可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
「メイ様が……負けた? そんな……そんなことって……」
デュエルの勝敗が決してから間もなくすると、観客席の方から、うわ言のような声が聞こえてきた。
……センカさんだ。
彼女は信じられないものを目の当たりにしたかのように、両手で口を押さえ、呆然と立ち尽くしている。
イサネに調べてもらった情報によれば、センカさんは無空さんのことを心から慕い、尊敬していたそうだ。
全戦全勝。常勝無敗。
絶対に負けることがないと信じていた憧れのデュエリストが、今まさに敗北した瞬間を目の当たりにしてしまったのである。
言葉を失い、呆然自失となってしまうのも無理はない。
「無空さん……」
センカさんの隣では、エミリアさんが気持ちの行き場を失ったように俯き気味に目を伏せている。
その胸中には、きっとさまざまな感情が渦巻いているのだろう。
無空さんにすべてを任せずとも、自分にももっとできたことがあったのではないか。
あるいは、もっと自分に力があれば……代わりに自分が戦って、無空さんを守ることができたのではないかと。
彼女の内面は、私には知る由もない。
けれど己の無力を嘆くように固く握りしめられた拳が、彼女の葛藤と自責の念の強さを如実に物語っていた。
「エミリア。センカ。顔を上げて」
……しかしそんな陰鬱な空気が漂う中、どうしてかホムラさんだけはまだ、希望を捨てた顔をしていなかった。
まるで自分自身がデュエルに臨んでいるかのような真剣な表情で、ホムラさんは無空さんが倒れているだろう砂埃の煙の中へと視線を注ぎ続けている。
「デュエルはまだ……
「ホムラ……?」
「お、お姉ちゃん? なに言ってるの? メイ様はダイレクトストライクを受けて、それでデュエルはもう……」
認めがたい事実を口にするような、苦し気な声での反論だった。
けれどそんなセンカさんの言葉を遮って、ホムラさんはふるふると首を横に振る。
「まだだよ。センカの言う通り、確かにメイちゃんはダイレクトストライクを受けたけど……もしも本当にそれでデュエルの決着がついたっていうなら、勝者の名前がホログラムで大きく出るはずでしょ? でも私はまだ――その最後の瞬間を見届けてない」
ホムラさんのその言葉にハッとしたのは、エミリアさんやセンカさんだけではなかった。
私もまた同じように目を見開くと、慌てて自分のデュエルガントレットに視線を落とす。
「これは……どういうことですか? デュエルがまだ、続いている……?」
決着は、もうついたはずなのに。
無空さんにとって最後の頼りだっただろう手札の『虚仮コッコウ』の『Qアクション』を『秩序の実現』で封じ込め、確実にダイレクトストライクを決めたはずなのに。
どうしてかデュエルが継続している。未だデュエルフィールドに私のサーヴァントが残り続けている。
……私の勝利を示すホログラムの文字が、一向に浮かび上がってこない。
これは……ガントレットの故障? それとも、私がなにか操作ミスをした?
あるいは……いや、まさか……。
……まさか本当に、デュエルがまだ続いて――。
「――――これが、あなたが思い描いていた未来の結末?」
「っ――!?」
鈴の音のように美しい声が、不意に私の耳朶を打つ。
透明で、氷のように冷たく。けれど雪のように儚くて、ほんの少しだけ優しい。
私はその声の主を知っている。
今日という日を通し、幾度となく耳にしたその声の主を、忘れるはずがなかった。
「な、なぜ……!」
私は咄嗟に身構え、声のした方を――
目を凝らしても、ハッキリとは視認できない。
しかし段々と砂煙が晴れていき、その人影の輪郭が鮮明になっていくにつれて、私は思わず言葉を失った。
「ど……どういうことですか!? なぜ……なぜ、あなたがまだそこに立って……!? そしてなぜ――あなたの場に『虚構天使ホロエル』がいるのですか!?」
砂煙の中の全貌。2つの人影の正体。
それは度重なる攻撃を受けた余波で全身をボロボロにし、それでもなお立ち続けて荒い呼吸を繰り返す無空さんと……。
その傍らに寄り添うように佇む、銀髪の偽りの天使――『虚構天使ホロエル』だった。
「ど……どういうことですか!? なぜ……なぜ、あなたがまだそこに立って……!? そしてなぜ――あなたの場に『虚構天使ホロエル』がいるのですか!?」
すべてが己の手のひらの上だと言わんばかりの、余裕に満ちていた態度とは一転。
ノゾミがいたく取り乱した様子で、私――無空メイに疑問を投げかける。
いや……今のこの状況に戸惑っているのは、ノゾミだけではなかった。
エミリアも、センカも、そしてイサネも。
最後まで目を逸らすことなく私を信じ続けてくれていたホムラを除く全員が、この予想外の状況に驚愕を隠せずにいる。
「『秩序の実現』の『Aエフェクト』で、私は確かに3種すべてのカードの使用を……あなたの逆転の糸口になり得る『Qアクション』を封じたはずです! なのに、どうしてデュエルが続いて……なぜ、あなたの場にホロエルが存在しているのですかっ!?」
ダイレクトストライクを受ける寸前まで攻撃を受け続けた私の身体を労わり、心配そうに私の顔を覗き込んできているホロエルに、私は「大丈夫」と微笑みを返す。
それから息を整えて佇まいを正すと、ノゾミと正面から相対し、種明かしをするように口を開いた。
「残念だけど……私が使ったのは『Qアクション』じゃない。あなたからダイレクトストライクを受ける直前、私は私の場に存在するエリア『完全虚構証明』の最後の効果を発動していた。その効果によって、あなたのダイレクトストライクは中断され、私は敗北を免れたの」
「『完全虚構証明』の、効果……? ――ッ! そういうことですかっ!」
ノゾミは私の言葉に目を丸くした後、すぐに状況を理解したように表情を歪めた。
「ど……どういうこと? 『完全虚構証明』の効果って……メイ様は今、全部のカードの使用が封じられてるから、エリアの効果は使えないはずじゃ?」
「違うよ、センカ。『秩序の実現』の『Aエフェクト』で封じられるのは、あくまで召喚と詠唱と展開だけ。この召喚とかって分類は基本的に、手札から0以上のエナジーを支払って新しくカードを使用する行為のことを指すの」
