可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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41.これからも……よろしくね。ホムラ……皆

 昔の出来事を思い出しながら、私――無空メイは、自分の生い立ちを包み隠さず皆に明かしていく。

 両親のこと。虚無の教団ヌルのこと。教団で崇められていた、1対の虚無の天使のこと。

 私がその天使の片割れであるアリエルに、依り代の役目を担う巫女に選ばれたこと。

 お父さんと完全に決別して、この不条理な世界を、ホロエルと二人で生きていく決意を固めたこと。

 

「そうして教団を脱走した私とホロエルは、身を潜めるようにして廃墟を転々として暮らしてきた。危険な賭け(アンティ)デュエルを繰り返して、その日暮らしのお金を稼ぎながら」

 

 根幹に関わる教団での出来事を一通り話し終えた私は、その後のおよそ九年間の出来事についても掻い摘んで話していく。

 とは言っても、教団を脱走してからの話には、そこまで重要な内容は含まれていない。

 ホロエルに助けられながら、毎日を必死に生きてきた。それがすべてだ。

 

「当時の私は、精神的に不安定だったように思う。お父さんとお母さんが私を見捨てた時の顔が、声が……幸せそうに笑う家族の姿を見るたびに頭の中に蘇って、平和な街の中でさえ歩けたものじゃなかった。夢の中ででも毎日悪夢を見て、うなされて、毎日のように夜中に目が覚めて吐いていた」

「PTSD……心的外傷後ストレス障害ね」

 

 エミリアがポツリと呟いて、痛ましそうに目を伏せる。

 

「でも……そんな私に、ホロエルはいつだって温かく寄り添ってくれた。お姉ちゃんみたいに優しく笑いかけてくれた。独りが辛くてしかたがない私のために、私にだけ姿が見える状態を維持する特訓をしてくれた」

「……」

「怖くて眠れない夜は、眠れるまで……ううん。眠った後も、ずっと私のそばで私のことを見守っててくれた」

 

 ホロエルはソウルハート・サーヴァントだから、睡眠の必要がない。

 でもだからって、あんな状態の私のそばで、何日も、何週間も、何か月も、何年も……24時間ずっと笑顔を絶やさず支え続けることが、並大抵の気持ちでできることじゃないことくらいはわかっている。

 だけど私がそのことでお礼を言ったとしても、きっとホロエルはそれくらいどうってことないって答えるんだ。

 一番大変だったのはマスターだから、って。マスターが一所懸命頑張ったから、今があるんだよ……って。

 自分がどれだけ苦労したかとか、どれだけ大変だったかとか、そんなものはホロエルにとっては、どうでもいい些細なことで。

 私がただ、毎日を穏やかに過ごせるようになったことが……それだけが彼女にとってなによりも重要で、大切なことなんだ。

 

「そんなホロエルの優しさに支えられて……私は少しずつ、過去を克服することができた」

 

 私が今、なんともなく他の人と接することができるのだって、ホロエルのおかげだ。

 壊れかけていた私の心を、ホロエルが長い時間をかけて癒してくれたから。

 

「そしてそれは、デュエルも同じ。生きていくお金を稼ぐためのデュエル。そして、私を連れ戻しに来た教団の追手とのデュエル……そのどれもこれもが、表世界で繰り広げられるような安全が保障されたそれとはまるで重みが違った」

 

 デュエルガントレットに手を添えて、何十何百、あるいは何千と繰り返してきたデュエルを想起する。

 

「幼くて弱かった私が、そんな命懸けの戦場の数々を生き残ってこられたのも、ホロエルがいてくれたからなの。どんなデュエルも、彼女がいつだって私を勝利へと導いてくれたから」

 

 私はそこで顔を上げると、いつもの騒がしい様子とは一転し、どこか物悲しげに私を見つめているホムラの顔を見返した。

 

「ねえ、ホムラ。デュエルは命の奪い合いで、楽しさなんていらないと、いつかあなたにそう言ったことを覚えてる?」

「……うん」

「私がその言葉に込めた本当の意味が、今ならあなたにも伝わると思う。私の人生は、ただの一度も敗北が許されなかった。負けることは死ぬことと同義で、負ければそこで終わり。次なんてものはない」

