深い森の中で一人の女性が息を荒げ、時々どこか遠くの場所を見つめながらもそれから逃げるように走り続けていた。
その姿は黒い和服姿ではあるが様々な傷が身体に浮かんおり、数人の追っ手に付けられたモノだということがわかる。
彼女の名は"黒歌"。主人を殺したSSランクのはぐれ悪魔であり、妖怪・猫又の中でも強い力を持つ猫魈でもある。それ故に気の扱いと仙術に長ける。
これまで彼女をあらゆる目的で付け狙ってきた者は数多であり、その殆どを殺害してきた。殺しておかなければいつまでも同じ相手に追われ続ける事になるからだ。
そんな彼女が何をしているのかと言えば単純に逃げているのである。隠そうともせずに一直線にこちらに向かってくる、感じ取った瞬間に端から戦うことを諦めた程の"馬鹿デカいとしか形容のしようがない何か"から。
「ッ…!?」
黒歌は前方にとあるシルエットを見付けた事で足を急停止させ、気を放つと身構えた。
そこには紫色の長髪をポニーテールに纏めた女性が立っていた。だが、いつもと違うのは全身の至るところを覆う黒い魔装を纏っている事か。
女性の両手に握られているのは身の丈の半分以上を占める尖端の赤い双剣であり、それをダカーナイフのように構えている。
「こんな時にまで……!!」
黒歌は歯軋りをしながら彼女を睨み付けた。
彼女は黒歌を狙う連中の中でも最も執拗に黒歌を補足し、襲撃を掛けてくる人物である。その期間は数年間であり、回数は既に100を軽く越え、昼夜問わず行動してくるために黒歌がひとつの場所に長く留まる事が不可能にさせている張本人なのだ。
その恨みの籠った視線を知ってか、基本的に黒歌の前で一切の言葉を話さない彼女の口が開かれる。
「恐れることはありません。“死ぬ時間”が来ただけです」
「お前がそれを言うか…!」
黒歌の嘆きも仕方無いだろう。目の前の彼女を数年間で黒歌は既に"三回"殺し、死亡も確認しているのだから。にも関わらず彼女は次の日になれば当たり前のように襲撃を掛けてくるのである。
次の瞬間、黒歌が動く前に彼女が動いた。
「"
「…!?」
一瞬、黒歌は何をされたのかわからなかった。いや、結果は単純に黒歌の身体が双剣により斬り刻まれただけなのだが、問題はそのスピードがまでの彼女より明らかに速く、威力も段違いな事だ。
ガードには成功したがそれでも身体には小さくはない傷が出来ており、体外へと血が流れている。
黒歌は目の前の存在を排除し、依然として決して遅くはない速さでこちらに向かってくる"何か"から逃げるために気を放出し、身体を黒い霧のようなモノが覆った。
「にゃ!?」
その直後、直感的に立っていた場所から飛び退くと、黒歌がいた場所を青い光線による爆撃のような何かが襲い、一帯が吹き飛んだ。
「あら? けっこう機敏ね。でもモーマンタイ。次は吹き飛ばすわよ」
転がりながら避け、発射地点であろう場所を見つめるとそこには赤い髪をした女性が立ち、その隣での幽霊の少女がふわふわと浮いていた。
「うふふ、もう逃げられないわ」
幽霊の少女が手を空へ広げると、少女から淡い紫色の蝶が飛び交い黒歌を中心とし、半径500m程のドーム状に空と地を覆った。その光景は幻想的で万人に美しいと感じさせるには二十分なものだろう。
「な……」
だが、黒歌はその蝶を見たまま言葉を失った。気を扱うモノだから瞬時に理解できたいや、理解してしまったのだ。
その蝶ひとつにでも黒歌が当たった瞬間に即死する程の生命狩りの力が込められていることに。
これでは実質的に檻に入れられたも同然だろう。
「"召雷"」
