Teach me the Continuation ~奴隷少女との生活~   作:To6roNovel

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君と話したい

 

 

 「小さい頃、トマトが苦手だったんだ」

 

 

 窓から日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる中、朝食の香りに包まれた部屋で私は言う。料理を取るシルヴィの手が止まり、こちらを覗き込むように顔を向ける。

 

 「あの酸味と食感がどうにも受けつけられなくてね。サラダにトマトが出た時はよく別の皿に移して怒られてね」

 

 そのまま続けて話す私を変わらぬ表情で見据えるシルヴィ。その瞳には怯えの色が垣間見える。これから一体何の話をされるのだろう、とでも言いたげな瞳だ。

 

 「酷い時は絶対に食べない!って言って家から飛び出した後、食べられる野草を探して持ってきて、『これを食べるからトマトは勘弁してくれ』なんて頼み込んだ時もあったんだ。今考えると笑っちゃうくらい子供だったなと思うよ」

 

 「そんな風に全くトマトに手を付けない私を見かねて、母が色々試してくれたんだ。その一つがこのスープなのさ」

 

 そうして私は朝食のトマトスープを口にする。酸味を優しく包み込むコンソメが、母が初めてこのスープを作ってくれたあの日を思い出させる。「トマトのくせに美味しい!」なんて言いながら食べていたんだったかな。そんな私の様子を見てシルヴィの目には段々と困惑の色が浮かんできている。そんな彼女を真っ直ぐと見て私は言う。

 

 「君のことを聞いてばっかりだったからね。私の話も少し聞いてもらいたくなったんだ」

 

 

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 シルヴィへの問答を避けられていると確信した翌日から、朝の時間には自分の話を少しすることにした。普通ならば人に寄り添うには相手を知ることが第一だろう。しかしそれをシルヴィが忌避しているのなら、逆効果になってしまうだろう。そうであれば、まず私自身の事を知ってもらい、彼女の警戒心を解く必要があるのではないか。そう考えた結果、朝に自分のことを話す時間を設けることにしたのだ。

 

 自分の話をする機会なんて久しくなかったからか、思っていたよりも色々話してしまった。

 読書をするのが好きで、偶に来る行商人から様々な書物を買っていること。自分がやっている町医者の仕事のこと。医者になってから崩れた睡眠習慣を誤魔化すために好きでもないコーヒーを飲み続けていること。

 初めの方は無表情で特に反応が返ってくることもなく、少し戸惑うようにただ黙って聞いているだけだった。しかしだんだんと聞いているときの戸惑いがなくなり、表情は変わらないものの強張らせることなく話を聞くようになっていた。

 劇的な変化ではないかもしれないが、少しでもリラックス出来るようになったならば大きな進歩だろう。悪いようにならない間は続けてみよう。もしかしたらリアクションが返ってくる日もそう遠くないかもしれない。

 

 

 

 そうして日々を過ごしていると、もうシルヴィが来てから一ヶ月が経とうとしている。時の流れとは本当に早いものだ。そんなことを考えながら町の市場に行く準備を終える。二人分の食事を作ると食材の減りが前よりも多くなっているから、こうして町中に行くことが増えたように思う。

 

 いつものように玄関に向かうと、後ろから見送りをするためにシルヴィが向かってくる。見送りはシルヴィが来て初めて外出する時から、ずっと自主的に来てくれている。最初はわざわざ毎回見送りに来てもらうのは悪いから大丈夫だと言おうと思ったのだが、シルヴィと私が交流する機会が多くなるのはこちらにとって都合がいいのではないかと気付いた。だから、シルヴィがやってくれているうちは見送ってもらうことにしている。

 

 「行ってらっしゃいませ、ご主人樣」

 

