相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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最後の晩餐は三度ある

 仕事一筋。

 

 レクトCEO、結城彰三を言い表す言葉はこれで十分だろう。

 

 結城家、その本家は京都を中心に地方銀行などを経営する由緒正しき名家と言える。そこの三男が彼、結城彰三だ。

 

 家を空けている時間の方が長い。娘のアスナとも会話をする機会はあまりなく、話すのはその兄ぐらいだろうか。しかし、家族団らんの場といえど仕事の話が八割を占めるその空間でアスナは何を思うのか。

 

(想定よりも長居してしまったな……)

 

 妻である京子もエリート。経営学部の教授を務め、厳格な性格と言える。二人の娘である明日奈はSAO事件に巻き込まれ、その後も意識が回復することなく時間だけが過ぎていく。

 

 仕事優先。しかし家族への愛情はもちろん有する彰三は不器用なりにも娘の将来を心配していた。

 

 SAO事件による二年のブランク。被害者という肩書きはきっと悪い方向に作用することの方が多いだろう。

 本来なら来年には高校卒業というところ。この歳の二年という時間はかなり重いものだろう。

 

 だからこそ、彰三は未だ起きる気配のない明日奈を支える男を見繕った。

 

(須郷くんは受け入れてくれると言ってはいたが……やはり婚約は早いのか……いや────)

 

 意識のない間に執り行われる婚約。それは目覚めた娘に衝撃を与えることになるだろう。年齢としても結婚は早すぎるほど。何度も考えたが、それでもこの婚約は必要なことなのだと己に言い聞かせる。

 

(全ては明日奈の将来のため。きっと分かってくれるはず)

 

 いつものように明日奈の見舞いに向かい、桐ヶ谷くんという少年と何度目かの会合を果たし、そして彼よりも先に部屋を出る。彼はSAO内で明日奈の友達だと彰三は聞いていた。現実でも会いに来てくれるほど仲の良い友人を持てたことに少なからず彰三は喜びを顕にした。

 

 良い友人。そして良い旦那。明日奈が目覚めたあとの環境は整いつつある。須郷の性格は良好。娘を任せられると彰三は本心から思い、娘を預けるに至った。

 

(さて……今日は予定が少ない方か。まずは────)

 

 腕時計を確認しながら、病院のエントランスを歩く。自動ドアが無機質な音を奏で、その僅かな音が聞こえるほどの静寂は病院ならではだろう。

 室内のなんとも言えない薬品の香りから解放され、そのと空気が吹き込み新鮮な空気が花を通り抜ける。ぶわっと身体を撫でていく風に僅かに目を細め、そして僅かに歩いていき。

 

「すみません。結城彰三さんでしょうか?」

 

「────む?」

 

 前方。彰三が乗ってきた車の少し手前辺りからこちらに声をかけてくる少年の姿をとらえる。

 

 見た目は桐ヶ谷くんと同じか、少し上か。それでも、最近の子は年齢にそぐわずおとなっぽい見た目の子がいるのだから外見で判断するのは良くないな、とそんなことを考えながら、ふと首を傾げる。

 

 見たことの無い少年。しかし自身の名前を言い当て、探していたような口振りに要件が見えてこない彰三は困惑しながらもその少年の元へと向かう。正確には、その先にある自分の車に、だが。

 

「すまない。これから立て込んでいてね。また今度にしてくれ」

 

 実際は今日の仕事は比較的少ないと言える。それでも、色々と考えることが重なっていたために僅かにでも労力を割きたくないと、そうそうに会話を切りあげるために少年の横を通り過ぎる。

 

「須郷伸之の汚職について……貴方は知っておくべきだと思いますが」

 

 車のドアノブに手をかけたところで、ピタリと動きが止まる。自分だけでなく、須郷の名前まで。それにその内容。この少年が何者なのか、そしてその話の内容はどのようなものなのか……そんなことを考える前に、彰三は少年の顔をもう一度改めて見つめ、息を飲む。

 

「お時間は……そう掛からないとは言えませんが。それでもすぐにお伝えできると思います」

 

 どこにでも居るような、普通の少年。笑顔を取り繕い、人懐っこい印象を見せるのと同時に、確かな苛立ちを秘めている表情を、彰三は恐ろしいと感じた。

 

「汚職……だと?」

 

「ええ。明日奈さんが目覚めない原因でもあります……ここから先は、場所を変えましょう」

 

