喜多ちゃんとの飲み会を終えて帰宅した私は、ギターを触る気力もなく布団へと突っ伏した。
「何やってるんだろう、私……」
今は特に自己嫌悪が凄い。逃げたい……逃げたい……って、どこに逃げるの……?
1時間ほど突っ伏してわずかに心が落ち着いてから、喜多ちゃんからの突然の誘いを思い出していた。
――――――――――
「私、今度STARRYでライブをやるから……観に来てほしいの!」
「……。 ……!?」
「12月24日なんだけど空いてる?」
「ちょ……!ちょっと待って!突然すぎて……」
「この日のライブ、是非ともひとりちゃんに観に来てほしいの」
予定を気にするまでもなく空いてるけど……行けない。行ける訳が無い。
バンド編成でのライブだとしたらリョウちゃんがサポートベーシストでいるはずだし、STARRYって事は虹夏ちゃんも……それにお客さんの中には知っている人も沢山いるはず……
とりあえずスマホを出してスケジュール確認して埋まってるフリして断れば……私はポケットに入っているスマホに手をやり……そのまま手を戻した。
(「誘ってくれてありがとう!ただ予定確認したらもう埋まってたんだよな〜いや〜残念だな〜行きたかったな〜♪」)
それはダメだ……!こんなにも真剣な表情をしている喜多ちゃんに対して、嘘だけはついちゃダメだ!断るなら……ちゃんと断ろう。
「この日は空いてる。空いてるけど……ごめん、行けない。あっ!けけけ決して喜多ちゃんのライブを観たくない訳じゃなくて……!」
「そう、分かったわ……」
良かった……ちゃんとお断りできた。
「それでも観に来て欲しいの!」
「……!?」
「仮にどうしても外せない予定が入っていたとしても……それでも、それでも観に来てほしいの!!」
喜多ちゃんは押しが強いのは前から知ってたけど、こんなにも押しが強いのは初めてだ……!ダメだ……こんなにも真っ直ぐな喜多ちゃんの目。とても見ていられない。
気付けば私は目を逸らす様に俯いた。まるで永遠のような沈黙の後、喜多ちゃんが口を開いた。
「12月24日、何の日か分かる……?」
「それは……星歌さんの誕生日と……」
「他には?」
「他には……結束バンドで毎年ライブをやっていた日」
もちろん覚えてる。今から約7年前……結束バンドを結成した年の12月24日に、新宿FOLTでの
その翌年は星歌さん生誕祭と銘打って初めて主催ライブを開催したんだ。そしてそれ以降も毎年、12月24日は欠かさずにライブをやっていた。解散するまでは。
(あの日からもう7年も経ってるんだ……お姉さん……ヨヨコちゃん……元気にしてるかなあ)
SICKHACKは今でも新宿FOLTをメインに活動を続けている。お姉さんの酒乱っぷりも変わらずみたいだ。1つ変わった点と言えば、MVが海外でバズってそれ以降海外ツアーを行う様になった事だ。
お姉さんは今でも連絡くれるけど……未読スルーしちゃってごめんなさい。
SIDEROSは毎年精力的に活動し着実に人気を上げていき、今年とうとう日本武道館でのワンマンライブを行い大成功させた。結束バンドとは良く対バンしてて、一緒にツアー回った事もあったなあ。
ヨヨコちゃんも今でも連絡くれるけど……未読スルーしちゃってごめんなさい。
「実はその日のライブ、SICKHACKとSIDEROSと一緒にやるのよ」
「えっ……!?」
「星歌さんの誕生日をお祝いするライブをまたやりたくてこの前相談しにSTARRYに行ったんだけど、その時別件で廣井さんとヨヨコちゃんもSTARRYに来ていたの。話を聞いたヨヨコちゃんが一緒にやりたいって言ってくれて、そしたら廣井さんも一緒にやりたいって」
そんな事が!喜多ちゃんにSICKHACKにSIDEROSに……凄い面子だ!
「2バンドとも……特にSIDEROSは今や大人気バンドだし普通に告知したらあっという間に完売しちゃうから、2バンドにはシークレットで出演してもらう事になったの。その方が良いって星歌さんがアドバイスしてくれて」
なるほど!確かに3マンライブで告知したらSTARRYのキャパだとチケット秒で完売しちゃう!
