可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
今日は元々、マスターとホムラの計らいで、私とエミリアの顔合わせのためにエミリアを部屋に招いた形になる。
その目的はすでに達成されたわけだが、それだけで「はいさよなら」ではやはり寂しい。
それについてはエミリアも同じように感じてくれていたようで、私とエミリアの顔合わせが終わった後も、せっかくだからとエミリアは遊んでいくことにしたようだ。
「『自分の場のサーヴァント1枚のATKを+2000す――』」
「取った! 『火遊び踊り』!」
「そ、『火遊び踊り』。あいかわらず火属性のカードの時だけは異様に早いわね、ホムラ」
そうして始まったのは、『CROSS WOLRD -SUNBREAK-』のカードを使ったカルタ。
エミリアがカードの効果をランダムな順番に読み上げ、マスターとホムラ、そして私がカードを取るという形式で始まったこのゲームはなかなかに白熱していた。
ちなみに、なぜデュエルではなくカルタをしているのかと言うと、いつものように「デュエルしようデュエル!」とホムラがした提案を、エミリアが速攻で却下したからだ。
エミリアはその理由を「気分じゃないのよ」と適当に流していたけれど……本当のところは、マスターに気を遣ってくれたからなのではないかと思う。
マスターはここに来るまでに一度、お嬢様口調の挑戦者とデュエルをしている。
まだあまりデュエルが好きだとは言えず、すでに一戦を終えて疲れているだろうマスターに、さらに無理を押してデュエルさせても「楽しめないかもしれない」と感じたのだろう。
だからこそのカルタだ。
これならばデュエルではないからマスターが変に気を張る必要もなく、また深く頭を使う必要もない。
それでいてホムラの大好きなデュエルの知識をそのまま活かすことができるのだから、ホムラも十二分に満足して楽しめる。
そしてその楽しめるという対象には、ソウルハート・サーヴァントである私も含まれていた。
私の体は今のように半透明な状態なら長い時間持つが、完全な実体化ともなると10秒間くらいしか維持できない。
だからもしも私自身がデュエルしたいのなら、私の意思を寸分違わず理解できるマスターの手を借りて、そのデュエル中ずっと私の指示通りにプレイしてもらわないといけない。
だけどカルタであれば、私は自分の手をカードにかざすことができる。
私の手が人や物を透けてしまおうと関係ない。視覚的に見て私が先にタッチしていたなら、ただそれを私のぶんとして取ってもらうだけでいい。
デュエルのように、マスターの手を煩わせて申しわけないだとか、そんな引け目を感じる必要もない。
三人が三人とも純粋に楽しむことができる遊び。
もしもここまで考えてカルタを提案してくれたのだとすれば、エミリアの気配りの良さには脱帽する。
少しも嫌そうな顔を見せず、自分から進んで読み上げも担当してくれたし……。
エミリアよ。その面倒見の良さをたたえ、私から君に『皆のママ』の称号を進呈しよう!
「……」
「……無空さん。ホムラの方が一瞬早かったから、カードから手を離してね?」
「……むぅ」
「あはは。メイちゃんってカルタでも負けず嫌いなんだねー」
エミリアに指摘され、不満そうにマスターが手を引っ込める。
現在の首位はマスターだが、ホムラもそれに後一歩迫るところまで来ている。勝負はまだどちらに転ぶかはわからない。
「次が最後ね。読み上げるわよ。『破壊された時に発動可能。カードを1枚引く。』」
「……」
「……」
むぅ……『量産型アンドロイドβ』か?
いやでも、破壊された時に1ドローだったら他にも候補はあるし……この効果だけじゃ判断しきれない。
だからこそホムラもマスターもまだ手を出さず、候補の目星だけつけて次の読み上げを待ってるんだし。
とは言え、もしもこの段階で手を出して当てることができたなら、誰にも邪魔されずカードを手に入れることができる。
リスクを負ってでも行くべきか……いや……。
「次の効果よ。『召喚時に発動可能。自分の場のコスト6以下の種別:メカを――』」
「っ、あっ……!」
やっぱり『量産型アンドロイドβ』じゃんね!
ちょうど膝元にあったそれに手を伸ばしてタッチする。
一瞬遅れてホムラが手を伸ばしてきたが、ふぉっふぉっふぉ、私の方が速いぜ!
