可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
「どうぞおかけになってください。紅茶を淹れましょう」
そう言ってノゾミは私たちに応接用の椅子を勧めると、自らティーポットを手にして、手慣れた動作で紅茶を淹れ始める。
ノゾミの背後に控えるように立っていた、もう一人――冥土イサネが、なにか物言いたげに紅茶を淹れるノゾミを見つめていたが……あらかじめなにか言いつけられていたのか、結局ノゾミに声をかけることはしなかった。
私とホムラ、エミリアにセンカの四人はノゾミに勧められた通りに席について、椅子に座った私のすぐ隣に、私以外に姿が見えないようにした普段の状態のホロエルが立つ。
ノゾミが紅茶を淹れ終えるまで、私たちの間に会話はなかった。
私たちはどこか緊張を覚えながらノゾミの一挙手一投足を見守り……一方でノゾミは私たちの警戒の視線に晒されながらも一切動じることなく、優雅な手付きで紅茶を淹れ終えて、それぞれの目の前にティーカップを並べていった。
「お砂糖もくださーい! わたし、甘い方が好きー」
「あら、配慮に欠けていましたね。申しわけありません。どうぞ、お好きなだけお使いください」
ノゾミが砂糖の入った容器をセンカの前に差し出すと、センカはそれを少しだけ不審げに見下ろした。
「毒とか入ってないよねぇ?」
「……そうですね。では、私もその容器から砂糖を一つ貰いましょう。それでも足りなければ、私の紅茶とあなたの紅茶を入れ替えてもよろしいですよ。これで信用していただけると良いのですが」
「信用はできないけど、紅茶と砂糖に毒が入ってないことは信じてもいいよ」
「ありがとうございます」
口調そのものはいつもと同じ程度には明るいが、センカの態度はさりげなく……いや、割とあからさまに刺々しい。
わたし、あなたたちのこと信用してませんよと、堂々と表明しているようなものだ。
やはりセンカはノゾミとイサネの二人に対して、内心あまり良い印象は抱いていないらしい。
……もちろん、どのような理由であれ、彼女たちがホロエルを狙ったという時点で、それは私も同じなのだけれど。
「イサネ先輩も、昨日ぶりだねぇ? あの時の怪しい格好より、制服の方が似合ってるよ。アハッ」
「……」
「もー。センカ~?」
「……むー。わかってるよ、お姉ちゃん。今日は喧嘩売りに来たわけじゃなくて、目的は和解だもんね。これ以上はちゃんと大人しくしてる~……」
とは言え、センカ自身が二人のことをどう思っているにせよ、そんな悪感情に任せて今回の話し合いを台無しにしてしまうようなつもりはないのだろう。
穏便に済むならそれでもいい。皆が納得した結論で自分も納得する。
そう言いたげに不満げながらも口を閉じると、センカはそれ以上、ノゾミやイサネに対して噛みつくような真似をすることはなかった。
代わりに感じているストレスを解消しようとするかのごとく大量の砂糖を紅茶に投入して、ティースプーンでぐるぐるとかき回し始める。
「さて。それでは……すでにご存知のこととは思いますが、自己紹介から始めさせていただきましょう」
紅茶の入ったティーカップをそれぞれの前に配り終えたノゾミが、自分のぶんの紅茶を持って私たちの正面に座ると、彼女は静かにそう切り出した。
「私はこの国立クロワッサン学園の生徒会長を務める、高等部三年生の光華ノゾミと申します。そしてこちらは学園の副会長であり、私のお付きの使用人でもある冥土イサネです」
「高等部一年、Bクラス所属の水星エミリアよ」
「えーっと……同じく高等部の一年生で、Aクラスの燃照ホムラ!」
「中等部二年の燃照センカだよ」
「……無空メイ」
それぞれが自己紹介を終えると、ノゾミは私たち一人一人の顔を見回した後、ゆっくりと頷いて続けた。
「まずは、先日イサネがあなたがたに危害を加えた件について、私からあなたがたに謝罪させてください。これは完全に私の監督不行き届きであり、生徒会長として、そして彼女が仕える主として、部下である彼女にそのようなことをさせてしまった責はすべて私にあります。誠に申しわけありませんでした」
ノゾミが深く頭を下げると、斜め後ろに立っていたイサネもそれにならい、同じように深々と頭を下げる。