「それと今回私はバンド編成でやるんだけど、サポートベースはリョウちゃん。サポートドラムは虹夏ちゃん。サポートギターは廣井さんにお願いする事にしたの」
「虹夏ちゃんにお姉さん!?」
バンド編成の際にリョウちゃんが毎回サポートベーシストで入ってるのは知ってたけど、まさか虹夏ちゃんとお姉さんが……。
「メンバー全員星歌さんにゆかりのある人にしたくて。ドラマーは虹夏ちゃんにすぐ決まったけど、ギタリストをどうしようか迷ってたら廣井さんがやりたいって言ってくれて」
「お姉さん、ギターもやってるのは知ってたけど……」
「廣井さん、ギターもとても上手いのよ!たまに教えてもらってるけどひとりちゃんと同じくらい教え上手!お酒が入ってなければだけどね」
分かる!確かにお姉さんは教え上手!お酒が入っていなればだけど。
「あれ?お姉さんさんって毎年12月24日は新宿FOLTでライブやってるんじゃ……」
「私もそれ気になったんだけど、今年は12月24日が日曜日だからお昼にライブやる事にするって!それで終わり次第3人ですぐSTARRYに向かってくれるって」
1日に2つの箱で!?しかもお姉さんは喜多ちゃんのサポートも……!体力持つのかな……?
「『この機会を逃したら、一生後悔するかもしれないからね』って。岩下さんとイライザさんには『相談も無く勝手に決めるな!』って怒られたみたいだけど」
「あはは……お姉さんらしいや」
一生後悔……か。喜多ちゃんのライブ、当然観に行きたくない訳じゃない、本当は観に行きたい。凄い観に行きたい!でも怖い……でも、行かない選択をしたら一生後悔するかもしれない……
行きたい……怖い……行きたい……怖い……
「すいませーん!そろそろ時間になりますー」
じ、時間!?……あ、あぁ店員さんか。3時間コースで入ったはずだけどもう3時間経ったのか。どうしよう、ちゃんと観に行くか行かないか答えなきゃ……!
「はーい、分かりました♪ひとりちゃん、出よっか。私
「う、うん!」
もう良い時間だ、お店に入る前よりも外はずっと寒くなっていた。あっ、お金払わなきゃ!
「喜多ちゃん、お会計……!」
「えーとね……2,500円お願いできるかな」
「ちょ、ちょっと待って!」
2,500円って事は、計5,000円?もっとした様な気もするけど……?
「はい、2,500円。お会計、そんなに安かった?」
「ありがとう。実はお会計はもっとしたんだけど……これを受け取って欲しいの」
喜多ちゃんはバッグから長方形の紙を取り出して私に差し出した。これは……ライブハウスのチケット?
「12月24日のライブのチケット、受け取って。観に来る来ないに関わらず、受け取ってほしいの」
「あ……えーとえーと、タダで受け取るのは……!」
「もう受け取ってるよ、ほらこのお金」
「あれ?それは居酒屋のお金じゃ……」
「居酒屋は私のおごりだよ。さっき受け取ったのはチケット代」
えっ?えっ?混乱して頭が追いつかない……!
「ひとりちゃん、タダでチケット受け取るのは絶対に断ると思ったから」
いつの間にかチケット代を払ってた!喜多ちゃん、策士……!
「その……私、観に行くか行かないかのお返事がまだ……」
「分かってる。……最終的にどうするかはひとりちゃんに任せるよ。ただこれだけは言っておくね。観に来なかったとしても、私は決して怒ったりはしないから。私自身……逃げた事あるし、みんなに会うのが怖い気持ちは今でも覚えているから」
「……うん」
――――――――――
「ふぅ……あっ、チケットが!」
布団に横になりながら先程までの時間を思い出していたら、気づいたら手にしていたチケットを強く握りしめてしまっていた。
しわの付いたチケットを眺めながら喜多ちゃんの表情を改めて思い出す。そしてどんな気持ちで彼女が私を居酒屋に誘ってくれたか、ライブに誘ってくれたか想像する。
「……ありがとう、喜多ちゃん」
私はチケットを無くさないように財布へとしまった。そして、スマホのスケジュールアプリを開いて予定を追加した。
12月24日(日)【重要!】[星歌さん生誕祭イベント]喜多郁代×SICKHACK×SIDEROS 3マンライブ@下北沢STARRY
週1更新するはずが……ここ数日で筆が進みました。