可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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38.……わたしを……独りぼっちに、しないで……

「――…………ぁ……」

 

 肌に感じる冷たい床の冷たい感触で、目が覚める。

 窓一つ存在しない、ただ薄暗い灯りの装飾だけが照らす狭い空間は、さながら牢獄のようだった。

 周りには、誰も人はいない。

 どうしてこんなところに一人で倒れているのかと、朦朧とする頭で思考して……私は意識を失う前の出来事を思い出した。

 

『天使様の依り代になるのだ』

『わずらわしい過去と未来をすべて捨て、天使様をその身に受け入れる。まさしく栄誉だ!』

『ああ、なんて幸せなのでしょう。我が子が天使様の依り代に選ばれるなんて!』

『メイ、良い子だ。これでお前はこの世界の誰よりも幸せになれる。安心して天使様の依り代になるんだ』

 

 そうだ。私は、アリエル様の依り代である虚無の巫女に選ばれたんだ。

 だけどその巫女の役割とは、アリエル様に身も心も捧げて、彼女の器となるだけの存在……ただの生贄でしかなかった。

 巫女の役割を拒絶した私は、お父さんとお母さんから一方的に罵倒されて。

 そして……泣き叫んで暴れ回る私に業を煮やしたシーラ司教様が、他の教団の人たちを呼んで、私をこの部屋に幽閉したんだ。

 

 私は……死ぬんだ。これから、この宮殿で。

 誰にも愛されず、一人ぼっちのまま……虚無に飲み込まれて消えるんだ。

 

「……やだ……」

 

 私は嗚咽を漏らしながら、冷たい床の上で倒れたまま膝を抱えて丸くなる。

 

「……なんで、なんでなの? パパとママが笑ってくれるから、喜んでくれるから、毎日天使様に祈りを捧げてたのに……今までのこと全部忘れて、天使になることが……パパとママの願いだったの? わたしのこと……パパとママは、好きじゃ、なかったの?」

 

 おかしい。こんなの絶対におかしいよ。

 こんなのはきっと、悪夢に決まってる……。

 

『お父さん、お母さん! 今日ね、シーラ司教様が私のこと褒めてくれたの!』

『そうか! さすがは俺の娘だな!』

『あなたは私たちの自慢の娘よ』

『えへへ~』

 

 瞼を閉じ、蹲って、現実から逃げるように耳を塞ぐ。

 するとお父さんの嬉しそうな顔が、お母さんの温かい手の感触が、私の脳裏に蘇った。

 暗闇の中にいる私は、どこか遠くにも見えるその情景に、もがき苦しむようにして手を伸ばす。

 もう一度家族三人で笑い合いたくて、ただ普通で幸せな毎日に戻りたくて。

 だけど息苦しさに耐えて、ようやく両親のもとに手が届いたと思った瞬間、目の前にある景色が一変した。

 

『お前もだ! お前も俺の言うことすらまともに聞けない能無しなんだ! 言え! 自分は能無しだと! 役立たずのゴミクズだと!』

『どうしてそんな親不孝なことばかり言うの? どうして私の苦労を理解しようとしないの? 私がいなきゃ、あなたなんて生まれてすらこなかったのに』

 

 あ、あぁああ……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいっ!

 なにもできなくてごめんなさい! お父さんとお母さんの気持ちを理解できなくてごめんなさい!

 悪いところがあるなら直すから! もうワガママなんか言わないから! お父さんとお母さんの言うことならなんでも聞くから!

 だからお願い。私を捨てないで。

 謝るから……頑張って今度こそ、お父さんとお母さんの理想の娘になってみせるから。

 

『そうだ……俺は悪くない。悪いのは全部、俺以外の連中なんだ……この世界が悪いんだ……!』

『はぁ……そんな目で見ないでよ。悪いのは私じゃない――この世界が悪いんだから』

 

 お父さんとお母さんが吐き捨てた呪詛のような言葉が、私の心を蝕んでいく

 辛くて、苦しくて、痛くて、悲しくて……寂しくて。

 

