可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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◇「CROSS WORLD -SUNBREAK-」運営です。
カードの能力の下方修正をお知らせいたします。
対象カードは「虚けな平等主義」。修正される効果は以下の通りです。

修正前
「②自分または相手の場のサーヴァント1体を選択して以下の効果を付与する。
・攻撃時に強制発動。お互いのプレイヤーはカードを1枚引く。」
 ↓
修正後
「②自分または相手の場のサーヴァント1枚を選択する。それが「虚けな平等主義」で付与された効果を持っていないなら、以下の効果を付与する。
・攻撃時に強制発動。お互いのプレイヤーはカードを1枚引く。(上限:1ターンに3回)

◇変更に至った経緯。
「虚けな平等主義」は0コストで変則的にカードを引くことができるカードとして設計いたしました。
このカードの使用によって使用者は1枚の損失を被り、その後の効果でお互いにカードを引いていくことから、基本的には相手の方が手札のアドバンテージを1枚分多く獲得できるようになっています。
また、効果によって攻撃権を回復して2度の攻撃が可能なサーヴァントに対して使用することで2枚のカードを引くことや、「虚無龍ヴァニタス」との組み合わせによって間接的に攻撃を抑制する手段として機能することは、当初の想定のデザイン通りだったと言えます。
しかし以下のような手順を踏むことで、何度も攻撃と攻撃の停止を繰り返すことができる状態で使用されることは想定外の動きでした。

①同じプレイヤーの場に「虚夢の精霊ホルボルポルン」を2体用意する。仮にこれをAとBとする。
②Aに「虚けな平等主義」の効果を付与する。
③Aでの攻撃時、Bの効果を発動し、攻撃を停止させるとともにBの攻撃権を回復する。
④「虚けな平等主義」の効果で自分と相手はお互いにカードを1枚引く。
⑤Bでの攻撃時、Aの効果を発動し、攻撃を停止させるとともにAの攻撃権を回復する。
⑥「③」に戻る。

本来このようにプレイヤーの皆様の手によってカードの新たな使い方が考案されることは喜ばしいことだと感じております。
しかし今回挙げました例のような運用は、ターン中行動の制限時間が許す限り単一の行動を繰り返し続けるループによって、本来あるべき駆け引きを越えてデュエルの状況を大きく動かし、いずれかのプレイヤーの勝敗を一方的に決定づけしかねないものであり、私たち運営がポリシーとして掲げる自分と相手がともに楽しむという思想と反するものでした。
その為、プレイヤーの皆様に安心してゲームを楽しんでいただけますよう、修正に踏み入る判断を致しました。

以上になります。
今後とも「CROSS WORLD -SUNBREAK-」をよろしくお願いいたします。


24.それはダメ。これは私の家宝にする

「……ねね。ホロエルちゃん。いる?」

 

 ホムラとエミリア、そしてマスターとともに寮の部屋に戻る最中。

 マスターとエミリアが二人で話し込んでいることを確認したホムラは、二人から少しだけ離れるようにこっそりと歩く速度を下げると、どこかしらにいるだろう私に向かって小声で話しかけ始めた。

 はたから見れば虚空へと語りかける変な人だが、幸いなことに彼女のその奇行に目を留める者は、ホムラの行動を不思議に思って一緒に歩く速度を下げた私以外にはいなかった。

 

 というかまあ、マスターはしょっちゅうこの奇行やってるしね……。

 常日頃から一緒にいるせいか、ホムラも徐々にマスターの奇行を奇行とも思わなくなり、その価値観に染まってきてしまっているのかもしれない……。

 

 せっかく話しかけてくれたからには姿を見せてあげたいけど、ここはまだ寮の廊下なので、他の人に姿を見られてしまう可能性を考慮すると下手に存在の強度は上げられない。

 そんな私の事情はホムラも理解してくれているみたいで、私とは逆の方向を向いたまま彼女は続けた。

 

「この後の顔合わせの時にさ、せっかくだからエミリアを驚かせたいなーって。ホロエルちゃん、ちょっと協力してみない?」

 

 ほほう……詳しく話を聞かせてもらいましょうか!

