可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
皆にSHAの存在を明かしてからの二日間――木曜日と金曜日は、あっという間に過ぎていった。
SHAを纏ったホロエルが、学園の敷地内とは言え屋外を歩き回ることに問題がないか。環境によって義体の安定性や操作性、感覚の遅延などに不具合が出ないか。
それらを確認するためのテストは滞りなく進行し、私たちは何事もなく土曜日を迎えた。
「あ、起きた? おはよう! メイちゃん!」
ベッドから上体を起こし、カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら瞼を擦っていると、元気いっぱいの声が降ってきた。
声の主は、私の最初の友達であり、同じ寮部屋で暮らすルームメイトでもある燃照ホムラだ。
いつもなら朝は布団から這い出てくることさえ渋るというのに、今日に限っては彼女は私が起きるよりも早くに目を覚まし、朝食の準備に取りかかっていた。
「ん……おはよう……今日は……ずいぶんと、早いのね……」
ベッドの上で伸びをして、言葉を返す。
まだ少しだけ、うつらうつらと瞼が重い。
時計を見れば、平日の登校日に起きる時よりも少し早いくらいの時刻だった。
「えへへー。だって今日はさ、新しいカードパックの発売日だし! それに実体を持ったホロエルちゃんとお出かけできる初めての日だし! もう楽しみで夜も眠れなかったよ!」
「……いつも通り、ぐっすりだった気がするけど」
「たとえだよ、たとえ!」
私の淡白なツッコミに、ホムラはむくれたように頬を膨らませる。
朝から元気なのは相変わらずだが、彼女の声のトーンは普段より明らかに弾んでいた。
今日という日の到来を心待ちにしていた彼女の機嫌は、推して知るべしと言ったところだろうか。
鼻歌交じりに食パンをトースターに入れていくホムラをボーッと眺めていると、半透明の姿をしたホロエルが私の視界に入り込むようにして顔を覗き込んできた。
おはよう! と。そう言ってふわりと微笑むホロエルに、私も小さく口角を上げて挨拶を返す。
「おはよう……ホロエル……」
今日もホロエルが可愛い。
こんなに可愛い存在が他にいるだろうか。いや、いるはずがない(反語)。
寝起きでぼんやりとした私の脳味噌に、見慣れた天使の笑顔がじんわりと沁み渡っていく。
半ば反射的に抱きしめようと腕を伸ばしたけれど、するりと半透明な身体をすり抜けて、勢い余って頭から毛布の中に突っ込んでしまった。
ぽすんっ、と柔らかな温もりに顔面が埋まる。
……無念である。
SHAのおかげでホロエルと触れ合える機会が大幅に増えたとは言え、常に義体に入っているわけではない。
メンテナンスや細かな負荷の解析、それに遠隔からでは正確に読み取れないデータの収集などなど。
そういった事情で、モモリに返却しなければならない時間も当然あるのだ。
口惜しい気持ちでしょぼくれていると、ホロエルがしかたがなさそうに手を伸ばして、実体のない身体のままナデナデと頭を撫でてくれる。
こんなに可愛い存在が他にいるだろうか。いや、いるはずがない(反語)。
「朝、トーストでいいよね? メイちゃんのぶんも作っておくからさ。メイちゃん顔とか洗ってきなよー」
「ん……ありがと……」
「どういたしまして! まあ、いつもはこういう朝のことってメイちゃんにやってもらってばっかりだから……たまには私がやらないとね!」
確かに、ホムラは朝が弱い。放っておくと遅刻しかけてしまうことも多々あり、朝食の用意は私が担当することがほとんどだ。
……まあ、寮暮らしが始まってすぐの頃は、ホムラのことなんて放って自分のことだけやっておけばいいか、なんて考えてもいたけれど……。
同じ食事を二人分用意するのにそんなに手間がかからないんだからと、ホロエルからホムラのぶんも用意するようにお願いされたことに始まり……ホムラと友達になってからは、誰に言われるでもなく自然とホムラのぶんの食事も用意するようになっていた。
