可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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26.えへへ~。ホロエルママだ~

 突如としてやってきたセンカに、ソウルハート・サーヴァントである私の姿を見られてしまってから、数分後。

 見られてしまったからにはしかたがないということで、新たにセンカも交え、私たちは五人で部屋の中央に車座になっていた。

 その結果、どうなったかと言うと……。

 

「わぁっ! すごいっ、すごいすごいすごいっ! 本当にホロエルちゃんだ! 本物だーっ! 肌綺麗~。イラストも良かったけど、実物はそれ以上だね! お人形さんみたいって表現がこれほど似合う子もいないよ! 瞳も透き通ってて、澄んだ青空みたい!」

 

 ふふん、そうじゃろうそうじゃろう。

 そうです、私は可愛いんです!

 

 センカは座っている私の周りをぐるぐると回って、あちこちを興味深そうに眺めながら、テンション高くキャッキャとはしゃぎ回っていた。

 好奇心旺盛に目をキラキラ輝かせ、弾むような足取りで楽しそうにはしゃぐ姿は、私としても見ていて気持ちがいい。

 

「あはは……センカってば、ずいぶんとまあ浮かれちゃって」

「いいんじゃないかしら。ホロエルちゃんも満更でもなさそうだし」

 

 対面してそれなりに時間が経っているにもかかわらず、センカの興奮度は留まるところを知らない。

 イラストじゃ見えなかったところが見れるのすごくいいね! と、デュエルガントレットの撮影機能を用いて、いろんな角度からパシャパシャとしきりに私の写真を撮ってくる。

 もちろん私が了承した上での撮影だから、盗撮とかそういうのではない。

 マスターの許可を得て、絶対に他の人には渡さないという条件付きで撮らせてあげている。

 

 まあ私は美少女だから? 写真を撮りたくなる気持ちもわかるというか?

 これも普段からマスターを応援してくれているセンカへのファンサービスだ。

 存分に私の可愛さを堪能してくれたまえよ!

 

「……」

 

 ちなみにセンカが撮影の許可を得る時と……ちょうど今も、マスターが私になにか言いたそうにそわそわとしていたが……。

 センカがひっきりなしに私にしゃべりかけているせいでタイミングがなかったのか、結局なにも言えずじまいでいた。

 気にはなるけど……私も私でセンカの勢いに押されていて、マスターに気を回す余裕がないのが正直なところだ。

 大事なことなら後でちゃんと話してくれるだろうと、今はセンカの方に集中している。

 

「あ、そうだ! ねえねえホロエルちゃん、ちょっと立ってもらってもいい?」

 

 おっと。立ってる姿も撮りたいとな?

 ふふふ、よかろう! ついでに槍を召喚して構えてあげよう!

 どうよ! この神秘的で儚げな表情! そして立ち姿!

 可憐で美麗、無敵の天才美少女天使ホロエルとは私のことぞ!

 

「ふむふむ……なるほど! ホロエルちゃんってわたしよりちっちゃいんだね! 140cm……はないかな? わたしがそれよりちょっと大きいくらいだし、ホロエルちゃんは135くらい? あはは、ちっちゃくて可愛い~っ!」

 

 なんだァ? てめェ……。

 背丈を比べるように私の前に立つと、ついでのように私の頭を撫でてくるセンカに、ぐぬぬ……と私は歯噛みする。

 

 私が小さいのも可愛いのもどっちも事実だし、別に身長が低いことにコンプレックスがあるわけでもない。

 だがしかし、小動物みたいに扱われるのは甚だ遺憾と言わざるを得ない。

 これでも私はマスターのお姉ちゃんなんだぞ! もっと丁重に敬え!

 それと、私はちっちゃくて可愛いんじゃない……ちっちゃくなくたって可愛いのだ!

 そこだけは間違えるな!

 

「ムスッとした顔も可愛い~。顔が良すぎてどんな表情も似合うね! 服も可愛い! 白いワンピース! 黒いラインや装飾がイカしてるね! なんでついてるのかわかんないおっきなチェーンもいいよ! ファッションセンス高い!」

 

 ……うへ、うへへ。

 まあ……ここまで手放しで褒められて悪い気はしませんけども?