 

 あらぬ方向を向いたまま、私がそこにいると信じて話し続ける彼女の視線の先に回り込むと、私はその悪だくみに耳を傾ける。

 そうして二人してイタズラっ子のようにほくそ笑んだところで、ホムラが近くにいないことに気づいたエミリアがこちらを振り返った。

 

「ホムラ? どうしたのよ、そんなところで。なにか気になるものでもあったの?」

「ううん、なんでもない! すぐ行く!」

「……」

 

 今、私の存在の強度は普段と同様にマスターにしか見えない状態を維持している。

 なのでエミリアからはホムラが一人でなにもない場所を見て笑っていたように見えただろうが、マスターの目には私とホムラがなにかを相談していたことがわかったはずだ。

 そんなマスターは私の楽しそうな表情からなにかを察したのか、隣にいるエミリアの方をチラリと見やる。

 

「まったくもう。高等部に上がってからはあなたの部屋には行ったことないんだから、ちゃんと私のこと案内してよね」

「えへへ、ごめんねー」

 

 いつもの調子でホムラと会話するエミリアの横顔を見つめ、しばらく悩む素振りを見せていたマスターだったが……最終的には傍観を決め込むことにしたようで、「まあいいか……」と視線を外す。

 ここでマスターがエミリアに私たちの企みを伝えてしまっていたらその時点で私とホムラのイタズラは失敗していたが、マスターはあくまで中立を保つつもりのようだ。

 

 そうして、この場にいる四人の中でエミリアだけがこれからなにが起きるかを知らぬまま、私たちはマスターとホムラの部屋に帰ってくる。

 

「それで? その私に会わせたい人って言うのは、いったいどこにいるのかしら?」

 

 ホムラとマスターが部屋に上がった後、脱いだ靴を丁寧に揃えたエミリアが二人に続いて中に入る。

 多くの学生が暮らす寮というだけあって、相部屋とは言え、二人で住むのがギリギリと言った広さだ。

 一つの部屋に二人分のベッドと机が左右で分かれて配置されていて、その左右それぞれの内装や状態に二人の個性が出ている。

 

 方や、開かれたままのカード図鑑やデュエリスト雑誌、大量のカードが入ったストレージと言った、デュエルに関係するもので散らばった机。

 ベッドの枕元に置かれたデフォルメされた2体の赤と黒のドラゴンのぬいぐるみが可愛らしく、少し色褪せていることから、長い期間にわたって大事にされているだろうことが窺えた。

 また、ベッドのすぐそばの床にはその住人が今朝まで着ていただろうピンクのパジャマが乱雑に脱ぎ捨てられており、その人物のだらしない一面が垣間見える。

 

 方や筆記道具以外になにも置かれていない机。

 ベッドの周辺にも物はほとんどなく、片づけられているというよりは、もしかして誰も使っていないのではという疑問が先に来てしまうだろうか。

 唯一、ベッドの足のそばに置かれた大きめの旅行鞄だけが、そこに確かに住人がいる事実を教えてくれる。

 

 これらの内装の状態は、前者がホムラで、後者がマスターだ。

 

 ホムラは正直、初めて抱いた印象通りだ。

 なにをするにもデュエルが第一で、他のことは少々疎かにしがちな生活スタイル。

 ただし一緒に住むマスターのことはちゃんと考えてくれているみたいで、机の上のような自分の領域以外は散らかしたりはしない。

 放置されてるパジャマに関しては……まあホムラ、朝は苦手っぽいから……。

 マスターはその辺りは問題ないが、基本的に他人の生活には不干渉を貫いているので、自分が起きていてもホムラを起こしてあげたりはしない。なのでホムラが寝坊しかけて急いで準備している姿はよく見かける。

 一度だけ、これ以上遅れたら絶対に遅刻するという時はマスターも起こしてあげてはいたけれど、その時はその時で寝ぐせそのままに登校していたりと、ホムラはとにかく朝が弱い。

 

 そしてマスターの方は……うん。

 ホムラのデュエルへのそれほどとは言わないまでも、正直マスターにはもうちょっと自分の趣味を持ってほしいところだ。

 とは言っても、今までが今まででもある。保護者もおらず、廃墟を拠点として転々と移り住んでいたマスターには、これまでは趣味を持とうと思えるだけの余裕もなかった。

 この部屋の中のマスターの領域が、これからの生活の中で徐々にマスターの色に染まっていってくれたらなと、私は密かに期待していたりする。

 

 閑話休題。

 二人の部屋に入ったエミリアは、二人が自分に紹介したいという相手を探すように部屋の中を見渡すと、床に散らかったパジャマに目を留めて、呆れたように腰に手を置いた。

 

