可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く   作:にゃっとう

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66.はぁ……好き……好き好き好き……私もホロエルが好き……大好き……えへへ……

「ホロ、エル……」

 

 手を伸ばす私の姿を見て、マスターもその意図を察したように遠慮がちに手を差し出す。

 一歩、二歩、三歩。

 期待と不安の狭間で揺れる足取りがゆっくりと互いの距離を詰め、ついに私とマスターの指先が触れ合った。

 いつもなら透過して交差してしまう手と手が接触を伴って、指先が絡む。

 マスターの手から伝わる体温がじんわりと私の身体に馴染むにつれて、私の中で、この身体が幻ではなく現実だという実感が強まっていく。

 それは奇跡のようでありながら、とても当たり前のような、そんな不思議な感覚だった。

 

「すごい……ホロエルが動き出して、もう10秒は経ったのに……まだ、動いてる……ホロエルを感じる……」

 

 マスターを見上げる私の視線と、期待の色が濃くなったマスターの視線とが交錯する。

 

「ホロエル。まだ大丈夫……? 義体が急に動かなくなったりしない……? 私の声、ちゃんと聞こえてる……?」

 

 大丈夫! まだまだ動くし、ちゃんと聞こえてるぞ!

 

 私がいつものように破顔しながらコクコクと頷きを返すと、マスターはほんのわずかに目を丸くした。

 そして次の瞬間、彼女は喜びを爆発させたかのようにギュッと私を抱きしめてくる。

 夢にまで見た私との触れ合いにテンションが上がっているのか。はたまた、同じく抱きつき癖のあるホムラの影響でも受けたのか。

 身長差によって彼女の胸に顔を埋める形となり、少し呼吸がしづらい。

 けれどそんな苦しさなど気にならないほどに、全身を通して伝わってくる温もりと鼓動の感触が心地良かった。

 

「えへへ。どうですか? 無空ちゃん、ホロエルちゃん。SHAの感想は」

「……信じられない。夢みたい……」

 

 モモリの問いかけに、マスターは言葉通り夢見心地と言った様子で答えた。

 その間も彼女はギューッと私を抱きしめたままだ。

 そんなマスターの胸から顔を出して、私も答えようと口を開いたが……あー……。

 ……うーむ。やっぱり声は出ないか……。

 

「ホロエル?」

「……やっぱり、ホロエルちゃんは喋れないタイプのソウルハート・サーヴァントなんですね。ホロエルちゃんほど自我が強いソウルハートなら喋れてもおかしくはないはずなのですが……サーヴァントとしての特性が原因なんでしょうか?」

 

 口を開いた私の仕草から、私がなにをしようとしたのかを察したのだろう。

 モモリが思案するように唇に手を当て、小首を傾げる。

 

「……さっきホロエルの義体の状態を調整したみたいに、ホロエルを喋らせてあげられるようにすることはできないの?」

「うっ……ごめんなさい。それはできないんです……義体の調整はあくまで外見の装甲の形状と感触を変化させただけで、声帯のような中身まで変えられるわけじゃありませんから。それに、憑依するサーヴァントと義体の親和性の問題もありまして……サーヴァント固有の特性を無視し、根幹に関わる部分の機能を下手に弄ってしまうと、同調率が著しく低下してしまうリスクがあるんです」

「その同調率っていうのが下がると、なにか問題があるの?」

「五感の再現に支障をきたしたり、エネルギー効率が低下したり、そもそも憑依ができなくなってしまうなどなど……悪いことしか起きません……」

「……そっか」

 

 マスターがしょぼくれたように項垂れる。

 私もホムラやエミリア、センカ、ノゾミにイサネにモモリ……皆やマスターと話せるようになりたかったけど、こればっかりはしょうがない。

 

 けれどモモリは、そんな私たちを励ますように続けた。

 

「ですが、解決方法がないわけではありません! 声が出せなくても、自分の意思を伝える手段はいくらでもありますから!」

「……? それって……?」

「こちらです! どうぞ、ホロエルちゃん!」

 

 と、モモリが机の引き出しをゴソゴソと漁り、そこから取り出したものを私に差し出した。

 マスターの背中をポンポンと叩いて抱擁を解いてもらい、私はそれを受け取る。

 

 これは……タッチペン付きのタブレット?

