レイナーレさんは犠牲になったのだ…まあ、要望があれば生き返らせますけど。
「なに一週間山に行く? 新しい学校行事か何かか?」
ジェヴォーダンの獣にリードを付けて散歩中の彼の横で妹の梨月愛がそんなことを話していた。
ジェヴォーダンの獣はさっさと前に進みたいようだが、紅蓮の王の手前そんな無礼なことはしないらしい。紅蓮の王の横で大人しく横並びで歩行している。
「ううん。部活の強化合宿みたいなもの」
「ああ…貴族のボンボンなら考えそうな事だな」
「むー、そんなんじゃないよ」
リシアは口を尖らせながら今日オカルト研究部の部室で起こった事を話した。ちなみにリシアは子猫に釣られて入部したらしい。
何でもいつものように部室で子猫にお菓子を餌付け(意訳)していたらフェニックス家の三男だと言う趣味の悪い赤スーツの男が現れ、なんやかんやありリアス・グレモリーとのレーティングゲームが決定したとの事だ。
ちなみに彼は公式枕投げ部の部長である。
「趣味の悪い赤スーツねぇ…」
ちなみに彼も特注品の赤スーツを持っていたりする。自分のアイデンティティーというかパーソナルカラー的な関係だろう。地味に突き刺さるブーメランである。
「それで私言ったのよ。そっちから契約を破り期間を早めておいて、駒すら揃ってない明らかに格下の相手にたった一週間の猶予だけで戦いをしようなんて男の風上にも置けないわねって」
「ほうほう」
「そしたらならお嬢さんも参加したらいいが?とか言ってきてね。最終的に私と、私が連れて来た助っ人ひとり同伴で参加する事になったの」
「ほー、それは面白そうな話だな………ん?」
助っ人ひとり同伴。彼はこの言葉が引っ掛かった。そして妹が次に言う言葉も何と無く予想が付いた。
「だから兄さん……使い魔ひとり貸して?」
「そんなお金貸してみたいなニュアンスで言われてもなぁ…」
彼は別に貸すことに異論がある訳ではない。だが、そもそも彼の使い魔は彼にさえも忠実な駒というわけではないため、腹の中では何を抱えているかわかったものではないのである。
そのために彼直々の指揮なら兎も角、誰かに使い魔を一定期間とはいえ、貸し与えれば使い魔が何をしでかすかなど想像も出来ない。
まあ、普通に考えてそんなことは例えばどんな人間関係だろうと同様に言えることだが、そこはシスコン兄貴。妹が絡めば自身の使い魔を毛ほども信用出来ないようだ。
「えー、なら勝手にオーフィスさん連れていっちゃうよ?」
「おいやめろ」
「おや、どうやらお困りのようですね」
兄妹の視線が後ろに回り、そこにいたコンビニ袋を下げているジーパンに黒いシャツ姿の朗らかな笑みを浮かべる青年に集中した。
「四郎さん、こんばんわ」
「ええ、梨月愛さん。こんばんわ」
"天草四朗時貞"。江戸時代初期の1637年、キリスト教を弾圧する幕府に対し長崎で起こった島原の乱においてわずか16歳で3万7千人もの一揆衆の指導者となった。島原の乱が鎮圧された際に戦死したとされるが、亡骸が特定できなかったことから生き延びたという説もある。だが、魔界転生での方がある意味知名度は高いかもしれない。
「話は聞きました。私で良ければ力になりましょう」
「本当? やった! 四郎さんとなら絶対に勝てるね!」
「ほう…」
確かに天草四郎は強い。既に身体は魔人へと変貌し、人間を超越しているため、その戦闘力は想像を絶する。紅蓮の王の使い魔の中でも上位の実力者と言っても過言ではない。それに世に存在もそれなりに知られており適役だろう。
ただし、性格が540度螺曲がり、思想がカルトの域を越え狂気に達していなければの話だが。
『で? お前の魂胆はなんだ?』
『そんな魂胆などと滅相もない、私は慈悲深いのです……困った人は救わなければ気がすまない質なんですよ』
