可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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35.心中の時だよ。戦火の炎で、己ごと全部灰になるまで焼き尽くす

「こっちよ!」

 

 『機械猫』とエミリアの先導のもと、私とホムラ、そしてホロエルは、ショッピングセンターを駆ける。

 私たちが襲撃者の男たちと戦ったのは、2階の立体駐車場だった。

 だけど今の私たちがいるのは、ショッピングセンターの4階。

 階層の一番上であり、映画館が鎮座するエリアだ。

 しかし今は設備点検中で営業していないらしく、人影はほとんどなく閑散としている。

 

「映画館の中……?」

「みたいね。非常事態よ、しかたないわ。行くわよ」

 

 『設備点検中にて立ち入り禁止』と書かれた立て札の横をすり抜けて映画館の奥へと進んでいく機械猫に、ホムラが困惑の声を上げる。

 もしもこの先へ進む場面を警備員に見られれば、摘まみ出されて学園に連絡され、なにかしらの処分を下されかねないが……。

 機械猫を信じて迷いなく進んでいくエミリアの背を見て、私とホムラは顔を見合わせると、頷き合ってその後を追った。

 

「センカちゃん!」

「センカっ!」

「センカ」

 

 そうしてたどりついたのは、いくつかあるシアターのうちの一番奥。

 薄暗い巨大な部屋の中央の通り道で、全身黒ずくめの怪しい人物とデュエルを繰り広げるボロボロのセンカを発見し、私たちは声を上げる。

 黒ずくめの人物はチラリと一瞬だけこちらを見てきたが……一方でセンカは、私たちがやってきたことに気がついていないようだ。

 デュエルに相当集中しているのか、私たちが彼女を呼ぶ声も耳に入っていないらしく、その視線はただ目の前に立つ黒ずくめの人物だけに向いている。

 

「……はぁー。もー……」

 

 そんなセンカを一目見ると、ホムラは呆れ果てたかのように大きくため息をついた。

 

「どうするの? ホムラ。センカちゃん、だいぶ押されてるみたいよ」

「……ううん、大丈夫そう。センカ……すごく楽しそうだし」

 

 センカの無事を確認できたからだろうか。

 エミリアの問いに、ホムラは少し落ちつきを取り戻した様子で首を左右に振った。

 

「……勝てるの?」

 

 そう問いかけたのは私だ。

 正直……私は、センカの実力をあまりよく知らない。

 中等部二年生のクラス代表対抗戦を制したらしいけれど、私自身はセンカのデュエルをほとんど見たことがない。

 唯一、初めてセンカと会った時に彼女が行っていた、チンピラとのデュエルは見たことがあるけど……あれはセンカの方が紙束としか言いようのない意味不明なデッキを使っていたので、彼女の実力を測るには不足だろう。

 他にも私の転入当初は、ホムラとセンカがよく言い争いながらデュエルをしていたが、私は二人のデュエルが勃発するたびに屋上に避難していたから、一度も観戦したことがない。

 私がセンカの実力に関して他に知っていることと言えば、センカがホムラに一度も勝てたことがないこと……それくらいだ。

 私の疑念に、ホムラはデュエルに集中しているセンカの横顔をジッと眺めながら、呟くように答える。

 

「勝つよ。あの顔したセンカが私以外に負けてるとこ見たことないし。大丈夫……見ててメイちゃん。センカもきっと……自分の憧れであるメイちゃんに、自分のデュエルを見てほしいと思ってるはずだから」

「……」

 

 ホムラに言われるがまま、私も視線を前に戻す。

 

 デュエルはすでに終盤戦のようだ。

 これから行われるのは先攻6ターン目、センカのターン。

 相手の場にはエース級サーヴァントが存在するが、センカの場にサーヴァントはなし。

 ライフカウンターは相手が残り3に対し、センカは0。

 さらにそこまで追い詰められた状況でありながら、センカのエナジーはまだ5しか溜まっていない。

 ……明らかにセンカの方が形勢不利。ここで逆転できなければ、センカの敗北は必至だろう。

 

 私たちが固唾を飲んで見守る中、センカがデュエルガントレットのデッキに手をかける。

 そうして彼女はどこかホムラに似た獰猛な笑みを浮かべながら、愉しげにデッキからカードをドローするのだった。

 

 

 


 

 

 

 わたし――燃照センカは想起する。自分というデュエリストが、いったい何者なのかを。

 

≪へ~んしんっ! 勝利の使者――魔法少女ルビーレッド! 行くよ! ブルーサファイア!≫

≪ええ! 町の人たちをこれ以上傷つけさせないわ!≫

 

 まだ物心ついて間もない頃。

 日曜日の朝七時に放送されていた子ども向けのアニメを、わたしはいつも食い入るように眺めていた。

 幼い子どもでも簡単に内容がわかる、勧善懲悪の作品だ。

 魔法少女っていう正義の味方がいて、時に学生としてその正体を隠しながら和気あいあいとした日常生活を送り、時に魔法少女として人知れず町の人たちを困らせる怪人たちを倒す。

 人が嫌がることをしちゃいけない。人に優しくしましょう、隣人を愛しましょう。

 そんな道徳的な教育も兼ねたような、よくある魔法少女を題材にしたアニメ。

 お父さんもお母さんも、夢中になってテレビの前にかじりつくわたしを、いつも微笑ましげに見守ってくれていたのを覚えている。

 

『センカ。それ、そんなにおもしろいの?』

 

 そんなある日。一人でテレビの前に座り込んでアニメを見ていたわたしに、不思議そうな顔をしてお姉ちゃんが声をかけてきた。

 ただ、ちょうど良く盛り上がっているところだったので、わたしはすぐにはそれに気づくことができなかった。

 魔法少女と怪人が戦う姿を、じーっと眺めて……わたしが周りの声が聞こえないほど集中していると気づいたお姉ちゃんも、そんなわたしの横に座って一緒にアニメを視聴し始めた。

 

