もしも風のタクトのガノンおじさんがブレワイ世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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7.風の神獣ヴァ・メドー

 ガノンドロフはこの頃、思う。

 旅とは良いものである。

 旅は様々な発見が得られる。新しいものと出会える。

 それはガノンドロフにとって、なによりも面白いものである。

 

「ふむ、なかなか釣れんな」

 

 川のほとりで、ガノンドロフはあぐらをかいて座っていた。

 手には釣り竿を持ち、釣り糸は冷たい川へ垂らされている。

 

 かれこれ、30分、魚は一向にひっかからない。

 しかしガノンドロフは焦らない。

 のんびり待つ時間もひとつの楽しみだからだ。

 

 ガノンドロフの隣には、リンクも同じように釣りをしており、そちらもまだ一匹も釣れていない。

 

「むっ」

 

 その時、ぴくり、とガノンドロフの釣り糸が反応した。

 スッ、と釣り糸を引き上げれば、餌にくいついた『マックスサーモン』が水面から姿をあらわす。

 

 ガノンドロフは、満足げに頬をゆるめる。

 これは、最高の獲物を釣り上げた。

 良く育った脂の乗った体をしている。今日のご馳走はこれで決まりだ。

 

 一方、リンクはいまだに何も釣れていない。

 やがてリンクは釣り竿を置いて、立ち上がった。

 

 釣ることを諦めたのか?

 いや、そうではない。

 

 リンクは、シーカーストーンを起動し、生成したリモコンバクダンを川に投げつけた。

 どん、と爆発音とともに、水しぶきがあがる。

 すると川の水面に、爆発をくらった2匹の『マックスサーモン』が浮上する。

 リンクはそれら2匹の獲物を回収した。

 

(なるほど、こういう釣りもありなのか……?)

 

 いや、それにしては少々手荒というか、環境破壊染みているというか……。

 ガノンドロフは、邪道ともいえる釣りに対して、なんだか複雑な気分になった。

 

 これもまた、旅における発見の一つなのかもしれない……。

 

 

 ★

 

 

 ゲルド地方を抜けたガノンドロフとリンクは、その足で馬宿に向かい、預けた愛馬を回収する。

 それからふたりは馬で北上し、へブラ地方に突入した。

 

 次なる目的地は、風の神獣ヴァ・メドーがある、リト村だ。

 

 ハイラル北西にあるへブラ地方は、四季問わず雪が降り、氷点下を下回る山岳地帯である。

 道中は四方八方が白銀の世界で覆われ、吐く息は真っ白になる。

 そんな極寒の環境の中、ガノンドロフとリンクは試練の祠をめぐった。

 これにより、20にもおよぶ試練をクリアしたリンクは、さらに強化された。

 

 リンクは全盛期に近い実力を取り戻しつつあった。

 

 100年の眠りで欠落した記憶は、旅の道中で少しずつ取り戻している。

 かつての英傑だった頃の戦闘経験や技術も、記憶の回復により、鮮明なかたちでリンクの中に戻ってきている。

 さらに試練の祠をクリアして授かった女神からの加護で、衰弱していた身体能力も底上げされる。

 

 なによりガノンドロフとリンクは、毎日かかさず剣の稽古をおこなう。

 ガノンドロフという傑出した剣士と剣を交わしたことで、リンクは剣士として立ちまわりと、己の剣技を洗練させていった。

 

 

 へブラ地方の街道を進み、タバンタの辺境まで移動したふたりは、山脈の付近にあるリト村を目視する。

 村が見える距離まで近づいた。

 あと1日あれば、リト村にたどりつけるだろう。

 

 だが、もう夕暮れだ。

 この極寒の地は、陽が沈むのは他の地方より早い。

 夜は、地面からスタル系の魔物が出没するので、馬の安全のために夜間の移動は禁物である。

 

 ふたりは、馬を近くの木にくくりつけ、焚き火を起こした。

 へブラ地方の寒さに耐えがたいのか、リンクは防寒着にくるまりながら、料理をはじめた。

 

 今日の献立は、釣った魚を用いたものである。

 釣り上げた『マックスサーモン』。

 そして道中、行商人から買った『ハイラル米』と『ヤギのバター』。

『岩塩』をひとつまみし、隠し味に『イチゴ』をちょっぴり加える。

 

 鍋のなかで、それらの材料たちがコトコトと混ぜあわさっていく。

 そうして『マックスサーモンリゾット』のできあがりだ。

 

「リンク、やはりおまえが作る飯は美味いな」

 

『マックスサーモン』の自然のうまみと『ヤギのバター』のとろける味わい。

 このふたつが『ハイラル米』に染み込み、極上のリゾットに仕上がっていた。

 

 ご飯の上に乗せられたサーモンの切り身も、うまい。

 柔らかく煮あがっていて、噛むほど味わい深い。

 そして隠し味のイチゴが、これらのうまみを引き立てるスパイスとなっていた。

 

