可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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28.そんなの、友達だからに決まってるでしょ?

 5月末に開催されたクラス代表対抗戦が終わり、今の季節は6月。

 夏に差し掛かり、衣替えの時期を迎えたことで、学園に通う生徒の制服も冬服と夏服で入り乱れている。

 エミリアやセンカも同様に夏服への衣替えを済ませ、昨日の時点ですでに涼しそうな半袖の制服に袖を通していた。

 しかしそんな中、未だに冬服を着続けていた私が気にかかったのだろう。

 エミリアから「そろそろ無空さんも夏服に衣替えしたら?」と提案されたのが、今回のお出かけの事の発端だった。

 

 ……まず最初に弁明させてもらいたいのだが、私は学園に来る以前……つまりおよそ2ヶ月ほど前までは廃墟を転々として生活する日々を送っていた。

 定住なんてものとは無縁だったわけで、持ち歩ける荷物もせいぜいが大きめの旅行鞄に詰め込める程度のものしかなかった。

 そしてその肝心の旅行鞄の中身も、日用品や食料品、あとはデッキ調整用のカードを詰め込んだストレージボックスなんかで大半が埋まってしまい、衣服類を収納できるスペースなどほとんどない。

 だからそもそも衣替えという概念そのものを私は持ち合わせておらず、衣服なんて着れればいいというスタンスで今まで生きてきた。

 だからまあ、なんというか……。

 

『寒いのはあんまり好きじゃない。それに、夏用の制服に替えるだけなら大して手間もかからないし、まだ冬服のままでいい』

『制服を替えるだけならそうでしょうけど……クローゼットの中の私服の整理とかもあるでしょう?』

『私服なんて数えるほどしかないから、整理もなにもない』

『は? ……ちょっと待って。いえ待ちなさい。無空さん、あなた普段どんな服を着て過ごしているの?』

『どんなって……学園に来てからは制服と部屋着以外着てないけど』

『……無空さん。明日の放課後は空いてるわよね? 私とお洋服を買いに行きましょう』

『え。いや別に――』

『いやも別にもないわ! 明日の午後、あなたに合う夏服を探しに行くから、あなたもちゃんとついてくること! いいわね!?』

『う、うん……わかった』

 

 ……その時のエミリアの剣幕は凄まじく、有無を言わせぬ迫力に満ち満ちていた。

 いったいなにがそこまで彼女の逆鱗に触れてしまったのか、私には見当もつかなかったが……私がしきりに困惑する一方、ホムラはなにやら心当たりがあるかのように「あちゃー……」と頭を抱えていた。

 もしかしたらホムラも過去、私と同じような理由でエミリアを怒らせてしまった経験があったのかもしれない。

 

 なにはともあれ、そんなやり取りを経て、あれよあれよと話が進み。

 せっかくならクラス代表対抗戦の祝勝会も兼ねて五人でお出かけしようということで、こうして学園からほどほどに離れたショッピングセンターへとやってきたのだった。

 

「人が多い……」

「あはは。これでも休日に比べたらマシな方だよ? 学校は早く終わったけど、今日は一応平日だからね」

 

 広大で清潔感のあるエントランスフロアの吹き抜けを通して、夏の青空と日差しが降り注ぐ。

 賑々しい人の声に満たされたその活気に溢れた空間では、老若男女問わずさまざまな人が思い思いにショッピングを楽しんでおり、その中にはクロワッサン学園の制服を着込んだ生徒の姿もちらほらと見受けられた。

 もちろん、今の私たちもその一員だ。

 あまり人混みが好きではない私が辟易とした声を漏らすと、ホムラが苦笑しながら私の隣に並んだ。

 ホロエルは人前ということもあり、いつもの私にだけ姿が見える通常の半透明モードのまま、物珍しげに周囲を見渡している。

 そして少し前の方では、エミリアとセンカが二人でキャイキャイと楽しげに笑い合いながら、洋服店の店頭に並んだマネキンを物色していた。

 

