可愛い銀髪美少女天使カードとして転生した私、マスターを導く 作:にゃっとう
現在の時刻は、午前十時を少し回った頃。
夏の日差しが照りつけ始め、街は休日らしい喧譟に包まれていた。
舗装された歩道には、買い物袋を提げた家族連れや、スーツ姿の社会人、そして私たちと同じ私服姿の学生たちが軽快な足取りで行き交っている。
「いやー! 楽しみだなー、新パック! どんなカードが出るかなー!」
ホムラがスキップ混じりに歩くたび、スカートの裾がふわりと跳ねる。
いつも元気な彼女が、今日はそのテンションをさらに倍増させたかのように弾む足取りで私の半歩先を進んでいく。
「……ホムラ。少し早いわ」
「あっ! えへへ、ごめんごめん! つい嬉しくなっちゃって……」
私がたしなめると、ホムラはくるりとこちらに振り返りながら気恥ずかしそうに笑う。
日頃から表情豊かな彼女の今日の機嫌は、頭上に広がる青空よりも晴れやかに見えた。
そしてそれはある意味、ホロエルも同じだと言えただろう。
ホロエルはキョロキョロと忙しなくあちこちに視線を動かしながら、嬉しさを隠しきれない様子で街の様子に目を輝かせている。
SHAを介して得た身体で、こうして学園の敷地の外を歩くのは初めての経験だ。
たとえ見たことがある景色でも、実体を持って自分の足で歩くと見え方は大きく変わるのだと彼女の瞳が雄弁に物語っている。
そんな二人の楽しげな様子に小さく肩をすくめると、私は二人に歩調を合わせるように少しだけ歩くペースを早めた。
「……ホムラ? カードショップって、あっちじゃないの?」
「あ、そっちにもあるんだけどね。えへへ~、実は私一押しの店舗があるんだよ」
「一押し?」
私が指差した先には、大人気と評判の大型カードショップが鎮座していた。
まだ距離は遠いが、ここからでも新パックを告知する垂れ幕が華やかに掲げられているのが見て取れた。備え付けの巨大な液晶ディスプレイには大々的に新パックのCMが流され、店の前には長蛇の列が作られている。
しかしホムラはそちらの方向へは向かわず、目当ての店は別にあると言わんばかりに脇道へと逸れていく。
「いいからいいから! ついてきて!」
私はホロエルと顔を見合わせると、ホムラに促されるがまま、大通りから少し脇へと逸れた路地へと足を踏み入れていった。
周囲の喧騒が薄れ、喫茶店や古本屋と言った趣の店が軒を連ねる落ちついた雰囲気の通りを進んでいく。
「ここだよ、メイちゃん! ホロエルちゃん!」
のどかな街並みの一角にひっそりと佇む一軒の店舗の前で、ホムラが足を止めた。
カードショップ『ソラノイロ』。
看板にそう記されたその店は、表向きはそこまで派手な装飾もなく、大型店のような派手な垂れ幕やディスプレイもない。
だがカードショップであることは間違いないようで、店の軒先には『NEW PACK RELEASE!』と新パックの販売開始を告げる小さな看板が控えめに設置されている。
「ここがホムラの一押し……?」
「そ! 見た目はちょっと地味だけど……品揃えがすっごい豊富なんだよ! 新しいパックなんかはもちろんのこと、かなり古いカードなんかも幅広く扱ってて、掘り出し物を見つけられることもあるの!」
「ふぅん……」
「大型のカードショップは今の主流になってるカードの充実度ならピカ一だけど、古いカードはあんまり置いてないからねー。汎用性が高いカードならともかく、マイナーで使いどころが限られてるようなカードは見つからなかったりして……でも、ここの店主さんはそういう古いカードもちゃんと把握して確保してくれてるし、もちろん販売もしてて、新パックは発売日当日に発売してくれるし! 絶対ここがおすすめ!」
自分のことのように誇らしげにホムラが熱弁する。
なるほど。大型カードショップの利便性は確かに魅力的だが、古いカードの品揃えで選ぶならこういう店舗が適しているわけか。
……実を言うと、私は今までカードショップに行ったことがない。
それは私がこれまでほとんど無属性のカードだけで戦ってきたからだ。