 いや……そうか。なるほど。確かにこれなら私も……。

 

「あ……タブレットの画面に文字を書く、ってこと?」

「そういうことです! これならホロエルちゃんも、私たちとお話できますよね?」

 

 むふん、と鼻を鳴らして得意気に胸を張るモモリ。

 こんな一瞬でこのような対処法を思いつくとは……やはり天才か……。

 

 確かにモモリの言う通りだ。

 今の私は喋れないだけで身体は問題なく動かせるし、物理的な接触に制限がない今なら文字くらい余裕で書ける。

 今までは10秒という短い時間しか実体化できなかったために筆談もできずにいたが……。

 これなら私でも皆の会話に参加ができるようになるぞ!

 SHAに続いて、またしてもモモリから素晴らしいものをいただいてしまった。

 

 私は早速タブレットを起動し、試しに文字を入力してみた。

 画面の上でタッチペンを走らせ、思い描いた文字をスラスラと綴っていく。

 文字を書くのが久しぶりすぎて、少し書き方は不格好になってしまったけど……読めないほどではないはずだ。

 

【ありがとう! モモリ!】

 

 画面に今の私の思いを書き上げて、皆に見せる。 

 マスターとモモリ、それにノゾミが、私の書いた文字に視線を落として微笑んだ。

 

「えへへ……どういたしまして。ホロエルちゃん!」

 

 モモリが嬉しそうにはにかむ。

 そしてそんな私たちのやり取りを見て、マスターの瞳がより一層輝きを増した。

 

「ホロエル、私も……私のことも、書いてくれる……?」

 

 タッチペンを持つ私の手に指を這わせて、マスターが甘えるように強請る。

 かわよ……我が妹ながら最高にかわよ……。

 こんなにあざとく甘えられたら、お姉ちゃんなんでも言うこと聞いちゃうぞ!

 

 私は求められるままにタブレットの画面に向き直り、早速マスターへのメッセージを書き始める。

 マスターは普段から私の意図を察してくれる。それでも、これは私からマスターへ送る初めての直接のメッセージだ。

 さっきより少し緊張するけど、しっかり書かないとな……。

 ふむ。この字は綺麗な円を描けたぞ……次はこの字が肝心だから慎重に……よしよしよし。

 最後にこの字も綺麗な線を引いて……うむ。ばっちりだ!

 

【マスター! 大好き!】

 

「っ……!」

 

 私の書いた文字を読んだマスターは、一瞬驚いたように目を見開いた。

 そしてすぐに瞳を揺らめかせると、またしてもギューッと私を強く抱きしめてくる。

 さっきよりも強めの抱擁だ。

 ちょっと苦しいけど……マスターの背中に腕を回し、私も負けじと抱きしめ返す。

 

「はぁ……好き……好き好き好き……私もホロエルが好き……大好き……えへへ……」

 

 お、おぉう……!?

 マスターが甘えてる! かつてないくらい全力で甘えてきている……!

 実にお姉ちゃん冥利に尽きる状況だけど……。

 その、そんなに好き好き連呼されると、さすがにちょっと照れると言いますか……。

 

「ねぇ、ホロエル……私……今、すっごく幸せ……」

 

 私の髪に顔を埋めながらマスターが呟く。

 甘く蕩けたような声音が鼓膜から脳髄まで響き渡り、思わずビクリと肩が跳ねた。

 どうしてか、私の頬が一気に熱を帯びていく。

 

「……ホロエル? もしかして照れてるの? ……可愛い」

 

 マスターのイタズラじみた囁きが私の耳朶を打つ。

 反論しようにも、抱きしめられているせいでタブレットを操作できない。

 どうにかして文字を書こうと身動ぎをするが、そんな私の密やかな抵抗を察したマスターが意地悪をするように拘束を強めてくる。

 

 ぐ、ぐぬぬ……!

 お姉ちゃんをからかうのはやめなさい! 悪い妹め!

 悪い子にはお姉ちゃんによるくすぐりの刑を執行するぞ!

 

「ふ、ふふ……あははははっ! やめてホロエルっ……!」

「……ふふっ。無空さんがこのように笑われる姿を拝見するのは、初めてですね」

「はぅわ……! 尊い……っ!」

 

 すっかり蚊帳の外となってしまった二人はそんな私たちを生暖かく見守り、モモリなんかはデュエルガントレットで写真まで撮影し始めていた。

 というかモモリさん……? 君そんなキャラだったの……?

 いやまあ写真くらい別にいいんだけども……!

 ……マスターが笑ってるところの写真は私も欲しいので、あとでタブレットにもデータを共有してくれると嬉しいぞ!