「……すでに場に出ているカードの効果の発動は、召喚にも詠唱にも展開にも該当しないから、『秩序の実現』では止められない、ということね」
ホムラの言葉を引き継いで、エミリアが感心したように呟く。
「ホムラ。あなた、『完全虚構証明』にダイレクトストライクを止める効果があることを知っていたの?」
「そういうわけじゃないけど……メイちゃんがどんなデュエルをするのかは、私が一番よく知ってるから。私はただ、私が知ってるメイちゃんなら、こういう展開になることまで読んで手を打ってるはずだって信じてただけ」
ホムラは自信に満ちた顔でそう言い切ると、私に向かってニカッと歯を見せて笑った。
……まったく。
こっちはこっちで神経をすり減らしながら、ギリギリの橋を渡っていたところだったというのに……。
信じてた、だなんて。なんとも簡単に言ってくれるものである。
あいかわらず能天気なホムラに私は肩をすくめてみせると、ノゾミへと向き直り、再びデュエルに意識を集中させた。
「『完全虚構証明』の最後の効果……私のライフカウンターが4つ以上破壊されたターン、ダイレクトストライクを受けた時。私の手札か場の『虚構天使ホロエル』1体を選択し、それ以外の私の手札と場のカードをすべて消滅させる。そして手札のホロエルを選んだなら場に出し、その後、私の場にホロエルがいるなら――相手のターンを終了させる!」
| 完全虚構証明 | |
|---|---|
| コスト10 | 属性:無 |
| エリア | 種別:虚数 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 【制約】:[存在制限](上限:同名/場に1枚) 〈※効果①〜③は省略とする〉(省略された効果) ④??? ↓ ④自分のライフカウンターが4つ以上破壊されたターン、ダイレクトストライクを受ける時に発動可能(上限:同名/デュエル中に1回)。自分の手札・場の「虚構天使ホロエル」1枚を選択し、それ以外の自分の手札・場のカードをすべて消滅させる。その後、手札のカードを選んでいたなら場に出し、自分の場に「虚構天使ホロエル」がいるなら、強制的にターンエンドに移行する。このデュエル中、自分は「完全虚構証明」を場に出せない。 |
「強制ターンエンドですって!? そのエリアにまだ、そんな強力な効果が……!」
「これによりダイレクトストライクは中断され、まだ攻撃権が残っていたブロキエルもアースエルも、もう攻撃を行えなくなった。あなたは私にターンを返すしかなくなった」
ダイレクトストライクを止められたことは……いや。
奥の手たる『審判の日』と『秩序の実現』を使ってなお勝負を決め切れなかったことは、彼女にとって、よほど想定外の事態だったのだろう。
平静さを取り繕う余裕すらなく、感情のまま声を荒げるノゾミへと、私は指を突きつける。
ノゾミはそれに一瞬だけ悔しそうに唇を嚙むと、私の場に存在する『虚構天使ホロエル』を忌々しそうに睨みつけた。
「……手札か場のホロエルを選択し……手札を選択したなら場に出す、と言いましたね。ダイレクトストライクを受ける直前、あなたの場にサーヴァントは1体もいませんでした……つまりあなたが選んだのは、必然的に手札の『虚構天使ホロエル』ということになります」
「ええ、そうね」
「あなたは今、『秩序の実現』によってサーヴァントの召喚を封じられています。しかしカードの効果によってサーヴァントを場に出す行為は召喚には該当しません。ゆえに『完全虚構証明』の効果の発動と同様に、手札からホロエルを場に出す行為を『秩序の実現』で封じることもまた不可能……」
起きたことを一つ一つ確認するように、ノゾミが言葉を紡いでいく。
「しかし、今ここで重要なのはそこではありません。あなたがダイレクトストライクを受ける瞬間、『虚構天使ホロエル』はあなたの手札ではなく……エナジーゾーンにあったはずです。あなたのデッキにはホロエルが1枚しか入っていないはずですから、2枚目を引いたということもありえません」
「ええ。それもその通り」
「……オリジナルのカードがエナジーゾーンに存在し、2枚目が入っていないというのなら……行きつく先は、デュエル中に複製していたカードという解答です。ということは……」
――このスペルは、自分の場のカード1枚を複製して手札に加える! ただしこの効果で手札に加えたカードは、次の自分のターンスタート時に手札にあるなら墓地へ送られる。
苦虫を噛み潰したかのように表情を歪め、絞り出すような声でノゾミは続けた。
「前のあなたのターン……あなたは『レプリカント・プラン』でサーヴァントを1体、複製して手札に加えていましたね。あの時、私は状況から鑑みてその対象を『虚仮コッコウ』だと判断しました。ですが、実際はそうではなかった。あの時、あなたが選んでいたカードは……!」
「そう。私があの時、複製する対象に選んでいたカードこそが『虚構天使ホロエル』だった」
首を縦に振り、ノゾミの推測を肯定してみせると、彼女は言葉を失ったように瞠目した。
「すべ、て……始めからすべて、読んでいたとでも言うのですか……? 私があなたにターンを渡さずに、一気に勝利を決めようとすることも……私がここでエクストラターンを獲得することも! 私が、『Qアクション』への対策を準備してきていることも……! 最初から全部読めていて、あなたは……!」
「……別に。すべての手を読んだだなんて。そこまで大それたことをしたわけじゃない」
冷静の仮面を引きはがされ、得体の知れないものを見るような目をする彼女に、私は静かに頭を振った。
「あなたが具体的になにをしてくるかなんて、こんな短時間でわかるわけない。私はただ発想を逆転させて、あなたがこのデュエルに懸ける執念を信じてみただけ」
「発想を、逆転……私の執念を、信じたですって……?」
「これまでのデュエルの流れの全部が予定調和だったって言うなら、ここまでがそうだったように、この先もあなたが敷いたレールから逃れることは不可能だと思った。どう足掻いたところで、最終的にダイレクトストライクを受けてしまうことを免れないのなら……今この状況で覆すべきは結末へと続く過程ではなく、結末そのものの形」
私は鋭く目を細めて、ノゾミの双眸をまっすぐに射貫いた。