無属性のカードは、虚無の教団がなんらかの手段で製造していると思しき特殊なカードで、通常のカードショップで扱われることはまずない。
私が持っている無属性のカードも、教団の追手から奪ったものか、無属性との親和性が高いホロエルの導きでごく稀に道端に落ちているものを拾い集めたものだ。
一般に道端に落ちているカードの七割以上は、自然的に発生した魂の欠片から成ったカードだと言われている。
無属性のカードが道端に落ちていることがあるということは、その発生に必ずしも教団の関与を必要としていないのかもしれないが――少なくとも現状、世間一般には無属性のカードの存在そのものが知られていないことは確かだ。
要するに無属性カードは普通に買えるものではないから、私がわざわざカードショップに足を運ぶ理由もなかったということだ。
「それにまあ……身も蓋もないことを言うなら、ここならそんなに混み合わないからね。列に並ぶ時間も少なくて済むし! 新パックの発売日なんかはさすがにそこそこ並ぶことにはなるけど、大型店と比べたら雲泥の差ってやつだよ!」
「……」
【ホムラ、それお店の人に言っちゃダメだよ? ホムラが出禁にされちゃったら私、悲しい……】
「さ、さすがに言わないよ! 私だってそれくらいの常識はあるし!」
まあ……暗にお店にあまり人気がないと公言するようなものだから、確かにお店の人の耳には入らない方がいいかもしれない。
「と、とにかく! ほら、中に入ろうよ!」
誤魔化すよう咳払いをしたホムラが店内へと入っていく。
彼女に続いてドアをくぐると、チリンチリンと来客を告げる鈴の音が響き、夏の熱気を遮るように冷房の涼やかな風が肌を撫でた。
店内はシンプルだが、清潔で整然としていた。
壁一面に並んだカードラックは年代や属性ごとに分類されており、最近の流行から数十年前のアンティークものまで幅広いラインナップを取り揃えている。
単純にカードだけを売っているわけでもないようで、棚の一角にはカードバインダーや収納ボックスなどのアイテムに加え、数こそ少ないものの最新型のデュエルガントレットも陳列されていた。
お客さんの数はざっと十数人ほどで、大型店ほどの密集度こそないものの、じゅうぶんに繁盛していると評しても問題ない活気だろう。
特に今日は新パックの発売日とあってか、『最新パック専用レジ!』とポップで示されたレジ前には何人もの人が列を作って新パックの購入を待ちわびていた。
「こんにちはー! アヤメさーん!」
「んー? おー、やっほー! ホムラちゃん。来ると思ってたよ。そっちの二人は……ホムラちゃんの新しいお友達かな?」
台車を押して商品の補充をしていた若い女性店員が、ホムラの声に反応して私たちへと視線を向ける。
ホムラの知り合いだろうか。
女性店員――アヤメは軽くメガネを持ち上げると、興味深そうに私とホロエルを交互に見つめた。
「そうだよ! こっちがメイちゃんで、こっちがホロエ……こほん! ホロちゃんって言うの! メイちゃんは私のルームメイトで、ホロちゃんはメイちゃんの従妹の子なんだよ」
学園の滞在許可証を受け取る際に聞いた設定をしっかりと踏襲しつつ、ホムラが私とホロエルをアヤメに紹介する。
私たちも話を合わせようとホロエルとアイコンタクトを交わしながら、二人揃ってアヤメに会釈を返す。
「無空メイ」
【無空ホロ! よろしくね!】
「うんうん、よろしくね二人とも。アヤメさんはアヤメさんだよ。かれこれ五年くらいここでアルバイトをしてる大学生の美人お姉さんでーす。いぇーい、ピースピース」
【ピースピース!】
やたらとノリのいい自己紹介とともにアヤメが両手でピースを作ると、ホロエルが負けじとピースサインを返す。
アヤメはケラケラと笑っていた。
「あはは、ホロちゃんノリいいねー。同い年の子にモテるでしょ。最近の子はそういうの早いって聞くしさ。もしかしてもう彼氏さんがいたり? それとも彼女さんかな?」
「……」
「メ……メイちゃん! 目……! 目が怖いよ……!?」
【お姉ちゃんがいるから、そういうのはいい!】
「……」
「あ、なんか嬉しそうになった……」