「……」

「私にとってデュエルは、生きていくための手段以外の何物でもなかったの」

 

 デュエルを愛し、心血を注ぎ込む彼女には、もしかしたら受け入れがたい話かもしれない。

 だけどここまで来て、自分の本心を誤魔化して語ることはできなかった。

 ホムラはデュエルを経ても私を拒絶することなく、私のデュエリストとしての在り方を受け入れて、手を差し伸べてくれた。私の初めての友達になってくれた。

 けれどそれでも……心の底から楽しんでデュエルをするホムラと、ただ手段として勝利のみを追い求める私とでは……やっぱり根本からなにもかもが違うんだ。

 

「メイちゃん……」

 

 切なげに眉尻を下げ、完全に沈黙してしまったホムラから視線を外すと、一呼吸を置いてから、私は再び皆の顔を見渡した。

 

「そうして私はホロエルに支えられながら逃避行を続けて、八年以上の時を二人で一緒に生き延びてきた。最初の一年は、特に追手が来る頻度が高かったように思う。だけど年々数は減っていって、次第に私は穏やかに過ごせるようになっていった。この街に来たのは、そんな風に生活が落ちついた後……ちょうど一年くらい前だったと記憶してる」

「……あんなに強いのに今まで街でメイ様の噂を聞いたことがなかったのが気になってましたけど、そういうことだったんですね」

 

 暗い雰囲気を少しでも和らげようとしてくれているのか、普段と変わらない明るい調子でセンカが声を上げる。

 

「でもそれじゃあ、どうしてメイ様はこの学園に? 学園に所属なんてしてたら、教団の人たちに見つかりやすくなっちゃうと思いますけど……」

「それは……最終的には私の決断。でも始まりは、ホロエルが私に学校に通うことを勧めてくれたから」

「ホロエルちゃんが?」

 

 ある時、街中の大型ビジョンに映った国立クロワッサン学園の広告を指差して、学校に行くことを私に提案したホロエルの様子を思い出す。

 その時のホロエルは珍しく緊張した面持ちで、不安げな上目遣いでこちらの様子を窺っていたのを覚えている。

 あの時のホロエルが感じていた気持ちは、私なりに理解しているつもりだ。

 

「家族に見捨てられて、教団からも追われる私の世界に、希望溢れる未来なんてものはない。いつかどこかで無様に敗北して連れ戻されるのが関の山だって、子どもの頃から心のどこかでそう感じてた」

 

 結果的に負けることはなかった。だけど、あくまで結果的にだ。

 私の人生は、常に死の恐怖と隣り合わせにあった。

 いや……今もそれは変わらないか。

 

「足元も見えない暗闇の中、いつ途切れるともわからない道を歩き続ける日々……そんな生活を続けてると、思うんだ。未来なんて……明日なんてどうでもいい。今日さえ良ければいい。今この瞬間ホロエルと一緒にいられるなら、それだけでいいんだって」

「メイ様……」

 

 明日が今日より悪くなるというのなら、明日なんか来なくていい。

 変化を拒み、成長を拒み、永遠の今日を望んだ。

 そうやって叶えたい唯一の願い以外のすべての望みを捨てて、勝利のみを追い求めることで、私は今日まで生き永らえてきた。

 

「……でも。そんな風に未来を諦めてしまっていた私と違って……ホロエルは、ずっと私の将来を心配してくれていたから」

 

 なにもかもホロエルに依存しようとする私に、敢えていくつかの選択肢を提示して、ホロエルが選ぶんじゃなくて私に選ばせたり。

 食事なんかの必要なこと以外で外に出ることに意味を見出せなくて、廃墟の暗い部屋の中に引きこもっていた私に、お散歩しようと提案したり。

 お金に余裕ができてきた時に、小学校の教科書とノートを本屋で買うことを勧めて、私の勉強を見てくれたり。

 

 ほんの少しずつでも、自立を、変化を、成長を……。

 いつの日か私の進む道の先に、かすかでも光が灯るようにと、立ち止まろうとする私の手を引いて歩き続けてくれた。

 そしてその集大成が、私をもう一度学校に通わせることだったんだ。

 

