可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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36.罪深き偽りの天使へと、真の天使がデュエルによる裁きを下します

 映画館のシアターの中央で、センカが肩で息をしながら佇んでいる。

 彼女の視線の先では黒ずくめの怪しい人物が気を失って倒れ込んでいて、勝者と敗者を分けるかのようなその光景が、二人の間で行われたデュエルの結果を暗示していた。

 しかし激しいデュエルによる心身への疲労ゆえか、不意にセンカの体がふらりと横に傾きかける。

 

「センカ!」

「……え? あ……お姉ちゃ――わっ!?」

 

 倒れかけたセンカを、駆けつけたホムラが支えるようにして抱きしめる。

 大事なものの在り処を確かめるかのようなギューッと力強い抱擁に、センカはパチパチと目を瞬かせた後、にへらっと嬉しそうに頬を緩ませた。

 

「もうっ。お姉ちゃん、ちょっと痛いよ」

「うるさい。お姉ちゃんを心配させた罰だから」

「……うん。心配かけてごめんなさい、お姉ちゃん。メイ様も、エミリアさんも……ホロエルちゃんも」

 

 デュエルの最中は悪魔のように狂った笑みを浮かべていたセンカも、デュエルが終われば年相応の女の子と変わらない。

 皆を本気で心配させてしまったことを理解したセンカは、しおらしく謝罪の言葉を口にすると、姉の気持ちを汲むようにそっと背中に手を回して抱きしめ返した。

 

 日頃だらしない姉を雑に扱う場面がちょくちょく見られるが、なんだかんだ言いながらもセンカは姉であるホムラのことは嫌っていない。

 むしろ中等部所属なのに高等部の姉の寮部屋に頻繁に突撃訪問を仕掛けてくる辺り、口にはしないだけで相当懐いていることが窺える。

 そしてそれはホムラも同じだ。訪ねてくるセンカをホムラが鬱陶しそうにあしらっているところなんて、私は今まで一度たりとも見たことがない。

 二人の姉妹仲が本当はとても良好なことなんて、ちょっと観察していれば誰でもわかることだった。

 

「よかったわね。センカちゃんが無事で」

「……ん」

 

 そんな姉妹の仲睦まじい姿を眺め、マスターとエミリアもまた顔を見合わせると、安心したように互いに肩の力を抜いた。

 かく言う私ことホロエルも、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 一応、いざとなれば私が実体化してどうにかするつもりではあった。

 私は10秒間しか実体化できないぶん、その間に限って言えばソウルハート・サーヴァントとして相当な力を発揮できると自負している。

 ただ……それでもしょせんは10秒だ。

 相手もソウルハート・サーヴァントを所持していると仮定した際には、それも決して確実な手段とは言えなかった。

 未知のサーヴァントを倒し、人質にされたセンカを取り返せるかどうかは、一か八か……運が絡む。

 

 やっとマスターを受け入れてくれる友達ができて、普通の子らしい生活ができるようになって、少しずつ笑顔だって見られるようになってきたのに……。

 自分のせいで大切な人たちが深く傷ついたとなれば、マスターはきっと学園を去ることを……皆から離れることを選ぶ。

 もちろん、今回の騒動はマスターのせいでもなんでもなくて、襲ってきたあちら側が全面的に悪いのだが……マスターはそうは思わないだろうから。

 そういう意味でも、今回何事もなく騒動を解決できたのは本当に喜ばしいことと言えた。

 

「まったくもう……センカちゃん。わかってるでしょうけど、帰ったらお説教だからね」

「えっ……い、いやぁ……えっと……え、えへへ?」

 

 しばらくして落ちついた後、ホムラとの抱擁を解いたセンカにエミリアが釘を刺すように告げる。

 唐突な説教宣言にセンカは一瞬固まった後、それとなく誤魔化すように視線を横にそらす。

 しかしエミリアは一見冷静に見えて割とガチで怒っていたらしく、そんな甘えた態度を見せたセンカの頭を両手でがっしりと掴むと、無理矢理に自分と視線を合わせさせた。

 

「セ・ン・カ、ちゃん? 帰ったらお説教。返事は?」

「は、はいっ! わかりました!」

「よろしい」

 

 笑顔のまま凄まじいプレッシャーを放つエミリアに、センカは戦々恐々と言った様相でコクコクと首を縦に振った。

 まあ……最終的に勝てたからよかったにせよ、危険だと理解していながら相談もせず勝手に単独行動を取ったセンカが今回ばかりは全面的に悪い。

 お説教されるのもしかたがないというか、甘んじて受け入れてほしいところだ。

 

