可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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42.やり甲斐はあるし癒されるし、毎日がエブリデイで良い職場だぞ~

「さて……それじゃあ一旦、状況を整理しましょうか」

 

 マスターが自分の過去を告白し、それをきっかけにして、皆がそれぞれの胸の内を曝け出して絆を深め合ってからしばらく。

 事が一段落し、良い感じに空気が緩んできたところで、皆の注目を集めるようにエミリアが切り出した。

 

「ホロエルちゃんを狙った襲撃。それを指示したイサネ先輩。そんなイサネ先輩が仕える光華家の令嬢であり、この学園の生徒会長でもあるノゾミ先輩。そして……無空さんとホロエルちゃんをつけ狙う虚無の教団ヌルの存在。今、私たちを取り巻く状況は少しデリケートだから、明日のノゾミ先輩たちとの話し合いに備えて、一つずつ情報を整理しておく必要があるわ」

 

 ホムラ、センカ、マスター、そして私ことホロエル。

 全員が話を聞く姿勢に入ったことを確認すると、エミリアは牽引するように話し始める。

 

「順を追っていきましょう。まずは、今回の騒動の発端となった襲撃についてね。事が起こったのは今日の放課後、学園の近場にあるショッピングセンターよ。そこでの買い物の最中……無空さんの服を買い終えて次の目的地を話し合っている時に、無空さんは不意に、自分が悪意のある複数の何者かに尾行されていることに気がついた」

「……正確には、気づいたのは私じゃなくてホロエル。私が外を出歩く時、教団の人たちが私を襲撃してくることに備えて、ホロエルはいつも周りを警戒してくれてるから」

 

 大好きなお姉ちゃんの自慢でもするように、むふー、と自慢げに鼻息を漏らすマスター。

 もちろん表情はほとんど変わってはいないのだが、ここにいる皆はそんなマスターのわずかな変化を読み取れる程度には交流が盛んだ。

 誰もが温かい視線をマスターへと向けており、私の自慢に夢中で、そんな周りの変化に気づいていないマスターがなんだか微笑ましい。

 

 自分のことを皆に受け入れてもらえたからか、なんだかマスター、心なしか生き生きしてる気がするなぁ。

 私以外の他人に心を閉ざし、笑顔をなくしてしまったマスターが、今やこんなに感情豊かに……感無量ですよ。うっうっ。

 

「ふふ、さすがはホロエルちゃんね。それで、ホロエルちゃんのおかげで尾行に気がついた無空さんは、彼らをおびき寄せるために単独行動を開始。敢えて人気のない場所……立体駐車場へ移動した。私とホムラとセンカちゃんは、さらにその後を追った形になるわね」

「メイちゃんを囲んでた人たちを私とエミリアで挟み撃ちして、一網打尽にしてあげたんだよね」

「ええ。そしてそんな彼らの目的は、無空さんの襲撃……より正確に言うなら、無空さんが持つホロエルちゃんの本体である、『虚構天使ホロエル』のカードを奪い去ることにあった」

 

 そこで一旦言葉を切ると、エミリアは疑問を提起するように人差し指を立てた。

 

「ここで一つ疑問があるのだけど……その襲撃の実行犯の人たちの正体は、果たして虚無の教団の人間だったのかしら? 襲撃犯の狙いが、教団にとって重要な存在であるホロエルちゃんだったとは言え……教団からしてみれば、天使に選ばれた巫女である無空さんの身柄も重要になるはずよ。わざわざホロエルちゃんだけを奪おうとするのは道理に合わない気がするのだけど……」

「あ。それなんだけどね。あの実行犯の人たちは教団の人間じゃないと思うよ」

 

 声を上げたのはセンカだ。

 センカは記憶をたどるように視線を宙に彷徨わせながら、自分が経験したことを語り始める。

 

「お姉ちゃんたちが戦ってる間、一人だけこっそり逃げ出した人をわたしだけ単独行動で追って行ったでしょ? それで指示を出してたイサネ先輩にたどりついたわけなんだけど、その時にイサネ先輩が言ってたんだ。『無駄な出費かとも思いましたが、どうやら彼らも少しは役に立ってくれたようです』って」