「はぁ……ホムラ、あなたねぇ……」

「ん? エミリア、どうかし……あっ!? ……あ、あはは……い、今は私のことはいいじゃん! それよりほら、後ろ! 会わせたいって言ってた人が来たみたいだよ!」

 

 サッとエミリアの視線を体で遮って背中に脱ぎ散らかされたパジャマを隠したホムラが、お小言を言われるのを避けるようにエミリアの背後の玄関を指し示す。

 もう高校生なんだから自分のことくらいしっかりにとか、もっと生活習慣を考えてとか。

 いろいろとホムラに言いたいことがありそうにしつつも、待ち人を待たせるのは忍びないと思ったのか、エミリアは嘆息しながら後ろを振り返った。

 

「……? 誰もいないけれど……――きゃっ!?」

 

 ホムラが指を差した先。エミリアの背後の空間には、誰もいない。

 二人がエミリアに会わせたがっていた人――もとい私がいたのは、エミリアの真正面だ。

 

 私はエミリアが後ろを向いた一瞬の隙に存在の強度を上げ、自分の姿をマスター以外の人にも見えるようにすると、準備していた指笑顔(両手の人差し指をそれぞれ唇の端に当てて、グッと広げるような笑顔のこと!)を彼女の前で披露する。

 するとエミリアは突如目の前に現れた私に大層驚いたらしく、前を向くと同時に可愛らしい悲鳴を上げて尻餅をついた。

 

「じゃーん! というわけで、この子がメイちゃんのソウルハート・サーヴァント、ホロエルちゃんだよ!」

 

 望んだ通りのエミリアの反応に「ドッキリ成功! いぇーい!」と言った感じで仲良くホムラとハイタッチ(実体化まではしてないから体は透けるけど気持ち的にはハイタッチ!)をすると、私はエミリアのそばにかがみこんだ。

 エミリアは最初こそなにが起きたかわからないと言った感じに目を白黒とさせていたが、ニコニコと友好的に笑いかける私をしばらく見つめていると、次第に状況を理解できてきたようだ。

 はぁー、と大きなため息をつくと、彼女はその場に座り直して私と視線を交わし合う。

 

「ホムラとのデュエルの記録で初めてあなたを見た時は、もっと神秘的で儚い子だと思ってたけど……意外とイタズラ好きな子なのね」

 

 まったく、と。しかたがなさそうに肩をすくめながら、彼女は親しげに私に微笑みかける。

 

「初めまして……ではないのかしらね。知ってるでしょうけど、私は水星エミリア。よろしくね、ホロエルちゃん」

 

 うへへ。こちらこそよろしくだぞ!

 

 エミリアが手を差し出してくれるので、私もその手を握り返す。

 やっぱり私の体は透けてしまうけれど、エミリアもまたいつかのホムラと同じように、私と握手する形になるように握り加減を調節してくれていた。

 

「……で、ホムラ。なにか私に言うことはないのかしら?」

「え?」

 

 そうして一通り事が落ちついたところで、エミリアがホムラの名前を呼んで話しかける。

 が、その雰囲気は私と話した時の穏やかなそれとはまるで異なっていた。

 浮かべているのは私に向けていたのと同じ笑顔のはずなのに、一気に氷点下になったかのごとく冷たい空気が部屋を支配して ホムラは引きつった顔でエミリアを見返した。

 

「……え、えーっと……もしかして、怒ってる?」

「その疑問が出てくるってことは、怒られるようなことをした自覚があるってことよね?」

「い、いやぁ……でも今回はホロエルちゃんも一緒に……」

「これが元はあなたの悪知恵だってことくらい、長い付き合いなんだからすぐにわかるわ」

「ほ、ほらっ! こうすればエミリアもホロエルちゃんと一気に仲が縮まるかなって思って!」

「それはありがたい気遣いね。なら一つ聞くけれど、その気遣いと私をからかって遊びたいって欲求は、いったいどちらの方が割合が大きかったのかしら?」

 

 いつの間にやらエミリアは立ち上がってホムラに詰め寄っており、ホムラは壁を背にして逃げ場をなくしていた。

 

「……か……」

「か? 続きは? なにかしら。言ってみなさい」

「……からかって遊びたい方、です……」

「はい、よく言えましたッ!」

「いだだだだだだっ!? しょ、正直に話したじゃんっ! ぼ、暴力反対ーっ!」

 