 

 ひとしきりじゃれ合った後、マスターはようやく私を解放し、モモリの方に向き直った。

 

「……モモリ。SHAって、すごいね。ホロエルとこんな風に触れ合えるだなんて、本当に夢みたい……」

「えへへ。そう言ってもらえると、頑張って研究を続けた甲斐がありますね。気に入っていただけてよかったです!」

「……うん」

 

 一見するとなにも気にせず私に甘えてきたように見えたが、やはり私と気兼ねなく触れ合えるという事実に、無意識のうちに舞い上がっていたのだろう。

 落ちついた今になって、モモリやノゾミ……他の誰かに見られていたことに恥ずかしさを覚えたらしく、ほんのりと頬を赤らめていた。

 しかし後悔はしていないらしく、その顔は晴れやかに緩んでいる。

 

「ホロエルはどれくらいの時間、この状態を維持できるの?」

「現在のホロエルちゃんのソウルハート・エネルギーの消耗量から計算すると、およそ8時間は持つと思われます」

「8時間……そんなにたくさん?」

 

 目を瞬かせて感嘆するマスター。

 しかしモモリは厳しい表情で首を横に振った。

 

「いいえ、まだまだです。SHAは、理想的な連続稼働時間を16時間として設計しています。16時間の稼働、8時間の充電。人間の起床と睡眠のサイクルをモデルとした計24時間のサイクルでの安定運用を可能にすることが、私の研究の目標の一つです。その半分程度の稼働時間では、及第点すら取ることはできません……」

「……」

 

 迷わず即答したモモリに、マスターは思わず瞠目して押し黙った。

 8時間も維持できればじゅうぶんだろうと、そんな思考を妥協として許容しない。

 その真剣な眼差しは、普段の内気で臆病な彼女からは想像もつかないほど凛としたものだった。

 最初こそ面食らっていたマスターだったが、モモリの横顔を見つめ、やがて納得したように頷きを返す。

 

「そっか……モモリの夢は、人間とソウルハート・サーヴァントが肩を並べて生きていけるようにすること。それを叶えるためには、8時間じゃ全然足りないのね」

「はい……って、あっ! ご、ごごごっ、ごめんなさいっ! せ、せっかく褒めていただいたのに、水を差すようなことを言ってしまって……! わ、私ったらつい……!」

「ううん、大丈夫。おかげでモモリがどれだけ自分の夢に真剣か、なんとなく伝わってきたから」

「え、えへへ……そ、そうですか……?」

 

 モモリは顔を真っ赤にして視線を彷徨わせて、モジモジと両手の指を擦り合わせる。

 最初に彼女と顔合わせをした時は、その自信なさげな姿に一抹の不安を覚えたりもしたものだが、今はその芯の強さを知っている。

 私とマスターは顔を見合わせると、どちらからともなく頷き合った。

 

 それから私は、モモリの監督のもと義体の状態チェックを進めていった。

 

 腕を上げたり、足を上げたり。

 手を握ったり、床を踏ん張ったり。

 ジャンプしたり、走ったり、止まったり。

 それらの一つ一つを試しては、モモリが私とモニターの数値とを交互に睨めっこして記録を取っていく。

 その過程で私も、義体の使い心地を隅々まで確かめていた。

 

 身体能力は見た目通りの少女そのものであり、特に飛び抜けた能力を持っているわけではない。

 自分の力で作った身体ではないから、ソウルハート・サーヴァントとしての力を発揮できないという点も間違いはなさそうだ。

 どうしてもソウルハートとしての力を行使したい場合は、一度義体から抜け出して自分の力で実体化する必要があるだろう。

 

 五感は……若干感度が低い、気がする。

 義体を得た直後は興奮でほとんど気にならなかったけど、こうして細かくいろいろと確かめてみると、ほんのわずかだが違和感がある。

 タブレットを使ってそんな私の感覚をモモリに伝えると、彼女は神妙な面持ちでモニターにデータを打ち込んでいた。

 

「むー……ホロエルちゃんの所感に間違いはなさそうですね。感度の鈍さのほか、光を当てた際の瞳孔の変化と言った反射速度の計測数値を精査した結果、感覚器官の反応に0.05秒程度の遅れが見られました。おそらくは同調率の問題でしょう。79.4%……稼働に支障のない数値ではありますが、ラフィエルちゃんに測ってもらった時と比べて低いですし……やはり各パラメーターにはどうしてもソウルハートごとの個体差が出てしまうみたいです」

「……どうにかできそう?」

「はい! 今回取ったデータをもとに最適化を施せば解決は可能です……! ただ、汎用化を目指すならソウルハートごとに手動で調整が必要な今の仕組みはどうにかしないと……自動で最適なパラメーターを解析して設定するアルゴリズムを組めれば良いのですが……むむむ……」