「ダイレクトストライクを受けないように、その過程を変えようと立ち回るんじゃない。ダイレクトストライクを受けるという結末を迎えても、生き残り続けられるように策を講じる。そうすることでこそ……私はあなたが思い描くシナリオの、さらにその先へ行ける。あなたの手のひらの上じゃない――遍くすべてが未知の未来へと進んでいける」
「っ……未知の、未来……それが、あなたがこの選択に賭けたもの……」
ノゾミは愕然と声を震わせて、息を呑む。
「……結局のところ。あなたが万が一を想定し、『完全虚構証明』の除去を狙ってくるかどうかは賭けだった。でも私なりに、そうさせないための手は打てるだけ打った」
イヴリエル以外のサーヴァントをすべて除去して、攻撃的な戦術に舵を切らなければダイレクトストライクまで漕ぎつけられないようにした。
ブラフを撒いてノゾミの注意を分散させ、それを攻略するために余計なエナジーを使わせるように仕向けた。
これ見よがしに防御を固めてみせることで、エリアへと対応する暇を与えないように全力を尽くした。
このうちの一つでも欠けていれば、ノゾミの頭に万が一のことを考えるだけの余裕ができてしまい、『完全虚構証明』の除去を狙われてしまっていたかもしれない。
あるいは不自然になにかを狙おうとする動きから、私の本当の狙いに感づかれてしまっていたかもしれない。
けれど今、これらすべての布石が実を結び、私はここまでたどりつくことができた。
すべてがノゾミの手のひらの上でしかなかった盤上で、自らの死さえも欺くことで、ついにノゾミの想定をも完全に上回る一手を打つことができたのだ。
「ねえ、ノゾミ」
まるで死神のように、あるいは処刑人のように。
私は淡々とした声で、彼女にもう一度あの問いを投げかける。
「これが本当に、あなたが思い描いていた未来の結末なの? ――私はまだ、生きてるけど」
「っ……! くっ……!」
臆したように後ずさり、ノゾミは悔しげに歯噛みした。
しかし彼女はすぐに頭を振って動揺を振り払うと、自らを奮い立たせるように私をキッと睨みつけた。
「まだです……! 私のターンエンドを迎えたこの瞬間、『秩序の実現』によって付与された『【煉獄】の熾天使アグニエル』の効果が適用されます! ターンエンド時、これの攻撃権を回復! さらに『【守護】の熾天使ブロキエル』の効果! 自分の場に『ジャッジメント・ワールド』があるなら、同様に攻撃権を回復します!」
強制的にターンエンドを迎えさせられたとは言っても、ターンエンド時の効果は問題なく発動が可能だ。
その効果処理によって、『ガード』を持つ2体のサーヴァントの攻撃権が復活する。
「たとえこのターン中にトドメを刺すことができずとも……私のライフカウンターは上限の8! さらに私の場のイヴリエルを除く4体のサーヴァントは、そのすべてが『ガード』能力を所持しています! 加えて私の場には依然として『ジャッジメント・ワールド』が存在し、イヴリエルと2体のブロキエルの効果によって、あなたの場のサーヴァントのコストは常に合計10上昇する! あなたのエナジーの最大値は16……つまり元のコスト7以上のサーヴァントは攻撃することも、効果を使うこともできません!」
苦しい戦況を突きつけることで、自分の勝利を信じ込もうとするかのように、ノゾミが必死に言葉を並べ立てる。
その焦燥に満ちた顔からはもう、これまでのような超越者じみた自信や傲慢さは感じられない。
あるのはただ、分相応の人間らしい不安と緊張。そして隠し切れない……未知への恐怖だけだ。
「それだけではありません! あなたの手札の枚数は0! さらに場にいるのも、コストを上げられているせいでろくに行動もままならない『虚構天使ホロエル』1体だけです! そして次の私のターンが来たならば、ライフが0のあなたは今度こそ私の攻撃に耐え切れない……あなたは確実に敗北を喫しますっ!」
「そうね。あなたの言う通り、私に残されているのは、きっと次の1ターンだけ。でもその1ターンは、あなたの思い描いていた未来にはなかった1ターン……でしょ?」
未来を掌握していたはずの彼女は神の座から引き摺り下ろされ……今、私たちは紛れもなく同じ視座に立っている。
ここから先の未来には、確実な勝算も、敗北の運命も存在しない。
「あなたは……この状況から、自分が勝てるとでも思っているのですか……!?」
「……別に、根拠もなく勝てるだなんて、そこまで呑気なことは思ってない。あなたの言う通り、私の敗色が濃厚なのは事実だから。ただ、それでも……どんな困難が立ちはだかったとしても、明日へ向かって進むんだって、私はもう心に決めたから」
デッキの上に手を置いて、私はゆっくりと瞼を閉じる。
両親に見捨てられてしまったあの日から、私はずっと、明日を夢見ることを恐れてきた。
今日より悪くなる明日が嫌だった。また誰かと繋がりを持って、裏切られる心の痛みを味わうのが嫌だった。
だから……明日なんてどうでもいい。今日さえ良ければいい。今この瞬間ホロエルと一緒にいられるなら、それだけでいいんだって。
変化を拒み、成長を拒み、永遠の今日を望んできた。
……でも。
ホロエルはいつだって、そんな情けない私のそばに寄り添って、私の幸せを祈り続けてくれていた。
来るかもわからない明日のために、毎日毎日積み重ねるように、私の心のわだかまりを解いていってくれた。
いつの日か私が自分の殻を打ち破って、心から笑える明日が訪れることを信じ続けてくれていた。
私がどんなに弱音を吐いても、ホロエルの期待に応えられなくても……ホロエルは一度だって、私を見捨てようとはしなかった。
ただ私の隣で笑って、私のことを抱きしめて、私に人の心の温もりの尊さを教えてくれた。
だから私はもう、明日を迎えることを……未来へ進むことを恐れない。
だってこれからは、私がホロエルのことを導いていく番なんだから。
今日まで私を支え続けてくれたホロエルの手を引いて、今度は私が自分の足で前に進むんだ。
いつも浮かべてくれる笑顔の奥で、本当は自分なんかいない方がいいって思ってるホロエルに……あなたはここにいてもいいんだよ、って教えてあげるんだ。
叶わないかもしれなくても。届かないかもしれなくても。
ホロエルがそうしてくれたように、私も明日へ進むことを恐れない。前へと進む。
行くんだ。この先へ。
まだ見ぬ明日へ。笑い合える未来へ。
ホロエルと一緒に――――皆と一緒に!