 さらなる驚愕。ただのお巫山戯にしては言葉の節々に含まれている真実性が高すぎる。何より、この少年を前にして、彰三は不思議と、話を聞くことに対する義務感のようなものを感じ始めていた。

 

「自己紹介がまだでしたね。俺……僕は────」

 

 この日、彰三は運命に出会う。

 それは一生の付き合いになるかもしれない男との邂逅。

 

 ALO内部にてキリトとユイが世界樹を目指す傍ら、現実世界でも大きな動きがあったことを、須郷伸之は知ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈◈

 

「イキリトお兄さん!!」

 

「ちょっと待てッ!!!」

 

 辛いものより甘いものの方が美味しいよね。アスナお手製のアップルパイを貪り尽くしています、どうもレインです。

 

 アップルパイと紅茶というワンダフルコンボ間違いなしの組み合わせでティータイムを嗜んでいたら隣の部屋でユイと話しているはずのキリトが扉を蹴破る勢いでこっちに飛んできた。

 

「おいレイン!! あれはなんだあれは!?」

 

「ユイって言うんだ。可愛いだろ?」

 

「知ってるわ!!!」

 

 ユイの方を指さしながら詰め寄ってくる親友の姿に、またアスナがなんかしたのか〜、と俺の可能性は度外視にして呆れてため息をつく。

 

「ユイに俺についてなにか変なこと教えたのか!?」

 

「友達がいないことを孤独じゃなくて孤高だとか言い換えるくらいに可哀想な奴だってことぐらいしか言ってないぞ」

 

「それについても後で話しがあるなぁ!?」

 

「パパ〜!」

 

「パパじゃないけど、ユイ〜」

 

 ブチ切れているキリトのワキから天使が満面の笑みを浮かべて走ってきた。さりげなくパパであることを否定しながら、飛び込んでくる黒髪の天使を抱き締める。

 

「パパ〜」

 

「ユイ〜。違うけど」

 

「頑なだなお前」

 

「ユイ、あのお兄さんの名前は?」

 

「イキリトお兄さん!!」

 

「ゴッハァ!?」

 

 キラキラとしたエフェクトを散布するユイの呼び掛け。にっこりと叫ぶように言うキリトの名前に、当の本人は血反吐を吐きながら崩れ落ちる。心做しかHPゲージが下がっている気がする。

 

 そんなキリトの変貌にユイはアワアワとしながら駆け寄り声を掛ける。

 

「大丈夫っ、大丈夫!? どうしたのイキリトお兄さん!?」

 

「ゴハッ……優しさが辛い……」

 

「これが自然の摂理だ……」

 

「何言ってるの? 馬鹿なの?」

 

 キリトの肩に手を置き慌てるユイを後方から腕を組み理解者面をして頷いてみる。そんな場面で現れたアスナが心底馬鹿を見る目で俺たちを見渡した。

 

「もう。ユイちゃんに変なこと教えたでしょ」

 

「失敬な。キリトのことが知りたいって言われたからあることないこと話しただけだ」

 

「ないこと話したんだ……」

 

「例えば、親友の身体が弄られてる時に女の子と二人きりで高所から景色を眺めながら肉まん食ったりカップ麺食べたりする畜生だとか」

 

「本当に無いことだった!」

 

 いやいや、これがあるんですよ実は。

 ユージオがシンセサイズされてる傍らでアリスと二人で肉まん温めて食べたり、それだけじゃ足りないとインスタントの宣伝をする始末。なんて男だ……。

 

「キリトお兄さん?」

 

「そう!! キリト!! やっと分かってくれた……ッ!!」

 

「あいつも苦労してるな」

 

「多分レインくん案件だと思うよ」

 

 俺の隣に腰かけて、淹れたての紅茶を一口飲むアスナの姿はとても画になる。

 

「アスナって、そういう姿ほんと綺麗だよな」

 

「ぶっふぁっっ!?」

 

「それはさすがに汚いけど」

 

 噎せたのか、紅茶を吹き出し咳き込むアスナの背中を摩る。その時にブラホックに指が引っかかったのは内緒だ。ギリ外れてないから許されるだろう。

 

「お前……そういうところだぞ」

 

「黙れたらし」

 

「お前が言うな!?」

 

 ハーレム主人公がなにか叫んでいるが気にしない。とてとてと、近寄ってきて俺の腰に抱きついてきた天使を迎え入れる。

 

「パパ!」

 

「ユイ〜」

 

 パパじゃないけどね。

 もはや恒例となったこのやり取り。頭を撫でるだけで顔が綻ぶこの子は小動物のそれ。守らねば……守らねば!! 第一層の地下に同行できないのが悔やまれる。許せ、ユイ。きっとキリトが何とかしてくれる! 

