相棒枠に収まろうと思う   作:ラトソル

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俺は死ぬけどお前らは楽しく生きろよな!

「システムコール────武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)

 

 レインが呟いた言葉。

 後半の意味不明の羅列は最早耳に入らず、前半の言葉はVRMMOというカテゴリーの中で深い意味を持つものだった。

 

 だからこそ、その場に居た誰もが言葉を失う。

 茅場に麻痺状態にされているから? 違う。そういう話ではなかった。たとえ麻痺状態で行動が制限されていなかったとしても、きっと……確実に、理解が追いつくものは居なかっただろう。

 

 ヒースクリフによって麻痺状態へと戻されたキリトも、そしてアスナを始めとした攻略組の全てがレインを呆然と見つめる。

 

 茅場晶彦(ゲームマスター)以外に使えるはずもなく、唱えることもないだろうその言葉。

 しかし、その言葉は確かに世界へと届く。

 

 レインの持つ美しく、妖しく輝く薄桜色の刀に幾何学的な文様が浮かび上がり、電子音が鳴り響く。

 刀身に浮かび上がった波紋は、それに留まることなくその周辺へと範囲を拡大。

 

 ヒースクリフはその異常に即座に行動を開始。何が起きているのかは全く分からないが、それでもそれを発動させては行けないと言う本能に従いレインへと向けて駆け出す。

 

「────散れ、■■」

 

 ノイズが走ったようにレインの言葉の一部が掻き消される。世界へと向けて放たれた命令を、その刀は受け取り主の赴くままにその姿を変えていく。

 

 刀の刀身が切っ先から崩れていく。いや、本来の姿へと戻っていく。

 それは、花弁。刀身からは考えられない量の花弁が咲きみだれる。ブワリ、と風を受けたように舞い上がっていくそれらはレインの周囲に漂いひらりひらりと舞おちていく。

 

 指向性のないその花々。バラバラだったそれらはレインへと切っ先を向けるヒースクリフへと意識を向けるかのようにピタリと止まり方向転換。それらが勢い良く射出され、花弁の群れを成してヒースクリフへと向かっていく。

 

(なんだ、これは……ッ!!)

 

 SAOというゲームの製作者たる茅場晶彦でさえ、今起きている現象に理解が追いついていなかった。

 この世界の武器による効果は粗方記憶している茅場。そのどれもが攻撃力強化や、速度向上などのステイタス補助のものばかり。形状の変化や遠距離攻撃などは、ソードスキルの領分。

 

 それを加味しても。

 

(────なんだ、これは!?)

 

 理解が追いつかないままに盾を構える。重心を下げて完全なる待ちの姿勢。迫る花弁の嵐を盾で受ける。絶対防御を誇る神聖剣の盾。全ての攻撃を無に返すと言っていい防御力とその技量。

 

「────ッ!?」

 

 しかしその絶対防御が成立するのは、相手の攻撃に指向性がある場合に限る。

 

 無数の花弁が盾と接触。想像を絶する重さに仰け反りながらも堪えるヒースクリフ。花弁達は盾と接触したその後続の花弁が二手に分散。側面からヒースクリフを挟み撃ちに襲いかかる。

 

 盾を封じられ、突如動きを変え襲いかかる花々に目を見開く。ヒースクリフは一瞬の硬直を見せ、右側の花々を剣で迎撃し、左からの攻撃は避けるという判断を下す。

 

 剣を横凪に一閃。盾に殺到する花弁を軸に空中へと回避。無数の手数に無傷の回避は不可能。右から僅かに漏れてきた花弁と左側から殺到する嵐のように吹き荒れる刃の花弁達は、ヒースクリフの脚を的確に貫く。

 

 痛覚が僅かにしか存在しないこの世界。それでも苦渋の声を漏らさざるを得ないダメージを負ったヒースクリフはレインが使用した未知の技の脅威を再認識する。

 

(無数の花弁の一つ一つに意思が宿っているような軌道。そして決して無視することの出来ない攻撃力……『システムコール』、か)

 