 できたてのリゾットは、空腹感を満たすと同時に、冷えた体を内側から温めてくれる。

 極寒であるヘブラ地方の旅には、よく効く。

 

「ううむ」

 

 ガノンドロフは思わず疑った。

 リンクは元々騎士志望ではなく、料理人を目指していたのではないだろうか。

 でなければ、この料理の腕は説明がつかない。まさに旅をする料理人だ。

 

 料理を食べ終えたあと、ガノンドロフはリンクにたずねた。

 

「厄災を討伐したあと、おまえはどうする?」

 

 その質問に、リンクは<自分はゼルダ姫の近衛騎士だから、姫を守る>と言った。

 

「この国は100年前に滅んだ。おまえはもう騎士ではない。なのにかつての職務を果たすつもりなのか……。おまえは律儀な奴だな。

 む? <じゃあ、ドロフさんは厄災を倒した後はどうするの?>だと?」

 

 そうだ、自分は何をすればいいのだろうか。

 厄災ガノンを消して、地下に封印された本体の自分を抹殺して。

 そうしてすべての清算を終えたあと、そこにいる自分は何者なのか。

 野望を失い、枯れ果てたひとりのゲルドの男が、そこには残されている。

 

 何をしたいのか、自分でも見つけられない。

 だから恐れているのだ。

 ゼルダの提案を先延ばしにしたのも、そんな空虚な人生を過ごすのが恐ろしいからだ。

 

「正直、考えていない。もう旅は終わるというのにな」

 

 風の神獣ヴァ・メドーを奪還すれば、4つの神獣は揃う。

 そして厄災との戦いに備えるのだ。

 

「<ハイラルから出て行って、故郷に帰るの?>だと? いいや、あそこにはもう戻ることはできんさ」

 

 楽しい時間ほど、早く過ぎる。これほど嫌なことはない。

 

「さて、腹ごしらえして、一服したのだ。

 剣を抜け、リンク。稽古をはじめるぞ。だが明日から数日は神獣攻略になる。

 体に負担をかけぬように、今日は短めに切り上げるぞ」

 

 

 ★

 

 

 翌日の昼間、ガノンドロフとリンクはリト村に着いた。

 巨大なリリトコ湖。その真ん中に屹立するのは塔のような大岩だ。

 その大岩の周囲に沿うように、リト族たちの住居が作られている。

 

 リト村の上空から鳥のさえずる声が聞こえた。

 見上げれば、そこには巨大な鳥を模した機械が周囲をゆったりと旋回している。

 あれが、風の神獣ヴァ・メドーだろう。

 

 ふたりは、リト村の門をくぐった。

 ガノンドロフは、村の様子をじっくり観察した。

 

(ふむ、やはりこの世界でもリトの者たちは変わらんな)

 

 村内にいる鳥人たち──リト族の者らを見かけたガノンドロフは、そう感想をこぼした。

 

 あの海の時代では、リト族たちは、温暖な環境である竜の島で暮らしていた。

 ところがこの世界では、極寒の雪山に集落をつくっているらしい。

 たしかにリト族たちの体毛はフカフカなので、寒さには強そうである。

 そして翼のような形をした腕で空を飛ぶのは、この世界のリト族も同じらしい。

 

 集落の中を進んだふたりは、リト族族長カーンの元をたずねた。

 

「おや、御客人ですかな。ようこそ、リトの村へ」

 

 フクロウのような顔つきのリト族──カーンは椅子にこしかけ、今にもまどろんでしまいそうな表情でガノンドロフとリンクに対応した。

 

「はじめまして、カーン族長。わしはドロフという。村の上空に浮かぶ、神獣ヴァ・メドーに乗り込ませていただきたい」

 

「ほぉ、メドーにですか。むむ、失礼、ドロフ殿の隣にいるハイリア人の青年。彼の腰につけている石板は、シーカーストーンですかな?」

 

 カーン族長は、それまで半開きだった両目をカッ、と大きく開け、リンクに視線をやった。

 

「シーカーストーンを存じているのか?」

 

 ガノンドロフがそうたずねると、カーン族長は咳払いした。

 

「ウオッホン、やはりそうでしたか。

 100年前、英傑たちはシーカーストーンを所持し、それによって神獣を操っていたといういい伝えがあります。

 つまりそこにいる青年は、英傑の意思を継いだ後継者ということでございましょうか?」

 

「……まぁ、平たく言えばそういうことだ」

 

「それに、最近、ある噂を耳にしたのです」

 

「噂とは?」

 

「勇敢なハイリア人の青年と、100年に一度しか現れないゲルドの男が、各地をめぐって、暴れる神獣を鎮めてまわっている。

 ハイラルを憂う救国の勇士らがを国中を飛び回っている、と。

 そんな噂を村におとずれる行商人から耳にしました。

 ゾーラ里に立ち寄った者や、ゴロンシティに観光に遊びにいった者、ゲルドの街に行った者らも、そんな噂を聞いたとか……。

 どうやら噂は真実だったようですね」

 