 

 モモリがモニターの前で唸り始める。

 マスターもマスターで、自分の望みを叶えてくれたモモリの力になりたいと思っているのだろう。

 彼女の作業を後ろから覗き込み、わからないなりに意見を述べ、一緒に難しい表情を浮かべていた。

 

「……ホロエルさん」

 

 そんな彼女たちを微笑ましげに見守っていたノゾミが、ふと私に近づいてくる。

 義体の性能の計測が終わったことで、私はちょうど手持無沙汰になっていた。

 マスターとモモリ。話し合う二人から少し離れた場所で、私もノゾミと向かい合う。

 

「少々懸念もありましたが、どうやら無空さんとモモリさんの仲は良好のようですね。SHAの稼働テストの第一段階につきましても、このぶんであれば大きな問題はないでしょう」

【ノゾミのおかげ! ありがとう!】

 

 二人が仲良くなれるように、ノゾミがそれとなくサポートしていたことはわかっていた。

 早速タブレットを使って意思疎通を図ると、彼女はくすりと小さく微笑みをこぼした。

 

「いいえ、ホロエルさん。私はただモモリさんを紹介しただけですよ。今のこの関係やホロエルさんのその身体は、あなたがたの歩み寄りがあってこそのものです」

【でも、キッカケをくれたのはまちがいなくノゾミ】

「ふふ。そこまで言ってくださるなら、遠慮しすぎるのも失礼というものですね。では、そういうことにしておきましょう」

【うむ!】

 

 胸を張って私が頷くと、ノゾミは穏やかに微笑みを返し、準備室の出入口に視線を向けた。

 

「イサネに仕事を任せきりにしてしまっているので、私はそろそろ失礼しようかと思います。集中しているお二人の邪魔をしたくありませんので……お手数ですが、折を見てホロエルさんの方からその旨をお伝えいただけませんか?」

【わかった! ノゾミも大変だろうけどがんばって!】

「ありがとうございます。ホロエルさんもなにか困ったことがありましたら、いつでも遠慮なくおっしゃってくださいね。無論その程度であなたに対して行ってしまった数々の非道な仕打ちへの罪滅ぼしになるとは思っていませんが……私にできることがあるなら、できる限りのことはさせていただきたいですから」

 

 言いながら罪の意識に苛まれたように、ノゾミは沈鬱とした表情で視線をそらす。

 

 う、うーん……。

 元からそんな気にしてなかったし、もうちゃんと謝ってくれたし、皆も許したし。

 むしろこうして力になってくれてるぶん、お礼を言いたいくらいなんだが……。

 ノゾミはちょっと罪悪感で自分を縛りすぎじゃない?

 責任感が強いのは立派なことだが、きちんと自分のことも大切にしてあげないと、いつか心が疲れて壊れちゃうんだぞ……。

 とは言っても、ここでそんなことを言っても余計に気負わせちゃうだけだろうし……よし!

 

【じゃあ、ラフィエルに会わせて!】

「ラフィエルに? 今、ですか?」

【うん! 時間は取らせないから!】

「ふむ……ホロエルさんもご存知の通り、ラフィエルはかつての黒死との死闘の後遺症で力のほとんどを失ってしまっています。モモリさんの協力もあって少しずつ力を取り戻してはいるのですが……言語能力や実体化能力は未だ戻っておらず、会話は難しいというのが現状です。それでも構いませんか?」

【大丈夫!】

「わかりました。そこまでおっしゃるのであれば……ラフィエル。出てきてください」

 

 ノゾミが呼びかけると、彼女の隣で燐光が揺らめいて、一人の天使が半透明の姿でその場に降り立った。

 ふわりと揺れる艶やかな金髪、柔和な眼差しを湛えた蒼い双眸。私と違って大人の女性らしい肢体に、清廉な純白の衣装を纏った少女。

 ノゾミのソウルハート・サーヴァント、『【慈愛】の熾天使ラフィエル』。

 頭上に煌めく光輪を浮かべ、背に三対の純白の翼を広げたその神聖な姿は、まさしく天上の御使いと呼ぶに相応しいものだった。

 

 主人たる使い手を守護するソウルハート・サーヴァントとして、デッキの中で控えていながらも外の様子は把握していたらしい。

 彼女は両膝に手をついて私と視線を合わせると、どうしたの? と私の用事を確かめるように首を傾げた。

 私はタブレットに文字を書き、その内容を彼女に見せる。

 