「さて、と……それじゃあそろそろ、今回の件の首謀者の処遇をどうするか決めないとね」

 

 エミリアのその一言で、床に倒れ伏した黒ずくめの人物へと全員の視線が集まり、緩みかけていた場の空気が再び引き締まる。

 

 男たちにマスターへの襲撃を指示した張本人。

 普通に考えるなら、その正体は教団の関係者という線が濃厚だ。

 ただ……素直にそう捉えるにしては、不可解な点がいくつかある。

 中でも特に私が違和感を覚えたのは、この推定真犯人から男たちへ出されていただろう指示の内容だ。

 

『お前たちをここで倒し、我々は『虚構天使ホロエル』を手に入れる……!』

 

 これはマスターとホムラ、エミリアが襲撃者の男たちとデュエルをする直前、男たちのリーダーが口にしていた言葉だ。

 そう……彼らは「マスターと私の両方」の確保ではなくて、「私」というカードだけが目的だった。

 無論、虚無の力で世界を染め上げることを目的に活動する教団にとって、虚無の天使がその根幹を成す最も重要な存在であることに間違いはない。

 しかし彼らのその計画は、決して虚無の天使のカードだけで実現できるものではない。

 虚無の天使の片割れである私がたったの10秒しか実体化できないように、カードという存在に閉じ込められている状態では、虚無の天使と言えど大仰な力は発揮できない。

 天使が持つ虚無の力を……秘めたる虚構を完全に現実に落とし込むためには、依り代となる巫女の存在が必要不可欠だ。

 

 マスターはかつて、私とは別のもう一人の虚無の天使が現実世界に降臨するための依り代、虚無の巫女として選ばれた。

 だけど実際のところ、天使の力を問題なく宿すことができる器というものは、そう簡単に見つかるものじゃない。

 血液型が違う相手に輸血した際に拒絶反応が起こることと同じように、依り代もまた虚無の天使に適した存在でなければ天使の力に耐え切れず、その肉体と魂が崩壊を迎えてしまう。

 そしてその際に生じるダメージは依り代だけでなく、それに宿った天使自身にも及ぶ。

 最悪の場合には回復のためにカードの中で長く深い眠りにつかなければいけなくなる危険もあり……それは天使自身にとっても、教団にとっても、決して無視できない痛手だ。

 さらに付け加えるなら、巫女としての適性があるかどうかという点もまた、ただ一目見ただけで判別がつくものではない。

 一度その者が心からの祈りを捧げ、その祈りを虚無の天使が受け取ることで、天使自身の感覚によって初めてその者と虚無の力との親和性が明らかになる。

 つまり巫女の適性者というものは、教団の規模を拡大し、地道に一人一人信者を増やしていくことでしか見つける手段がないということだ。

 

 次の巫女候補がいつ見つかるとも、本当に見つかるかどうかもわからない……。

 そんな類稀なる巫女として最上の素質を持っていることが確定しているマスターを放置して、私というカードだけを求めるというのは……なんというか道理に合わない。

 

 マスターも、私と同じ違和感を覚えているのだろう。

 どこか腑に落ちないと言った表情で、床に倒れ伏す黒ずくめの人物を見つめている。

 

「とりあえず、顔でも見てみる?」

 

 そう提案したのはホムラだ。

 黒ずくめの人物の顔は倒れている今もフードに覆い隠されていて、その素顔は窺い知れない。

 

「……そうね。ここまでの事を起こしてくれたんだもの。顔くらいは拝ませてもらいましょうか」

 

 エミリアもホムラの意見に賛同すると、床に膝をつき、黒ずくめの人物の顔を隠すフードに手をかけた。

 気を失っている黒ずくめの人物を刺激しすぎて起こさないよう、ゆっくりとフードが外していく。

 

 そうしてあらわになった黒ずくめの人物の素顔は、見知らぬ若い女性のものだった。

 年齢は、マスターたちより少し上くらいだろうか。

 閉じられた瞼を縁取る睫毛は長く、クールな印象を与える切れ長の目と、スッと通った鼻梁が目を引く。美人と呼んで差し支えないほど整った顔立ちだ。

 銀色に煌めく髪も手入れが行き届いており、一見するとこのような荒事に縁がある人間にはとても見えない。

 

「んー……当たり前だけど、やっぱり知らない顔だなぁ」

「――――」

 