≪絆パワー! フレンズドッキング! 行くよ! ルビーサファイア・バースト!≫

≪グギャァァァァァァァアアアッ!!≫

 

『わっ! すごいね〜! センカがむちゅうになるのもわかるかも! すっごくおもしろいね、これ!』

『……』

 

 まだだ。まだ終わってない。

 赤と青の光の中で必死にもがく怪人を、わたしはじっと見つめる。

 でも……。

 

『わ~! あんなおっきいのにかっちゃった!』

 

 魔法少女が放った光線にギリギリで耐えた怪人も、最後には二人の魔法少女が渾身の力を振り絞って繰り出した左右からの回し蹴りを受けて、完全に動かなくなってしまった。

 その体を粒子に変えて消滅していく怪人の横で、魔法少女たちは強敵を倒した喜びを分かち合うようにハイタッチをしていた。

 

『……また、まけちゃった』

『え? まけたって……かったでしょ?』

『ううん、まけた。また、たおせなかった。かてなかった……あとちょっとだったのに、しんじゃった……』

『……もしかしてかいじんのこと、いってるの?』

『うん』

『うーん……まほうしょうじょアニメなんだから、まほうしょうじょがかつのは、あたりまえじゃないかなぁ』

『……』

 

 皆、同じことを言う。

 幼稚園の先生もそうだった。

 

 正義は必ず最後には勝つのよ、だとか。

 魔法少女の絆の力は無限大なのよ、だとか。

 

 でも、だったら。もしそうだとしたら。

 

『いったいどうすれば……かいじんはまほうしょうじょに、かてるんだろう……』

『……んー……わかんない! ……そうだ! ねえ、センカ。わたしとデュエルしようよ』

『でゅえる?』

『デュエルでなら、センカがほしいこたえが、みつけられるかもしれないよ!』

 

 暗い顔をするわたしにお姉ちゃんがそう言って、明るく手を差し伸べる。

 その時わたしはお姉ちゃんの姿が、画面の向こうの魔法少女の姿と重なって見えた。

 綺麗で可愛くて、かっこよくて強い。完全無欠の正義の味方。

 ――どろり、と。その時初めて、わたしの中で黒い衝動が鎌首をもたげた。

 

『……うん。する。おねえちゃんと、でゅえるする』

『きまりだね! よーし、おねえちゃんがセンカにルールをおしえてあげよう!』

 

 それがわたしのデュエリストとしての始まり。

 そうだ。わたしはお姉ちゃんとデュエルがしたくて……いや。

 お姉ちゃんを倒したくて、お姉ちゃんに勝ちたくて、デュエルを始めたんだ。

 

『ふふん! 今日も私の勝ち!』

『むぐぐ……! もう一回! お姉ちゃん、もう一回デュエルして!』

『もー。しょうがないなぁセンカは。あと一回だけだからね』

 

 わたしの見立て通り、お姉ちゃんは本当に強かった。

 たまに他の人に負けることもあるけど……お姉ちゃんはすぐに自分の弱さを認めて、自分の在り方やデッキを見つめ直し、最後にはリベンジして勝利を掴む。

 まさしく、あの日アニメで見た魔法少女と同じだ。絆に友情、そして愛情。

 たゆまぬ努力がお姉ちゃんを強くし続けて、わたしとお姉ちゃんの力の差が埋まったことなんて一度だってなかった。

 

『くっ……負けました。さすがは燃照ホムラの妹さんですね……』

『……』

 

 お姉ちゃんに追いつこうと腕を磨き続けたわたしは、いつしか燃照ホムラの妹として有名になっていた。

 皆、わたしのことを天才って呼ぶ。

 燃照ホムラの妹なんだから、才能があるに決まってる。強いに決まってる。そんな風に言う。

 わたしはそのたびに言い返すんだ。

 でもわたしはお姉ちゃんに勝てたことがない。わたしはまだ弱いんだ、って。

 そうしたら皆は、なんて返してくると思う?

 

『いつか追いつけますよ』

 

 ……一年経っても、二年経っても、五年経ったって、あいつらの言うことは同じだ。

 いつか勝てる。いつか追いつける。

 あなたは燃照ホムラの妹なんだから、って。それ以外なんの根拠もなく無責任に。

 わたしの心を、衝動を……くだらない普遍的な価値観に当てはめて、希望という名の怠惰な檻の中に閉じ込めようとする。

 

 幼い頃、食い入るようにして見ていたあのアニメと同じだった。

 誰もが魔法少女が勝って当然だって言う。勧善懲悪。最後には必ず善が勝つようにできているのだと。

 誰もがお姉ちゃんの方が強くて当然だと言いたげだった。

 わたしはしょせんただの妹。天才だという呼び名さえ、お姉ちゃんがいるからこその贔屓目でつけられた、燃照ホムラの付属品としての評価に過ぎない。

 

 誰も本当のわたしを見ない。知ろうとはしない。

 敗北し、粒子になって消えていった、あの怪人と同じように……わたしはしょせんお姉ちゃんの引き立て役でしかないんだと、世界がわたしに突きつけてくる。

 

 お姉ちゃんは魔法少女。世界によって勝利を約束された存在。

 わたしは怪人。世界によって敗北を定義づけられた存在。

 お姉ちゃんを倒し、勝利を手にすることでしか、わたしの存在意義を証明することはできない。

 

 ……だけどわたしは今もまだ、お姉ちゃんに追いつけないままでいる。

 お姉ちゃんと同じ学園の中等部に進学しても、その二年生に進級しても。

 なにも変わらない。変えられないままでいる。

 わたしとお姉ちゃんとの距離は縮まらず、わたしは今もまだ、燃照ホムラの妹のまま。

 

 お姉ちゃんより勉強ができたって、意味がない。

 お姉ちゃんより運動神経が良くたって、意味がない。

 デュエルだ。お姉ちゃんが信じ、愛し、心血のすべてを注ぎ込むその力で上回ってこそ、わたしはようやくわたしになれる。

 けれど……わたしは未だ、その方法がわからずにいた。

 