「それは……つまり、雇われということかしら?」

「その可能性が高いと思う。逃げた実行犯の人も、イサネ先輩のことを依頼主(クライアント)って呼んでたし。話してる様子も全然親しそうじゃなかったもん。少なくとも同じ組織に所属してるって感じには見えなかったなぁ」

「んー。じゃあ襲撃に関わった人の中だと、そのイサネって先輩の人だけが教団の関係者ってことになるのかな?」

 

 難しい顔をして一所懸命に話を聞いていたホムラがそんな推測を口に出すが、エミリアはそれをすぐに否定した。

 

「そうとも限らないわ。言ったでしょう? 教団の目的を鑑みれば、ホロエルちゃんだけを狙うのは道理に合わない、って。実行犯の人たちがホロエルちゃんだけを狙ったなら、その指示そのものが依頼主であるイサネ先輩からの要求だったということ」

「あ、そっか。じゃあイサネ先輩も、教団の関係者とは限らない……?」

「現時点では安易に言い切ることはできないわね。ただ……」

「ただ?」

 

 エミリアはチラリと私を一瞥すると、思案するように顎に手を添える。

 

「ホロエルちゃんを狙った目的が、もしも俗物的な理由……たとえばレアカード狩り(ハント)なんかだったとしたら、ホロエルちゃんだけじゃなくて、世に出回っていない無属性のカードが大量に入った無空さんのデッキそのものまで奪おうとするはずよ。だけど何度も言うように、イサネ先輩はあくまでホロエルちゃんだけに狙いを絞っていた」

「……イサネ先輩は、ホロエルちゃんの正体が教団で祀られてた天使だって知ってたってこと?」

「それに関しては、ほぼ確定と言ってもいいでしょうね。とは言え、やっぱりそれだけでは教団の構成員だとまでは断言できないわ。私たちが教団の一員でもないのに虚無の教団とその天使について知ったように、イサネ先輩もまた第三者の立場である可能性は否定できない」

「うーん、なるほどねぇ……」

「それに、無空さんやホロエルちゃんの事情を、イサネ先輩がどこまで把握してるかもわからないわ。ホロエルちゃんが無空さんと一緒に教団を抜け出したことや、それからどういう生活をしてきたかということ……これらを知っているかどうかで、第三者がホロエルちゃんに抱く印象は大きく変わる」

「そうかなぁ。私、今日までホロエルちゃんたちの事情は知らなかったけど……知る前からホロエルちゃんがメイちゃんのこと大好きで、お母さんみたいにぽわぽわしてる優しい子だって気づいてたよ」

 

 え……私、お母さんみたいにぽわぽわしてるの?

 もっとこう……常に颯爽とマスターを守る、最高にクールで最強に可愛い美少女天使! って感じの印象がよかったんだけど……。

 

 地味にショックを受ける私を置いて、エミリアは肩をすくめてホムラに答える。

 

「第三者が、って言ったでしょう? ホロエルちゃんが母性に溢れた素敵な女の子だってことは、ここにいる皆はもちろんわかってるわよ。でも、虚構天使という肩書きは……虚無の教団の危険性を知る者にとっては、きっとなによりも大きく映る。そのフィルターが本質を見る目を曇らせてしまうこともあるはずよ」

 

 母性に溢れた……?

 思わず周りを見回してみるが、誰一人としてエミリアの発言に疑問に思った様子はなく、むしろそれが共通認識であるかのように微動だにせず話に聞き入っている。

 え……? おかしい。私、いつの間に皆の間でそんなイメージに……?

 いや確かにマスターがたびたび甘えてきてくれるから、期待に応えてついつい甘やかしちゃうみたいなところは確かにあるけど……。

 甘えてきてくれる妹が可愛くてしかたがないのは、お姉ちゃんなら至極当たり前のことなのでは……?