 前を見る。背後から迫る花弁達から逃れるように前へと走る。その先には一歩も動く様子のないレインの姿。彼が持つ刀は刀身が消え、その他の装備は見当たらない。

 

(理屈は不明。彼相手にそんな思考はもはや無意味……彼本人を直接叩く他無い)

 

 花弁の速度とヒースクリフの走力は五分。僅かに向こうが上回ってはいるが、この距離ならば追いつかれることは無い……そう判断して、見るに武器が一時的に脅威となっていないレインの元へと一直線で向かう。

 

 不自然な程に動く様子のないレイン。狂気的な笑みを浮かべながら汗を滲ませる様子を見て、しかし今は元凶を叩く以外に手段は無いと一撃で倒すため上段に振り上げて全力の振り下ろしを試みる。

 

「な、に……ッ!?」

 

 全力の振り下ろしにもなんらアクションを起こす様子の無い相手に対してなんの躊躇いもなく切って捨てようと剣を一閃するヒースクリフ。しかし、その剣はレインに届くことなく火花と轟音を鳴らして空中で静止した。

 

 硬い硬い壁。何をしても壊すことの叶わぬ不可視の隔たり。

 破壊不能オブジェクトと形容しても相違ない現象に一瞬システムのバグを疑うが、背後から未だ迫り来る花々に意識を切りかえ振り向き迎撃を始めようとする。

 

「システムコール」

 

 そんなヒースクリフを嘲笑うかのように、レインは唄う。

 

(頭……痛ってぇ……!!!)

 

 転生特典は無条件利用を許さず。

 構造も、原理も何もかもを理解せずに使用するのは未来で起こる現象の前借りに過ぎず。

 必要な知識、手順の一切を省略した代償が激しい頭痛となる。

 

 だが、それに意識を割いてはヒースクリフにその隙を叩かれるのは容易に想像がつくからこそ、今この瞬間は全能感に身を任せ痛みを誤魔化し力を行使する。

 

「ジェネレート・オールエレメント!!」

 

 レインの言葉に世界が共鳴する。

 レインの頭上に生成される五色の光の粒。

 本来の全属性では無い。レインが朧気な記憶から導き出した全属性としての五属性。

 

 火・水・風・光・土。

 さらに強まる頭痛を代償として生成された五属性。それ等が独立して光り輝き、主の号令を待つように浮遊を続ける。

 

「ディスチャージ」

 

 常軌を逸した痛み。未だ増幅を続ける頭痛に身体が限界を迎え膝を着く。けれど分泌されたアドレナリンが意識を保たせ、好戦的にニヤリと笑みを浮かべさせる。

 

「ぃゃ────」

 

 前方からの花弁、後方から迫る未だ未知の五つの光の粒。

 全ての花弁が盾に衝突。思わぬ衝撃に身体は宙を舞い行動の自由を奪われ、腕の痺れを感じる間もなく背中に五属性全ての光の粒が衝突し、激しい爆発を起こしヒースクリフを吹き飛ばす。HPゲージは黄色へ。花弁達は休息を摂るように、レインのもつ刀へと姿を戻す。

 

「────もうやめてェ!!!」

 

「ハッハァ!!!」

 

 涙を流し、声を枯らしながら叫ぶアスナの声は空間に木霊するも、レインには届くことは無い。

 

(今しかない! 膝が震える、脳が焼き切れる!! 茅場が俺の手札に対応する前に畳み掛けて倒す!!!)