 まじまじと黒ずくめの人物の素顔を覗き込んでいたホムラが、私たちの方を振り返る。

 

「メイちゃん、どう? メイちゃんはこの人の顔に見覚えある?」

「……ない」

「わたしもないよー」

「だよねぇ。エミリアも……あれ? ……エミリア? どうかしたの?」

 

 黒ずくめの人物の素顔を目の当たりにすると同時に息を呑み、固まっていたエミリアは、ホムラの問いかけにハッと我に返る。

 皆の視線が集まる中、エミリアは険しげに眉を寄せると、真偽を確かめるかのようにもう一度黒ずくめの人物の素顔をジッと見つめた。

 

「……見間違いだと思いたかったけど……どうやら間違いないようね。残念ながら……私は彼女に、見覚えがあるわ」

「えっ? エミリア、この人のこと知ってるの? でも残念って……どういうこと?」

「……今日の昼間、表彰式が終わった後、教室で話したことを覚えてる?」

「教室でのこと? 覚えてるけど……」

「なになに、なんの話? お姉ちゃんたち、わたしが来る前になにか話してたの?」

 

 ホムラやマスターが肯定の返事をしたり頷いたりと心当たりのある反応を見せる中、その時はまだ合流前だったセンカは一人だけ話の内容がわからずに首を傾げる。

 

「うちの学園の生徒会長……ノゾミ先輩のことについて話していたのよ。ホムラと無空さんは特に関わりがなかったみたいだけれど、私はノゾミ先輩から生徒会に勧誘されたことがあったから。そのことについて少しだけ話していたの」

 

 エミリアが簡潔に説明すると、センカは「あー」と合点がいった表情を見せる。

 

「エミリアさん海外留学してたもんねぇ。風の噂で聞いたよ? 留学先の学園の大会で、並み居る在校生を蹴散らして華麗に優勝しちゃったって! それでノゾミ先輩も興味を持ったんだねぇ。でも……そのこととこの女の人にエミリアさんが見覚えがあることに、なにか関係があるの?」

「ええ、あるわ。ノゾミ先輩から生徒会に勧誘されたあの時……直接話はしなかったけれど、実はノゾミ先輩のそばにもう一人いたのよ」

 

 もう一人、と口にすると同時にエミリアの視線は黒ずくめの人物の方に向いていた。

 これは……まさか……。

 

「ノゾミ先輩の生家、光華家に代々仕える冥土家の一族の一人にして、クロワッサン学園の生徒会副会長……名前は、冥土イサネ。それが彼女の正体よ」

 

 ……やっぱり、学園に所属する生徒だったか。

 

「えっ!? 学園の副会長!? それって間違いないの? エミリア」

「ええ、間違いないわ。私も見間違いだと思いたかったけれどね……」

「えっと……じゃあ、副会長さんがメイ様とホロエルちゃんを狙ってきたってことになっちゃうよね? どうしてそんなこと……」

「わからない……けど、ノゾミ先輩がこんな問答無用な強盗のような手口を進んで実行するとは思えない。ノゾミ先輩の悪い噂話なんて一つも聞いたことがないし、前に会った時だって、物腰柔らかで話が通じる人だったわ。あの人なら、まずは会話で接触を試みるはず……」

「うーん……どうしてもこうしなきゃいけない事情があった、とか?」

「どんな事情よ。無空さんは普通に学校に通っているわ。今日だって、無空さんは表彰式でクラス代表対抗戦の賞状をノゾミ先輩から受け取った。接触しようと思えばいつでもできるのに、こんな強硬手段に出るほどの切羽詰まった状況だったとは思えない」

「た、確かに……」

「まあ普通に考えたら、副会長さんの独断だよねぇ。どういう事情があってそんなことしでかしたのかはやっぱりさっぱりだけど」

 

 ホムラ、エミリア、センカの三人が知恵を絞り合うようにして話し合っている。

 マスターは少しでも手がかりを得るためか、黒ずくめの人物……もといイサネのデュエルガントレットを粛々と操作していたが、あるのは例の襲撃の実行犯の男たちとのメッセージ履歴くらいで、特にめぼしい情報は得られなかったようだ。

 

 うーん……なんだかちょっと厄介なことになってきちゃったなぁ……。

 これが学園に籍を置かない単純な教団の刺客だったなら、不用意に学園の敷地内から出ないように注意して生活するだけでもある程度は対処できた。

 クロワッサン学園の警備は厳重だ。学園が許可した人物以外は入ることができず、認可されていないデュエルガントレットの反応を検知する最先端の警備システムまでもが導入されている。