【SHAのテスターの役目をゆずってくれて、ありがとう!】

『……!』

 

 SHAという義体を介し、マスターや皆と気兼ねなく触れ合えるようになったことは、私にとって本当に大きな出来事だった。

 だからこそ、自分の意思で誰かに言葉を伝えられるようになった今、そのために力を貸してくれた人たちにはきちんとお礼を伝えたいと思っていた。

 SHAの製作者たるモモリはもちろんのこと、私に身体を与えたいと最初に望んでくれたマスター。その想いを汲んでモモリを紹介してくれたノゾミ。

 そしてSHAのテスターという役割を、おそらくは私のために譲ってくれたであろうラフィエル。

 

 ノゾミにささやかな願いを叶えてもらって、彼女の心の負担を減らすとともに、私も私でラフィエルに伝えたいことを伝えられる……。

 ラフィエルに会いたいという私の要望は、まさしくそんな一石二鳥の狙いがあったわけだ。

 

 私が書いた感謝の言葉に、ラフィエルは少し驚いたように目を見開いた。

 しかしすぐにふわりと柔らかな笑みを浮かべると、そっと私の頭を撫でてくる。

 ナデナデ。ナデナデナデ。ナデナデナデナデ―――。

 

 ……む……むむぅ……?

 最初は普通に撫でてくれてるだけだったけど……ラフィエルさんや。

 なんかその、撫でるスピードがどんどん加速してません……?

 なんだろう……こう、なんというか……すごく可愛がられてるような感覚が……?

 

「ふふ。ラフィエルにとってホロエルさんは、とても可愛い後輩のようなものなのかもしれませんね。罪を憎んで人を憎まず……慈愛とはなんたるかをその振る舞いを以て証明してみせたあなたに、同じ天使として深く心を打たれたのでしょう」

 

 ニコニコと私の頭を撫で回すラフィエルを眺め、ノゾミはその心中を推し量るように言った。

 

 な、なるほど……?

 っていうか慈愛って……なんか大袈裟じゃない?

 私は別にそんな大層な考えで動いてないというか、皆仲良くできたらいいなってくらいにしか考えてないんだけど……。

 それに私は、天使とは言っても虚構天使……名前的におそらくは偽物の天使なわけで。

 500年以上も前から多くの人々を守るために力を尽くしてきたラフィエルとは異なり、私はマスター一人を守るためだけにその力を振るっている。

 天使としての格とか、立派度合いで言えばラフィエルの方が段違いで上だし……ちょーっと私のこと買い被りすぎではなかろうか……?

 そんな感情を込めてラフィエルを見上げてみるが、彼女はふるふると首を左右に振って微笑むと、またしても私の頭を撫でくり回してくる。

 なぜに……? なぜにそんなにも可愛い後輩扱いなのだ……?

 

 ……まあ、いいや!

 とりあえず言いたかったお礼は言えた。

 感謝の気持ちはじゅうぶんに伝わってくれたみたいだし、ひとまずはこれで良しとしよう。

 

 ノゾミには生徒会の仕事もある。

 これ以上引き止めるのも悪いので、私は最後の挨拶をタブレットに書き留めた。

 

【またね! ノゾミ、ラフィエル!】

「ええ。またお会いしましょう、ホロエルさん」

『♪』

 

 ノゾミは穏やかな微笑を浮かべ、ラフィエルは名残惜しそうに手を振りながら、二人は準備室を後にした。

 マスターとモモリは、今なお難しげに顔を突き合わせて話し合いを続けている。

 そんな彼女たちの様子を一瞥し、私は改めて自分の新しい身体を見下ろしてみた。

 顔の前に手を掲げ、その指を一本一本を曲げ伸ばししては、天井の電灯へ向かって掲げてみる。

 私は今、確かな実体を持ってこの世界に在る。

 機械による仮初とは言え、10秒という時間の制約を気にせずに自由に肉体を動かせる実感に、私の心は否が応でも躍り始めていた。

 この身体があれば……きっと今までできなかったたくさんのことができる。

 マスターやホムラ、エミリアにセンカ。皆の日常の輪の中に、本当の意味で私も混ざっていけるかもしれない。

 

 まあもちろん、SHAのテスターとしての仕事が優先ではあるんだけど……。

 この稼働テストの第一段階が終わった後は、次はいよいよ屋外での運用が始まるはずだ。

 だとすればきっと、私が抱く小さな期待を叶える機会も巡ってくるだろう。

 まだ見ぬ未来に想いを馳せて、私は頬を緩めずにはいられないのだった。

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