 族長カーンは、ガノンドロフとリンクに頭を下げた。

 

「お二方にはどうか、神獣ヴァ・メドーを取り返して頂きたい」

 

「承知している。あれを止めるためにわしらはこの地に来たのだ」

 

 ガノンドロフがそう言うと、カーン族長は嬉しかったのか皺だらけの頬をゆるめた。

 

「それはありがたい。あれのせいで、村の若い戦士たちがケガを負ってしまったのです」

 

「なにがあった?」

 

「血気盛んな若い戦士たちがヴァ・メドーに乗り込もうと近づいたのです。

 ですが、メドーは近づいた者に反応して、バリアを展開し、砲撃してくるのです。

 5人いた戦士のうち4人は撃ち落とされ、重傷を負いました」

 

「残りの一人は無事か?」

 

「はい、たったひとり、戦士のテバだけが攻撃を免れました。

 しかし、テバのやつは仲間の仇を討とうと、メドーに再度攻撃をしかけようと考えているのです」

 

「無茶だろう。誰も止めようとしないのか?」

 

「それが、テバのやつは村から少し離れたところにある、飛行訓練場に閉じこもっているのです」

 

「……なるほど、話をしていただき感謝する、カーン族長」

 

 カーン族長の話に相槌を打ちつつ、ガノンドロフはこれからの行動を考えた。

 ひとまずテバという戦士に会いに行こう。

 

 ヴァ・メドーは上空を飛行している。

 ガノンドロフもリンクも、空を飛ぶことなどできないので、ヴァ・メドーに近づくことはできない。

 そこで、空を飛べるリト族の手を借りれば、この問題は解決できる。

 

 テバはヴァ・メドーに対して、仲間の仇を討ちたいと考えている。

 ならば話を通せば、ガノンドロフらに協力してくれるはずだ。

 

 ガノンドロフとリンクは、テバに接触するため、リト村を出た。

 村から北上して、数時間直進すれば、切り立った渓谷にたどりつく。

 その渓谷の麓に飛行訓練場があり、そこに掘っ建て小屋がひとつ建っている。

 その屋外のベランダには、ひとりのリト族の者が座り込んで、弓の手入れをしている。

 

「おまえ、戦士テバで間違いないか?」

 

 ガノンドロフはテバに近寄り、そうたずねた。

 眉根を寄せたテバは、手入れで動かしていた手を止めて、ガノンドロフとリンクを見た。

 

「アンタらは誰だ? おれは今、忙しいんだ」

 

 テバはふたたび弓の手入れを再開しようとするが、ガノンドロフの一言で、さいど、その手が止まった。

 

「おまえがヴァ・メドーに乗り込もうとしていることはカーン族長から聞いている」

 

「……なるほど、アンタたちは心配した族長からさしがねって訳か。おれを連れ戻そうとしているのか?」

 

「いいや、逆だ。わしらはおまえに手を貸す」

 

「なに?」

 

 いぶかしむテバに、ガノンドロフは教えた。

 

「わしらはアレの内部に乗り込んで、正常な状態に戻したい。

 だがわしらには、おまえたちリト族のように翼は生えていないので、空は飛べない。

 そこで、おまえに協力することにした

 おまえは、共に神獣と戦う味方を得る。

 わしらは神獣に乗り込む手段を得るということだ」

 

「はっはっはっ、ギブアンドテイクというやつか。

 いいだろう。その話、乗ってやる。

 おれの背中に乗せて、神獣まで送ってやろう。

 ただし、ひとつ条件がある」

 

「条件だと?」

 

「そこにいるハイリア人の兄ちゃんは問題ない。だが、アンタを乗せて飛べない」

 

「なぜだ?」

 

「体重の問題だ。アンタを背負って空を飛べば、重さに耐えられなくなる」

 

 テバの言葉を聞いて、ガノンドロフはハッとする。

 

 たしかにそれは盲点だった。

 ガノンドロフは、2メートルを超える巨漢の男である。しかも屈強な肉体を持ち、筋肉により体重は相当ある。

 冷静に考えれば、そんなガノンドロフを、テバが背中に乗せて飛ぶことは無理があった。

 

 リンクは<じゃあ神獣攻略は自分ひとりだけでするの?>と聞いてきた。

 

「そうだな、どうやら今回はお留守番らしい」

 

 テバに乗せてもらうには、何らかの方法で今すぐ体重を減らすしかない。

 ダイエット? いや無理だ。

 体重を減らす魔法? そんな都合のいいものは存在しない。

 なんだか不甲斐なさを感じたガノンドロフであるが、仕方なく受け入れることにする。

 

 とはいえ、いきなりヴァ・メドーを攻略するわけには行かず、準備が必要だった。

 

 ヴァ・メドーの展開するシールドを破壊するには、弓矢によって、遠距離から攻撃をしかける。

 だが、リンクは遠距離の狙撃がニガテらしい。

 しかもメドーとの戦いは、空中戦であり、空の上という慣れない環境下で狙撃をおこなう。

 