『私は……ホロエルが望むみたいな、普通の女の子にはなれない』

 

 まだ学園に通い始めたばかりの頃、屋上でホロエルに対して私が言った言葉を思い出す。

 

 ……正直なところ、今の私が普通の女の子のように過ごせているかどうかは、よくわかっていない。

 化粧とか。ファッションとか。恋愛とか。

 そういった世間一般的に女の子が興味を持つようなことも疎くて、いまいちピンと来ないし。

 だけど……。

 

 胸の前に手を置いて、今日のショッピングセンターへのお出かけのことを思い出す。

 ホロエルを狙った襲撃犯の邪魔が入ったせいで、途中までしか過ごせなかったけど……。

 友達と一緒にどこかへ出かけたり、服を買ったり、次はどこに行こうとあれこれと会話に花を咲かせたり。

 そんな普通の同年代の子たちと変わらない、青春と呼ぶような毎日を謳歌する……あの時は想像もできなかった私がここにいて。

 自覚はなかったけれど……たぶん私はあの時間を、心から楽しんでた。

 

 それは紛れもなくホロエルの……ホロエルが出会わせてくれた、皆のおかげなんだ。

 

「……ホロエルちゃんは、無空さんのことが本当に大好きで、大切なのね」

 

 エミリアが顔を綻ばせてそう呟くと、ホロエルは照れくさそうに頬をかいた。

 

 そんなホロエルのなにもかもが愛おしくて、床についた彼女の手に私は自分の手を近づける。

 するとそれに気づいたホロエルが微笑みながら手を重ねてくれて、彼女の半透明な手から伝わってくる心の温もりに、私は自分の心が包まれて癒されるのを感じた。

 たとえ今のホロエルに実体がなくとも、それは彼女の心を感じられないこととは決してイコールしない。

 ホロエルの心の温もりに浸るように瞼を閉じて、私は暫し沈黙する。

 それから気を取り直すように顔を上げると、再び皆の顔を見渡した。

 

「そうしてホロエルの勧めで学園に入学した私は、あなたと……ホムラと出会った。それからのことは、皆ももう知ってるでしょ?」

 

 家族のこと。教団のこと。天使のこと。脱走してからの生活のこと。

 これで……私のすべてを話し終わった。

 

「これが、私とホロエルの正体。無空メイという人間の過去。私が皆に話したかったことの全部だよ」

「……」

 

 すべてを語り終えた私は、緊張を解くように大きく息をついた。

 静まり返った室内に、私の独白の後を継ぐものはなにもなかった。

 

 皆は……私のことを、どう思っただろう。

 私の過去を知っても、私を受け入れてくれるんだろうか……?

 

 皆なら大丈夫だって、信じたい。

 でも……私は今までずっと、自分の殻の中に閉じこもり続けてきたから。

 成長すらも拒んで、ホロエル以外の全部に背を向けてきた臆病な私の心では……どうしてもまだ、心の底から皆を信じ切ることができなかった。

 この思いが、私と友達になってくれた彼女たちの心を侮辱するものだってことはわかっている。

 それでも……私は……。

 

 不安に押しつぶされそうになりながら、私は皆の反応をじっと窺っていた。

 

「メイちゃん……」

 

 誰もが口を閉ざして、私にどんな言葉を投げかけるべきなのかを迷っている。

 そんな重たい沈黙がしばらく続いた後、口火を切ったのはホムラだった。

 彼女はどこか思いつめた様子で私を呼ぶと、その場に立ち上がって、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 

「ホムラ……」

 

 いつもの明るさはなりを潜めて、その表情からはうまく感情が読み取れない。

 続く言葉を恐れ、私は無意識のうちに拳を固く握りしめてしまっていた。

 

 ホムラはそんな緊張しきった私の目の前までやって来ると、プルプルと全身を震わせて……。

 

「――うぅ~! メイちゃん~っ!」

 

 次の瞬間――ガバァッ! と。

 堪えられないと言わんばかりに、勢いよく私のことを抱きしめてきた。

 

「ホ、ホムラ……?」

 