「そっかそっか。彼氏さんも彼女さんもいないんだ。だったらアヤメさんが立候補しちゃおうかな? アヤメさん結構優良物件だよ?」
「……」
「メイちゃんなんでガントレット構えてるの!? ダメだよ! ここデュエルスペースじゃないよ!?」
【アヤメさんにはもっと良い人がいると思う!】
「あちゃあ、振られちゃったかー。アヤメさん残念」
「……」
「よ、よかった……メイちゃん落ちついた……」
いかにも芝居がかった仕草で、およよ~、と泣き真似をするアヤメ。
……なんだかすごくおしゃべりな人だ。
マイペースで独特な空気感を纏っていて、イマイチ掴みどころがない。
しかしまあ、悪い人物ではないことは確かなようだ。
タブレットに文字を打つ姿からホロエルが言葉を話せないことを察しても気にした様子はなく、膝に手をついて目線を合わせ、フレンドリーに笑いかけてくれている。
「ま、おしゃべりはこれくらいにして……三人は新パックを買いに来たのかな? それならあっちの列のとこだよ。あそこは新パック専用のレジで、先頭で購入数を言ってくれればすぐに買えるようになってるからね」
「うん! ありがとうアヤメさん!」
「在庫はまだあるけど、今日中にはなくなっちゃいそうだから気をつけてね。今日を逃したら次は一週間後とかになっちゃうから。それじゃ、うら若き乙女諸君。良き青春ライフを~」
ヒラヒラと手を振ってアヤメが仕事に戻っていく。
ホムラが苦笑しながらそれを見送ると、くるりとこちらに振り返った。
「それじゃあメイちゃん、ホロエルちゃん。私は新パック買ってくるからさ、二人はその辺で適当に見ててよ。列に並ぶからしばらく時間かかっちゃうだろうし」
「待って、ホムラ。私も行く」
「え? メイちゃんも? 列に並ぶのくらい別に付き合ってもらわなくても……って、もしかしてメイちゃんも新パック買うの?」
私がデュエルガントレットを操作し、チャージ済みの残高を確認する素振りを見せると、ホムラが意外そうに目を瞬かせた。
彼女が不思議がるのも無理はない。
私はこれまでほとんど無属性のカードしか使ってこなかった。そして当然、店売りのパックに無属性のカードなんてものは収録されていない。
そんなことは私だってわかっている。けれど……。
「……無属性以外のカードも、欲しいと思ったの」
「えっ? それって……」
「一週間前にしたノゾミとのデュエル。覚えてる?」
私が問いかけると、ホムラは戸惑いながらも頷きを返す。
「『完全虚構証明』の最後の効果でノゾミの詰めの一手を凌いで迎えた、あのラストターン……私はずっと考えてた。いったいなにを引けばノゾミに勝てるんだろう、って。でも……いくら考えても私が元々持っているカードだけじゃ勝機が見えなくて。そんな私の進むべき道を切り拓いてくれたのは、『炎槍竜クリムゾンブレイカー』……何気ない日常の中で、あなたが私に託してくれたカードだった」
あのデュエルの結末を、他の皆がどう思っているかはわからない。
でも少なくとも私の中で、皆との出会いがなければ負けていたという結論は、覆しようのない純然たる事実だった。
「ホロエルとの繋がりだけじゃない。デッキにたった1枚だけ入れていた、あのカードを引いた瞬間――あなたや皆と結んだ絆が、私に新しい未来への道筋を示してくれたあの時に……わかったの。昔のまま変わらず、変化を怖がって縮こまってなんていたら、これ以上先には進めないんだって」
昔のまま変わらずにいれば、傷つくことはない。失う痛みも味わわずに済む。
変わることは傷つくことで……もしかしたら、なにかを失ってしまうことだってあるのかもしれない。
だけど、きっとそれだけじゃないんだって今は思えるようになった。
たとえ傷ついてでも、守りたいものや欲しいものがある。
失うことがあるのなら、新しく得るものもあるだろう。
ずっとホロエルに手を引かれてきた私が、今度は私から彼女の手を引いて、新しい一歩目を踏み出すために……私は変わりたい。変わらなくちゃいけない。
「だから……もっと新しいカードに触れてみたいの。これからの私がもっと強くなるために必要なものが、もしもこのパックの中にあるなら、私はそれを手に入れたい」