 そういった事情から、リンクは飛行訓練場で半日程度、弓矢を射る練習をすることとなった。

 高台からパラセールで飛び降りながら、リンクは弓を構える。

 そして崖に埋め込まれた的を、一つ、二つと射ていく。

 そんなリンクの練習風景を、掘っ立て小屋のベランダからガノンドロフは眺めていた。

 

 しばらく手持ち無沙汰だったガノンドロフは、近くで弓の手入れをしていたテバに様々なことをたずねた。

 リト族のことや、へブラ地方のことなどだ。

 テバは、ぶっきらぼうながらも正直に答えてくれた。

 

「なに、金色ライネルだと?」

 

 ガノンドロフは、テバが語ったある話に興味をひかれた。

 

 どうやらここ最近、リト村の近くでライネルが生息しはじめたという。

 その金色ライネルは、普通のライネルとは異なる稀少種なのだそうだ。

 

「金色ライネルは桁違いに強い。しかも、そいつは変わった習性をしているんだ。

 たいてい魔物っていうのは、人間を見境なく襲うだろう?

 だがその金色ライネルは、強い人間だけを狙って襲うんだ。

 若いリト族の戦士たちが、数人、そのライネルの襲撃を受けた。攻撃をしても傷ひとつも付かず、まったく敵わなかったそうだ」

 

「そのようなライネルがいるのか……」

 

 ガノンドロフとリンクは、ラネール地方の雷獣山以外でも、ライネルと遭遇したことが何度かあった。

 通常種の赤髪。その上位種の青色。さらに上位の白髪。

 それらのライネルを見かけたことはあるが、金色というのは目にしたことはなかった。

 

「もう数百年も生きているという、伝説の魔物だよ。

 厄災の瘴気によって変異した化物なのか、それとも縄張り争いに勝ち続けて成長した怪物なのか。

 どういう経緯でやつが生まれたのか、おれは知らん。

 あれは、一種の自然災害のようなものかもしれんな」

 

「金色ライネルはどこにいる?」

 

「村の南東にあるハシビロ湖に縄張りをつくっている。だからその周辺には誰も近寄らないようにしているんだ」

 

 ガノンドロフは思いついた。

 馬を走らせれば、ここから1時間はかからずにつくだろう。

 ちょうどいい。リンクが神獣攻略している間に、金色ライネルを討伐してこよう。

 

 ここでリト族に恩を売っておけば、将来的に、リンクやゼルダがハイラルを復興する際、リト族を相手にスムーズに交渉できるだろう。

 

 ガノンドロフの旅は、厄災とその本体を抹殺して終わる。

 しかしリンクとゼルダは、厄災を倒してから、国を復興するという大仕事が待っているのだ。

 将来を見据えて、ささやかな種をまいておくのもいいかもしれない。

 

 飛行訓練場を出たガノンドロフは、黒馬にまたがり、ハシビロ湖に向かった。

 

 

 ★

 

 

 ハシビロ湖に着いたガノンドロフは、金色ライネルの捜索を開始した。

 幸い、金色ライネルはすぐに発見できた。

 人間とは思えない、普通の魔物とは思えない、巨大な足跡が雪の上にはっきり残されていたからだ。

 その足跡をたどったガノンドロフは、雑木林の中を進み、木々の隙間から金色ライネルの姿を目撃する。

 

 そのライネルは、やはりガノンドロフが見たことがない種のものである。

 神々しい金色の体躯と、それに相反するような雪のように白いたてがみを持っていたのだ。

 

「こっちを見ろ、相手してやる」

 

 ガノンドロフが殺気を飛ばせば、それに反応したのか、金色ライネルは振り返った。

 そして金色ライネルは、にいっ、と口元を釣り上げる。

 それは絶好の好敵手を見つけたかのような、あるいはこれからの戦いに高揚しているかのような笑みだった。

 

 戦いは、言葉もなく、はじまった。

 

 ガノンドロフはコウメコタケを抜剣する。

 一方、金色ライネルは、いびつな形状をした片手剣と、手裏剣のような形の盾を持ち、木々をなぎ倒しながら迫る。

 

 ガノンドロフは右剣で袈裟斬りを放つ。

 金色ライネルは疾走しながら、上から下へ叩き斬るような一撃を打ちこむ。

 

 両者の一撃は、同じタイミングで放たれ、激しくぶつかりあった。

 そのぶつかりあいに、押し負けたのは金色ライネルの方だった。

 巨大な体躯が、衝撃でぐらりと揺らぎ、わずかな隙が生まれる。

 

 その瞬間をガノンドロフは見逃さない。

 

 ガノンドロフは一歩踏み込みながら、視線を右斜め上に送る。

 金色ライネルは、ガノンドロフの視線の動きから、右斜め上から攻撃が来るだろうと警戒し、盾を構える。

 だがガノンドロフは右剣コウメを、左斜め下から右斜め上へ斬り上げる。

 不意を突いた一撃は、がら空きになった金色ライネルの胴を切り付けた。

 

