可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
このデュエルの初めから、私の狙いは無空さんを私の得意な土俵――リソース勝負に持ち込むことにあった。
決勝戦に備え、ここまでのトーナメント戦では使わずに温存しておいた『機械都市アクシス』と『機械竜メガルーク・ナイン』。
それらを駆使し、無空さんにとっては未知だっただろう効果の数々によって彼女が思い描いていた戦場の未来を崩した私は、大量のサーヴァントを場に並べることで物量戦を仕掛けた。
彼女のデッキの軸である『虚構天使ホロエル』は確かに強力なサーヴァントだが、あくまで単体性能が高いカードに過ぎない。
大量の小型サーヴァントを止めると言った芸当はできず、そこに勝機があると判断した私の見立ては間違っていなかっただろうと思う。
だけど無空さんはきっとそういった自分のデッキの弱点を理解していた。そしてその対策も……。
……現在、私の場にはサーヴァントが5体、エリアが1枚。
合計枚数は6枚で、場の上限枚数に達している。
圧倒的な手数であることは確かだが……上限に達してしまっている以上、場からカードを退かさなければ新たなサーヴァントを召喚できず、また同様にエリアも展開できない。
そしてそんな私の場の状況に目をつけた無空さんが繰り出してきたのが、ATK5000以下の攻撃の一切を停止させる強力な効果を持った『虚夢の精霊ホルボルポルン』*1だ。
彼女は私のサーヴァントの自爆特攻を封じることで、私の場が上限まで埋まった状態を強制的に維持させる、いわゆる盤面ロックを作り上げてきた。
物量戦に付き合い、リソース勝負に持ち込まれてしまえば、無空さんの敗色は濃厚だ。
だからこその戦局を変える一手。彼女も彼女で、覚悟を決めて紙一重の勝負を仕掛けにきている。
……この状況からでも、使用時に直接墓地へ送られるスペルや、新たに場に出すのではなく、すでにいる場のサーヴァントに重ねて出す転生サーヴァントは問題なく使用できる。
けれど……私のデッキの大半は通常のサーヴァント。そして採用しているスペルのほとんどは展開を補助するためのカードだ。
さらに現状、今の私の手札にこのロックを突破できるだけのカードは存在していない。
『スクラップ・リサイクル』*2――カードを1枚引く効果を持ったスペル。
これで引けるカードに、このターンの私の運命のすべてがかかっている。
「私は『スクラップ・リサイクル』の効果でドロー!」
そうして覚悟を決めて、引いたカードは――。
「――なっ……!?」
| 虚無 | |
|---|---|
| コスト0 | 属性:無 |
| スペル |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 【制約①】:[エナジーへのチャージ不可] 【制約②】:[詠唱不可] ①(無し) |
――スペル『虚無』……!
前のターン、『虚夢界実現【素敵な贈り物】』でデッキに紛れ込まされた無空さんのカード……!
私が苦々しく表情を歪めるのを見て、無空さんは張り詰めていた意識を解すように小さく息を吐いた。
「どうやら、あなたの銃には肝心の弾丸が込められてなかったようね」
「くっ……」
私の手札は5枚。うち3枚は『機械犬#レプリカ』で、1枚は『虚無』だ。
残った最後の1枚も……転生サーヴァントではない、通常のサーヴァントに過ぎない。
場が埋まっている今、この手札では私は新たなカードを1枚も使うことができない。
……でも!
「まだよ! 私は『スクラップ・リサイクル』の2つ目の効果で『機械竜メガルーク・ナイン#レプリカ』に新たな効果を付与! これが破壊された時に自身を複製して手札に加え、そのコストを0にする効果を与える! さらにメガルークレプリカで『虚夢の精霊ホルボルポルン』に攻撃!」
「『無相の蛍火』の効果で場に出ている方じゃない『虚構天使ホロエル』で『ガード』」
ホロエルのATKとHPは7000。メガルークレプリカのATKは11000、HPは9000。
ホロエルは破壊されて墓地へ送られ、メガルークレプリカはHP2000で場に残る。
……『ハリボテ人形』*3も『ガード』を持っているのに、数々の強力な効果を持つ『虚構天使ホロエル』*4をわざわざ犠牲にした……?
