もしも風のタクトのガノンおじさんがブレワイ世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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たくさんの感想やお気に入り登録、評価、ありがとうございます!
想像以上に読まれていてちょっとびっくりしています。
誤字脱字もめちゃくちゃ助かっています。ありがとうございます!



3.炎の神獣ヴァ・ルーダニア(前編)

ガノンドロフは夢を見ていた。

 

 夢の中のガノンドロフは、醜い魔獣の姿をしていた。

 目の前には、退魔の剣とハイリアの盾を手にした時の勇者。その後ろでは、手を組んで勇者の勝利を祈る姫がいる。

 

 ガノンドロフにとってそれは、忌々しい、思い出すのも憚られる苦い記憶だ。

 

 力のトライフォースに溺れ、醜い魔獣の姿となった魔王。

 魔王は時の勇者に追い詰められ、しだいに正気を失い、破壊するだけの怪物になり果てていく。

 そこから始まるのは死闘でもあり、トライフォースをめぐる因縁の始まりでもあった。

 

 魔王を倒そうと迫る勇者。それを援護する姫。牙を剥きだしにする魔王。

 戦いは終わる。

 魔王は退魔の剣に頭を突き刺され、聖なる光の力で弱らされ、勇者の仲間である七賢人に封印された。

 

「おのれ! 貴様らを呪ってやるぞ! 根絶やしにしてやる!」

 

 封印された魔王は、憎々しげに口を開き、暗闇に落とされていく。

 そして深い闇の底で、魔王は呪詛の言葉を吐いた。勇者に、姫に、神々に。

 次に、魔王は腹の内に憎しみを溜め、野望のために策謀を巡らせる。

 

 ガノンドロフは、夢の中の自分を直視できない。過去の自分があまりも惨めで、哀れで、醜かったからだ。

 

 やがてガノンドロフは自分の過去という悪夢から目が覚める。

 視界に映ったのは、夜明け前の、青と赤が混じりあった空。そして穏やかな風に揺れる草花だった。

 

 すこし離れた位置に、木の根を枕代わりにして、寝息を立てているリンクがいる。

 どうやら随分、早く起床してしまったらしい。

 

(この旅も夢のようだ。それこそ目を閉じればすぐに覚めてしまいそうな……)

 

 ガノンドロフは思う。

 次に目が覚めた時、あの暗がりにいるのではないか。その時、はたして自分は耐えられるだろうか。

 そんな風に恐れ、一抹の不安を抱いた。

 

 起き上がったガノンドロフは、鞘から抜いた愛剣コウメコタケの手入れをはじめ、リンクが目覚めるのを待った。

 

 

 ★

 

 

 ガノンドロフとリンクは馬を走らせ、ラネール地方を北西に進み、オルディン地方に入る。

 次に向かう先は、炎の神獣ヴァ・ルーダニアがある、ゴロンシティだ。

 

 オルディン地方は草木が少なく、乾いた風が吹くやや荒涼とした土地である。

 ふたりはその道中、少し寄り道をして、試練の祠を10ほどめぐった。

 試練を乗り越えたリンクは、女神ハイリアから加護をさずかり、さらに強化された。

 

 

「なに、<剣を教えて欲しい>だと?」

 

 ガノンドロフの問いかけに、リンクはこくりと頷いた。

 日中の移動を終え、夜になると馬を休ませつつ、焚き火をふたりで囲う。その際、リンクがそう口にしたのだ。

 

 どうやらリンクは、雷獣山でのライネルとの戦闘で思うところがあったらしい。

<苦戦しているようじゃだめだ>、<もっと強くならないと>などと口にしていた。

 

 リンクは100年の眠りにより、本来あった戦闘能力をほとんど失った。

 身体能力、剣技、戦いで得た経験。それらは記憶喪失により、著しく損傷してしまっている。

 

 たしかに失ったそれらは記憶と共に戻りつつある。いずれリンクはかつての力を取り戻すだろう。

 だが、現在のリンクは、100年前のリンクよりはるかに弱いこともまた事実である。

 

 それゆえ、ガノンドロフはよく理解できた。

<今のままでは厄災ガノンには勝てない>、そんなリンクの心情を。

 

 しかしそれを承知の上で、ガノンドロフは首を横に振った。

 

「それは無理だ」

 

 リンクは<どうして?>とたずねる。

 

「正確に言うならば、教えようと思っても教えられない。なぜならわしの剣術と、おまえの剣術はまったく異なる形態のものだからだ」

 