「エミリアさん、見て見て! このコーデ可愛い!」

「あら、夏にピッタリな爽やかな色遣いでとても素敵ね。センカちゃんによく似合うと思うわ」

 

 現在、私たちがいる一階フロアの一画は、カジュアルで華やかなアパレルショップがずらりと立ち並んでいる。

 私はファッションには明るくない方だけど、あの二人はおしゃれに人一倍興味があるようで、夏服選びもなんのそのと言った感じだった。

 

「えへへー、そうかなぁ? でも、わたしは動きやすい方が好きだからねぇ。わたしなら下はこっちのショーパンにしちゃうかも」

「そうするとまた違った印象になるわね。快活で元気いっぱいな明るいコーデになって――」

 

 ショッピングセンターに来てからセンカとエミリアの二人はずっとこの調子で、やれあれが可愛いだの、これがいいだのと、まるで姉妹のように仲睦まじく話題に花を咲かせている。

 センカの本当の姉であるホムラはと言えば、私ほど無知ではないにせよ、あまりファッションには詳しくないらしく、私と同じく二人の後をちょこちょことついて回っている状態だ。 

 

「お姉ちゃん、メイ様! もうっ、2人とも遅いよー! 次はあっちのお店行くからねー!」

 

 私たちに声をかけると、センカはパタパタと小走りで次の店へと駆けていく。

 エミリアはそんな彼女に周りの迷惑になるから走らないようにと軽く注意しつつも、しかたがなさそうに肩をすくめ、センカの後を追うように歩いていく。

 

「……私の目がおかしいのかな。正直、どの店も同じに見える……」

 

 二人が少し遠くへ行った後、思わずポツリと呟く。

 するとホムラが私の言葉を聞いて、プッと小さく噴き出した。

 

「メイちゃん、三年前の私と同じこと言ってる」

「ホムラと同じ?」

「うん。私も中学一年生の頃、今のメイちゃんと同じようにエミリアにここに連れ出されてきたんだけど……その時ついつい『どの店も同じじゃん』って言っちゃったんだよね。そしたら……」

「……そしたら?」

「……あは、あはは……」

 

 ホムラは遠い目をしながら乾いた笑いを浮かべ、ぶるりと身震いする。

 ……どうやら相当怖い目に遭ったらしい。

 

「と、とにかく! 二人の前では、どこも同じとか言わないようにね。みっちりしごかれる羽目になるから……メーカーとかブランドとか、そういう違いが一目でわかるようになるまで……」

「……わかった。中学一年生のホムラの犠牲は無駄にはしない」

「犠牲って言わないで!?」

 

 思い返してみると、ホムラはあまりファッションに興味がなさそうなのに、偶に見る私服はどれもセンスがよさげだ。髪留めとか、アクセサリーとか。

 あれはエミリアの教育の賜物だったのだろうと、今更ながらに合点がいった。

 

 ……そういえば、ホロエルはどうなんだろう。ファッションとか詳しいのかな。

 

 些細な疑問を抱き、視線で彼女に問いかけてみる。

 すると私と目を合わせたホロエルは、くっ、と無念そうにふるふると首を左右に振った。

 どうやらホロエルもファッションには明るくないらしい。

 

 ただまあ、それもそうか。ホロエルはソウルハート・サーヴァントだ。

 霊体である彼女の姿かたちは、服装まで含めて『虚構天使ホロエル』という一つの存在として固定されてしまっている。

 だからホロエルには、私やホムラ、エミリアやセンカのように、着替えるという概念自体が存在しない。

 ホロエルが持つ虚無の天使としての力で、依り代を得て、完全なる実体化を果たせれば話はまた別なんだろうけれど……ホロエルが自ら進んでその力を行使することは絶対にない。