それに、ホムラは朝は弱いが、そのぶん洗濯やらは率先してやってくれる。
家事の分担としてはそう悪い関係ではないだろう。
今まで私はホロエルと二人だけで生きてきたから、人と生活をともにするというのは少し慣れなかった。
だけどホムラはそんな私の負担も気遣ってくれた。
そうやって少しずつ私とホムラの距離は近づいていったのだと、今はそんな風にも思っている。
洗面所で顔を洗って、眠気を追い出してから部屋に戻ると、ちょうど朝食の準備が整ったところだった。
ジャムを塗ったトーストと、目玉焼きと、冷たい麦茶。
簡素だが美味しそうな朝食だ。香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
席について手を合わせるなり、ホムラがトーストにかぶりつく。
ホムラはいつも美味しそうに食べる。彼女の妹のセンカもだ。
同じものでも、彼女たちが食べると倍くらい美味しそうに見えてくるから不思議なものだ。
一方のホロエルはと言えば、私の隣にちょこんと座り込みながら、私たちが食事をしている姿を微笑ましそうに眺めていた。
ソウルハート・サーヴァントであるホロエルは、食事をする必要がない。
SHAであればホロエルとも食事の時間を共有できるかとも思ったが、どうやら五感の中でも味覚の再現は難航しているようで、現時点では食事の機能は未実装とのことだった。
申しわけなさそうに眉尻を下げつつも、「いつか絶対に再現してみせます……!」と意気込んでいたモモリの姿は記憶に新しい。
モモリとは出会って間もない。デュエル科学のことも私にはよくわからない。
だけど彼女がSHAの研究にどれほどの熱意を捧げているのかは、私にもじゅうぶんに伝わってきていた。
モモリがその宣言を実際に叶えてくれる日も、きっとそう遠くはないだろう。
「ごちそうさまでした!」
「……ごちそうさまでした」
二人揃って食事を終え、片付けを済ませる。
それから身支度を整えると、私たちは早速SHAを受け取りにモモリのもとへ向かうことにした。
ホロエルには、部屋の中ではホムラたちにも見える程度にまで存在の強度を上げてもらっているが、さすがに外でまでその状態でいてもらうわけにはいかない。
私にしか見えない状態になってもらうと、私たちは寮の部屋を出た。
デュエル科学研究部へと向かって歩いていると、不意にホムラがくるりと歩きながらこちらを振り返った。
「ねえメイちゃん。この前ショッピングセンターにお買い物に行った時、皆でメイちゃんに似合いそうな服を探し合ったじゃない? あの時の服、早速着てくれたんだね」
「……うん」
ここは学園の敷地内だが、今日は休日だ。
授業がないため、学生証さえ携帯していれば私服での出入りが許されている。
私は改めて自分の服装を見下ろしてみた。
私が着ているのは切り替えワンピースだ。上は無地で、下はタイタンチェックのフレアスカート。腰にリボンがついている。
全体的に暗めのトーンでまとめられた色使いで、可愛さの主張は控えめに、静かで落ちついた印象を与えるデザインになっている。
「それってホロエルちゃんに選んだもらったやつだよね? 似合ってるよ! なんだかいつもより大人っぽい感じがする!」
「……」
ホムラは私の全身を確かめるように私の周りをグルッと一周すると眺めると、屈託のない笑顔を咲かせた。
私は、なんだかソワソワと落ちつかなくなって、プイッと顔を背ける。
「あれ? ……メイちゃん、もしかして照れてる?」
「……照れてない」
「え~? でもなんか顔が赤いよ~?」
「照れてない。気のせい」
確かに、いつもより顔が若干熱を持ってる気がしなくもない。
だが、断じて照れくさいわけではない。これはきっと今が夏にさしかかった時期で、気温が暑いせいだ。
