可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
〈――決まったぁぁぁあああ!! 息もつかせぬ攻防! 蒼き彗星から降り注ぐ無数の流れ星を押しとどめ、鮮やかに勝利を飾ったのは――Aクラス代表! 無空メイだぁぁああっ!〉
ワァァァ、と歓声が沸き上がる中、私こと無空メイは構えていたデュエルガントレットを下ろす。
……エミリアに勝った。
いつも通り、私とホロエルの勝利だ。
だが余裕の勝利だったのかと聞かれれば、そんなことはなかったと否定せざるを得ない。
かつて戦ったホムラと同等以上の実力があることを加味した上で、最初から相応に覚悟してデュエルに臨んだのだが……それでも紙一重の勝利になってしまった。
過去のデュエルの記録。そして、ここまでのトーナメント戦。
それらによって互いに手の内を知った上での対戦は静かな読み合いから始まり、中盤に入るまではほとんど互角だったと言っていい。
流れの変わり目となったのは、やはり『機械都市アクシス』……そして『機械竜メガルーク・ナイン』の存在だ。
おそらく私との対戦に備え、ここまで温存し続けていたエミリアの新しいデッキの軸と、新しいエース。すべてが既知だったデュエルの中に舞い降りた2枚の未知のカード。
『機械竜ルーク・セブン』という既知のエースの情報があったがゆえに惑わされ、『機械竜メガルーク・ナイン』の除去を安直に選んでしまったことをきっかけに、私は後一歩で負けるというところまで追い込まれた。
しかし最後には私もまたエミリアにとっての未知である『虚夢の精霊ホルボルポルン』を繰り出すことで、『完全虚構証明』による補助と合わせて勝利までこぎつけることができた。
もしも過去のホムラとの戦いや、ここまでのトーナメント戦でホルボルポルンを使ってしまっていたなら……。
エミリアにもその存在を前提に警戒して立ち回られ、もっと厳しい勝負になっていたことは想像にかたくない。
少なくとも盤面ロックは成立しなかっただろう。
負けたとまでは言わないが、今回仕掛けたような勝算の高いそれとは異なる、五分五分以下の賭けに出ざるを得なくなっていたかもしれない。
もっとも……これはあくまで、今回のように私が『機械竜メガルーク・ナイン』の存在を知らなかった場合の仮定だけれど。
互いの新たな切り札を把握した今、次に戦うことがあれば互いの展開や立ち回りは別物になる。
デュエルに……戦場に、絶対の勝利の保証なんてものはない。
ホロエルと一緒に教団を脱走したあの日から、私は今日まで一度も負けることなく生き残ってきた。
だけどそれが本当に奇跡的なものだということは、私だって理解しているつもりだ。
どんなに強いデュエリストでも、一瞬の油断や気の緩みをきっかけに敗北を喫した事例はごまんとある。
事実、メガルークが持っていたレプリカを生成する効果を読み損ねたことで、私は今回その事例の一つになりかけた。
賭けに勝って、どうにか勝負を制することはできたけれど……いつまでも私に幸運の女神が微笑み続けてくれるとは限らない。
今日はなんとか生き残ることができた。だけど明日は? 明後日は?
すべての生き物に寿命があり、誰も死からは逃れられないように、私も虚無に帰る宿命から逃れることはできない。
……それでも。
いずれ死に行く定めでも、誰しもが今日を生きようと必死に生き足掻いているように。
すべてを失うことが定めでも、私もその最期の一瞬を迎えるまでは抗うことをやめるつもりはない。
一秒でも長くホロエルと一緒にいるためなら、私は何度だって戦場に身を投じ、この命を懸ける。なにがあろうと勝ち続ける。
それこそが私、無空メイというデュエリストの在り方だ。
「……はぁー……どんなに自分に言い訳をしても……やっぱり、負けるのはどうしようもなく悔しいわね」
膝をつき、顔を伏せていたエミリアが苦笑交じりに首を横に振ると、鬱屈とした思いを断ち切るように、すっくと立ち上がった。
私を見つめる彼女の目に、恐怖はない。絶望はない。
いつかどこかで見た燃えるような赤と同じ、強い芯を感じさせる水色の瞳が私を映している。
私に近づくと、エミリアは穏やかに微笑みながら私に手を差し出した。
「さすがね、無空さん。相手の思考を的確に見透かす洞察力も、盤上に囚われず全体を見通す広い視野と戦術眼も、どんな不利な状況下でも勝つための最善の一手を模索し続ける精神性も……あなたが振るう死神の刃は本当に鋭くて、美しかった」
「エミリア……」
「完敗だわ。学年最強の座は紛れもなくあなたのものよ。クラス代表対抗戦の優勝おめでとう、無空さん」