 金色ライネルは、うめき声を上げて、胴から血をぽたぽた流す。

 

 これは視線誘導という技法のひとつである。

 たとえば視線を右斜め上に送れば、相手はその方向から攻撃が来るだろうと警戒する。

 そして相手の裏をついて、全く逆の方向から攻撃を加えるのだ。

 

 剣技においては、視線誘導は、中級レベルのフェイントである。

 ある程度の技量に達した戦士ならば、この小細工を容易く看破できるだろう。

 たとえばリンクであれば、引っ掛かることはない。

 

 だがこの金色ライネルは、魔物である。

 何らかの剣術や立ち回りを学んでいるわけでもなく、本能のままに戦うだけだ。

 それゆえ、剣士同士の読み合いなどできるわけがなく、初歩的なフェイントにすらひっかかってしまうのだ。

 

 なによりガノンドロフは、金色ライネルの手の内を完全に読み切っている。

 金色ライネルは力任せに剣を振るうだけだった。

 攻撃のタイミングも、剣の軌道も、すぐに見切れるほど単調だ。

 

 戦いは一方的だった。

 金色ライネルは防御に徹したとしても、ガノンドロフはその裏を読み、攻撃をくらわせた。

 そして金色ライネルが攻撃をしかけても、手の内を読んだガノンドロフはそれらを受け流し、カウンターを叩きこんでいく。

 

 たしかに金色ライネルは並外れた魔物だ。

 怪物のような腕力から放たれた一撃は、大岩を粉砕し、大地を揺らすだろう。

 純粋なパワーにおいては、ガノンドロフに匹敵するほどである。

 その戦闘力はカースガノン4体分に匹敵し、現在のリンクや、かつての英傑たちでも倒すのは不可能に近い。

 

 しかし、所詮は魔物なので、剣士としては未熟。

ゲルド流剣術を突き詰め、剣士として完成されたガノンドロフにとって、ただ体力とパワーがやたらある、ガタイがいいだけの初心者である。

 

 戦いが10秒経過したころには、金色ライネルは体中に傷を負い、追い詰められていた。

 金色ライネルは、後退しながら、炎ブレスを口から吐き出す。

 ひとひとりを飲みこむほどの大きさの火の玉が、ガノンドロフに襲いかかる。

 

 ガノンドロフは、火の玉を切りさいた。

 真っ二つになった火の玉は、勢いを失い、地面を覆う雪の中に消えていった。

 次に金色ライネルは『電気の矢』を放つが、これもガノンドロフはあっさりと防いでしまう。

 

 やがて金色ライネルは、ガノンドロフに背を向けて走った。

 だが、それは逃走するためではない。

 次の一撃のための、助走だ。

 

 金色ライネルは、覚悟したのだろう。

 剣を打ち合えば自分は負ける。しかも遠距離の攻撃はこの敵に通用しない。

 だからこの敵を打破するには、己が出せる最高速度の一撃を打ち出すほかない。

 

 防御は無意味だと悟ったのか、金色ライネルは盾を捨てて、片手剣を両手に持つ。

 それから方向転換した金色ライネルは、加速し、ガノンドロフに接近する。

 

「いいだろう。小細工では勝てないと気が付いたか」

 

 ガノンドロフはその場から一歩も動かない。

 双剣を構え、呼吸を止めて体のブレをなくす。一撃を放つ準備はできている。

 

 金色ライネルは、水平方向に剣を大振りに振るう。

 間違いなく、それは、金色ライネルが放てる最高速度の一撃だ。

 粗く力任せの剣技とはいえ、よく練られた、無駄のない軌道を描いている。

 

 だがそれより早く、静かに振るわれた、ガノンドロフの双剣の交差攻撃が、金色ライネルの胸部に到達した。

 

 金色ライネルは血を流し、痛みによる苦悶と戦闘による高揚が入り混じったような笑みを浮かべて、倒れた。

 

 コウメコタケを鞘に戻したガノンドロフは、動かなくなった金色ライネルを見下ろして、その死を確認した。

 そのあと、上空から爆音のようなものが聞こえたので、見上げた。

 ガノンドロフの目に映ったのは、バリアを展開したヴァ・メドーの姿。そしてその周囲を移動する、テバとその背に乗ったリンクの姿である。

 

(ついにリンクが戦い始めたか。では、この死骸を引きずって、村に戻るとしよう)

 

 ガノンドロフは、金色ライネルの亡骸を引きずりながら、馬を連れて、徒歩でリト村に戻った。

 

 

 ★

 

 

「これがあの伝説の金色ライネル……。まさかこれほどの魔物を倒してしまわれるとは」

 

「なに、手間のかかる雑草狩りのようなものだ」

 

 金色ライネルの死骸に目にして驚くカーン族長に対して、ガノンドロフは肩をすくめて、対応した。

 村にいたリト族の者たちは、狩られた金色ライネルのまわりに集まって、ざわざわと騒いでいた。

 