理解が追い付かず暫く、思考が停止していた黒歌は空から聞こえた凛とした声により、現実に引き戻された。
黒歌の頭上には100m以上はあろうかという雷球と水色の髪の少女が浮いており、雷球は瞬き程の時間の後、黒歌へと直撃した。
◇◆◇◆◇◆
「はっ……はっ…」
黒歌は切り傷と、雷でボロボロの身体にムチを打ちながらも森の中を疾走していた。
確かに並の悪魔なら触れた瞬間、消し炭になるようなあの雷は黒歌に多大なダメージを与えたが、それは威力が高過ぎた為に辺りの蝶すら吹き飛ばした。それにより、爆発に紛れて逃走することが出来たのだ。
「これなら……」
逃走していた対象を遠くに感じ、徐々に遠ざかることに黒歌の頬が多少緩んだ。
「月光は狂気の引き金…耐えられる?」
が、その表情は絶望へと変わる。
その刹那、自身の頭上に逃げていた対象が現れたからだ。
「ぐっ……!?」
逃げようとするが全身の力が入らない。一歩すら歩み出せる気がしない。仙術の行使など夢のまた夢だ。
恐らく巨大な結界か何かが張られたのだろう。彼女はなんとか力を振り絞り上を見上げる。
「うふふ、私から逃げられると思ったの? 残念、だれもお月さまからは逃げられないの」
「うぅ……」
生命力、魔力、気、光力。この世界には数多の力がある。
その中で目の前に浮いている魔法少女モノの適役の魔女のような姿をした存在から放たれる力は紛れもなくそう……彼女すら殆ど見たことのない神力をまるで霊脈がそのまま移動しているがの如くの莫大な力を常に撒き散らしながらだ。
対峙して更に格が違いすぎると思い知らされる。
「月…?」
「クスクス……そうよ。私は"ツクヨミ"よろしくね。仲良くしましょう?」
「月神…月詠…!?」
ひとりの悪魔の為に日本の最高位の神が出張ってきたと言うことだろう。あり得ない話だが、目の前の存在から放たれる神力は紛れもないそれだ。
「ご苦労ツクヨミ」
「勿論よ。ダーリン」
「あら? あなたに指揮を任せたら随分時間が掛かったわね」
「煩い……」
「は……?」
呆けた彼女の呟きは仕方無いだろう。ツクヨミの隣に突如として出現した二人組の男女の内の女性は日本神話の最高位クラスの神であるツクヨミの少なくとも数倍から数十倍の量の神力を纏い。男性の方はそれさえも超える彼女が見たこともない何か莫大な力を有しているのは明らかだったからだ。
更に追っ手も追い付いたのか彼女の回りを囲っている。
「まあ、良いでしょうここからは私の時間よ」
最早、黒歌には抵抗する気力も起きなかった。 彼女の心は完全に折られたのだ。
「我」
その言葉の後、ツクヨミと男、そして周囲の追っ手の全員がその場から離れる。いや、何かから退避するようにも見えた。
「久遠の絆断たんと欲すれば」
空に莫大な神力が集まり、剣の形を形成する。その巨大さは空を埋める程だ。
「言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう」
剣は緩やかに回転を始め、その速度を徐々に上げていき、最後には目で追えない程の速度に達する。
「は……ははは……はは…」
これを避ける? 黒歌は壊れたように笑い始めるとそれまでの緊張が切れたかのように目から大粒の涙を溢した。
「"ファイナルチェリオ"」
天罰という言葉があるならまさにこれだろう。
振り下ろされた刃は涙さえも断ち、森ごと黒歌を両断した。
「はい、カット! カット! 皆さんお疲れ様でした。良い画が撮れましたよー。特に最後の表情! すんばらしー」
その音声と特徴的な笑い声が響き渡り、最後に嬉しそうなピエロの顔が画面に映ると映像は終了した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な……なんなのにゃ……これは…?」