主であるノゾミに頭を下げさせてしまったことに、イサネはわずかに口惜しそうな表情を浮かべていたが、それでも彼女はノゾミの言動に口を出すことはせず、黙って頭を下げ続けていた。
そんな二人の態度を見て、私たちは互いに顔を見合わせる。
……昨夜、私たちが今回の話し合いに向けて情報を整理したように、おそらくここまではまだ、ノゾミたちにとっても想定していた流れの範疇に過ぎないはずだ。
彼女たちは自分たちの非を認め、きちんとした謝意を示すことで、私たちが抱いている不信感を少しでも解消し、この対談を穏便に進めようとしている。
私たちが争いではなく、和解を望むように……どうやらノゾミたちもまた、できうる限り対話による解決を望んでいるらしい。
それがわかったこと自体は僥倖と言える。私たちにとっても、学園への影響力の強い生徒会と敵対することは好ましいことじゃない。
だけど……私がホロエルと一緒にいることを望むように、イサネもまた、なにか譲れないものがあるからこそ、襲撃なんていう強引な手段を選んでまでホロエルを狙ったはず……。
たとえ互いが穏便な決着を望んでいたとしても、互いの望みが相反するものであれば、おそらく衝突は避けられない。
互いが譲歩できる、そのギリギリの境界線を探るためにも、私たちはあくまで慎重に話し合いを進めていかなければならない。
「顔を上げてください。ノゾミ先輩。イサネ先輩」
そう二人に声をかけたのは、エミリアだ。
「今回の件は、幸いにも取り返しがつかないような実害があったわけではありません。やむにやまれぬ事情があったのであれば、私たちにも謝罪を受け入れる準備はできています」
「とても寛大な対応、深く感謝申し上げます」
「ですが、それは今のノゾミ先輩がたの謝罪をそのまま受け入れるという意味ではありません。なぜなら、私たちはまだ事の全貌を把握できていませんから。どうしてイサネ先輩がホロエルちゃんを狙ったのか、どうしてわざわざあんな強盗じみた手段を選んだのか……」
「……そうですね」
「なにも知らない相手にむやみに謝ることは、誠意のある謝罪とは言えないと私は思います。ですから謝罪を受け入れる前に、今回の事のあらましと経緯を説明してくださいませんか? 互いの心の内をさらけ出し、わかり合う対話のために。私たちにノゾミ先輩たちのことを知る機会をください」
エミリアは過去、生徒会の一員になる打診を受けたことがあるそうだ。
つまりは襲撃事件の以前からこの場にいる全員と顔見知りだったわけで、互いのわだかまりを解消しきれていない今、私たちと彼女たちの間を取り持つにはうってつけの人選と言えた。
「わかりました。元より、これはそのための釈明の場でもあります。その程度のことで先日のイサネの蛮行に目を瞑っていただけるのであれば、謹んでお受けいたしましょう」
エミリアの話の進め方は誠実かつ論理的だ。
彼女の言うことはもっともだと感じたのか、ノゾミは自身の胸の前に手を添えて、粛々と提案を受け入れた。
そして私たちの視線を集めながら、その形の良い唇にそっとティーカップを添えて紅茶を口に含むと、ノゾミは静かに語り始める。
「皆さんは、虚無の教団ヌルという組織の名を耳にしたことはありますか?」
っ、来た……いきなり、核心を突く発言が。
答えても良いかと確認するように私に視線を送ってくるエミリアに、私は小さく頷き返す。
「はい。無空さんから、すでにその名は聞き及んでいます」
「ということは……無空さんがかの教団にその身を追われていることも、皆さんはもうご存知なのですね?」
「その点に関して言えば、無空さんから直接話を伺った私たちの方が、おそらくノゾミ先輩がたよりも詳しいかと思います」
「なるほど。無空さんは皆さんのことを、とても信頼なさっているのですね」
ノゾミがチラリと私に視線を向けてくる。
その眼差しに悪意や敵意と言った負の感情の色はなく、ただ優しく気遣うような、穏やかな光が灯っていた。
……仮になんらかの不手際だったとしても、強盗のような手段を取ってまでホロエルを狙った相手が、どうしてそんな目で私を見てくるのだろう。
「単刀直入に申し上げますと、我が光華家はかねてより、その虚無の教団ヌルの行方を追っているのです」