 頭を両サイドからグリグリと拳で圧迫され、悶絶するホムラ。

 なんとか抜け出そうと抵抗していたが、プンスコモードに入っているエミリアには効果がいまひとつのようだ。

 

「ホ、ホロエルちゃんっ! 見てないで助けてよー!」

 

 最期には、共犯者である私に助けを求めるように手を伸ばしてきたが……悪いなホムラよ。すでに同盟は終わった。どうせだからそのまま私の罪も一緒に背負って裁かれてくれ。

 素知らぬ顔でお茶を飲むような素振りをしつつ、やっぱりこの二人は仲が良いなぁ、と微笑ましくじゃれ合いを見守る。

 

「うぅ~……頭がぐわんぐわんする~……」

 

 やがてエミリアによるお仕置きが終わると、ホムラがバタンと床にうつ伏せに倒れ込んだ。

 そのままどことなく恨めしそうに私を見上げてきたが……よしよしと頭を撫でてあげると、彼女は途端ににへらっと相好を崩す。

 ちょろい。

 

「まったくもう……って、あら?」

「ふふ、ふふふ……」

 

 本日何度目ともわからないため息をついたエミリアは、そこでマスターがなにやら一人で満足そうに微笑んでいることに気がついた。

 その視線の先には、彼女自身のデュエルガントレットから投射したミニ映像がある。

 

「……無空さん? なにを見ているの? ……まさかとは思うけど、それ、さっきの私が驚かされた瞬間の録画じゃないでしょうね?」

「…………そんなはずない」

「じゃあ、ちょっと私にも見せてくれないかしら?」

「……」

 

 スッ、とデュエルガントレットを装着している腕を背中に隠すマスター。

 これは紛れもなく黒ですなぁ……私以外でも見逃さないね。

 

 エミリアはマスターのそんな不審な行動にますます不信感を強め、彼女のすぐ目前まで近づいていった。

 

「ねえ、無空さん。その映像、できれば削除してほしいのだけど……」

「それはダメ。これは私の家宝にする」

 

 それはさすがに言いすぎでは……?

 詰め寄ってくるエミリアに対し、デュエルガントレットを背後に隠したまま、マスターはなぜか断固拒否の姿勢を取る。

 

 最初は冗談かとも思ったのだが、マスターの目はマジだった。本気と書いてマジと読むやつだ。

 こうなるとさすがに私も困惑してしまう。

 エミリアが驚いた瞬間の反応は、確かにだいぶ可愛かったけど……マスターってそこまでエミリアのこと好きだったっけ?

 や、二人とも友達なんだからもちろん仲は良好ではあるんだけどね。

 

 その点はエミリアも不思議に感じたのか、訝しげに首を傾げつつ、それならばと折衷案を提案する。

 

「なら……そうね。せめてその映像を私にも見せてちょうだい。もしもそれがさっきの私の録画なら、その……転んだ拍子で、私のスカートの中とかも映っちゃってるかもしれないし……その有無を自分の目で確認するくらいなら、許してくれるでしょう?」

「…………わかった」

 

 まあ、本人が嫌がってるのにそれを無視して動画なんて撮っていたら普通に盗撮なのでね……これを断る選択肢はない。

 というか、もしも断っていたら私がマスターに物申していたところだ。

 マスターのことは大事だけど、平気で人の心を踏みにじるような悪い子の道に逸れそうだというなら、私は何度でも彼女を諭すつもりだ。

 良い子になってほしいとまでは言わない。ただ、両親に裏切られて一度心が深く傷ついてしまった彼女だからこそ、そんな人の心の痛みがわからない子にはなってほしくない。

 たとえこれが、私のエゴだとしても。

 

「じゃあ、再生する」

「ええ、お願い」

 

 マスターはしかたがなさそうにデュエルガントレットを操作すると、手元にのみ動画を再生するミニ映像モードを再び起動した。

 私が今いる位置からは映像の中身が見れそうになかったから、できれば私もそっちに行きたかったけど……。

 もしもあの動画に本当にエミリアの危惧したようなものが映っているなら、あまり興味本位で見ていい映像でもない。

 それに私、エミリアを驚かせちゃった側だし。寝そべって絨毯になっているホムラと一緒に大人しくしているのが吉だ。

 

「これは……」

 

 ほんの数秒程度の短い動画を見終わると、エミリアはなんとも言えない表情でマスターと私を交互に見た。

 

 ……うん? なんで今、私の方を見たんだろう?

