可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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3.もっ、もちろん覚えてる……よ?

「無空メイさん。この後の朝のホームルームで皆の前で紹介しますから、自己紹介の内容を今のうちに考えておいてくださいね~」

「……」

 

 おっとりとした口調の、面倒見の良さそうな先生の言葉を適当に聞き流しながら、私こと無空メイは、こうなった経緯について思い返していた。

 

 まず真っ先に言わせてもらうと、私は学校なんてものに大して興味はない。

 国立クロワッサン学園……プロデュエリスト養成校の一つで、デュエルで優秀な成績を収めた人間が集まる学園……らしい。

 らしいというのは、そもそもがよく知らないからだ。

 私がこの学園について持っている知識は、『プロデュエリストを目指すならクロワッサン学園へ!』……みたいな広告を街中の大型ビジョンでたまに見たというくらいの、本当に曖昧な程度。

 

 まだ二桁にもなっていなかった幼い頃、父と母だった二人と暮らしていた頃は、小学校に通っていたことはある。

 ただ、ホロエルと一緒に教団を抜け出してからは、教団に連れ戻されることを恐れて通うのをやめてしまっていた。

 人目のつかない路地裏や治安の悪い場所でドロップアウトした人たちを相手に賭けデュエルを繰り返してお金を稼ぎ、人が寄りつかない廃墟で眠りにつく毎日。

 追手に見つかったなら応戦して撃退し、拠点とする場所を転々と移し……気づけば何年も経っていて、私は15歳になっていた。

 そういった逃避行のような生活に対して、不満はなかった。

 最初は辛かった気もするけど……とっくに慣れてしまったし、ホロエルが一緒なら私はどこでだって生きていける。

 

 だから初めに学校に通おうなんて奇特なことを言い出したのも、私ではなくホロエルの方からだった。

 ホロエルは言葉を持たない。だけど私には彼女の意思がなんとなく理解できる。

 それは彼女が私のソウルハート・サーヴァントだからじゃない。私とホロエルが、他の誰よりも深く心で繋がっているから。

 ある時ホロエルは街中の大型ビジョンの広告を指差して、私に学校に通うよう勧めた。

 

 ……私は学校に通う必要性を感じていなかったけれど、ホロエルの意図は理解できるつもりだ。

 今まではなんとかなってきたが、いつまでもこんな生活が続くはずもない。

 そう遠くない未来、破滅することは目に見えている。

 私自身は、それでもいいと思っている。巫女に選ばれたあの日、それまで本当だったと信じていた愛情が虚構に過ぎなかったと知り、すべての過去は虚無へと帰った。

 だけど同時に、そんな虚無の最果てだったからこそ私はホロエルに出会えた。

 ホロエルは私を見捨てない。いつだって私を見てくれる。どんなことがあっても一緒にいてくれる。

 ホロエルがくれる愛情は嘘じゃない。偽物じゃない。たとえホロエルが私のすべてを奪った虚無から生まれたものだったとしても、そんなこと関係ない。

 いつしか破滅することがホロエルと心で繋がることができた代償だというのなら、私はその代償を払うことに躊躇はない。

 

 だけどきっと、ホロエルはそう思っていない。

 ホロエルは私に未来を生きてほしいと思ってる。だから私に、学校に通うことを勧めたんだ。

 クロワッサン学園はプロデュエリスト養成校だけど、きちんと学べばデュエリスト以外の道だって開ける。もちろん、そのままプロデュエリストになって、表舞台で輝くこともできる。

 今みたいないつ破滅するかもわからない生き方とは違う。真っ当な、人々が幸せと呼ぶような生き方ができるようになるんだ。

 ……正直、今の私はそんな生き方に魅力は感じない。

 けど、ホロエルの気持ちは素直に嬉しかったし、社会で確固たる立場を得ることができれば、教団もそう簡単には手出しできなくなるだろう。

 居場所がばれやすくなるリスクはあるけど……小学校に通うことを恐れた、幼かった頃とはもう違う。

 今の私には、無理を通せるだけの力がある。

 そしてその先にはもしかしたら、もっと長くホロエルと一緒にいられる未来だってあるかもしれない。

 

 そう考えて、私もホロエルの提案を承諾し、国立クロワッサン学園の高等部に通ってみることにした。

 したのだけど……。

 

「言い忘れていましたが、今日から転入生が来ます~。これから一緒に学ぶ仲間として、皆さん仲良くしてくださいね~。それではメイさん、壇上で自己紹介を~」

「……無空メイ。以上」

「あ――あぁぁぁああぁあぁぁぁっ!!」

 

 自己紹介をした途端、見知らぬ赤髪の少女に突如として指差されながら叫び声を上げられて……初日から穏やかではない学校生活になることを予感し、そしてその予感は見事に的中することになるのだった。

 

 

 


 

 

 