そう締めくくると、私はようやく口を閉じる。
ホムラはどこか呆気に取られたような顔をして私を見つめていたが……やがて、パァッと向日葵のような満面の笑みを咲かせた。
「うん、うんうんうんっ! それならメイちゃんも並ばなきゃね! 絶対良いカード当たるよ! 私が保証する! あ、どうせだしホロエルちゃんも一緒に並ぶ? 一人で待ってるのもつまらないでしょ?」
【並ぶ!】
「よーし、決まりだね! それじゃあ三人で並んじゃおう!」
やけに元気いっぱいなホムラに手を引かれて、私たちは列の最後尾についた。
待ち時間は大して暇ではなかった。
というのも、隣でホムラが止まらない。
事前に調べていた新パックの情報を、次から次へと楽しそうに語ってくるのだ。
今回のパックはCMでこんな効果のカードが出るって言っててさ! とか。
このカードが出たらデッキに入れてみようと思ってるんだ! だとか。
彼女が新パックの発売日である今日を心待ちにしていたことは、改めて言うまでもないだろう。
新パックに収録されたカードは発売されたばかりで、まだ私のデュエルガントレットにも情報が登録されていない。
ホムラから聞かされる情報は、今後のデュエルで新カードへの対策を練るうえでも有益なものだった。
そうして軽口を交わしながら列は順調に進み、私たちは新パックを無事購入することができた。
「うへ、うへへへ……新パック、新パックだよ~……」
新パックを手にした途端、ホムラはニヤニヤと口元を緩めながらパックの袋に愛おしげに頬ずりし始める。
もしもエミリアが一緒にいたら「はしたないわよ」なんて呆れそうなものだが……まあ、ここにいるのは私とホロエルだけだ。
たとえホムラが乙女の面持ちとして見るに堪えないだらしない顔を披露していたとしても、今日くらい存分に楽しませてあげても罰は当たるまい。
店の奥にはフリースペースが設けられており、購入したパックをその場で開封する客が机を囲んで座っていた。
私たちも空いている席を見つけると、そこに腰を落ちつける。
「よーし! それじゃあ早速開封しよう! いざ!」
【いざ!】
ホムラが意気揚々とパックの封を切り始める。
……あいにくと、私はこういったパックを開けるのは今回が初体験だ。
だけどそんな私でも、中に入っているカードを不用意に傷つけるような開け方をしてはいけないことくらいは理解していた。
ホムラの開け方を参考にしながら、私もパックの端から慎重に切れ込みを入れていく。
「わぁっ! ドラゴンのカードだ! 『聖痕・龍の烙印』……って、これ光属性のドラゴンスペル!? すごいすごい、こんなの初めて見た! 私のデッキに入るかな!?」
ホムラは出てきたカードを眩しそうに眺め、すぐさま次のパックへと取りかかる。
まるで宝探しに夢中になった子どものように、開けたパックの空き袋を積み上げていく。
一方で私も、パックから1枚1枚カードを取り出しては、その効果文をじっくりと吟味する。
私のデッキはあくまで『虚構天使ホロエル』を主軸に据えた、『虚構定理』デッキだ。
無属性以外のカードもデッキに入れる覚悟を固めたとは言え、デッキの傾向そのものまで変えるつもりはない。
手にしたカードが私のデッキの新たな戦術の種になり得るのかどうか、想像の中でデッキを回しながら採用を検討していく。
そんな最中、ふとホロエルがうずうずと私たちを交互に眺めていることに気がついた。
当然と言えば当然だが、ホロエルは新パックを買っていない。
それは彼女の正体が私が所有するソウルハート・サーヴァントであることもそうだが……SHAではデュエルガントレットを正しく機能させられないという技術的な制約も関係していた。
モモリいわく、デュエルガントレットの本格的な起動には装着者の魂のエネルギーを大幅に消耗するらしく、エネルギーの大部分を動力に割かざるを得ないSHAではデュエルを行うほどのエネルギーを賄うことができないのだとか。
でも……だからと言って、ホロエルにパックの開封ができないわけじゃない。
たとえデュエルそのものはできずとも、SHAの身体がある今なら、自由にカードに触れることくらい造作もない。