 そう言ってシルヴィは恭しくお辞儀をする。来たばかりは何処かぎこちなくお辞儀をしていたが、今は大分整ったお辞儀になっている。一ヶ月も経つとこなれてきたのだろう。

 段々と変わりつつあるシルヴィを見て少し安心するとともに、それに伴わず全く変わらない所に目が引き寄せられる。シルヴィが来てからずっと変わらないその服装だ。

 来てからすぐの頃も新しい服を与えた方がいいのではないかと思ったのだが、シルヴィが与えられることに怯えていたのでしばらくは自重することにしていた。しかし、あの頃よりもこの環境に馴染んだ今ならば、そろそろ新しい服を与えても良い気がする。

 

 「…あの、ご主人様、どうかしましたか?」

 

 そんな事を考えていると、佇んでいる私を不思議に思ったのかシルヴィはそう声を掛けてきた。

 

 「ちょっと考え事をしていてね、気にしなくて大丈夫だよ。とりあえずお留守番よろしくね」

 

 そう言って玄関の戸を開け外に出る。とりあえず近い内に服を買いに行くことにしよう。こちらにお辞儀をするシルヴィとチャリンとなる鈴の音を背に、そんな事を考えて買い出しへと向かった。

 

 

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 「新しい服、ですか?」

 

 「うん。今度買い物の荷物を持ってもらうのを手伝ってもらいたいんだけど、その格好だと少し人の視線が気になっちゃうだろうからさ」

 

 あれから三日、早速服を買いに行くことにした。ただ服を買うというとシルヴィが気にするかもしれないと思い、手伝いのために必要だからという名目で一緒に買いに行こうと提案した。

 

 「…あまり重い物は持てないと思いますが、それでもいいのなら」

 

 「大丈夫だよ。それじゃあ、少し準備したら町に行こうか」

 

 

 

 いつもと変わらず大通りには多くの人が行き交っている。久々に外に出たからか、はたまた多くの人の視線が気になるのか。シルヴィは目を泳がせながら後ろをついて来ている。

 もしかすると人を怖がって買い出しどころではなくなってしまうのではないかという心配が少しあったのだが、そんな事はなかった。確かに戸惑っている様子ではあるが、怯えている訳ではないようだ。これならば外出の回数を重ねれば直に慣れるだろう。

 

 そうしている内に行きつけの服屋にたどり着いたのだが、どうも店が開いていないようだ。店の前には貼り紙があり、「体調不良より本日休業」と書いてある。確かに数日前にここの店主の方が診察に来たが、まだ治っていなかったらしい。症状が悪化しなければいいのだが。

 

 さてどうしたものかと考えて、近くの人に別の服屋がないか聞くことにした。ちょうど近くにお洒落なマダムがいたので尋ねてみる。

 

 「そうねぇ…女性服ならあそこの細道の通りにひっそりと専門店があるそうよ。なんでも"魔女"のいる店だとか。人伝てに聞いただけだけれどね」

 

 「魔女、ですか?」

 

 「ええ、あの店に入った女性は見違えるそうよ。それこそ魔法をかけられたみたいに」

 

 なんともまあ噂話らしいうわさだが、服屋があるらしいことは分かったので、その服屋に向かうことにした。礼を言うと、マダムはこちらに手を振り「ごきげんよう」と笑顔で告げて人だかりに溶け込んでいった。良識のある人に聞けて良かったと思いつつ、落ち着かない様子のシルヴィを連れて細道の方へ足を運んだ。

 

 

 

 細道を進んでいくと、服屋らしき看板のお店があった。しかしカーテンがかかっているせいで内装が見えず、外からはどんな雰囲気の店なのかはわからなかった。とりあえず、中に入ろうとして扉を開けてみる。

 

 

 店に入ると、目に入るのは様々な女性服の数々。ドレスやワンピースなどの普通の服だけでなく、セーラー服のような制服や、異国の衣装らしきものまで扱っているようだった。

 こんなにも服というのは種類があるものなのか。

 

 そう関心をもちながらもふと横のシルヴィを見ると、変わらずそわそわとした様子だった。ただ良く見てみるとその瞳は様々な服の方を行き来しており、心なしか少しキラキラしていた。それを見て、なんとなく年相応の幼さを感じほほえましさで口角が緩んでしまう。