 私はただ……お父さんとお母さんに愛されたかった。それだけだった。

 だけど二人には私のことを愛するつもりなんて、初めからなかったんだ。

 お父さんやお母さんが好きなものは、きっと……自分だけだ。

 優秀な自分。人よりも上に立つ自分。苦労している自分。可哀想な自分。

 そんな自分が大好きで、そんな自分に酔いしれていて、それ以外のものなんか端から興味もない。

 私なんかただ、二人にとっては自尊心を満たすための使い捨ての消耗品でしかなくて……だから私が今までの全部を忘れて消えることも、きっとどうでもいいことなんだ。

 

「うっ……! おぇえっ……ぇぐっ……!」

 

 その瞬間、胃が痙攣を起こしたかのように内容物が逆流して、私はその場に嘔吐した。

 喉が胃液に焼かれて、口の中が不快な苦味で一杯になる。

 ひとしきり吐いた後も吐き気が治まらず、私は蹲ったまま胸を搔きむしった。

 

「……はあ……はあっ……」

 

 どれだけそうしていたのかわからない。

 けれど、胃の中の物を出し尽くし、ようやく吐き気が落ちついてきた私は……ひどく重たい身体を引きずるようにして、ふらふらと立ち上がった。

 

「……ここから……逃げ、なきゃ……」

 

 これからどうすればいいのかとか、どこへ行けばいいのかなんてわからない。

 ただ、ここにいたくないという思いだけは確かで、私は覚束ない足取りで部屋の扉の前まで足を進めた。

 

「……開か、ない……鍵、かかってる……」

 

 電子ロック式の扉は固く閉ざされていて、どれだけ力を込めたところでビクともしない。

 扉の横に、おそらくは扉のロックを管理していると思しき暗証番号を入力するためのテンキーが備えつけられているけれど……正しい番号なんてわかるはずもなかった。

 思いつく限りの数字の羅列をひたすら打ち込んでいくが、扉が開くことはない。

 ビー! と耳障りな音が鳴ってテンキーのライトが赤く点滅する光景が、ただ無意味に繰り返されるだけだった。

 

「……」

 

 もはやなにをする気力も湧かず、私は諦めたように扉の前でへたり込む。

 ……そもそも。

 暗証番号がわかって、この扉を開けることができたとして……その先で、いったい私はどうすればいいのだろう。

 

 部屋の外に出られたところで、宮殿の中には大勢の信徒たちがいる。私一人の力で誰にも見つからずに外に出ることなんて、ほとんど不可能に近い。

 そうして捕まってしまったが最後、またここに連れ戻されて、今よりももっと厳重に幽閉されることになるだろう。

 

 もしも仮に奇跡が起きて、どうにか宮殿の外に逃げることができたとしても……外の世界に、私の居場所なんてものはもうどこにもない。

 家には帰れない。お父さんもお母さんも、私が巫女になることを望んでいる。私を教団に連れ戻そうとすることは明白だ。

 学校にも行けない。教団の人たちがいつ来てもおかしくない。ただ私の居場所を教えてしまうだけだ。

 警察を頼ったところで、結果は同じだろう。

 一時の安全は確保できるかもしれないけど……教団の信徒の中には、警察の所属だっていう人もいた。

 それはつまり……警察に保護されるということは、私の居場所が教団に知られることでもあるということ。

 そうなればいつか私が警察の保護下から外れる時を狙って、教団はきっとまた私を連れ戻しに来る。

 

 この世界のどこにも、逃げ場はない。

 どれだけ必死になって逃げたところで……過去はいずれ必ず、私に追いついてくる。

 

 これが……これが、私の運命。私の世界。

 ああ、そっか……そういうことだったんだ。

 お父さんとお母さんは、世界が悪いんだって言っていた。だから自分は悪くないんだ、って。

 皮肉なことに、その言葉に込められた本当の意味が今ようやく理解できた気がした。

 

 私がどんな思いを抱いて、どれだけ頑張ったところで、自分にしか興味がないお父さんとお母さんから愛される望みなんて、最初からなかった。

 この先、私が虚無の巫女にされる未来も同じだ。

 大勢の信徒が集う教団という巨大な組織を相手に、私みたいな子どもが一人で立ち向かったところで……敵うはずなんてない。

 