私は、エミリアが差し出してくれている手を見下ろす。
「……以前ホムラと戦った時も、ホムラは今のエミリアみたいに私に手を差し出してくれた」
私はあの時、すぐにはホムラの手を取ることができなかった。
今もそうだ。私は、このエミリアの手を取っていいかどうか迷ってしまっている。
「だからこそ、あの時ホムラに問いかけたように、あなたにも問いたい。どうしてあなたたちは、そんな風に平然と私に手を差し伸べられるの?」
「どうしてって……」
「ホムラがそうだったように、あなたはデュエルを通して私からなにかを感じたのかもしれない。私の一端を理解できたのかもしれない。だけど、もしそうだとしたら……わかったはず。私とあなたたちは、根本から違うんだと」
エミリアを直視することから逃げるように、私は彼女から顔を背けた。
「私はデュエルの時、戦う相手を倒すべき敵としか思ってない。だから当然、あなたやホムラみたいに、デュエルを通してその人の心を感じられたこともない」
「敵、ね」
「開会式の時、エミリアは私と友達になりたいって言ってくれた。デュエルをした後なら、より強くそう思えるようになるとも。でも、私にとってのデュエルは……勝つことだけがすべてなの。勝つためなら私は、友達になりたいと笑いかけてくれた相手の心に二度と消えない恐怖を植えつけて、傷つけることさえ
「うーん、そうね……」
私の問いかけにエミリアは一旦手を引っ込めると、しばしの沈黙を挟んだのち、くすりと笑って答えた。
「ここだけの話。実は私も昔、ホムラを殺しかけたことがあるわ」
「え」
「勝つとか負けるとかそういうのじゃなくて、本当の意味での殺しね。詳しくは口止めされてるから言えないけれど……二年前の中学二年生の頃に、いろいろとね」
さすがに冗談かとも思ったが、朗らかに微笑む一方でエミリアの目は至って真剣で、嘘を言っているようには見えなかった。
「だからきっと、あなたが私に対してしようとしたことなんて些細なことなのよ」
「些細なこと……」
エミリアは頷くと、私の目をまっすぐに見つめながら、さらに続ける。
「あなたの言う通り、このデュエルで私は少しだけどあなたのことを理解できたつもりよ。そして、だからこそ思うわ。あなたと友達になれたなら、私はそのことをなによりも誇らしく感じる」
「誇らしく……?」
「あなたほど純粋に勝利を欲しているデュエリストはいないもの。誰よりも強く、誰よりも孤高な、世界一の負けず嫌い。あなたはきっと勝つためなら、デュエルを楽しいと感じる気持ちさえ捨ててしまえる」
「……」
「そんなあなたの在り方を、人は空しいと評するのかもしれない。苦しそうだって憐れむのかもしれない。だけどそんな風に人が好き勝手に言うだろうあなたの心の奥底が、私には少しだけわかる。だって……私も目指してるもの。世界の誰よりも強くて優しい人になることを」
「強くて優しい人……それってデュエルの前に言ってた、エミリアの夢?」
「ええ、そうよ」
エミリアは自嘲気味に笑いながら、彼女自身のデュエルガントレットに括り付けられた猫のキーホルダーを握り締める。
「バカげた夢だってことはわかってるわ。優しさなんて本来、誰かと比べるようなものじゃない。本当に強くて優しい人は、その時その瞬間に当たり前のように取るべき行動を取れる。強く優しくあろうと意識している時点で、その言動は結局のところ偽物でしかない」
「ならエミリアは、叶わないってわかってるのに、その夢を目指してるの?」
「そうよ。でもね……しょうがないのよ。だって、そうなりたいって思っちゃったんだもの。私に人の心の温もりを教えてくれた大好きな人が、私の頭を撫でてくれた時に。自分を殺そうとした相手さえ心から案じるバカな親友に、思い切り抱きしめられた時に……私もこんな温かい人になりたいんだって、思っちゃったから」
「……」
「たとえ本物になれなくても、永遠に偽物のままだとしても……手を伸ばさずにはいられない。それが私、水星エミリアという人間よ。こんな私を、あなたは愚かだって笑うかしら?」
「……笑わない」
私の返答にエミリアは心から嬉しそうに微笑むと、再び私に向けて手を差し出した。
「ねえ、無空さん。私は、私の夢を笑わなかったあなたと友達になりたい。あなたのことをもっと知りたい。そして私のことを、あなたにも知ってほしい」
「……いいの? 本当に……私なんかが友達で」
「なんかじゃないわ。他でもないあなただから、私は友達になりたいと思ったのよ」
私は、エミリアの差し出した手を見つめる。
臆病な私は……まだ迷ってしまっていた。