「行くよ、ノゾミ。私のターン――ドローッ!」
| 後攻7ターン目:無空メイ |
|---|
| 光華ノゾミ (保有中の特殊能力) | 自分が相手にチャージさせた枚数:11 | |
|---|---|---|
| ライフ:8 | 場 | Ar:ジャッジメント・ワールド Se:【審判】の熾天使イヴリエル(A12000/H12000) Se:【守護】の熾天使ブロキエル(A5000/H10000) Se:【守護】の熾天使ブロキエル(A5000/H10000) Se:【豊穣】の熾天使アースエル(A6000/H6000) Se:【煉獄】の熾天使アグニエル(A10000/H10000) |
| Ene:12(0) | ||
| 手札:2 |
| 無空メイ (保有中の特殊能力) | 場を離れた虚構定理:16 | |
|---|---|---|
| ライフ:0 | 場 | Se:虚構天使ホロエル(A16000/H16000) |
| Ene:16 | ||
| 手札:0→1 |
デュエルに意識を集中させ、思考と感覚を研ぎ澄ます。
防御のことは、もう考えなくていい。
このターン中に勝負を決め切れなければ、どうせ私の負けだ。
この1ターンにすべてを集約させ、デュエルを終わらせることだけを考えろ。
「私がターンスタートを迎えたこの瞬間、前の私のターンに詠唱した『レプリカント・プラン』の効果が適用される! デュエル中に1度、『レプリカント・プラン』を詠唱した次の自分のターンスタート時に、私の手札に新たな『レプリカント・プラン』を生成する!」
「っ、くっ……なるほど。『完全虚構証明』の最後の効果には、ホロエル以外の自らの手札と場のカードをすべて消滅させてしまう重いデメリットがありました。ですが、これであなたの手札はターン開始時のドローと合わせて2枚……新たな『レプリカント・プラン』が生成されることさえも、このターンに備えた布石だったというわけですか」
いくらダイレクトストライクを耐え凌いだとしても、その先で勝利を掴めなければ意味がない。
次の私のターンが訪れることを信じ、あらかじめ打っておいた布石が、ここでようやく意味を持つ。
「……さて」
まずは、ダイレクトストライクまで持っていくために取り除かなければならない障害を確認するところからだ。
ノゾミがさきほど言ったように、ノゾミのライフカウンターの数は上限の8。
これを削り切るためには、すでに場に存在する『虚構天使ホロエル』の他に、転生サーヴァントや『フルアクセル』と言った、即座にライフカウンターへ攻撃できる能力を有したサーヴァントが相当数必要になる。
しかしトドメを刺し切れるだけの打点を揃えたからと言って、そのまま勝てるほど単純な状況というわけでもない。
ノゾミの場にはエリア『ジャッジメント・ワールド』が依然として健在だ。
あのエリアが存在する限り、私のエナジーの最大値を越えるコストを持つサーヴァントは一切の行動を封じられてしまう。
現在の私のエナジーの最大値は、16。
しかしノゾミの場には、場にある限り私の場のサーヴァントのコストを上げ続ける常在効果を持つサーヴァントが複数体存在している。
そのせいでコストが合計で10も引き上げられてしまっており、元のコスト6以下のサーヴァントしか行動ができない状況に陥っているのが実情だ。
ホロエルは元のコストが1だが、場においてのみ、そのコストは私の場を離れた『虚構定理』の数と同じものとして扱われる。
私の場を離れた『虚構定理』の数は、現在16。
つまり、ホロエルのコストも同じ16……引き上げられたぶんも考慮すると、26にもなってしまう。
この状況から勝ちに行くためには、場を離れた『虚構定理』の数が15以上の時にしか使えない、ホロエルの更なる効果の発動が必要不可欠だ。
まずはエリア『ジャッジメント・ワールド』に対処して、ホロエルをその呪縛から解放する必要がある。
私は2枚の手札のうち、『レプリカント・プラン』とは別の、ターン開始時にドローしたカードに視線を落とす。
……絶体絶命のこの状況で、このカードを引いて来られたのは、偶然か。はたまた必然か。
あるいはこれこそが、運命とでも呼ぶべきものなのかもしれない。
この1枚に、私は自分の命運を託す。
「私はエナジーを4消費し、『
| コスト4 | 属性:無 |
|---|
| スペル | 種別:虚数 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①相手は自分自身の場のカード1枚を選択して消滅させる。「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が5以上なら、消滅させる対象は相手ではなく自分が選ぶ。 ②自分と相手はお互いに以下の効果から一つを選択して適用する。 ・カードを1枚引く。 ・ライフカウンターを1つ回復する。 |
「相手は自分自身の場のカードを1枚選んで消滅させる。ただし私の場を離れた『虚構定理』の数が5以上の時、消滅させる対象は相手ではなく私が選ぶ」
「来たっ! メイ様とホロエルちゃんの十八番カード!」
「『虚構天使の槍』……! ここでそのカードを引いてくるとは……虚無の巫女の名は伊達ではないということですか」
今この状況で選ぶカードなんて決まっている。
ホロエルに目配せすると、彼女はこくりと私に頷きを返して、その手に持った槍の穂先を天空へと向けた。
「私が消滅させる対象に選ぶのは、エリア『ジャッジメント・ワールド』!」
穂先から発射された虚無の塊が、デュエルフィールドを覆う金色の天幕を呑み込んで、跡形もなく消滅させる。
「これでいくらそのコストが引き上げられようと、私の場のサーヴァントの攻撃や効果が封じられることはなくなった」
「いいわ無空さん! その調子よ!」
「さらに『虚構天使の槍』の第二の効果。自分と相手はカードを1枚引くか、ライフカウンターを回復するか、いずれかの効果を適用する」
どうにか『ジャッジメント・ワールド』を除去することはできたものの……未だ私が不利な状況であることに変わりはない。
ノゾミの場には攻撃権を残したままの『ガード』を持つサーヴァントが4体も存在する。
しかもそのHPは、一番低いサーヴァントでも『【豊穣】の熾天使アースエル』のHP6000だ。
仮にここからダイレクトストライクまで詰め切れるだけの打点を揃えることができたとしても、この凄まじいステータスを誇る4体の『ガード』を突破できなければ、万に一つも私に勝ち目は生まれない。
……けれど。
ダイレクトストライクまでに必要な残りの打点を確保し、4体すべての『ガード』を突破する。
それを成し得るだけの打ってつけの効果を持つカードが、たった1枚だけ私のデッキに眠っていることを私は知っていた。
「……私のライフカウンターは上限の8です。よってカードを1枚引く効果を適用します」
「私もカードを1枚引く効果を適用する」
このドローに、すべてが懸かっている。
ここであのカードを引き当てられなければ、私は間違いなく敗北を喫するだろう。
だけどもしも引き当てることができたなら……私は、このデュエルに勝てる。ノゾミに勝てる。
ホロエルや皆と一緒に、明日へと進んでいける。
――私と友達に、なる……?