 

「ごめんな〜、ユイ」

 

「?」

 

 不思議そうな顔で首を傾げるユイ。何だこの子可愛いなおい。

 

「パパ」

 

「どうした〜?」

 

「ママも、パパにギューってして欲しいって!」

 

「え!?」

 

 どこから声を出してるのか分からないくらいの大声で驚きを表現するアスナは顔を真っ赤にしながらユイに駆け寄る。そんなこと言ってないよー、と言いながらチラチラと俺を見るのはどうしてだろうか。

 

「ママ、嘘は、めっ」

 

「ぐっ……して欲しく、は……無くは無さすぎるけど」

 

「何言ってるの?」

 

「純粋な言葉って凶器過ぎないか?」

 

 あーだこーだとユイに言い訳を並べるアスナは一度大きく仰け反り悶えると、なにやら覚悟を決めてグルりと俺の方に身体を向けた。なになに。

 

「えいっ!!」

 

「おっと」

 

「この流れで避けるやつが居るとは」

 

 急に両手を広げて飛び込んできたアスナを軽く横に移動して避ける。普通に怖い、なんだコイツ。キリトからのドン引きの声を頂戴しつつ、プルプルと震え涙目で振り返るアスナを見やる。

 

「なんで避けるの!?」

 

「誰だって避けるわ。急に飛び込んでくるんだから。なに? 何がしたいのキミ?」

 

「ギュッてして欲しかったの!! 悪い!?」

 

 開き直りやがったこいつ。てか、初めから言えよ。察する能力なんか持ち合わせてないのよ俺は。

 

 普段なら絶対やらないけど。ユイからの熱視線に負けて、今日ぐらいならまあいいかと、拗ねて視線を逸らすアスナへと近づいて無言で正面から抱き締める。

 

 ぁ、と小さく声を漏らす彼女の体はやはり小さく、細く、いつまでも嗅ぎなれない女の子特有のシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「どう……ですかね?」

 

 なんだか俺も恥ずかしくなってきた。敬語になってしまいながら、居た堪れない気持ちを抑えて感想を聞いてみる。固まっていたアスナはゆっくりと、俺の背中に手を回し抱き締め返してくる。

 

「……ふふっ。ありがとう、レインくん」

 

「恥ずかしすぎる」

 

「私もだよ〜。顔が沸騰しそうなくらい熱い……けど、それ以上に幸せ、かな」

 

 恥ずかしいセリフを言うアスナに、もういいだろうと離れようとしてもガッチリとホールドされてるために離れることが出来ない。くっ、ビッグサンダーマウンテンの破壊力がやべぇ。柔らかいのに攻撃力は∞……だと!? 

 

「────ずっと。こうしてたいな」

 

 最後の言葉は聞こえてこない……なんてことはなくてガッツリ聞こえてはいるけれど。その意味は考えないように、俺は時間が過ぎるのを待つ。それがお互いのためになるのだと信じて。

 

「俺は何を見せられてるんだ?」

 

「キリトお兄さん〜。おんぶ〜」

 

「はいはい」

 

 ついぞ離れようとしないアスナに俺は観念してとことんまで付き合おうと決め、こちらから抱き締める。ずっと一緒になんて無理な話だから、今だけは許してくれ、と。

 

 とりあえず、エクスカリバーがジェネレートするのを堪えるために無心になろうと努力した。ジェネレートはしたが気付かれなかった。耐え。

 

 

 そんなこんなで、ユイの情報を得るという名目で第一層始まりの街へとやってきたわけだ。というか、ユイの口調って初期はここまで話せたっけか? まあいいか。

 

 で、軍のヤツらが孤児院の寮母からカツアゲしようとしていたので俺とアスナでボコボコにして(圏内だから衝撃だけ)、現在はその教会のような孤児院で情報収集中。

 

 それは主にキリトとアスナが聞いてくれるようで。だから俺は、キリト達四人とは少し離れて孤児の子供たちとの話を勤しむ。

 

「レイン兄ちゃん、刀使うの!? かっけぇ!!」

 

「そうだぞ〜? 刀はロマンの塊だぜ?」

 

「すげぇ! 俺は絶対剣にする!」

 

「言葉と勢いが合ってないな?」

 

「ねえねえ! お兄さんとお姉さんは付き合ってるの?」

 