 ガノンドロフの操るゲルド流剣術は、双剣の使用を前提に考案されたものだ。

 二つの剣を舞うように振るい、手数の多さをもって攻撃する隙を与えず、敵を倒す。

 

 一方、リンクは、騎士らしい剣術で戦う。

 リンクは右手に剣を、左手に盾を持つ。攻撃と防御を両立させた構えを見せる。

 おそらくハイラル王国の騎士が学ぶ、普遍的な剣術なのだろう。オーソドックスゆえ、バランスの良い型だ。

 

「わしが用いるゲルド流剣術は、防御を捨てて攻撃に特化した剣術だ。

 一方、おまえの剣術は攻撃と防御を両立させたもの。

 それぞれの剣術で理念がまったく異なる。型もセオリーもなにかも違うわけで、わしには教えようがない」

 

 ガノンドロフの言葉に、リンクは納得しつつも、落ち込んだ様子を見せる。

 だが、そんなリンクに対して、ガノンドロフはこう言い放つ。

 

「立て、リンク。剣を抜け」

 

 リンクは首をかしげた。

 

「何を呆けておる。わしは『剣術を教えない』と言った。

 しかし、おまえに何も教えないとは言っていない。

 わしは自分の流派以外のものを知らん。ゆえに剣術以外のものを。立ち回り、駆け引き。それらをおまえに教える」

 

 先ほどまで落ち込み気味だったリンクの顔が、みるみるうちに明るい表情へ変わっていく。

 

 それからふたりは立ち上がり、焚き火から少し離れた位置で向かい合った。

 リンクは、旅の道中で拾った『兵士の剣』と『ケモノ柄の盾』を装備する。

 

 対して、ガノンドロフは、鞘に入れたままの双剣コウメコタケを握る。

 鞘のまわりを縄でぐるぐるに巻いてきつく固定し、刀身がはみ出さないようにしている。

 あやまってリンクが負傷しないための、ガノンドロフなりの配慮だ。

 

 リンクは<自分も剣を鞘に入れた方がいい?>と尋ねて来るが、ガノンドロフは「そのままでいい」と返した。

 

 なぜなら、ガノンドロフは傷つかない。

 退魔の剣と王家の光の力を除くすべての攻撃を無力化するからだ。

 それにガノンドロフとリンクの力量は隔絶しており、現在のリンクでは攻撃をあてることすら不可能だろう。

 

 それからふたりは打ち合った。

 

「気を付けろ。退けば死ぬ。

 おまえの『兵士の剣』より、わしのコウメコタケの方がリーチは長い。

 つまり下がれば下がるほど、リーチの長いわしが自分の優位な距離から攻撃でき、おまえは不利になる。

 ではこの場合どうする? 

 ……ほぉ<近づけばいい?>。それが正解だ。間合いを詰めろ」

 

 ガノンドロフは人に物を教えたことがない。

 ゆえに実戦を通して、リンクの問題点を把握し、それを指摘していく。

 

「だが闇雲に近づくな。

 相手もそれを理解している。もしくはすでに対策を打っている。

 相手が後退した場合、それがフェイントか否か、その思考を常に念頭に置いておけ」

 

 ガノンドロフはこれが最良な方法だと思った。

 剣士としての経験。そこから培った優れた観察眼。

 それによって、戦闘を通して、リンクにアプローチを働きかける。

 

「盾を持たないわしにはどの攻撃が有効か言ってみろ。

 なに……<突きかな?>だと。そうだ、それが正解だ。

 線より点の攻撃であるほど、防ぎづらい。しかし相手もそれを警戒するはず。他の攻撃パターンを混ぜて、手の内を読ませるな」

 

 焚き火の炎が光源となって、地面を照らす。

 照らされた地面に、ふたつの人影が写った。

 

 ひとりの剣士の影は、必死に動き回っている。

 もうひとり剣士の影は、どこか見守るように、もうひとつの影に合わせて動いていた。

 

 

 ★

 

 

 オルディン地方を北上していけば、巨大な火山に行き当たる。

 その火山の名はデスマウンテン。その頂上付近に、目的地である、ゴロンシティがある。

 

 ガノンドロフ達はデスマウンテンの麓にたどりついた。

 麓の村にある馬宿に向かい、そこで40ルピー払って、ガノンドロフの黒馬とリンクのエポナを宿に預けた。

 

 デスマウンテンは過酷な山であり、登頂する際は、馬を置いていかなければならない。

 周辺地域は雨が降らず、近づくにつれ、気温は上がっていく。

 なにより山道はとても険しい。

 