彼は天草四郎に対し、念話を仕掛けた。それに当たり前のように返せる辺り、天草四郎の術師としての有能さが滲み出ている。
『息を吐くように嘘をつくな。お前が自分から動く時は二桁未満の死人が出なかった試しが無いだろ』
『これは手厳しい……そうですね。端的に言えば梨月愛さんに惚れているんですよ』
『は……? お前が…?』
『ええ、そうです。本気ですよ』
『……お前何か変わったか?』
『いえいえ、私は何も変わっていません。強いて言えばこの世界でしょうか?』
『世界…?』
『素晴らしいですよこの世界はね。何せ私が信仰した神がもう死んでいるのですから……フフフ…これほどまでに滑稽な事はない。こんなに素敵な世界は他には無いでしょう』
紅蓮の王の記憶では地上に
話は変わるが、人と言うものは心に余裕が出来ると異性を求めるようになるらしい。その線で行けば天草四郎は現在、満ち足りており今言っている話も真実と言うことになる。
『……まあ、なんだ。頑張れ』
『おや? 食いかかって来ると思いましたが素直ですね』
『リシアの事を第一に考えるのならお前なら随分マシだ』
『…………そこまで言われると照れますね』
悔しいが天草四郎からあの狂気的な思想が抜ければ残るのは540度螺曲がった性格だけだ。そもそも紅蓮の王の使い魔の約50%以上は確実に性格が破談しているため、最早それだけでは欠点とはなり得ない。
彼はシスコンではあるが別にリシアを女として見ているわけでもなければ、独占したいわけでもないのだ。ただ、心配性で過保護なだけである。
寧ろ、紅蓮の王の妹というトンでもない付加価値を持っているリシアが将来的にマトモな男が寄り付くのか危惧している程だ。そう言う意味では天草四郎は多少はマシな部類に入るであろう。紅蓮の王も認める実力を持ち、少なくとも挨拶すらリシアにしかしていないほど無意識にリシアしか見ていないのだから。
『ファミチキください』
突如、念話にリシアが入ってきたため、二人は即行で切断した。
「二人でなんの話してたの?」
「ほらリシアさんファミチキですよ」
「良かったなリシア。ファミチキだぞ」
「え? 本当に出さなくても…」
天草四郎はコンビニ袋からまだ暖かいファミチキを取り出し、リシアへと渡した。それに彼も賛同しているようだ。
「まあ、まずリシアひとりでも負けることは無いとは思うがな」
何せリシアはアルカナは持たないとは言え、紅蓮の王の妹。弱いわけもない。
「負けたら身体を好きにさせなきゃいけないからね。私も手加減しないよ」
「リシアの身体を……?」
「好きにさせるですって……?」
彼と天草四郎から一瞬だけ放たれたアルカナと魔力によってジェヴォーダンの獣は怯えたような声を上げ、身体を縮めた。
「……俺の使い魔の末裔の分際で大きく出たな。鳥野郎」
「クハハ……これは私も手加減はしてられませんね」
「二人共…大丈夫?」
「なあ……リシア?」
「なに兄さん?」
「その非公式のレーティングゲームに参加するのがリシアと天草なのであって、別に他で使い魔を使っても構わないのだろう?」
「え"……どうしたの急に?」
「なーに、単純に俺も協力してやろうかと思ってな……その
こうして紅蓮の王のカレンダーは埋まっていくのだった。
個性が過ぎる使い魔の皆さん
ジェヴォーダン
18世紀のフランス・ジェヴォーダン地方に出現した、オオカミに似た生物。家畜ではなく、執拗に人間だけを襲撃し、100を越える死傷者を出したと記録に残る。結局、その正体は不明。しかし、紅蓮の王の軍勢ではただの犬っころに過ぎない。
天草四郎時貞
LOVでは種族が不死になっているあたり、完全に魔界転生の方に近い天草さん。完全に危険思想の狂人になっていたが、彼さえも当たり前のように御する紅蓮の王はやはり化け物であろう。どうでも良いが、LOVとコラボしている型月世界にもいたりする。