「高嶺の花子さんだから手が届かないんよね。夜の学校のトイレって怖くない?」

 

「「「分かるー!!!」」」

 

 ユイを除けば久しぶりの子供との会話。勢いがあってよろしいね。

 

「兄ちゃん兄ちゃん!!」

 

「ほいほいどうした」

 

「俺もレインって言うんだぜ! お揃いだ!!」

 

「おー、つまり俺たちは生き別れの同一人物って訳だな? 触れたら一体化するんじゃね?」

 

「怖っ、触れんな!!」

 

「反抗期とは恐ろしい子」

 

「レイン兄ちゃん! このパン美味しいんだよ! 食べよ!」

 

「もう十個目だぞ〜? 逆に遠慮しろ? でもありがとね」

 

 思わぬ収穫もあったが、純粋に子供達との会話は気持ち安らぐものだ。それ以上に疲れたが。やはり体力無限にあるな子供達よ。

 

「パパ〜」

 

「ユイ〜」

 

 話し合いに飽きたのか、子供たちに囲まれた俺の元にユイが駆け寄ってくる。相変わらずのパパ呼びだが、もう俺の名前がパパなのではないかと錯覚してしまうほどに聞き慣れてしまった。パパはキリトです。そうは言わずにユイを屈んで待ち、そして抱きしめる。ん〜、軽っ。

 

「話し合い疲れちゃったのか?」

 

「パパとお話したかった!」

 

 なんだコイツ可愛いなおい。天使? 遂にお迎えが来たんですか? まだキリトの目の前で死ねてないけどお迎えがこの子ならオッケーです。

 

「ユイちゃんって言うの? こっち来てよー!」

「レイン兄ちゃんの子供!? 似てねー!」

 

「違う。ユイは天の使いだ。俺たち人間とはステージが違うんだよ」

 

「「「急に怖い!?」」」

 

 わっ、と新しい存在が来たことにより子供達がユイに押し寄せる。子供ならではの好奇心。新しいものに目がないこの子達はユイが一体どんな子なのかと興味がそそられて仕方が無いのだろう。

 

 これが最後。

 ユイと話す最期の機会になるのかもしれない。SAO内では確実にこれで終わり。その続きが俺にあるのなら話すことは出来るだろうが……可能性の低い賭けを、こんなところでする訳には行かない。

 

「ユイ」

 

 子供達が俺の足元に集まる中、抱き上げるユイにだけ聴こえる言葉で語り掛ける。

 目を丸くして不思議そうに耳を傾けるユイに顔が綻びながら、今は理解できないであろう文字の羅列を伝える。

 

「これから色々あると思う。だけど、お前はお前のやるべきことを────そんなもんは全部無視しろ」

 

「む、し?」

 

「お前のやりたいように生きればいいよ。その感情は作り物じゃなくて、お前の、ユイのものだから。だから、自分のやりたいことに真っ直ぐ生きろ。周りが支えてくれるから」

 

「パパ?」

 

 もう時間だろう。来客が来た。俺はもうここには居られない。地下に……システムコンソールの近くに行く訳にはいかない。

 

「俺は着いていってやれないけど。ユイにパパって言って貰えて、嬉しかったよ」

 

「ん〜?」

 

「……ははっ。難しいな。今は分からなくていいよ。いや、この先も分からなくていいかも」

 

「なんか、嫌!」

 

 ムスー、と頬をむくれさせて可愛らしく睨んでくるユイの頭をポンポンと軽く叩く。改めて、正面からこの子の顔を眺める。未練にならないように。もう満足と言えるくらいには関われたと思うから。

 

「ごめんな」

 

「──レイン。ちょっと話が……ん? どうした?」

 

「悪い、キリト。ヒースクリフから呼び出されたからあと任せる」

 

「え? そう、か……分かった。悪いな」

 

 地下ダンジョンに向かうことを決意しているのだろう。キリトが俺を呼ぶが、それを遮り予定があることを伝える。少し残念そうに目を伏せていたが、キリトの横を通り過ぎる時にユイのことを任せることを伝えてから教会を出た。

 

「どうしたのかな? 少し不機嫌に見える」

 

「そうですか? ……そうですかね」

 

 もちろんヒースクリフから招集なんて受けていないから口裏合わせにギルド本部まで足を運ぶ。メッセージでも良かったがログが残ると面倒だという犯人思考に陥ったためにわざわざ足を運んだわけだ。

 

