《無限の蛇》にとってそれは好物の生贄であった。
体内の円環に閉じ込めていくつもの人生を味わわせた。
渦巻く感情の全てが《無限の蛇》を酔わせた。
だがある時、生贄の剣が口中から彼の頭を切り裂いた。
吐き出した『紅蓮の王』の突きつける剣を見た時、《蛇》は己の無限が断たれた事を知った…。
蛇と王の遠い昔の話。
◆◇◆◇◆◇
「我、今度こそグレートレッド倒す」
朝、彼がマンションにある食堂のような場所で朝食のカレーを取っていると、目の前に小さいモノが現れ、そんなことを言い出した。
その者の名はウロボロス。紅蓮の王の最強クラスの使い魔の1体だ。
全長、体重、最高速度の全てが測定不能で、寿命が終わりなしという生物としての規格を超えすぎた超生命体であり、その本気の力は一撫でで大陸を割り、国を粉砕するほどである。
ただ……断片的だが昔の記憶では…。
「
少なくともゴスロリ幼女ではなかったハズである。
ちなみにだが、別に彼が次元の狭間を欲しがっていたりすることは一切無い。ウロボロスの完全な独断だ。
「おう気長に頑張れ」
「ん…」
そう言ったが、ウロボロスは何かを待つようにそこで佇み、じっと彼を見つめていた。
彼はそれがいつもの事だと理解した彼は口を開いた。
「頑張れ"オーフィス"」
それを聞くとオーフィスの身体が少し震え、表情が綻んだように見えた。
ちなみにオーフィスとは昔、紅蓮の王がウロボロスに付けた名前である。
「頑張る」
それだけ言うとオーフィスは空間を割り、中に進んで行った。
直ぐに割れた空間は閉じ、何も無かったように元の空間へと戻った。
「ところで王サマ。王サマが知っている限り、アイツがそう言って失敗した数は?」
偶々、相席していた大皿のエビチリを頬張るケフカが彼に問い掛ける。
彼はカレースプーンをくわえながら少し考えてから2本、指を立てた。
「102回だ」
「………………ダメだこりゃ」
ケフカは大袈裟に肩を竦めた。
◆◇◆◇◆◇
生徒会長にグチグチと言われるいつもの学校を寝て過ごし、マンションに帰ると昨日のように中庭に何かがいた。
彼は中庭の中央にうつ伏せで倒れているそれに近づき、落ちている手頃な木の棒を拾ってからしゃがむと、それの頬をつついた。
「おーい、大丈夫かオーフィス」
「………………」
返事がない。ただのオーフィスのようだ。
「負けた…」
「うん、見りゃわかる」
彼女の全身から漂うそれは明らかな敗北臭である。
「ぐすん…」
「大人しく"黄泉神"でも連れてけよ。それなら勝てるだろ」
「イヤ…」
「さいですか」
そんなやり取りをしていると後ろに人影を感じ、彼が振り向いた。
そこには黒髪赤目の少女がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「兄さん!」
「ただいま、
「あ、うん。小猫ちゃんっていう悪魔の子が……って話を反らさない!」
小猫なのに悪魔? 小悪魔? などと考える彼にリシアは指を突き付けた。
「オーフィスさんイジめちゃダメでしょう!」
「…………はい?」
彼は妹を下から見上げながら妹が何を言っているか解らず首を傾げた。
仕方なく、今の状況を客観的に見てみることにした。
ボロボロ幼女(詐欺)
青年(守銭奴)
木の棒(桜の枝)
まるでR―15浦島太郎のような構図である。
「オーフィスさん部屋に来る? アイス食べる?」
「…………食べる…」
オーフィスはむくりと立ち上がるとリシアに連れられてマンションに入っていった。
「ああ、リシア」
「なに?」
彼は妹を引き留め、スマホの画面を妹に見せた。
そこに写っていたのはしゃがんでいた時に撮ったとある写真だ。
それを見てリシアの表情が氷の女王より凍り付き、漏れた魔力から周囲が氷点下以下の気温になった。
彼はそんなことは気にせずに言葉を放った。
「高校生にもなってプリントパンツは無いと思うぞ」
その返事は最上級悪魔クラスの威力の魔弾だった。
◆◇◆◇◆◇
「と、いうことがついさっきあったんだ。酷いと思わないか?」
「もう一度、死ねばいいんじゃないかしら?」
「こやつめ、ハハハ」
「ダメね……バカは死んでも治ってないみたいだし」
そう言って腋から二の腕に掛けてが露出した巫女装束を着ている少女は湯呑みのお茶を啜った。
彼女の名を博麗 霊夢と言う。無論、彼女も彼の使い魔の一人だ。
彼がチラリと部屋の隅を見るとそこにはこの和室に相応しくない現代風の鉄扉でがあった。
マンションの1つの扉から直接彼女の住みかに繋がっているのである。要するにマンションの扉が世界を繋げる"どこでもドア"になっているのだ。
メゾン・ヴァーミリオンの部屋はこのように直接住みかに繋がっている場合、部屋自体が異界化している場合、普通に利用されている場合の3つがある。
この場合は最初のモノだろう。