 ふたりは徒歩でデスマウンテンを登っていく。

 1合、2合と、登っていくたびに暑さは増していく。

 5合目に辿り着く頃には、空気はさらに熱を帯び、マグマで覆われた地形も確認できる。

 

(……真昼のゲルド砂漠よりも暑い。なにより砂漠の乾燥した暑さとも違う。まるで蒸し風呂に閉じ込められたようだ)

 

 ガノンドロフは、汗をぬぐいながら、デスマウンテンの過酷さを実感する。

 一方、リンクはこの暑さに参っているのか、時折、水筒の水をチャプチャプと飲む。

 やがてふたりは、麓の馬宿で購入した『燃えず薬』を体に塗り、暑さ耐性を得る。

 

 それから山道を進んで、ついにゴロンシティに到着した。

 

 

 ★

 

 

 唸り声が辺りに響いた。

 それは山をびりびりと震わせて、地面がかすかに揺れた。

 デスマウンテンの頂。そこにトカゲの形を模した巨大な機械が、マグマに覆われたエリアを這いずり回っている。

 

 あれが、神獣ヴァ・ルーダニアだろう。

 

 そんな光景を目にしながら、ガノンドロフとリンクはゴロンシティの門をくぐり抜けた。

 街のいたるところに、黄土色の肌をした岩のような岩人間──ゴロン族がいる。

 岩を素材とした家が立ち並ぶ。また洞穴があり、そこを住処としているところもある。

 

 ガノンドロフたちは、すれ違ったゴロン族を捕まえて、族長の居場所を尋ねた。

 街の奥にある洞穴。そこが族長の家だと聞き、ふたりはそこに向かった。

 

「ちっくしょお! あのルーダニアの野郎がぁ!」

 

 洞穴の奥で、怒りのこもった叫び声が聞こえた。

 白髭を生やし、片目に眼帯をつけた、腰の曲がったゴロン族の男がいた。族長のブルドーである。

 

「失礼、貴殿が族長のブルドーか?」

 

 ガノンドロフは、ブルドーに話しかけた。

 

「む、観光客か? おお、ありがてえ。最近、ルーダニアのせいで客足がめっきり遠のいちまったもんだから。まあ、ゆっくりしていってくれや」

 

「炎の神獣のせいで、何か被害をこうむったのか?」

 

「ああ、そうさ! あいつが暴れるから火山が活発になっちまってる! それに火炎弾を飛ばしてくるんだ。

 そのせいで、観光客が全員逃げちまったんだよ! チッ、腹が立つぜぇ」

 

 ゴロンシティはハイラルでも有名な観光名所である。

 しかし、神獣ヴァ・ルーダニアの暴走によって、客が減り、観光業において壊滅的なダメージを受けてしまったのだ。

 

「ならば話は早い。わしらは、あの神獣を止めに来た」

 

「ん? ルーダニアを? やめとけ、たしかにアンタは相当強えんだろうよ。

 所作のひとつひとつ、まったく隙がねえ。

 それに腰に差している二本の剣、それはかなりの業物だろう。

 隣にいるハイリア人の兄ちゃんも手練れだ。

 だが、あのルーダニアはユン坊がいねえと、どうにもならねえ」

 

「ユン坊とは?」

 

 それからふたりは、族長ブルドーの話を聞いた。

 

 炎の神獣ヴァ・ルーダニアは普段は火口に身を潜めている。

 そして気まぐれに姿をあらわし、周囲に火炎弾をばらまくのだ。

 その際、族長のブルドーと、ユン坊というゴロン族の少年が、ヴァ・ルーダニアを撃退し、火口に追い込んでいるという。

 

「ではそのユン坊はどこにいる?」

 

「ああ、あいつは今、北の廃坑の奥に行っちまった。オレがそこに腰痛止めの薬を忘れてきちまったんでな。それを取りに行ってくれてんだ。まあ、今日の夕方には戻ってくるだろうよ」

 

 いててて、とうめきながら、ブルドーは自分の曲がった腰を押さえた。

 

(そのユン坊という小僧から話を聞くとするか。だが小僧が戻ってくるまで時間がかかる。ならばその間、ここら一帯でも散策しておこう)

 

 リンクは<防具屋と雑貨屋が気になる>と言う。これからの旅の準備として立ち寄るのもいいかもしれない。

 