「ドロフ殿、ありがたい、この魔物をみんなが恐れていたのです。

 前までよく来ていた行商人も、金色ライネルに怖がって立ち寄らなくなったこともあった。

 これでみんな安心できるでしょう。どう感謝すればいいのか……」

 

「気にする必要はない。ただ将来、この国が復興されるとき、貴殿らリト族の者たちには、国政に積極的に関わって頂きたい。

 ハイラルの未来には、ハイリア人だけが切り開いていくわけではない。

 そこにはリト族の者たちも含まれている。

 これはその時の貸しのようなものだと思ってもらえばいい」

 

「ええ、この御恩は忘れませぬ。もちろんでございます」

 

 カーン族長は深々とおじぎをし、感謝の言葉を口にした。

 

 しばらくそんなやりとりを続けていると、上空で繰り広げられている戦いが終わりを迎える。

 ヴァ・メドーのバリアが消失し、動きが停止した。

 どうやらリンクは、無事に暴走したメドーを鎮めたらしい。

 寒空を飛び回っていたテバが、リンクを乗せたまま、ガノンドロフの元までやってくる。

 

「む、どうしたのだ、リンク? 神獣に乗り込まんのか?

 なに<一緒に攻略しにいこう>だと?

 わしはテバに乗れん、上空にいるヴァ・メドーには近づけんぞ」

 

 ガノンドロフの言葉に、リンクは<考えがある>といって、シーカーストーンを起動させる。

 それからリンクに連れられたガノンドロフは、村の外から湖のほとりに移動した。

 そこには、黒色の鉄の板があった。鉄の板は人ひとりが座れる面積がある。

 おそらく時折見かける、太古のシーカー族の遺跡の残骸の一部だろう。

 

 ガノンドロフは、この黒色の板を目にし、リンクが何をしようとしているのか見抜いた。

 

「なるほど、なるほど、そういう使い方もできるのか。面白い」

 

 それからガノンドロフとリンクは、話し合って、すぐに行動に移した。

 

 まず鉄の板を台座のような場所に置き、地面との間に空間を作る。

 次にリンクがビタロックを使い、鉄の板を時間停止させる。

 そしてガノンドロフが、鉄の板を勢いよく上方向に蹴り上げた。一発、二発、三発、何度も蹴り上げて、鉄の板に衝撃を蓄積させていく。

 

 それからガノンドロフは、すばやく鉄の板の上に乗る。

 それと同時に、鉄の板にかけられたビタロックが解除された。

 びゅん、と弓から矢が放たれたみたいに、鉄の板は上空めがけて勢いよく跳ね上がった。

 ガノンドロフが何度も与えた衝撃により、鉄の板は減速せず、飛び上がりつづける。

 

 その進行方向の先には、ヴァ・メドーがある。

 やがて鉄の板は、失速しはじめたが、ヴァ・メドーの外郭付近まで近づく。

 ガノンドロフは、鉄の板からジャンプし、ヴァ・メドーの外郭に飛び移った。

 それにつづいて、テバに乗ったリンクがヴァ・メドーに到着。

 

 こうしてリンクの知恵により、ガノンドロフはヴァ・メドー攻略に参加を果たすのだった。

 

 

 ★

 

 

 それからふたりは、ヴァ・メドーの内部に侵入する。

 メドーはこれまでの神獣と同じで、謎を解いて奥地へ進む。

 なので今回も、壁に穴を開けて謎解きを無視していくべきだと思われるが、そうはいかない。

 

 ヴァ・メドーの真下にはリト村がある。

 もし仮に穴を開けて動力源を壊してしまったら、メドーは墜落してしまうかもしれない。

 その場合、メドーの墜落先は、真下にあるリト村となり、リト村は甚大な被害を受けるだろう。

 住民を危険にさらす可能性を考慮して、これまでの裏技を使うことはできなかった。

 

 よって今回は、正攻法で謎を解いて、奥地へ向かうことにする。

 ガノンドロフとしては、謎解きなど嫌であるが、これは最後の神獣攻略である。

 最後なのだ。ならば正しくこのダンジョンを攻略してやろう。

 そういった面持ちで、ガノンドロフは気乗りしないまま、リンクと協力し、謎を解いていった。

 

(……面倒だな、もう二度とやりたくない)

 

 と、内心で愚痴をこぼしながらも、最奥にたどりついた。

 昇降機を使い、ヴァ・メドーの背中部分の外郭に移動することで、ボス部屋に到着した。

 

 ボス部屋には、カースガノンが待ち受けていた。

 これまでのカースガノンとはまたタイプが違うようで、右手に巨大な大砲を装着しており、他の三体よりも巨大だ。

 

(サイズが大きいせいか、よけいに気色悪く感じるな……)

 

「ではさっさと片付けるぞ。ん、<今回はひとりで倒してみたい>だと?」

 