 ……もちろん、もっといろんな服を着たホロエルを見たいと言う気持ちがないと言えば嘘になるけど。

 嘘になるというか、ものすっっっごく見たいけど。

 そんなことは、依り代という犠牲を払う必要もなく、ホロエル自身の意思で自由に動かせる肉体を得る……なんていう不可能じみた奇跡でも起きない限り、絶対に叶わない夢物語だ。

 

「ここの品揃えはなかなか良いわね。ここで無空さんの夏服を買い揃えようと思うのだけど、どうかしら?」

 

 私とホムラ、ホロエルの三人が、エミリアとセンカの二人に追いつくと、エミリアが夏服売り場のラインナップを見回して、そんな提案を口にした。

 特に異論はないので、私はそれに頷きを返す。

 

「決まりね。じゃあせっかくだけど、無空さんはなにかこういう服を着たいって要望はあるかしら? なんでもいいわよ。可愛いのがいいとか、脚を長く見られたいとか」

「……」

 

 要望と言われても……。

 そもそもファッション自体にあまり関心がないから、要望もなにもない。

 

「……『そもそもファッション自体にあまり関心がないから、要望もなにもない』って顔ね」

「そ、そんなこと……ない」

「図星みたいね。他の人と比べれば表情の変化に乏しいとは言え、出会ってしばらく経つもの。そろそろあなたの感情を読み解くのも慣れてきたわよ」

 

 エミリアが呆れた様子でため息をついた。

 いやだって……衣服に気を遣う余裕なんて今までなかったし……。

 そんな私になにか要望があるかと言われても……正直困る。

 

「メイ様メイ様! どれがいいか自分でもわからないなら、せっかくだしなにか着てみたらいいかと思います!  わたしもメイ様に合う服選びたい!」

「それは良い案ね。試着してみて気に入るってこともあるでしょうし。そうね……だったらこうしましょう」

 

 エミリアはパンと手を叩いて注目を集めると、私にしか見えないホロエルを除き、私たちの顔を一人ずつ順に見て、こう言った。

 

「私、センカちゃん、ホムラ。それから、ホロエルちゃん。無空さん以外の四人がそれぞれ、無空さんに似合うと思う夏服を選んでくるの。それで、試着した無空さんが気に入ったものを買う……これでどうかしら?」

「わぁ! それすっごくいい! コーディネートセンスが問われるね!」

「あんまり自信はないけど……メイちゃんが私の選んだ服を着てくれるかもって思ったら、ちょっと面白そうかも」

 

 ……チラリとホロエルの方を見てみると、彼女も目を輝かせて、ずいぶんと乗り気な様子だった。

 

「……わかった。それでお願い」

「ええ、任せてちょうだい。あぁそれと、言うまでもないことだとは思うけど……ホロエルちゃんは今は無空さんにしか姿が見えないから、服選びは無空さんがフォローしてあげてね。それじゃあ、10分後に試着室に集合ということで」

 

 はーい! とセンカの元気のいい返事を皮切りに、私とホロエルを除く三人は散開して夏服売り場へと消えていく。

 私もホロエルと顔を見合わせると、彼女と一緒に夏服売り場へと足を進める。

 ひょこひょこといろんな服の前で足を止めては、真剣な表情で吟味するホロエルの様子がなんだかとても微笑ましく、私は思わずクスリと笑みをこぼした。

 

 

 


 

 

 

 10分後、試着室の前で五人が合流すると、早速とばかりに私の着せ替え人形タイムが始まった。

 

「まずは私ね。無空さん、これを着てみてくれる?」

「わかった」

 

 エミリアが差し出してきた服を受け取り、カーテンを閉めて着替える。

 そして着替え終わった後、私はカーテンを開けて姿を見せた。

 

「わぁ~! 可愛い~!」

「おお~……メイちゃんがすごくおしゃれに見える」

 

 センカとホムラと同様に、ホロエルもパチパチと手を叩いて、私の姿を褒めそやしてくれる。

 