 そう思っていたガノンドロフであるが、その日の夕方になっても、さらに翌日になってもユン坊は帰って来なかった。

 ゴロンシティでも、ざわざわと動揺が広がっていた。誰もがユン坊の安否を心配しているのだ。

 

 ユン坊は北の廃坑の奥に向かった。

 廃坑の奥地は、デスマウンテン内で最も危険な場所だ。

 マグマの海に覆われ、火吹きリザルフォスが生息している。さらにマグロック、暴走したガーディアンまでもが出没する。

 

 そのような危険な場所から、ユン坊は帰って来ないのだ。

 これは何かあったに違いない、と誰もが思っている。

 

 そんな騒ぎの中、リンクはマイペースに、高台からシーカーストーンの望遠鏡をのぞきこんでいた。

 やがてリンクは、<北の廃坑の奥地で試練の祠を見つけたから、そこに行こう>とガノンドロフを誘った。

 ガノンドロフはこれを承諾した。

 

 

 ★

 

 

 ふたりはゴロンシティの東門から出て、廃坑の奥地へ進む。

 その道中、案の定、魔物に襲われるがこれらを蹴散らしていく。

 そしてあらかじめ発見していた、試練の祠にたどりつき、リンクは数時間かけて試練をクリアした。

 

 その帰路の途中のことである。

 リンクの行動が妙におかしかった。

 来た道とは別のルートをわざわざ進んだり、回り道したり、なぜか辺りをキョロキョロ見渡したり……。

 

 ガノンドロフは、リンクの真意にとっくに気が付いていた。

 

「リンク、本当は行方不明の小僧を探すためにここに来たのだろう」

 

 リンクの背中が、ぎくっと震えた。

 

「<なんでバレたの?>だと? たわけめ」

 

 ガノンドロフは、廃坑に向かう直前、リンクがゴロン族の者となにやら会話しているところを見かけた。

<どんな顔をしてるの、ユン坊って人は?>

<廃坑で人が迷いそうなところは?>

 そんな風に、捜索する気満々でリンクは質問してまわっていた。

 

「なぜ、見知らぬ小僧を助けようとする? 

 なに? <だってゴロン族の人たちが心配しているから>だと?」

 

 どうやらリンクは正義感から、このような危険地帯にわざわざ赴いたのだ。

 

(実にくだらん、そんなものはきれいごとだ)

 

 しかしガノンドロフは、リンクをあざ笑うことはできなかった。

 なぜならガノンドロフは、そんなきれいごとを掲げた勇者に何度も敗北したのだから。

 

(いいや、分かっていたはずだ。こやつは昔からそういう人間だった)

 

 ガノンドロフは、ため息をついた。

 

「……しかたあるまい。わしは左の道を探す。おまえは右の道を探せ。周囲をしらみ潰しにして、ゴロンの小僧を見つけるぞ」

 

 ふたりは別れて、溶岩地帯をぐるりと回る。

 リンクはパラセールを使って、崖から崖へマグマの海を渡っていく。ガノンドロフは、身体能力により、それらを飛び越えていく。

 

 1時間ほど経った頃、ガノンドロフは、奇妙な物音を耳にする。

 一際大きな大岩の中から、くぐもった声が聞こえた。誰かが外へ助けを求める声だ。

 

「この中に誰かがいる」

 

 リンクを呼び戻し、ふたりで大岩の前に立つ。

 大岩のある一面が、瓦礫になっており、そこから風が吹き抜けている。

 おそらく元々洞穴部分だったところが、崩落か何かで埋まってしまったのだろう。

 

 ガノンドロフがその瓦礫部分を破壊し、中に踏み込んだ。

 

 内部は、様々な道具が棚に並べられて居たり、地面に放置されている。

 おそらくはここは作業場のようなところなのだろう。

 

 その中央に、うずくまってプルプルと震えているゴロン族の少年がいた。

 ゴロン族の少年は、ガノンドロフを目にして、ぎょっとした顔をする。

 

「はわわっ、魔物だっ、黒モリブリンだコロ!」

 

 おそらく外からの逆光のせいで、ゴロン族の少年は、ガノンドロフを魔物と誤認したのだろう。

 

(黒モリブリン、だと?)