「……ホロエルも、開けてみたい?」
【開けてみたい!】
私が声をかけると同時に、ホロエルは即座にタブレットを掲げて返答した。
もしかして、あらかじめ書いておいたのだろうか。
待ってましたとばかりのその食い気味な反応がいかにもホロエルらしくて、私は思わず口元を緩めてしまう。
「なら、私の残りのパック。ホロエルに開けてほしい」
「あ、なら私も私も! せっかくホロエルちゃんと一緒に来たんだから、ホロエルちゃんに開けてほしいな!」
【ふっふっふ……お任せあれ!】
まるで自分のことのように嬉しそうにするホロエルに、私とホムラの未開封のパックを渡す。
机の上に広がった未開封のパックを前に、ホロエルはしばらく祈るように目を閉じていたが……。
次の瞬間、カッと目を見開くと、丁寧にパックの封を切りにかかった。
まず手をかけたのは私のパックだ。
1枚、また1枚。出てきたカードを属性ごとに仕分けして整然と並べていくその手つきは、不思議と手慣れているようにも見えた。
「こういうパックってね、最後の5枚目にレアなカードが入ってるものなんだよ」
「へえ……そうなのね」
二人してホロエルが開封する姿を眺めていると、ホムラがパックの豆知識を語ってくれる。
もしかしたら常識なのかもしれないが、カードショップに足を運ぶこともパックを開けることも今日が初めての私には新鮮な知識ばかりだ。
そういえば確かにさっきパックを開けていた時も最後の1枚はレアリティが高そうなカードだった気がする、と記憶と照らし合わせながらホムラの話に納得する。
【5枚目、見るよ!】
私たちの話を聞いていたのか、ホロエルが最後の1枚を仰々しく手に取った。
私もホムラも自然と身を乗り出して、ホロエルの手元を注視する。
イラストには、暗闇の中で地を這う一頭の狼が描かれている。
カード名は『アースサースティ・ヴォルフ』。地と闇の複合属性のサーヴァントのようだ。
| アースサースティ・ヴォルフ | |||
|---|---|---|---|
| コスト7 | 種別:ビースト/アヴェンジャー | ||
| 属性:地/闇 | ATK 3000 | HP 3000 | |
| サーヴァント |
|---|
| - 効果 - |
|---|
| 【制約】:[複合属性] ①『QアクションX』=条件:自分のライフカウンターが破壊された時。(Xは自分のライフカウンターの数) ②『ガード』 ③場に出た時に発動可能。以下の効果から3つまで選択して適用する。 ・相手の場のサーヴァント1枚を選択してHPを-3000する。 ・このカードを自分のエナジーに消費状態でチャージする。 ・相手のエナジーゾーンを公開させる。自分のライフカウンターの数が相手のライフカウンターの数より少ないなら、さらに自分はその中から1枚を選択し、そのカードを相手の墓地へ送る。(上限:同名/1ターンに1回) |
「コスト7でATKとHPが3000かー。ステータス的にはそんなに強くないけど……メイちゃんはどう思う?」
「強いわ」
「え、即答?」
「間違いなく強いわ。尋常じゃなく。ふっ……どうやら5枚目にレアなカードが出るという話は本当だったみたいね……」
「な……なんかメイちゃん珍しく嬉しそうだね……でも、言われてみれば確かにメイちゃんこの手のタイプのカード好きそうかも……」
確かにホムラの言う通り、盤面におけるステータス上の数値は弱いと評さざるを得ない。
だが、このカードの肝は『Qアクション』を活用した窮地でのアドバンテージ回復だ。
相手の場のサーヴァントのHPを-3000させる効果はそれほど強力とは言えないが、それが最小0コストで可能であるならば話は変わってくる。
それに加えて、自分自身をエナジーにチャージし、相手のエナジーからカードを墓地へ落とす効果……要約するとこれはつまり、相手とのエナジーゾーンのアドバンテージの差を一気に2枚分広げる効果ということになる。
1枚で2枚分のアドバンテージを得られるなら強いに決まっている。
しかも単純に2枚分のリソースを得るわけではなく、相手の動きを阻害しながらというオマケ付きだ。