 

「システムコール!!!」

 

 走る、走る。爆風により吹き飛び、地面を転がり続けるヒースクリフへと追随するように。

 瞬きを許さない集中状態。自分とヒースクリフ以外の全てを認識から除外する。

 

 これで決める、と次の一手に全てを込める。自身のHPゲージにノイズがかかり始めていることに気づかぬままにヒースクリフへ向けて全力で走り続ける。

 

 盾と剣を床に突き刺し勢いを殺すヒースクリフはそのまま顔を見上げるも目の前に迫り来る男の刃をただ見つめるのみ。

 身体は動かない。もとより間に合わない。ただの突き刺しならば一撃耐えることの出来るHPはあるがそれで終わるはずがないと、自らの敗北を悟る。

 

 固唾を飲み見守る観客。ヒースクリフを追い詰める男に期待を向け、ゲームクリアが目の前に迫ることに対する高揚を感じる者がほとんどの中、二人の男女は正確に理解はせずともただただ手を伸ばすだけで負の感情が巻き起こるばかり。

 

 二人の想いは、決して世界に届くことは無い。

 

 レインは紡ぐ。

 全てを終わらせる呪文、または祝言。

 

「────記■解■■(リリー■・リ/&kショ■)……!?」

 

 ヒースクリフへと突き立てられた刃は、そのままヒースクリフの頭を貫通……することなく、バグが生じたように刀身が消え失せ、ノイズがレインの体全体を覆う。

 

 ザザッ、という雑音が鳴り響き、レインの言葉が遮られる。今までの喧騒が嘘のように静まり返り、世界の時が停止した。

 

「……ここまで、か」

 

 ただ一人、レインがぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈◈

 

 まじか、ここまでか。

 

 消失した刀、そして透けて向こう側まで見える俺の手を見て嘆息する。

 ズキズキと痛む頭は時間が経つ事に収まっていく。許されざる力が消えたことにより代償が消えていくのか。

 

 茅場のHPは残り僅か。一撃与えれば倒れるほどに追い込んだ自分を褒め称えたい。まあズル使いまくったけど。

 

「カーディナルシステムか……?」

 

「いや、多分違います」

 

 周りから今の俺はどう写っているのか。俺が見ている景色同様、俺が透けて見えているのか、それともバグが生じたように見えているのか、はたまたそのままなのか。

 

 俺が戦闘不能になった状況がカーディナルシステムによる独断だと考えた茅場の呟きを、俺は否定する。なんとなくだが、違うだろうと断定する。これはおそらく、もっと上……世界からの干渉と言っていいかもしれない。

 

「────なんにせよ。貴方の勝ちだ、茅場さん。ズルまでして勝てなかった。やっぱりアンタはチートだよ」

 

「……ふっ。褒め言葉として受け取っておこう」

 

「褒め言葉ですよ、ちゃんと────さっさと追い付いて下さいね。一人は暇なんで」

 

 透けていく。それに比例して、俺の身体から光の粒が立ち上っていく。もう、活動時間は少ないだろう。

 

 流出していく命のように立ち上る光の粒。対照的に蘇っていく、この世界で過ごしてきた記憶。多くの人とは関わらなかったけど、数える程度の人たちとは深い関係を築けたと自称する。

 

「────楽しかったァ」

 

 心の底から、自然と吐き出された声。デスゲームとなったこの世界で、この感想は間違っているのかもしれないけど、それでも俺はこの気持ちを変えることは無い。

 

 ここまでの気持ちは初めてだ。わけも分からないままにこの世界に飛ばされて。ただ一人、周りに知り合いは誰もいない地へ放り出されて、それでも孤独を感じることなく過ごしてこれたのは────

 

「キリト」

 

「……なんだよ、それ────」

 

「ありがとう……お前と出会えて良かった」

 

「やめろよ……なんで今、そんなこと言うんだよ……現実でも会うだろ、俺らは……だか、ら……」

 

「お前のおかげだ……悪くなかったよ、キリト」

 

 そんな顔するなよ、キリト。いや、そんな顔をして欲しいのか。月夜の黒猫団が壊滅した時でも、そこまでの顔にはなってなかった。そこまで声は震えてなかった。それに対して、申し訳ないとか、罪悪感とかは感じてない。むしろ、そこまで俺の存在がキリトの中で大きくなっているのが嬉しいという気持ちが大きい。

 

 これからきっと、キリトは様々な困難に挑んでいかないといけない。

 親友を失うこともある。

 