『エナジーを6消費――触れるものすべてを無に帰す。再誕したホロエルに重ねて転生召喚。降臨せよ、『虚無龍ヴァニタス』』

 

 メイ様に出会ったのは、そんな風にらしくもなく思い悩んでいた時だった。

 

 綺麗だった。美しかった。

 おびただしいほどの数の骸を踏みつけにし、ただ一人佇む絶対的な勝者。

 ただ一度の敗北も許容せず、勝ち続けるためならば己の魂を差し出すことさえ厭わない。

 まさに白い死神。相対すれば、殺すか殺されるか。その二択以外の結末はありえない。

 強くてかっこよくて。魔法少女さえも圧倒する、完全無欠の――怪人。

 

 わたしはその時、お姉ちゃんが初めてわたしをデュエルに誘ってくれたあの日にお姉ちゃんがかけてくれた言葉を思い出していた。

 

 ――デュエルでなら、センカがほしいこたえが、みつけられるかもしれないよ!

 

 ……あぁ、お姉ちゃんの言った通りだった。

 わたしがなれなかった。なりたいと願っても届かずにいた理想を、すでに叶えている人間。

 わたしの人生の、ただ一人の憧れ。

 一目見ただけで直感した。わたしは――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どろり、と。久しく湧き上がっていなかった、あの黒い衝動が、確かな形を伴って再びわたしの内に生まれ()づる。

 いつしか敗北に慣れ、自分でも気づかないうちに腐り切ってしまっていたわたしの心を、その衝動が壊していく。生まれ変わらせていく。

 それはわたしが望む、わたしによる、わたしのためだけの破壊衝動。

 いつの日かこの人と、わたしの全部を懸けて殺し合ってみたい!

 

 あぁ。どうすれば魔法少女に勝てるかなんて、本当に些細な悩みだった。

 絆パワー。友情の力。愛情エネルギー。

 どんな理屈をつけようと、結局それらは最後にはただの物理的現象に帰結する。

 つまるところ……ただの力だ。怪人が使う悪の力と、その本質はなに一つ変わらない。

 力と力がぶつかり合って、強い方が勝つ。それこそが真理だ。それ以外はなにもない。

 

 そうだ。そうだよ。

 いつの日か、だとか。どうすれば、だとか。

 先のことばかり考えてるから追いつけないんだ。

 理性を捨てろ。衝動に身を委ね、今、目の前にある一瞬の攻防に命を捧げろ。

 魔法少女も怪人も、姉も妹も、自分も他人も区別なく。

 己を取り巻くしがらみを、その戦火の炎で、己ごと全部灰になるまで燃やし尽くせ。

 

 わたしは今よりももっと強くなる。

 あの日お姉ちゃんと一緒に見たアニメのように、魔法少女(おねえちゃん)怪人(わたし)で雌雄を決するために。

 わたしの理想の果てにいる、最強の怪人(メイさま)と対等に殺し合うために。

 

 ……さあ、行くよクライアント。

 ――怪人と心中する時間(ラストターン)だ。

 

 

先攻6ターン目:燃照センカ

燃照センカ
ライフ:0(無し)
Ene:5
手札:4→5

クライアント (保有中の特殊能力)
ライフ:3Ar:求人募集中 -アットホームな職場です-

Se:メイドリーダー・セレナーデ(A7000/H5000)

Ene:8(0)
手札:0

 

 

「わたしのターン……ドロー!」

「――この瞬間! 『メイドリーダー・セレナーデ』*2の効果発動! 相手のターンスタート時、セレナーデが持つ転生素材の数だけコスト3のメイドをデッキから召喚扱いで呼び出します!」

 

 わたしがターンスタート時の処理でカードを引いてすぐに、クライアントが力強く宣言する。

 それと同時に、クライアントのそばに控える銀髪の美しいメイドが優雅にお辞儀をし、箒の持ち手側の先端でカツンッと床を叩く。

 

「今、セレナーデの転生素材の数は3! よって3体のメイドを新たに私の場に呼び出します! 来なさい、『新人メイド・プリュイ』! 『先輩メイド・リュミエール』! そして『先輩メイド・オプスキュリテ』!」

 

新人メイド・プリュイ
コスト3 種別:メイド 
属性:水 ATK 1000 HP 2000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
【制約】:[存在制限](上限:同名/場に1枚)


①【手札で有効】このサーヴァントの『Qアクション』に必要なコストは-Xされる。(Xはこのターン中に自分が行った攻撃の数。Xの上限は3)

②『Qアクション4』=条件:自分のサーヴァントの攻撃時。

③場に出た時に発動可能。自分の場の他のカード1枚を選択し、それを1枚複製して手札に加える。

④破壊された時に発動可能。墓地のこのサーヴァントをデッキに戻し、水属性を含まない種別:メイドを持つサーヴァントをランダムに1枚デッキから手札に加える。

 

先輩メイド・リュミエール
コスト3 種別:メイド 
属性:光 ATK 1000 HP 2000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
【制約】:[存在制限](上限:同名/場に1枚)


①【手札で有効】このサーヴァントの『Qアクション』に必要なコストは-Xされる。(Xはこのターン中に自分が行った攻撃の数。Xの上限は3)

②『Qアクション4』=条件:自分のサーヴァントの攻撃時。

③場にある限り、自分の場のコスト3以上のサーヴァントすべてのHPを+1000し、『ガード』を付与する。

④破壊された時に発動可能。墓地のこのサーヴァントをデッキに戻し、光属性を含まない種別:メイドを持つサーヴァントをランダムに1枚デッキから手札に加える。

 

先輩メイド・オプスキュリテ
コスト3 種別:メイド 
属性:闇 ATK 1000 HP 2000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
【制約】:[存在制限](上限:同名/場に1枚)


①【手札で有効】このサーヴァントの『Qアクション』に必要なコストは-Xされる。(Xはこのターン中に自分が行った攻撃の数。Xの上限は3)