 リンクはガノンドロフにそう提案した。

 たしかにこれまで戦ってきたカースガノンは、すべて二人の手で瞬殺してきた。

 本来、カースガノンは英傑を倒すほどの強い魔物だ。それを完封してしまうこと自体が、そもそも異常なことなのだ。

 リンクは、一人で戦うことで、今の自分の実力を確かめようとしているのだろう。

 

「……いいだろう。わしは後ろで観戦しておこう」

 

 ガノンドロフは、戦いに巻き込まれないように後ろに下がって、壁にもたれかかった。

 リンクは剣と盾を抜いて、カースガノンと相対する。

 

 そして、リンクとカースガノンの戦いがはじまった。

 まず今回のカースガノンは、常に空中に浮遊し、接近を許さない。

 そして右手の砲台でレーザーを放ち、自分が有利な位置から攻撃をしかけてくる。

 

 そんなカースガノンに対して、リンクは一切攻撃をおこなわない。

 盾を構えてレーザーを防いだり、ステップで回避したり、柱に隠れてやり過ごしたり。

 ときおり、何かを確認するように弓矢を放ったり、爆弾を投げたりするが、基本的には避けてばかり。

 そんな応酬が5分ていど繰り返されたころ、リンクの動きがとつぜん、変わった。

 

 リンクが攻勢に転じた。

 弓をつがえ、連続で矢を放つ。それらは、恐ろしいほどの精密さですべてカースガノンに的中させる。

 カースガノンはレーザーをリンクに放つ。だがリンクは右に一歩移動し、その攻撃をギリギリで避けた。

 

 カースガノンは、次々と攻撃するが、どれもリンクに当たることはない。

 それらの攻撃を、まるで未来予知のようにリンクは回避していくのだ。

 

(ふむ、さきほどまで回避に徹していたのは、相手の動きを読むためだったのだろう。ときおり攻撃をしかけていたのは、相手の出方をうかがうため。なによりどんな攻撃が相手に通じるのか確かめるため、といったところか)

 

 あの5分間で、リンクは相手を攻略する手立てを考えていたのだろう。

 カースガノンはどのような攻撃してくるのか、また、どのような攻撃が有効なのか、それらをつまびらかにするべく観察に徹していた。

 

『剣士の戦いにおいて、相手の手の内を読んだ者が勝つ。読まれた者は死ぬ』

 

 ガノンドロフは稽古の時、リンクにそう教えた。

 リンクはその教えを、剣での戦いのみではなく、すべての戦闘において活用していたのだ。

 

 やがてカースガノンは、矢を大量に食らったダメージで、地面に着陸する。

 その着陸地点には、リモコンバクダンがふたつ転がっていた。

 リンクがカースガノンの着地地点をあらかじめ予想し、先手を打って、配置していたのだ。

 カースガノンが降り立つと同時に、爆弾は起動し、爆発が発生。

 

 爆炎にのみこまれたカースガノンはよろめいた。

 それと同時に、リンクはダッシュし、カースガノンに近づく。

 リンクの接近を許すまいと、カースガノンはふたたび飛び上がろうとする。

 

 しかしここで、リンクはビタロックを使用。

 カースガノンの動きを停止させる。

 停止時間はわずか2秒。リンクは腰を引いて、カースガノンの一つ目にめがけて、鋭い突きを放った。

 一撃、二撃、三撃。

 

 ビタロックが解除された瞬間、弱点を連続で攻撃された大ダメージが、カースガノンを苦しめた。

 そこへ畳みかけるように、リンクは弱点の目玉に、一撃、二撃と、加えていく。

 

 カースガノンは反撃すべく、右手の銃身をリンクに振りかざす。

 だがそれを読んでいたリンクは、盾によるシールドバッシュで銃身をはじき飛ばした。

 

 そして3度目のリンクの突きがカースガノンのひとつ目を貫いた。

 カースガノンはぴたり、と動きを止めたあと、悲鳴と機械が混じったような声を出して、消滅していった。

 

「見事だ。よくやった」

 

 ガノンドロフは、リンクの戦いぶりを讃えた。

 

 リンクの元来持つ、戦いの素養。

 そして、これまでの旅で得て、あるいは取り戻した、戦闘技術と身体能力。

 成長したリンクがカースガノンを完封勝利することを、ガノンドロフは最初から予感していた。

 

(もう、リンクに教えることはほとんどないな……)

 

 リンクの成長を喜ぶと同時に、ガノンドロフは寂しさを覚えた。

 

 

 ★

 

 

 それからガノンドロフとリンクは、制御装置を起動した。

 これによってヴァ・メドーは正常に動きはじめる。

 

 すると二人の前に、リト族の幽霊が現れた。

 リト族の幽霊──英傑リーバルは、ふん、と鼻を鳴らして口を開いた。

 

『まさかひとりで倒しちゃうなんて。流石、退魔の剣に選ばれた勇者様だね。

 そちらのお連れの方をなしでひとりで戦うなんて、非効率すぎやしないか?