「だいたい、なんでいつも私なのよ」
彼女が口を尖らせながら呟いた。
彼は妹絡みで何かあるといつも彼女の所に愚痴を言いに来るのである。
「俺の女性使い魔の中でマトモな返答を期待できる奴がお前以外にいると思ってるのか?」
尻尾の弱い淫魔姉妹。
日本神話最古のヤンデレと、その遺伝子を全面的に継いじゃってる月の神様。
マイナス思考な蛇姫。
口を開けば暴言しか吐かない両性具有の女性。
自称永遠の17歳の英雄。
初音ミクっぽい何か。
料理でダークマターを量産するナイチチ。
未だにエスカレーターを逆走する最強のエレベーターガール。
等々上げればキリがない。
「アンタ…意外と苦労してるわね…ん? マトモな女性ならいるじゃない、リディアとか、ティファリスとか、レナスさんとか」
「清い乙女にこんな話、出来るわけ無いだろう」
「なにそれ? 私が汚れてるって言いたいの? ぶん殴るわよ」
ちなみに、最初にレナスに話したところ尻にニーベルン・ヴァレスティを食らったのは内緒である。
「そんなことより…」
彼女は机を叩き、キッと彼を睨んだ。
「賽銭箱どうにかしなさいよ」
彼女は一応この博麗神社という神社の巫女らしい。ただ、間が悪いのか、人気が無いのかは不明だが、彼はこの神社に参拝客が来たのを1度たりとも見たことは無い。
「あの置物と化してるサーセン箱のことか? あれに賽銭が入らないのは昔からだろ」
「そうだけど違うわよ! アンタが賽銭箱にサーセン箱って彫ってからあの賽銭箱はサーセン箱ってよばれてるのよ!? 主に早苗に!」
「フヒヒ、サーセン」
「表出ろアホ王…」
彼女はゆらりと卓袱台から立ち上がると、
「生憎、喧嘩は買わない主義なんだ」
そんなことを言いつつ、彼も立ち上がり、無手を構える。
すると突如として、マンションと繋がっているドアが開き、二人はそちらを見た。
「やはりここか……おや? お取り込み中のようか」
それはスーツにレザーグローブを付け、金髪にモノクロを掛けた男性だった。
「だが、そんなことは関係ない。王、仕事の時間だ」
そう言って男性は自分の懐中電灯を彼に見せた。
それを見て彼は渋い顔になった。
「へいへい、わかってるよ。相変わらず、時間に厳しいな」
「規律は徹底されたスケジュールによっても生まれる。その点日本人は素晴らしい、実に模範的だ」
そんなことを言いながら男性はタバコを取り出すと、もう片方の1本の指に小さな火を灯らせ、タバコに火を付けた。
「少しは融通が効いてもいいだろ"ウリエル"」
その男性こそが、四大熾天使の一人であり、彼と激動の世界を駆けた使い魔の一人でもあるウリエルだった。
「熾天使の送迎付で給料は破格の上、週2回。普通なら泣いて喜ぶところだ。まあ、貴様に言っても無駄か」
「野郎の送迎なんてなんとも思わねえよ。せめてラファエルか、ガブリエルでも連れて来いってんだ」
彼はウリエルに愚痴を言ってから踵を扉へ向けた。
「ああ…賽銭箱は今度来たときにどうにかする。じゃあな」
「始めからそう言いなさいよ…」
彼は彼女の小言と、ジト目を背に、ウリエルと共に居間から出て行った。
◆◇◆◇◆◇
彼は全体を確認できない程巨大な大きさの魔方陣に似た形のものが折り重なって出来たモニュメントのようなモノの前にいた。
「相変わらず、製作者のセンスを疑う外観だな」
「………………」
ウリエルは黙ってタバコを吸いながら、ハードカバーの本を読んでいた。
反論しない辺り、彼の後ろに控えているウリエルもそう思っているのかもしれない。
彼はモニュメントの側まで歩くと、手を置いた。
するとモニュメントの至るところが輝き、点滅を始め、魔方陣の形に似たモノが歯車のように回転し始めた。
いや、実際に歯車だったのだろう。
1つ1つのモニュメントのパーツが動き出し、やがて全てのパーツがそれぞれ規則的な動きを始めた。
『本人認証完了。"システム"起動します』
機械的なシステム全体に光が灯った。
紅蓮の王の現在の仕事。
それは死滅した聖書の神の代わりに時々、システムを動かす事である。
人物紹介
赤目黒髪の少女。仁慈のけしからん妹。兄のような特別な力は無いが、特定の頭のおか…変わった使い魔に妙に好かれている。
それにしても、リシアは何食ったらここまでデカくなるのか。きっと別の世界線でアルカナを宿しているせに違いない。
個性が過ぎる使い魔の皆さん
ウロボロス
巷でオーフィスなどと呼ばれている蛇龍。紅蓮の王に献上するために次元の狭間を攻略中だが戦況は芳しくない。
博麗 霊夢
楽園の素敵な巫女。七界に迷い混んだところを前世の紅蓮の王に拾われる。その頃は主に回復役を担当していたが、その実力はかなり高い。
ウリエル
神の炎の異名を持つ四大熾天使。融通の効かない天使の連中の中ではこれでもマトモな方だったりする。