――――なるっ!
ホムラと友達になったあの日のことが、頭を過ぎる。
ホロエル以外の他人を拒絶し続けてきた私にできた、初めての友達。かけがえのない繋がり。
あの日彼女が私に恐怖せず、手を差し伸べてくれていなければ……きっと今の私は存在しなかった。
――ねえ、無空さん。私は、私の夢を笑わなかったあなたと友達になりたい。あなたのことをもっと知りたい。そして私のことを、あなたにも知ってほしい。
初対面で突然デュエルを挑まれたこともあり、正直なところ、エミリアへの第一印象はあまり良いものではなかった。
けれど彼女と関わり、彼女のことを理解していくうちに、私は彼女の友達になれたことが誇らしくなっていった。
自分の弱さを自覚し、他人の心を理解しようと歩み寄ることをやめない彼女は、いつかきっとその途方もない夢を叶えるだろう。
エミリアを見ていると、いつか私にも彼女のように叶えたい夢ができるのだろうかと、未来を夢想するようになった。
――メイ様は知らないかもしれませんけど……メイ様と出会えたから、わたしは自分の殻を破ることができたんです。もしもあの時、メイ様と巡り会えなかったら……わたしの中にあるあの衝動は、知らず知らずのうちに死んじゃってたかもしれない。
センカは正直、ちょっと変な子だと思う。
でも、彼女は誰よりも自分の気持ちに素直で、純粋で、実は案外繊細で。
センカが心の奥底で悩んでいるだろう、自分は他の人とは違うんだって疎外感は……皆とは違う人生を歩んできた私にも、理解できるものだから。
私が本当に、誰かに憧れられるに足る人間かはわからないけど……。
私なんかを尊敬してくれる彼女のために、いつか先輩としてなにかをしてあげられたらなって、今はそんな風に思う。
「ふふっ……」
……ああ。
ホロエル以外の誰かのことを考えて、こんな風に笑えるようになる日が来るなんて、本当に思いもしなかった。
ホロエルは、いつだって私に応えてくれる。私が望めば、どんな時も私の手元に来てくれる。
でも、これから私が祈るのは……ホロエルでも、虚無の定めでもない。
今まで紡がれ、育んできた……皆との絆だ。
この1枚が……私の運命を決する一手になる。
「――――ドローッ!!」
デッキからカードを抜き放ったその刹那、私は自分の手に、燃え盛る紅蓮の炎を幻視した。
確信めいた不思議な直感を胸に……燃えたぎるような熱を宿すそのカードを、私は静かに表に返す。
――――来た。
偶然も必然も超えて――今、私の手に勝利に必要なピースが揃った。
「私は墓地の『
脳裏に走った勝利のイメージを現実にすべく、私は速やかに行動を開始する。
「私の場を離れた『虚構定理』の数が5以上なら、デュエル中に1度だけ、これを墓地から手札に戻す! そしてこれをそのまま0エナジーで詠唱!」
| コスト0 | 属性:無 |
|---|
| スペル | 種別:虚数 |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①エナジーゾーンの無属性以外のカードすべてをスペル「虚無」に書き換える。 ②このターン、自分はエナジーの属性にかかわらずカードを使用できる。 ③【墓地で有効】「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が5以上なら発動可能。墓地のこのカードを手札に戻す。(上限:同名/デュエル中に1回) |
「このターンに限り、私はエナジーの属性にかかわらずカードを使用できる! エミリア!」
「ええ!」
エミリアの名前を呼ぶと、私の意図を察した彼女が足を一歩前に踏み出す。
「「私はエナジーを2消費し、再び手札からスペル『レプリカント・プラン』を詠唱する!」」
| レプリカント・プラン | |
|---|---|
| コスト2 | 属性:水 |
| スペル | 種別:メカ |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①自分の場のカード1枚を選択し、それを1枚複製して手札に加える。この効果で手札に加えたカードは、次の自分のターンスタート時に手札にあるなら墓地へ送られる。 ②次の自分のターンスタート時、スペル「レプリカント・プラン」1枚を生成して手札に加える。(上限:同名/デュエル中に1回) |
「その効果で、私は自分の場のカードを1枚複製して手札に加える!」
「ただしこの効果で手札に加えたカードは、次の自分のターンスタート時に手札にあるなら墓地へ送られるわ。場に出してしまえば、このデメリットも関係ないけれどね」
「私は『虚構天使ホロエル』を選択して複製する。そしてこれを1エナジーで召喚!」
| 虚構天使ホロエル | |||
|---|---|---|---|
| コスト1 | 種別:虚数/天使 | ||
| 属性:無 | ATK 0 | HP 0 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①『虚構定理』=条件:「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が5以上。 ②『アクセル』 ③『ガード』 ④場にある限り、このカードのコストは「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」と同じとして扱う。 ⑤ATKとHPに「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」×1000を+する。 ⑥「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」がX以上なら発動可能。以下の効果から1つを選択して適用する。(Xは指定された数) ・X=10:エリア「完全虚構証明」1枚を生成して場に出す。 ・X=15:このカードを「???」に書き換える。 ・X=20:??? ⑦自分のターンエンド時に発動可能。カードを1枚引き、攻撃権を回復する。 |
「『虚構天使ホロエル』が2体……! しかしその程度では、私のこの鉄壁の布陣を崩すことはできません!」
私の場に並び立った2体のホロエルを前に、ノゾミは苦々しく顔を歪めた。
けれどすぐに表情を引き締めると、自分の優位を主張するように毅然とした口調でそう言い放つ。
「それはどうかな?」
「なんですって……?」
私は不敵に笑みを零すと、手札に残った最後の1枚に視線を落とした。