「いいわね。無空さんは脚がすらっとしているから、スキニーデニムがすごく似合うと思ったの。それとオフショルブラウスね。せっかく肌が綺麗なんだから、見せないのはもったいないわ」

「うんうん! 明るい色合いでラフな雰囲気が出てるのもポイントだよね! 普段のメイ様はクールでちょっと近寄りがたい印象もあるけど、この格好なら親しみやすく見えるし!」

 

 ……なんだろう、この感覚。ちょっと顔が熱くなるというか……むず痒い。

 

「あれ? メイちゃんもしかして照れてる?」

「……ホムラ。うるさい」

「あいたっ」

 

 ニヤニヤと笑っているホムラを小突く。

 ……まあ、でも。

 

「……悪くないと思う」

「ふふっ、それはよかったわ」

「それじゃメイ様! 次はわたしの選んだ服を着てみて!」

 

 エミリアが満足そうに微笑むと、センカがぴょんこぴょんこと跳ねながら、私に次の服を手渡してきた。

 その後もあれやこれやと批評された後、ホムラに次の服を渡されて、都度カーテンを閉めては着替えていく。

 センカは彼女へのイメージ通り、明朗快活でポップなコーディネートを。

 ホムラは意外とふんわりとした可愛らしいテイストのコーディネートを。

 そして最後にホロエルが選んだのは……。

 

「これは……切り替えワンピースね。上は無地で、下はタイタンチェックのフレアスカート。腰にリボンがついているのがまた可愛いわね」

「暗めの色で大人っぽくて、メイ様のクールなイメージにもぴったり! すごく似合ってる!」

「ワンピースを選んだのは、ホロエルちゃんなりに自分とお揃いにしたかったからかな? ホロエルちゃんの服、ワンピースだもんねぇ」

 

 ホロエルが選んだ最後の服に着替えてカーテンを開けると、ホロエル以外の三人が私の姿を見て、ほうっと感嘆のため息をついた。

 ホロエルはと言えば、少し照れくさそうにしながらも、私のワンピース姿を前に、どこか誇らしげに胸を張っている。

 

 ……うん。ホロエルが選んでくれたワンピースは、すごくいい感じだ。

 エミリア、センカ、ホムラ。皆が選んでくれた服も良かったけれど、どれも明るめで可愛さが前面に出ていて、ちょっとだけ落ちつかないというか……普通の女の子というものの在り方がよくわからない私には、少し荷が重いんじゃないかとも感じていた。

 でもその点、ホロエルが選んでくれたワンピースは暗くて落ちついた印象のある色使いをしていて、それでいて可愛さもほどよく控えめなデザインだから……すごくしっくりくる。

 私の好みと、私の良さを引き出すことの両立。

 それができるのは、私の成長をずっとそばで見守ってくれていたホロエルだからなのだろう。

 

「どう? メイちゃん。どれか気に入った服はある?」

「……うん。皆が選んでくれた服、全部買う」

「え、全部? でもそれだと、お金が結構かかっちゃうよ?」

「別にいい。貯金はそれなりにあるから。それに……最初から決めてた。自分がどうなりたいかもわからない私のために皆が考えて選んでくれた服なら、全部買いたい」

 

 胸に手を当てて正直な気持ちを告げると、ホムラとセンカ、エミリアの三人は互いに顔を見合わせ、くすぐったそうに笑った。

 ホロエルも同じように、嬉しそうにはにかんでいる。

 

「やっぱりメイちゃんって、言葉数が少ないだけですっごく愛情深いよね」

「……別にそういうのじゃないって、前にも言った」

「ふふん、甘いねお姉ちゃん。わたしは最初から知ってたよ? メイ様はカード1枚1枚をちゃんと大切にする人だからね! わたしと初めて会った時もそうだったし!」

「そうね。無空さんはそういう人よね」

「……もうそれでいいから、早くレジに持っていかせて……」

 