そんなノゾミの一言に、私はふと、昨晩のエミリアとセンカのやり取りを思い出していた。
『今判明している情報を踏まえて、明日のノゾミ先輩との話し合いで確かめるべきことは主に三つよ。一つは、イサネ先輩とノゾミ先輩が虚無の教団の一員かどうかを見極めること』
『それが一番重要なところ……だよね? エミリアさん』
『ええ、センカちゃん。ノゾミ先輩たちが個人で虚無の教団を追っているにせよ、虚無の教団と敵対する組織に属する者であるにせよ……虚無の教団の一員ではないのなら、説得する余地が生まれる』
確かめるべきことの一つ……ノゾミとイサネの二人が、虚無の教団の一員かどうかを見極めること。
虚無の教団ヌルを追っている――この言葉が本当なのだとしたら、彼女たち二人は教団の一員ではないということになる。
「虚無の教団ヌル。その始まりがいつだったのか、はっきりとはわかっていません。ですが、かの教団が世界各国の主要な都市に根を張ってから、少なくとも十余年……決して短くはない時間が経過していることは確かです」
「え。世界各国……? ヌルってそんなに大きな組織だったの?」
思わずと言った具合にホムラが声を上げる。
「どのような手段を用いているのかは定かではありませんが、どうやら彼らは誰にも気づかれることなく、ほとんど一瞬で海を越える術を持っているようです。以前、光華家の調査により判明した教団員の所持品に発信機を潜ませて泳がせていた際、突如としてその反応が消失したことがあったのですが……その十分後に、地球の反対側で同じ発信機の反応が確認されたのです」
「十分後に地球の反対側って、物理的に不可能じゃ……?」
「おそらくはそれこそが、彼らが信奉する虚構なる天使が行使する異能の一つなのでしょう。そしてそのような偽りの奇跡の数々をもって、かの教団は今もなお、その勢力を拡大し続けている……確証はありませんが、ある小国が一つ、完全にヌルの手に堕ちたとの噂もあります」
「く、国が!?」
私が教団にいたのは、およそ九年前まで……七歳の誕生日を迎えるまでだ。
両親は教団の活動にずいぶんと熱心だったと記憶しているけれど、当時まだ子どもだった私は、教団の大人たちがしていることにはあまり関わらせてもらえなかった。
だから実のところ、教団の活動の実態について私はそれほど詳しいというわけではない。
ノゾミが語る教団の情報は、私にとっても初耳であるものも多く、教団に逆らうということが本来どれほど無謀なことなのかを実感させる。
「無空さんとホロエルちゃんは、そんな途方もない相手から九年間も逃げ延び続けていたのね……」
労わるようなエミリアの眼差しを感じながら、私は続くノゾミの言葉に耳を傾ける。
「教団が信奉する1対の天使のうちの一人……名を『虚構天使アリエル』。かの天使がいったいどれほどの力を有しているのか、どれだけの異能を行使することが可能なのか、その全容は私たちも把握できていません。光華家の資金と人脈を駆使した八年にも及ぶ調査を経ても、我々は未だ教団の本拠地を見つけられていないのが実情です」
「ふーん? さっき教団の構成員に発信機つけてたって言ってたけど、それでもわからなかったんだ?」
センカの質問に、ノゾミはこくりと頷く。
「情けない話ではありますが……発信機の反応が消えた場所、そして新たに出現した場所を何度捜索しようとも、なにも見つけることができなかったのです」
「……その教団の構成員の人を、直接捕らえて尋問しても?」
「さきほども言ったように、ヌルは未だその全容が明らかではない巨大な組織です。不注意な挑発行為は、逆にこちらが危険に晒される要因となるでしょう。探りを入れるにも慎重にならなければいけません」
「つまり、尋問はできてないってこと?」
「いいえ。片手の指で数えられる程度ではありますが、こちらの正体が看破されない範囲で、何度か詰問を行うことに成功しています。それによれば彼らは本拠地である宮殿に赴く際、三人以上である特殊な祈りを捧げるのだそうです」
「祈り……? それが本拠地だっていう宮殿の場所と、なんの関係があるの?」
「そうですね……これは、あくまで我々が数々の調査の末に至った推測なのですが」
ノゾミは紅茶のカップを口元に運び、そっとソーサーの上にカップを戻す。