 そう。今まで起きたことも。これから私を待ち受ける未来も。

 すべて、なにもかも……世界によって、あらかじめこうなるように運命づけられていたんだ。

 初めから、どう足掻こうとも自分ではどうしようもなかったから。

 だから……自分をこんな目に遭わせた世界が悪いんだ、って。

 そうやって自分は悪くないんだって信じなきゃ……どこまで行っても、自分自身が救われない。

 

 これは絶望に瀕した者がたどりつく、心の防衛本能のようなものなんだろう。

 どうしようもない現実から目を背けて、自分自身の心を守るために、自分以外のすべての人たちが……世界が悪いんだって思い込む。

 そうでもしなければ……きっと、その人の心が壊れてしまうんだ。

 

「……それ、でも……」

 

 力なく項垂れたまま、消え入るような声で私は呟く。

 

「……もしも本当に……全部、世界が悪いんだとしても……」

 

 もしも、誰にも愛されないことが私の定めだったのだとしても。

 世界が私の行く末を、そう決定づけたのだとしても。

 すべての出来事が、初めからそうなるように仕組まれていた、逃れ得ぬ運命だったのだとしても……。

 

 私はそれでも……せめて、お父さんとお母さんにだけは……。

 ……私のことを……愛してほしかったよ。

 

「…………誰か……助けて……」

 

 薄暗い部屋の中、固く閉ざされた扉の前で……私は一人、縋るようにして誰にも届かない祈りを捧げる。

 

「どうか、お願い……お願い、します。わたしのことを……助けて、ください……わたしのこと、を……愛して……ください……」

 

 こんなことしても無駄だって、わかってるはずなのに。

 誰も助けてなんてくれないって、わかってるはずなのに……。

 

「わたし、を……」

 

 私をこの暗い部屋から連れ出してくれる誰かの存在を……求めずにはいられなかったんだ。

 

「……わたしを……独りぼっちに、しないで……」

「――――」

 

 ――その時。

 私の願いを聞き届けるかのように、ピー、と軽快な電子音が鳴って、ひとりでに電子扉が開かれた。

 

「……え……? ……扉、が……?」

 

 突然の出来事に、私は俯かせていた顔を上げ、扉の向こう側の空間を呆然と見つめる。

 だけどそこには誰も立っていなくて、私は思わず口を開いて、虚空に向かって問いかけていた。

 

「誰か……そこに、いるの……?」

 

 ……返事はない。

 ただ開け放たれた扉だけが、私の選択を静かに待ち続けている。

 

「……わたし……わたし、は……」

 

 私は床に手をついてよろよろと立ち上がると、見えないなにかに導かれるようにして、扉の向こう側へと歩き出した。

 部屋の中にいた時は窓がなくてわからなかったけど……今は深夜なのか、宮殿の廊下は暗くて視界が悪い。

 けれどそれは私のように誰にも見つからずに逃げ出したいと願う者にとっては、ひどく好都合とも呼べる状況だった。

 壁に手を当てて、人と鉢合わせにならないように気をつけながら、私は慎重に廊下を進んでいく。

 

 このまま何事もなく宮殿を脱出できるなら、それが一番良かった。

 けれど……やはり事はそう簡単には運ばないらしい。

 私が幽閉されていた部屋から抜け出して少し経つと、信徒たちも私が部屋から姿を消したことに気がついたみたいで、すぐにあちこちで騒ぎが起き始めた。

 

「巫女が脱走した!」

「監視はなにをしていたのだ! なんとしても探して連れ戻せ! 我らの悲願を叶えるために!」

「どうして!? 理解できないわ……せっかく天使様に選ばれる栄誉を授かったのに!」

「メイ、悪い子だ……しかもまさか、ホロエル様まで持ち去るとは……! これ以上の不敬を重ねぬよう、すぐにでも連れ戻して儀式を始めなければ……!」

 