現在はメゾンヴァーミリオンの食堂。映像が終了し、拍手と様々な歓声が響く中、唖然とした表情で特等席に座っている黒歌はそう呟いた。さながら食堂の雰囲気は映画祭の会場のようだ。
「それはもちろん、撮影ですよ」
「撮影……?」
黒歌の隣に映像に満足したような顔で座っているケフカと言う途方もない神力を宿した人物が黒歌の呟きに答えた。
映像の最後に映っていたため、この映像はコイツが撮影したのだろう。
「動機は…えーと……何でしたっけ? 王サマ?」
「はぐれ悪魔防止のPVだ」
黒歌の反対側に座っている王様と呼ばれる赤い法衣を纏った白髪の青年がそう答える。
「自身のせいにも関わらずはぐれ悪魔を出ることに、何らかの対策をしなければいけないことをサーゼクスが嘆いていてな。800億(ビデオ代は別料金)でその対策を俺がすることになったんだ」
「はぐれ悪魔の対策……」
「SSランクの女性はぐれ悪魔がこんな目に逢って死ぬのなら誰だってはぐれ悪魔になりたくはないだろ? 嫌々にでも従っていた方がマシだと思うだろうな」
「で……でも私…確かにアレで死んで…」
「ああ、死んだな。だが、お前はもう俺の使い魔になって生き返ったんだ。もう不老不死になっているハズだぞ?」
「は…?」
不老不死。何を言っているんだと黒歌は思う。それに対してか彼は黒歌とは別の方向へ手招きをしていた。
「青子、ちょっと来い」
「何よ?」
青子と呼ばれた女性が立ち上がり、彼の前に出る。よく見れば黒歌の追っ手のひとりだ。
「目を瞑れ」
「こう?」
目を瞑り、青子が佇む。
「カイネ」
「ちっ…しかたねぇな」
彼が座ったまま名前を呟いた次の瞬間。青子の後ろに露出の妙に多く白っぽい女性が飛び出し、なんの躊躇もなく青子の首を刎ねた。
目を瞑っている上にあくまでも人間の反射神経を出ない青子は避けれるハズもなく、首が宙を舞う。
身体がドサリと食堂の地面に倒れ、遅れて頭が地に落ちる。
「な……」
突然、仲間を殺したことに黒歌は驚愕の表情を浮かべる。だが、この中にそれに対し特にリアクションを取るモノは誰もいないようだ。
「まあ、見てな」
そのまま暫く青子の死体を放置していると死体が紅く輝き出し、気付けば首を刎ねられる前の姿で青子が立っていた。
「な、な、な……何すんのよ!?」
「ほら、新入社員に我が社の社訓をだね?」
「軍でしょうが!?」
「まー、まー、落ち着け。3億チャラにしてやるからさ」
「ホント!? 絶対よ!? 絶対だからね!?」
「紅蓮の王の名にでも誓おうか? まあ、対した価値も無いがな」
「やったー!」
拳を作り喜びながら青子は食堂の席へと戻って行った。
「紅蓮の王……!? あなたが紅蓮の王なの!?」
世界最大の結社であり、歴史上最高のメンバーで構成された武力集団の中核。その構成員は神魔霊獣全てに至り、一結社の首領にも関わらず世界に対して多大な影響力を持つ男だ。
黒歌は食堂を見渡し、自身の知識を振り絞りその面子を確認した。
天草四郎やベオウルフ等の人を遥かに越えた人々。
ミカエルやウリエルやメタトロンに至るまでの最高位の天使ら。
悪魔バフォメットや初代ベルゼブブに至るまでの古き悪魔たち。
アザゼルやサマエル等の神の子を見張る者の幹部格の堕天使。
ツクヨミやミキストリや果ては冥府神ハデスにアスガルドの最高神オーディンにタルタロス等の多様な神々。
さらには食堂にいるためか人の姿を取ってはいるが力を隠す様子もないヨルムンガンドやオーフィス等の竜らまでが一堂に会している。