 突然の抱擁に目を白黒とさせる私をよそに、ホムラは抱きしめる力をギューッと強めてくる。

 そして今まで堪えてきた感情が堰を切ったように溢れ出して止まらなくなった様子で、感情の赴くままに想いを吐き出し始めた。

 

「私……わたじっ……! 一緒にいたのに……メイちゃんが苦しんでたこと、なにも気づけなくでぇ……!」

「えぇっと……と、とりあえず落ちついて? ホムラ……」

 

 なにかを必死に訴えかけてきていることはわかるが……嗚咽交じりの涙声なことも相まって、イマイチうまく聞き取ることができない。

 

 ……確か昔、私が辛くて泣いてた時は、ホロエルは少ない実体化時間を使って、ポンポンって優しく私の背中をさすって落ちつかせてくれたっけ。

 その時の感覚を思い出しながら、私はおずおずとホムラの背に手を回すと、泣きじゃくる彼女をあやすように背中を叩いた。

 

「よ、よしよし~……?」

「メイちゃん~……ぐすん」

 

 そんな私の行為の効果があったかはわからない。

 ただ、しばらくするとホムラも落ちつきを取り戻してくれたみたいで、私から体を離すと、涙で濡れた目元を手で拭った。

 

「……ごめんね、メイちゃん。急に泣き出しちゃって……」

「……ううん。大丈夫」

 

 目元が赤く腫れて、声もまだ少し鼻声な彼女を安心させるように、私は少し大袈裟なくらいにふるふると首を横に振ってみせる。

 そんな私を見てホムラは嬉しそうに破顔すると、居住まいを正して、私を真正面から見据えた。

 

「ねえ、メイちゃん。ごめんね……一緒にいたのに。友達だって言ってくれたのに……私、気づけなかった。メイちゃんがそんな辛い目にあってきたことも、今日までずっと死に物狂いで頑張ってきたことも……」

「……私が話そうとしなかったんだから、気づけなくて当たり前だと思う」

「ううん……違う。違うんだよ」

 

 ホムラは力なく首を左右に振ると、顔を俯かせ、懺悔するように言葉を絞り出す。

 

「私の知り合いにもさ……一人、いたんだ。デュエルをしなくちゃ……戦い続けなきゃ生きられない子が」

「それは……もしかしてホムラやエミリアが偶に話してる、アンコって人のこと?」

「……うん」

 

 首肯したホムラは、大切ななにかを思い出すように、彼女のベッドの枕元に置かれた2つのぬいぐるみに目を向ける。

 1つは赤いドラゴンのぬいぐるみ。そしてもう1つは、黒いドラゴンのぬいぐるみだ。

 赤い方は、きっとホムラの趣味だろう。彼女が得意とする火属性がそうであるように、ホムラは赤系統の色が好きみたいだから。

 ただそうなると、黒い方は……。

 

「メイちゃんとは少し事情が違うけど……アンコもさ、望む望まないにかかわらず、人生とデュエルが固く結びついちゃった子だった。ううん……だっただなんて、過去形で終わらせていいことじゃないか。アンコは自分に課せられた運命と向き合って、今も遠いどこかで戦い続けてる」

「運命……」

「アンコとメイちゃんはすごく似てる。一見するとクールなところとか、ちょっと世間知らずなところとか。でも二人には、一つだけ明確に違うところもあるの」

「違うこと?」

「うん。それはね、メイちゃんにとってのホロエルちゃんみたいな存在が……彼女にとっては、きっと私だったんだってこと」

「ホムラが……そのアンコって人の?」

「自惚れだって、そう思う? でもね、私は今も覚えてるんだ。あの子と過ごした宝物のような一年間のこと。あの日、あの路地裏で出会って、私たちの物語は始まった。初めは笑顔の浮かべ方すらわからないって、一人ぼっちで悩んでたあの子が……最後には私の隣で、一緒になって笑ってくれたんだ」

「……あなたにとってアンコという人は、かけがえのない親友なのね」

「うん」

 

 ホムラは迷いなく頷くと、どことなく愛おしそうに黒いドラゴンのぬいぐるみを見つめた。

 