 

「そしてそんなイサネ先輩への数々の疑問点は、彼女が仕える光華家の人間であるノゾミ先輩にもそのまま適用される。今回の件にノゾミ先輩がどう関わっているかはわからないけど……完全な無関係というわけでもないでしょう」

「……なら、もしも……」

 

 ポツリと呟くようにマスターが口を開く。

 

「もしもその二人が教団の関係者じゃなくて、ただホロエルのことを誤解しているだけなら……二人を説得さえできれば、私はまだ、この学園にいられるのかな……?」

「メイ様……」

 

 この学園でもっと皆と一緒にいたい。

 そんな思いが籠められたかのようなマスターの切実な一言に、皆が一様に神妙な面持ちになる。

 

 教団を脱走したあの日から、私とマスターはずっと廃墟を転々として、特定の場所には長く留まらずに生きてきた。

 だけどこの国立クロワッサン学園は、マスターにとって、すでにかけがえのない居場所になってきている。

 そんな居場所を教団の関係者に奪われるなんてことになれば、それはきっとマスターにとってなによりも耐え難い苦痛だろう。

 そんな事態だけはなんとしてでも避けなければならない。

 やっとできたマスターが心穏やかに過ごせる居場所を、守り通すんだ。

 ……なにがなんでも、絶対。

 

「ええ。そのために、私たちは全力で無空さんとホロエルちゃんに力を貸すつもりよ」

 

 皆の意思を代表するように、エミリアが静かな口調で宣言する。

 

「出会いと別れは切り離せず、どんなに大切に思う相手とも、いずれは別れの時がやってくる。だけどその別れが悲しいだけのものであってはならないと、私はそう思ってるから」

 

 エミリアはそう言いながら、自分のデュエルガントレットに括り付けられた猫のキーホルダーを懐かしむようにつついた。

 

「無空さんは私やホムラと同じ高校一年生よ。卒業の日を迎えるには、まだ早すぎる。私はこの先も、無空さんやホロエルちゃん、皆と過ごす一瞬一秒を大切にして……最後に迎える別れの瞬間に、幸せだったと笑い合えるような思い出をたくさん作っていきたい」

「エミリア……」

「だから、私たちにも協力させてちょうだい。無空さんとホロエルちゃんの居場所を守るために」

 

 マスターはエミリアの言葉を受けて、自分の胸元をギュッと握りしめた。

 そこに宿る仄かな温もりを手のひらで確かめるように……マスターはどこか安心したような面持ちで微笑むと、こくりと小さく頷いた。

 ……うへへ。やっぱり皆がマスターの友達になってくれてよかったなぁ。

 

「まとめに入りましょう。今判明している情報を踏まえて、明日のノゾミ先輩との話し合いで確かめるべきことは主に三つよ。一つは、イサネ先輩とノゾミ先輩が虚無の教団の一員かどうかを見極めること」

「それが一番重要なところ……だよね? エミリアさん」

「ええ、センカちゃん。ノゾミ先輩たちが個人で虚無の教団を追っているにせよ、虚無の教団と敵対する組織に属する者であるにせよ……虚無の教団の一員ではないのなら、説得する余地が生まれる」

「それにもしイサネ先輩たちが教団の人間じゃないなら、まだメイ様の居場所は教団にはバレてないってことにもなるもんね」

「そうね。今後も学園生活を続けていくうえで、無空さんの居場所が教団に露見しているかどうかはとても重要だもの。いずれは露呈してしまうにしても、教団から逃げるのではなく立ち向かうのであれば、私たちは教団を迎え撃つ準備も進めていかなければいけない。たとえば、信頼できる治安組織の人間……アンコちゃんに助力を求めたりとかね。そのための時間を確保できるかどうかは重要な要素よ」

「アンコに……確かにそれなら百人力だね」

 

 この中でそのアンコという人物ともっとも親しかっただろうホムラが、エミリアとセンカの会話にうんうんと頷く。

 

「そして確かめなければならないことの二つ目は……当然だけれど、ノゾミ先輩たちがホロエルちゃんを狙った目的ね。これを知らないことには説得のしようがないわ」

「んー。教団の人間でもないのに、襲撃してまでホロエルちゃんを狙う理由かぁ……」

 

 ホムラが腕を組んで、うーんと考え込む。

 

「ホロエルちゃんの持つ虚構天使の力……そのものとか? ほら、ダークレガリアだってソウルハート狩りとかしてたじゃん。あんな感じでホロエルちゃんの力を別のなにかのために利用しようとしてたりとかしてるのかも?」