②『Qアクション4』=条件:自分のサーヴァントの攻撃時。

③場にある限り、自分の場のコスト3以上のサーヴァントすべてに『アサシン』を付与する。

④破壊された時に発動可能。墓地のこのサーヴァントをデッキに戻し、闇属性を含まない種別:メイドを持つサーヴァントをランダムに1枚デッキから手札に加える。

 

 水属性、光属性、闇属性。

 ここまでの攻防で見たことのあるサーヴァントを含め、合計3体のメイドが現れて、それぞれ個性豊かなポーズを決める。

 

「『新人メイド・プリュイ』の場に出た時の効果で『先輩メイド・オプスキュリテ』を1枚複製して手札に! そしてコスト3のメイドが召喚扱いで場に出たことで墓地の『よーし! 頑張るぞぉー!』の効果発動! これを手札に戻します! さらにエリア『求人募集中 -アットホームな職場です-』の効果! 『カウント』が7から8に上昇します!」

 

 数多の効果処理を終え、0枚になっていたクライアントの手札が、一気に2枚増える。

 だけどこれさえもあくまで一時的なものだ。

 ここまでの攻防で、彼女が扱うメイドたちには破壊された時に自身をデッキに戻し、自身以外のメイドをランダムに手札に加える効果があることが判明している。

 今、クライアントの場のメイドは4体。

 これらが破壊された場合、クライアントの手札はさらに4枚増え、合計6枚という莫大な量のアドバンテージを取り戻す。

 

「そして『先輩メイド・リュミエール』は場にある限り、私の場のコスト3以上のサーヴァントすべてのHPを+1000し、『ガード』を付与します! 現在、私の場にいる4体はそのすべてがコスト3以上! よってプリュイ、リュミエール、オプスキュリテの3体のHPは3000に上昇、さらにセレナーデのHPは6000に!」

「……」

「それだけではありません! 『先輩メイド・オプスキュリテ』は場にある限り、私の場のコスト3以上のサーヴァントすべてに『アサシン』を付与します!」

 

 『アサシン』――サーヴァント同士の戦闘の後、与え合ったダメージの量にかかわらず、相手のサーヴァントを破壊する効果だ。

 たとえどんなにステータスの数値が高いエース級サーヴァントであろうとも、『アサシン』を持つサーヴァントと戦闘してしまったが最後、HPがいくら残っていようとも効果による破壊が適用される。

 そしてクライアントが言っていたように、今の彼女の場にいる4体はそのすべてがコスト3以上……。

 つまり、4体すべてがその『アサシン』の効果を得る。

 

「アハッ。なるほどね。『ガード』で相手の攻撃対象を好きに書き換えて、それを『アサシン』で確実に仕留める。それがあなたの必殺コンボなんだ」

「ええ。そろそろ理解できましたか? あなたの勝利の可能性がゼロであることが。ですが……今更後悔したところで手遅れです。あなたはターンを進めることを選んだ。であれば、もはやサレンダーなぞ許しません。破滅しかないと知ってなお足掻くその愚かさの報いを、身をもって味わいなさい」

「……破滅、ねぇ」

 

 わたしはまだ、ターンスタート時の処理でドローしたカードを確認していない。

 ただ……1枚だけ。

 たったの1枚だけ、わたしのデッキにはこの状況を覆せるカードが入っている。

 それは速攻デッキであるがゆえに普段は使わずに勝負が終わってしまう、正真正銘、わたしの最後の切り札だ。

 

 わたしがこのカードを引く前、わたしのデッキは残り21枚だった。

 つまり、わたしが望むカードを引けている確率もそのまま21分の1……パーセンテージに直すと、およそ5%未満。

 もしもここで切り札を引けていなければ……クライアントの言う通り、わたしの敗北は免れないものとなる。

 

 普通のデュエルなら、それでも希望を持って前に進めるだろう。

 だって、負けたっていいんだから。

 負けても次がある。デッキを組み直して対策を練って、また挑み直せばいい。

 けれど……このデュエルに次なんてものはない。

 このデュエルは、負ければ自分の人生が終わってしまうかもしれない命懸けの戦いだ。

 その生き残れる確率が、たったの5%未満しかない……。

 その事実は、まさしく絶望と呼ぶにふさわしいものだろう。

 

 世界が、クライアントの勝利を祝福しようとしている。

 世界が、わたしの敗北を望んでいる。

 

 ……アハッ! 上等じゃん。

 

 ――デュエルは命の奪い合い。カードに命を預けて戦うもの……カード1枚に命を懸けられないデュエリストは、デュエリストじゃない。

 

 このまま退いて永遠に勝てず、ただ敗北に慣れ、鈍く沈んで平凡へと堕落していくくらいなら……。

 勝つために、命を懸けろ。自らの意志で退路を断ち、カード1枚に己の命運を委ねろ。

 それでもしも勝利を手にできず、道半ばで潰えるというのなら……燃照センカというデュエリスト(かいじん)は、しょせんはその程度の存在でしかなかったということだ。

 

 わたしは今ドローしてきたばかりのカードを、ゆっくりと顔の前に持っていく。

 そうしてわたしの視界に入ってきたカードは――。

 

「……アハ! アハハッ! アハハハハハハハハハハハッ!」

「っ……!? なんですか、急に大声で笑い出して……」

 

 あぁ、そっか。そうなんだね。

 どうやら、わたしのデュエリストとしての運命は――まだ、ここで終わるべきじゃないらしい。

 

「わたしは0エナジーで『仮初の命』を詠唱する!」

 

仮初の命
コスト0 属性:闇 

スペル 

 - 効果 - 
①ライフカウンターを2つ回復する。ライフカウンターが破壊される時、この効果で回復したライフカウンターを優先して破壊する。このターンのターンエンド時、この効果で回復したライフカウンターをすべて消滅させる。

 

「わたしのライフカウンターを2回復! ただしこの効果で回復したライフカウンターは、わたしのターンエンド時に消滅する!」

 

燃照センカ ライフ:0→2

 