 まあ、けどキミはアイツを倒してくれた。それに関しては感謝しているさ』

 

 リーバルは、100年ぶりの再会とは思えぬような口ぶりで、リンクに皮肉を言い放つ。

 だがそれは不思議と嫌味な感じはせず、むしろ友人に対しての気遣いのいらぬ親しさのように思える。

 

『まあ、キミが無事でよかったよ。じゃあリンク、そちらのお連れの人も、厄災との決戦で会うとしようじゃないか』

 

 そう言って、リーバルの霊は寒空の中に消えていった。

 

 

 ハイラルに、4匹の獣の咆哮がとどろいた。

 ラネール地方のゾーラの貯水湖から、水の神獣ヴァ・ルッタが。

 オルディン地方のデスマウンテンの山頂から、炎の神獣ヴァ・ルーダニアが。

 ゲルド地方の荒涼とした砂漠から、雷の神獣ヴァ・ナボリスが。

 そしてこのへブラ地方のリト村の上空から、風の神獣ヴァ・メドーが。

 

 4体の神獣が、それぞれの復活を喜び分かち合うように、何度も吠えている。

 そして神獣たちの目線の先には、ハイラルの中心に広がるハイラル平原がある。

 平原の中央に屹立したハイラル城。そこに巣くう、忌々しい厄災ガノンこそが神獣たちの攻撃目標だ。

 

 ゼルダの声が聞こえた。

 

『ドロフさん、リンク、聞こえますか。4体の神獣すべてが復活しました。あとは厄災ガノンとの決戦への準備を進めるだけです』

 

「貴殿をずいぶん待たせた、ゼルダ姫。正直、すこし長く感じただろう」

 

『いいえ、けっしてそのようなことは思うわけがありません。ありがとう、ふたりとも。

ガノンを倒したあと、ハイラルはきっと良くなります。みんなが安心して暮らせるような、お父様も夢見た、そんな国が』

 

「その話については、まずはやつを殺して貴殿を救出してからだ」

 

 ガノンドロフがそう言い切ると、ゼルダが恐る恐るといった口調でたずねた。

 

『あの、ドロフさん』

 

「なんだ?」

 

『返事を聞かせてください。ゲルドの砂漠であなたにした、質問の答えを』

 

「……ああ、すっかり言いそびれていたな」

 

『すべてが終わったあと、新興ハイラル王国に仕える』と、ゼルダからそんな勧誘を受けていたのだ。

 あの時、ガノンドロフは、答えを先延ばしにしてしまった。

 先延ばしにしたその答えを、今ここで言う時が来たのだ。

 

「わしは──」

 

 断らせてもらおう。

 旅の目的も、リンク達に協力することも、すべてはこの世界の自分を抹殺するためだ。

 

 なのでガノンドロフは、この旅が終われば、リンクとゼルダの元から姿を消すつもりだった。

 そしてどこか遠い地で放浪の旅をしようと考えていた。

 全てを清算しても、自分には生きる目的がない。

 ハイラルに仕えても、その役目に意味を見出せず、虚しい時間を過ごすだけだろう。

 

「断る」という一言が喉まで出かかった時、ガノンドロフの視界にハイラル平原の緑色の大地がうつった。

 そしてその反対方向には、ゲルド地方の黄色の砂漠が広がっている。

 

 ガノンドロフの頭に、電流のようなものが走った。

 願いにも似た、ある考えが浮かんだ。

 

「──よいだろう。ゼルダ姫。このハイラルに仕えさせてもらおう」

 

「本当ですか!」

 

 声だけしか聞こえないが、ガノンドロフの宣言で、ゼルダが喜んでいることが伝わってくる。

 

「ちょうど今さっき、やるべきことを見つけた。それを実現するには貴殿の提案に乗るのが一番いいと思っただけだよ」

 

 この世界のゲルド砂漠は、ガノンドロフが暮らしていた砂漠よりも、多少は豊かである。

 ところどころに植物は自生し、地下水やオアシスが点在している。

 ゲルドの民たちも、誇り高く、立派に生きている。

 

 しかしそれでも、砂漠が死の風を運んでくることに変わりはない。

 昼には灼熱を、夜には荒涼を。

 ゲルドの民たちは、健在とはいえ、過酷な環境に身を置いている事には変わりない。

 

 ゲルド砂漠はいまだに過酷だ。その過酷さに苦しんでいる者はやはりいる。

 ならば、その地で生きる人々が暮らしやすいように、砂漠を自然豊かな土地にすればいい。

 

(この世界には古代シーカー族が残した、高度な文明の機械や技術が各地の遺跡に眠っている。それらをうまく利用できれば、ゲルド砂漠を肥沃な土地にできるかもしれん)

 

 かつて若かりし頃のガノンドロフは、隣にあった豊かな土地を奪おうと考えた。

 だが今のガノンドロフは、まったく逆の方法を選んだ。

 

 奪うのではなく、自らの手で豊かさを作っていけばよい。

 

 それが、ガノンドロフの新しい人生の目標だった。

 

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