「私と別れて遠くに旅立つ時……アンコはずっと大切にしてたあのぬいぐるみを私に預けてくれた。お前が私の帰る場所だから、お前に持っていてほしいって。そしていつか私が帰ってきた時に、おかえりって私のことを迎えてほしいって」

「おかえり……か」

「あの日……私はアンコに、アンコが誇れる私になるって約束したんだ。次に出会う時は全力でデュエルをして、いっぱい思い出話をしよう、って。でも……」

 

 ホムラはそこで一度言葉を区切ると、自嘲気味に笑った。

 

「私は、全然ダメだった……アンコもエミリアもそばからいなくなって……ううん、それは言い訳か。自分の弱さのせいで、一年も燻り続けて……情けないったらありゃしない」

「……」

「メイちゃんと初めて会った時、しつこく絡んじゃったのだってそう。メイちゃんがどう思うかなんて少しも考えてなくて、きっとただ、私が寂しかっただけ……あはは、メイちゃんの両親とおんなじだね。私もその二人と同じで……結局のところ、自分のことしか考えてなかった」

「ホムラは……あの二人とは違う」

「……ありがとね、メイちゃん。でも、アンコのことがあったのに、メイちゃんが辛い思いをしてきたことに気づけなかったのは事実だから……今のままの私じゃ、胸を張ってアンコに顔向けできない」

 

 ホムラは自分の手を見下ろしながら、ゆらゆらと揺れる瞳で静かに呟く。

 それから決意を新たにするように力強く拳を握りしめると、顔を上げて、再び私に向き直った。

 

「ねえ、メイちゃん。メイちゃんにとってホロエルちゃんとの過去を打ち明けることは、すごく勇気がいることだよね。自分の心の奥底を曝け出すのは、誰だって怖いもん」

「ホムラでも、そういうのを怖いって思うの?」

「あはは、そりゃそうだよ。なんなら今だって怖かったよ。自分のことしか考えてなかったって打ち明けた時に……メイちゃんは違うって言ってくれたけど。もしもメイちゃんに軽蔑されたらって思うと、怖くて怖くてしかたがなかった」

 

 安心したように胸を撫で下ろすホムラを見て、私はそれが彼女の本心であることを察する。

 

 ……そっか。

 私が勇気を出して、自分のことを話したから……ホムラもホムラなりにそれに応えて、自分の心の内を曝け出してくれてたんだ。

 

「だから……ありがとう、メイちゃん。私にメイちゃんのことを教えてくれて。友達になってしばらく経つけど……今やっと、メイちゃんと心と心で繋がることができた気がする」

「……私はまだ、あなたの友達でいてもいいの?」

「そんなの当たり前だよ」

「これ以上私と一緒にいたら、あなたも教団に狙われることになるかもしれない。邪魔者として、人質として……」

「上等だね。前に言ったでしょ? もう私はメイちゃん以外の誰にも負けないって。だから、私なら大丈夫」

「私を庇うことで、顔も知らない誰かから恨みを買うかもしれない。あなたの人生が不幸になるかもしれない」

「たとえこの先なにがあったとしても、メイちゃんの初めての友達になれたことを、私は不幸だとは思わない」

「……戦い続ける日々の中で……あなたも私と同じように、いつかデュエルを楽しめなくなってしまうかもしれない」

「じゃあその時は、私とメイちゃんの二人でデュエルしようよ。メイちゃんとのデュエルなら、楽しめないなんてこと、絶対にありえないから」

 

 私が何度不安を煽るような言葉を返しても、ホムラは一歩も引くことはなかった。

 それどころか……むしろドンと来いとばかりに私に対する想いを強くしていって、最後には私の心配まで笑い飛ばすように、自信たっぷりに胸を張ってみせた。

 

「友達が辛いなら、支えたい。力になりたい。メイちゃんが抱え込んでたものを半分こにして、私も一緒に背負いたい。そしていつの日か……メイちゃんにも私と同じように、デュエルを楽しいって思えるようになってほしい。それがメイちゃんの話を聞いて私が感じた、私の心の全部だよ」

「ホムラ……」

 

 ホムラはニッと歯を見せて笑うと、私の手を取って、両手で包み込むように握った。

 