 マスターが普段寝泊まりしている女子寮だって学園の敷地内にあるし、ある程度の生活必需品なら購買で買うこともできる。

 その気になれば、敷地内から一切出ずに高校三年間を過ごすことだって可能だ。

 そうなれば教団も、よほど派手な強硬策にでも出ない限りはマスターに干渉することができなくなる。

 

 ……だけどこれらの安全性は、あくまで学園の外からの直接的な干渉に対しての保障だ。

 もしも学園の生徒や職員の中に教団の関係者が現れたなら、それらすべての前提は意味を成さないものになる。

 この関係者というものは、なにも直接的に教団に所属する者に限った話ではない。

 金やカードと言った、誰もが欲する報酬をチラつかせて悪事を働かせることによってでも、マスターに害を及ぼすことは可能だ。

 

 冥土イサネ。彼女が教団の関係者かどうかは、まだハッキリとはわからないけど……。

 私という虚無の天使の存在を知り、それを付け狙うなんらかの思惑が学園の中で蠢いていることに疑う余地はなさそうだ。

 うーむ。どうしたものか……。

 

「――こっちだ! こっちの方から大きな音がしたぞ!」

 

 と、そんなことを考え込んでいると、不意に廊下の方から大声で叫ぶ男性の声が聞こえてきた。

 それからさらにバタバタと何人かの人が走ってくるような足音もして……あー……。

 おそらくはショッピングセンターの警備員が、騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのだろう。

 まだ声は少し遠いが、この場所にたどりつくのは時間の問題だ。

 

「……どうする? メイちゃん。警備員さんがもうすぐ来ちゃうけど……素直に事情を話して、保護してもらう? 襲われたのはこっちなんだし、正直に話せばわかってもらえると思うよ」

「……いや。あんまり大事にはしたくない。この襲撃犯……冥土イサネも、素顔も正体も割れた以上はまたいつでも捕まえられる。ここは彼女を置いて、見つからないうちに私たちは逃げよう」

「大事にはしたくない……ね。なにか事情があるみたいね。わかったわ。ホムラ、センカちゃん、無空さん。あっちに非常口があるから、あそこから外に出ましょう」

「はーい。デュエルの余波でいろいろ派手に壊しちゃったし……警備員さんに捕まっちゃうと、わたしもちょっと気まずいしね。逃げるのは賛成だよ~」

 

 私たちは頷き合うと、黒ずくめの人物をその場に残し、非常口に向かって速やかに駆け出した。

 襲撃さえなければ、これからクラス代表対抗戦の祝勝会のためにいろいろと買い漁る予定だったものの……さすがにこんな状況では呑気にお祝い気分というわけにもいかない。

 無事にショッピングセンターを脱出した私たちは、ひとまずは学園に戻り、マスターとホムラの相部屋に集まって、これからのことを話し合うことにした。

 

 ……しかしまあ……本当に厄介なことになっちゃったなぁ。

 私は内心ため息を吐きながら、どうかマスターが今後も無事に平穏な学園生活を謳歌できますようにと、ただ切に願うほかなかった。

 

 

 


 

 

 

「……お嬢様。ただいま戻りました」

 

 国立クロワッサン学園、生徒会室。

 すでに日も暮れて、薄暗くなった室内には見目麗しい二人の少女の姿があった。

 しかし……その内の一人、冥土イサネの声音は低く沈んでおり、まるでこれから叱られることがわかっている子どものように居心地が悪そうにしている。

 

「ええ。おかえりなさい。イサネ」

 

 そんなイサネの主人にして、学園における最大規模の権力を持つ生徒会長、光華ノゾミもまた、どこか憂いを帯びた表情でイサネを出迎えた。

 

「それで……なにか私に報告することがあるのではないですか? イサネ」

「っ……申しわけございません。このような悪辣な手段はお嬢様の本意ではないと知りながら、お嬢様に無断で無空メイを襲撃し、あまつさえ失敗しました。それらすべて、光華家に仕えるメイドとして恥ずべき行いです。どのような処罰でも、甘んじて受けるつもりです……」

「……はぁ。ごめんなさい、イサネ。少し意地悪をしてしまいましたね。ショッピングセンターの方から連絡があり、あなたが起こした騒ぎについては、すでにおおよそ聞き及んでいます」