場に残しておけば出し直す必要もなく、もっと有効に使えたかもしれないのに……。
……少し気がかりだけれど、いずれにせよメガルークレプリカが私の場に残ってしまうことには変わりない。無空さんが作り上げた盤面ロックは揺るがない。
「ホロエルが破壊されたことで、私の場を離れた虚構定理の数は8に上昇する。残った1体のホロエルのステータスもそれに応じて上昇する」
「私はエナジーをチャージして、ターンエンド……!」
まだだ。まだ勝機はある。
無空さんのデッキは防御寄り。ホムラのように攻め入る手段が多彩なわけじゃない。
さらに、私のライフカウンターは初期値よりも多い7……場に多くのサーヴァントを残したままターンを返してしまったとしても、ターンが返ってくる可能性は十二分にある!
| 先攻7ターン目:無空メイ |
|---|
| 無空メイ | 場を離れた虚構定理:8 | |
|---|---|---|
| ライフ:2 | 場 | Se:ハリボテ人形(A0/H500) Se:無給の使用人アズリ(A1000/H2000) Se:虚夢の精霊ホルボルポルン(A5000/H5000) Se:虚構天使ホロエル(A8000/H8000) |
| Ene:7 | ||
| 手札:5→6 |
| 水星エミリア | アップデート:6 (保有中の特殊能力) | |
|---|---|---|
| ライフ:7 | 場 | Ar:機械都市アクシス Se:量産型アンドロイドβ#レプリカ(A3500/H1500) Se:機械兎(A1000/500) Se:機械兎#レプリカ(A3000/500) Se:機械兎#レプリカ(A3000/500) Se:機械竜メガルーク・ナイン#レプリカ(A11000/H2000) |
| Ene:6(5) | ||
| 手札:5 |
「私のターン、ドロー。そして――」
「この瞬間! 場に出たターンが終わったことで『虚夢の精霊ホルボルポルン』の『虚構定理』の条件が満たされなくなり、その効果が無効化されるわ! さらに攻撃もできず、条件が満たされないままあなたがターンエンドを迎えたなら、ホルボルポルンは破壊される……!」
「……そうね。説明しようと思ったけど、その必要もなかったみたい」
そう。これだ。これこそが『虚夢の妖精ホルボルポルン』が持つもっとも大きなデメリット。
ホルボルポルンが持つ自身のATK以下のATKを持つサーヴァントを完全に機能停止させる効果は確かに強力極まりないが……反面、その『虚構定理』の条件は場に出たターン中と非常に重い。
ターンが切り替わるだけでその条件は満たされなくなり、効果が無効化され、私がなにもせずとも場から消えていなくなる。
ホルボルポルンさえいなくなってしまえば、この盤面ロックも崩れて終わる。
つまり、この無空さんのターンを生き残ることさえできれば……この状況からでも、私は一気に勝ちに行ける!
「……」
私に仕掛けた盤面ロックが狙い通りに嵌り、見事1ターンの生存の権利を勝ち取った無空さんだが、だからと言って油断した様子はない。
焦って動くようなことはせず、熟考するように無空さん自身と私の場に視線を投げる。
……今、無空さんの場にいるサーヴァントは4体。
その内訳は、『ハリボテ人形』と『無給の使用人アズリ』、そして『虚夢の精霊ホルボルポルン』と『虚構天使ホロエル』だ。
このうち『虚夢の精霊ホルボルポルン』は場に出たターン中という自身の虚構定理の条件を満たしていないため、そのデメリットによって効果が無効化され、攻撃もできない。
さらにルール上、ATKが1以上なければ攻撃によってライフカウンターを破壊することはできず、プレイヤーへのダイレクトストライクも無効になる。よってATK0の『ハリボテ人形』は攻撃したところで意味がない。
となれば、ここからプレイヤーに直接攻撃をしてライフカウンターを削ることができるのは、残りの2体……『無給の使用人アズリ』と『虚構天使ホロエル』だけだ。
私のライフカウンターの残数は7。2体の攻撃で2つのライフカウンターを削られるとしても、まだ5も残る。
それに、無空さんが私に盤面ロックを仕掛けたように、場に出せるカードの最大枚数は6までだ。
現在、無空さんの場にカードは4枚。新たに2体のサーヴァントを場に出すだけで、無空さんは新たなサーヴァントを出すことができなくなる。
もしもその2体が『フルアクセル』を持っていたとしても、やはりダイレクトストライクまで持っていくには到底足りない頭数でしかない。
仮に私のライフカウンターを削り切ることを諦め、場のサーヴァントを除去しにかかってきたとしても、大きな問題はない。
すでに手札の枚数はじゅうぶん。さらに『スクラップ・リサイクル』が付与された『機械竜メガルーク・ナイン#レプリカ』が破壊されれば、私はそれを複製してコスト0にして手札に加えることができる。
