとして設計いたしました。
「愚者による無益の強要」を使用したプレイヤーは、このカードの使用に加え、次に引くカードが書き換わることから、2枚分のカードの損失を被ります。
一方、相手プレイヤーは次に引くカードが書き換わる為、ターン開始時のカードを引く処理で1枚のカードが書き換わった際には1枚の損失を被ることになります。そのほか、相手がカードを2枚引く効果を持つカードを使用し、それにQアクションで割り込んだとしても、2枚分の損失であり、互いのプレイヤー間にアドバンテージの差が生じることはありません。
互いのプレイヤーの手札の質を下げることでゲームの進行速度を下げるほか、このカードの存在を示唆することでカードを引く効果を使うかどうかの駆け引きを生じさせ、デュエルの流れをコントロールする使い方がこのカードに想定していた役割でした。
しかし「虚構再定義」のように手札をすべて入れ替えるカードに対しQアクションで「愚者による無益の強要」を発動した場合、ゲームが続いているにもかかわらず、その時点で勝敗がほとんど確定してしまうような事態が多く確認されました。
更に、このカードはプレイヤーの皆様の試行錯誤によって、私たち運営チームの予想を遥かに越えた運用方法が発見されました。
以下はその一例となります。
・相手の手札をデッキに戻し、引き直させることができる効果を持ったカードとの組み合わせにより、相手の手札を能動的かつ強制的にすべて「虚無」に書き換える実質的な全ハンデスコンボの開発。
・ゲームの序盤、攻撃時に墓地の低コストの呪文を手札に戻す効果を持った低コストのサーヴァントを場に出し、自分のターンごとに「愚者による無益の強要」を回収して使用を繰り返すことで、以降に自分と相手が引くすべてのカードを「虚無」にし続けるコンボを組み込んだ強力なクロックパーミッションデッキの台頭。
本来このようにプレイヤーの皆様の手によってカードの新たな使い方が考案されることは喜ばしいことだと感じております。
しかし今回挙げました例のような運用は、従来のカードゲームに存在する駆け引きの魅力を大きく損なわせるほか、対策となるカードを持たないデッキタイプを一方的に蹂躙してしまうものであり、デッキ構築の自由度に著しい支障をきたす危険がありました。
その為、カードゲーム本来の面白さを保つ為、修正に踏み入る判断を致しました。
以上になります。
今後とも「CROSS WORLD -SUNBREAK-」をよろしくお願いいたします。