私はエミリアから視線をそらして、隣を見る。
デュエルが終わって、私にだけ見える状態で実体化してくれているホロエルを。
困った時や、どうしていいかわからなかった時、私はいつもこうしてホロエルに判断を委ねていた。
だけど……私はこの時なんとなく、彼女がどんな反応を返してくるかがわかっていた。
「……うん」
ホロエルは言葉を話せない。だけど私にはその意思がわかる。
ホロエルは言った。「マスターが自分で考えて、どうしたいか自分で決めて」と。
慈しむように笑いながら、本当はもう答えが決まっているだろう私の背中を押すように。
……ホロエルは、いつも私を導いてくれる。
だけどその導きは決して強引なものじゃない。私の幸せを願い、私が進むと決めた道を踏み外さないように支えてくれる、優しい導きだ。
いつか、ホロエル以外いらないと私が人との繋がりを拒絶した時……ホロエルは私が孤独に押しつぶされないよう、私にだけ見える状態を維持する練習をして、私に寄り添い続けてくれた。
両親に見捨てられた時の感覚を忘れられず、笑うことができなくなってしまった私に、何度だって明るく笑いかけて、長い時間をかけて私の心の傷を癒してくれた。
学校に通おうと言い出した時はさすがに驚いたけど……それも決して強制するようなものではなく、あくまで選択肢を提示するだけに留めていた。
ホロエルは私がなにか自分の未来を決定づけるような選択をする時、必ずその決断を私の意志に委ねる。
そしてその決断がどのようなものであろうと、私が選んだ道を祝福し、支えるために全力を尽くしてくれる。
だからきっと、ホムラと友達になったあの日……もしも私がホムラの手を拒絶して学園を去ることを選んでいたとしても、ホロエルはその決断をした私を尊重し、寄り添い続けてくれただろう。
ホロエルさえいてくれればいいと他人を拒絶し続けた私なら、仮にその道の果てで破滅したとしても、悔いのない死を迎えられるはずだ。
……でもそれじゃあ、私は良くてもホロエルが心からは笑えない。
私は欲しい。ホロエルが私のためじゃなく、自分のために笑えるようになる世界が。
今の私には見えなくとも、人と人との繋がりの先に見えるかもしれないなら。
それが叶わない夢かもしれなくても……太陽に近づき続ける水星のように、私はその道を進みたい。
私が迷っている間も、エミリアはなにも言わずに手を出したまま待ってくれていた。
そんな彼女に感謝するとともに、私は意を決してエミリアの手を取った。
「よろしく、エミリア」
「ええ。これからよろしくね、無空さん」
観客席までは距離的に私たちの会話は聞こえていないはずだが、それでも握手をしたことで、デュエルを通して私たちが互いを認め合ったことを察したのだろう。
私たちの健闘を称えるような盛大な歓声が沸き上がり、再び闘技場を埋め尽くす。
「ふふ。それじゃ、閉会式まで少し準備があるみたいだし……私たちも一旦自分のクラスに戻りましょうか」
「うん。また閉会式で。エミリア」
「ええ。また閉会式で、ね」
そうして私たちは闘技場を去って、待機室に戻った。
ただ……エミリアと再会したのは閉会式じゃなくて、クラスメイトが待っているだろう観客席への階段の前だったけれど。
なんとなく気まずい雰囲気が漂う中、さらにそこへ階段を駆け下りてきたホムラに「良いデュエルだったよー!」と突撃されて……私は躱したのだが、避けきれなかったエミリアは抱きしめられた勢いのままホムラと二人して転んでいた。
「あなたねぇ……!」
「ご、ごめんってぇ……」
ホムラを床に正座させて説教をするエミリアと、シュンと項垂れながら、ひっそりと私に助けを求めるような視線を向けてくるホムラ。
そんな賑やかな二人を眺めながら、私はホロエルと視線を交わし合い、小さく笑い合うのだった。
「――お嬢様。三学年ともに、今期のクラス代表対抗戦の結果が出たようです。それぞれのデュエルの記録をまとめてサーバーに保管し、コピーの記録を机の上に置いておきましたので、ご興味があるようでしたら拝見を……」
国立クロワッサン学園、生徒会室。
窓から夕陽が差し込む中、制服を完璧に着こなした少女――
しかし机の上に置いておいたはずのメディアケースがすでに開かれており、記録媒体であるディスクがなくなっていることに気がつくと、その言葉も途中で止まってしまった。
そこから視線を横に動かせば、大人びた金髪の少女が食い入るようにパソコンの画面を見ている姿が見て取れる。
画面に映っているのは、銀髪の少女と水色の髪の少女による一進一退のハイレベルなデュエル。