「……ダークレガリア? お姉ちゃん、なにそれ?」

「へ? ……あっ」

 

 センカが呟いた素朴な疑問に、ホムラが「やってしまった」という顔をして口を塞ぐ。

 

 ダークレガリア……。

 なんだろう……私も知らないんだけど、もしかして聞いちゃダメなことだったんだろうか。

 マスターと顔を見合わせて、マスターにも問いかけてみるものの……マスターもやっぱり知らないみたいで、ふるふると首を左右に振っている。

 まあ、私とマスターは常に一緒に行動してるから、私が知らないことはマスターも知らないか。

 

「……はぁ。まったく……ダークレガリアの件は口外禁止だって言われてるんだから、あんまり口を滑らせないようにしなさいよね。ホムラ」

「あ、あはは……」

 

 気まずそうに頬をかくホムラにエミリアは小さくため息をつくと、気を取り直すように続けた。

 

「ダークレガリア……かつてこの街に潜伏していた犯罪グループの名前よ。主にソウルハート・サーヴァントを狙った犯罪を起こしていたの」

「エミリア……話していいの?」

「私は皆のことを信頼しているわ。それに、無空さんが勇気を出して自分のことを話してくれたのに、いつまでも隠し事をしているわけにはいかないもの」

「……えへへ。だね! アンコや警察の人には怒られちゃうかもだけど……私も皆には隠し事はしたくないや」

 

 ホムラがふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべると、エミリアも表情を和らげて応える。

 

「かつて、って言うなら……今はもうそのダークレガリアって組織は存在してないの?」

「ええ」

 

 話してくれるなら、と。マスターが上げた疑問の声に、エミリアはこくりと頷いて肯定する。

 

「二年ほど前に壊滅したの。当時のダークレガリアの構成員のほとんどは国際警察に捕まったわ」

「ふふんっ。私とエミリアとアンコの三人で、いろいろ引っ掻き回してあげたんだ。私たちがダークレガリアについて知ってるのもその関係だよ」

「まあ、引っ掻き回されたのは警察の人たちも同じだったでしょうけどね……関わらないよう言いつけられてたのに、勝手に首を突っ込んで暴れ回っちゃったし」

「むぅ……だって、アンコが攫われたのに黙ってじっとしてられるわけないでしょ! そういうエミリアだって一緒になって暴れたくせに!」

「だって、友達が攫われたのに黙ってじっとなんてしてられるわけがないでしょう? ……なんてね。ふふ」

 

 性格は真逆なはずなのに同じ結論にたどりついたことがおかしいのか、エミリアがくすりと笑う。

 その微笑みがなんだかちょっぴり嬉しそうに見えたのは、気のせいではないだろう。

 

「話すと長くなっちゃうから、詳しい話はまたの機会にね。今は目の前の問題に集中しましょう」

 

 エミリアが仕切り直すようにそう言うと、センカが「はーい」と元気よく返事をした。私とマスターも頷いて同意を示す。

 

「ノゾミ先輩たちがホロエルちゃんを狙った理由は……これは完全に私の想像なのだけれど」

 

 そう前置きして、エミリアは自分の考えを語り始める。

 

「ノゾミ先輩たちはホロエルちゃんのことを、虚構天使としてしか見ていないんじゃないかしら」

「虚構天使としてしか?」

「『1対の天使がともに完全なる姿で現実世界に降臨した時、その相克により虚無への門が開かれて、真なる神の手で世界はあるべき姿に戻る』」

「あ。それって確か、メイちゃんが教団の人に教わったっていう……」

 

 マスターが自分の過去を語った際に話した教団の最終目的を、エミリアが暗唱する。

 

「虚無への門、真なる神……理解できない単語は多いけれど、ダークレガリアがそうだったように、それが世界中を巻き込んだ大問題に発展しかねない壮大な計画だということはわかるわ。そしてそのためには『虚構天使アリエル』と『虚構天使ホロエル』……2枚の虚構天使が必要不可欠なのだということも」

「でもホロエルちゃんは、教団の計画には反対なんだよね? だって教団の計画に従うってことは、メイちゃんを虚無の巫女にしちゃうってことだし……」

 

 チラリと視線を送ってくるホムラに、私はぶんぶんと大袈裟なくらい首を縦に振ってみせる。

 私、マスターが虚無の巫女さんになって、今までのこと全部忘れて教団にいいように使われちゃうなんて絶対に嫌です!