「まだ抗いますか! この期に及んでなにを……!」

「すぐにわかるよ! わたしはエナジーにカードをチャージ! そして6エナジーすべてを使って、新たなサーヴァントを召喚する!」

 

 このサーヴァントこそ、わたしのデッキの最後の切り札だ。

 自分も相手も区別なく、互いの命を破滅へと導き、死闘を強制する災厄のサーヴァント。

 その名は――。

 

「救うと誓った旅路の果てで、愛しき笑顔は地獄に堕ちた。黒き天蓋、果つる世界。我は災いの勇者――『尽滅の行人ルイン』!」

 

尽滅の行人ルイン
コスト6 種別:ブレイバー 
属性:火/闇 ATK 1000 HP 1000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
【制約】:[複合属性]


①ATKとHPに自分の場のエリアの数×5000を+する。

②このサーヴァントは破壊されない。(HPが0以下になった場合は破壊される)

③場に出た時に強制発動。自分のライフカウンターを2つ破壊する。その後、手札・墓地から、コストX以下のエリア1枚を展開してもよい。(Xは8から自分のライフカウンターの数を引いた数)

④いずれかのプレイヤーのライフカウンターが破壊された時に発動可能(上限:1ターンに2回)。相手の場のサーヴァント1枚を選択して、このサーヴァントと戦闘させる。

 

 わたしとクライアントの間に禍々しく渦巻く闇の奔流が出現し、その中からボロボロの旅人の衣装を身に纏う、目の下に濃い隈のある白髪の少年が姿を現す。

 一見してなんの力もない、ただの放浪者のようにも見える。

 だがその破滅を連想させるような紅月のような瞳と、もはや魔剣と形容するほかない瘴気を纏う聖剣が、彼が決して只者ではないことを暗示していた。

 

「なんですか、このサーヴァントは……コスト6で、ATKとHPが1000? 明らかな弱小サーヴァント……なのに、この異様な雰囲気はいったい……」

「『尽滅の行人ルイン』の効果発動。これが場に出た時、わたしのライフカウンターを強制的に2つ破壊する……ぐっ!?」

「自分で自分のライフカウンターを、一気に2つも……!?」

 

燃照センカ ライフ:2→0

 

 白髪の少年ことルインが手に持つ聖剣が纏う瘴気がわたしを襲い、あまりの息苦しさに意識が朦朧として膝をつく。

 しかしどうにか堪えると、痛みを訴える胸を押さえながら再び立ち上がった。

 

「そして……! その後、8からわたしのライフカウンターの数を引いた数以下のコストを持つエリア1枚を、手札または墓地から展開できる!」

「今、あなたのライフカウンターの数は0……となると出てくるのは、最大でコスト8のエリア……っ!? 確かあなたは『戦火の産声』*3の時に……!」

「アハッ! わかってくれた? わたしがこの効果で、いったいこれからなにを出すか!」

 

 それはわたしがメイ様に出会うきっかけを作ってくれた、思い出のカード。

 わたしの決意を指し示す1枚。

 

「今、すべてを滅ぼそう。墓地から現れよ、エリア『尽滅の定め』!」

 

尽滅の定め
コスト8 属性:火/闇 

エリア 

 - 効果 - 
【制約】:[複合属性]


①このエリアは破壊されない。

②お互いのプレイヤーはライフカウンターを回復できない。

③自分の場のサーヴァントすべてのATKを+5000する。

④サーヴァントが戦闘を行う時、戦闘を行う自分のサーヴァントのATKの数値が相手のサーヴァントのATK以上なら、その自分のサーヴァントは戦闘によって発生するダメージを受けない。

⑤自分がコントロールするカードの効果もしくは戦闘によって相手のサーヴァントを破壊した時、相手のライフカウンターを1つ破壊する。

 

 ルインが聖剣を床に突き刺すと、剣が纏う瘴気が瞬く間に周囲に広がって、わたしとクライアントをどこにも逃がさないとでも言うようにドーム状に包み込む。

 そしてそれと同時に、クライアントがわなわなと唇を震わせて後ずさった。

 

「……あ……あなた――イカれてるんですかっ!?」

 

 ……クライアントは歴戦のデュエリストだ。さらには『尽滅の定め』の効果を知っているような素振りも見せていた。

 だからこそ瞬時に理解できたのだろう。

 わたしが今やってみせたコンボが抱えている、致命的かつ最悪の欠陥が。

 

 『尽滅の行人ルイン』の効果で呼び出せるエリアは、あくまで8から自分のライフカウンターの数を引いた数以下のコストのエリアに限定される。

 しかし、肝心の『尽滅の定め』のコストは8だ。

 だからこの効果で『尽滅の定め』を展開するためには、必然的に自分のライフカウンターを0にしなければならない。

 それだけじゃない。『尽滅の定め』には、場にある限り互いのライフカウンターが回復できなくなる効果がある。

 ライフカウンターを0にしなければ展開できないばかりか、『尽滅の定め』を展開した時点でわたしのライフカウンターは0のまま固定され、どのようなカードを使おうとも回復することができなくなる――。

 そんな極限状態へと自分を追い込むことでしか実現できない致命的かつ最悪の欠陥を抱えたコンボが、『尽滅の行人ルイン』と『尽滅の定め』の2枚だった。

 

 でも。

 

「それがどうかしたの?」

「っ……このデュエルには、あなたの人生が懸かっているんですよッ!? そんな状況で、こんな自ら破滅へ向かうような行為……! これをイカれていると言わず、なんと言うのですかッ!?」

 

 いわく、人は理解できないものを忌避するらしい。

 これまでの落ちついた様子から一転、クライアントはまさしく理解できないものを前にしたことで、どこか怯えているようにも見えた。

 これまで尊大に振舞い、余裕ぶっていたクライアントが狼狽えているのがなんだかおかしくて、わたしは思わず吹き出していた。

 