視界の端でホロエルが「意地を張っちゃってまあ」と言わんばかりに苦笑してるのが見えたが、私は努めて平静を装ってホムラへと視線を返した。
「……そういうホムラも、今日はずいぶんと女の子らしい格好なのね」
「へ? 私?」
私と同じで、ホムラがあまりおしゃれに頓着しない性格であることは把握している。
慣れないおしゃれを褒められる羞恥を彼女にも味わわせてやろうと、私はさりげなく話題の矛先を彼女へとそらした。
彼女が身に纏っているのは、鮮やかな桃色のサマーパーカーだ。薄手の生地は涼しげで、フードの縁やポケットの口にあしらわれた白いアクセントが可愛らしさを演出している。
インナーからは白いTシャツが覗き、その胸元には明るめの色合いのプリントが施されている。ボトムズには水色のスカートを合わせていて、歩くたびに軽やかに裾が揺れていた。
ホムラはそんな自分の格好を見下ろしたのち、なんとも言えない表情で頬を掻いた。
「いやー、せっかくのお出かけなんだし、偶にはおしゃれしてもいいかなって思ったんだけど……なんか私にはちょっと可愛すぎたかなぁ、なんて。私が服を着てるっていうより、むしろ服の方に着られてるっていうか……」
「そう? 普通に似合ってると思うけど」
「そ……そうかなぁ?」
からかうために話題を移したのは間違いないが、感想そのものは紛れもない私の本音だ。
ホロエルも私の横でうんうんと頷いている。ホムラには見えていないけど。
「ホロエルも『ホムラ可愛い。よく似合ってる』って」
「えっ? ホロエルちゃんが?」
だから、私が代わりにホムラに伝える。
SHAを得て、ホロエルが自分の意思を誰かに伝える手段を得たと言っても、こういう時のホロエルと皆を繋ぐ意思伝達は私の役目だ。
ホムラは一瞬だけホロエルを探すように視線を彷徨わせた後、ほんのりと頬を朱に染めて、照れくさそうに耳の辺りを弄った。
「あ、あはは……うん。ありがとう、メイちゃん。ホロエルちゃん。お世辞でも嬉しいなぁ」
「『お世辞じゃないよ。もっと自信持って』だって」
「ホ、ホロエルちゃんの褒め殺しだぁっ……!? か、勘弁してよーっ! 私そういうの柄じゃないんだってばー!」
耳の先まで茹で上がった顔を片手で覆いながら、照れくささを誤魔化すようにしてホムラが早足で歩き出す。
仕返しに成功した私は小さく口角を吊り上げながら、早足で進む彼女の背中をホロエルと二人で追いかけた。
デュエル科学研究部に到着すると、休日の午前であるにもかかわらず、部室の中からは活気ある声が漏れ聞こえてくる。
モモリが自分の研究に対して真摯であるように、他の部員たちも研究に余念がないようだ。
入り口の扉を開けると、あちこちに散乱した部品や設計図に囲まれ、熱心に議論を交わす部員たちの姿が見て取れた。
「おっ、来たっすね。部長ならいつも通り準備室にいるんで、どうぞって言ってたっすよ」
「ん。ありがと」
「いえいえー。またホロエルちゃんと遊ばせてくださいっすねー!」
モモリから伝言を預かっていただろう部員に軽く挨拶を返し、私たちは部室の奥にある鉄扉へと向かう。
SHAのことは、デュエル科学研究部に所属する者であれば全員が知っている。
その流れで『虚構天使ホロエル』が私のソウルハート・サーヴァントだということも当然バレてしまったが……まあ、そこまで積極的に隠しているつもりでもないので、大した問題ではないと思っている。
世間一般的にはソウルハート・サーヴァントの所持を知られることは悪人に目をつけられるリスクを孕んでいるけれど、私は多少のトラブルなら慣れっこだ。
それに立場上、自分の研究が外部に漏れることの危険性を重々承知しているだろう部員たちであれば、迂闊に情報を拡散させるような真似はしないだろう。
「モモリ。私、無空メイ。入るよ」
「あっ、は、はいっ! ど、どうぞ……!」
ガンガンと鉄扉を叩いて入室の許可を取る。
やや上擦ったモモリの声に招かれて中に入ると、準備室の奥では、SHAがすでに起動待機状態で整えられていた。