確かにノゾミの言う通り、2体のホロエルだけではこの状況を打開することはできない。
だけど今の私を支えてくれているのは、なにもホロエルとの繋がりだけじゃない。
「ホムラ!」
「メイちゃん……?」
突然名前を呼ばれたからか、観客席からデュエルを見守っていたホムラが驚いたように目を丸める。
しかし彼女をまっすぐに見つめている私と目が合うと、エミリアがそうであったように、ホムラもまたなにも言わずとも私の意志を理解してくれたようだった。
「……そっか。さっきのドローで、あのカードを引いたんだね」
「行くよ。ホムラ」
「うん! メイちゃん!」
照れくさそうにはにかみながら、ホムラが私に力強く頷きを返す。
それから私とホムラは呼吸を合わせると、互いにデュエルガントレットを構えた。
彼女がデュエルガントレットからカードを引く動作に合わせ、私も手札から最後の1枚を勢いよく抜き放つ。
「――結んだ絆が、未知なる明日を紡ぎ出す!」
「重なる想いを力に変えて、今、この逆境を打ち破れ!」
そして燃えるような熱を持つそのカードを、私はデュエルガントレットへと叩きつけた。
「「絆の螺旋――『炎槍竜クリムゾンブレイカー』!!」」
| 炎槍竜クリムゾンブレイカー | |||
|---|---|---|---|
| コスト8 | 種別:ドラゴン | ||
| 属性:火 | ATK 6000 | HP 6000 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①『ストライク2』 ②『フルアクセル』 ③場に出た時に発動可能。相手の場の『ガード』を持つサーヴァントをすべて破壊する。 |
「なっ!? クリムゾン……ブレイカーッ!?」
新たに私の場に舞い降りたのは、いつかホムラとのデュエルでも見た、巨大なジャベリンを携えた獰猛なる赤き竜だ。
その竜の姿を目の当たりにしたノゾミは、これ以上ないほど大きく目を見開き、驚愕にその身をわななかせた。
「バ、バカなっ……! クリムゾンブレイカーですって!? そんなはずは……! なぜ……なぜそのカードをあなたが持っているのですか!? そのカードは、燃照ホムラさんのエースカードのはず……! そんなカードを、なぜあなたがッ!?」
私は肩をすくめて、ホムラたちがいる観客席の方を見やった。
「そんなの、答えは一つしかないでしょ? ホムラから貰ったの。さっき唱えた『レプリカント・プラン』も同じ。お互いのカードを交換して、エミリアから受け取ったもの。あなたならそれくらいのこと、本当はわかってるでしょ?」
「えへへ。ちょうど2枚持ってたから、どうせならメイちゃんにも使ってもらいたいなーって思って。まさかこんな大事なデュエルでいきなりデッキに入れてるとは思わなかったけど……」
「ッ――! ふ、ふざけないでくださいっ! そんなたったの1枚しか入っていない、デッキのノイズにしかならないカードを……この絶好のタイミングで引き当ててきたとッ!? こんな……こんなこと……あ、ありえませんっ!」
冷静沈着にデュエルを支配していた支配者としての面影は、もうどこにもない。
激昂し、取り乱し、ただ感情のままに叫ぶノゾミは、これまで目にしてきた彼女からは想像できないほどに幼く、駄々をこねる子どものようですらあった。
そんな彼女に現実を突きつけるように、私は静かに腕を大きく振り上げる。
「『炎槍竜クリムゾンブレイカー』の効果。これが場に出た時、『ガード』を持つ相手の場のサーヴァントをすべて破壊する!」
「ッ……!?」
私が効果の発動を宣言した瞬間、クリムゾンブレイカーが手にする槍に炎が渦を巻くように現れる。
クリムゾンブレイカーが槍を振るうと、それは炎の竜巻となってノゾミの場を呑み込み、彼女の場に存在していた『ガード』を持つ4体のサーヴァントを瞬く間に燃やし尽くした。
「これで……あなたの場に残ったサーヴァントは、『ガード』を持たない『【審判】の熾天使イヴリエル』1体のみとなった」
クリムゾンブレイカーの効果は、数多の『ガード』を駆使するノゾミのデッキにとって天敵のようなものだ。
仮にこれがホムラとのデュエルであれば、ノゾミもこれを警戒してなにかしらの対策を立てていただろうが……今回の相手はホムラではなく、私だ。
もっとも警戒すべき、けれど私のデッキからは出てくるはずのなかったドラゴンの姿を前に、ノゾミは為す術もなく立ち尽くす。
「そしてクリムゾンブレイカーは『フルアクセル』を持っている。よって場に出たターンでもライフカウンターへ攻撃が可能」
「……ま……まだっ、まだです! まだ、デュエルは終わりではありません……!」
唇を強く噛み締め、悔しげに表情を歪ませながらも、未だノゾミの瞳には抵抗の意志が残っている。
「私のライフカウンターの数は上限の8! 一方であなたの場に存在するサーヴァントは『虚構天使ホロエル』が2体と『炎槍竜クリムゾンブレイカー』が1体だけです! 2体のホロエルのうち1体は場に出たばかりのためにライフカウンターへは攻撃できず、クリムゾンブレイカーは『ストライク2』を持っていますが、それでも私のライフカウンターを削り切るには遠く及ばない……!」
「……」
「あなたの手札は、今度こそ正真正銘の0! もうこれ以上、あなたに打てる手はありませんっ! たとえイヴリエルがホロエルの攻撃で除去され、盤面の優位を奪われてしまったとしても! 次の私のターンさえ来れば、私は――」
「残念だけど、あなたに次のターンは来ない」
死神に鎌を突きつけられたかのように、ノゾミがビクリと肩を跳ねさせた。
「……終わらせよう。ホロエル」
私の目配せと呼びかけに、ホロエルが勇ましく頷きを返す。
「私は『虚構天使ホロエル』の効果発動! 私の場を離れた『虚構定理』の数が10以上なら、ホロエルはさらなる効果を適用できる!」
「っ……! 今更、『完全虚構証明』を出し直したところでどうなると言うのですっ! あのエリアの効果はすでに割れています! この状況を打開できるだけの効果がないことは確認済みです!」
「あいにく、『完全虚構証明』は最後の効果を使用した場合、そのデュエル中はもう場に出せなくなる。だから私が発動を宣言するのは『完全虚構証明』を出す効果じゃない」
私は一気に畳みかけるように告げる。
「場を離れた『虚構定理』の数が15以上の時、ホロエルは自身を別のカードへと書き換えることができる。書き換えられるカードの名は――『虚構堕天使ホロエル』」
「虚構……堕天使ですって!?」
| 虚構天使ホロエル | |||