「あ、あなたは……」

「アハハッ! アハハハハハハッ! わたしはこの勝負に勝てるなら、寿命でもなんでもくれてやるくらいの気持ちだよっ! ねぇ、ねえ、ねえぇっ! 今更そんな冷めること言わないでってば!! 今ここにいるのは、ただの獣二匹! デュエルは命の奪い合いだっ! まだデュエルは終わってない……ここからわたしを殺してみせてよ、クライアントッ!」

 

 会話を強引に断ち切って、わたしは腕を振り上げる。

 

「『尽滅の定め』の効果! 場にある限り、わたしの場のすべてのサーヴァントのATKを+5000する! さらに『尽滅の行人ルイン』の効果! 自分の場のエリア1枚につき、このサーヴァントのATKとHPを+5000する!」

「ATK11000!? ですがそれだけでは!」

「まだだよ! ルイン自身の効果でライフカウンターが破壊されたことで、ルインのさらなる効果が誘発する! 自分または相手のライフカウンターが破壊された時、ルインは相手の場の任意のサーヴァントと戦闘する!」

「なっ……!?」

「この効果は、1ターンに2回まで発動できる! さらに連鎖して手札から『Qアクション0』、『燃焼・ダブルブースト』!」

 

燃焼・ダブルブースト
コスト3 属性:火 

スペル 

 - 効果 - 
①『Qアクション0』=条件:自分のライフカウンターが2つ以上同時に破壊された時。

②相手の場のランダムなサーヴァント1枚に2000ダメージを与える。

③カードを1枚引く。その後、手札のカード1枚を選択する。次の自分のターンエンド時まで、そのカードを使用するために必要なコストを-2する。

 

「相手の場のランダムなサーヴァント1体に2000ダメージ! さらにカードを1枚引いて、手札のカード1枚の使用に必要なコストを自分のターンエンド時まで2下げる!」

 

 2000ダメージが適用されたのは、『先輩メイド・リュミエール』。

 HP3000から2000が削られ、残りHPが1000になる。

 

「さらにルインの効果で戦闘を行う! わたしが指定する対象は、『メイドリーダー・セレナーデ』!」

「くっ、これはあくまで効果による戦闘の強制……! 攻撃でないなら、『ガード』はできない……! 迎え撃ちなさい、セレナーデ!」

 

 『尽滅の行人ルイン』のATKは11000。『メイドリーダー・セレナーデ』のHPは残り6000だ。

 ルインが振るった聖剣の一撃に耐え切れず、セレナーデが瘴気に包まれて消えていく。

 

「この時、『尽滅の定め』の効果! ルインのATKがセレナーデのATKを上回っていることにより、ルインは戦闘によるダメージを受けない! そして『尽滅の定め』のさらなる効果! あなたの場のサーヴァントが破壊されるごとに、あなたのライフカウンターを1つ破壊する!」

「ぐっ……!?」

 

クライアント ライフ:3→2

 

「ですが……甘いですよ! この瞬間、『先輩メイド・オプスキュリテ』の効果で付与されていた『アサシン』の効果が適用される! 『アサシン』を持つセレナーデと戦闘を行ったことで、『尽滅の行人ルイン』を破壊します!」

 

 セレナーデとの戦闘で剣を振り切った体勢のまま隙ができていたルインへと向けて、黒髪のメイド、オプスキュリテが懐からナイフを取り出して投擲する。

 しかしルインが一瞥すら向ける必要もなく、そのナイフは瘴気に蝕まれ、黒い塵となって空中で崩れ落ちた。

 

「なっ、これは……どうして……!?」

「『尽滅の行人ルイン』の効果。このサーヴァントはカードの効果や特殊能力では破壊されない」

 

 戦闘で与え合ったダメージの量にかかわらず相手のサーヴァントを破壊できる『アサシン』は、確かに強力な効果だ。

 だけど『アサシン』による破壊は、あくまで効果による破壊だ。

 破壊耐性を持つサーヴァントには無意味だ。

 

「さらにあなたのライフカウンターが破壊されたことで、もう一度ルインの効果が誘発。ルインとわたしが指定したサーヴァント同士で強制的にバトルさせる! この効果で、わたしは『先輩メイド・オプスキュリテ』を指定する!」

「オプスキュリテでは、ルインには……」

「戦闘でオプスキュリテを破壊! ルインのATKがオプスキュリテを上回っていることで、ルインへの戦闘ダメージは無効となる! そしてルインの破壊耐性で『アサシン』も無効! さらにあなたの場のサーヴァントが破壊されたことで、『尽滅の定め』の効果でさらにライフカウンターを1つ破壊する!」

 

クライアント ライフ:2→1

 

「かはッ! くっ……ですが、これで今度こそお仕舞いです! ルインの戦闘強制効果は1ターンに2度まで! これ以上は使えません! そして、あなたの残りエナジーは0! 私のライフカウンターはまだ1つ残っています! これならば次の私のターンで――」

「らしくないなぁ、クライアント。前のあなたのターンも含めて、手札のカード1枚を使用するためのコストを2下げる『燃焼・ダブルブースト』を2回使ってたの、忘れちゃった?」

「――――」

「心中の時だよ。戦火の炎で、己ごと全部灰になるまで焼き尽くす。スペル――『戦火狂乱』!」

 

戦火狂乱
コスト4 属性:火/闇 

スペル 

 - 効果 - 
【制約】:[複合属性]


①手札をすべて捨てる。このデュエル中に破壊された自分のサーヴァントと同じカード名を持つHP1000のサーヴァントを、その合計コストが自分のエナジーの最大値以下になるように可能な限り墓地から選択して場に出す。自分のライフカウンターの数が2つ以下なら、エナジーの最大値以下までしか出せない制限を無視する。(同名カードは1枚まで)

 

「この、カードは……」

「手札をすべて捨てる! そしてこのデュエル中に破壊されたHP1000のサーヴァントを、可能な限り墓地から蘇らせる! 蘇れ、『破滅狂いの戦士』! 『オフェンシブ・ゾンビ』! 『ゴースト・バーン・シューター』! そして『エクリクシス・ピロテクニマ』!」