敢えて破壊せず場に残された場合でも、それならそれで場に残ったメガルークレプリカで攻撃ができる事実は変わらない。
さらに私は次のターン、『機械都市アクシス』の効果で更なる『スクラップ・リサイクル』も手札に加えられる。
場のサーヴァントを除去されるのと同時に、多少は『ガード』を持ったサーヴァントを並べられてしまうかもしれないけれど……それでも、無空さんのライフカウンターは2しか残っていない。
『機械竜メガルーク・ナイン』が付与してくれた特殊能力が万全で、手札も潤沢……さらには使えるエナジーも多くなってきた今の状況からであれば、無空さんの数々の『ガード』を突破してダイレクトストライクまで持っていくことはそこまで難しくはない。
まだ勝てる。まだ届く。
私はまだ、死んでない……!
「……私は『無給の使用人アズリ』であなたのライフカウンターに攻撃」
| 水星エミリア | ライフ:7→6 |
|---|
無空さんが選んだのはサーヴァントの処理ではなく、ライフカウンターへの攻撃。
……大丈夫だ。無空さんが使った『虚構天使の槍』で回復していたぶんを削られて、初期値の6に戻っただけ。この程度なら痛くもかゆくもない。
「……前のターン、あなたは手札のカードを使用することすらできずにターンエンドした。だからほとんど大丈夫だとは想定してたけど……このぶんならライフカウンターの破壊をトリガーにした『Qアクション』のスペルもなさそうね」
ライフカウンターを破壊された時の私の反応、表情の動き、その一挙一動をジッと観察していた無空さんが、そう結論を出す。
「今のあなたは文字通りの無防備……私の攻めを防ぐ手段は、持ち合わせていない」
「……だとしたら、どうするの?」
「簡単な話。二度もあなたにターンを渡すのは危険。今この瞬間、このターンで私はあなたを殺し切る」
「それが本当に、今のあなたにできるのかしら?」
「それが本当に、今の私にできないとでも? 攻撃宣言。続けて私は、『虚構天使ホロエル』でライフカウンターに攻撃」
| 水星エミリア | ライフ:6→5 |
|---|
ライフカウンターが一気に2も削られた……けど。
「これであなたの場に私のライフカウンターを削ることができるサーヴァントはいなくなったわ。アズリとホロエルは攻撃権を使用し、ハリボテ人形はATKが0。そしてホルボルポルンは自身の虚構定理の条件を満たしていない。さあ、いったいここからどうするつもりかしら? 無空メイ」
挑発するように私が問いかけると、無空さんは自分の場の『虚夢の妖精ホルボルポルン』を見上げた。
前の私のターンはシャボン玉の中で気持ちよさそうに眠っていたホルボルポルンだが、今は彼女を覆っていたシャボン玉がすっかり消失し、寝ぼけ眼で不満そうに唇を尖らせている。
「ライフカウンターを削ることができるサーヴァントがいない……か。ホルボルポルンがその虚構定理を満たしていないままなら、確かにその通りね」
「……それは、どういう……」
「すぐにわかる。私は手札から自身の効果でコストが下がった『虚構論構築』を1エナジーで詠唱する」
| 虚構論構築 | |
|---|---|
| コスト3 | 属性:無 |
| スペル | 種別:虚数 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①【手札で有効】このスペルを詠唱するために必要なコストは-Xされる。(Xは「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」を3で割った数。端数切り捨て) ②「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」を+1する。 ③手札、または自分の場のカード1枚を消滅させる。『虚構定理』を持つカード1枚をデッキから手札に加える。 |
「私の場を離れた虚構定理の数を+1する。さらに私の手札か場のカード1枚を消滅させて、『虚構定理』を持つカード1枚を手札に加える。私は場の『無給の使用人アズリ』を消滅させて『無縁塚の墓守』を手札に」
『虚構論構築』を発動する前、無空さんの場を離れた虚構定理の数は8だった。
だけど今、その数は『虚構論構築』の効果によって+1され、さらにアズリが場を離れたことで+1……合計2枚分が加算され、これで彼女の場を離れた虚構定理の数は10に達した。
そして、彼女の場には『虚構天使ホロエル』が残っている。
ということは……。
「ここで私は『虚構天使ホロエル』の効果を使う。私の場を離れた虚構定理の数が10に達している時、ホロエルはエリア『完全虚構証明』1枚を生成して場に出せる」
| 完全虚構証明 | |