 私以外の全員がなんだか微笑ましいものを見るような生暖かい目で私を見てくるのに耐えかねて、私は適当に話を打ち切って試着室のカーテンを閉めた。

 そうして制服に着替え直すと、試着した夏服の会計を済ませ、私たちは店を後にするのだった。

 

 

 


 

 

 

 服を買い終えた私たちは、ショッピングセンターの二階に上がり、次の目的地を話し合いながら歩いていた。

 

「次はどこに行こっか?」

「ここからは無空さんとセンカちゃんの祝勝会のためにも、いろいろ買い揃えないとね」

「あ! わたし、ミス・オリクックのドーナツ食べたい!」

「ふふっ、センカちゃんのリクエストならしょうがないわね。ミス・オリクックに行きましょうか」

「やったー!」

「あはは、センカは甘いもの大好きだからねぇ」

「もうっ、お姉ちゃん。甘ければなんでもいってわけじゃないんだよ? ミス・オリクックのドーナツはね――」

 

 センカはミス・オリクックのドーナツが食べられることがよほど嬉しいのか、得意げにミス・オリクックのドーナツについて熱弁している。

 そんな彼女たちの背を眺めるようにして歩いていると、隣を歩いていたホロエルが不意にあちこちに視線を彷徨わせ始めた。

 

「ホロエル?」

 

 明らかにいつもと様子が異なるホロエルが気にかかり声をかけると、ホロエルは不安そうに私を見返した。

 それから暫し戸惑った後、どこか気が引けた様子で、耳打ちをするように私に告げる。

 ――誰かに後をつけられている、と。

 

「っ……」

 

 思わず、私は歩く足を止めた。

 

 ……誰かに尾行される経験は、これが初めてというわけじゃない。

 ホロエルの手を借りて教団を脱走した私には、私たちを連れ戻そうとたびたび教団が追手を差し向けてきていた。

 最初の一年間は特に酷かったように思う。

 毎日のように追手に追われて、私は頻繁に拠点を移しながら、常に張り詰めた空気の中で生活していた。

 とは言え、年月を経るにつれて追手と遭遇する回数は減っていき、ここ一年ほどは一度も出くわしていなかったけれど……。

 ……廃墟を転々としていた以前までとは違って、学園に所属するだなんて派手なことをしているんだ。

 教団が再び私の居場所を特定して、連れ戻そうと躍起になっても不思議はない。

 

「……あれ? メイちゃん、どうかしたの?」

 

 唐突に立ち止まった私を訝しむように、ホムラとエミリア、センカの三人が振り返って私を見た。

 

 ……私一人だけなら、別にいい。この程度のトラブル、とっくに慣れている。

 だけどもしもこの三人と一緒に居続けることで、その友好関係を見抜かれ、彼女たちを私の問題に巻き込んでしまったなら……。

 

「……ホムラ、エミリア、センカ。そのまま三人で固まって行動して、絶対に一人にならないで。私は……ちょっとトイレに行ってくる」

「ト、トイレ? って、メイちゃん!? そっちはトイレじゃ――」

 

 これは私の問題だ。ホムラたちは関係ない。

 私を呼び止めようとする三人の声を無視して、私はショッピングセンターの中を駆け出した。

 すると、追手と思しき存在も私を追うようにして慌てて動き出したことをホロエルが教えてくれる。

 やはり目的は私か。素直に追ってきてくれるというなら、ちょうどいい。

 ショッピングエリアを抜け、立体駐車場のフロアに入った私は、さらにその隅の人目のない方へと駆け込んだ。

 そして行き止まりにたどりつくと、追手の気配を背中に感じながら、私は足を止める。

 

「……我々の存在を察知したことは、褒めてやろう。しかし、わざわざ逃げ場のない場所へと逃げ込むのは迂闊だったな」

「迂闊? 迂闊なのは、わざわざおびき寄せられてやってきたあなたたちでしょ? ……逃げられないのは、あなたたちの方」

 