 皆、私のことを……ううん。天使様へ捧げられる貴重な生贄の素質を持った少女の存在を、血眼になって探している。

 子どもとしての小さな体躯を活かして、隠れながら移動することで、今はまだなんとか見つからずに済んでいるけれど……それも長くは持たないだろう。

 あくまで今が深夜で、宮殿に常駐する信徒の数が少ないからどうにかなっているだけだ。

 そのうち外から応援を呼ばれ、宮殿の周囲を大勢の信徒に包囲されてしまうだろうことは想像にかたくない。

 そうなれば逃げ場がなくなった私の脱走の可能性は、完全に潰えてしまう。

 そうなる前に、なんとかして宮殿を脱出しないといけない。でも――。

 

「こっちからなにか物音がしたような気がしたが……」

「っ……!」

 

 曲がり角の向こうから、私を捜索する信徒の足音が聞こえてくる。

 私は咄嗟に近くにあった小部屋に入り込んで、物陰に身を潜めた。

 生きた心地がしない中、必死に息を潜めて……しばらくすると、足音は遠ざかっていった。

 

「はぁ……はぁっ……」

 

 物陰からそっと顔を出し、辺りに人の気配がないことを確認すると、緊張の糸が切れた私はその場にぺたりと座り込んだ。

 今のは、危なかった……。

 あともう少しだけ隠れるのが遅かったら、間違いなく見つかってしまっていた。

 そうして信徒たちに捕まってしまったが最後、私はまたあの監禁部屋に逆戻りだ。

 そして次は四六時中監視の目に晒され、巫女として天使様に捧げられるその時まで、一切の逃げ出す暇を与えてもらえないだろう。

 これが最初で最後の脱走の機会。絶対に失敗は許されない。

 私は乱れた呼吸をどうにか整えると、床に手をついて立ち上がり、足早にその場を立ち去ろうとする。

 しかしその時ふと、1枚のカードが足元に落ちていることに気がついて、私はなんとはなしにそれを拾い上げた。

 

「っ……!? な、なんで……」

 

 そのカードを目にした瞬間、私は驚愕のあまりに目を見開いていた。

 両親に連れられて初めて宮殿を訪れた日から、何度も目にしたカード……虚無の教団ヌルの御神体とも言える1対の天使のうちの1枚――『虚構天使ホロエル』のカードが、そこにあったからだ。

 いつもずっと、厳重に台座に安置されていて、移動させられているところなんて見たこともないのに……どうして……?

 ……いや、そんなことどうでもいい。

 

「天使、様……ううん、違う……天使……わたしのすべてを奪った、虚無の……」

 

 私を虚無の巫女に選んだのは『虚構天使アリエル』……ホロエルじゃない、もう1枚の方だ。

 だけどホロエルだって、アリエルと同じ虚無の天使であることに違いはない。

 アリエルが……虚無の天使が私を巫女になんて選ばなければ、こんなことにはならなかったんだ。

 たとえ両親から向けられていた愛が、偽物に過ぎなかったのだとしても……巫女にさえ選ばれなければ、私は一生その真偽に気づくこともなく、幸せな家族の夢に浸ることができた。

 最期までずっと……幸せなままで、いられたんだ。

 

 私をこんな目に遭わせた虚無の天使に復讐できる機会は、今この時以外に存在しないと感じた。

 私は衝動の赴くままに、『虚構天使ホロエル』のカードを破こうと手にかける。

 ……けれど。

 

「……なんで……どうして? あなたなんでしょ? わたしを、あそこから出したのは……なんであなたは、わたしを助けようとしてるの?」

 

 何度目を逸らそうとしても、どうでもいいと振り切ろうとしても……その疑問が私の手を鈍らせて、カードを破る行為を躊躇わせた。

 それでもやっぱりホロエルもアリエルと同じ虚無の天使なんだと自分に言い聞かせて、恨もうとした。憎もうとした。

 だけど、ただ愛されることを望んでいた私には……どれだけ強く思い込もうとしたところで、恨みだとか憎しみだとか……そんなものは結局のところ、偽りの感情でしかなくて。

 アリエルと同じ虚無の天使だからって理由だけじゃ、私はどうしても、ホロエルのことを憎み切ることができなかったんだ。

 

「……」

 

 苦渋の末に、自分にはなにもできないということを悟った私は……。

 ホロエルのカードをそっと懐にしまい込むと、再び宮殿の廊下を駆け出した。

 