「ぐぬぬ……」
両手を腰に当てて胸を反らし、これでもかというくらいのドヤ顔をホムラに見せつける。
目の前でカードを取られたホムラは、そんな私を恨めしそうに見つつも、すごすごと手を引っ込めた。
うへへ。なんだろう。ホムラっていつも私が期待した通りの素直な反応を返してくれるから、ついついからかいたくなっちゃうというか。
愛嬌、とでも言えばいいのかな?
ホムラと接していると、偶に自分がソウルハート・サーヴァントだということさえも忘れそうになる。
人もソウルハートも関係ない。ありのままに接してくれる彼女と戯れるこの時間が、私は結構好きだったりした。
「……」
「やめなさい。見逃すのはあの時だけって言ったでしょう」
そしてそんな風に悔しげな反応を見せるホムラを私が煽り散らかす横では、マスターがスっと無言でデュエルガントレットを構えてはエミリアに制止されていた。
なんで急にデュエルガントレットを構えたのかはわかんないけど……私がホムラだけでなく、マスターよりも速かったのは紛れもない事実。
というわけで、せっかくなのでマスターにも渾身のドヤ顔を披露してみる。
「――!!!!」
「ちょっ……!」
うへへ。こういう時くらいじゃないとマスターとこんな風に一緒に遊べないもんね。
これくらいのやんちゃは許して欲しいぞ!
「エミリア、放してッ! ホロエルが私にあんな顔……こんなチャンス二度とないッ……!」
「ダメよ、ダメだからッ! 盗撮だなんて、私の目が黒いうちはそんな不埒な真似させないから……ッ!」
するとマスターはさらに強引にデュエルガントレットを操作しようとして、彼女の後ろに回ったエミリアに羽交い締めにされていた。
それでもなお暴れようとするマスターを、エミリアが力づくで押さえつける。
うん……ホントなにやってんの? 君ら。
取っ組み合いながらなにやら言い合っているようだったが、二人とも小声なせいでよく聞こえない。
ひとまず私のドヤ顔煽りに怒っているという雰囲気ではなさそうだけど……。
「あはは。メイちゃんもエミリアも、もうすっかり仲良しだねぇ」
マスターとエミリアのじゃれ合いを眺めて、ホムラがうんうんと満足そうに頷く。
仲良し……。
なにかもっと別の要因で争っているような気もするけど……まあ、ホムラが言うならそうなのかもしれない。
うんうん。確かにホムラの言う通り、仲良しなのは良いことだ。
「はぁ……はぁ……ふぅー」
「むぐぐ……」
しばらくすると二人のじゃれ合いも落ちつき、どちらからともなく離れて元の位置に座り直した。
エミリアは肩で息をしながらぐったりとし、マスターは不服そうに口を尖らせている。
「……最後の1枚はホロエルちゃんの得点ね。それじゃあ、カードを集計しましょうか」
マスターとホムラがそれぞれ自分が取ったぶんのカードを並べ、1枚ずつ数えていく。
ちなみに私のぶんはエミリアが代わりに数えてくれた。
ありがとう! とエミリアの視界に入り込むようにして笑いかける。
いかに親しき仲と言えど、礼を欠かしてはならぬ。古事記にもそう書かれている! ……たぶん。
「ふふ、どういたしまして」
そんな私にエミリアも穏やかに笑い返して、私の頭を撫でてくれた。
私の見た目は幼いから、子ども扱いされること自体は不思議じゃないけど……。
いつもは私がお姉ちゃん的立場としてマスターを甘やかしてあげる立場なので、誰かにこうして頭を撫でられたのは何気に初めての経験だったかもしれない。
「数え終わったわ。ホロエルちゃんは11枚ね」
「私は13枚! ふふん、ホロエルちゃんに勝った!」
少し前に私がドヤ顔で煽り散らかしたことを割と根に持っていたらしく、勝利を確信したホムラが私の仕草をリピートするようにして胸を反らして勝ち誇ってくる。
ぐ、ぐぬぬ。こやつめ……!
煽った相手から煽り返されるという屈辱のせいか、悔しい気持ちに歯止めをかけられない。カルタ以外の部分に対する敗北感まで無性に駆り立てられるようだ。
具体的には、そう……制服の上からでも存在感が一目でわかる二つの熟れたリンゴが、より一層憎い!
見せつけるように胸を張るんじゃない! あどけない言動とは裏腹に無駄に発育しおってからに……!