 答えながら振り返ると、そこにはありふれた服装に身を包んだ六人の男たちが立っていた。

 教団の構成員……だろうか。

 だけど、なんだろう……少し違和感がある。

 男たちが着ている衣服に、まるで統一性がない。

 街中では一般人にカモフラージュする必要があるとは言え、私の記憶が確かなら、教団の連中が好んで着るのは白い服だったはずだ。

 ……いや。そんな細かいこと、今はどうでもいいか。

 こいつらの目的が私であることに違いはないんだ。

 

 私がデュエルガントレットを構えると、男たちは愉快そうに笑った。

 

「はははっ! まさか一人で六人全員を相手にするつもりか? 随分と勇ましいな」

「デュエルは本来、一対一で行うもの。だけど、今あなたたちがしていることはなに? 一人で挑む気概もなければ、デュエリストとしての誇りも信念もない……しょせんは雁首揃えただけの下衆と無能の集団。お里が知れるあなたたち程度、私一人で十分」

「……口だけは達者だな。その威勢の良さがどこまで続くか楽しみだ! やれ!」

 

 リーダーと思しき男が叫ぶと、男たちは一斉にデュエルガントレットを起動し、構えた。

 そうしてデュエルを開始しようとした瞬間、ニャーオ、とこの場に似つかわしくない可愛らしい鳴き声が響き渡る。

 

「……え?」

「なんだこいつは!? どこから現れた!?」

 

 足元を見れば、いつの間にかそこにいた一匹の機械仕掛けの猫が、私の足元にスリスリと身体を擦りつけていた。

 この猫は、知っている。見たことがある。

 『機械猫(メカニカルキャット)』――エミリアのソウルハート・サーヴァントだ。

 機械猫は六人の男たちの方へと振り向くと、威嚇するように目を青色に光らせた。

 そして男たちが怯んだ一瞬の隙を見逃さず、ほんの瞬きの間に男たちの間を駆け抜けると、油断していた一人のデュエルガントレットを引っ搔いて破壊した。

 

「こ、こいつっ!?」

 

 男たちの間に動揺が走る。こんな小さなガラクタのような猫がこれほどの力を持っているなんて、いったい誰が初見で予想できるだろう。

 とは言え、あくまでも初見殺し。二人目には通じず、機械猫の引っ掻きはギリギリで躱されてしまっていた。

 

「落ちつけ! おそらくはソウルハート・サーヴァントだろうが……見たところATKもHPも大したことがない雑魚サーヴァントだ! デュエルリクエストモードで勝負を仕掛け、スペルの連続詠唱で圧し潰せば問題ない! やれ!」

「了解、『流れ弾直撃』!」

「『ウィンド・バースト』!」

 

 ソウルハート・サーヴァントは、自分の意思を持ち、実体化することができる特別なサーヴァントだ。

 しかし人間も、デュエルリクエストモードであればデュエルガントレットを通して自身の魂の力を消費し、自由にスペルを実体化させることができる。

 これに対抗するためには同じくデュエルリクエストモードを起動してこちらもスペルを使用するか、デュエルのリクエストそのものを承認してデュエルを成立させるほかない。

 だが、ソウルハート・サーヴァントである機械猫はデュエルガントレットを持たない。

 つまりデュエルを成立させることはできず、このままでは一方的に攻撃されるしかない。

 

 炎の球体と切り裂く風の渦が迫り、機械猫が為すすべもなく吞み込まれようとした。

 その刹那、私の視界の端で水色の髪が靡く。

 

「雑魚サーヴァントだなんて、失礼しちゃうわね。私は2枚の『ウォーター・ベール』を詠唱する!」

 

ウォーター・ベール
コスト6 属性:水 

スペル 

 - 効果 - 
①【手札で有効】水属性サーヴァントが自分の場に出るたび、このスペルを詠唱するために必要なコストを-1する。それが転生サーヴァントなら-1ではなく-4。

②カードを2枚引く。自分の場のサーヴァント1枚に『バリア』を1層付与する。

 