 

破滅狂いの戦士
コスト2 種別:ウォリアー 
属性:闇 ATK 3000 HP 1000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
①『アクセル』

②自分のライフカウンターの数が2つ以下なら、ATKを+3000する。

③破壊された時に強制発動(上限:同名/1ターンに1回)。自分のライフカウンターを1つ破壊し、このサーヴァント以外の「破滅狂いの戦士」1枚をデッキ・墓地から手札に加える。

 

オフェンシブ・ゾンビ
コスト3 種別:アンデッド 
属性:闇 ATK 1000 HP 1000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
①『アクセル』

②自分の場に他の「オフェンシブ・ゾンビ」がいるなら、このサーヴァントのATKを+1000する。

③召喚時に発動可能。サーヴァント「オフェンシブ・ゾンビ」1枚を生成して場に出す。自分のライフカウンターの数が2つ以下なら、1枚ではなく2枚。

④破壊された時に発動可能。サーヴァント「ディフェンシブ・ゾンビ」1枚をデッキから手札に加える。

 

ゴースト・バーン・シューター
コスト3 種別:ゴースト 
属性:火/闇 ATK 3000 HP 1000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
【制約】:[複合属性]


①『アクセル』

②召喚時に強制発動。お互いのプレイヤーのライフカウンターを1つずつ破壊する。

③【墓地で有効】手札からエリア1枚を捨てて発動可能。墓地のこのサーヴァントを手札に戻す。(墓地へ送られたターンには発動不可)

 

エクリクシス・ピロテクニマ
コスト3 種別:フェアリー/ゴースト 
属性:火 ATK 2000 HP 1000 

サーヴァント 

 - 効果 - 
①『フルアクセル』

②攻撃時に発動可能。相手の場のサーヴァントすべてに1000ダメージを1回与える。自分のライフカウンターの数が2つ以下なら、1回ではなく2回。

 

「アハ! アハハッ! アハハハハハハハハハハハッ!」

 

 ああ、これだ。この感覚だ!

 産まれる! 目覚める! あなたと一緒に心中する、わたしだけの破滅情動(デストルドー)が!

 

 あの黒い衝動が血のように全身を駆け巡り、刹那的快楽を伴って、わたしの脳を侵していく。

 あの日。綺麗で可愛くてかっこいい完全無欠の魔法少女を見て、わたしも怪人みたいにあの子と殺し合ってみたいと思った。

 あの日。わたしにデュエルを教えてくれたお姉ちゃんを見て、再燃なんかできなくなるくらい跡形もなく焼き尽くしたいと思った。

 あの日。わたしが諦めかけていた理想を叶えていたメイ様を見て、他のどんなものを捨ててでも追いついて心中したいと思った。

 完璧なモノを壊したい。綺麗なモノを穢したい。強いモノを殺したい。

 この衝動は、誰かに定義されたものじゃない。

 きっとわたしは生まれた時からこうだった。キッカケなんか何一つない。

 お姉ちゃんもメイ様も、わたしの獲物だ。わたしが殺す。他の誰かに奪われてたまるか。

 

「さあ……フィナーレだよ、クライアント! わたしは『フルアクセル』を持つ『エクリクシス・ピロテクニマ』で、ライフカウンターに攻撃!」

 

 花火の妖精が、爆発を起こしながらクライアントへと迫る。

 

「この時、ピロテクニマの効果! 攻撃時に相手の場のサーヴァントすべてに1000ダメージを与える! さらにわたしのライフカウンターが2つ以下なら、これをもう一度行う! これにより残りHP1000の『先輩メイド・リュミエール』を破壊! リュミエールの破壊によってHPが元に戻った『新人メイド・プリュイ』も破壊! それに反応して『尽滅の定め』の効果! 相手の場のサーヴァントが破壊されたことで、残った相手のライフカウンターをすべて破壊する!」

 

クライアント ライフ:1→0

 

「そして! 相手のライフカウンターが0になったことで、ピロテクニマのライフカウンターへの攻撃はダイレクトストライクとなる!」

 

 もうクライアントに打つ手はない。

 敗北を悟った彼女は苦々しく顔を歪め、ポツリと呟くように漏らした。

 

「……なにが、戦の華ですか。こんなもの……華すらも焼き尽くす、激しき戦火そのものではないですか……くっ、ああぁぁぁぁっ!?」

 

 わたしとクライアントの間には、おそらく普通に戦っても埋まらないほどの力の差があった。

 100回戦えば、そのうちの99回は負けるだろう。

 だけどそれでも……1回だけなら勝てる。

 そしてその1回に命を懸けた、わたしの勝ちだ。

 

「ありがとう、クライアント。楽しかったよ。機会があれば、また一緒に殺し合おうね。アハッ」

 

クライアント ライフ:0→×(敗北)

☆種別:メイドを持つカードをエナジーの属性にかかわらず使用できる。

*2
『メイドリーダー・セレナーデ』の参考効果。

①【手札で有効】このサーヴァントの『Qアクション』に必要なコストは-Xされる。(Xはこのターン中に自分が行った攻撃の数。Xの上限は3)

②『Qアクション6』=条件:自分のサーヴァントの攻撃時。

③『ストライクX』(Xは転生素材の数)

④相手のターンスタート時に発動可能。デッキからコスト3の種別:メイドを持つサーヴァントを召喚扱いでX枚場に出す。(Xは転生素材の数。場の上限枚数に達するなら、上限枚数まで出す)

⑤破壊された時に発動可能。墓地のこのサーヴァントと転生素材になっていたサーヴァントをすべてデッキに戻し、転生サーヴァント以外の種別:メイドを持つカード1枚をデッキから手札に加える。

*3
『戦火の産声』の参考効果。

①手札をすべて捨てる。このデュエル中に破壊された自分のサーヴァントと同じカード名を持つHP1000のサーヴァントを、その合計コストが自分のエナジーの最大値以下になるように可能な限り墓地から選択して場に出す。自分のライフカウンターの数が2つ以下なら、エナジーの最大値以下までしか出せない制限を無視する。(同名カードは1枚まで)