「ねえねえねえねえ! 聞いたよメイちゃん! メイちゃんって相当強いんだよね? 私メイちゃんのこともっと知りたいな! 仲良くなりたい! それで質問なんだけど、好きなカードはなにかある? 使うデッキは? どんな戦術が好きなの? ここの転入試験って普通の入試より難しいって聞いたけど本当? この時期に転入なんて珍しいね? それはそうと私とデュエルしない?」

 

 うるさい……。

 隣の席で赤髪の少女こと、ホムラが言葉の嵐をマシンガンのごとく浴びせてくるのを聞き流しながら、私は早くも学校に通う選択を後悔し始めていた。

 本当なら今頃、ホロエルと一緒に廃墟で昼食を食べる、静かで心休まるひと時を過ごしてたはずなのに……。

 

 そもそもこんなことになったのも、あの妙にのんびりとした口調の担任の先生がこいつの隣の席を私にあてがい、クラスメイトもそれを助長したからだった。

 ホムラが私を見て大声を上げた後、「知り合いなら隣の席の方がいいですよね~」と先生が悩ましげに呟き、「あ、じゃあ私が譲りますよ!」とホムラの隣だったクラスメイトが申し出たことで、嘘のようにスムーズな流れで私の席が勝手に決められた。

 別に私とこいつは、知り合いでもなんでもないのに……。

 それからはこの通りだ。授業中はさすがに静かだが、休み時間になると途端に騒がしくなる。

 最初こそ適当に相槌を打ってあげていたが、途中からめんどくさくなって、今ではほとんど無視に徹している。

 それでもまだこの通りなのだから、手に負えない。

 あまり愛想がいい方じゃないという自覚はあるのに、なぜそんなにも私に関わろうとするのかがわからなかった。

 

 私は、他人なんて興味ない。

 ただホロエルと何事もなく過ごすことだけが私の望みなのに……。

 

 助けを求めるように、私にだけ見える状態で半透明化したホロエルを見る。

 すると、ホロエルもちょっと困った顔をしていた。「マスターと仲良くしようとしてくれるのは嬉しいけど、さすがに距離の詰め方が……」みたいな感じの表情だ。

 声は聞こえないけど、ホロエルが考えていることなら見ただけでなんとなくわかる。

 

 隣のやつはうるさいが、ホロエルの困り顔は最高に可愛い。

 ホロエルさえ見ていれば、平常心を保てる気がする。

 そう思い、じっとホロエルを見つめ続けていたのだけど……私が見ているものが気になったのだろうか。

 不思議そうにしたホムラが、ふと、私の視線の先に回り込むように移動した。

 ちょうど、半透明化したホロエルと重なるように。

 

「なに見てるの? そっちにはなにも――」

「っ……邪魔。消えて」

 

 ホロエルは、おそらく私がクラスメイトと仲良くすることを望んでいる。

 だからそんな彼女の意思を尊重して、私も価値観の違いで角が立つようなことだけはしないと決めていた。

 だけど……私とホロエルとの関係を引き裂きかねないような真似だけは、どうしても看過することができなかった。

 

「あ……えっと……」

 

 私がホムラを突っぱねるように言い放つと、教室がシンと静まり返る。

 さすがのホムラも自分の言動がしつこかったと気がついたようで、途端に申しわけなさそうな顔になった。

 

「……ごめんね? 私、メイちゃんと仲良くなりたくて……怒らせたいわけじゃなかったの」

「……はぁ。私が虚空を見つめてる時は、視線の先に入ってこないで。それさえ守ってれば、うるさくても文句は言わない」

「虚空を……? うん、わかった。メイちゃんに嫌われちゃったら嫌だからね」

 

 ……私と仲良くしたい。その気持ちに嘘はないんだろう。

 もっとも私の方は、別にホムラと仲良くするつもりはなかったけれど。

 私とホロエルの仲を引き裂こうとしないなら、それでいい。

 

「お姉ちゃーん! 一緒にお昼食べ、よ……う?」

 

 ようやく静かになったと安心していたら、ふと、そんな幼げな声が教室中に響き渡る。

 軽く視線を動かして教室の出入り口の方を見てみれば、ちょうど教室に入ってきた紅蓮色の髪の女の子がポカンと口を開けてこちらを見つめてきていた。

 あの子……どこかで見たような気もするけど、思い出せない。

 ただ、制服の違いからして中等部の子のようだ。

 そして発言からして、姉と一緒に昼食を食べるためにわざわざ中等部からやってきたらしい。

 

「メ、メメメ……メイ様っ!? どうしてメイ様がここに!?」

 

 紅蓮色の髪の女の子は、ハッと正気を取り戻したように顔を上げると、パタパタと急ぎ足で駆け寄ってきた。

 この教室にいるだろう姉の方ではなく、なぜか私の方に。

 

「あぁぁ、あの! メイ様! 私のこと、覚えていますかっ!?」

「……? えっと……」

 

 なんでこの子、私の名前知ってるんだろう……。

 なにか心当たりはないかと問いかけるようにホロエルの方を見てみたが、なぜかジトッとした目で私を見返される。

 なんというか「マスター……覚えとくって言ってたよね?」みたいな、珍しくちょっと責める感じの視線だった。

 

 え……え?