 だから……絶望してくれ。

 俺の死に様を目に焼き付けてくれ。泣き叫べ、無様に否定し続けて、受け止めるしか無くなった後にはもっと深く絶望してくれ。

 八つ当たりしろ、暴れろ、自分を憎め。その先で、立ち上がれ。

 

 時間が無い俺にはもうお前を慰めることもアドバイスもろくなものは出来ないから。できるのは伏線を残すくらいのもの。

 

 今から話すのは、今のお前に理解出来るはずのないものだから聞き流して構わない。けれど、キーワード位は覚えておけ。

 

「アリスはお前を待ってる。救ってやれ!」

 

「は……?」

 

「じゃあな────親友(相棒)

 

 これくらいでいい。もう言うことは無い。

 エギルさんとクラインにも別れの挨拶ぐらいしたかった。けれど、もう限界だと分かる。

 思考がボヤける。身体の感覚がなくなっていくのが分かる。もう数秒で消える。キリトに時間を使いすぎたか、と何故か笑いが込み上げてくる。

 

 ────最後の人物へ。

 

(……お前には、そんな顔して欲しくないんだけどな)

 

 涙を隠すことも無く、嗚咽を零しながら、それでも消えかける俺の姿をただ呆然と見つめる彼女……アスナの痛々しい姿に、胸の辺りがチクリと痛む。

 

 ここまで彼女に俺の事を思って貰えるとは思いもよらなかった。ただの友達程度に留まるとばかり思っていたのに。

 

 最後の二週間程度。

 彼女と過ごした日々が一番濃い思い出。そして、一番幸せと感じた空間。

 

 ごめんな、と。何度も冗談交じりで言ったのは無自覚の罪悪感を紛らわせるもので。

 俺自身、想定以上に彼女の存在が大切なものだと思ってしまっていたようだ。

 

「ぃゃ……ぃ、ゃ……」

 

 嗚呼。

 

 お前はそんな顔をしないでくれ。

 

 絶望したキリトを支えて欲しいと。そんな自分よがりな要求もしていたけれど。

 

 色々と言ってあげたい。けれど時間が無い。

 

 もう、一言だけ。

 

 それだけしか俺に許されていないと分かるから。

 それと同時に悟る。俺がこの世界に来る前の俺は、どうなっていたのか。

 転移なのか、転生なのか。その答え。

 

(死んだんだな……俺は)

 

 それに対して悲しみとかは思い浮かばないけど。

 改めて、俺が死にかけていることを再認識した。

 

 目の前で這い蹲る少女。

 何を言えば良いだろうか。出来るのならもう一度触れたいけれど、一歩も動く力が無い。

 ここから、言葉で伝えなければならなくて、たった一言で俺の気持ちを伝えることを探すのはとても難しい。

 

 口を開き、閉じて……何度も繰り返したあと、俺はただ思ったことを伝えるだけという結論に至る。

 

 死ぬのなら、笑顔で死のう。お前らはまだ死ぬな。楽しく生きろ。まだまだお前たちの物語はあるのだから。

 

「────幸せになれよ、アスナ」

 

「────ぁ、ぁぁぁ……」

 

 ふるふると、首を横に振るアスナの姿を見たくなくて目を閉じる。

 逃げるように己の心に向き合い、軽くなっていく身体に死を感じ取る。

 

お前(キリト)が居なかったら、きっと告白してるんだろうなあ)

 

 未練は残さない。そう決めていたのに。

 

 心の中で僅かな未練を感じながら、俺の身体は完全に消滅していった。

 視界が光一色に……もう、何も感じない。

 

「────ぁぁあああああああああッ!!」

 

 一人の少女の慟哭も、気づくはずも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「イヤァァッ!!! イヤァァァァァァああッ!!!」

 

「ッ!!」

 

 隣で叫ぶアスナの声。世界中の絶望の全てを放出しているような、血反吐を吐くほどの叫び。

 

 麻痺する体、システムに支配された俺の身体を歯を食いしばり、憎み、怒りを込めて力を振るう。

 

(動けよ……動け……動けぇ!!!)