 しかたない。許してあげてもいいか……。

 

「センカ、そろそろ落ちついて。ホロエルちゃんもちょっと困ってきてるから……」

「あ……うん。えへへ、ごめんねぇホロエルちゃん。何度も見返したメイ様のデュエルで活躍したエースのホロエルちゃんを生で見れて、つい興奮しちゃって……」

 

 ホムラが苦笑いをしながらセンカを宥めると、彼女は少し恥ずかしそうにしながら、ペコリと素直に頭を下げた。

 猪突猛進で、ちょっとばかり暴走気味な困ったちゃんだけれど……決して根は悪い子ではない。

 不慮の事故だったとは言え、せっかくこうして直接顔を合わせる機会を得られたのだ。

 ホムラやエミリアと友達になったように、センカとも友達になれたらと思い、私はセンカに手を差し出してみる。

 

「わぁ~……! えへへ。これからよろしくね、ホロエルちゃん!」

 

 すると彼女は花が咲いたようにパッと表情を明るくさせ、嬉しそうにその手を取ってくれた。

 あいかわらず私は実体化していないので、握手の感触自体はないのだけど。

 センカもホムラやエミリアと同じく、ちょうど握手の形になるように握り加減を調節してくれていた。

 たとえ実体がなくとも、確かにそこに存在することを尊重してくれる。

 そんな彼女たちの私への対応が、実は結構嬉しかったりした。

 

「うんうん、仲良きことは美しきかな。これで一件落着だね!」

「そうね。確かに結果オーライではあるけど……」

 

 私とセンカのやり取りを見守っていたホムラが、腕を組みながら満足そうに頷く。

 一方でエミリアは、物言いたげにホムラとセンカを見比べていた。

 

「だいぶ落ちついてきたことだし、そろそろいいかしら。ねえ、ホムラ? センカちゃん?」

「え? なにが?」

「どうかしたの? エミリアさん」

 

 ジトッとした名状しがたい視線をエミリアから向けられて、なぜそんな目で見られるのかがわからないというように、ホムラとセンカは揃って小首を傾けた。

 ともすれば姉妹らしい息の合った仕草に、エミリアが呆れたようにため息をつく。

 そして、まずはこちらからだと言わんばかりにホムラの方に体の正面を向けて腰を据えると、ホムラはハッとなにかを察したかのように表情を固くした。

 

「その顔。これから説教が始まるんじゃと言う顔ね」

「あ、あはは……もしかして、説教じゃなかったりしない?」

「しないわね」

 

 エミリアが断言したことでホムラの希望はバッサリと切り捨てられ、彼女はガックリと肩を落とす。

 

「ホムラ。私がなんのことであなたを叱ろうとしているのか、わかるかしら」

「か……鍵の件でしょうか……」

「そうよ。あなた、センカちゃんが訪ねてきた時のために、寝る時や部屋を空ける時以外は普段から玄関の鍵かけてないでしょ。センカちゃんだったからよかったものの……他の誰かだったらどうなっていたかわからないわ。大事な話をする時くらい、戸締りはきっちりしなさい」

「うぅ……はい。おっしゃる通りです。ごめんなさい……」

「それから……センカちゃん?」

 

 最初にホムラと一緒に名前を呼ばれていたことで、次に説教を食らうことが確定してしまっていたセンカは、ビクッと肩を震わせた。

 

「賢いあなたならもちろん知っているでしょうけど、世の中には『親しき仲にも礼儀あり』ということわざがあるのよ。いくらあなたとホムラが姉妹とは言っても、今は無空さんだっているんだし……ノックくらいはちゃんとしなさい。いいわね?」

「うぅ……はい。反省してます……」

 

 エミリアからのお叱りに、ホムラとセンカの二人はシュンと項垂れる。

 

「それと私も……ごめんなさい無空さん。鍵の件、私も気づいていなくて……ホロエルちゃんも、ごめんなさい」

「エミリアのせいじゃない。それに私も鍵のこと、頭から抜けてたから。悪いのはホムラだけじゃなくて、私も同じ」

 