「っ、デュエルガントレット……! これさえあれば、きっと……!」

 

 宮殿の出入り口は、すでにどこも封鎖され、見張りが立ってしまっている状態だった。

 見張りがいない出入り口がないかと無我夢中で宮殿を駆け回る中で、倉庫のような小部屋に逃げ込んだ私は、そこで偶然、放置されているデュエルガントレットとデッキを発見する。

 

 これは、デュエル……というカードを使った戦いのための道具らしい。

 残念ながら、私にはデュエルの経験なんてものはない。

 けれど以前テレビの中で、デュエリストを名乗る人がこのガントレットにカードを叩きつけて、魔法のような力を使っているところを見たことがある。

 もしもあの力が私にも使えるなら、不意を突いて、出入り口にいる見張りの人たちを……!

 

「……ス、スペル! 『鏡に映る虚像(ドッペル・ミラー)』!」

「な、なんだ!? 俺がもう一人!?」

「いたぞ! あそこだ! あそこに巫女が――ぐあっ!?」

 

鏡に映る虚像(ドッペルミラー)
コストX 属性:無 

スペル 種別:虚数 

 - 効果 - 
①【手札で有効】このスペルは任意のエナジーを消費して詠唱できる。

②このスペルの詠唱のために消費したエナジー以下のコストを持つ相手の場のサーヴァント1枚を選択する。それを1枚複製して自分の場に出し、以下の効果をすべて付与する。

・『アクセル』

・『虚構定理』=条件:相手の場に同名サーヴァントが存在する。

③「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が5以上なら、「②」の効果を追加で1回行う。

 

 物陰から見張りの様子を窺い、こちらを見ていない一瞬を狙って、私はスペルカードをデュエルガントレットに叩きつけた。

 すると見張りの人たちと同じ姿をした人がどこからともなく現れて、奇声を上げながら彼らに襲いかかっていく。

 

「や……やった、できた……!」

 

 同じ姿をした人に殴られて、見張りの人たちが気絶すると、同じ姿をした人たちも幻のように消えていった。

 それと同時に、少しの疲労感が身体にのしかかってくる。

 どうやらこの魔法のような力を使うためには、体力みたいなものを消耗するみたいだ。

 でも……これで、出入り口の見張りはいなくなった。

 

 多くの信徒は私がまだ宮殿の中にいると思って捜索しているのか、幸いにも外への監視の目はまだそれほど厳重ではないようだった。

 外からの応援も、まだ来ていない。宮殿の周囲を包囲されている気配はない。

 今なら、外に出られる。逃げられる……!

 そう確信した私は、一目散に宮殿の外に飛び出そうとして――その刹那、視界の端でカッとなにかが光った。

 次の瞬間、私の頭上で爆発が巻き起こり、爆風に煽られた私は衝撃でその場に尻餅をついた。

 

「……え……あ……う、嘘……なんで……」

 

 尻餅をついた私の前で、爆発によってガラガラと崩れてきた宮殿の瓦礫が、無情にも出入り口を塞いでいく。

 呆然とする私のもとに、コツコツと靴底を鳴らしながら、誰かがゆっくりと近づいてきた。

 

「『流れ球直撃』。コスト5以上か攻撃済みのサーヴァントに、2000ダメージを与えるスペルだ。デュエルリクエストモードで使用した場合には、単純に火球という現象として出現する」

「ぇ……ぁ……」

 

 聞き覚えのある声にビクリと肩を跳ねさせて、私は震えながら後ろを振り返った。

 そこにいたのは、教団の一員の証である信徒の白いローブに身を包んだ、私の……。

 

「かくれんぼなんてどこで覚えたんだ? メイ……お前は本当に、悪い子だ」

「お……お父、さん……」

 

 ひどく冷たく、恐ろしい目で私を見下ろす……私のお父さんが、そこに立っていた。




今回で過去編を終わりにしようと思っていたのですが、思ったより長くなってしまったので、次回まで続くんじゃよ(。>ㅅ<。 )ゴメンネ
天使天使してる素晴らしいホロエルの見せ場をこの後に用意してるから許して(>︿<。)
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