そしてその隣には、休日でも変わらず制服に袖を通し、その上から白衣を羽織ったモモリがいたが……今日に限ってはさらにもう一人、見知った人物の姿があった。
「ご無沙汰しております。無空さん、ホロエルさん、ホムラさん」
「あれ? ノゾミ先輩? えっと……おはようございます!」
穏やかに微笑むノゾミの姿を見て取って、ホムラが慌てたように少し背筋を伸ばす。
「ふふ、そう硬くなさらなくても大丈夫ですよ、ホムラさん。私はそれほど大した人間ではありませんから。どうぞ気楽に接してください」
「じゃあ……おはよう! ノゾミ先輩!」
「はい。おはようございます」
「……おはよう、ノゾミ。モモリも、おはよう」
「は、はい! おはようございます……!」
私はと言えば、常と変わらず淡々と挨拶を済ませた。ホロエルも隣でひらひらと元気に手を振っている。
挨拶を終えると、私はノゾミに向き直った。
「それで……どうしてノゾミがここに?」
元々、モモリを私に紹介して、SHAのテスターに推薦してくれたのもノゾミだ。
一応はモモリもノゾミと同じ生徒会の一員でもあるようだし、一緒にいること自体に違和感はないけれど……休日のデュエル科学研究部で顔を合わせるとなると、作為的なものを感じずにはいられない。
事実、彼女はやはり私たちに用事があったようで、私の問いに頷きを返しながら静かに口を開いた。
「実は先日、諸々の手続きが済みましたので、ホロエルさんに直接お渡ししたいものがあったのです」
「ホロエルに渡したいもの?」
「詳しいことは、ホロエルさんがSHAに乗り移ってからお話しましょう。モモリさん、お願いできますか?」
「は、はいっ! えっと……それじゃあホロエルちゃん、どうぞこちらへ……!」
モモリに促されるまま、ホロエルがSHAの前に立つ。
ホロエルが義体の胸部に埋め込まれた制御ユニットへと手を伸ばすと、白く滑らかな義体の表面を走る回路状の紋様が青白く発光し、次の瞬間にはその輪郭が揺らぎ始めた。
ナノフレーム構造がホロエルという個体に最適化されていく。
無機質な人型は見る見るうちに小さく華奢な少女の輪郭を形作り、その義体へと意識を移したホロエルが、ゆっくりと金色の瞳を開いた。
「ホロエルちゃん。調子はどうですか?」
【今日も絶好調! 問題なし! 私からもおはよう! モモリ、ノゾミ!】
「えへへ……うん。おはよう、ホロエルちゃん……!」
「おはようございます、ホロエルさん」
実体を持ったホロエルが元気よく挨拶をすると、モモリが嬉しそうに目尻を下げ、ノゾミが微笑ましげに目を細める。
無事にSHAへの乗り移りが完了したことを確認して、ノゾミが一歩前に出た。
「それではホロエルさん。こちらをお渡しします」
小首を傾げるホロエルに、ノゾミは手に持っていた封筒からカードと、それが収められたカードホルダーを取り出した。
首からかけるタイプの透明なカードホルダーで、カードの表面には学園の校章らしきエンブレムが印刷されている。
「学園への滞在許可証です。SHAに乗り移っている間は、肌身離さず身につけておいてください」
「滞在許可証?」
私が復唱すると、ノゾミがこくりと頷きを返す。
「無空さんやホムラさんのような生徒であれば、学園の出入りは自由に行えます。ですがホロエルさんは見た目こそ中等部の制服を再現していますが、実際にはこの学園の生徒ではありません。生徒の顔を把握している先生がたや、あるいは警備の方に呼び止められた場合、身分を証明できないと厄介なことになってしまう可能性があります」
確かに……言われてみれば、それもそうか。
これまでSHAに乗り移ったホロエルの活動範囲は学園の敷地内に限定されていた。それもデュエル科学研究部からそう遠く離れたところには、まだ足を運んでいない。
しかし今日みたいに学園の敷地外も含めて出歩くとなれば、その出入りの際に教師や警備員の目に留まる機会も格段に増える。