カード製作裏話

・先輩メイド・リュミエール
おっとりほんわか系光属性メイド。お仕事が大好きでしかたがなくて、月曜日から日曜日まで、ずーっと皆と楽しくお仕事をしていたいと思っている。あくまで仕事として割り切っている闇属性メイドことオプスキュリテとは対照的。しかし自分とは違うやり方で他のメイドたちに好かれているオプスキュリテを密かに尊敬しており、気になるのか無意識に目で追ってしまうことがあるようだ。基本的にはリュミエールがサボリがちなオプスキュリテを叱ることが多いが、リュミエールがあまりに働きすぎているとオプスキュリテが判断した際には逆にオプスキュリテがメイド長のセレナーデに進言して強引にリュミエールに休暇を取らせる。しかしそんな肝心の休暇中でさえ、リュミエールは仕事癖が抜けずメイド服で過ごしているようだ…。効果としてはコスト3以上のサーヴァント全員のHPを+1000してガードを付与するというもの。デッキにもよるが、コスト3以上と対象が中型以上であることからそこまで使い勝手が良いとは言えず、ガード自体が受動的な効果のほか、リュミエール自身を除去されてしまえばガードもなくなってしまうことから、安定感があまりない点が少々ネック。しかしエミリアのメカデッキのようにアクセルに除去方法を大きく依存しているデッキであれば、その攻撃対象を好きに書き換えることで盤面をコントロールしていけるだろう。

・先輩メイド・オプスキュリテ
クールなダウナー系闇属性メイド。メイドの仕事はあくまで仕事として割り切っており、定時になったら家に帰るを信条にしている。また、メイドとしての能力は非常に高いのだが、あまりに早く仕事を終わらせすぎると延々と別の仕事を任され続けるのが目に見えているので、任されたノルマ以上のことはまずやらない。しかし任されたノルマはなにがあろうとも絶対に期限内に完遂することから、セレナーデから大事な仕事を任されることが多いようだ。また、同期のリュミエールがあまりに働きすぎていることが気にかかっており、彼女のために健康について勉強し、毎日密かに彼女の体調の状態を分析して無理をしていそうならセレナーデに報告している。仕事はしょせん仕事に過ぎないが、メイドの同僚たちのことはオプスキュリテなりにとても大切に思っているようだ。効果としてはコスト3以上のサーヴァント全員にアサシン付与というもの。コスト3以上と中型以上が対象という点、そして戦闘を介さなければいけない点がネックだが、緩い条件で問答無用の破壊効果を周囲に付与できるのは強力というほかない。またオプスキュリテ本人もアサシンを持つのも有能な点である。

・仮初の命
そのターン中だけライフカウンターを一時的に2増やすコスト0スペル。ライフカウンターの実質的な数を減らさず、ライフカウンターが破壊された時の効果を起動しにいける。ライフカウンターの破壊をトリガーにアドバンテージを稼いでいくと思った以上に減りすぎることがあるほか、単純な殴り合いになった際には自傷が原因で負けることもある為、それらに対する軽い保険になる。とは言え、ライフカウンター2つ以下を積極的に目指した方がいい場面も多いので、0エナジースペルとは言え使わないことも多いだろう。

・尽滅の行人ルイン
いくら人々に勇者と崇め立てられ、期待されようと、最初から世界そのものが詰んでいたならばどうしようもない。彼が希望を抱かせたぶんだけ、人々は絶望し、無惨な最期を迎える。彼のただ一人の妹さえも。カードの効果としてはほぼ尽滅の定めとの組み合わせが前提であり、これ単体ではハッキリ言ってあまり強くはない。また仮に尽滅の定めを展開するにしても、作中でも言われていたようにライフを必ず0まで減らす必要がある上にその状態で固定化される。さらにただ0を目指せばいいわけでもなく、ルインを出す前から自分のライフが0だとエリアは展開できるもののライフの破壊処理が起こらないことから、ルイン自身の指定戦闘効果が誘発できず、ただただルインが棒立ちになる。加えてルイン自身フルアクセルなんて便利な効果を持っていないことから、ルインを出したターンに勝負を決め切りたいなら同時に他にフルアクセルを用意しなければならない。諦めて相手にターンを返して1ターン凌いで生き残ろうにも、尽滅の定めを展開したなら絶対にライフが0になっている為、他にガード持ちなどを用意できたところで生き残れる保証はまるでない。それ以外にも問題点は数多くあり、そもそもコンボの構成そのものに致命的な欠陥があるというほかなく、安定性も皆無で、あまりにピーキーである。しかし嵌った時の破壊力は凄まじく、刹那的な快楽を追い求める者の目にはきっと魅力的に映るだろう。

・尽滅の定め
悉くを滅ぼすことが定めなら、天上に坐する神々さえも、この手で滅ぼしてみせよう。1話で噛ませとして使われたとは思えないほどの活躍を見せつけて名誉挽回したエリア。カードは使い手次第で如何様にもなると証明した。尽滅の行人ルインとのデザイナーズコンボで最高の相性を見せる反面、自分のライフを0の状態で固定してしまうゆえに最悪の相性であるとも言える。速攻デッキの通常の戦術ではどう考えても事故要因にしかならないので、冷静に考えればルインも尽滅の定めも別に採用する必要はない。むしろ全体の勝率は低くなる可能性の方が高いだろう。しかしただの速攻デッキでは相性が悪く勝ちにくい一部のデッキに対して有効な勝ち筋が生まれるので、コンボを決めるカタルシスを味わいたいなら是非に。

・戦火狂乱
ルインでライフカウンターを0に固定することで自ら退路を断ち、戦火狂乱で手札という名の未来を捨て、今この一瞬に自分の持ち得るすべてを懸けて特攻する。まさしくセンカちゃんの思想そのものを体現したスペルである。
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