|---|---|
| コスト10 | 属性:無 |
| エリア | 種別:虚数 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 【制約】:[存在制限](上限:同名/場に1枚) ①??? ②「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が減る時、代わりに増やす。(上限:1ターンに1回) ③自分のターンエンド時に発動可能。自分の場の『虚構定理』を持つすべてのサーヴァントのHPを全回復する。 ④??? |
「っ、来たわね……!」
ホムラとの戦いでもその全貌を見せていなかった、コスト10のエリア。
未知のカードでも、2度目以降の対面なら効果も閲覧できるけど……ホムラはともかくとして、私自身はまだこのカードは初見だ。その全貌は私にはわからない。
とは言え、ホムラとのデュエルを見た限りだと「ターンエンド時のサーヴァントのダメージを回復」、「場を離れた虚構定理の数が減る時に代わりに増やす」と、ずいぶんと防御やサポートに寄った性能だったと記憶している。
他に攻撃的な効果がないとも限らないけど……無空さんはホムラとのデュエルの時、『完全虚構証明』が場にあるにもかかわらず、一ターンだけではホムラのライフカウンターを詰め切れず、『愚者による無益の強要』でドローを封殺してからと言えども一旦はホムラにターンを返していた。
だとしたら、やはり『完全虚構証明』自体が攻撃的な効果を持っているとは考えにくい。
もしも本当に私をこのターン中に仕留め切れる算段があったとして、いったいどうやってここからダイレクトストライクまで持っていくつもり……?
訝しむ私に、無空さんはエリアの効果を淡々と説明する。
「『完全虚構証明』の効果。私の場のカードが持つすべての『虚構定理』は、条件を満たしていなくとも条件を満たしたものとして扱う」
「――えっ……!?」
| 完全虚構証明 | |
|---|---|
| コスト10 | 属性:無 |
| エリア | 種別:虚数 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 【制約】:[存在制限](上限:同名/場に1枚) 〈※効果②~④は省略とする〉(省略された効果) ①??? ↓ ①自分の場のカードが持つすべての『虚構定理』は、条件を満たしていなくとも条件を満たしたものとして扱う。 |
「ということは……!」
私は弾かれるようにしてホルボルポルンを見上げる。
復活したシャボン玉がホルボルポルンを包み込み、その中で彼女がスヤァと幸せそうに眠りに入ると、闘技場のフィールドに再び無数のシャボン玉が舞い始める。
「そう。これにより『虚夢の精霊ホルボルポルン』の虚構定理の条件である場に出たターン中を満たしていなくとも、その効果と攻撃は有効になり、ターンエンドを迎えても破壊されなくなる」
「っ――!」
まずい、盤面ロックが復活した……!
それに……くっ。
……前の私のターン、わざわざ『虚構天使ホロエル』を犠牲にしてまで『ハリボテ人形』を場に残したのも、この状況を見据えてのことだったのね。
『虚構天使ホロエル』は場を離れた虚構定理の数が増すほどにそのステータスを増していく。
本来ならステータスが上がるのは良いことだけれど、盤面ロックとの兼ね合いに限っては完全な利点とは言いがたい。
なにせ『完全虚構証明』を場に出せる頃にもなると、ホロエルのATKは最低でも10000。これは私の『機械竜メガルーク・ナイン#レプリカ』のHPの最大値である9000を上回る数値だ。
そこまで上昇してしまうと、私の場で唯一『虚夢の精霊ホルボルポルン』の攻撃停止効果の影響を受けないメガルークレプリカがホロエルと戦闘を行った際に、私のメガルークレプリカが破壊されることになり……そうなれば私の場が1つ空いて、無空さんが仕組んだ盤面ロックが崩壊することに繋がる。
『完全虚構証明』を出せるようになった後でも盤面ロックを継続させたいなら、『機械竜メガルーク・ナイン#レプリカ』を破壊しないほどATKが低く、それでいて『ガード』を持ったサーヴァントが必要になる。
そのための『ハリボテ人形』だ。
ATKが0のハリボテ人形なら、残りHP2000のメガルークレプリカと戦闘をしてもメガルークレプリカを破壊しない。さらには、おあつらえ向きに『ガード』も持っている。
私の場で唯一攻撃できるメガルークレプリカの攻撃対象を『ガード』で『ハリボテ人形』に変更されてしまえば、メガルークレプリカは破壊されず、場から離れることができない。
無空さんの盤面ロックは、崩れない――。
このまま私の場のサーヴァントを処理されず、ターンエンドを迎えられたら、私はまた……!