 私のそんな断固拒否の姿勢に、ホムラはクスッと笑みをこぼし、エミリアに向き直る。

 

「それなら、教団の計画は絶対に実現しようがないことだと思うけど……」

「ノゾミ先輩たちはそうは思っていないかもしれないということよ。まあ……あくまで憶測に憶測を重ねた私の個人的な見解でしかないから、これ以上はなんとも言えないけれどね。ともあれ、ノゾミ先輩たちの目的を知ることは必須よ」

 

 エミリアは話を区切るように一度小さく息をつくと、私とマスターを真っ直ぐに見据えた。

 

「最後の三つ目は、ノゾミ先輩たちが虚無の教団について……そして無空さんとホロエルちゃんの事情について、どこまで知っているかを把握すること。無空さん。今現在、あなたとホロエルちゃんのことが教団の中でどう広まっているかはわかるかしら?」

「……私は脱走した身だから、詳しい内情はわからない。ただ、教団の中でホロエルは言葉を……つまり、意思を持たない天使として扱われてる。だから追手の人たちも、私がそんなホロエルを盗んで一方的に利用してると思ってるみたい」

「それは……おかしいわね。ホロエルちゃんは無空さんのお父さんの前で、無空さんを守る意思を見せたんでしょう? それなら、ホロエルちゃんが教団に叛意(はんい)を抱いていることは伝わっていて当然だと思ってたけれど……」

「たぶん、あの司教が……シーラ司教が、その時の状況が広まらないようにお父さんに口止めしたんだと思う。虚構天使は教団が信仰する御神体でもあるから」

「……なるほどね。教団の信徒たちが、天使の御心に疑心を抱く事態を避けたかったのね」

「うん。シーラ司教……あの人は、他の信徒とは明らかに違う。アリエルとも直接的な意思の疎通を取ることが許されていたし……もしも脱走する時にあれに見つかってしまっていたら、ホロエルの助けがあったとしても、私はきっと逃げ切ることができなかった……」

 

 警戒をあらわにしながらそう語るマスターに、あのメイちゃんがそこまで言うなんて……と、皆が神妙に口を噤む。

 

 うーん、シーラ司教かぁ……なんかあの人、すっごく胡散臭かったんだよなぁ。

 昔、私がこの世界に転生したことに気づいたばかりの頃、シーラ司教がニコニコしながら私に話しかけてきたんだけど……当時はこの世界のことなんにも知らなかったし。

 私以外にも意思を持つカード……ソウルハート・サーヴァントが存在するとも知らなかったから、「自分からカードに話しかけるとか、もしかしてヤバい人か……?」と思って意思疎通を取ることを避けてたんだよね。

 そうしたらあちらも興味をなくしたのか、そのうち話しかけてこなくなって……祀られているところからボーッと信徒を眺めているだけの美少女ニート御神体天使が爆誕したというわけだった。

 

 ま、今はマスターのソウルハート・サーヴァントへと華麗なるジョブチェンジを果たしたわけなんですけどね。

 給料はマスターの笑顔とマスターを甘やかす権利です!

 うへへ。やり甲斐はあるし癒されるし、毎日がエブリデイで良い職場だぞ~。

 

「でもそういうことなら……ノゾミ先輩たちもなにかしらホロエルちゃんのことを誤解している可能性が高いわね」

 

 エミリアは気を取り直すようにそう言うと、希望を探るようにして続けた。

 

「ホロエルちゃんに人を想う心があること。その心が教団ではなく、無空さんとともにあること。そのことを無空さんとホロエルちゃんの今までの暮らしと交えて伝えることができれば……もしかすれば、ノゾミ先輩たちとも和解の道を拓くことができるかもしれない」