「……あ。でもホロエルちゃんがいるから……えーっと、この場合は三等分になっちゃうのかな?」

「あら。それを言うなら五等分ね」

 

 ホムラが疑問符を浮かべるように呟くと、それまで静かに私たちのやり取りを見守っていたエミリアが、心外とばかりに口を挟んだ。

 そうして手を伸ばすと、私の手を握るホムラの手の上に彼女自身の手も重ねて、こちらを安心させるような柔らかな笑みを向けてくれる。

 

「エミリア……いいの? 私と一緒にいたら、あなたも教団に……」

「そうね……私も中学二年生の頃、悪い組織絡みの大きな事件に巻き込まれたことがあるから。人知れず悪事を働く組織の恐ろしさは、身を以て理解してるつもりよ」

「だったら……」

「だからこそ、そんなものとあなたを一人で戦わせるわけにはいかない。友達が傷つくとわかっていて、見て見ぬふりはできないわ。私の子どもじみた夢に真剣に耳を傾けて、笑わずに友達になってくれたあなたを……これでも私、大切に思ってるのよ?」

「エミリア……」

「センカちゃんも、同じ気持ちでしょう?」

 

 エミリアが目配せすると、センカは「当然だよ!」と勢いよく首を縦に振って、私たち三人の手の上にさらに自分の手を重ねた。

 

「メイ様は知らないかもしれませんけど……メイ様と出会えたから、わたしは自分の殻を破ることができたんです。もしもあの時、メイ様と巡り会えなかったら……わたしの中にあるあの衝動は、知らず知らずのうちに死んじゃってたかもしれない」

「……なら、センカ。あなたは私に恩を感じてるから、私と一緒にいてくれるの?」

「違います。わたしがメイ様のそばにいたいと思う、一番の理由は……わたしの手で、メイ様を殺したいからです!」

 

 殺したいから……?

 

「……つまり、デュエルで私に勝ちたいからってこと?」

「ですです! いつの日か、メイ様と全力で殺し合って……アハハッ! メイ様の初めての敗北を、わたしが奪いたい! わたしの手で、その綺麗なお顔をグチャグチャに歪ませてあげたいんですっ!」

 

 狂気的な光を瞳に宿し、デュエル中のホムラに似た純粋で獰猛な笑みを浮かべながら、熱に浮かされたようにそんなことを口走る。

 普段は明るく元気に走り回る子犬のような印象だけど……やはりホムラの妹なのか。

 今日の昼間、センカのデュエルの一部始終を見た時から薄々感じてはいたものの、センカもセンカで、デュエルが関わると性格が豹変するタイプのようだった。

 

「……はぁ。センカ。あなた、なかなか変わった趣味をしてるのね」

「メイ様は……心の奥底ではそんな風に思ってるわたしのこと、気持ち悪いって思いますか?」

「思わない。あなただって今、ホムラと同じように……否定されて傷つくかもしれないことを承知の上で、勇気を出して自分のことを話してくれたんだって、わかってるから」

「……えへへ~」

「でも……殺すだなんて、ずいぶん物騒な物言いをするのね」

「いや、センカもメイちゃんにだけは言われたくないと思うけど……」

 

 私が肩を竦めると、ホムラが呆れたように口を挟んでくる。

 ……まあ、確かに……デュエルの比喩表現で殺す殺されるを使うのは私も同じだから、人のことを言えた義理ではなかったか……。

 

「えへへ〜、ごめんなさい。他に良い言い方が思いつかなくて……それに、ヌルだかぬるぬるだか知らないけど、そんなつまんない人たちにメイ様を取られるなんて我慢できないもん。わたし、独占欲は強い方だから」

「あはは。独占欲は強い方かぁ。将来センカと付き合う人は大変だねぇ」

「もうっ、茶化さないでよお姉ちゃん。わたし、これでも今真面目に話してたんだよ? お姉ちゃんだって仲の良い友達が知らない間に他の人と仲良くなってたら、すーぐジェラシー感じてイジけちゃうくせに」

「うぐ……わ、私は関係ないでしょっ?」

 