「攻撃宣言。私はホルボルポルンでライフカウンターに攻撃」
| 水星エミリア | ライフ:5→4 |
|---|
……いえ、大丈夫よ。
落ちつきなさい……冷静になれ、私。
私には次のターンスタート時のドローに加え、『スクラップ・リサイクル』のドロー効果もある。
合計2枚のドロー……前のターンの通常のドローと『スクラップ・リサイクル』を合わせれば、その数は合計4枚にもなる。
残った私のデッキにこの盤面ロックを突破できるだけの効果を持ったカードが一割程度しか入っていないと仮定した場合、2枚のドローでは単純計算で「(0.9×0.9)×100」となり、私が解決札を引けない確率は81%と非常に高かった。
だけど4枚ともなれば「(0.9×0.9×0.9×0.9)×100」で、65%ほどにまで減少する。
解決札を引けない確率が65%なら、逆に、引ける確率は35%ということ。
加えて実際にはここまで単純な計算ではなく、カードを引けば引くほどデッキの中身は圧縮され、欲しいカードを引ける確率は尻上がりに上昇していく。
35%……半分の50%よりも低いとは言え、現実的にあり得る範疇の数値だ。
少なくとも、不利な状況下から逆転の運命を委ねるにはじゅうぶんすぎるほどの確率。
この状況から勝利を手繰り寄せることは、決して不可能と言えるほどのことじゃない!
「……もしかしてまだ、次の自分のターンが来るって思ってる?」
しかし、そうして食らいつく意志を見せる私を一瞥し、無空さんは冷酷に目を細める。
「え……?」
「残念ながら、あなたが盤面が固まった今の状況で使える『Qアクション』を持っていない時点で、勝負はすでに決している。私にはあなたの死が見えている」
……無空さんの狙いは、盤面ロックの復活じゃない……?
困惑する私を置いて、無空さんはまるで詰めデュエルでもするかのごとく迷いなく、そして丁寧にカードを場に置いた。
「私は『虚構論構築』で持ってきた『無縁塚の墓守』を3エナジーで召喚する」
| 無縁塚の墓守 | |||
|---|---|---|---|
| コスト3 | 種別:虚数/アンデッド | ||
| 属性:無 | ATK 1000 | HP 4000 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①『虚構定理』=条件:墓地にサーヴァントが存在する。 ②『アクセル』 ③自分のライフカウンターの数が2つ以下なら、『アサシン』を得る。 ④召喚時に発動可能。手札を2枚まで消滅させてもよい。消滅させた数に応じて以下の効果を得る。 ・1枚以上:攻撃時に発動可能。カードを1枚引く。 ・2枚:攻撃時に発動可能。攻撃権を回復する。その後、この効果を失う。 ⑤攻撃時に発動可能。デッキからサーヴァント1枚を墓地へ送る。 |
「『無縁塚の墓守』は自分のライフカウンターの数が2以下なら『アサシン』を得る。さらに召喚時の効果を発動。手札を2枚まで消滅させ、消滅させた数に応じた効果を獲得する。私は手札の『虚無』を2枚消滅させ、攻撃時にカードを引く効果と、一度だけ攻撃権を回復できる効果を獲得させる。さらに墓守は『アクセル』を持っているから、場に出たターンでもサーヴァントへ攻撃が可能」
「『アクセル』……『フルアクセル』じゃないなら、サーヴァントには攻撃できても私のライフカウンターへは攻撃できないわよ」
「そうね。だけど『虚夢の精霊ホルボルポルン』が場にいる今なら、『アクセル』は
「……? それはどういう……」
「攻撃宣言。『無縁塚の墓守』で『機械兎』に攻撃」
「なっ……自分から盤面ロックを崩すつもりっ?」
このまま戦闘に入った場合、『機械兎』のATK1000のダメージを受けてもHP4000の『無縁塚の墓守』は場に残るものの……墓守のATK1000に、HP500の機械兎は耐えられない。
そうでなくとも、今の無空さんのライフカウンターの数は2。ライフカウンターが2つ以下の今、『無縁塚の墓守』は自身の効果で『アサシン』を得ている。
『アサシン』を持つサーヴァントは戦闘時、ダメージを与え合った後でそのダメージの量にかかわらず相手のサーヴァントを破壊してしまう。
そうなれば私の場が空くことで、彼女が私に仕掛けた盤面ロックが解除され、私は新たなサーヴァントやエリアを使用できるようになる。
仮にこのターンで私を仕留め切れる算段があるにしても……私は前の私のターン、ろくにカードを使用できなかったことで未消費のエナジーが5も余っている。