「おおーっ! それ本当? エミリア!」

「ノゾミ先輩たちが虚無の教団の一員だったり、ホロエルちゃんを狙った目的が悪意に満ちていた場合はどうしようもないわ。でも……そうでないのなら、可能性はある。もしもノゾミ先輩たちがホロエルちゃんの存在を悪と断定していて、私たちがその前提を覆す証明ができるのなら……ノゾミ先輩たちも考えを改めてくれるかもしれない。まあ、希望的観測であることは否定できないけどね」

「ううん。それでもじゅうぶんだよ! ありがとうエミリア!」

「きゃっ!?」

 

 感極まった様子のホムラがエミリアに飛びついて、むぎゅうっと彼女の華奢な身体を抱きしめる。

 唐突な抱擁に最初は引き剝がそうと抵抗していたエミリアだったが……やがて観念したように力を抜くと、ジトッとした半眼をホムラに向けた。

 

「ちょっとホムラ……無空さんやホロエルちゃんならわかるけど、なんで今の流れであなたが私に抱きついてくるのよ……」

「えへへ。やっぱりエミリアは頼りになるなぁって思ったら、つい?」

「……はぁ。あなた、前々から人に抱きつく癖はあったけど……あなたのそれ、なんだか二年前より悪化してない?」

「え。私、そんな癖あったの?」

「……そんなに私やアンコがいなくなったのが寂しかったのかしら。まあ、私なら別にいいけど……誰彼構わず抱きつくのはやめなさいよね。勘違いする人が出てきたら大変だもの。あなた、見てくれだけはいいんだから」

 

 エミリアはやれやれとため息をつくと、「ほら、もう離れて」とホムラの背中をポンポン叩く。

 

 やっぱりホムラとエミリアって、なんだかんだで気が合うというか、仲が良いなぁ。

 ホムラが元気いっぱいな犬だとしたら、エミリアは冷静沈着な猫と言った感じだろうか。

 猫に構ってほしくてじゃれつく犬と、そんな犬をしかたがなさそうにあしらう猫。そんな構図が二人はとてもよく似合う。

 

「じゃあエミリアさん。もしも、ノゾミ先輩たちを説得できなかったら?」

 

 懸念を示すように小さく手を挙げたセンカに、エミリアは「そうね……」と逡巡するように視線を彷徨わせる。

 

「その時は、まあ……デュエルで白黒をつけるしかないでしょうね。イサネ先輩だけでなく、ノゾミ先輩がショッピングセンターでの襲撃の件に関与していた決定的な証拠を掴んで、私たちがその被害者であることを主張すれば、警察を頼って捕まえることも不可能ではないでしょう。もちろんその証拠の確保のためにも、明日の話し合いではデュエルガントレットのボイスレコーダー機能をあらかじめ起動しておくつもりよ」

 

 おおう……意外というかなんというか……。

 エミリアってクラスの委員長もやってるみたいだし、常にルールを守る優等生みたいな印象があったけど、案外ワイルドな方法も選択肢に入れてるんだなぁ……。

 なんというか、抜かりがない。

 

「……アハッ! いいねエミリアさん、わたしそれ賛成! 和解もいいけどさ~……正直わたし、その先輩の人たちに、メイ様とホロエルちゃんを襲った落とし前をきちんとつけさせたいなって思ってたんだよね」

 

 無邪気で幼げな高い声とは裏腹に、センカの笑顔には猟奇的で好戦的な色が宿っている。

 そんな彼女にホムラは苦笑いをして、エミリアは呆れたように肩をすくめた。

 どうか信じてくださいね。この子、普段は天真爛漫で、人懐っこい優しい女の子なんです……。

 

「あくまで最悪の想定よ。そうならないに越したことはないわ。なにしろ相手は学園最強とも謳われる、あのノゾミ先輩……確実に勝てる保証もないもの。いずれにせよ、話し合いがどんな結果になったとしても、そのことで無空さんたちを見捨てるつもりはないわ。それは二人も同じでしょう? ホムラ。センカちゃん」

「「もちろんだよ!」」

 

 あ。ハモった。

 

「……えへへ」

「……む~」

 

 ホムラはちょっぴり嬉しそうに、センカはなんだか不満そうに沈黙する。

 そんな彼女たちを見て、私とマスター、そしてエミリアは顔を見合わせて、くすりと笑い合うのだった。

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