 エミリアがマスターと私に謝罪すると、マスターはふるふると首を横に振った。

 もちろん私も、それに同意するように大きく頷いてみせる。

 実際、エミリアはなにも悪くない。

 ここはマスターとホムラ、そしてついでに私の相部屋であって、エミリアはあくまでお客さんに過ぎないのだから。

 

「ありがとう、無空さん。ホロエルちゃんもね。せっかく知り合えたんだもの。ホロエルちゃんも、センカちゃんと仲良くしてくれると嬉しいわ」

 

 エミリアはどこか気遣うような眼差しで、すっかり縮こまってしまったセンカを見やる。

 私とマスターがむやみに見られたくないと思っているものを、不可抗力とは言え見てしまったことについて、センカが内心気に病みすぎていないかと心配しているのだろう。

 

 エミリアはいつだってその人の気持ちや立場になって考えようとしてくれる、気遣い上手で優しい子だ。

 でもだからこそ……なんというか私の目にはセンカよりもエミリアの方が重症なように見えて、気づけば私はエミリアの頭に手を伸ばしていた。

 

「ホロエルちゃん……?」

 

 そのままエミリアの頭をよしよしと撫でてあげると、彼女は驚いたように目をパチパチと瞬かせる。

 

 私の見立てでは、鍵の一件に気づけなかったことについて、エミリアは言葉以上に自分に対して負い目を感じている。

 結果オーライとは言え丸く収まったのに、わざわざ謝罪なんてしてきたことからもそのことは明白だ。

 だけど何度も言うように、今回の件はエミリアはなにも悪くない。

 何事にも責任感を持って取り組むのは真面目な証拠だけど……あんまり周りに気を遣いすぎて自分を疎かにしていると、そのうち疲れて倒れてしまわないかと心配だ。

 もしかすればホムラもその辺りを心配して、エミリアが気負いすぎずリラックスできるよう、彼女にちょっかいをかけることが多いのかもしれない。

 

「……ふふ。なんだか久しぶりに、おばあちゃんに頭を撫でてもらった時のことを思い出したわ」

 

 私たちはもう友達なんだから、たまにはこうやって甘えてくれてもいいんだよ。

 そんな想いを込めてエミリアの頭を撫でてあげていると、彼女はふわりと表情を緩め、照れくさそうにはにかんだ。

 

「ありがとう、ホロエルちゃん。元気が出たわ」

 

 ……うへへ。

 エミリアのこと、ママだママだと散々言ってはきたけど……。

 こうした年相応の邪気のない笑顔を見せられると、エミリアもエミリアで自分にできることを日々頑張っているだけで、どこにでもいる普通の女の子なんだなぁと実感させられる。

 

 そして最近気がついたことなのだが、どうやら私は頑張っている子を見ると、無性に甘やかしてあげたくなってしまう性分らしい。

 胸がキュンキュンするというか、守ってあげたくなっちゃうというか……。

 毎晩余った実体化時間を使ってマスターにそうしているように、ねぎらうようにギューッと頭を抱きしめて、目一杯に甘やかしてあげたくなっちゃうのである。

 

 もしかしたらこれは、天使としての本能……みたいなものなのかな?

 虚構とは言え、今の私は天使なんだし。そういった機能が備わっていてもおかしくない。

 うむ、きっとそうに違いない。

 天使なら、頑張ってる子を褒めたり癒やしてあげたくなるのは、きっと当然の習性なのだ。

 

「ホロエルちゃんからすごい母性を感じる……! ホロエルちゃんホロエルちゃん! わたしも、わたしも頭撫でてー!」

 

 と、そこでセンカがぴょんこぴょんこと手を挙げてアピールしてくる。

 縮こまっていたさきほどまでとは一転、急に元気に戻ったかのように見えるけれど……おそらくはエミリアが気に病んでいることに彼女も気がついて、あえて空気を和ませようとしてくれているのだろう。

 しょうがないなぁ、と。私はエミリアの頭から手を離し、今度はセンカの頭をよしよしと撫でてあげる。

 

「えへへ~。ホロエルママだ~」

 