 

「ぁぁあああああああ!!!!」

 

 システムの警告が目の前に表示され、そして瞬時に掻き消える。錆び付いたロボットのような動き。叫び、雄叫び、己の身体にムチを打ちシステムに抗う。

 大木に縛り付けられた俺のからだ。どれだけ脚に力を込めても動くことは叶わない……ならば、大木を折ろう。

 

 手を伸ばせば届く。レインが消滅し、光のエフェクトが立ち上っているあの場所に。まだ、あそこにはレインの魂があるはず。

 

 バチバチと鳴り響く電子音。システムに抗い、凌駕しようとしている証。

 拮抗は、一秒と保たない。血管が破裂するほどに力む全身に答えるように、麻痺状態のままに身体が動いた。

 

 飛び出す。ストレージを開き、今こそ求めるアイテムを取り出す。

 

 そして辿り着く。レインが消えてからまだ数秒。そばに居る茅場は何もしてこないが、今は奴の顔すら目に入らない。

 右手には剣ではなく、アイテムを握りしめ、使用を宣言。

 

「『還魂の聖晶石』ッ!!!」

 

 背信者ニコラスのドロップアイテム。

 蘇るいつかの記憶。救うことの出来なかったサチ達の顔が過ぎる。

 けれど、このアイテムを獲得した時から、俺は次は間違えないようにと誓った。これを使うような状況になって欲しくないけれど、けど、なってしまったのなら、俺は親友を救いたいと決めていたから。

 

「帰ってこい……レイン!!!」

 

 アイテム使用条件は『死後10秒以内』。条件は揃っている。

 

 やっと救える……もう目の前で近しい存在を死なせる真似はしない。

 

 光が収束する。天に昇る光の粒が降りていき、ひとつの集合体を形作る。

 それは人間の輪郭を作り出し、次に色を、装備を作っていき、次第に見えてくるのは、見慣れた茶髪の男の姿。

 

「──────は?」

 

 そんな幻想を、この世界は許さない。

 

 アイテムは確実に使用した。けれど、なんのエフェクトも浮かび上がることも無く、なんの効果も発揮することなく蘇生アイテムは静まり返るばかり。

 

「なん、で……」

 

 手順を誤った? そんなはずはない。時間制限も余裕があったはず。

 もう二度と失わないようにと、何度もシミュレーションはして来た。間違いは生じていないはずだ。

 

 けれど、俺の親友は帰ってこない。

 

 何が間違っていたというのか。何が、何が……。

 

「……はぁ」

 

 目の前の事実を受け止められず、固まる俺の頭上から、ため息を吐く音が聞こえてくる。

 反射的に見上げる。そこに映る、俺を見下す男の姿。『何を馬鹿なことをしているのか』、と。

 

「──────お前か」

 

 自然と声が漏れていた。

 わかっている。これがただの八つ当たりなのだと。

 それでも今の俺の心は荒ぶり、負の感情の発散場所を探し求めていたところに現れた標的に責任転嫁しているだけに過ぎない。

 

「お前が!!! レインを殺したのか!!!」

 

 ゲームマスターである茅場晶彦。奴の手にかかれば、一プレイヤー程度GM権限で強制退去させることなど容易いはず。

 勝てないと悟り、身の保全に走った茅場はGM権限で強引にレインを殺したんだ。そうだ、そうに違いない。

 

 自分の中でちょうどいい標的を見つけたことで己を正当化する。糾弾をするのはそれだけで少しでも気が晴れるのならとただの自己満足。

 

「滑稽だな……キリト君」

 

 唾を撒き散らし、叫ぶ俺の姿をどう見たのだろうか。心底残念そうに茅場は俺を侮蔑する。

 

「キミなら……彼の近くに居たキミなら、レイン君の違和感に気づけないわけがないと思っていたのだがね」

 

「黙れ……ッ」

 

「図星かい? 答え合わせが必要か?」

 

 聞きたくない。これを聞いてしまえばもう言い訳は出来ないから。

 

 アスナは既に壊れている。叫ぶ喉は枯れ果て、ただただ虚ろを見つめるだけの人形へ。

 それら全てから逃れるために、俺は叫び、何も聞こえないように世界の音を弾く。

 