|---|---|---|---|
| コスト1 | 種別:虚数/天使 | ||
| 属性:無 | ATK 0 | HP 0 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 〈※効果①〜⑤&⑦は省略とする〉(省略された効果) ⑥「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」がX以上なら発動可能。以下の効果から1つを選択して適用する。(Xは指定された数) ・X=10:エリア「完全虚構証明」1枚を生成して場に出す。 ・X=15:このカードを「???」に書き換える。 ・X=20:??? ↓ ・X=15:このカードを「虚構堕天使ホロエル」に書き換える。 |
――悲痛の雫。苦痛の痕。涙の雨が、頬を打つ。
誰も泣かない世界のために――。
……いや。
首を左右に振り、脳裏に浮かんだ言葉を振り払うと、私は口上を言い直した。
「――涙の雨を乗り越えて、皆で笑い合う明日のために――今ここに、秘めたる力を解放せよ! 『虚構堕天使ホロエル』!」
| 虚構堕天使ホロエル | |||
|---|---|---|---|
| コスト15 | 種別:虚数/天使 | ||
| 属性:無 | ATK 15000 | HP 15000 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| ①『虚構定理』=条件:このサーヴァントが存在する。 ②『フルアクセル』 ③『ストライク3』 ④攻撃時に発動可能。自分または相手の場のサーヴァント1枚を選択して消滅させる。自分の場のサーヴァントを選択したなら、攻撃権を回復する。(「虚構堕天使ホロエル」のこの効果による攻撃権の回復は1ターンに1回まで) ⑤各ターンエンド時、またはこの効果以外で場を離れた時に強制発動。このカードを消滅させ、サーヴァント「虚構天使ホロエル」1枚を生成してデッキに加える。 |
黒い稲妻のような球体がホロエルの全身を包み込み、それが一瞬にして弾け飛ぶ。
殻を破るようにして中より現れたホロエルは、美しかった銀の髪を禍々しい漆黒に染め、黒く輝く光輪を頭上に、漆黒の翼を背に纏っていた。
ホロエルの新たな姿に、固唾を呑んでデュエルを見守っていた全員が息を呑む。
「『虚構堕天使ホロエル』は『フルアクセル』を持っている。よって書き換えられたターンでもライフカウンターへ攻撃が可能。さらに『ストライク3』により、一度に3つのライフカウンターを破壊することができる」
「っ!? 『フルアクセル』と『ストライク3』ですって!?」
「さらに2体目の『虚構天使ホロエル』の効果。1体目と同じく、これを堕天させる」
スペル『レプリカント・プラン』で複製し、新たに出した2体目のホロエルもまた同じように漆黒の卵に身を包み、その姿を黒く染め上げる。
擦り切れてボロボロのワンピースを纏う彼女は、世界の終末に降臨した最後の天使のようでもあった。
「行くよ、ノゾミ。私は1体目の『虚構堕天使ホロエル』でライフカウンターへ攻撃。そしてこの瞬間、『虚構堕天使ホロエル』の効果発動。これが攻撃する時、自分または相手の場のサーヴァント1体を選択して消滅させる。私はあなたの場の『【審判】の熾天使イヴリエル』を消滅させる」
イヴリエルは召喚に成功した時、次の自分のターンスタート時まで他の一切の効果を受けなくなる効果がある。
だが、すでにその効果は切れている。今ならば問題なく効果による除去が可能だ。
黒き稲妻を帯びる新たな槍を手に、ホロエルが一瞬にしてその姿を消す。
そして虚数の術式とともに自身を再構築し、イヴリエルの真正面へと転移すると、躱す暇も与えず彼女を漆黒の球体の中に包み込んだ。
漆黒の球体が破片を飛び散らせ、弾け飛んだ時、そこにさきほどまで存在した審判を司る天使の姿はなく。
ただ光の粒子が、彼女の存在していた証を示すかのように、ほんのひとしずくだけその場に残されていた。
「イヴリエルッ!」
「あなたのデッキの理念を考えれば、私のサーヴァントのコストがエナジーの最大値以上の時に使用できる『Qアクション』なんかもあるかもしれないから。ライフカウンターを破壊する前に、私のサーヴァントのコストを上げてきているイヴリエルは確実に消させてもらう」
私をこんなギリギリまで追い詰めたデュエリストは、ノゾミが初めてだ。
たとえ勝利の道筋が見えていようとも、最後まで油断はしない。
一手一手、着実に彼女を詰ませていく。
「攻撃時効果が終了。そして『ストライク3』。攻撃により、あなたのライフカウンターを3つ削る」
| 光華ノゾミ | ライフ:8→5 |
|---|
「っ、くっ……! 発動できる『Qアクション』は、ありません……!」
「『炎槍竜クリムゾンブレイカー』でライフカウンターへ攻撃。『ストライク2』」
| 光華ノゾミ | ライフ:5→3 |
|---|
「ぐっ、ぅぅぅっ……!」
黒き槍と炎の槍が連続してノゾミのライフカウンターを穿ち抜き、ノゾミがその衝撃で後方へと押しやられる。
しかし決して膝をつくことはせず、ノゾミは奥歯をギリッと噛み締めて必死にその場に踏み止まると、私を強く睨み据えてきた。
「しかし……しかしです! これであなたの場の攻撃権を消費していないサーヴァントは、残るは『虚構堕天使ホロエル』1体のみ! 私のライフカウンターはすべて削られてしまいますが……そのサーヴァントだけでは、ダイレクトストライクまでは詰め切ることはできません!」
「……その諦めない心意気は認めるけど、言ったはずよ。もうあなたのターンは来ないって。私は2体目の『虚構堕天使ホロエル』でライフカウンターへ攻撃。そしてこの瞬間、『虚構堕天使ホロエル』の効果発動。自分か相手の場のサーヴァント1体を選択して消滅させる。私はこの効果で、すでに攻撃権を消費しているもう1体の『虚構堕天使ホロエル』を消滅させる」
「自分のサーヴァントを消滅させるですって!? それになんの意味が……」
「そしてこの効果で自分のサーヴァントを消滅させた時、1ターンに1度だけ『虚構堕天使ホロエル』は自身の攻撃権を回復する」
「なっ……!?」
クリムゾンブレイカーを引き当てたその瞬間から、ここまでの展開はすでに見えていた。
私にとって、もはやこれは詰めデュエルと同じだ。
ただ冷静に、順序を間違えないように、手順を一つずつこなしていくだけでいい。
「攻撃の続き。『ストライク3』。残ったライフをすべて削り取る」