「十分後に地球の反対側で発信機の反応が復活したと、さきほど私はそう言いましたね。それはつまり再度反応が確認されるまでの十分間は、発信機の反応はどこでもない場所に完全に消えていたことになります」
「……」
「このような発信機による追跡は今まで幾度も試みていますが、彼らが海を越えるほどの転移を実現する際には、必ずこのようにしばらくの間その反応が消失するのです。まるで彼らが一時的にこの世界を離れているかのように……」
ノゾミは目を鋭く細めると、私たちを順繰りに見据えながら続ける。
「このことから我々は、かの教団は現実世界とは似て非なる空間に本拠地を作り上げており、その異空間への移動手段こそが、その特殊な祈りなのだと見ています。また、海を越えるほどの転移は、一度その本拠地に移動し、そこからさらに別の座標に転移すると言った方法によって実現しているのだとも」
「……ちょっと荒唐無稽な気もするけど、確かにそれなら辻褄は合うね」
「さきほども言ったように、これらはあくまで数々の調査の末に至った推測でしかありません。しかし今、その仮説を裏づけることのできる証人が私たちの前にいます……どうでしょうか、無空さん。我々が導き出したこの結論は、あなたの知識や経験と一致していますか?」
ノゾミのその問いかけを皮切りに、この場にいる全員の視線が私に向けられる。
「……合ってる、と思う。教団を脱走する前、私は毎日のように宮殿に通ってたけど、そうやって宮殿に行く時はいつも私と両親の三人で天使に祈りを捧げてた。幼かった私には、その行為の意味がよくわかってなかったけど……あなたの言う通り、今思えばあれが宮殿のある空間に移動するための儀式だったんだと思う」
「その祈りの仕方は、今も覚えていますか?」
「覚えてる。でも、それをするとたぶん……アリエルに居場所を捕捉される」
「……なるほど。天使が祈りを聞き入れ、中に招き入れる。そういう仕組みなのですね」
ノゾミは納得したように頷くと、カップに残っていた紅茶を飲み干した。
そしてそんな彼女に、時機を見計らったようにエミリアが声をかける。
「ノゾミ先輩。あなたがたが教団ヌルの行方を追っていることはわかりました。何年も調査を行ってきたノゾミ先輩がたほど私たちは教団について詳しくはありませんが……かつて教団が無空さんにした仕打ちから、教団が行っている活動の数々が、無視しがたい悪辣なものであることは想像がつくつもりです」
「……」
「ですが、今回の事の本題はそこではありません。私たちが知りたいのは、そんなヌルの行方を追っているノゾミ先輩がたが、なぜ無空さんを襲撃したのかです」
「そうでしたね」
「無空さんがかつて教団の一員であったことは、確かに紛れもない事実です。しかし教団に所属していた当時の彼女は、まだ年端もいかない子どもであり、教団の所属の有無に関して彼女に選択権があったわけではありません。また、教団にその身を追われることになった原因も、彼女自身が天使アリエルの依り代となる巫女に選ばれ、その役目を拒絶したことに起因します」
「存じ上げています」
「……無空さんの意思は、教団の意とは反するところにあります。もしもそのことを承知の上で、無空さんへの襲撃を計画したのであれば……それはノゾミ先輩がたが唾棄する教団の悪辣な行いと、いったいなにが違うのでしょうか?」
問い詰めるエミリアの眼差しは鋭く、まるで相手を咎めるかのように厳しい。
しかし同時にその声音は目の前の彼女の真意を推し量ろうとするような慎重さも孕んでおり、ただ感情に任せて非難しているわけではないことも察せられる。
そんなエミリアの追及を正面から受け止めたノゾミは、向けられた感情を咀嚼するようにしばし瞼を閉じたのち、やがて静かにその瞼を開いて、エミリアの眼差しに答えた。
「……どうか信じていただきたいのですが……それに関しては本当に、私の不手際だったのです」
「不手際……ですか?」
「生徒会長の職務として先月行われたクラス代表対抗戦の記録に目を通した際、無属性のカードを駆使するその姿から、私たちはすぐに無空さんが虚無の教団の関係者であることに気がつきました。そして不躾ながらその経歴の調査をさせていただき……それを我々が持つ情報と照らし合わせることで、無空さんこそが、教団が血眼になって探しているという『1対の天使の片割れを盗んだ脱走者』であると確信するに至ったのです」
