「かんぱーい!」
「か……かんぱーい……!」
どうしてこうなった。
私は今……喜多ちゃんと2人で居酒屋に来ている。昨日突然喜多ちゃんからLIMEが来て、開いてみたら
『ひとりちゃんお久しぶり!突然だけど明日の夜空いてる?空いてたら飲みに行きましょ♪』
と書いてあって……気づいたら今ここにいると言う訳だ。
私の机にはレモンサワーが、喜多ちゃんの机にはカシスオレンジと大ジョッキの生ビールが置かれている。
「喜多ちゃん、カシオレとビールを一緒に飲むんだね」
「あっこれ?カシオレはイソスタ映え用だよ。もちろんちゃんと飲むけどね。えっと……今日は……大切な……友達と……久しぶりに会って飲みに来ています……と。よし!」
凄まじい速さで自撮りをし、凄まじい速さで文字を打ってあっという間にイソスタに投稿する喜多ちゃん。
手つきが私の速弾きよりも速い……おそろしく速い投稿、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「カシオレも好きだけど……プハーッ!やっぱり生ビールの爽快感が一番!!たまらないわ♪」
イソスタに投稿してから、待ちに待った生ビールに一気に食らいつく。……変わってないな、喜多ちゃんは。
結束バンド解散後すぐに私は引きこもってしまったから、会うのは約2年ぶりか。なのに昨日も会ったかの様に接してくれる。
「ビックリしました。ラジオで喋っていた本人から突然連絡が来るなんて」
「あっ!聴いてくれたんだ!ありがとう♪確かに、収録だって知らないとビックリしちゃうよね」
昨日のラジオは収録放送で、ちょうど放送中のタイミングに連絡が来た訳だ。
「そうそう、新作動画見たよ!まさか私の新曲を弾いてくれるなんて♪MV動画のコメント欄に『ギターヒーローさんの演奏動画から来ました』ってコメントがいくつも来ていてビックリしちゃった」
「えへへ……聴いていたら弾いてみたくなっちゃって」
今の私に唯一残っているもの……それは『登録者数100万人超えのギタリスト ギターヒーロー』と言うネームバリュー。
こんな事言うのは本当におこがましいんだけど……これをキッカケに1人でも多くの人が喜多ちゃんの魅力に気づけは良いなと思って動画をあげた。もちろん……聴いていて「この曲弾きたい!」と思ったのが一番の理由だけど。
「一見シンプルなのに凝った事をしていて……凄いギターアレンジだよね、あの曲」
「うんうん!今回はリョウちゃん、特にギターアレンジに力を入れたって言ってた。さすがひとりちゃん、そこに気づくなんて!」
実は喜多ちゃんの楽曲のアレンジは全て、リョウちゃんが担当している。ソロ活動を始めた当初はアコギ1本での弾き語りスタイルだったけど、音源化する事になりバンドアレンジにしたいと思った時、真っ先にリョウちゃんにアレンジのお願いに行ったそうだ。
喜多ちゃんの等身大の歌詞にストレートなメロディ、そこにどこか捻りの加わったアレンジが加わる事で楽曲は更に魅力を増したと思う。
ちなみにリョウちゃんはベースのレコーディングに参加してて、更にはバンド編成でのライブの時はサポートベーシストとしても参加している。
「リョウちゃん本当に凄いのよ!あーでこーでそうでペラペラペペロプリプリパピプペポ……」
「(久々に見た!大好きなリョウちゃんについて熱くひたすら早口で語るモード!!)」
お酒が進み、喜多ちゃんのトークは絶好調だ。こんなに人と話すなんていつぶりだろう。結束バンドのみんなでもこんな風にワイワイした事あったけど、私が内にこもる様になってしまってからは飲み会にも行かなくなっていたから、本当に久しぶりだ。……楽しい。
「じゃじゃーん!!」
ひっ!!び、びっくりした〜。突然の喜多ちゃんの大声に私の耳は悲鳴をあげた。陽キャ+ボーカリストの声量、恐るべし。
喜多ちゃんは持っていた紙袋を私に差し出した。
「これ、お祝いのプレゼント♪」
「えっ……?」
お祝い?私の誕生日ではないし……えーと、今日は11月11日……ベースの日だ!でもなんでベースの日に私にお祝いプレゼントを……まさか、ギタリストからベーシストになれって事!?
「ギターヒーローチャンネル、この前100万人登録者達成したでしょ?そのお祝い♪」
「な……なるほど……ありがとう!」
良かった!ベーシストに転向せずにすんだ。……でも、ギターヒーローだけでなくベースヒーローにもなったら更にチャンネル登録者数伸びるかも?
【以下、後藤ひとりの脳内妄想】
「ギターヒーローさん!ギターだけじゃなくベースも凄い腕前なんですね!!」
「凄いスラップ!フ◯ーもビックリだ!!」
「凄い4フィンガー!ビリー・◯ーンもビックリだ!!」
「凄い1億人登録者!ヒカ◯ンもビックリだ!」
【脳内妄想終わり】
「えへへ……♪えへへ……♪」
「ひとりちゃん、大丈夫?酔っちゃった?」
「( ゚д゚)ハッ! よ、酔ってはないので大丈夫です!ちょっとベースヒーローになってました」
「ベースヒーロー?何のこと?そんな事より、開けてみてよ♪」
「うっ、うん!」
お祝いは本当に嬉しいけど、一体何が入ってるんだろう。もし有名ブランドの高級な香水とか入ってたらどんなリアクションすればいいんだろう……興味無いのは失礼だし、興味あるフリするのも失礼だし……
恐る恐る紙袋を開いてみると……中に入っていたのはギター弦の詰め合わせだった。
「こ……これは?」
「ひとりちゃん、今も毎日ギター弾いてるでしょ?毎日弾いてるとそれだけ弦が痛むのも早いと思うから良いかなと思って」
喜多ちゃん……助かります!あまり外には出たくないし、かと言って引きこもっている分際でネット通販を使うのには負い目があるからなかなか弦を入手するタイミング無かったんだ!とてもありがたい。
「ありがとう!しかもこの弦……」
「フフフッ♪……エ〜リクサーに張り〜替え〜る作業〜もなん〜とな〜くな〜んだ〜♪♪」
喜多ちゃんが鼻歌混じりで歌い始めた曲は……ギターと孤独と蒼い
「初めて歌詞見た時は『エリクサー?何で後藤さん突然回復アイテムの事を歌詞にしたのかしら』ってビックリしたわ。エリクサー弦があると言うのを知ってから、実はずっと自分のギターに使ってるのよ」
「エリクサー弦、高いけどそれ以上に長持ちするから良いよね。後、滑りやすいのが私は好き」
「説明しよう!エリクサー弦とは特殊で高度なポリマーコーティング技術によって、弦を汗や体の油分、汚れから守り、腐食を防止し、 張り替え当初の高音質を長持ちさせる革新的なギター弦の事である!長持ちする分、通常の弦よりも張り替える作業頻度が少なくて済むんだよ!それと、滑りやすいのはコーティングの影響だよ!滑りやすいのが苦手な人もいるけどそこは個人個人の好みだと思うよ!まずは1度使ってみよう!」
わわわ!突然出てきて突然の説明ありがとうございます、ギタ男さん……!