「そういったトラブルを未然に防ぐために、学園への滞在許可証の発行を申請しておいたのです。正式な生徒とは少々扱いが異なりますが、掲示することで学生証とほぼ同じ役割を果たしてくれます。持っていて損はないでしょう」
ノゾミはそう言うと、ホロエルの前に立って彼女の首に滞在許可証をかけた。
ホロエルは自分の胸元に下がったカードを両手で持つと、まじまじと眺める。
私も横から覗き込んでみる。するとそこには『無空ホロ』という名前が記載されていた。
「あまり褒められたことではありませんが……光華の名と生徒会長としての権限を使い、経歴や戸籍の方はこちらで都合しておきました。滞在許可証におけるホロエルさんの名前は、無空ホロ。年齢は14歳。無空さんの
「私の従妹? ホロエルが……?」
「はい。ご家庭の事情で家に誰もおらず、無空さんが面倒を見ている……という建前です。それゆえに無空さんやホムラさんと同じ部屋で寝泊まりすることもあるとして、そちらの許可証には寮の部屋への滞在許可も付随しています」
「確かに、メイちゃんとホロエルちゃんって結構似てるとこあるし。血の繋がった家族って言っても全然通りそうだよね」
ホムラがなんてことないように呟きを漏らす。
私とホロエルが、家族……。
ふふ、ふふふ……なんだかそれ、良い響き。
ホロエルもホロエルで「お姉ちゃんは私の方なんだぞ」と言いたげに口を尖らせていたが、なんだかんだで悪い気はしていないようだった。
その証拠に、口の端からは堪えきれなかった嬉しさがはみ出している。
「本来ならただの生徒の親族というだけで、こういった許可証を発行することはできません。ですが無空さんには、先月行われたクラス代表対抗戦での優勝実績があります。将来有望な生徒の身内ということで、風上ナチ先生のご協力もあり、特例としてどうにか認めていただくことができました」
「風上ナチ? って……?」
「メ、メイちゃん! うちのクラスの担任の先生だよ……!」
声を潛めつつも語気を強めるという器用な芸当をやってのけるホムラ。私はなるほどと得心がいった。
私たちのクラスの担任で、普段はのんびりした口調で授業を進める、緑髪ののほほんとした女性。彼女の名前が、風上ナチ。
……私たちのやり取りが聞こえていたのか、ホロエルがジト―ッと呆れを含んだ視線を私に向けてきているのに気づき、私はサッと目を逸らした。
いや、だって……担任の先生なんて、皆いつも先生としか呼ばないし……。
私だって、これでも最近はちゃんと人の名前を覚えるように努力しているつもりなのだ。
ただ……人の顔と名前を一致させるというのは、私にとって今までほとんど経験がなかったことで……。
こればっかりは、もう少し慣れるために時間をもらいたいところだ。
「ぬか喜びをさせてはいけないと思い、事後報告になってしまったことについてはお詫びいたします……これで少しでも、あなたがたを傷つけてしまった罪滅ぼしができていたらいいのですが」
【じゅうぶんすぎるよ! ありがとう!】
「私からも。ありがとう、ノゾミ」
「うんうん! もう私たち誰もそんなこと気にしてないよ。それにね、エミリアが言ってたよ。ノゾミ先輩はホロエルちゃんに酷いこと言っちゃったことをずっと気にしてて、それで思い詰めちゃってあんな風に体調を崩したんじゃないかって」
「エミリアさんが……?」
ノゾミが目をかすかに見開いて瞳を揺らす。
ホムラは彼女を励ますように朗らかに微笑んだ。
「だからさ。もう気にしないで……って言っても難しいかもしれないけど。ノゾミ先輩がすっごく責任を感じてるんだってことは、皆わかってるし。そんなに背負い込まなくたって大丈夫だよ」
ね? と私やホロエルに視線を向けてくるホムラ。
私たちはこくんと同時に頷きを返した。
ノゾミは静かに目を伏せて沈黙したのち……ふっ、と小さく息を吐き出した。