 私、この子と会ったことあるの……?

 

 ……ホロエルの目が、段々と可哀想な子を見るようなものになっていく……。

 

「もっ、もちろん覚えてる……よ?」

 

 ホロエルに幻滅されるのだけは嫌だったので、思い切り目を泳がせてしまいながらも、虚勢を張ってそう答えた。

 けれど、もしここで名前を呼んでほしいと懇願されてしまったらジ・エンドだ。だって実際には覚えてないし。

 もしもそんなことになったら、ホロエルに平然と嘘を吐く悪い子だって思われちゃう。

 す、すぐに……! 名前を言ってほしいって言われる前に、どうにかしてこの子の名前を思い出さなきゃ……!

 

「あぁぁっ! 本当に覚えていていただけたなんて、不肖センカ、感激の極みです!」

 

 ――!

 

「う、うん。覚えとくって、言ったから……ね? センカ……」

 

 よ、よかった!

 思い出す前に、自分から名前を言ってくれた……。

 

 ホッとしながら名前を呼んで、「ちゃんと覚えてたよ……?」と伝えるように、ホロエルにこっそり目線を送る。

 ホロエルは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。

 

 センカ……名前を聞いたおかげで、ようやく思い出せた。

 つい昨日、ホロエルと一緒に街を歩いていた時の話だ。

 たまには公園みたいな明るい場所でホロエルとのんびりしようとしたら、そこには先客がいて、女の子とチンピラがデュエルをしていた。

 その時の女の子の方が、センカだ。

 別に関わる義理はなかったけれど……センカのデッキがデッキとも呼べないあまりにもひどい紙束だったことが気になって、私は足を止めた。

 普通にデッキを組めば、あんな風にはならない。まだデュエルを学びたての齢一桁の子どもでも、もっとマシなデッキを組むだろう。

 おそらくだけれど……チンピラはなんらかの手段を講じてセンカに不利な条件を飲ませ、あんな紙束を使うよう強要したのだ。

 そうやって絶対に勝つように細工した上で、賭けによりカードを奪うという魂胆。

 ……あまりにも下劣で、気に入らない。

 だからセンカがチンピラに負けた後、私が勝負を挑んだ。

 そして危なげなく勝利し、センカにカードを返してあげたら……なぜか尊敬された。そんな感じだったはずだ。

 

「そうだ! そのこともお礼を言いたかったんだ! メイちゃん、センカのこと助けてくれてありがとうね!」

 

 昨日のことを思い出していると、ホムラがそんなことを言ってくる。

 なんで関係のないこいつがお礼を言うんだろうと一瞬不思議に思ったが、二人の顔立ちが似ていることから、私はここでようやく二人が姉妹であることに気がついた。

 そしてだからこそ、ホムラが会ったこともない私に反応を示したのだということも。

 

「お姉ちゃん……メイ様に迷惑かけてないよね? お姉ちゃん、強いデュエリストを見るとすぐ突っ込んでいくんだから。デュエルしたい気持ちはわかるけど、その人が嫌がってたら強要しちゃダメだからね?」

「わ、わかってるよ……確かにデュエルは好きだけど、やっぱりお互い楽しくできるのが一番だもんね。今はちゃんと反省してる……」

「反省してるってことは、やっぱり迷惑かけたんだね……ごめんなさいメイ様。不出来な姉が多大なご迷惑をおかけして……」

「め、目の前で不出来とか普通言う!? 第一センカだって、負けてとられたカードをメイちゃんに取り返してもらったくせに!」

「あーあーあー! 反省してるって言うくせに、棚に上げてお姉ちゃんわたしのこと責めるんだ! いいよ、だったらわたしと今ここでデュエルしようよ! わたし、昨日メイ様のデュエルからインスピレーションを得てデッキを改造してきたんだから! 前までのわたしと同じだと思ってたら痛い目を見るよ!」

「い、いんすぴ……? よくわかんないけど、ふん! 一度も私に勝てたことないくせに、よくそんな自信満々に吠えたねセンカ! いいよ、今日も返り討ちにしてあげる! デュエルガントレット、スタンバイ! 室内用ホログラムモード、起動!」

「「デュエルスタート!」」

 

 うるさい……。

 そもそもセンカは姉と一緒に昼食を食べに来たのではなかったのか。昼食も食べずにデュエルなんかしてたら食べる前に昼休みが終わってしまうのではないか。

 そんなことを思わないわけでもなかったが、すでにデュエルを始めてしまった二人に言っても無駄だろう。特に言う義理もない。

 教室内で突如としてデュエルが始まるのを横目に、私はそそくさと教室を退散するのだった。

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