場が埋まっていた時には使えなかっただけの、強力な『Qアクション』を持ったサーヴァントが私の手札にいないとも限らない。そうなれば彼女が描いているプランは一気に崩れる危険を孕む。
獲得した攻撃時の効果を使いたいとは言え……いくらなんでも盤面ロックを自ら崩すのは悪手だ。
「この瞬間、『無縁塚の墓守』の攻撃時効果を3つ発動する。1つはデッキから無属性サーヴァントを墓地へ送ること、1つはカードを1枚引くこと、1つは1度だけ自身の攻撃権を回復すること」
「……どれも強力な効果だけど。『機械兎』に攻撃をしている時点で、盤面ロックが崩れることは変わらないわよ?」
「まだわかっていないみたいね。さらに私は『虚夢の精霊ホルボルポルン』の効果を使う。このサーヴァントのATK以下のサーヴァントが攻撃する時、その攻撃を停止させる」
「っ……! そう、そういうこと……その効果は、自分のサーヴァントの攻撃時にも使えるのね。確かにそれなら、あなたは『無縁塚の墓守』の攻撃時効果を安全に使うことができる」
攻撃そのものが停止させられたとしても、攻撃時というタイミングをトリガーに発動された数々の効果自体は無効にはならない。
無空さんは淡々と効果の処理を始めた。
「私はデッキから『虚無龍ヴァニタス』を墓地へ送り、カードを1枚引く。さらに『無縁塚の墓守』の攻撃権を回復させるとともに『虚夢の精霊ホルボルポルン』の効果で墓守の1度目の攻撃を停止。これにより『機械兎』との戦闘は行われなくなる。そして――」
無空さんがホルボルポルンを見上げ、スッと鋭く目を細める。
「ホルボルポルンはこの効果を使った後、自身の攻撃権を回復する」
なっ――。
「攻撃権を回復……!?」
「回復した攻撃権を使って、『虚夢の精霊ホルボルポルン』でライフカウンターに攻撃」
ホルボルポルンは瞼を閉じたまま、シャボン玉の中で幸せな夢を見ているかのように無垢に笑う。
それと同時に一気にシャボン玉の数が増し、私のライフカウンターへと襲いかかった。
| 水星エミリア | ライフ:4→3 |
|---|
「さらに私はもう一度『無縁塚の墓守』で『機械兎』に攻撃する。墓守の効果でデッキから『虚壁少女ノーバスティ』を墓地へ送り、カードを1枚引く。そして『虚夢の精霊ホルボルポルン』の効果で攻撃を停止させ、ホルボルポルンの攻撃権を回復。そのままホルボルポルンでライフカウンターに攻撃」
「くっ、ぅ……!」
| 水星エミリア | ライフ:3→2 |
|---|
「さらに私はエナジーをチャージし、残った4エナジーすべてを使って『無死の怪物』を召喚」
| 無死の怪物 | |||
|---|---|---|---|
| コスト4 | 種別:虚数 | ||
| 属性:無 | ATK 3500 | HP 3500 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①『虚構定理』=条件:後攻4ターン目以降。 ②場に出た時に発動可能(上限:同名/1ターンに1回)。墓地のサーヴァントを1枚選択して手札に戻す。そのコストが「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」以下なら、手札に戻すのではなく場に出してもよい。 |
「場に出た時、墓地のサーヴァント1体を手札に戻す。ただしそのコストが私の場を離れた虚構定理を持つカードの数以下なら、手札に戻すのではなく場に出せる」
今の無空さんの場を離れた数は、10。
ほとんどどんなサーヴァントでも出せる圧巻の数だ。
「私は墓守の効果で墓地へ送っていた転生サーヴァント『虚無龍ヴァニタス』を選択する。ヴァニタスのコストは6。よってそのまま場に出せる。そして、私はその転生元に『無死の怪物』を選ぶ」
ここまで来れば、私にも彼女の目に映る戦場の未来が見えてきていた。
死神の手による、私の敗北――私の死という、決して変わらない結末が。
「触れるものすべてを無に帰す。降臨せよ、『虚無龍ヴァニタス』」
| 虚無龍ヴァニタス | |||
|---|---|---|---|
| コスト6 | 種別:虚数/ドラゴン | ||
| 属性:無 | ATK 7000 | HP 9000 | |