実体化してマスターを甘やかしてあげる際、私の胸に顔を埋めるマスターをよしよししてあげながらも「固いとか、貧乳だとか思われてないかな……?」と、実は内心密かに不安がっている私への当てつけか? そうなのか!?
これでもちょっとはあるんだからな! ぐぬぬぬぬぬ……!
「ホロエル。安心して」
私がホムラの無駄乳を睨みながら悔しげに歯噛みしていると、マスターが落ちついた声で私に語りかける。
私が視線をマスターに向けると、彼女はドヤ顔を浮かべるホムラなぞ歯牙にもかけていない余裕のある表情で、大量のカードをバッと広げてみせた。
「私は16枚――ホムラよりも上だから」
「16……!? むぐぐ……さすがはメイちゃんだね……」
「あら。そんなに取ってたのね。ふふ、これは無空さんが文句なしの1位ね」
悔しげに歯噛みするホムラを見下ろし、仇は取った! と言わんばかりの自慢げな表情で鼻を鳴らすマスター。
まあ……うん。仇というか、なんというか。
今回はいつものデュエルの時のように私とマスターのタッグではなくて、あくまで私とマスターで別々だから、私もマスターに負けちゃったわけなんだけど……。
こんな風にさりげなく寄ってきてチラチラと褒めてほしそうな視線を向けられては、断ることなどできるはずもないのがお姉ちゃんという生き物だった。
「えへ、えへへ……」
おねだりに応えて頭を撫でてあげると、マスターは頬を緩めてされるがままになる。
実体化していないから感触なんて伝わっていないはずなのに、ずいぶんとまあ幸せそうにしてくれちゃって……。
ホムラやエミリア、そしてクラスメイトたちとの交流の成果か、ここ最近はマスターも段々と感情表現が豊かになってきていた。
まあ、他の人にはちょっと嬉しがってる程度にしか見えないのかもしれないけど。
それでも、私以外の人にもわかるほど明白に表情を変化させられているということ自体が、マスターが成長していることのなによりの証拠だった。
マスターは諸々の事情で小学校を中退する羽目になった上に、中学校にすら通えていない。
それはつまり、本来であれば同年代の子たちとの触れ合いを通して養っていくはずだった数々の感情とその機微を、学ぶ機会を得られなかったということだ。
それによりマスターの情緒は、どこか歪な形で育ってしまった。感情が表情に出ることが極端に少ないのも、その一端に過ぎない。
その辺りは私もどうにかしなければと思い、積極的に笑いかけたりとできる限りのことはしてみたのだけども……。
なにぶん、私は言葉を話せない。
そんな私一人との交流だけでは、学校で学ぶべきそれと比べればどうしたって不完全なものになってしまい、彼女の成長が歪な方向に向かってしまう様を、私はただ見ていることしかできなかった。
マスターは、群れの中で他の狼との交流を経験した上で一人でいることを選んだ『孤高』の一匹狼とは違う。
不運にも群れからはぐれてしまい、一人で成長するしかなかった『孤独』の一匹狼。それこそがマスターなのである。
もしもマスターが普通の両親のもとに生まれて、普通に過ごせていたなら、きっとホムラやエミリアのような普通の……二人は普通でいいのか?
