可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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4.なんと、このくじ引きの結果は操作されたものである

 ……悪意を感じる。とんでもない悪意を。

 

 国立クロワッサン学園は全寮制の学校だ。今までは廃墟を拠点に過ごしていたが、これからは寮で暮らすことになる。

 二人部屋だということは、あらかじめ話には聞いていた。

 今までよりホロエルと二人だけの時間を確保できないことで早くも憂鬱になり、自主退学したくなってきたものの、さすがにこの程度で私の未来を望むホロエルの善意を無碍にするわけにはいかない。

 そもそも廃墟で暮らすこと自体、ホロエルは反対だったみたいだし……ちゃんとした場所で寝泊まりしてホロエルを安心させてあげようと、二人部屋という点については私も我慢することにした。

 

 そう。そうして我慢することを決めて、先生の案内のもと、私が割り当てられた寮部屋にやってきたのだが……。

 

「あ、メイちゃん一緒の寮部屋だったんだ! 嬉しいな! 部屋って普通二人部屋でしょ? でも入試に合格した生徒が奇数だからって、私だけ一人にされてたの! よくセンカが来てくれるから寂しくはなかったんだけど、やっぱり普段から誰かが一緒にいてくれた方が賑やかで楽しいよね!」

 

 そこには今日散々私の隣で騒ぎ、昼休みに昼食を食べ損ねて午後の授業では何度もお腹を鳴らして突っ伏していた、見慣れた赤髪の少女が待っていた。

 ただ二人部屋というだけならまだよかった。

 だけどなぜその相方が、よりにもよってこいつなのか。

 

 ……まさか私はこれから、朝も昼も夜も……寮でも教室でも。

 これからの三年間、この騒がしすぎる少女と毎日を過ごさなければいけなくなってしまうのだろうか……?

 

「ホロエル……」

 

 ホムラがトイレで席を立った隙に、私はつい我慢できずホロエルに実体化を要求し、ポスンと彼女の胸に頭を預けた。

 そして十秒間という短い時間を使って、慰めるように目一杯頭を撫でてもらい、ホロエル成分を補給するのだった。

 

 

 


 

 

 

 どうも、ホロエルだぞ!

 マスターが国立クロワッサン学園に入学してから、早一週間。

 廃墟で目を覚まし、賭けデュエルの相手を探してお金を稼ぎ、夜には私とともに静かな時間を過ごす。

 そんなマスターの荒んだ毎日はすっかり様変わりし、今では立派な女子高生としての日常を謳歌していた。

 

「メイちゃんメイちゃん! 知ってる? 今日の午後の授業、クラス内でのデュエル交流会なんだって! くじ引きで当たった何人かのランダムな人が、代わりばんこで代表でデュエルするんだって先生が言ってた! 楽しみだなぁ。確率は低いけど、私とメイちゃんが当たるといいなー。もしそうなったら、全力で私とデュエルしようね? ね!」

「わたしもメイ様とデュエルしたい……! けど、うぅ……メイ様より二年も遅く生まれた自分が憎い……! お姉ちゃん、デュエルでわたしが勝ったら今日だけ学年交換して! わたしがお姉ちゃんの代わりにその授業出る!」

「学校のルールだから私に勝ててもそれは実現できないよ!? でも……いいよ! どうせ私が勝つもんね! 妹の挑戦はいつでも受けるのが姉の務め! デュエルガントレット、スタンバイ! 校内ホログラムモード、起動!」

「「デュエルスタート!」」

 

 謳歌……うん、まあ。謳歌していた。

 突如としてデュエルを始めた二人を横目に、「うるさい……」と思ってそうな顔でマスターは教室を退散する。

 ちなみにマスターは今まで一度たりともホムラたちのデュエルをまともに見たことはない。

 彼女たちがデュエルを始めると「今なら絡んでこないからチャンス!」とばかりに、そそくさとその場を離れるのがマスターの常だった。

 そしてそれは今回も例外ではなく、購買に寄って適当にパンを買うと、これまでの6日間と同じように屋上にやってきた。

 そうして一人で昼食を食べ始めるマスターの隣に、私はマスターにだけ見える半透明の状態で、寄り添うようにちょこんと座った。

 これもまた、いつものことだ。

 