パソコンから聞こえるディスクを読み取っているような音から察するに、報告するまでもなく、すでに彼女はその内容に目を通しているようだった。
「イサネ」
弦楽器が音を奏でたかのような優雅で美しい声が、生徒会室に響く。
いつの間にやら大人びた金髪の少女――
「学園では会長と呼びなさいといつも言っているでしょう?」
「申しわけありません。お嬢さ……会長」
「……」
「…………おじょ、こほん! ……会長は、そちらの記録が気になっているのですか?」
気まずい雰囲気を断ち切るようにイサネが問いかけると、ノゾミは憂いを残すように頷いた。
「ええ……見てください、イサネ。こちらの銀髪の子が使っているカードを」
「使っているカード? ……っ、これは……」
≪このカードは、墓地のコスト1以下のサーヴァント1体を蘇らせる。ただし私の場を離れた『虚構定理』の数が5以上なら、2体まで場に出せる≫
≪コスト1……ということは≫
≪私が選択するのは、コスト0の『ハリボテ人形』と……コスト1の『虚構天使ホロエル』≫
今使用されたスペル。そしてそれにより出現した、神秘的な雰囲気を漂わせる銀髪の天使。
間違いない。これは……。
「無属性のカード……!」
「ええ。一枚や二枚なら、偶然手に入れた程度で済みましたが……彼女のデッキは、そのすべてが無属性のカードで構成されています。となれば、おそらく彼女は……」
「……虚無の教団の関係者」
イサネが出した答えに、ノゾミはこくりと頷いた。
「調査が必要です、イサネ。彼女の名前は無空メイ。この学園の一年生です。学園に来る前のことも含めて、その経歴とデュエルの記録を洗いざらい調べ上げてください」
「かしこまりました。すぐに」
イサネが急いだ様子で生徒会室を去るのを見送ると、ノゾミは再びパソコンに視線を戻す。
そしてそこに映る銀髪の天使を見つめ、ますます険しい表情を浮かべる。
「……虚構天使。教団の関係者が、この名を口にしているところを見たことがあります。まさかとは思いますが……」
ノゾミは手慣れた仕草で、自身のデュエルガントレットに手を添える。
するとノゾミのそばに、ノゾミと同じ金色の髪を持つ天使の少女が半透明の状態で姿を現した。
「ラフィエル。いざとなればあなたの力を借りるかもしれません。頼みましたよ」
天使が頷くのを確認すると、ノゾミは再びパソコンの映像に視線を戻す。
「……無空メイ。あなたは一体、何者なのですか……?」
その質問に答える者はなく、画面の向こうでは銀髪の天使が槍を構えながら、訝しむノゾミをあざ笑うような不気味な笑みを浮かべていた。
次回は掲示板の予定です!
デッキ紹介
・水単メカ軸ミッドレンジ(使用者:水星エミリア)
ホムラ「いやぁ、すっごいデュエルだったね! やっぱり私もあの中で戦いたかったなぁ…よし、今度生徒会長にクラス代表を2人にできないか直談判しよう! …え? エミリアのデッキ? 水属性単体で構築されたミッドレンジデッキだよ! 私が使ってた火属性のミッドレンジよりもエンジンがかかるのは遅いけど、リソースの回復手段が豊富で滅多に息切れしないのが強みだね! 切り札の機械竜がセブンとナインで二種類いるおかげで、切り札が引けてないって事態に陥りにくいのも安定性に拍車をかけてるよ! 弱点と言えるほどの弱点はないけど…強いて言うなら準備の多さと、デッキ構築の不自由さが一番の課題かも。準備で言うと、まず序盤はたくさんメカを破壊してA・O・Dで機械都市アクシスを呼び出す時のコストを下げておきたいよね。その上で手札にメカを溜めて、切り札を有効に活用するために確保しておかないといけないよね。さらにその後メガルークナインの方を軸に攻めていくなら、アップデートの回数も稼いでいかないといけないよね。これ全部達成していくのって実は結構大変だと思うんだよねぇ。それからデッキ構築の不自由さについてだけど…切り札の機械竜はセブンもナインも両方とも手札に大量のメカを要求するから、メカ系統以外のカードをデッキに入れすぎるとうまく動けなくなっちゃう。かと言ってメカだけだと、テーマに沿った決められた動きしかできないから動きを読まれやすい。メカと戦うのが慣れてない初見の相手ならいいかもだけど、戦術を読まれて対策を講じられちゃったらだいぶきつくなっちゃうんじゃないかなぁ。ただ…逆に言えば、メカとメカ以外のカードの配分をきっちり考えて、メカ以外のカードも含めて応用性を高めたデッキを組めたら、今よりもっと強くなれちゃうかも? もしそうなったら…うー! 話してたら私もエミリアとデュエルしたくなってきちゃった! 私ちょっと行ってくる!!」