「娘ともう会えなくなりましてね」

 

「ふむ……なるほど、Yuiのことか。やはりあの子のそばに居たのはキミなのか」

 

「ログ見りゃ分かるでしょ」

 

「不思議なことに、システムのログにキミの姿、履歴が何一つ存在していなくてね。キミを観測する手段は直接こうして目にする他ないのだよ」

 

「ますます俺の死亡フラグが立つばかりか」

 

「それはどうかな? 存外、女神とやらはキミの肉体を作ってくれているのかもしれないよ?」

 

「それはどうでしょうね」

 

 きっと今頃、ユイがキリトとアスナを守るためにシステムコンソールから権限を一時的に取り戻して死神を撃退しているのだろう。願うのは、キリトが原作通りにユイのデータを格納してくれることだけだ。

 

「キミの筋書き通りにこの世界は進んでいるのかな?」

 

「俺という存在がいる時点で、この世界は俺の知る世界とは異なるんです。そんなもん分かるわけないでしょ」

 

「なるほど。ますます興味深いな、キミは」

 

 この人との会話はいちいち疲れるな。どんな言葉からも俺の真意を突いてくるあの瞳。仕草ひとつから俺の思考を読み取りそうで普通に怖い。

 

「丁度いい。そろそろメッセージを送らなければと思っていたところだが、直接キミに伝えておこう」

 

 茅場晶彦から血盟騎士団団長ヒースクリフへ。こう改まった話となれば答えはひとつ。

 

「もうちょい感傷に浸らせて欲しい……」

 

「75層ボス攻略を始める。準備をしたまえ」

 

「鬼か」

 

 来た。来てしまった。

 この世界の終わり。キリト達の解放。そして、俺の終わりでもあるその地へ。

 

 茅場晶彦は、キリトに倒されるのは100層だと思っているだろう。そこを矯正するつもりなんてない。そこまでは筋書き通り進める。

 

 俺の役目は、その先だ。

 

 通知音が鳴り、メッセージを開く。キリトから、『話がある』という端的な言葉。もう終わってしまったのか。少し陰りができたのは気のせいだろう。

 

「キリト君とアスナ君にも伝えておいてくれ。頼んだよレインくん」

 

「茅場さん」

 

 俺はあえて、茅場の名前を口にする。それが合図のように、彼も顔を引締め雰囲気を変化させる。

 警戒した様子はない。むしろ楽しみなように。俺が何を言うのかと予想をはりめぐらせているような顔。

 

「なにかな?」

 

「貴方には感謝してます」

 

 この世界に俺を飛ばした存在が誰なのかは知らないけれど。そもそもこの世界がなければ俺はキリトやアスナ、ユイ達に会うことは出来なかったわけで。

 デスゲームという性質に茅場晶彦に対して殺意を向ける人たちも少なくはないだろう。けれど俺は、彼に対して敬意と感謝を向ける。

 

「この世界に来て。今まで体験できなかったこと、親友、友人……全てあなたのおかげだ。こんなこと大っぴらに言えば俺が殺されるだろうけど……ありがとうございます、茅場さん。この世界を作ってくれて」

 

「なかなかにいいものだな。製作物を褒められるというのは」

 

「一つの世界を貴方は創り出したんだ。本当に尊敬するし、感謝もします」

 

 だからこそ。2人きりのこの状況で、最後となるであろうこの瞬間に伝えなければ。

 

「その時が来たら……全力で」

 

「無論だ……お互い、全力で殺しあおうじゃないか」

 

 聞きたいことはまだまだある。どれだけ時間があっても足りないくらいに、この世界に対する疑問は多々あるものだ。

 ここで過ごせば尚のこと増えていくばかりで。ゲーム制作に興味があるとは言えない俺でも、これほどの作品は感嘆に値するもの。

 尽きぬ興味、溢れる疑問。それらを全て置き、最大限できることを熟す。

 

 俺と茅場晶彦の戦場は75層ボス部屋。

 先手はキリトに上げよう。勝てるのならばそれでいい。

 けれど。

 

「俺はズル使いますけど、貴方は使わないでくださいよ?」

 

「ははは。そういうものは黙って使うものだよレイン君……了解した」

 

 この世界ももう数日。キリトと、アスナと過ごす時間はそれよりも短い。

 

 終わりは近い。俺の目標。親友となった俺の責務を果たす。

 

 この先親友を失うであろうキリトの心労を軽減させるために。華々しい死に方を目の前で披露してやろう。

 

 

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