状況次第では自分自身をエナジーにチャージする効果を使わず、『ガード』を活かした最低限の防御札としても活用できる。
つまりなにを言いたいのかと言えば、どう考えても強い。
まったく……このカードに秘められた潜在能力を見抜けないとは。
どうやらホムラはまだまだ精進が足りていないみたいだ。
ちなみにホロエルは私と同様にこのカードに強さを一目で見抜いたらしく、ひえぇ……と慄くように頬を引き攣らせていた。
可愛い。エナジーからいっぱいカードを墓地に落としてあげたい。
「こ、こほん! じゃ……じゃあ、残りのパックも開けちゃおっか。ホロエルちゃん、どんどん行っちゃって!」
気を取り直したようなホムラに促されて、ホロエルがコクンと頷いて次のパックへ手を伸ばす。
そうして私たちはそれぞれが買ったパックの開封を順調に進めていった。
「はー、終わったぁ……いやー、さすがに疲れたねぇ。お疲れ様、メイちゃん。ホロエルちゃん」
新パックをすべて開封し終えると、ホムラはイスの背もたれに身体を預けながら、「んー!」と大きく伸びをした。
それに応じて胸元の大きな二つの膨らみが無防備に強調されるが、本人はさして気にした様子もない。
もしもこの場にエミリアがいたなら「もうちょっと女の子として恥じらいというものを持ちなさいよ」などと嗜めそうな光景だった。
……前々から思っていたが、いったいなにを食べたらあそこまで成長するのだろうか?
いや、別に胸が大きくなりたいわけではないのだけども。なんだか邪魔そうだし。
なお、ホロエルが私の視線の先を追って、なにやら「ぐぬぬ」と悔しげに自分の胸に手を当てていたが……ホロエルの胸は小さいからこそ最高に愛らしいわけであって、私としてはなんら恥じることはないと思っている。
それにホロエルは小さいだけで、決して膨らみがないわけではない。
幼い頃から余った実体化時間を使って幾度となく彼女の胸に顔を埋めて甘えさせてもらっている私は、彼女のその小さくも健気に主張する膨らみの素晴らしさを骨の髄まで知り尽くしていた。
あの温もり、柔らかさ、そして甘やかな香り……。
あれはまさしく、私の日々の疲れを癒やしてくれる最高のパワースポットだ。
……閑話休題。
ホロエルの魅力を語り始めると止まらなくなってしまうので、ほどほどにしておく。
少し休んで落ちついた私は、ひとまず手に入れたカードをデュエルガントレットに読み込ませていくことにした。
初見のカードは対面した際に効果を参照できないが、こうしておけば問題なく効果を確認できるようになる。
ホムラもしばらくすると、私と同じようにデュエルガントレットにカード情報を登録すると、持参したバインダーに大事そうにカードを収めていく。
私の方が少し早く作業を開始したので、先に手持無沙汰になったのは私の方だった。
カードショップに初めて足を運ぶ私にとっては店内の光景も物珍しく、なんとはなしに周囲に視線を巡らせていると……ふと、壁に貼られた一枚のポスターが目に飛び込んできた。
大量に貼られた新パックの告知や店舗大会の開催告知に紛れてなお、確かな存在感を放つそのポスター。
そこに写っていたのは、厳めしい武骨な容貌をした年老いた男性だった。
白く混じった短い髪に、鍛え上げられた肉体。
年齢を重ねた者特有の老いをたたえつつも、衰えることを知らないその武人のような鋭い眼光は、見る者すべてを圧倒するような凄みを放っている。
その老人は片手にカードを握り締めながら、凛とした表情でカメラのレンズを見据えていた。
その背後には、巨大な竜の影が寄り添うように描かれている。
「メイちゃん? なにか気になるものでもあったの?」
私の視線が一点に固定されていることに気がついたのか、ホムラが手を止めて首を傾げる。
私はホムラを一瞥して、再びポスターに視線を戻した。
「あのポスターの人。街の看板とかでもよく見かけるから、誰なのか気になってた」
「えっ……メイちゃん、もしかしてゼファートさんのこと知らないの!?」
「ゼファート……? それがあのよく見る人の名前?」