 実体化していないので感触はないはずなのに、彼女は気持ちよさそうに目を細め、まるで子犬のように私の手に頭を擦りつけてくる。

 うん。この感じ、完全に犬だ。やはりホムラの妹だったか……。

 でもママと呼ぶのはやめなさい。私はママじゃなくて天使だから。

 

「……む~……」 

 

 そして今度は、そんな私とエミリア、センカの様子を横で眺めていたマスターが、なにを思ったのか急にプクーッと頬を膨らませる。

 拗ねたように唇を尖らせると、私の服の裾をくいくいと引っ張るような仕草をして、上目遣いで私を見つめてきた。

 ……もう、しょうがないなぁ。

 

「……えへ、えへへ……」

 

 無言の催促に抗えず、センカから手を離してマスターにも同じようにしてあげると、マスターは途端にふにゃっと相好を崩した。

 頑張ってる子を甘やかしたくなっちゃうとは言ったけど……やっぱり私にとっては、マスターが一番だ。

 マスターがこうして笑ってくれていると、私も胸がいっぱいになって、幸せな気持ちになれるから。

 

「あーあ。ホロエルちゃん、メイ様に取られちゃった……」

「ふふん。そんなに頭撫でられたいなら、お姉ちゃんが撫でてあげてもいいんだよ? さあほら、たまには妹らしく甘えにおいで?」

「えー……? いやお姉ちゃんはいいよ……お姉ちゃん、母性とか全然感じないし」

「ひどいっ!?」

 

 ……とまあ、そんなやり取りがあった後。

 私たちはその後はワイワイと、マスターたちの部屋で談笑して盛り上がっていた。

 主にはホムラとセンカが率先して話題を広げ、エミリアやマスター、私が聞き手に回る。

 私は言葉を話せないけれど……皆、頷くか首を横に振るかの二択で返事ができる質問をしてくれたり、身振り手振りで意思を伝えられるように場を整えたり。

 私が輪の中に入れるようにとさりげなく気遣ってくれたので、皆良い子たちだなぁ、と私もほっこりした気持ちで穏やかな時間を過ごすことができていた。

 

「そういえばメイ様、明日はクラス代表対抗戦の表彰式ですよね?」

 

 そんな折、ふと思い出したようにセンカがそんな話題を切り出す。

 表彰式――中等部も高等部も関係なく全校生徒で集まり、すべての学年のクラス代表対抗戦の結果を大々的に発表するとともに、それぞれ一位になったクラスの代表者に表彰を行うようだ。

 

「高等部の一年生はメイ様が頂点に立ったんですよね? かく言うわたしも、中等部の二年生の対抗戦を制して一番になったんですよ!」

「なら、センカも表彰を?」

「ですです! はぁ~、表彰されるメイ様を間近で見られるなんて……メイ様ファンクラブの一員として、わたし、今から楽しみでしかたありません!」

 

 憧れに目を輝かせ、うっとりと頬に手を当てながらセンカがそう言うと、マスターは胡乱げに顔をしかめた。

 

「ファンクラブって、なに……?」

「メイ様、ご本人なのに知らないんですか? メイ様ファンクラブは最近すっごく勢力を広げてるんですよ! 中等部も高等部も関係なくメイ様ファンクラブの会員はたくさんいて……えへへ~、もちろんわたしもその一人ですっ!」

「はぁ……そう……」

「でもでも、わたしはメイ様が高等部一年生の頂点に立ってから入会したにわかファンとは一味違うんですよ? なんたってわたしの会員番号は0002ですから! 0001になれなかったのは不満ですけど……たぶん0001は創設者の方だと思うので、実質的にはわたしが一番ですっ!」

「……一つ聞きたいんだけど、その0001の人には会えないの?」

「むっ、もしかしてファンサービスですか?」

「……まあ、そんなところ」

 

 ファンクラブをやめさせたいんだろうなというのは、マスターの微妙な表情と声色からなんとなく察せられた。

 マスター、誰かにチヤホヤされたりとかあんまり興味ないみたいだし。

 私としては、マスターが人気者だと鼻が高いんだけどね。

 マスターのファンクラブかぁ……いいなぁ。

 できるなら、私もマスターに内緒でこっそり入会したい……。

 