 

 ガノンドロフは、動揺した。

 けっして子供に魔物扱いされてショックを受けた訳ではない。……たぶんそうに違いない。

 

「小僧、おまえがユン坊で間違いないか?」

 

「え、はいコロ……」

 

「怪我は無いか」

 

「あの、魔物と間違えちゃって、ごめんなさい」

 

「……気にするな」

 

 

 ★

 

 

 どうやらあの大岩は、ヴァ・ルーダニアの咆哮による地響きで、入口が崩落してしまったのだ。

 そして内部にいたユン坊は閉じ込められてしまったということらしい。

 

 ガノンドロフとリンクは、ユン坊を連れて、大岩の外に出た。

 

 その時である。

 

 ざっざっ、という駆け抜けるような無数の足音が聞こえた。

 リンクとガノンドロフが、それぞれ通って来た別々の道から、火吹きリザルフォスの群れが押し寄せて来る。

 

 火吹きリザルフォスは、通常のリザルフォス同様に2足歩行のトカゲである。人間のように両手に武器を持ち、防具を装備していたりする。

 ただし赤色の鱗を持ち、通常種よりも強く、火を吹いて攻撃してくる。

 

 火吹きリザルフォスの群れは、それぞれ右の道から10体、左の道から40体。

 合わせて50体だ。

 

(少々、騒ぎすぎたか)

 

 おそらくあの魔物たちは、ガノンドロフが大岩に穴を空けた衝撃音を耳にして、こちらにやってきたのだろう。

 

「ど、どうしよう。あれだけの火吹きリザルフォス、勝てるわけがないコロ……」

 

 ユン坊は顔を青ざめている。

 そんなユン坊を一瞥し、ガノンドロフは疑問に思った。

 

(妙だな、思っていた人物像と違う)

 

 ユン坊は、たしかにゴロン族らしい大柄で、岩のような屈強な肉体をしている。

 だが丸っこい顔で弱気な目つきをし、おどおどした雰囲気を放っている。

 とても、神獣を追い払えるような人物に見えない。

 

「小僧、下がっていろ。後ろで大人しくしておけ」

 

 ガノンドロフの有無を言わせぬ圧力により、ユン坊は慌てて岩陰に身を潜めた。

 それを確認したガノンドロフは、リンクに視線を送る。

 

「リンク、ひとつ聞こう。

 おまえなら、あのうちどれくらいの数を倒せそうだ? 言ってみろ。

 ……ほぉ<10体くらいならいけるかな>か」

 

 ガノンドロフは、コウメコタケを抜剣した。それに続いてリンクも剣と盾を構える。

 

「では、右の道から来る10体をおまえが、左の道から来る40体をわしが片付ける。

 おまえはラネール地方にいた頃より、強くなっているはずだ。ここでその力を示してみろ」

 

 ガノンドロフの言葉に、リンクはうなずいた。

 そうして、ガノンドロフとリンクは、それぞれ分かれて、敵を迎え撃つ。

 

 ガノンドロフは剣を構え、相手の出方をうかがう。

 40体の火吹きリザルフォスの集団は、綺麗に列を組んで、ガノンドロフ目がけて疾走する。

 

 先頭の火吹きリザルフォスは、『強化リザルブーメラン』を手に、ぶらぶらさせている。

 早く獲物を叩きのめしたくてたまらないのだろう。

 

 ついにガノンドロフと、魔物の集団が正面から激突した。

 

 まずガノンドロフは右剣コウメを振るった。右から左へ半円を描いた一撃は、4体の胴体を切りさく。

 次に、左剣コタケの剣で放った刺突は、3体の首元を貫く。

 そして返すように交差した二本の剣は、6体を切り刻んだ。

 

 ガノンドロフは敵陣の中で、時に流れるように円を描き、あるいは点を突く。

 さらながらそれは踊り子が舞台の上で舞っているようだ。

 そしてその舞がおこなわれるたびに、魔物の死骸が積み上がっていく。

 

 ゲルド流剣術は、二振りの剣を操り、舞うように戦う剣術である。

 一見すると、これは実戦では向かない、どこか情緒的な剣術だと思われる。

 しかしその実態は、引き算の美学によって最小限まで無駄が省かれた理論の剣術だ。

 

 振るわれた剣は、最速で敵を切りさく軌跡を描き、次の素早い一撃につなげていく。

 それは防御を捨てた攻撃だ。

 そして攻撃こそが最大の防御である。

 

 ふた呼吸もしないうちに、最後の一匹を残して、火吹きリザルフォスの群れは壊滅する。

 

 切り捨てた魔物たちを踏み越えて、ガノンドロフは、最後の一匹にゆっくり歩み寄った。

 最後の魔物はガノンドロフに向けて火を吹いた。

 ガノンドロフは業火に包まれた。しかし傷一つ付かず、平然としている。

 まるでそれは、地獄から現れた魔王のようだった。

 