「……ありがとうございます。あなたがたにそう言っていただけると、少しだけ心が軽くなりました。エミリアさんにも感謝を伝えなければなりませんね……そういえば、エミリアさんとセンカさんは今日はどちらに?」
「エミリアはクラスの子の特訓に付き合ってあげる予定があるんだって。センカは、イサネ先輩となにか約束があるって言ってたような……? ノゾミ先輩はなにも聞いてないの?」
「イサネと? ふむ。特に聞いていませんね……ですが、イサネが私に囚われず自らの考えで交流を広げようとしているのであれば、喜ばしい兆候と言えますね。私が不甲斐ないせいで、あの子にはずいぶんと苦労をかけてしまいましたから」
「あー! ノゾミ先輩ってばまた自嘲してる……あんまり自分を責め過ぎたらダメだよ? そういうのって周りの人のことも心配させちゃうんだから」
「……そうですね。今はそのことが、身に染みて理解できているつもりです。肝に銘じておきます」
私たちとノゾミの間にあった確執をモモリはまだ聞かされていなかったようだ。
ホムラとノゾミが話している間、彼女はどこか不安げに視線を彷徨わせていた。
あとはノゾミが事情を説明してくれるだろうし……ひとまず世間話はこの辺りで切り上げていいだろう。
「ホムラ。そろそろ行く?」
「あ、そうだね! それじゃあモモリ先輩、SHAとホロエルちゃんのこと借りてくね! 夕方にはまた戻しに来るから!」
「は、はいっ! その……無空ちゃん。ホロエルちゃん。ホムラちゃん。い、いってらっしゃい……!」
「……ん。いってきます」
【いってきます!】
「いってきまーす!」
見送ってくれる二人に手を振って別れの挨拶をすると、私たちはデュエル科学研究部を後にした。
○オマケ
・メイちゃんのおしゃれ
義体とは言え実体を持ったホロエルとの初めてのお出かけなので、特別な格好で行きたいなと思い早速着てみた。
初めてのおしゃれをホロエルやホムラに見てもらえて、おしゃれをしたくなる女の子の気持ちがちょっとだけ理解できた様子。
ホロエルもご満悦です。
・ホムラのおしゃれ
意外と可愛いもの好き。パステルカラーのような明るい色合いを好む。
中学時代にエミリアに教え込まれるまでおしゃれとは縁遠い生活をしていた関係で、自分が可愛いものを纏うことにはあまり慣れておらず、指摘されるとすぐに照れてしまう。
どの服も胸の辺りがきついことが最近の悩みらしい。
・風上ナチ先生の協力
メイちゃんのクラスの担任の教師ということで話を通さないわけにもいかず、ノゾミの方から接触を図った。
「メイさんの力になれるなら~」と二つ返事で協力してくれたようだ。
ホロエルの正体は隠し、無空ホロというメイちゃんの従妹設定のまま話を持ちかけているので、ホロエルの正体はバレていないはずだが……。
・エミリアのフォロー
ノゾミ・イサネが謝罪をしたことで一応は丸く収まったとは言え、センカちゃんからの印象がまだあまり良くなさそうだったので、少しでも仲を取り持とうと裏でさりげなくフォローしていた。
おかげでセンカちゃんも「まあそこまで気にしてるんだったら……」とちょっぴり残っていた留飲を下げた様子。さすエミ。
・不安げに視線を彷徨わせるモモリ
いつメンとノゾミたちとの間であった話を聞かされていなかったのもそうだが、実はノゾミが心労でぶっ倒れたことも初耳だった。
ノゾミが体調を崩していたと聞き、描写外で「え!?!?」と一人慌てている。
この後きちんと話を聞き、たっぷり泣きながらノゾミを心配し、そんなに忙しいならと後日から研究の合間にちょくちょくお仕事を手伝いに行くようになった。
・センカちゃんとイサネの約束
以前イサネが使っていた冥土流護身術が気になり、こっそり接触してセンカちゃんの方から手合わせの約束を取りつけた。
ソウルハート・サーヴァントを持っていない? なら自分で戦えばいいじゃない。
(現状の戦闘力比:リバイヴH>>>イサネ>センカ>>ホルルン≧機械猫)