「うーん……ごめんなさい。学園の非公式サイトで会員を募集しているので、0002とは言え、わたしも直接会ったことはないんです。サイトに登録されているアカウントにメッセージを送れば、運がよければ反応してもらえるかもですけど……不肖センカ、お役に立てず申しわけありません……」

「大丈夫。別にそこまでして会いたいわけじゃないから。ありがとう、センカ」

「えへへ~。0001になれなかったのは不満だけど……こんな風にメイ様と直接触れ合えるのはわたしだけの特権だもんね! しょうがない、番号くらいは他の会員に譲ってあげなきゃね~」

 

 マスターに認知してもらえていることがよほど嬉しいのか、センカはご満悦な様子でだらしなく頬を緩める。

 ホムラはそんな自分の妹を横目で眺めながら呆れ混じりの苦笑いを浮かべると、ふっと気にかかったように彼女に問いかけた。

 

「ねえセンカ。その非公式サイトのファンクラブって、私とかエミリアのもあったりするの?」

「あるよ?」

「あるの!?」

「なんで自分で聞いといて驚くのさ、お姉ちゃん」

 

 今度はセンカがやれやれと姉の言動に呆れ混じりのため息をつくと、そのまま自分のデュエルガントレットを操作してネットワークに接続し、件の学園の非公式サイトを開いた。

 そしてその画面を空中に大きく投影すると、ファンクラブの会員募集ページを全員に見えるようにしてくれる。

 ホムラは興味津々にそれを覗き込んで、おお、と感嘆の息を漏らした。

 

「ほんとにある……! しかも私のファン、何気にメイちゃんより多い!」

「お姉ちゃん、子どもっぽいしずぼらだし勉強もできないけど、こんなでもメイ様が現れるまではデュエルの実力じゃ二年間ずっと同世代のトップだったからね。そりゃあファンは多いよ」

「センカ……? 三言くらい多いんじゃないかな? さすがのお姉ちゃんも傷ついちゃうよ……?」

 

 私も同じように身を乗り出して画面を覗き込んでみる。

 『メイ様ファンクラブ』、『ホムラちゃんファンクラブ』、『エミリアたんファンクラブ』……。

 センカが言う通り、ここにいる高等部三人娘のファンクラブが確かに存在しているようだ。

 それぞれファンクラブの名前が微妙に異なるのは、おそらくはファン層の違いだろう。

 マスターはクール系だから様呼びで、ホムラは親しみやすいから、ちゃん呼び。

 そしてエミリアは……まあ、うん……。

 

「……」

 

 チラリと横目でエミリアの様子を窺うと、彼女は筆舌に尽くし難い引きつった表情を浮かべながら、頭が痛そうにこめかみを手で押さえていた。

 まあエミリアって世話焼きだし、面倒見良いし、率先して皆の前に立ってくれるし。あとそこそこ身長低めで可愛いし。エミリアたんって呼びたくなる気持ち自体は割とわかるんだけどね。

 ただ、当人であるエミリアとしてはたまったものではあるまい。

 ドンマイ、エミリア……。

 

「でもでも、これからはお姉ちゃんじゃなくてメイ様の時代だから! 見てよここ数日のファン数の上昇率! ふふん、メイ様ファンクラブの会員数がお姉ちゃんのファンクラブを抜く日も遠くないからね~」

「ぐぬぬ……! メイちゃん! 私、負けないからねっ!」

「別に私はどっちでもいいんだけど……それに上昇率なら、エミリアも負けてない」

 

 自分のファンクラブのことが話題に上がった途端、エミリアはビクリと肩を震わせる。

 それから自分の心を落ちつかせるように「はぁー……」と長い息をつくと、肩をすくめて苦笑した。

 

「まぁ……応援してくれるのは嬉しいけれど……ファンクラブには、私もそこまで興味があるわけじゃないわね。たぶん、この間の対抗戦での無空さんとのデュエルが人気を博したんでしょうけど……そうよね? センカちゃん」

 