 矛先が自分に向くとは思っていなかったのか、ホムラは声を裏返らせて、慌ててセンカに抗議する。

 しかし常日頃から姉を舐め切っているセンカがそんな程度で怯むはずもなく、追い打ちをかけるように喋り続けた。

 

「前々から思ってたけど、お姉ちゃんってちょくちょく湿度が高いんだよね。好きな人ができて付き合い出したら10分ごととかで頻繁に連絡しちゃうタイプだと思う。それでその人が別の子と話してるところを見ただけですぐヤキモチ焼いて拗ねちゃってさ。その時は優しく慰めてもらうんだけど、後で一人になった時に『やっぱりもっと女の子らしい趣味の子がいいのかも……』って段々不安になって落ち込んじゃうの」

「勝手にストーリー作らないで!? それに私、そんなことしないから!」

「いーや、妹のわたしの目は誤魔化せないよ! 今はデュエル一筋だからいいけどさ、もし良い人ができたらお姉ちゃん気をつけなよ~? お姉ちゃん絶対わたしが言ったみたいになるから! エミリアさんだってそう思ってるはずだよ!」

「そうなの!? エミリア!」

「……えっ、私?」

 

 言い争いの最中で突然話題を振られたことで、エミリアは素っ頓狂な声を上げて目をぱちくりとさせる。

 それから逡巡するように腕を組むと、仲良し姉妹のうち、話題の中心であるホムラの方を見やった。

 

「正直、巻き込まないでほしいんだけど……うーん。まあでも確かに……ホムラはそういった雰囲気は若干あるわね……」

「だよねだよね! やっぱりエミリアさんはわかってる!」

「エミリアまで!? ぐぬぬぬぬ……メイちゃん! ホロエルちゃん! 二人からなにか言ってあげてよ! 私、そんな重い女の子じゃないよねっ? ホロエルちゃんはジェスチャーでいいから!」

「……ふふ」

「メ、メイちゃん!? どうして笑ってるのさ! ホロエルちゃんも! うぅ~……お願いだから、二人だけは私の味方になってよ~っ!」

 

 私の過去を打ち明けても、皆との関係はなにも変わらなかった。

 それどころか、前よりもさらに距離が縮まったような気さえする。

 涙目で縋りついてくるホムラを適当にあしらいながら……私は改めて、皆の姿を見渡した。

 

 いつものごとく騒がしく、ありのままを見せてくれるホムラ。

 なんてことないように話しながらも、どこか気遣うように私を見てくれているエミリア。

 悪戯っ子のように姉をからかいつつも、声音には姉への確かな親愛が滲んでいるセンカ。

 

 彼女たちと過ごす日々は、本当に楽しくて……。

 ただこうして一緒にいるだけで、自然と口元が緩んで、意図せずして笑みが零れてしまう。

 

 きっとこれが……これこそが……。

 私に学校に通うことを勧めたホロエルが、私に教えたかった……一番大切な温もりなんだ。

 

「……私、皆と友達になれてよかった」

 

 溢れ出る気持ちのままに思わずポツリと呟くと、私に縋りついてきていたホムラが、一瞬だけきょとんとした顔をした。

 それからすぐに満面の笑みを浮かべると、姿勢を正して、私に向かって手を差し伸べてくる。

 

「私も、メイちゃんと友達になれてよかった!」

 

 ……いつかホムラと友達になった時も、彼女はこうして私に手を差し出してくれた。

 あの時、私は彼女の手を自分から取ることができなかった。そうして最後、私が臆病に差し伸べた手を、ホムラの方から取ってくれたんだ。

 でも今は……。

 

「これからも……よろしくね。ホムラ……皆」

 

 今度は私の方からホムラの手を取って、しっかりと握り返す。

 慣れない笑顔は……きっととても不格好だっただろうけれど。

 それでもそんな私を、皆は当たり前のように笑って迎え入れてくれたんだ。

 

 ――……よかったね。マスター。

 

 そんな皆と、皆の輪の中でワイワイとする私を見て……ホロエルは、まるで自分のことのように嬉しそうに微笑みながら。

 ……ほんの少しだけ寂しげな眼差しで、私たちのことを見守っていたのだった。

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