「彼は消滅した……死んだんだ」

 

「黙れって言ってんだろうが!!」

 

「ヒントは散りばめられていたぞ?」

 

 否定する。そんなはずは無いのだと。何かの間違いで、元凶は茅場晶彦なのだと。受け入れたくないがために、正当化したいがために。

 

 そんな俺を嘲笑うように、茅場は淡々と告げていく。

 

「彼はNPCでもAIでも無いが、プレイヤーでもない。完全に独立した個……どの分類にも属さない異分子と言ったところか。彼の存在を知った時から調べたが、SAO約一万人のプレイヤーに、『レイン』というプレイヤーネームはたった一人……始まりの街の孤児院で暮らす子供のみ」

 

 どうでもいい。そんな確認は。

 そんなことよりも、俺は認めてきている。この事実に。

 

「まだ必要かい? 彼の五感は我々とは異なり現実のものと遜色ないものだ。加えて、PKによるペナルティでのカーソル変化はオレンジまで……一時期、彼は赤色に染っていたな? まだまだあるが……聞くかい?」

 

「────もう、いい」

 

 あいつが何者なのか、とか。そんなことが聞きたいんじゃない。

 もう俺は理解してしまった。

 

 茅場を殺すために握っていた剣を離す。床と接触したことによる高音が鳴り響くが、俺はただレインが居た場所を眺めた。

 動く気力も、何かを考えることも全て放棄する。ただ、じっと。そこに居たはずの存在を思い描き、眺め続ける。

 

 ────レインが死んだ。

 

 その事実だけが、ここに残り続ける。

 

 親友が居た床は無機質で、冷たくて。

 光の粒はもう、どこにも存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ちょっと……ねぇ、ちょっとっ」

 

 体が揺れる感覚。

 地震と言うには揺れの起点が右肩辺りで不自然で、続けて感じる硬い感触は腕と尻から伝わってくるもの。

 

「……んぅ」

 

「ねぇ、起きなさいって……」

 

 不思議と重たい瞼をゆっくりと開く。光が差し込み、一時的に白一色となった視界。数秒間待ち、慣れるまでは目を細め不機嫌そうに唸るも、すぐに光に慣れたようで色を取り戻す。

 

 初めに映ったのは、さっきまで透けていたはずの自身の腕、そして茶色く硬い四角形の何か……机だ。それも普通のものではなくて、激しい既視感を感じ瞬時に学校のものだと理解する。

 

「当てられてるわよっ」

 

「……ん?」

 

 長時間同じ体勢だったのか。バキバキとなる背中の感覚が気持ちよく、ゆっくりと上体を上げる。同時に、右側から来る衝撃と声の正体を辿るように顔を向ける。

 

 制服を着た女子生徒。

 メガネを着用した、黒髪の美少女と形容して良いだろう。机を見た時と同じく、強烈な既視感を覚える。どこで見た、どこで知った、と未だ万全では無い脳を働かせて考える。

 

「おーい、分からないのか〜?」

 

 机の向き、前方から教室に響く大人の男性の声。恐らく教師だろう。日本語が存在しない黒板を見て、今は英語の授業中なのだと思い、同時に教師の視線が俺に向けられていることから今は俺が当てられているのだと分かる。

 

 もう一度、隣の席に座る少女の顔を見る。

 

「え……な、なに?」

 

 眼鏡をつけた、女子高生……? 

 どこで見た。どこで知った。思い出せ、この既視感。というか、見ていると何かを思い出すような感覚になってくる。

 

 あれ? この子は眼鏡掛けてたっけ? 髪色は水色じゃなかったっけ? 

 

「……えぇ」

 

「正解。答えはAだな」

 

 ────朝田詩乃ですやん。

 

 とりあえず、もう一度机に突っ伏して寝た。

 




SAOクリア!!
やっと一区切りつけました〜。ALOとGGOは多分そんなに話数ないと思います(今のとこ)。
とりあえずきゅーけー
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