「……ごめんね、ホロエル」

 

 パンを食べながら、どうしてかマスターが謝る。

 

「私、うまくやれてない……他の人と、どう関わればいいかわからない。私がホロエル以外の人と関わることを、ホロエルが望んでるのはわかってる。でも私は……ホロエルとこうして二人きりでいる方が……ずっと気楽で、これ以外いらないって思えちゃう」

 

 や、別にそんなことで謝らなくてもいいけど……。

 マスターはまだ二桁にもなっていない頃から実質的に両親を失い、さらには学校に通うことさえできなくなった。

 大人の庇護がある他の子とは違う。

 当たり前のように家族や、友達と笑い合って生きてきた子とは違う。

 人の悪意に晒されながら、何年もの時を孤独に過ごしてきた。その心身への負担と影響は計り知れない。

 

「私は……ホロエルが望むみたいな、普通の女の子にはなれない」

 

 そう言うと、私に失望され、嫌われることを恐れるように、マスターは私から目を背けた。

 一緒に過ごしてきたこの数年間、唯一の拠り所である私を見つめ、心身を落ちつけようとすることはよくあった。

 でも、こんな風に私を見ようともしないことは初めてのことで……。

 気がついた時には、私は一日に10秒しか使えない実体化を行使して、彼女の頭をギュッと胸に抱きしめていた。

 

「ホロエル……?」

 

 大丈夫だよ、安心して。

 これから先、なにがあっても……マスターがどんな選択をしたって、私はそばにいる。

 いつだって私はマスターの味方だから。

 そう伝えるように微笑んでから、彼女の頭をもう一度抱きしめて、私は実体化を解除する。

 

「……うん。ありがとう、ホロエル」

 

 かすかに柔らかくなった表情で、マスターはまたパンを頬張り始めた。

 

「私……もう少し頑張ってみる」

 

 ……マスターが本音では、学校に通うことを望んでいないことはわかっている。

 今のこの状況は、完全に私のわがままだ。

 そしてそんな私のわがままのために頑張ろうとしてくれているマスターのために、私もできることをしないといけないと、私も密かに決意を固めた。

 

 

 


 

 

 

 昼休みの間、私はマスターのためになにができるのだろうと考え続けていた。

 だが、はっきり言おう……特に思いつかなかったぜ!

 

 そもそもの話、私は一日に十秒間くらいしか実体化できない。

 私にできることなど初めからたかが知れていて、私がなにかを望む時、そのほとんどの負担はマスターに強いることになる。

 学校に通うことだってそうだ。

 友達と一緒に日々を過ごしたり、遊んだりして心を豊かにしていくような、そんな生活をマスターにも送ってもらいたくて、私はマスターに学校に通うことを勧めた。

 だけどその結果、私はマスターに慣れない生活を強いてしまっている。

 私本人がマスターのためにできることなんて、結局のところほとんどなにもないのだ。

 

 だからまあ、なんというか。

 この一週間観察し続けた人柄を信じ……いっそ開き直って、他の誰かに任せてみることにした。

 

「ではくじ引きの結果を公開しますね~。まず第一組は~……ホムラさんとメイさんのデュエルです~」

「や……やったぁあああ! やっと、やっとメイちゃんとデュエルができる!」

「……」

 

 驚くことなかれ。なんと、このくじ引きの結果は操作されたものである。

 というか操作しました。私がな!