| 転生サーヴァント | 条件: コスト4以上の無属性サーヴァント1枚 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 【制約】:[転生サーヴァント] ①『虚構定理』=条件:転生素材を持っている。 ②『ストライク2』 ③場に出た時、「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」を+2する。 ④「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が6以上なら、以下の効果を得る。 ・サーヴァント以外のカードの使用、または他のカードの発動効果に反応して発動可能。そのカードをゲームから消滅させる。その後、「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」を1減らす。 ⑤「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が減る時、代わりにこのサーヴァントの転生素材を1つ取り除いてもよい。 |
黒き血が流れる白き龍が降り立ち、禍々しい赤い力の波動をまき散らす。
「転生サーヴァントは召喚硬直のルールを適用しない。よって場に出たターンでもライフカウンターに攻撃が可能。私はヴァニタスでライフカウンターに攻撃。『ストライク2』によりカウンターを2つ破壊」
| 水星エミリア | ライフ:2→0 |
|---|
「これで最後。私は『ハリボテ人形』でエミリアにダイレクトストライク」
『ハリボテ人形』のATKは0だから、この攻撃が通ったところで私は仕留め切れない。
けれど彼女の場には『虚夢の精霊ホルボルポルン』がいる。
つまり……。
「この瞬間、『虚夢の精霊ホルボルポルン』の効果。その攻撃を停止させ、自身の攻撃権を回復する。回復した攻撃権を使って、ホルボルポルンでダイレクトストライク」
「……やっぱり、まだ届かない……か。さすがね。無空さん……」
巻き上がったシャボン玉が波となって一斉に私を襲い、私の体が完全に飲み込まれる。
| 水星エミリア | ライフ:0→×(敗北) |
|---|
死神の刃が私の首を刈り取り、デュエルの勝敗が決した。
デッキ構築やプレイングなど、反省点もたくさん見つかるデュエルだったけれど……。
デュエルが始まる前と異なり、敗北する最後の瞬間の私の心に恐怖はなかった。
とても悔しかったけれど、なんだかちょっと楽しくて。
このデュエルを通して、ほんのわずかでも無空さんの心に触れられたことが……私は少し誇らしかった。
①【手札で有効】このサーヴァントを召喚するために必要なコストは-Xされる。(Xは相手の場のカードの数を2で割った数。端数切り捨て)
②『Qアクション5』=条件:相手のサーヴァントの攻撃時。
③『虚構定理』=条件:場に出たターン中。
④場に出た時、「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」を+1する。このサーヴァントのATK以下のATKを持つ他のサーヴァントの攻撃中に場に出たなら、その攻撃を停止させる。
⑤このサーヴァントのATK以下のATKを持つ他のサーヴァントの攻撃時に発動可能。その攻撃を停止させる。このサーヴァントの攻撃権を回復する。
①カードを1枚引く。
②場の「#レプリカ」と名のつくサーヴァント1枚を選択する。そのサーヴァントが破壊された時、それを1枚複製して手札に加え、召喚するために必要なコストを0にする。
①『ガード』
①『虚構定理』=条件:「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が5以上。
②『アクセル』
③『ガード』
④場にある限り、このカードのコストは「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」と同じとして扱う。
⑤ATKとHPに「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」×1000を+する。
⑥「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」がX以上なら発動可能。以下の効果から1つを選択して適用する。(Xは指定された数)
・X=10:エリア「完全虚構証明」1枚を生成して場に出す。
・X=15:このカードを「???」に書き換える。
・X=20:???