「これにより『機械猫』に『バリア』を2層付与し、ダメージを2回無効にする」

「エミリア……」

 

 機械猫を水のヴェールが包み込み、炎の球と風の刃からその身を守る。

 そうしてこの場にやってきたエミリアが男たちの前に立ちはだかると、機械猫は自分の主人であるエミリアの肩へと跳び乗った。

 機械猫が再びその青い目を光らせ、男たちを威嚇すると、彼らは怯んだように後ずさる。

 

「狼狽えるな! 数はこちらが勝っている! このまま物量で押しつぶせば……!」

「物量、ねぇ。果たして猛り怒る竜を前にしても、その威勢を保てるかしら? ――ホムラ!」

「わかってるよ! 来て、『再燃の焔リバイヴ・H(ハート)・ドラゴン』!」

 

 どこからともかく聞こえてきたホムラの叫びとともに、駐車場の中央に焼け焦げた竜が姿を現す。

 その体格は竜にしては小さめではあるものの、立体駐車場の天井に届きかねないほどの巨躯を誇り、全身に炎を滾らせている。

 

「これは……! まずい、退避しろッ!」

「容赦なんていらない! 蹴散らして、リバイヴ・H!」

 

 鱗に走る炎の線のような亀裂を通して垣間見えるマグマのような血が躍動すると、その亀裂から激しい炎が噴き出し、膨大な熱気が立体駐車場を満たす。

 そしてその次の瞬間には、竜がジェット機のごとき目にも留まらぬ轟速で男たちへと突撃し、回避が間に合わなかった二人を焼き焦がしながら吹き飛ばした。

 

「がはッ……!?」

「ぐわぁぁぁぁぁッ!?」

 

 圧倒的な暴力を前に、貧弱なスペルでは為す術もない。

 宙を舞う男たちの身体は、一人は立体駐車場の壁へと叩きつけられ気絶し、一人は運悪く立体駐車場の外へと放り出され、地上へと落下していった。

 なかなかの惨状ではあるが……彼らも仮にもデュエリストだ。

 全治に半月程度はかかるかもしれないが、この程度で死ぬことはないだろう。

 

「ホムラまで……どうして追いかけてきたの? トイレだって言ったのに……」

「や、メイちゃんが行った方角トイレじゃなかったし……あの焦りようでトイレだって言葉をそのまま受け取るのは無理があるよ」

「同感ね。言ったでしょう? あなたの感情を読み解くのも慣れてきたって。あの時あなたが心の中で追い詰められてたってことくらい、私にはお見通しよ」

 

 それぞれのソウルハート・サーヴァントを従えたホムラとエミリアが、私を庇うように男たちの前に立ち塞がる。

 でも……こんな風に、彼女たちを私の問題へと巻き込んでしまうのは、私の本意じゃない。

 

「私が……私一人で片をつける。だから、もういいから。これ以上目をつけられる前に、二人は帰って」

「やだ」

「無理ね」

「っ、どうして……」

 

 問い返すと、ホムラとエミリアは顔を見合わせ、やれやれと言った様子で肩をすくめた。

 

「そんなの、友達だからに決まってるでしょ?」

「友達だから……?」

 

 代表するようにホムラが告げた答えが、私には一瞬理解できなかった。

 友達だから、私の問題に首を突っ込む?

 ……違う。友達だからこそ、私はホムラたちを巻き込みたくないんだ。

 

「ねえ、無空さん。もしも私たちが怪しい人たちに狙われてたら、あなたはどうするかしら? 一緒に戦おうとする? それとも逃げる?」

「そんなの、私も戦うに決まって…………あ……」

「ね? そういうことよ。友達が一人で苦しんでいるのに、見過ごすなんてできない。たとえあなたが一人で戦うと言っても、私たちはあなたの隣に立つ。迷惑だって言われてもね」

「……エミリア……ホムラ……」

 