 予測八割、そうであってほしいという願いが二割。

 果たしてエミリアの懇願のごとき問いかけに、センカは幸いにも「うんうん!」と首を縦に振ってくれた。

 

「実を言うとね。ファンクラブに入れば、その会員専用ページに会員の人が投稿した、その人のデュエルの過去の記録映像が見れるようになるんだ~。だから自分とデュエルスタイルが近い人のファンクラブに入って、それを参考にする人とかもいるんだよ」

 

 センカのその説明に、エミリアは少し思索に耽るように顎に手を当てる。

 

「……なるほどね。ファンクラブとは言うけれど、その実態はその人のデュエルを研究して、参考にしたり対策を練るためのコミュニティでもあるということかしら」

「さっすがエミリアさん! すぐにそこに気づくなんて、聡明だね~」

 

 ファンクラブの存在を自分なりに噛み砕いて解釈したエミリアに、センカは元気いっぱいに頷いて、その推測を肯定した。

 

「かく言うわたしもメイ様だけじゃなくて、その目的でお姉ちゃんのファンクラブにも一応入ってるんだ。お姉ちゃんにどうやって勝つかの議論は盛んに行われてるから、わたしもたまに参考にさせてもらってるの。あ、もちろん純粋なファンの子もたくさんいるから、そこだけは勘違いしないでね!」

「センカが、私のファンクラブに……? センカ……なんだかんだ言いながら、お姉ちゃんのことちゃんと慕ってくれてたんだね! うぅ、お姉ちゃんは感動したっ!」

「……お姉ちゃん、今の話ちゃんと聞いてた? お姉ちゃんの方にはファンとして入ってるんじゃないんだってば。もうっ」

 

 感極まったような自らの姉に抱きしめられて、センカが鬱陶しそうに姉を押しのける。

 

「……過去のデュエルの記録……」

 

 センカの一言が気にかかったのか、マスターは懐に入れていた2枚のカード――ホムラとエミリアに貰った火属性と水属性のカードを取り出すと、その2枚をじっと見下ろした。

 マスターは今まで、無属性以外のカードを使ったことがない。

 もしも他の属性を使うことを視野に入れるなら、参考になるお手本が必要だと考えているのだろう。

 そしてホムラとエミリアの二人は、それぞれ火属性と水属性の扱いに関しては間違いなくトップクラスだ。

 教材にするには、これ以上ないくらいうってつけと言える。

 

「……」

 

 マスターはデュエルガントレットを操作してネットワークに繋ぐと、センカが今まさに投影させている学園の非公式サイトを開いた。

 『メイ様ファンクラブ』の一文を見て、一瞬だけ嫌そうに顔をしかめたが……気を取り直すように頭を振って、自分のアカウントを作成する。

 そうしてホムラとエミリアの二人のファンクラブに入会すると、サッと画面を閉じた。

 

「……ふふっ。じゃあ、私も」

 

 ホムラやセンカはお互い騒ぎ合っていて、マスターのそんな行動に気づいていないようだったが、エミリアには見られてしまっていた。

 どこか嬉しそうはにかむと、彼女はマスターに倣うように学園の非公式サイトにアクセスし、アカウントを作成してマスターとホムラの二人のファンクラブにそれぞれ入会する。

 そしてそれと同時に、「あっ!」とセンカが大きく声を荒げた。

 

「今、またメイ様ファンクラブの会員が増えたっ! ふふん、やっぱりメイ様ファンクラブがお姉ちゃんファンクラブを追い越す日も近いね!」

「それはどうかなぁ? 見てよほら、私の方は一気に二人も増えたよ! 私だってメイちゃんに負けてないんだから!」

 

 センカが得意げに胸を張ると、ホムラも負けじと胸を反らす。

 

「ぐぬぬ……お姉ちゃんのくせに生意気!」

「ふふん。そんなこと言って、センカだって私のファンクラブに入ってるのもう知ってるんだからね!」

「だからそれは――――」

「そんなこと言って――――」

「……はぁ」

「ふふ。なんだか微笑ましいわね」

 