 

 深く頭を下げるイサネに対し、ノゾミは申しわけなさそうに苦笑すると、イサネに顔を上げるよう促した。

 

「あまり事が大きくならないように対処しておきましたが……一ヶ月ほどの謹慎処分は免れません。それは甘んじて受け入れてください」

「……はい。寛大なご配慮、深く感謝申し上げます」

「あまりそう固くならなくてもいいのですよ、イサネ。私とあなたの仲です。このことを理由に、あなたを私のお付きの使用人の立場から外すつもりもありません。どうか気を楽にしてください」

 

 イサネの緊張を解そうと、ノゾミは努めて優しげに微笑みかける。

 その笑顔に釣られるようにして、イサネも少しだけ肩の力が抜けたようだ。

 

「イサネ。私はあなたの気持ちはじゅうぶんに理解できているつもりです。あなたは教団のせいで、過去を……幼き日々の大切な思い出のすべてを失った。その元凶かもしれない、教団が崇める天使が手の届く場所にいると知って、いても立ってもいられなかったのでしょう」

「別にそういうわけでは……私はただ、お嬢様のために……」

「言ったはずですよ、イサネ。無空メイは、あなたと同じ教団による被害者です。真に憎むべきは、無空メイを言葉巧みに誑かして手駒として利用している、虚構天使ただ一人なのです。あなたの気持ちはよくわかりますが……それでも、不用意に罪のない者たちを巻き込むべきではありません」

「……」

 

 なんとも言えない表情で佇むイサネを前に、ノゾミはそこで言葉を止めると、自身のデュエルガントレットを見下ろした。

 映し出された画面に新たに表示されたメッセージ通知をタップすると、その内容をしばらく見つめ、小さくため息をつく。

 

「お嬢様? どうされたのですか?」

「エミリアさんから連絡がありました。明日、無空さんを伴って生徒会室を訪ねると。そしてその時に、今回あなたがしでかしたことについて私やあなたから詳しい事情を聞きたいと」

「……申しわけありません。お嬢様」

「その謝罪は私ではなく、あなたが迷惑をかけた方々にするべきでしょうね」

「……はい。肝に銘じます」

 

 イサネが再び落ち込んだように俯くと、ノゾミはなにか慰めの言葉を探すように口を開いたが……。

 今回しでかしたことを考えると、しばらくはきちんと反省させた方が良いと思い直したようで、結局なにも言わずに口を閉じる。

 

「それで……いかがするおつもりですか? お嬢様」

「もちろん応じるつもりですよ。元々、無空さんとは近いうちに腰を据えて話をしなければいけないと思っていました。この機会に虚構天使の悪行の真実を彼女の白日の下に晒し、虚構天使を手放す意思があるかどうかを確認します」

「では、それでもしも、無空メイに虚構天使を手放す意思がなければ……?」

「その時は、致し方ありません。学園を……学園の宝である生徒たちを守るために。罪深き偽りの天使へと、真の天使がデュエルによる裁きを下します」

「っ――」

 

 ノゾミの傍らに、ノゾミと同じ金色の髪を持つ天使の少女が半透明の状態で姿を現す。

 慈悲深い笑みは、庇護すべき対象を深く愛するのと同時に、それを害する存在を決して許さないという強い意志の表れだ。

 

「ですが……これはあくまで最悪の想定です。穏便に虚構天使を手放していただけるのであれば、それが一番良いのです。祈りましょう、イサネ。無空さんに私たちの真意を理解してもらえることを」

 

 ノゾミが胸の前で指を組み合わせると、傍らに立つ天使の少女も同じように手を組んで祈りを捧げる。

 そんな二人を眺めながら……しかしイサネはなんとなく、その願いは叶わないのではないかという確信めいた予感を抱いていた。

 