 ……そっか。友達になるって、こういうことなんだ。

 ずっとなんとなくで、友達は大切にしなきゃって思ってた。

 その思考は間違ってない。けれどその思いがゆえに、私はきっと無意識に彼女たちとの間に一線を引いていた。

 私の問題に彼女たちを巻き込んじゃいけない。私が原因で彼女たちが傷つくのなら、私はきっと彼女たちから離れるべきだ、と。

 だけどもしも友達が……ホムラたちが困っていたら、私はその力になりたいと願うだろう。

 そしてそれは、ホムラもエミリアも同じなんだ。

 私たちは上下関係じゃない。誰かが誰かを一方的に守るわけでもない。

 ただ隣に立って、一緒に戦う。それが……。

 

「くっ……こうなってはしかたがないか……」

 

 男たちのリーダーと思しき男が、苦虫を嚙み潰したような顔でデュエルガントレットを構える。

 

 ソウルハート・サーヴァントは、その力が強大であればあるほど実体化の維持に力を消耗する。

 『再燃の焔リバイヴ・H・ドラゴン』ほど強力なサーヴァントであれば、おそらくは30秒……どんなに長く見積もっても1分が限度だろう。

 つまり、これ以上の実体化は難しい。

 機械猫であれば相当に長い時間の実体化が可能だろうが、そのぶん力は格段に落ちる。

 完全に警戒されている現状では、攪乱程度の役割しか担えない。

 

 だけど幸い、男たち六人のうち、一人は機械猫にデュエルガントレットを破壊され、二人はリバイヴ・Hの攻撃で戦闘不能にまで追い込まれた。

 残るは三人。そしてこちらも、私とホムラ、エミリアでちょうど三人だ。

 数の有利は覆された。であれば、彼らが取れる手はもう一つしか残っていない。

 

「デュエルだ! ターゲットの相手は私がする……! お前たち二人は、そこの猫と竜を従えるデュエリストの相手をしろ!」

「了解!」

「了解です、ボス」

 

 向こうも踏ん切りがついたようだ。

 残った三人の男たちが、それぞれのデュエルガントレットを起動する。

 それに対抗するように、私たち三人もデュエルガントレットを構えた。

 

「お前たちをここで倒し、我々は『虚構天使ホロエル』を手に入れる……!」

「……へえ、ホロエルちゃんが狙いなんだ。だったらなおさら、負けられない! 行くよ、リバイヴ・H!」

「機械猫、先行して無空さんを守ってくれてありがとね。さあ、ここからは一緒に私たちの友達を守りましょう」

「……ホロエル」

 

 私の隣に立つホロエルと視線を交わす。

 ホロエルは優しげに微笑みながら、力強く頷いて、その姿を消した。

 

 ……感覚を研ぎ澄ます。

 ただの一度でも負ければ終わり。私のすべては虚無に帰り、ホロエルと二度と一緒にいられなくなる。

 幼い頃から繰り返してきたデュエルの感覚。

 だけど今は……少し違う温かさが、私の胸の内に宿っている。

 

「行くぞお前たち! デュエルガントレット、スタンバイッ!」

「「「――デュエルスタート!」」」




※今回はモブ戦なのでデュエル描写は適当にカットされます。ご了承くださいませ。

カード製作裏話
・ウォーター・ベール
コスト軽減に手間がかかるが、その手間さえクリアすれば0コスト2枚ドロー1層バリア付与という超高性能カードに早変わり。とは言えこの手のタイプのカードはその手間こそが一番の肝である。コストが軽減していく条件は手札にこれがある状態で水属性サーヴァントが場に出ることだが、序盤に引くと手札を圧迫して動きに柔軟性が欠けやすくなり、後半に引くとコスト軽減が間に合わず使いにくいと言うジレンマを抱えている。しかし水属性を大量に場に出す手段があるデッキならば非常に有用なカードであることに変わりはないので、デッキの戦術によっては重宝される可能性は大いにあると言える。
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