世界最高戦力が結集していると言われても誰もが納得するであろう。 そして紛れもなくこの男は紅蓮の王なのだと。
彼の言葉が正しければ黒歌は紅蓮の王の傘下に入ったことになる。
「まあ、このように俺の使い魔で有る限り絶対死は来ない。と言うよりも死んでも復活すると言ったところか。アルカナを通して多少の力の恩賜もあるがそっちは序でにだろう。後、君がこれから何をするのも自由だ。復讐に俺を殺すのも良い、無差別に人を殺し回っても特に気にもしない、何かを強要する事もない、使い魔契約を取り消したいって言うのなら契約を解消してやるから何時でも言いなさいな。まあ、たまにお願いをすることぐらいはあるがな。それも聞くかどうかは君の自由だ。はい、お疲れ様。皆解散ー」
そう言って彼が黒歌の肩に手をポンポンと置いてから立ち上がると各々は食堂から撤収して行った。
「ま、待ちな……待ってください!」
「んー? 文句は受け付けてないぞ?」
少なくとも黒歌に目の前の途方もない存在に意見する気力は無いだろう。現にいつもの彼女からは想像できない言葉使いになっている。
「そうだこれを渡しておく」
そう言うと彼はひとつの鍵を取り出し、黒歌へと掲げる。
「部屋はリフォーム、増築、改造、異界化、トランスポーター化等々好きにして良いぞ。君の領地同然だからな」
「なによこれ……?」
「このメゾンヴァーミリオンの部屋の鍵だけど? 使い魔には一室渡すことに決めているんだ。要らないなら別にいいがな」
彼は黒歌に部屋の鍵を握らせると食堂から出ようと足を進めたが、途中で振り返った。
「あー、そうそうひとつ言うのを忘れていたな。君が私の使い魔でありこのメゾンヴァーミリオンに住んでいる限りは魔王だろうが、釈迦だろうが、混沌だろうが手は出せない。仮に出して来て、君がそれを望まないのなら我が全力を持って如何なる相手でも勢力ごと相手にしよう。俺はそう言う存在であり、それが変わることだけは唯一、絶対、永遠的にありはしない」
「なんで……」
「ん?」
「なんであなたは私にそんなにするのにゃ……あのまま殺す事も出来たでしょう? はぐれ悪魔の私を匿い続けるメリットなんて…」
「それが紅蓮の王だから…………と言いたいところだが、ホントのところは君を無下に扱ったら俺の妹に殺されちまうからな」
「妹…?」
「ああ、俺にも妹がいてな。君の妹と友達なそうだ。毎日楽しそうに学校の話題で君の妹の事が出てくるぞ」
「そうなんだ…」
「まあ、納得は出来ないだろうからそれならこう思え」
彼は黒歌に人差し指を向けると更に言葉を続けた。
「はぐれ悪魔の黒歌は死んだ。ここにいるのは紅蓮の王の使い魔の黒歌だ」
彼はそれだけ言うと再び足を進め、今度こそ振り返ることは無い。
黒歌はその背中を見えなくなるまで見つめた後で鍵を見つめ、自身の視界がぼやけ、何かが頬を伝うのを感じていた。
どうもちゅーに菌or病魔です。
lov3の追加カードで四魔貴族や、アジルスや、蒼先青子が復活して嬉しい限りですね。それにより作者のパーティーも大きく変わりました。
作者のパーティー
ミリア
メデューサ
ソドム
かまいたち
バフォメット(攻撃する度に自身の攻撃力ダウン)
カイネ(時間経過で自身の攻撃力ダウン)
タルタロス(相手を殺す度に自身の攻撃力ダウン)
………………よくよく考えるとなんだこのドMは…?
でも今のところなぜか作者のパーティー最強だったりします。さて……行くか…(更新してない小説を見ながら)。
ちなみに作者はlov2はガチ勢でしたが、lov3はゴールドをさ迷っている程度の弱小プレイヤーです。