私が間髪入れずに聞き返すと、ホムラは愕然と目を見開いた。
「嘘……信じられない……いくらメイちゃんに常識がないって言っても、さすがにゼファートさんのことは知ってると思ってたよ……」
「……そんなに有名な人なの?」
「有名も有名、超有名だよ! というかメイちゃんが知らなすぎ! デュエリストなら……いやデュエリストじゃなくたって誰でも知ってるよ! だってあの人は、この国どころか世界中に名を轟かせてる伝説のデュエリストなんだから!」
【ふーん。伝説って?】
ホロエルがここぞとばかりにドヤ顔でタブレットを掲げる。
どうしてこんなにも得意げな顔をしているのかはまるでわからなかったが、その代わりホロエルが伝説級に可愛いことだけは完璧にわかった。
「ああっ! もう、ホロエルちゃんも知らないなんて! いい? ゼファートさん……ゼファート・ダズン・レジグニールトはね! 4年に1回だけ行われる世界最大のデュエル大会、WORLD CHAMPION-TOURNAMENT――通常WCTの第1回から第12回の連続覇者! およそ半世紀もの間、世界の頂点に君臨し続けた史上最強のデュエリストなんだよ!」
【おおー!】
WCT……なるほど。それなら私も噂に聞いたことくらいはある。
あのポスターはWCTの宣伝用のものだったのか。
「後にも先にも成し遂げる者が現れないだろうその偉業は、デュエルの愛好家や歴史家が口を揃えて『不朽の金字塔』だって称えていてね。すでに現役を退いてはいるけど、その伝説的な記録から世界中のデュエリストの憧れの的なんだよ」
「ふぅん……それってホムラも?」
「そりゃそうだよ! 私がデュエルを始めたのも、なんならドラゴンデッキを使い始めたのだって、ずーっと昔にテレビで見た初めてのデュエル……ゼファートさんのデュエルの影響なんだから!」
熱弁するホムラの瞳はキラキラと輝いていて、彼女がこの伝説のデュエリストとやらに強い憧憬を抱いていることが伝わってきた。
まあ、ホムラがここまで言うのなら、きっと相当な人物なのだろう。
ひとまずポスターの老人に対して抱いていた漠然とした興味はこれで満たされたので、私は頷いて相槌を打つことに徹した。
「WCTは15歳以上の子なら予選の参加権限があってね。来年には第18回の開催があるから、私も参加しようと思ってるんだ! ……まあ、どこまでいけるかはわかんないんだけど……」
「……ずいぶん弱気なのね。あなたはもう、私以外の誰にも負けないんじゃなかったの?」
なんだかホムラの言いようが気に入らなくて、つい口を出してしまう。
――いつかメイちゃんに勝つその日まで、私はもうメイちゃん以外の誰にも負けないって決めたから。
それは以前、何気ない日常の中でホムラが私に語った言葉。彼女のデュエリストとしての覚悟の一片だ。
ホムラは一瞬気圧されたように目を丸くしたが、すぐに困ったような笑顔を浮かべて首を横に振った。
「確かにそうは言ったけど……でも、この国だけじゃない。世界中の強い人たちが集まってくる大会なんだよ? もしかしたら、メイちゃん以上に強い人だって――」
「それがなに? 私なら、誰が相手でも戦うなら絶対に負けないって答える。勝てば生きて、負ければ死ぬ……勝負の本質はいつどこで、誰が相手でも変わらない。もしもあなたが言うように、そこに私よりも強い相手がいたとしても、強者と勝者は決してイコールじゃないわ」
「強者と勝者が、イコールじゃない……?」
「そう。強ければ、自分より弱い相手への勝率を上げることができるでしょうけど……でも、しょせんはそれだけ。真剣勝負はほんの一度きりしかないんだから。だったらそのたった一度で、1%の勝機を手繰り寄せてみせればいい。そうすればたとえ弱者でも、強者を殺す勝者になり得る。大会で優勝する程度なら、それを十回、二十回と繰り返せば事足りるでしょ」
「……」
「そんなことできるのかって、そう思った? もしもそうだとしたら、あなたは戦う前から心で負けてるの。自分がどこまでいけるかだなんて……そんな弱気な姿勢じゃ、負けて当然。死んで当然。自分に言い訳して、負けてもしかたがないって言い聞かせるほど惨めなことはないわ。勝負の果てに死ぬ覚悟もなく、敗北することに保険をかけてるようじゃ、自分より強い相手に勝てる可能性なんて万に一つも生まれない」