⑦自分のターンエンド時に発動可能。カードを1枚引き、攻撃権を回復する。
・1回以上:『アクセル』を得る。
・2回以上:エナジーにチャージできない制約を無視する。
・3回以上:場にあるならATKを+2000する。
・4回以上:召喚するために必要なコストを半分にする。(端数切り上げ)
・5回以上:ライフカウンターへ攻撃できない効果を無視する。
・6回以上:『フルアクセル』を得る。
③自分のターンエンド時に発動可能。自分の場の『虚構定理』を持つすべてのサーヴァントのダメージを全回復する。
④???
カード制作裏話
・虚無
虚無はいつだって彼女が歩む道を祝福している。
・ハリボテ人形
次のターンに勝負を決め切れず、ロックを継続しなければいけない可能性を考慮して場に残された。が、結果的にはホロエルとどちらを残しても変わらなかったようだ。
・虚構天使ホロエル
犠牲になったのだ。盤面ロックを維持するための犠牲…その犠牲の犠牲にな…。
・虚構論構築
場を離れた虚構定理を+1して万能サーチするスペル。当然ながら虚構定理のカードプールが増えれば増えるほど価値は上がっていく。手札にQアクションを抱えなければ相手の攻めへのカウンターが難しいこのDCGでは、ドローソースと確定サーチほど有用な効果はない。
・完全虚構証明
ホムラ戦ではついでに出しただけだったが、今回はキーパーソンとなった。一番の目玉は虚構定理の条件を満たしているものとする効果。ホルボルポルンのように非常に厳しい虚構定理条件を持つ代わりに強力な効果を内蔵するカード群を十全に活かせるようになる。とは言え、そういったカードばかりデッキに入れていると序盤中盤の動きが半端になり、完全虚構証明を出す前に死んでいくだろうことは想像にかたくない。採用は控えめにして虚構論構築等で必要な時に持ってくるのが吉。
・虚夢の精霊ホルボルポルン
完全虚構証明がある時に出すとATK5000以下の攻撃停止が永続して使えるようになるので非常に強力。本編のように攻撃権を回復する効果を活用した攻撃的な使い方もできるので、状況によっては完全虚構証明がなくても自分のターン中に出すことも考えられる。攻撃を停止させることはできても攻撃時効果が有効なままなのはメリットでもありデメリットでもある(相手の攻撃時効果も止めることができない為)。
・無縁塚の墓守
手札を2枚まで消滅させることで追加の攻撃時効果を獲得できるサーヴァント。すべての条件が揃った状況ならアクセル&アサシン、攻撃時墓地送り&カード1枚ドロー&1度だけ攻撃権回復というハイスペックサーヴァントと化す。墓地送りの対象はサーヴァント限定なものの、無属性等の縛りはない。好きなカードを墓地へ送りながら盤面の処理ができる点は優秀で、劣勢でのアサシン獲得による巻き返しもあり汎用性が高い。弱点としては本体のATKは1000と貧弱なことと、アクセルで当たることができる相手サーヴァントが場にいなければ攻撃時効果を使えないこと。ちなみに無縁塚とは、弔ってくれる縁者がいない人たちのお墓のこと。墓守と名がつくくせにガードを持っておらずアクセルを持っている理由は簡単で、墓守という役割は墓守くんが勝手にそう思っているだけで、墓守くん自身が無縁塚に埋まっている本人だからである。種別アンデッドもそれを証明している。
・虚無龍ヴァニタス
今回はただのストライク2役として出演。ホロエル、ホルボルポルン、ヴァニタスの3体が場に揃うと、ホロエルが他の2体を守りながらアド稼ぎ、ホルボルポルンが雑魚止め、ヴァニタスが強者止めと隙がない。もっとも、それほど戦いが後半にもつれ込んでいるのなら、その布陣を無理に狙うよりも相手を仕留めに行った方がたぶん早い。