 犬のようにじゃれ合いながらギャーギャーと言い合う姉妹に、マスターは騒がしいとばかりにため息をつき、エミリアはくすくすと笑みをこぼす。

 私はどちらかと言えば、エミリア側だろうか。

 なんだか子犬が可愛らしく喧嘩しているみたいで見ていてほっこりするなぁ、と。和みながら二人のやり取りを眺めている。

 

 しかしそんな風に和やかな空気を楽しんでいると――ふと突然。

 右の肩に柔らかな重みを感じたことで、私は思わずビクッと体を跳ねさせた。

 

「ホロエル……?」

 

 私の異変をいち早く察知したマスターもまた、私を一瞥して、少し驚いたように目を見開かせる。

 

 ……まず当たり前のことを一つ言っておきたいのだが、私は今、実体化をしていない。

 今の私は他のなにかに自ら触ることができないし、また同時に、他のなにかから触れられることもない。

 仮に、今の私にこうして触れられる存在がいるとすれば……それはおそらく、同じ位階にいる存在だけだ。

 同じ位階の存在――つまり私と同じ、ソウルハート・サーヴァント。

 それが示すことは、つまり……。

 

「あれ? ホロエルちゃん、その子……」

「あら、これは……」

「わぁ~……!」

 

 一拍遅れて、マスター以外の皆の視線も私に……いや。正確には、私の右肩にいるだろう存在に集まる。

 私もまた、右肩にしがみついているものの重みで少しバランスを崩しそうになりながらも、なんとか体勢を立て直して、自分の右肩に顔を向けた。

 

 そこにいたのは、愛くるしい小さな女の子だった。

 ミニキャラのようにデフォルメされた不可思議な存在感。50cmにも満たない小さな身体の背中からは煌めく光の翅が生えていて、白く輝く鱗粉がキラキラと宙に舞っている。

 とても幻想的で、まるでおとぎ噺やゲームの世界から飛び出してきたかのような……。

 そんな明らかに人間ではない半透明の妖精の幼女が、私の肩にちょこんと張りついて、つぶらな瞳を瞬かせながら、物珍しそうにキョロキョロと周囲を見回していた。

 

 彼女の姿には、私も見覚えがある。

 その名を『虚の妖精ホルルン』――私と同じ、マスターのデッキのサーヴァントのうちの1体だ。

 

「ソウルハート・サーヴァント……メイちゃん、ホロエルちゃん以外にも持ってたの?」

「……違う。たぶん今、誕生したんだと思う」

「え。今? それって……」

 

 ……うん。やっぱり間違いない。

 私の本体のカードがあるマスターのデッキと、右肩にいるホルルン……この二か所から感じる気配は、紛れもなく同一のものだ。

 なんだかんだ雑な対応をしながらも、マスターが毎度のごとくデュエルで頼りにしていることもあって、近いうちにソウルハート・サーヴァントになるかもとは思っていたけれど……。

 どうやら今、実力のあるデュエリストが一か所に集ったこのタイミングで、彼女たちが発する心のエネルギーをそれぞれわずかに取り込むことで、完全に覚醒することに成功したようだ。

 

 ホムラは軽く目を見開いた後、興味深そうに私の肩にしがみついているホルルンに顔を近づける。

 ホルルンもそんなホムラの存在に気がついたようだったが……ホムラと視線が合った途端、怯えたように私の背中に隠れてしまった。

 

「あ、あれ? 怖がられちゃった……なんでだろ」

「前のデュエルの時に戦ったグレイブ・ドラグニルがよほど怖かったみたい。その使い手のホムラのことも、ちょっと苦手みたい」

「え……メイちゃん、ホロエルちゃんだけじゃなくて、ホルルンちゃんの考えてることもわかるの?」

「……まあ、なんとなく。これでも一応、ずっと一緒に戦ってきたから」

 

 マスターが珍しくホルルンを認めるような発言をしたからか、ホルルンが私の右肩からひょこっと再び顔を出すと、パァッと表情を明るくする。

 それから自信満々に胸を張ろうとして……。

 不用意に私から手を離してしまったことで転げ落ち、ゴテンと思い切り顔面を床に打ちつけた。

 

「あ」

 