「っ……」
「仮にも私のライバルを名乗るつもりがあるなら……あなたはあなた自身が宣言した通りに、私以外のすべてに勝ち続ける義務がある」
ホムラが息を呑む。
私の言葉が、彼女の奥底に深く突き刺さったようだった。
赤い瞳が炎のように揺れている。
彼女はしばらくの間、私の言葉を噛みしめるように唇を引き結んでいたが……やがてパチンと両手で頬を叩くと、まっすぐに私を見つめ返した。
「うん……そうだよね。私が自分で言ったんだ。メイちゃん以外の誰にも負けないって。自分自身と交わした約束くらい、ちゃんと自分で守らなきゃね」
「そう。それでいい」
「ふふっ……あはは! 前々から思ってたけどさ、メイちゃんってすっごく負けず嫌いだよね」
「……別に私じゃなくても、誰だって心の奥底じゃ負けたくないって思ってるでしょ? あなたが言った、ゼ……ゼファ……ダズ…………伝説のデュエリストと戦うことになったとしても、私は負けるつもりなんて毛頭ないわ」
「ゼファート・ダズン・レジグニールトさんだよ……こっちも前々から思ってたことだけど、メイちゃん実は人の名前覚えるの苦手だよね……」
「……否定はしないわ」
サッと目を逸らす私を見て、ホムラが呆れたように息を漏らす。
ホロエルも隣でやれやれと言わんばかりに肩をすくめていた。
むぅ……これでも最近は私なりに改善しようと努力しているのだ。少しくらいは大目に見てほしいものである。
「ねえ、メイちゃん」
「なに?」
「来年のWCT、一緒に出ようね」
「……まあ、考えるくらいはしておいてあげる」
「やった! 約束だよ!」
「ん」
私は教団に追われる身だから、今のままでは世界大会なんて出ることはできない。
覆面や仮面を被って出場するという手もなくはないが、無属性のカードを使用し続ける限り、身元を隠し通すことは困難だろう。
加えて勝ち上がれば勝ち上がるほどに、世界中のメディアに晒されることになる。それでは教団にとって格好の標的だ。
だけど……未来がどうなるかはまだわからない。
まだ見ぬ明日に期待を込めて、私は彼女と約束を交わすことにした。
カード制作裏話
・アースサースティ・ヴォルフ
皆大好き(阿鼻叫喚)ランデス効果持ち。重さや使いづらさはあるが、使い道も相応に多く考えられるので活躍できる場面はあるだろう。暴れすぎると即ナーフされそう。メイちゃんはこういうタイプのカードが好き()
○オマケ
・カードショップ『ソラノイロ』
本アニメの1期でも登場したカードショップ。アンティークやマイナーなカードも数多く置かれているのが特徴。大型店と比べると流行りのカードのシングルの売り切れが早かったり、最新弾の売り切れ後の入荷が遅かったりもするが、後者に関しては発売日であればさほど問題はない。ホムラを筆頭に、他の1期メインキャラであるエミリアやアンコも半ば常連である。ただしアンコは1期終了後に街を離れているため、ここ最近は足を運んでいない。
・美人大学生お姉さんアヤメ
1期でも登場した愉快なお姉さんキャラ。青春の香りが好き。デュエルの実力がそれなりにあり、お店でトラブルがあった際は主にアヤメがデュエルで解決している。1期ではホムラがお店での客同士のトラブルを解決した後、アヤメが駆けつけてホムラが騒ぎを起こしたと勘違いしたことからホムラと対戦するエピソードがあった。多彩な戦術でホムラを追い込むが、その最中、第三者からの証言でホムラが騒ぎを起こしたことが勘違いだと判明する。アヤメは謝罪してデュエルを中断しようとするが、ホムラはこのまま続けたいと懇願し、アヤメはそれを了承してさらにホムラを追い込んでいく。しかし最終的にはホムラが逆転勝利し、アヤメはホムラのことを面白い子だと気に入った。
・ゼファート・ダズン・レジグニールト
史上最強と呼ばれたデュエリスト。ある日を境にデュエルの舞台を自ら降りた。存命しており、現在は隠居中との噂。
・ふーん。伝説って?
ああ!