 

「……さっき撮った動画なのは間違いないけど……まあ、確かに私の痴態は映ってなかったわね。むしろどちらかと言うと、あの子の指笑――」

「エミリア。このカードはきっとあなたのデッキと相性が良いと思う。あなたにあげる」

「……」

「……」

 

 どことなく慌てた様子で言葉をかぶせたマスターを、エミリアはジトーッとした目で見返す。

 エミリアがホムラに対してああいった反応をするのはいつものことではあるけど……マスターに対してしたのは、何気に初めてのことだったかもしれない。

 

「……一応聞いておきたいのだけど……無空さんって、小さな子が好きなの?」

「違う。私が好きなのはホロエルだけ。それ以外は興味ない」

「それならいい……とはならないけどね。でもまあ、せっかくだから貰っておくわ。なんだか賄賂みたいで少し気が引けるけど……無属性のカードには、私も興味があったもの」

「なら」

「ええ。その動画は消さなくてもいいわ。でも、今回だけよ。いくらあの子があなたのソウルハート・サーヴァントだとは言っても、していいことと悪いことがあるわ。次に同じようなことをしてるのを見かけたら、その時は私もあの子に事の次第を教えるから」

「むぅ……わかった……」

 

 マスターとエミリアはなにか取り決めを交わすようにして、動画を巡った一件をそう締めくくった。

 

 うーん……二人がなんのことを話してるのかは、動画も見れてないから結局よくわかんなかったけど……。

 マスターが初めて誰かにプレゼントを渡したという事実は捨てがたい!

 

 うへへ。

 エミリアとも友達になれたし、マスターの成長も見れたし。今日はおめでたくて良い日だなぁ。

 

「わ、私も……! 私も無属性のカードがほしいぃ……!」

「ホムラ……」

 

 未だエミリアにグリグリされた痛みが抜けきっていないのか、うつ伏せのままホムラがマスターの方に這い寄って、その足を掴む。

 まるでデュエルに憑りつかれたゾンビだぁ……。

 少なくともその一連の動きに年頃の女の子らしさなんてものは欠片もなく、エミリアなんかは完全にどうしようもないものを見るような目で頭を抱えていた。

 

「はぁ……これでいい?」

「……お……おぉぉ……おぉぉぉぉっ!」

 

 マスターもまたそんなデュエルゾンビを呆れ果てたように見下ろすと、憐れむように彼女へとカードを差し出した。

 デュエルゾンビ……もといホムラは、受け取ったカードをまじまじと見つめると、見る見るうちに生気を取り戻していく。

 

「ほ、本当に無属性のカードだ! すごいっ、すごいすごいすごいっ!」

 

 興奮で痛みも忘れたのか、ガバッ! と勢いよく起き上がったホムラは駆け足で自分の机に向かうと、備え付けの小さな本棚に収めてあったカードバインダーを手に取った。

 そのまま丁寧にその中に受け取ったカードを仕舞い、バインダーに収まったカードをキラキラとした眼で見つめる。

 それからなにかを思いついたかのようにバインダーをパラパラとめくると、その中からマスターに貰ったものとは別のカードを取り出し、大好きな主人の元にはせ参じる子犬のごとくマスターの方へと戻ってきた。

 

「はい、メイちゃん! トレードだよ! 私もメイちゃんにカード上げる!」

「私に、あなたのカードを……?」

 

 困惑した様子のまま、マスターはホムラからカードを受け取る。

 

「あら。だったら私もカードを渡さなきゃね。そうね……これなんかどうかしら?」

「エミリアまで……」

 

 二人からカードを受け取ったマスターは、困ったように眉を下げる。

 

「……私のデッキ、無属性だから両方とも使えないんだけど……」

 

 ホムラが渡したのは、彼女が得意とする火属性のカード。

 そしてエミリアが渡したのも、彼女自身が得意としている水属性のカードだった。

 

 しかしマスターの言う通り、マスターのデッキは無属性単体で構築されている。

 無属性はルール上、属性を持たない扱いだ。

 火属性でも水属性でも、そしてたとえそのカードのコストが仮に0だとしても、エナジーに対応する属性がチャージされていなければ、その属性のカードはルール上使用することができない。