 そのダメージが致命傷になってしまったのだろう。

 涙目になってプルプルと震えたホルルンは、スーッ……と、その姿を薄くしていき……ものの数秒で完全に消えてしまった。

 残された五人の間に、しばしの沈黙が流れる。

 

「……どうやら誕生したばかりで、まだ存在の維持がうまくできないみたいね……」

「あはは……だねぇ。大丈夫かなぁ、あの子……また会えたらいいな」

 

 ホムラとエミリアがホルルンの消えた場所を眺めながら、心配そうにそう呟いた。

 いつもはホルルンのことを割と雑に扱っているマスターも、今回ばかりはさすがに不憫だと感じたのだろうか。

 マスターはデッキから『虚の妖精ホルルン』のカードを取り出すと、そのカードイラストの頭に当たる部分を、そっと慰めるように指で撫でた。

 私もそれに倣ってマスターのそばに寄ると、同じように頭を撫でてあげる。

 

 これからよろしくね、ホルルン。

 そう微笑みかけると……ホルルンのカードが嬉しそうに、ほんの少しだけ輝いたような気がした。




ナーフのお知らせです。

今回複数人分のデッキを作る必要があり、ようやく全員分のカードの性能がまとまったので改めて考えてみたのですが…。
理不尽性を加速させる要因となりかねないエナジーチャージ系統のカードはもう少し規制を重くしたいと思ったので、「惰眠を貪る虚の妖精(スリーピング・ホルルン)」のエナジーチャージ効果をナーフさせていただきます!
あとついでに「虚の妖精ホルルン」も少々ナーフさせていただきます。

-修正前-
☆惰眠を貪る虚の妖精☆
「①以下の効果から1つを選択して適用する。
・デッキの上から1枚目をエナジーにチャージする。
・カードを1枚引く。」
☆虚の妖精ホルルン☆
「③場に出た時に発動可能。以下の効果から1つを選択して適用する。
・デッキの上から1枚目をエナジーにチャージする。
・カードを1枚引く。」
 ↓
-修正後-
☆惰眠を貪る虚の妖精☆
「①以下の効果から1つを選択して適用する。
・デッキの上から1枚目を消費状態でエナジーにチャージする
・カードを1枚引く。」
☆虚の妖精ホルルン☆
「③召喚時に発動可能。以下の効果から1つを選択して適用する。
・デッキの上から1枚目をエナジーにチャージする。
・カードを1枚引く。」

この「惰眠を貪る虚の妖精」の効果変更により使用可能エナジーが変化したことで、メイvsエミリア戦における先攻6ターン目のメイの使用カードが少し変わったことをお知らせいたします。
とは言っても本当に少しで、「1コストスペル『かじられた無花果』でハリボテ人形に虚構定理を付与して手札に『虚無』を1枚生成していた」ものを「0コストスペル『無知なる代償』でデッキから適当なカードを墓地へ送って手札に『虚無』を1枚生成した」と変更しただけです。
それ以外のデュエルの流れは一切変わりませんので、読み直し等の必要はありません。
また、「虚の妖精ホルルン」は召喚以外で場に出ていない(Qアクションは召喚扱い)ので、特に今までの描写に変化はありません。

また、コストを下げる効果について、以下のようにルールを変更いたします。

-修正前-
「召喚コストを下げる効果には以下の2種類がある。
①カードのコストを下げる。
→自分のターンの通常の召喚(もしくは『A・O・D』)で下げたコストが有効。『Qアクション』は別途にコストが設定されているため、カードそのもののコストが下がっても『Qアクション』のコストは下がらない。
②召喚するために必要なコストを下げる。
→自分のターンの通常の召喚(もしくは『A・O・D』)で下げたコストが有効。さらに『Qアクション』も召喚に類する為、『Qアクション』に使用するコストも下がる。」
 ↓
-修正後-
②召喚するために必要なコストを下げる。ですべて統一。
『竜の巫女アウロラ』等の①のパターンでコストを下げていたカード効果をすべて②のタイプに変更」

こちらは単純にややこしかったからですね。
これからはコストが下がる効果はすべて『Qアクション』にも適用されます。

長文失礼致しました。
ここまでお読みいただいた方に感謝を申し上げます!
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