……まあうん。そんな普通の女の子になっていたんじゃないかと思う。
甘えたがりで、寂しがり屋で。
人との距離感がうまく掴めない自分を笑顔で受け入れてくれた友達やクラスメイトのことを、心のどこかではいつもずっと気にかけていて。
長い時間寄り添って育ててくれた私のことを、誰よりも大切に思ってくれる。
そんな愛情深い女の子こそが、私のマスター……無空メイだ。
失ってしまったものや時間を取り戻すことは容易ではない。
けれど、こうして幸せそうに笑ってくれている彼女を見ていると、いつかは本来なれたはずの普通の女の子にもしてあげられるんじゃないかと、そんな期待が膨らんでくる。
「メイちゃん? ホロエルちゃん? おーいっ! ……ダメだ。完全に二人だけの世界に入っちゃった……」
「ふふ。初めて見た時は、背丈の違いで無空さんの方がお姉さんに見えたけど……こうして見るとホロエルちゃんの方がお姉ちゃんみたいというか、もはやお母さんね」
「あ、それ私も思ってた! 私と初めて会った時なんかホロエルちゃん、『メイちゃんと友達になってくれてありがとう。これからもよろしくお願いします』って律儀にお辞儀してきたもん! あの時のホロエルちゃん完全にメイちゃんのお母さんだった!」
「あら、それは確かにお母さんね。ただ……もしかしたら無空さんにとっては、本当にホロエルちゃんがお母さんみたいなものかも……?」
「へ? それってどういう意味?」
「……いえ、忘れてちょうだい。考えすぎかもしれないし……これが杞憂でも、杞憂じゃなくても、私たちが無空さんとホロエルちゃんの友達だってことは変わらないしね」
マスターが満足するまで撫でていたらたぶん一生終わらないので、キリのいいところで手を離して切り上げる。
一分近く撫でてあげたのに、未だ名残惜しそうに私を見つめてくるマスターに、私はチラリとホムラとエミリアの方を視線で指し示した。
「……っ!?」
やはりと言うべきか、ここが二人だけの空間ではないことをすっかり忘れていたらしいマスターは、その私の仕草でハッと思い出したように顔を上げ、シュバババッと姿勢を元に正した。
が、時すでに一分くらい遅し。ホムラとエミリアの二人から生温かい視線を向けられることは避けられず、マスターは見てわかるほど羞恥に顔を赤らめていた。
「あれれ~? メイちゃん、もういいの~? 私たちのことなんか気にしないで、もっとホロエルちゃんに甘えててくれていいんだよ~?」
「……うるさい」
普段クールに見られがちなマスターが恥ずかしがっている光景が珍しかったからか、ホムラがここぞとばかりにからかってくる。
マスターはそれに対してぶっきらぼうな返事を返すと、プイッとホムラから視線を逸らした。
ただし耳まで真っ赤になっているせいで、そっぽを向いたところで内心羞恥に悶えていることはバレバレだ。
「あはは! 可愛いな~、メイちゃんは」
マスターの可愛らしい抵抗に、ホムラはニマニマと一層笑みを深くする。
そんな彼女を諫めるように、エミリアはホムラの肩に手を置いた。
「その辺にしておきなさいな、ホムラ。無空さんが私たちがいることを忘れてホロエルちゃんに甘えちゃったのは、私たちが身近にいることがそれくらい当たり前になってたってことの裏返しでもあるんだから。今は、無空さんがそこまで私たちを親しげに思ってくれていたことを喜びましょう?」
「や、その辺にしておきなさいって……それ、恥ずかしがってるメイちゃんへの追い打ちな気がするけど……」
「…………トイレ」
「あ、逃げた」
エミリアのフォロー(?)にさらに羞恥心を煽られ、たまらずマスターはその場から逃げ出した。
まあ逃げたとは言っても、備え付けのトイレが寮部屋の中にあるのだけども。
マスターは普段、四六時中一緒にいる私に対して甘えてくることはあっても、こんな風に恥ずかしがることなんてほとんどない。
だから私としてもマスターのこんな一面は新鮮で、同時にとても微笑ましかった。
席を立ち、廊下へと足を進めたマスターがトイレのドアノブに手をかける。
しかしその次の瞬間に開かれたのは、トイレの扉などではなかった。
「……? っ……ホロ――」
マスターがトイレの扉を開こうとした途端、焦ったように振り返って私の名前を呼びかける。
それと同時に、どこからともなくバタバタと騒がしい足音が聞こえ始め――。
バーン! と、トイレの向こう側にある玄関の扉が勢いよく開け放たれた。
「お姉ちゃんお姉ちゃん! じゃーん! 見て見て! これ、『火霊器ヴァーテイン』の限定プロモカード! さっき偶然お店のストレージに入ってたのを見つけ、て……?」
「あ」
「ちょっ……」
「っ……」
わぁお……。
ノックすらもなく、あまりにも突然に乱入してくるものだから、私も咄嗟に姿を消すのが間に合わなかった。
部屋の中にいた四人が目を丸くして固まる中、新たにやってきた少女――燃照センカの言葉は次第に尻すぼみに途切れていく。
部屋の中に座る半透明な私と、目をパチパチとさせるセンカとの視線がバッチリ合って、彼女は呟くように呆然と声を漏らした。
「……え、っと……もしかしてこの子、『虚構天使ホロエル』……ちゃん? これってまさか……ソウルハート、サーヴァント?」
ほとんど確信を持って問いかけられては誤魔化す余地はなく……私はただ、観念して苦笑いを返すことしかできないのだった。
ちなみに大きさ的には、ホムラ>センカ≧メイ>エミリア>ホロエルです。
なんの大きさかは哲学的な話になるので割愛します。