1対の天使の片割れを盗んだ脱走者。
ノゾミの発したその一言に、私とエミリアは顔を見合わせる。
そして同時に私の頭の中には、昨晩エミリアと交わした会話が蘇っていた。
『……私は脱走した身だから、詳しい内情はわからない。ただ、教団の中でホロエルは言葉を……つまり、意思を持たない天使として扱われてる。だから追手の人たちも、私がそんなホロエルを盗んで一方的に利用してると思ってるみたい』
『それは……おかしいわね。ホロエルちゃんは無空さんのお父さんの前で、無空さんを守る意思を見せたんでしょう? それなら、ホロエルちゃんが教団に
『たぶん、あの司教が……シーラ司教が、その時の状況が広まらないようにお父さんに口止めしたんだと思う。虚構天使は教団が信仰する御神体でもあるから』
……予想通り。
教団を追って、教団から情報を得ている彼女たちは、やはり少し思い違いをしている。
私がホロエルを盗んで、一方的に利用して、教団から逃げたわけじゃない。
生きたいと願う私のことを、ホロエルが自分の身も立場もかえりみず助けてくれて……そんなホロエルに手を引かれるようにして、私たちは一緒に教団を逃げ出したんだ。
「『虚構天使ホロエル』。無空さんがデュエルの中で使っていたあのカードこそが、アリエルと対を成すもう一人の天使……それを知った私は、あくまで無空さんに接触する機会を慎重に窺うつもりでした。アリエルが起こす偽りの奇跡の数々を知る者として、その対を成すホロエルはいったいどれほどの力を有しているのか、どこまでのことができるのか……果たしてなにを目的にして、脱走者である無空さんに
「……」
「もちろん、虚構なる天使の片割れを手にしているとは言え、無空さんが罪のない被害者であることは承知していました。だからこそ、無空さんへの過激な方法での接触は控えるようにとイサネにも言いつけていたのですが……」
「その言いつけを破り、イサネ先輩が独断で動いてしまった……ということですか?」
「……お恥ずかしながら、その通りです」
話題の中心であるイサネは、ノゾミの後ろで所在なさげに縮こまってしまっている。
ノゾミはそんな彼女を気遣うように見やった後、眉尻を下げて続けた。
「しかしどうか、イサネの気持ちもわかってあげてほしいのです。なにを都合の良いことをと思われるでしょうが……」
「……イサネ先輩にも、そのような行動に出てしまうだけの事情があったということでしょうか」
「はい。ですがこれは、イサネの核心にも関わる話です。なのでそれを話す前に……」
ノゾミは体の正面をイサネに向けると、毅然としていながらも、どこか慈しむような眼差しで彼女を見つめる。
「イサネ。今この時より、禁じていたこの場でのあなたの発言を許可します……私の口から、あなたの過去を話してもよろしいですか?」
「はい。お嬢様のご随意に」
「ありがとう、イサネ」
ノゾミはイサネに優しく微笑みかけると、再び私たちの方に向き直る。
そして私たち全員を見渡した後、厳かに口を開いた。
「実を申しますと……イサネもまた無空さんと同じ、教団による被害者なのです。イサネは過去、教団によってその身を捕らえられ……ある儀式によって、幼い頃の大切な記憶のすべてを失いました」
「記憶を……? どういうことでしょうか? 儀式とは、いったいどのような……」
困惑したエミリアの問いに、ノゾミはどうしてかチラリと私に目を向けてきた。
「そうですね……それに関しては、無空さんが一番ご存知だとは思います」
「……私が?」
教団で行われる、記憶を失うような儀式……。
それも、私が一番知ってる……?
……っ、まさか……!?
思わず目を見開いて、私はノゾミとイサネを見つめる。
すると一方のイサネは気まずそうに視線をそらし、もう一方のノゾミは神妙な面持ちで頷いて、重い口調で続けた。
「そうです――虚無の天使の巫女として選ばれた者に対して執り行われる、依り代の儀式。かつてイサネはその適性を見出され、その身と心を贄として、虚構なる天使アリエルに捧げさせられたのです」
アリエルがこんなに悪いんだからホロエルも悪いやつに違いないぜ!(σº∀º)σ