 

 

 「あら、いらっしゃいませ」

 

 

 そうして少し店内を見ていると、奥の方から店主であろう金髪の女性が現れた。

 黒く(つば)の広い三角帽子に、黒いドレスを身に着け、妖艶な笑みを浮かべるその姿は、噂にたがえぬ"魔女"のような姿だった。

 その姿に少し驚きながらも、とりあえず挨拶をしなければと口を開こうとして_____

 

 

 「あらあら、今日はこちらのお嬢さんのお洋服を探しに来られたのですか?」

 

 「そうでしょう?そうであってくださいな。いえ、そうに違いませんわ。だって失礼なことを言うようですけれど、お嬢さんの恰好は服を取り扱う身としては悪い意味で見逃せませんもの」

 

 「ほんのちょっぴり待っていただけますこと?この子にぴったりなお洋服を見繕って差し上げますわ。ほらほら、こっちへいらっしゃい」

 

 「え…あっ」

 

 

 すごい勢いでまくし立てるなと思ったのも束の間、そのままシルヴィの手を取って奥の方へ行ってしまった。一瞬の出来事だったため、うろたえるシルヴィが連れていかれるのを立ち尽くしてみているしかなかった。

 火のないところに煙は立たず。あのような噂が立つくらいには曲の強い店主なのは違いないのだろう。

 

 

 

 「お待たせいたしました、お客様」

 

 

 

 しばらく待っていると、店主と共にシルヴィが出てきた。

 そこには見窄らしい少女の姿はもうなかった。

 

 

 藍の色が基調となっていて、白い袖とフリルがついている可愛らしい上着。スラリと伸び、両側に艶やかな模様の入ったロングスカート。そして胸元と後ろ髪を纏めている青いリボン。その姿は当に箱入り娘のようだった。

 どうやら噂は間違っていなかったらしいと私は舌を巻いた。

 

 「どうですかお客様、見違えるようではございませんか?」

 

 そう言われている当の本人は落ち着かないのか、上着の白い模様を指でなぞりながらそわそわとしている。

 

 「年頃の娘さんにあんなほつれた布切れ一枚なんてあんまりですわ。それにこちらのほうが素敵ではございませんか?(ワタクシ)はこちらのお洋服お買い上げすることを強くお勧めしますわ」

 

 元々はシルヴィに選んでもらおうと思っていたのだが、今考えてみると、遠慮して前と同じような物を持ってきてもおかしくはないだろう。それにとても良く似合っている。ならば、こうやって少しは押しを強くして買ってしまった方が良いのかもしれない。

 

 「分かりました。それではそちらのお洋服の方を買わせてください」

 

 「それはそれは、とても賢明な判断だと思いますわ。身だしなみは人の品格を左右するもの、これでお嬢さんも素敵なレディーですわ」

 

 

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 チャリンという鈴の音を背に帰路についていると、ふと後ろからの足音が止まったので振り返る。シルヴィは先程からきょろきょろと目線を泳がせていた顔をこちらに向ける。

 

 「あの…本当にこんなに良い服を買っていただいてもよかったのでしょうか?…今からでも別のものに変えてもらった方がいいのでは…」

 

 おずおずとそう言って目線を下げていくシルヴィ。先ほど着て出てきた時は目を輝かせていたというのに…やはりまだ色々気にかけてしまうのだろうか。しかしながら、あの年相応の姿を見せられて尚、返品しに行くという選択肢はとても考えられない。そうでなくても望むものは買い与えるつもりだったのだが。

 

 「気にしなくて大丈夫だよ。君もその服を気に入ったようだしね。それにその服、とても似合っているよ」

 

 「あ、その…ありがとうございます」

 

 顔に朱が差したと思えばシルヴィはそのまま顔を俯かせてしまった。こうやって反応している所を見ていると、本当に少しずつではあるが彼女も変わりつつあるように思う。いつか、彼女がありのままでいられるようになれるならいいなと思いまた足を進めた。

 

 

 

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