 まあ、エナジーを消費して使用しない場合……たとえばスペルの効果で墓地から場に出すとかだったら話は変わるけど。

 

「まあまあ、とりあえず貰っておいてよ! もしかしたらいつか使う日が来るかもしれないよ?」

「そうね。無空さんだって、いつまでも無属性だけでやっていくとも限らないでしょう? 強くなろうと努力する日々の中で、属性を持つカードを手に取る日が来るかもしれない」

「私が、無属性以外のカードを……?」

 

 そんな発想はなかった、と目を丸くしたマスターは、どこか迷うように視線を彷徨わせた後、私を見た。

 

「……ホロエルは、どう思う?」

 

 へ? 私?

 私は全然いいと思うよ!

 いろんな属性を混ぜて、無数のカードの中から新しいシナジーを見つけたり、コンボを考えるのってワクワクするし。

 それに新しいカードに触れて、新しい価値観を養えば、いつの日かマスターがデュエルを楽しいと思える日だって来るかもしれない。

 

 もちろんマスターにとっては勝利が第一だろうから、私もそれを尊重するつもりではあるけど……。

 だけど元より、無属性だけで構築されたデッキが最強だなんて決まりはない。

 そもそも最強だなんてものは、その時々の環境や状況によって変わるものだ。

 

 たとえばマスターの今のデッキは、序盤に絞って見れば動きが遅すぎる上にステータスの高いサーヴァントもろくに出せない。

 だから序盤に強い速攻デッキが多く蔓延る環境であれば、マスターのデッキはむしろ弱い部類に入るだろう。

 しかし後半にもつれ込むデッキの比率が多い環境であれば、マスターのデッキが本領を発揮できる機会が増え、最強に近しいものとなってくる。

 

 どんなデッキにも強みと弱点がある。時にそれを活かし、時にそれを克服できるよう工夫して、戦う相手や環境に適応し進化し続ける。それがデッキ構築というものだと私は思っている。

 無理に属性を持つカードを使う必要はないけれど……そういったカードをデッキに入れるという選択肢を視野に入れることは、決して悪いことではないはずだ。

 

「……」

 

 私は言葉を話せないけれど、マスターは私が言いたいことに関してはいつも読み取ってくれる。

 私の表情から私が言いたいことを察したらしいマスターは、ホムラとエミリアから渡されたカードをもう一度見つめ、しばらく考え込んでいたが……やがてはそれを懐に仕舞った。

 そんなマスターの姿を見て、ホムラとエミリアも顔を見合わせて、嬉しそうに笑い合うのだった。




アンケート「ターンが切り替わる時だけでなく、ターン中の行動ごとに各情報(エナジー/手札/虚構定理の数の増減)の表示が欲しい?(ターン中ライフが増減した時にしているような表示をエナジー等にも適用するかどうか)」にご協力いただきありがとうございます。
結果としましては、「欲しい」が1割、「今のままで問題ない」が3割、「どちらでも問題ない」が6割となりました。
なのでひとまずターン中行動での各情報の表示に関しては、現状維持で進めさせていただければと思います。SSらしく文章の中でわかりやすく表現できるように努めます。

また、ターンが切り替わる際の表示の中に、そのデッキにおいて重要なカウントや特殊能力を表示するように変更いたしました。
具体的には以下のような感じです。

後攻5ターン目:水星エミリア

無空メイ場を離れた虚構定理:5
ライフ:6Se:ハリボテ人形(A0/H500)
Se:虚構天使ホロエル(A5000/H3000)
Se:ハリボテ人形(A0/H500)
Ene:6(0)
手札:2

水星エミリアアップデート:3 (保有中の特殊能力)
ライフ:7Ar:機械都市アクシス
Ene:4
手札:8→9


今後とも本作をよろしくお願いいたします!

☆このデュエル中に自分が【アップデート】を行った回数に応じて、自分のあらゆるカードの置き場にある「#レプリカ」と名のつくサーヴァントに以下の効果を付与する。
・1回以上:『アクセル』を得る。
・2回以上:エナジーにチャージできない制約を無視する。
・3回以上:場にあるならATKを+2000する。
・4回以上:召喚するために必要なコストを半分にする。(端数切り上げ)
・5回以上:ライフカウンターに攻撃できない効果を無視する。
・6回以上:『フルアクセル』を得る。

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