| 光華ノゾミ | ライフ:3→0 |
|---|
「きゃぁあああっ!?」
「……これで、あなたのライフは0。私の場には攻撃権を回復した『虚構堕天使ホロエル』が1体残っている……ここまで来れば、あなたも自分の末路を直視せざるを得ないでしょ?」
幾度となく自身の優位を……自身の正しさを主張し、私や皆の言葉を頑として聞き入れなかったノゾミが、ついに絶望に染まった表情で力なく膝をつく。
自分の考えが間違っていることを認め、自分自身を疑うことができないのは、もはや彼女の敗因にしかならない。
「……な、なぜ……なぜなのですか……!」
……しかし。
それでもなお、彼女は自身の失敗を受け入れることができないのか。
顔を上げてホロエルのことを睨むと、震える声で私に訴えかけた。
「なぜですか、無空さんッ! 横を……あなたの隣にいる、その偽りの天使の姿を見てください! 黒く、禍々しく、悪意に満ちているッ! その穢らわしい姿こそが、虚構天使の本性なのです! それだけ近くにいながら、なぜあなたはそれに気がつこうともしないのですか!?」
「……」
「私はかつて、『虚構天使アリエル』をこの目で見ました……! そして確信したのです! 虚構なる天使に、心などというものは微塵もありはしないのだと! その口から出る言葉、その行動、すべてが出まかせの偽りです!」
「……」
「無空さんの心の弱みに付け込み、その心の拠り所となるように振る舞うことで、『虚構天使ホロエル』はあなたの心の中心に居座った! 自らの思うがままに動く操り人形……いざとなれば儀式を行い、あなたの身体を乗っ取ろうとしていただろうことは想像にかたくありません!」
「……もういい」
「人の心の痛みを理解できず、人の幸せを食い物としか思っていない醜悪な怪物……! それが、それこそが虚構天使の正体なのですッ! 未だあなたを依り代とせず、あなたを泳がせていることも、どうせなんらかの悪辣な目的のために利用しようとしているからに決まっています! 私はそんな虚構天使の悪意から、あなたを守――」
「もういいって、そう言った」
ノゾミの言葉を遮って、ピシャリと切り捨てる。
ホロエルの心を知ろうともしない人が口にする、まったくもって的外れなホロエルの悪口なんて……もう一言も聞きたくない。
……結局のところ、私は、ホムラやエミリアのようにはなれないのだろう。
デュエルを通して、その人の心を理解して、手を差し伸べて友達になろうって言えるような……そんな人には、なれないんだ。
私にとってデュエルは戦場で、ただ相手を叩きのめすことだけが、私のデュエルのすべてだったから。
もしかしたらホムラやエミリアだったら、ノゾミとも理解し合うことができたのだろうか。
ホロエルの心を、彼女に伝えることができたのだろうか。
私にはまだ……そのやり方がわからない。
だから……私は私なりのやり方で、このデュエルにケリをつけることにした。
「ホロエル。最後の一撃をどうするかは、あなたが決めて」
このデュエルはホログラムではなく、デュエルエネルギーによってサーヴァントもスペルもすべてが実体化している。
その気になればダイレクトストライクを無防備な相手に当てて……大怪我を負わせることだってできる。
ホロエルは私の指示にパチパチと目を瞬かせた後、やがて静かに頷きを返した。
……ホロエルがどんな選択をするかは、初めからわかっている。
それでも私は、最後の一撃の裁量をホロエルに託すことにした。
「私は『虚構堕天使ホロエル』で、ノゾミにダイレクトストライク」
「っ……わ、私は……私はッ――――!!」
ノゾミの掠れた絶叫が響き渡る中、ホロエルは彼女の目の前に躍り出ると、手にした槍を振りかぶる。
そして一切の躊躇なく槍を振り抜くと――。
| 光華ノゾミ | ライフ:0→×(敗北) |
|---|
……ノゾミの身体の横をすり抜けるようにして、ホロエルはその槍の切っ先を、ノゾミの背後の地面へと突き立てるのだった。
②「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」が減る時、代わりに増やす。(上限:1ターンに1回)
③自分のターンエンド時に発動可能。自分の場の『虚構定理』を持つすべてのサーヴァントのHPを全回復する。
②『アクセル』
③『ガード』
④場にある限り、このカードのコストは「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」と同じとして扱う。
⑤ATKとHPに「自分の場を離れた『虚構定理』を持つカードの数」×1000を+する。
⑦自分のターンエンド時に発動可能。カードを1枚引き、攻撃権を回復する。
カード制作裏話
・完全虚構証明
相手のターンを強制終了というロマンに溢れる最後の効果が判明したエリア。ただし条件がライフカウンターが4つ以上破壊されたターンにダイレクトストライクを受けることと非常に厳しく、効果を使ってしまうとホロエル以外のリソースがすべてなくなってしまうため、あまり能動的に発動を狙うべき効果ではない。対ワンキルの保険程度にはなる。ちなみにかつてのホムラ戦では最終的にライフが0、エミリア戦ではライフが2まで削られてしまっていたので、仮にそこからダイレクトストライクを受けてしまっていたら止めることができず、そのまま負けて普通にデュエルが終わっていた。
・虚構天使の槍
いつもの。ホローラいつもありがとう。
・炎槍竜クリムゾンブレイカー
会長特攻ドラゴン。ホムラお前なに渡しとんねん。かつての初登場時は噛ませとして扱われたが、今回は面目躍如の活躍をした。尽滅の定めも初登場時は噛ませカード扱いだったので、やはりカードは使い手と状況次第で如何様にもなることを実感させてくれる。
・虚構堕天使ホロエル
ついに判明したホロエルの別形態。もといフィニッシャーと化したホロエル。通常形態ホロエルが防御重視なら、こちらは攻撃重視。コスト1でフルアクセル&ストライク3&攻撃時1体消滅&条件付き攻撃権回復と殺意に満ち満ちた性能をしているが、ターンエンド時または場を離れた時に消えてしまうデメリット効果も抱えてしまっている。加えて通常形態ホロエルにあったようなガードやドロー効果なども消失してしまっているので、強いからと言って勝負を決め切れないタイミングで雑に堕天すると、リソースが切れ、かえってピンチに陥ってしまう局面もあるだろう。複製カードや蘇生カードを駆使し、複数枚を並べて一気に攻め切れるようにプランを練っておく使い方が吉。