 突如として学園に現れ、二年間無敗を貫いていた燃照ホムラを下し、高等部一年生のクラス代表対抗戦までもを制した、未だ無敗の白い死神、無空メイ。

 中等部一年生から高等部三年生の現在までに行われたクラス代表対抗戦のそのすべてを制し、中等部時代からすでに学園最強とまで謳われていた正真正銘の天才、光華ノゾミ。

 その二人が間もなく対峙し、雌雄を決することになるのだと……イサネの胸の内には、言いようのないざわめきが渦巻いていた。




デッキ紹介
・火&闇混合HP1000軸自傷アグロ(使用者:燃照センカ)
ホムラ「センカのデッキだね! 火と闇の2属性を混合して構築された速攻デッキだよ! 自分のライフカウンターを破壊するカードと、自分のライフカウンターの破壊をトリガーにして強力な効果を発揮するカードを組み合わせて、序盤のうちから積極的にサーヴァントを並べて攻め入るのが基本戦術だね! 自分が先攻で、相手が速攻の対策をしてなければ、抵抗する間も与えず圧倒しちゃうこともあるみたい! 後攻の場合でも、採用してる小型サーヴァントのほぼ全員がアクセルを持ってるから序盤の盤面の取り合いで負けることはまずないと言っていいね。ただ…強みがわかりやすいぶん、弱みも結構わかりやすいんだよねぇ。自分で自分のライフカウンターを削っちゃうからカウンター(反撃)に弱かったり。専用のサポートカードが豊富にあるHP1000のサーヴァントを中心に構築してる都合上、小さな全体ダメージで簡単に一掃されちゃったり。手札に複合属性ばっかりだとエナジーチャージを消費状態ですることになっちゃって、速攻なのに序盤の動きが鈍っちゃったり。だから考えなしにカードを使っていくんじゃなくて、次の自分のターンや、相手の対応を予測しながら攻め入っていくのが大切だね。切り札は、尽滅の行人ルインと尽滅の定め…だけど、正直あんまり速攻の戦術とシナジーがないというか…。どちらかと言うと、重要なのはスペルの戦火狂乱だね! 手札を全部捨てる代わりに、そのデュエル中に破壊されたHP1000のサーヴァントを好きなだけ蘇生できるリーサルウェポン! 序盤は横並べして攻めていって、キツくなってきたら最後にこれで一斉展開からの一斉攻撃でフィニッシュが理想の動きだよ! …センカはちょっと変わった子かもしれないけど、自分らしく生き生きしてるセンカを見てると、私もなんだか笑顔になっちゃうんだよね。私もお姉ちゃんとして、センカには簡単に負けてあげないからね!」

・光&水寄り全属性混合メイド軸ミッドレンジ(使用者:冥土イサネ)
センカ「クライアント…じゃなかった。冥土…イサネ先輩? のデッキだね~。1ターン目から専用のスペルメイドの嗜みを使用して、エナジーの属性にかかわらずメイドのカードを使用できる能力を得て戦う、全属性混合のミッドレンジだよ。全属性混合とは言うけど、メイド以外のカードは基本的には光と水属性を多めに採用されてるみたい。光も水も汎用カードは防御やリソース回復に寄ってるカードが多いから、それで手札を減らさないタイプの速攻へのカウンター札を多く採用して、うまく中盤に繋げるようにバランスを考えて構築されてる感じだったよ。強みと言うと、やっぱりリソース回復能力だよね~。メイドたちは皆、破壊された時に自分をデッキに戻して自分以外のメイドをランダムに持ってくる効果を持ってるから、リソースがなくなることはまずないんだよね。スペルもメイドの召喚に反応して墓地から回収できる共通効果があるし。早い段階から大量のメイドを並べたり、切り札のセレナーデを出せたりなんてしたら、コントロールしながら攻め入っていけて強そうだよね! …でも今になって考えてみると、弱みの方が結構致命的だったかもねぇ…。基本的にはアクセルによる攻撃を軸にQアクションでエナジーを節約しながらメイドたちを場に展開していくんだけど、アクセルによる攻撃が軸ってことは、相手の場にサーヴァントがいないとうまく展開できない…それ自体が相手依存の展開方法ってこと。それから1ターン目はスペルメイドの嗜み、2ターン目からは可能な限り早めにエリア求人募集中の展開をしておかないとメイドたちをうまく展開できなくなっちゃうから、序盤の動きがほとんど固定化されちゃってるのも難点だね。あとあと、単純にセレナーデ以外のメイドたちのステータスがすっごく低い! コスト3でATK1000HP2000はメイン戦力にしていくには心もとなすぎるよ~…。そういう事情もあってメイドたちだけで戦っていくのは難しいから、メイド以外の空いた枠になにを採用するかが重要なんじゃないかなってわたしは思うよ。それ次第で序盤に寄せるか、いっそのこと後半戦を中心に戦えるよう構築するか、いろいろと型を考えていけると思うな~。メイドの嗜みの特殊能力付与の条件が厳しいから一見すると窮屈に見えるけど、実際は結構拡張性の高いテーマなんじゃないかってわたしは思うよ~!」
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