 くじ引きの箱の中身を半透明状態のまま覗き、マスターとホムラがそれぞれくじを引く一瞬だけ私が力を行使しているのを見ていたマスターは、困惑した顔で私のことを見つめていた。

 

 

 


 

 

 

「メイちゃん、良いデュエルにしようね!」

 

 デュエルの授業用に用意された広いデュエルスペースで向かい合ったホムラが、そんなことを言ってくる。

 少し離れた観客席にはクラスメイトたちが座っていて、私たちのデュエルが始まるのを今か今かと待ち望んでいるようだった。

 この一週間で少しだけ耳に入ってきたが、ホムラは結構有名なデュエリストらしい。

 ジュニアハイクラス……? とかいう区分の大会を荒らしに荒らした実績があるんだとか。一部では、元ジュニアハイチャンピオンとも呼ばれているらしい。

 そんな有名な彼女と、その彼女が毎日しつこく絡んでいる、まだ一度も人前でデュエルをしたことがない謎の転入生のデュエル。注目度が高いのも当然と言えた。

 だけど私の思考は、そんなホムラや周囲の反応とは別の場所にあった。

 別の場所とは、もちろんホロエルだ。

 

 ホロエル……どういうつもりなんだろう。

 

 この授業は、くじ引きで選ばれた何人かがクラスメイトの前でデュエルをするという内容のものだ。

 くじ引きだからそもそもが当たるかどうかもわからないし、当たったとしても自分で相手は選べない。

 くじに当たった者は、突然対戦が決まった相手にどう立ち回るかという臨機応変さが求められる。今までデュエルしたことがない相手とのデュエルを通し、互いの仲が深まる効果も望んでいるそうだ。

 そして観客側は、ともに学ぶクラスメイトの生のデュエルから、それぞれがなにを考えながら動いているか、第三者の視点からその立ち回りを学べるように。

 今言った内容は、すべてホムラからの受け売り……というか、ホムラが勝手に話していたことなのだが、結局はくじ引きなので、自分が参加者側か観客側になるかはランダムだ。

 参加者として選ばれるのだって、せいぜいがクラスの中から四人か六人と言ったところで、私が選ばれる可能性は低いだろうと踏んでいた。

 

 だけど今、私はこうしてくじに選ばれた参加者としてホムラとデュエルスペースで相対している。

 それは低い可能性を引いたからではなくて、ホロエルがくじを操作したからだ。

 つまりこのデュエルは……私とホムラとの組み合わせは、ホロエルが望んだもの。

 

 ホロエルが望むのなら、私はなんであろうとその願いを叶える。

 元より、私が学校に通うことを決めたのもそのためだ。

 ……だけどこれは、学校に通うことを決めたあの時とは少し違う。

 あの時は、ホロエルの心がわかった。私の未来のために、私が普通の生き方をして幸せになることをホロエルは望んでいるのだと、そう理解できた。

 でも今は……ホロエルがどんな結果を望んで、私とホムラをデュエルさせようとしているのかがわからない。

 

「良いデュエルって、なに?」

「楽しいデュエルってこと!」

「……デュエルに楽しさなんていらない。デュエルは命の奪い合い。負けることは死ぬことと同義」

 

 わからないけど……ホロエルが望むなら、私はなんであろうとその願いを叶える。その意思だけは、なにがあっても変わらない。

 私とホムラがデュエルする(殺し合う)ことがホロエルが導く未来への道だというのなら、私はそれを迷いなく突き進もう。

 

「負けてもやり直せるなんてのは戯言。次勝てばいいなんてのも同じ。銃弾を頭に受けて、次なんてある? ……殺すか殺されるか。あるのは、それだけ」

「……あは! そっか、メイちゃん負けたことないんだ。だったら今日が、初めての黒星になるね!」

 

 感覚を研ぎ澄ます。

 ただの一度でも負ければ終わり。私のすべては虚無に帰り、ホロエルと二度と一緒にいられなくなる。

 幼い頃から繰り返してきたデュエルの感覚。目を閉じて、身を浸し……敵を見据える。

 獰猛な笑みを浮かべる、赤き炎を。

 

「デュエルガントレット、スタンバイ」

「「――デュエルスタート!」」

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