 燃え盛る炎の中、一歩、一歩、ガノンドロフは歩みを止めない。

 

 火吹きリザルフォスは、ブルブルと顔を痙攣させた。

 この化け物を殺すことはできない。これから自分は他の同胞と同じ末路をたどるのだ。

 そう本能で理解して、動くことさえできないのだろう。

 

 そうしてガノンドロフは、容赦なく魔物の首を斬り飛ばした。

 斬撃が速すぎて、おそらく魔物は痛みを感じる時間さえなかっただろう。

 魔王が敵対者にかける、最後の慈悲だ。

 

 敵をせん滅したガノンドロフは、双剣を鞘に戻し、リンクの様子を確認する。

 

(リンクといえど、魔物を同時に10体相手にするのだ。苦戦しているかもしれんな)

 

 そして、ガノンドロフの目に映ったのは。

 

 

 逃走するリンクの姿だった。

 

 

 迫りくる10体の火吹きリザルフォス。

 対してリンクは、剣と盾をしまい、魔物たちから逃走する。

 

 リンクは1人。火吹きリザルフォスは10体。圧倒的な数の不利である。

 剣で戦えば、包囲されてしまうだろう。弓で戦うにしても、距離を詰められておしまいだ。

 たしかに逃げるのは得策といえるが……。

 

(いや待て、なにかおかしい)

 

 ガノンドロフは、奇妙な点に気が付く。

 まずリンクの走る速度が、魔物たちと全く同じなのだ。

 おそらく誘導しているのではないか。だがどこに……? 

 

 やがてガノンドロフは、リンクが何をしようとしているのか察した。

 

「ふふ、そう来るか。面白い」

 

 リンクが向かう先には、古びた橋がある。

 橋の下には、ぐつぐつとマグマが広がっている。橋の向こうはマグマの海に浮かぶ小島がある。

 

 まずリンクは橋の付近に、青く発光する球体──リモコンバクダンを設置する。

 そして橋を渡り、小島にたどりついたリンクは、もう片方の橋の隅に、青く発光する四角形──二つ目のリモコンバクダンを置いた。

 

 火吹きリザルフォスたちは、リンクを追ってぞろぞろと橋を渡る。

 10匹全員が、橋に乗った瞬間、リンクはリモコンバクダン2つを起動した。

 

 両端で爆弾が爆発し、その衝撃で橋が崩れる。

 橋の上にいた魔物たちは次々と転落し、マグマに叩き落とされていく。

 こうして7体は倒したが、残りの3体はかろうじて難を逃れ、リンクに襲いかかる。

 

 しかし、ここでもリンクは冷静に対応してみせた。

 

 まず、3体のうち1体をビタロックを使って、時間停止させる。

 そして残りの2体のうち1体を『電気の矢』で射て、感電させて身動きを封じる。

 

 これにより、リンクはごくわずかな時間、残った1匹と、一対一の状況となる。

 リンクは剣と盾を構え、襲いかかる魔物と向かい合う。

 

 戦いは一瞬だった。

 

 リンクは後退し、前に踏み込むのを誘って、鋭い突きで敵の先を制する一撃を放つ。

 ガノンドロフが剣の稽古で教えた、駆け引きによるカウンターだ。

 リンクの突きは、敵の胸元を貫いた。

 

 そのあとリンクは、すばやく、無力化された他の2匹を倒し、戦闘を終了させるのだった。

 

(やはり……リンクは戦いが上手い)

 

 ガノンドロフは、感嘆する。

 たしかにガノンドロフにとって、今のリンクの純粋な戦闘力は取るに足らないものだ。

 

 だからこそ、リンクの優れた戦闘センスが一際輝いて見える。

 おそらくあれは、経験や知識で体得したものではない。

 生来リンクが持つ、天賦の才なのだろう。

 

 ガノンドロフは、不思議と高揚感を覚えた。

 リンクが勝利し、力を示したせいか。それとも、自分が教えたことをうまく活用していたせいか。

 少なくともそれは、自分の勝利では得られないことには間違いない。

 

 そんなガノンドロフを、岩の影からじっと眺める人影がいる。

 

「うわぁ、すごい、まるでダルケル様みたいな戦士コロ……」

 

 ユン坊はキラキラとした目で、ガノンドロフを見ていた。

 それはまるで、憧れの戦士と出会った少年のようだった。

 

 

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